注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市において確認され、2020年1月30日、世界保健機関(WHO)により「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言され、3月11日にはパンデミック(世界的な大流行)の状態にあると表明された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年7月8日15時現在、感染者数(死亡者数)は、世界で11,761,578例(543,259例)、190カ国・地域(集計方法変更:海外領土が本国分に計上)に広がった。
国内では、厚生労働省からの報道発表によると、2020年7月8日24時現在、新型コロナウイルス感染症のPCR検査陽性者20,371例、うち死亡者981例と報告されている。PCR検査実施人数は527,546例であった。また、2月3日に横浜港に到着したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」については、7月8日24時現在、PCR検査陽性者712例、うち無症状病原体保有者331例、死亡者13例であった。
本稿では、2020年2月1日に新型コロナウイルス感染症が指定感染症となった以降、第27週(2020 年7 月8 日)までに感染症発生動向調査(NESID)へ届け出られた19,510 例(患者17,137例、無症状病原体保有者2,341例、感染症死亡者の死体32例)(以下、症例という)に関する記述疫学および予備的なリスク状況について解説するものである。なお、本症については、サーベイランスシステムが届出に対応可能となった以降に届け出られた情報のみ反映されていることから、国や自治体の報道発表情報と必ずしも一致しておらず、注意が必要である。すなわち、以後の情報はNESIDに届け出られた症例全体の内訳であり、また、自治体による確認が行われていない報告は含められていない。 |
また、令和2年5月29日以降、新型コロナウイルス感染症発生届に関する国への報告事務は、厚生労働省が運営する新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)を用いて行われることとなり、7月8日現在、移行可能な自治体から順次、移行がおこなわれているところである。厚生労働省においては、今後の統計情報の集計等については、HER-SYSに入力された情報に基づいて行うことを基本とするとしている。本稿では、NESIDに対する届出情報のみが対象であり、HER-SYSのみへの届出情報は含まれていない点で注意が必要である。
症例の性別は、男性10,830例、女性8,680例(男女比1.2:1)であり、男性に多かった。年齢の中央値は47歳(範囲0〜105)であった。年代別分布は10歳未満334例(1.7%)、10代499例(2.6%)、20代3,774例(19.3%)、30代3,084例(15.8%)、40代2,879例(14.8%)、50代2,979例(15.3%)、60代2,139例(11.0%)、70代1,939例(9.9%)、80代1,319例(6.8%)、90代以上564例(2.9%)であった。
届出時点の主な症状(重複あり)は、発熱14,357例(73.6%)、咳8,045例(41.2%)、咳以外の急性呼吸器症状1,673例(8.6%)、重篤な肺炎1,194例(6.1%)であった。
届出都道府県は、東京都7,039例、神奈川県2,126例、大阪府1,924例、埼玉県1,153例、千葉県1,068例、北海道1,049例、福岡県759例、兵庫県707例、愛知県515例、京都府364例、石川県300例、富山県226例、茨城県169例、岐阜県154例、広島県153例、群馬県149例、沖縄県141例、滋賀県99例、福井県98例、宮城県95例、奈良県90例、新潟県83例、福島県82例、静岡県82例、愛媛県82例、長野県76例、高知県74例、山形県67例、栃木県66例、和歌山県66例、大分県60例、山梨県46例、三重県46例、熊本県46例、佐賀県42例、山口県37例、青森県27例、香川県27例、岡山県25例、島根県24例、長崎県21例、宮崎県17例、秋田県16例、鹿児島県11例、徳島県6例、鳥取県3例であった。
国内では、3月上旬から海外との関連が疑われる事例が増加してきた。また、感染源不明の症例が散発的に発生し、3月中旬には感染源不明の症例の数およびその占める割合が継続的に増加してきた。3月下旬には、都市部を中心にクラスター(患者間の関連が認められた集団)感染が次々と報告され、感染者数が急増した。
国内での行政対応については、3月10日、新型インフルエンザ等対策特別措置法の一部改正が閣議決定され、新型コロナウイルス感染症が新型インフルエンザ等対策特別措置法に規定する新型インフルエンザ等とみなされることになった。3月28日には「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」が発表され、この中では、国民の生命を守るためには、感染者数を抑えること及び医療提供体制や社会機能を維持することが重要であり、「三つの密」(密閉空間・密集場所・密接場面)を避けること、積極的疫学調査等によるクラスターの発生の封じ込めが推進されている。4月7日には7都府県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、大阪府、兵庫県、福岡県)に対して、4月16日には全都道府県を対象に、緊急事態宣言が発出された。各自治体では、国の取り組みに並行して、流行状況に合わせた様々な取り組みが行われた。
NESID上、報告の最も多かった日は4月9日(660例)、発症の最も多かった日は、4月1日(431例:発症日の判明している症例のみ)であった(7月8日現在)。今回の流行は、3月中旬から急増し、4月初旬をピークとして、その後減少に転じ、5月中旬に落ち着いた。
5月14日、感染の状況、医療提供体制、検査体制の構築などの点が総合的に判断され、北海道、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、京都府、大阪府、兵庫県の8都道府県を除く、39県において緊急事態宣言の解除が行われた。その後、同様に、分析・評価が行われ5月21日に京都府、大阪府、兵庫県において、5月25日には、すべての都道府県で緊急事態宣言の解除が行われた。各自治体は、発生状況を監視のもと、一定の移行期間を設け、外出の自粛や施設の使用制限の要請等を緩和しつつ、段階的に社会経済の活動レベルを引き上げ、6月19日には、全国を対象に県境を越える移動自粛が全面的に解除された(図1、図2)。しかし、6月中旬以降、主に大都市及びその周辺自治体において、20代〜30代を中心として増加に転じており、再び警戒が必要な時期に入ったと考えられる(図3)。
なお、図1及び図2については、今後の報告により直近の症例が追加されていくため、解釈には注意が必要である。
●新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年7月8日、9日版)
国立感染症研究所 感染症疫学センター |