注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
◆手足口病
手足口病は、四肢および口腔粘膜等に現れる水疱性発疹を主症状とする急性ウイルス性感染症であり、主に乳幼児の間で夏季に流行する。近年、わが国の手足口病の病原ウイルスは主にコクサッキーウイルスA6(CA6)、A16(CA16)、A10(CA10)、エンテロウイルス71(EV71)などである。不顕性感染例も存在し、基本的には数日で治癒する予後良好な疾患であるが、まれに小脳失調症、髄膜炎、脳炎などの中枢神経症状を合併することがある。感染経路は主に糞口感染を含む接触感染と飛沫感染である。
手足口病は感染症発生動向調査における5類感染症小児科定点把握疾患の一つで、全国約3000カ所の小児科定点医療機関が週単位で報告を行っている(届出基準:https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-20.html)。手足口病の報告数は報告年ごとに大きく異なり、2009年から2019年までの10年でみると、最も報告数が少なかった報告年は2016年(69,139例)であり、最も報告数が多かった報告年は2019年(402,529例)であった。例年は第15週付近から定点当たり報告数が増加し始め、第30週付近でピークをむかえる、一峰性の季節性の増減が見られた。報告数が多かった2019年のピーク時の定点当たり報告数は、13.42(第30週)であった。新型コロナウイルス感染症流行開始後は手足口病の流行状況に変化が認められ、2020年は報告数が例年を大きく下回り(18,364例)、2021年から2023年は、報告数は2009年から2019年の水準になったが、第36週から第41週にかけて定点当たり報告数がピークをむかえた。2021年から2023年までの各年における最大定点当たり報告数とその報告週は、それぞれ2021年1.71(第41週)、2022年3.77(第36週)、2023年1.77(第39週)であった。2024年は新型コロナウイルス感染症流行開始前とほぼ同様に第15週から定点当たり報告数が増加しており、過去5年間の週の平均(前週、当該週、後週の報告数の5年間分、合計15週間分の平均)と比較してかなり多い水準で推移している。特に2024年第19週以降は、2014年以降の過去10年間の当該週と比較しても定点当たり報告数が最多である。
地域別では、2024年第27週の定点当たり報告数上位5位は三重県(25.98)、埼玉県(18.80)、富山県(18.76)、広島県(16.99)、栃木県/静岡県(16.58)であった。2024年第26週までの直近5週間の定点当たり報告数上位5位の都道府県を以下に示す。
第22週:群馬県(8.67)、福井県(8.36)、鹿児島県(8.04)、愛媛県(7.95)、大分県(7.58)
第23週:群馬県(9.25)、鹿児島県(8.69)、三重県(8.67)、愛媛県(8.51)、高知県(8.36)
第24週:三重県(10.91)、石川県(10.59)、鹿児島県(10.41)、群馬県(9.94)、奈良県(8.85)
第25週: 三重県(16.36)、兵庫県(11.12)、滋賀県(10.36)、鹿児島県(10.02)、石川県/奈良県(9.38)
第26週:三重県(22.73)、兵庫県(13.42)、鹿児島県(12.80)、香川県(12.75)、埼玉県(12.51)
直近5週間の定点当たり報告数上位5位の都道府県は西日本に多いが、第21週以降、全ての都道府県から報告がある。
2024年第27週の報告数は35,960例で、性別では男性が54.8%と例年と同様にやや多かった。年齢群別では1歳が33.1%(11,887例)と最も多く、次に2歳が19.8%(7,116例)であった。なお、2019~2024年の各年における第1〜27週の累積報告数および報告例の年齢分布を表に示す。2024年の第27週までの累積報告数における年齢分布は、新型コロナウイルス感染症流行開始前に、手足口病が大きく流行した2019年の年齢分布と比較し、3歳、4歳、5歳以上における報告数が多く割合も高かった。
手足口病の患者から検出されるウイルスは年によって異なる。直近5年間に手足口病患者から分離・検出された各年の主なウイルスは、多い順に2020年はCA16、CA10、2021年と2022年はCA6、CA16、2023年はEV71、CA6、2024年は7月12日現在で全154件中、CA6、CA10/CA16であった(手足口病由来ウイルス 年別2020〜2024年:https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/1532-iasrgv.html)。
手足口病には有効なワクチンや予防薬がない。また、手足口病を発病している人だけでなく、病原ウイルスに不顕性感染した人や回復した人の糞便からもウイルスの排出が数週間から数カ月持続することがある。そのため、乳幼児がいる家庭や保育施設において手洗いの励行や排泄物の適切な処理、タオルを共有しないこと等の感染予防対策を行うことが重要であり、地域において公衆衛生担当者が注意喚起を行うことが効果的であると考えられる。前述のとおり、手足口病の流行状況は新型コロナウイルス感染症流行開始後でここ数年大きく変化しているため、発生動向を注視する必要がある。なお、2024年の全国の手足口病の定点当たり報告数は既に第15週から増加し始め、特に第19週以降は、2014年以降の過去10年間の当該週と比較しても最多であるため、公衆衛生担当者は引き続き地域における発生動向を注視し、感染対策の強化・継続を住民に対して注意喚起することが望まれる。
手足口病の感染症発生動向調査に関する詳細な情報と最新の状況については、以下を参照いただきたい:
●IASR 手足口病・ヘルパンギーナ 2007年〜2017年9月
https://www.niid.go.jp/niid/ja/hfmd-m/hfmd-iasrtpc/7600-452t.html
●IASR 夏の疾患(ヘルパンギーナ/手足口病)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/4892-iasrgnatus.html
●手足口病とは
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ta/hfmd.html
●IDWR 2021年第43号 注目すべき感染症 手足口病・ヘルパンギーナ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/hfmd-m/hfmd-idwrc/10767-idwrc-2143h.html
●IDWR 2019年第29号 注目すべき感染症 手足口病
https://www.niid.go.jp/niid/ja/hfmd-m/hfmd-idwrc/9017-idwrc-1929.html
●感染症発生動向調査週報(IDWR)過去10年間との比較グラフ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/10/weeklygraph.html
●感染症発生動向調査年別報告数一覧(定点把握)
https://www.niid.go.jp/niid/ja/survei/2085-idwr/ydata/7314-report-jb2016.html
●IASR エンテロウイルス
https://www.niid.go.jp/niid/ja/iasr/510-surveillance/iasr/graphs/1532-iasrgv.html
●学校において予防すべき感染症の解説<令和5年度改訂>
https://www.gakkohoken.jp/book/ebook/ebook_R050080/index_h5.html#65
●A guide to clinical management and public health response for hand, foot and mouth disease(HFMD)(WHO)
https://iris.who.int/handle/10665/207490
国立感染症研究所 感染症疫学センター