国立感染症研究所

新種のコロナウイルスに関連した重症呼吸器疾患に対する迅速リスク評価

ヨーロッパCDC(ECDC: European Center for Disease Control and Prevention)

 

主要な結論と提言

2012年6月以降、急性呼吸不全と肺の炎症を呈した2人の患者にて新しいコロナウイルス(novel coronavirus)に対する検査が陽性となった。発病日は3か月離れていたが、両症例とも発病直前にサウジアラビアへの渡航歴があった。暫定的な遺伝子分析の結果にて、両者のウイルスはお互いに極めて近似していた。
 最初の症例はサウジアラビアで発病し6月24日に死亡した。次の症例は9月3日にカタールで発病、9月11日に英国へ航空機で搬送され、現在も集中治療下にある。
 今回の新しいコロナウイルスは、SARSコロナウイルス(SARS-CoV)とは遺伝子分析上、近似していない。さらに、現時点では、疫学的な発生状況は、2003年のSARSアウトブレイクとは異なっている。
 現時点で、この新しいコロナウイルスがヒト-ヒト感染を起こした証拠はない。このウイルスが重症の疾患を起こしたという因果関係はありそうだが証明はされていない。
 この疾患の感染源、宿主、感染経路、潜伏期や不顕性感染の可能性については不明である。動物由来感染症は否定されていない。
 国際的な感染症対策機関や関係国当局と協力して、症例を発見するための感度の高い症例定義が作成された。この定義に合致するものは全例早期警戒対応システム(Early Warning and Response System)を通じて報告されるべきである。
 欧州連合内では、このウイルスを検査室診断する事が可能であるが、さらに特異的な検査法も開発中である。
 サウジアラビア王国は現時点で渡航制限やハジ(メッカ巡礼:Hajj)に向けたトラベルアドバイスに関するいかなる変更も推奨していない。
 仮に両症例の原因が新しいコロナウイルスだったと仮定したとしても、3か月間で2症例しか確認されていない事実から、このウイルスのヒト-ヒト間の感染性は低いと考えられる。
 さらなる情報が得られるまでは、全ての症例は、呼吸器感染ウイルスに対する国の感染制御ガイドラインに沿って厳密に管理されるべきである。ECDCは、適切な国のガイドラインが存在しない状況では、英国健康保護局の新しいコロナウイルスの疑い例、確定例に対する感染制御アドバイス(HPA infection control advice for suspected or confirmed novel coronavirus case)や医療施設における流行性急性呼吸器疾患の予防と制御に関するWHO暫定的ガイドライン(WHO interim guidelines on infection prevention and control of epidemic- and pandemic-prone acute respiratory diseases in health care)を勧奨する。

詳細は原文を参照されたい。
Rapid risk assessment -severe respiratory disease associated with a novel coronavirus, 24 September 2012

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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