国立感染症研究所

MERSは2012年に中東へ渡航歴のある症例から発見された新種のコロナウイルスによる感染症である。2013年7月23日現在、アラビア半島およびヨーロッパ、チュニジアにおいて合計90人からウイルスが検出され、うち45人が死亡している。ヨーロッパとチュニジアからの報告例は、いずれもアラビア半島へ滞在した者あるいはその接触者であった。感染すると2〜15日の潜伏期を経て、重症の肺炎、下痢、腎障害等を引き起こす。感染者は50歳代前後で多く、60歳以上での致死率は高い。死亡例のほとんどは糖尿病や心肺疾患などの他の慢性疾患を患っていた。このウイルスに対抗するための特別な治療薬やワクチンは無く、集中治療室管理などの対症療法となる。ヒトからヒトへの感染は限定的で、家族や病院での濃厚接触による感染報告はあるものの、市中において肺炎患者から肺炎患者を連続的に生じさせるような「持続的なヒトからヒトへの感染」は起こっていない。今のところ地域流行に留まっていると言えるが、一方でウイルスが検出されたにもかかわらず全く症状を示さない不顕性感染も報告されており、病原体の広がりは定かでない。世界保健機関(WHO)は関係国と情報のやり取りを行い、リスク評価を行なっているが、今のところ国際的な緊急事態には至っていないと判断し、渡航制限などにつながる警戒水準の引き上げはおこなっていない。

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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