インフルエンザとは

(IDWR 2005年第8号掲載)  インフルエンザ(influenza)は、インフルエンザウイルスを病原とする気道感染症であるが、「一般のかぜ症候群」とは分けて考えるべき「重くなりやすい疾患」である。

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インフルエンザ抗体保有状況 -2023年度速報第1報- (2023年11月21日現在)
 

はじめに
 感染症流行予測調査事業における「インフルエンザ感受性調査」は、毎年、当該シーズンのワクチン接種開始前、流行前の抗体保有状況(免疫状況)を把握し、抗体保有率が低い年齢層に対する注意喚起等を目的として実施している。
  わが国におけるインフルエンザワクチンは、2015/16シーズンからA(H1N1)亜型、A(H3N2)亜型、B型(ビクトリア系統と山形系統)の4つのインフルエンザウイルスをワクチン株とした4価ワクチンが用いられている。本稿では今シーズン(2023/24シーズン)のワクチン株に用いられた4つのインフルエンザウイルスに関する抗体保有状況のまとめと検討を行った。
 

1. 調査対象および方法
 2023年度の調査は、16都道府県から各198名、合計3,168名を対象として実施されており、2023年11月21日までに入手できた8道県の速報データについて報告する。 インフルエンザウイルスに対する抗体価の測定は、健常者から採取された血液(血清)を用いて、調査を担当した都道府県衛生研究所において赤血球凝集抑制試験(HI法)により行われた。HI法に用いたインフルエンザウイルス(調査株)は以下の4つであり、各ウイルスの卵増殖株を由来としたHA抗原を測定抗原とした。また、採血時期は原則として2023年7~9月(インフルエンザの流行シーズン前かつ当該シーズンのワクチン接種前)とした。

a)A/Victoria(ビクトリア) /4897/2022 [A(H1N1)亜型]
b)A/Darwin (ダーウィン) /9/2021 [A(H3N2)亜型]
c)B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]
d)B/Austria(オーストリア)/1359417/2021 [B型(ビクトリア系統)]

 なお、本速報では抗体保有率として、感染リスクを50%に抑える目安と考えられているHI抗体価1:40以上について示している。
 

2. 調査結果
 2023年11月21日現在、北海道、栃木県、新潟県、福井県、長野県、三重県、愛媛県、沖縄県の8道県から合計1664名の結果が報告された 。5歳ごとの年齢群別対象者数は、0-4歳群:94名、5-9歳群:74名、10-14歳群:65名、15-19歳群:112名、20-24歳群:142名、25-29歳群:188名、30-34歳群:215名、35-39歳群:126名、40-44歳群:122名、45-49歳群:118名、50-54歳群:127名、55-59歳群:136名、60-64歳群:94名、65-69歳群:45名、70歳以上群:6名であった。
 

【年齢群別抗体保有状況】
A/Victoria(ビクトリア) /4897/2022 [A(H1N1)pdm09亜型]:
図1上段
 今シーズンのA(H1N1)亜型のワクチン株は2022/23シーズンのA/ビクトリア/1/2020から変更された。本調査株に対する1:40 以上のHI抗体保有率は、全年齢群で2022/23シーズン前の結果と比べ非常に低く、15-19歳群の11%を最大としてその他の全年齢で10%以下(0-10%)となった。

A/Darwin (ダーウィン) /9/2021 [A(H3N2)亜型]:図1下段
  今シーズンのA(H3N2)亜型のワクチン株は昨シーズンから変更されておらず、2年連続同じ株となっている。1:40以上のHI抗体保有率は10-14歳群で37%、35-39歳群で47%、70歳以上群で50%となだらかな多峰性を示し、5歳以上においては多くの年齢群でおおむね30%以上であった。0-4歳群の抗体保有率は10%と2022/23シーズン前の結果とほぼ変わらず低かった。

B/Phuket(プーケット)/3073/2013 [B型(山形系統)]:図2上段
  B型(山形系統)のワクチン株は2015/16シーズンから変更されていない。0-4歳群でHI抗体保有率が1%と最も低い割合を示した。2022/23シーズン前と同様に、抗体保有率の最も高い年齢群は30-34歳群であったが、14歳以下の年齢群では2022/23シーズン前の結果より大幅に低下していた。35歳以上では抗体保有率が30%以上となり概ね2022/23シーズン前の結果より高かった。

B/Austria(オーストリア) /1359417/2021[B型(ビクトリア系統)]:図2下段
 B型(ビクトリア系統)のワクチン株は2022/23シーズンから変更されていない。1:40以上のHI抗体保有率は55歳以上で抗体保有率30%以上を示した。その他の年齢群ではすべて30%未満であったが、2022/23シーズン前の結果と比較して、15歳以上の年齢群では高かった。しかし、14歳以下では0-4歳群で0%、5-9歳群で1%、10-14歳群で6%と低い抗体保有率であった。
 


図1


図2

コメント
 今シーズンはA(H1N1)pdm09亜型のワクチン株が変更となり、A(H3N2)亜型、B型山形系統、B型ビクトリア系統では変更がなかった。本調査では、これら4つのワクチン株抗原に対するHI抗体保有状況を調査している。今後、検査データが追加され変化すると予想されるが、抗体保有率の低かった2022/23シーズン前よりA(H1N1)pdm09亜型のワクチン株に対する抗体保有率が低く、際立っていた。
   2023/24シーズンにおける2023年11月21日時点でのインフルエンザウイルス分離・検出報告数は、2023年37週に130件と最も多く報告され、その後は減少し、46週と47週では報告数は0となっている (https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html インフルエンザウイルス シーズン別週別 2019/20~2023/24シーズン data2j.csv 11月22日時点、
参考グラフ:https://www.niid.go.jp/niid/images/iasr/rapid/inf3/2019_36w/sinin1_231116.gif  11月22日アクセス )。
 また、感染症発生動向調査において、2023年第45週の定点当たりのインフルエンザ報告数は17.35(患者報告数85,766)、前週以前は44週定点当たり報告数21.13(患者報告数10,3631)、43週定点当たり報告数19.68(患者報告数9,7356)となり既にインフルエンザシーズンに突入している。今後の推移については不確定であるが、例年の傾向として今後さらに患者数が増加する可能性示唆される。抗体保有率の低い年齢層においては注意が必要である。特に0-4歳群での抗体保有率の低値が懸念される。
  今回の結果は2023年度速報第1報で11月21日時点の暫定値であることに注意が必要である。


国立感染症研究所 感染症疫学センター/インフルエンザ・呼吸器系ウイルス研究センター

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