注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
インフルエンザは、インフルエンザウイルスを病原体とする急性の呼吸器感染症で、毎年世界中で流行がみられる。主な感染経路は咳、くしゃみ、会話等から発生する飛沫による感染(飛沫感染)であり、他に飛沫の付着物に触れた手指を介した接触感染もある。感染後、発熱、頭痛、全身倦怠感、筋肉痛・関節痛などが出現し、鼻水・咳などの呼吸器症状がこれに続くが、いわゆる「通常感冒」と比べて全身症状が強いことが特徴である。通常は1週間前後の経過で軽快する。
インフルエンザは、全国約5,000カ所のインフルエンザ定点医療機関(小児科定点約3,000、内科定点約2,000)から、患者数が毎週報告されている。2017/18シーズン〔2017年第36週(2017年9月4〜10日)以降〕のインフルエンザの全国における流行状況は、2018年第5週(2018年1月29日〜2月4日)に定点当たり報告数が54.33となり、現行の監視体制である感染症法施行開始の1999年4月以降最高となった。その後、第6週は45.38、第8週は22.64、そして直近の第10週(2018年3月5〜11日)には12.05と継続して減少した。第10週は、福井県を除く46都道府県において定点当たり報告数は前週よりも減少した。都道府県別では秋田県(24.07)、福井県(21.19)、石川県(19.71)、沖縄県(19.67)、新潟県(19.62)、富山県(19.42)、北海道(19.39)、宮城県(19.15)、岩手県(18.80)、長野県(18.03)の順に、北陸や東北地方を中心に東日本からの報告が多かった。対照的に、シーズン初期から報告数の多かった第5週頃までは、九州を中心に西日本からの報告が多かった。
定点医療機関からの報告をもとに、定点以外を含む全国の医療機関を受診した患者数を推計すると、2018年第3週から第6週の期間の推計受診患者数(約239〜283万人)は、近年のピーク時に観察される、週間200万人前後で推移する推計受診患者数〔今冬のインフルエンザについて(2016/17シーズン):https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1617.pdf〕の動向を大きく上回った。特に第3週から第5週(2018年1月15日〜2月4日)にかけて各週約250万人以上(約274〜283万人)の受診患者数が推計され大きくピークを形成したが、ピークの時期(1月下旬から2月上旬)としては例年と同時期であった。以降は継続して減少し、第10週は約70万人(95%信頼区間:66〜74万人)となった。また、2018年第10週には、全年齢群で前週よりも減少した。今シーズンの第10週までの累積推計受診者数は約2,104万人となり、近年の推計受診者数を既に上回った〔今冬のインフルエンザについて(2016/17シーズン):https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1617.pdf 〕。年齢別では、推計受診者数の累積は15歳未満が42%、70歳以上が9%と推計された。
全国約500カ所の基幹定点医療機関からのインフルエンザによる入院患者数(インフルエンザ入院サーベイランス)は、2017年第45週(50例)から連続して増加し、2018年第3週(2,406例)をピークに、その後継続して減少し、第10週には790例となった。2018年第10週までに今シーズンのこれまでの累積入院患者数は18,653例となり、近年の累積入院患者数を既に上回った〔今冬のインフルエンザについて(2016/17シーズン):https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1617.pdf〕。また、15歳未満が5,019例(27%)、70歳以上の高齢者が9,955例(53%)となり、推計受診患者数とは対照的に、高齢者が多かった。
第5類感染症の全数把握対象疾患に含まれる急性脳炎の届出において、病原体としてインフルエンザウイルスの記載があった報告(以下、インフルエンザ脳症という)についてみると、2017/18シーズン(2017年第36週から2018年第10週現在)にこれまで報告されたインフルエンザ脳症報告数は155例(暫定値)で、インフルエンザA型が94例(60%)で最も多く、B型は49例(32%)、型別不明が12例(8%)であった(いずれも暫定値)。シーズン途中段階の情報として、総数は既にAH3亜型が主流であった2014/15と2016/17シーズンを上回っているとみられるものの、AH1pdm09亜型が主流であった2015/16シーズンのレベルには達していない〔今冬のインフルエンザについて(2016/17シーズン):https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/influ/fludoco1617.pdf〕。
