国立感染症研究所

2012年新型コロナウイルス(nCoV)の概要と文献に関する更新(2013年5月17日)

Novel coronavirus summary and literature update – as of 17 May 2013

http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/update_20130517/en/index.html

2013年5月8日更新版はこちら

世界保健機関(WHO)

 日本語訳:国立感染症研究所感染症疫学センター

 

2012年4 月以来、40例の新型のコロナウイルス(nCoV)ヒト感染の検査診断例が発生した。発生地域はヨルダン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールを含む中東の国々である。欧州からもフランス、ドイツおよび英国から報告されている。すべて中東との直接または間接的な関係がある。フランスおよび英国では直近に中東からやってきた者に接触したが、本人は中東への渡航歴を有さない者の間での濃厚接触による限局的な感染が見られた。

 

直近の報告は2013年5月10日に発症した。患者の多くは男性で(79%、性別の報告された39名中31名)、年齢は24歳から94歳(中央値56歳)であった。すべての検査確定例は呼吸器疾患を来たし、ほとんどは入院の必要な重症急性呼吸器症状を示した。報告されている臨床的特徴には急性呼吸速迫症候群(ARDS)、血液透析を要する腎不全、消費性凝血障害、心膜炎が見られた。多くの症例は下痢などの消化器症状も来たした。免疫不全を伴った一例は発熱、下痢と腹痛を訴えたものの当初は呼吸器症状を示さず、レントゲン写真で偶然に肺炎が見つかった。40例中20例が死亡した。

 

 2013年4月6日以来、21症例がサウジアラビア東部のAl-Ahsa地区にて確定され報告された(男性16、女性5、年齢中央値56歳)。9例が死亡し、6例は依然として重症である。殆どの症例に少なくとも一つの基礎疾患があった。当初の症例の大多数はAl-Ahsaにある一つの医療機関と関連していた。引き続き見つかった症例はこの医療機関の患者ではなかった。当該医療機関と関連した症例の家族3例、およびこの医療機関とは関係ないものの確定症例と接触した2人の医療従事者が感染した。この医療機関の症例とリンクの辿れない2症例が地域内で確認された。発生源に関する調査は進行中ではあるが、早期の情報では、発症前に動物と接触していた症例はごくわずかである。

 

 2013年5月8日以降、フランスから2例の報告があった。最初の症例はアラブ首長国連邦のドバイで9日間の休暇を過ごしたのち発症した。2例目は5月12日に報告され、最初の症例と医療機関で病室が一緒だった症例である。最初の症例と旅程を同行した者や、この2例と濃厚接触した者から更なる症例を探す調査が進んでいるところだが、現時点ではあらたな症例は見つかっていない。症例から最初に取られた鼻咽頭スワブは陰性だったが、気管支肺胞洗浄液からはnCoVが陽性だった。

 

 これまで報告された集積症例はすべて家族内接触者か、医療施設内で発生している。ヒト-ヒト感染は少なくともこれらの集積症例のうちいくつかで発生したが、正確な伝播様式はわかっていない。集積症例を超えた地域内での持続した感染の証拠は今のところ見られていない。

 

前回の更新以降に出版された査読付き論文

ウイルス命名国際委員会(International Committee on Taxonomy of Viruses )のコロナウイルス研究グループ(Coronavirus Study Group)はこの新型のコロナウイルスの名称を中東呼吸器症候群コロナウイルス(Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus; MERS-CoV)と提案した。

参照:

Reference: De Groot RJ, et al. Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus (MERS-CoV): Announcement of the Coronavirus Study Group. J Virol. Published ahead of print 15 May 2013. doi:10.1128/JVI.01244-13.

 

アセスメントの概要

nCoVの起源は動物と考えられており、ヒトへは散発的に感染するがその経路は今のところ不明と考えられている。しかし、ヒトの間でウイルスが伝播しうることは確かである。今のところ、ヒト-ヒト感染は医療機関内や家族内の濃厚接触でのみ認められ、地域内での持続した感染は見られていない。大きな集積症例の一部ではなく、動物への接触歴もない症例が持続して発生していることから、地域内で伝染が起こることへの危惧が増している。この可能性についてはサウジアラビア当局が調査を行っている。

 

感染した患者に接触した2人の医療従事者が感染したこと、および院内感染の事案が複数あることから、細心の注意を払って感染防止対策を順守することが、nCoVが疑われた時には当初の患者ふるい分けの段階から重要である。現時点での感染対策の推奨は以下にて入手可能である。

http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/en/.

 

症例の多くが併存疾患を有することから、基礎疾患によって感受性が高まることが感染に関係している可能性がある。さらに、免疫不全の患者では、nCoVの感染が非典型的に、呼吸器症状を初期は伴わずに起こる可能性が示された。

 

十分な根拠はないものの、鼻咽頭スワブによる検査は下気道からの検体に比べて感度が低いことが示唆されている。下気道の検体は、入手可能な場合には、鼻咽頭スワブに加えて使用されるべきである。鼻咽頭スワブの検査で陰性の場合には、喀痰や気管内吸引物、あるいは気管支肺胞洗浄液などの下気道の検体による検査を考慮するべきである。臨床家はどんな種類のものであっても呼吸器検体を採取する際、厳密な感染予防と管理のガイドラインを注意深く守るべきである。

 

このところ症例が増加しているのは一部には医療従事者間の関心の高まりによるかもしれないが、このウイルスがヒトの間で感染し大きな流行を起こしうることが示されたため、持続した感染の可能性についての懸念も高まっている。中東の国々は特に警戒レベルを高く、疑い症例を検査する閾を低く維持するべきである。現行のサーベイランスの推奨は以下にて入手可能である。

http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/en/.

(訳者註:上記の訳出は以下のページを参照)

http://www.forth.go.jp/moreinfo/topics/2013/03221422.html

 

世界保健機関(WHO)は、症例は引き続き発見されると考えている。本疾患を管理するには可及的速やかに多部門間で協力した調査を行い、ウイルスの起源と感染を引き起こす曝露を同定することを目指す必要がある。加盟国が症例や関連した情報を喫緊にWHOへ報告し、国際的な警戒、準備および対応を有効に取るべく情報共有することは、国際保健規則において求められている通り最重要である。

 

 

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