注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆インフルエンザ
インフルエンザは、インフルエンザウイルスを原因病原体とする急性の呼吸器感染症で、世界中で流行がみられる。概要については2024年第48号〔2024/25シーズン第48週(シーズン:第36週〜翌年第35週)までの概要〕を参照いただきたい。
2024/25シーズンのインフルエンザは、2024年第44週に全国的に流行開始と判断される定点当たり報告数1.00を上回り、その後も定点当たり報告数は増加し、第49週は9.03(患者報告数44,673)、第50週は19.06(同94,259)、第51週は42.66(同211,049)、そして第52週は64.39(同317,812)であった。この定点当たり報告数64.39は、感染症法にもとづく現行の報告体制となった1999年以降最大であり、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行以前にインフルエンザの大きな流行が観察された2017/18シーズンのピークである54.33(2018年第5週)、2018/19シーズンのピークである57.09(2019年第4週)を上回った。呼吸管理が必要な肺炎や脳症を伴うなど、入院を要する重症例の増加が懸念されるとともに、過去のシーズンでは、第4〜5週にかけて定点当たり報告数のピークがみられたため、今後の発生動向の推移が注目される。
本稿では2024年第52週までのインフルエンザ入院サーベイランスと、急性脳炎(5類感染症全数把握対象疾患)におけるインフルエンザ脳症について記述した(2025年1月7日現在)。
1. インフルエンザ入院サーベイランスについて
・概要
インフルエンザ入院サーベイランスは、全国約500カ所の基幹定点医療機関におけるインフルエンザの入院患者数や重症化の傾向を把握し、それらの情報を還元することによりインフルエンザの診療等に役立てることを目的とする。基幹定点医療機関はインフルエンザに罹患して入院した患者について年齢、性別に加えて重症度の指標となる入院時の医療対応(ICUの利用、人工呼吸器の使用、頭部CT、頭部MRI、脳波)の有無を週単位で届け出る。
・インフルエンザ入院患者報告数
2024/25シーズン、2023/24シーズンおよびCOVID-19流行前の2018/19シーズンにおける年齢群別のインフルエンザ入院患者報告数を表1に示す。2024/25シーズンは2024年第52週までに11,800例が報告された。
各シーズンの年齢群別の入院時の医療対応状況を表2に示す。2024/25シーズンにおける15~59歳の年齢群では、ICU利用及び人工呼吸器使用の年齢群別の処置割合は、2018/19シーズン第52週時点(ICU利用:2.4%、人工呼吸器使用2.4%)と比べ高い傾向であったが、他の年齢群はほぼ同程度であった。一方、MRI 又は脳波の年齢群別の処置割合については、2018/19シーズン第52週時点(0~14歳:6.8%、15~59歳:6.0%、60歳以上:3.2%)と比べ、全体的に低かったが、特に15~59歳の年齢群では低い傾向が認められた。
なお、2024/25シーズンの流行開始時期は2018/19シーズンより早いため、解釈には注意が必要である。
2. 急性脳炎におけるインフルエンザ脳症について
・サーベイランスの概要
急性脳炎(脳症を含む)は5類感染症全数把握疾患であり、意識障害を伴って死亡した者、または意識障害を伴って24時間以上入院した者のうち、①38℃以上の発熱、②中枢神経症状、③先行感染症状の一つ以上の症状を呈した場合に診断される。診断した医師は診断から7日以内に届出なければならない。本項におけるインフルエンザ脳症は、急性脳炎(脳症を含む)の届出のうち、病型の病原体としてインフルエンザウイルスの記載があった報告例(以下、インフルエンザ脳症)とした。
・インフルエンザ脳症報告数の推移
COVID-19流行前の2018/19シーズンはインフルエンザ脳症として234例(急性脳炎807例のうち)が報告された(表3)。2020/21~2021/22シーズンでは、インフルエンザ定点当たり報告数の減少が観察され、インフルエンザ脳症もそれぞれ0例、1例と減少した。これらにはCOVID-19流行に伴う感染症対策等の影響が考えられる。2022/23シーズンからインフルエンザ定点当たり報告数の増加がみられた。インフルエンザ脳症も同様に増加し、2023/24シーズンには191例(急性脳炎658例のうち)が報告され、COVID-19流行前と同等の報告数となった。2024/25シーズンは第52週までに78例のインフルエンザ脳症が届け出られており、これは2018/19シーズン第52週時点の32例の報告数と比べて多かった。過去の報告からインフルエンザ脳症の報告数の推移はインフルエンザ定点当たり報告数の推移と関連していると考えられている。2018/19シーズン第52週までの定点当たり累積報告数は27.83、2024/25シーズン第52週までの定点当たり累積報告数が151.74であることも、2024/25シーズンのインフルエンザ脳症の増加と関連していると考えられる。
2024/25シーズン第52週までに報告された78例のインフルエンザ脳症における年齢中央値は7歳、四分位範囲は3〜9歳であり、15歳未満が91%(78例中71例)を占めた。性別は男性が41例(53%)、女性が37例(47%)であった。検出されたインフルエンザウイルスはA型が65例(83%)、血清型未記載が13例(17%)である(2025年1月7日現在)。なお、2018/19シーズンの第52週時点の32例においては、年齢中央値は6歳、四分位範囲は4~8歳であった。15歳未満が88%(32例中28例)を占め、患者の年齢層に関しては概ね同様であった。
まとめ
2024/25シーズンのインフルエンザは定点当たり報告数が2024年第44週に全国的な流行開始と判断される1.00を上回り、2024年第52週には64.39となった。また、基幹定点医療機関から報告されるインフルエンザ入院サーベイランス報告数は、2024年第36~52週の累積報告数が11,800例となった。年齢群別のICU利用及び人工呼吸器使用の処置割合は15~59歳において2018/19シーズン第52週時点の同年齢群と比べ高い傾向であった。一方、5類全数把握疾患である急性脳炎におけるインフルエンザ症例(インフルエンザ脳症)の報告数は、定点当たり報告数の動向とおおむね同様の傾向で推移した。2024/25シーズンの発生動向は過去のシーズンの発生動向とは異なる動きを示すことから、今後の定点当たりの報告数や入院サーベイランスにおけるインフルエンザによる入院患者数の動きやインフルエンザ脳症の動向に注視する必要がある。
今後のインフルエンザの感染症発生動向に注意をしていただくとともに、これらの詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい。
●感染症発生動向調査週報(IDWR)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html
●インフルエンザ流行レベルマップ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-map.html
●インフルエンザウイルス分離・検出速報
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html
●インフルエンザ 2023/24シーズン
https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-m/flu-iasrtpc/12989-537t.html
●令和6年度 今シーズンのインフルエンザ総合対策について
https://www.mhlw.go.jp/stf/index2024.html
●令和6年度インフルエンザQ&A https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/infulenza/QA2024.html
●インフルエンザ啓発ツール
https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou01/keihatu.html
●急性脳炎(脳症を含む)サーベイランスにおける2023/2024シーズンのインフルエンザ脳症報告例のまとめ(2024年10月8日時点)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/encephalitis-m/encephalitis-idwrs/12985-encephalitis-241119.html
国立感染症研究所 感染症疫学センター