インフルエンザウイルスの検出状況については、今シーズンはこれまでに、AH1pdm09亜型が1,837株、AH3亜型が1,332株、B型が2,570株(内訳は山形系統が2,424株、ビクトリア系統が96株、系統不明が50株)検出されている〔インフルエンザウイルス分離・検出速報(2018年3月16日現在暫定値):https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr-inf.html 〕。A型については、第36週から第1週までの期間は、AH1pdm09亜型がAH3亜型を上回っていたが、第2週以降は、AH3亜型がAH1pdm09亜型を上回った状態が続いている。B型山形系統については、2017年第48週以降の増加が著しく、第1週以降は、毎週、インフルエンザウイルス中で最も多く検出されている。直近の5週間(2018年第6〜10週:2018年3月16日現在)では、B型が488株(内訳は山形系統が450株、ビクトリア系統が16株、系統不明が22株)、AH1pdm09亜型が40株、AH3亜型が210株であった。今シーズン、継続してB型の割合が高いことは注目される。
今シーズンのこれまでの抗インフルエンザ薬(オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル、ラニナミビル)に対する薬剤耐性株サーベイランスに関しては、A(H1N1)pdm09亜型でオセルタミビル・ペラミビルに対して耐性を有するウイルス株が10例(1.2%)検出されたが、A(H3N2)亜型とB型では、抗インフルエンザ薬耐性株は検出されていない〔抗インフルエンザ薬耐性株サーベイランス(2018年3月16日現在):https://www.niid.go.jp/niid/ja/influ-resist.html 〕。
今シーズンは、例年とは異なる流行パターンを示しており、例年の、週間定点当たり報告数のピーク値、週間推計受診患者数のピーク値、累積推計受診患者数、累積入院患者数をそれぞれ大きく既に上回っている。また、近年は、AH3亜型若しくはAH1pdm09亜型が1年間隔で流行の主体となっていたが、今シーズンは、流行の開始頃からB型の割合が高く、B型が流行の主体となっている。過去に、同様にB型の検出割合が最も多くを占めた2004/05シーズンには、週間の定点当たり報告数が50.07となり、今シーズンと同様に大きな流行シーズンであった。また、今シーズンは、シーズン初期には、AH1pdm09亜型がAH3亜型を上回っていたが、年明け頃より、AH3亜型がAH1pdm09亜型を上回った状態が続いている。
現在、定点当たり報告数、推計受診患者数、入院患者数、インフルエンザ脳症数は、継続して減少傾向にあり、インフルエンザ様疾患発生報告における休校、学年閉鎖、学級閉鎖施設数(インフルエンザに関する報道発表資料:http://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou01/houdou.html)も減少傾向を示している。ただし、現在も全国の多くの地域では流行が続いている状況である。患者および病原体の両面について、今後の動向に注視し(最新の情報は、インフルエンザ流行レベルマップ参照:https://www.niid.go.jp/niid/ja/flu-map.html )、感染予防を継続して行うことが重要である。インフルエンザの感染予防策としては、接触感染対策としての手洗い等の手指衛生を徹底すること、飛沫感染対策としての咳エチケット(有症者自身がマスクを着用し、咳をする際にはティッシュやハンカチで口を覆う等の対応を行うこと)が重要である。高齢者における感染への警戒の観点から、医療・福祉施設へのウイルスの持ち込みを防ぐために、関係者が個人で出来る予防策を徹底すると同時に、訪問者等においては、インフルエンザの症状が認められる場合の訪問を自粛してもらう等の工夫が重要である。
●感染症発生動向調査週報(IDWR)
国立感染症研究所 感染症疫学センター |