国立感染症研究所

2021年4月26日
国立感染症研究所

B.1.617系統について

  • 2021年4月20日、国内の患者から得られた新型コロナウイルス陽性検体から、新型コロナウイルスB.1.617系統が、国内例としては初めて検出された。
  • 検疫では、2021年1月9日より、全ての入国者に対し、入国時に新型コロナウイルス検査が行われている。すべての陽性検体について国立感染症研究所でゲノム解析を実施しているが、現在まで20例がB.1.617系統と判定されている。
  • B. 1.617 系統は、スパイクプロテインに主にL452R、E484Q変異を有するものと、L452R変異を有し、E484に変異を有さないものがある。2020年12月初旬に最初の配列がGISAIDにインドから登録され、英国、オーストラリア、ニュージーランド、シンガポール、米国、ドイツ、カナダなどでも確認されている。
    • 国内例はL452R、E484Q変異をともに有していた。
    • 検疫例では、8例が両変異を有し、11例はL452R変異のみ、1例は両変異の有無については確認できなかった。
  • 現在インドで患者が急増しており、B.1.617系統の登録数の割合も増加傾向にある(1)。本系統の症例報告や疫学的知見に関する報告はなく、インド政府は、本系統が患者の急増に寄与しているのかについては現時点では述べていない。
  • 査読前論文の報告では、インドで使用されているBharat Biotech 社製の新型コロナウイルスワクチンBBV152(商品名 COVAXIN)の接種後血清でB.1.617変異株は中和されたが、中和抗体価はワクチン株やB.1.1.7系統変異株に対する抗体価に比べて有意に低下していた(2)。
  • 英国では、2021年4月14日に同系統が77症例報告され、VUI-21APR-01と位置付けられた。4月21日時点では、132例が報告されている(3)。4月22日のイングランド公衆衛生庁のレポートでは、B.1.617から派生したB.1.617.1系統(L452R, E484Q変異を共に有する系統)をVUI-21APR-01と位置付けている。
評価
  • L452R変異は、米国CDCでVOC(懸念される変異株)に位置づけられているB.1.427系統及びB.1.429系統も有する変異で、既存免疫による中和能の低下と関連する可能性が示唆されている。
  • L452R変異を有する偽ウイルスは、従来株よりも培養細胞・肺のオルガノイド(培養臓器組織)への感染性が増加している(なお、N501Y変異を有する偽ウイルスよりは培養細胞への感染性は劣っている)。また、従来株に比べ回復患者血清での中和抗体価が1/4-1/6.7、ワクチン接種者血清での中和抗体価が1/2に低下することが示されている(4)。
  • E484K変異は、免疫逃避変異として知られるが、E484Q変異の意義は明らかではない。
  • インドでの感染者数の急増と、本変異株の関係は明らかではない。インドでの感染者数の急増には、インド国内でのイベント等による人流の増加も影響している可能性がある。また、B.1.617の割合が急増しているように見えるが、直近のゲノム解析検体数はまだ少ないことに注意が必要である。B.1.1.7系統やB.1.351系統も増加傾向にあり(1)、これらの影響も排除できない。
  • N501Y変異は有していないので、国内で変異株スクリーニングとして行っているN501Yを検出するPCR検査では陰性になる。現状においては、全ゲノム解析の中によるウイルスゲノムサーベイランスで検出が可能である。今回の国内例は、民間検査機関が全国で受託している検体のSARS-CoV-2陽性検体のゲノム解析を実施する中で、感染研ゲノムセンターが検出した。
  • 国立感染症研究所としては、本株は感染性やワクチンへの効果、重症度についてまだ分からないことも多く、引き続き知見を収集していく必要があることから、注目すべき変異株(VOI)と位置付け、引き続きウイルスゲノムサーベイランスを通じて実態を把握していく。
  • なお、2重変異(本変異株を指していると思われる)や3重変異(インドの西ベンガル州で確認されているB.1.618のことを指していると思われる)の呼称については、スパイク領域の変異数を正確に表したものではなく、本アセスメントでは使用しない。

参考文献

  1. India Mutation Report. Alaa Abdel Latif, Julia L. Mullen, Manar Alkuzweny, Ginger Tsueng, Marco Cano, Emily Haag, Jerry Zhou, Mark Zeller, Nate Matteson, Chunlei Wu, Kristian G. Andersen, Andrew I. Su, Karthik Gangavarapu, Laura D. Hughes, and the Center for Viral Systems Biology. outbreak.info, (available at https://outbreak.info/location-reports?loc=IND). Accessed 25 April 2021.
  2. Yadav P, et al. Neutralization of variant under investigation B.1.617 with sera of BBV152 vaccinees. bioRxiv 2021.04.23.441101; doi: https://doi.org/10.1101/2021.04.23.441101
  3. GOV.UK. Variants: distribution of cases data. Updated 21 April 2021. https://www.gov.uk/government/publications/covid-19-variants-genomically-confirmed-case-numbers/variants-distribution-of-cases-data
  4. Deng X, et al. Transmission, infectivity, and neutralization of a spike L452R SARS-CoV-2 variant. Cell. 2021. https://doi.org/10.1016/j.cell.2021.04.025

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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