2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市において確認され、2020年1月30日、世界保健機関(WHO)により「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言され、3月11日にはパンデミック(世界的な大流行)の状態にあると表明された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2020年7月15日15時現在、感染者数(死亡者数)は、世界で13,286,266例(578,342例)、190カ国・地域(集計方法変更:海外領土が本国分に計上)に広がった。
国内では、厚生労働省からの報道発表によると、2020年7月15日0時現在、新型コロナウイルス感染症のPCR検査陽性者22,508例、うち死亡者984例と報告されている。PCR検査実施人数は586,706例であった。また、2月3日に横浜港に到着したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」については、7月15日0時現在、PCR検査陽性者712例、うち無症状病原体保有者331例、死亡者13例であった。
本稿では、2020年2月1日に新型コロナウイルス感染症が指定感染症となった以降、第28週(2020年7月15日)までに感染症発生動向調査(NESID)へ届け出られた21,088例(患者18,474例、無症状病原体保有者2,582例、感染症死亡者の死体32例)(以下、症例という)に関する記述疫学および予備的なリスク状況について解説するものである。なお、本症については、サーベイランスシステムが届出に対応可能となった以降に届け出られた情報のみ反映されていることから、国や自治体の報道発表情報と必ずしも一致しておらず、注意が必要である。すなわち、以後の情報はNESIDに届け出られた症例全体の内訳であり、また、自治体による確認が行われていない報告は含められていない。 |
また、令和2年5月29日以降、新型コロナウイルス感染症発生届に関する国への報告事務は、厚生労働省が運営する新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)を用いて行われることとなり、7月15日現在、移行可能な自治体から順次、移行がおこなわれているところである。厚生労働省においては、今後の統計情報の集計等については、HER-SYSに入力された情報に基づいて行うことを基本とするとしている。本稿では、NESIDに対する届出情報のみが対象であり、HER-SYSのみへの届出情報は含まれていない点で注意が必要である。
症例の性別は、男性11,804例、女性9,284例(男女比1.3:1)であり、男性に多かった。年齢の中央値は45歳(範囲0〜105)であった。年代別分布は10歳未満390例(1.8%)、10代568例(2.7%)、20代4,483例(21.3%)、30代3,439例(16.3%)、40代3,042例(14.4%)、50代3,097例(14.7%)、60代2,193例(10.4%)、70代1,978例(9.4%)、80代1,331例(6.3%)、90代以上567例(2.7%)であった。
届出時点の主な症状(重複あり)は、発熱15,467例(73.3%)、咳8,598例(40.8%)、咳以外の急性呼吸器症状1,801例(8.5%)、重篤な肺炎1,199例(5.7%)であった。
届出都道府県は、東京都8,251例、神奈川県2,285例、大阪府2,072例、埼玉県1,153例、千葉県1,094例、北海道1,049例、福岡県763例、兵庫県710例、愛知県525例、京都府364例、石川県300例、富山県226例、茨城県169例、岐阜県154例、広島県153例、群馬県149例、沖縄県141例、宮城県102例、滋賀県99例、福井県98例、奈良県90例、静岡県87例、新潟県83例、福島県82例、愛媛県82例、長野県76例、高知県75例、山形県67例、栃木県66例、和歌山県66例、大分県60例、山梨県46例、三重県46例、熊本県46例、佐賀県42例、山口県37例、青森県30例、香川県27例、岡山県25例、島根県24例、長崎県21例、宮崎県17例、秋田県16例、鹿児島県11例、徳島県6例、鳥取県3例であった。
NESID上、7月15日現在、報告数については4月9日(660例)、発症数については4月1日(433例:発症日の判明している症例のみ)をピークとする流行が見られた(図1、図2)。また、6月中旬から、報告数及び発症数の増加が認められており、再び警戒が必要な時期を迎えている(図1、図2)。6月中旬からの増加は、現在のところ主に大都市及びその周辺自治体における20代〜30代を中心としているとNESID上からも考えられ、今後、これらの増加が地方都市及びその他の年齢層へ拡大していく可能性が非常に高いと考える。図3は、NESIDへの届出時点において、重症(重篤な肺炎/急性呼吸窮迫症候群/多臓器不全のいずれかを呈する症例)または死亡であった症例についての報告日別届出数である。6月1日〜7月15日において、27症例の報告があった。7月15日現在、一定数を認めており、今後の動向に警戒が必要である。
なお、図1、図2及び図3については、今後の報告により直近の症例が追加されていくため、解釈には注意が必要である。また、NESID報告数を取りまとめた本稿は、HER-SYS導入以降、過小評価になっている可能性があることから注意が必要である。
国内での行政対応については、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」に従い、国民の生命を守るため、感染者数を抑えること及び医療提供体制や社会機能を維持することが重要とされ、「三つの密」(密閉空間・密集場所・密接場面)を避けること、積極的疫学調査等によるクラスターの発生の封じ込めが現在も推進されている。3月中旬から5月中旬に認められた報告数の増加は、一旦落ち着いたことから、全都道府県で緊急事態宣言の解除が行われ(5月25日)、全国を対象に県境を越える移動自粛が全面的に解除された(6月19日)ところである。しかし、現在、再び報告数(図1)、発症数(図2)、及び入院治療等を要する者の数(https://www.mhlw.go.jp/stf/covid-19/kokunainohasseijoukyou.html#h2_1)等の増加を認めていることから、各自治体では、前回の流行の経験をもとに、各地域の流行状況に合わせた対応を実施している。
●新型コロナウイルス感染症の現在の状況と厚生労働省の対応について(令和2年7月15日版)
国立感染症研究所 感染症疫学センター |