国立感染症研究所

国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース(FETP)
同 感染症疫学センター

掲載日:2020年10月16日

背景

 2020年10月9日現在、国立感染症研究所実地疫学専門家養成コース(FETP)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)クラスター対策班として35都道府県からのべ120事例のCOVID-19集団発生事例に対する調査派遣依頼に対して、都道府県、管轄保健所とともに実地疫学調査を実施してきた。今後のCOVID-19対策に資する情報提供を目的として、FETPが関わった実地調査結果の中から類似した環境下における感染伝播の状況をまとめて報告していく。今回は、「一般的な会食」(以下、会食という。)における集団感染についてまとめた。

 

方法

 2020年10月9日時点において、2020年2月25日以降に、クラスター対策班として実施した実地疫学調査のうち、会食で発生した集団感染における曝露状況に関する情報を記述した。本稿では、「一般的な会食」とは、レストラン、喫茶店、定食屋など、飲酒ではなく食事を目的として未成年も含めて入店できる店舗での集会とした。なお、上記に該当する店舗において成人が集団で飲酒を伴う会食を行った場面での感染拡大に関しては別途まとめる予定である。

 

結果

 FETPが関わった調査の中で、会食における集団感染は3事例であった(表)。このうち2事例はテーブル、1事例はカウンターを利用した客における感染伝播であった。3事例における店舗の種類は、市中飲食店が2店舗、レストランが1店舗であった。店員や客におけるマスクの着用状況は、2事例では全員着用なし、他1事例は詳細が不明であった。また、3事例全てにおいて、発症者と感染者の距離が近かったが、発症者と同じ店舗に居合わせ、別のテーブルに座っていた客で感染が起こった事例は認めなかった。事例Bでは、発症者に接客した店員が感染した一方で、カウンター奥で調理をしていた店員は感染しなかった。事例Cでは、発症者の向かいに座った者が感染しており、発症者とスプーンを共用していた。

ある自治体においては、COVID-19流行地から訪れた観光客が利用する飲食店において患者の報告が多い傾向にあった。また、店員が発症していた場合に複数組の客が感染した事例も経験した。

 

考察

 FETPが関与した実地疫学調査において、会食における集団感染事例は少なかった。国内からの報告では、我々が定義した会食とは異なるものの、4月4日までに国内発生した全61件のクラスターのうちレストランもしくはバーで発生したクラスターは10件(16%)と件数は比較的少ない1)。またアメリカからの報告では、外来受診者における検査陽性者は検査陰性者と比べ発症2週間以内にレストランで外食している者がオッズ比で2.4倍(95%信頼区間 1.5-3.8)多く、また検査陽性者は店を訪れた際にマスクの着用や、身体的距離の確保(ソーシャルディスタンシング)といった感染対策の推奨を遵守していなかった2)

 今回の結果からは、一般的な会食の場では、客については同店舗に感染者が居合わせることよりも、同席のグループ内に感染者がいることの方が感染するリスクが高いと推測された。一方スタッフは店舗内に感染者が居合わせると、配膳、会計、その他様々な場面で接触する可能性があるため、常に感染のリスクが存在すると考えられた。

 一般的な感染対策であるマスクの着用、手指衛生、従業員の健康管理、身体的距離の確保の確保に加えて、我々の経験からは、同席のグループ内での身体的距離の確保、飲食中以外の時間(トイレ移動、会計、注文、食後の会話など)におけるマスクの着用、箸やスプーンなどを共有しない(感染者の唾液の付着による感染3)の予防)、という点に留意することで、一般的な会食においては、個人、集団での感染伝播の可能性を下げられると考えられた。

 

制限

 本調査の制限としては、今回報告した調査の具体例は、国内COVID-19の4月頃の流行初期の事例が多く、当時はマスク着用や手指衛生などの感染対策が執筆時点(10月)と比較して浸透していなかった。また、4月頃の検査体制は現在とは異なっており、検査対象者の選定基準が現在と異なっていた可能性がある。現在では飲食店における各種ガイドラインが作成されており4)、店舗の感染症対策への意識が向上しており、今回のような事例が発生した状況とは異なっていると考えられる。また、今回該当事例が少なかったことは、国内においては緊急事態宣言下の時期があり、多くの人が長く会食を控えていたことにより、調査期間中に一般的な会食の場に、感染者が居合わせた場面が少なかった可能性も考えられる。さらに、実地疫学調査の時間的制約により、今回の事例の患者が飲食をした店舗以外で感染した可能性については全例詳細を調査できているわけではなく、床面積や換気状況等の店舗内環境に関する詳細な調査は行っていない点を留意されたい。

 

謝辞

FETPによるCOVID-19実地疫学調査にご協力いただいた全国の都道府県、市町村区等自治体関係者、保健所、地方衛生研究所の皆様に深く感謝致します。

 

参考文献

  1. Furuse, Y., Sando, E., Tsuchiya, N., et al. (2020). Clusters of coronavirus disease in communities, Japan, January-April 2020. Emerging Infectious Diseases, 26(9), 2176–2179.
  2. Fisher, K. A., Tenforde, M. W., Feldstein, L. R., et al. (2020). Community and Close Contact Exposures Associated with COVID-19 Among Symptomatic Adults ≥18 Years in 11 Outpatient Health Care Facilities — United States, July 2020. MMWR. Morbidity and Mortality Weekly Report, 69(36), 1258–1264.
  3. Bundesinstitut für Risikobewertung (BfR). (2020). Can the new type of coronavirus be transmitted via food and objects?
    https://www.bfr.bund.de/en/can_the_new_type_of_coronavirus_be_transmitted_via_food_and_objects_-244090.html.
  4. 一般社団法人 日本フードサービス協会. (2020). 新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針(改正)に基づく外食業の事業継続のためのガイドライン.2020年5月.
    http://www.jfnet.or.jp/contents/_files/safety/FSguidelineA4_20514_630.pdf.

 

表)FETPが調査に関わった会食における集団感染

tbl1

 

「一般的な会食」における 集団感染事例(2020年10月12日作成)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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