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エボラワクチン、治療薬の開発状況

(IASR Vol. 36 p. 101-103: 2015年6月号)

現在までのところ、エボラウイルスに対する効果的なワクチンおよびエボラウイルス病に対する有効な治療薬は確立しておらず、治療は対症療法のみに限られている。下痢で脱水症状を起こしている患者への点滴、併発感染症を避けるための抗菌薬や播種性血管内凝固症候群(DIC)に対する抗凝固薬等、また、鎮痛剤や栄養治療食、ビタミン剤の投与などにより、少しでも長く小康状態を保ち、患者自身の免疫力による回復を待つ対症療法が治療の基本である。エボラウイルスに対する抗体が検出されるようになると急速に回復に向かい、感染したウイルスに対して免疫が誘導されるが、その免疫が終生続くかどうかはまだ不明である。

これまでにエボラウイルスの増殖を抑制するような抗ウイルス薬の探索がなされてきており、いくつか候補薬剤が開発されているが、現時点ではエボラウイルス病に対して有効性が証明されたものはなく、一部を除いては臨床応用の段階にも達していない。

現在、臨床試験等で効果を検証している候補治療薬としては以下のものが挙げられる1)

ブリンシドフォビル(Brincidofovir)
米ノースカロライナ州のシメリックス社(Chimerix Inc.)が開発した抗ウイルス薬。ヘルペスウイルスやアデノウイルスなどDNAウイルスに効果がある核酸アナログ製剤で、in vitro においてはエボラウイルスの増殖を抑制する。Cidofovirの経口投与剤であり、体内ではcidofovirになる。既にサイトメガロウイルス(CMV)網膜症などでの臨床投与例もあり、薬品製剤として利用される可能性もあるが、現在、シメリックス社側の意向と西アフリカでのエボラウイルス病患者数の減少や他の有効な治療薬の台頭もあり、臨床試験は中止されている。

ファビピラビル(Favipiravir)
日本の富山化学工業(富士フィルムホールディングス傘下)により開発された核酸アナログ製剤で、RNAポリメラーゼ活性を阻害する。高病原性鳥インフルエンザウイルス感染症の流行に備えて備蓄薬として日本で承認されており、商品名アビガン(Avigan)として既に製品化されている。インフルエンザウイルス以外にもエボラウイルスを含む種々のRNAウイルスに対する増殖抑制効果が認められる。マウスにおけるエボラウイルス感染実験により、ファビピラビルがエボラウイルス病に有効である可能性が示唆される。現在、西アフリカのエボラウイルス病発生国での臨床試験が進行中である。

TKM-エボラ
カナダのテクミラ・ファーマシューティカルズ社(Tekmira Pharmaceuticals Corp.)が開発した、脂質ナノ粒子を利用したsiRNA複合体であり、エボラウイルスのRNAポリメラーゼ(L)、マイナーマトリックス蛋白質(VP24)、ポリメラーゼ補因子(VP35)を標的として、それらの蛋白質の翻訳を阻害することでエボラウイルスの増殖を選択的に抑える。サルを用いた感染実験では、ウイルス増殖を抑制できたものの、健常人での臨床試験で強い副作用が誘導され、今後薬品として利用するには課題が残っている。

MB-003(ZMapp)
米カリフォルニア州のマップ・バイオファーマシューティカル社(Mapp Biopharmaceutical Inc.)が開発した、タバコの近縁種であるベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)の葉の遺伝子を利用して、エボラウイルスに中和活性を有する3種類のヒト化モノクローナル抗体を混合した抗エボラウイルス薬である。まだ研究段階で、サルなどの実験では有効性が確認されているものの、ヒトでの安全性や効果は立証されていない。米国の医療関係者らが発症後比較的早期のエボラウイルス病患者に実験的に投与したが、その効果については明らかにされていない。

BCX4430
米ノースカロライナ州のバイオクリストファーマシューティカル社(BioCryst Pharmaceuticals Inc.)が開発した核酸アナログの抗ウイルス薬で、元々はC型肝炎の治療薬として開発された薬剤である。この薬剤は他の種々のRNAウイルスにも増殖抑制効果を示し、エボラウイルスに対してもサルを含めた感染実験で効果が認められている。ただ、副作用も問題となっており、実際にヒトに臨床応用できるかは不明である。

AVI-7537
米マサチューセッツ州のサレプタセラピューティクス社(Sarepta Therapeutics Inc.)が開発したアンチセンス核酸(ホスホロジアミデートモルフォリノオリゴマー)製剤である。動物実験での効果は認められており、現在第1相の臨床試験が行われている。

次に、候補ワクチンについても現在開発中のもの、臨床試験が行われているものを以下に示す。

NIAID/GSKエボラワクチン(VRC207)
米国アレルギー感染症研究所(NIAID)とグラクソ・スミスクライン社(GSK)によって共同開発された。チンパンジー・アデノウイルス3型(ChAd3)にエボラウイルスの糖蛋白質遺伝子を挿入して作製された組換えウイルスワクチンである2)。サルでの動物実験では、エボラウイルスの感染に対して長期的な防御効果が認められている。西アフリカのエボラウイルス病発生国でのヒトに対する臨床試験が進行中であり、効果および安全性が期待されている。

Newlink/Merckエボラワクチン(VSV-ZEBOV)
カナダ国立微生物学研究所公衆衛生局(PHAC)が開発し、米ニューリンク・ジェネティクス社(現在はメルク社)が製造するワクチンである。水疱性口内炎ウイルス(VSV)を元にエボラウイルスの糖蛋白質遺伝子を挿入して作製された組換えウイルスワクチンで、マウスにおける防御効果は既に10年以上前に報告されている。西アフリカでのエボラウイルス病大流行で、サルでの感染防御実験およびヒトを対象とした臨床試験が急速に進められており、実用化が期待される3)

エボラΔVP30ウイルスワクチン
東京大学、米ウィスコンシン大学および米国国立衛生研究所(NIH)によって共同開発されたワクチンである。エボラウイルスがコードする転写活性化因子VP30遺伝子を欠損させてあり、通常の細胞では増殖性は示さない。しかし、VP30遺伝子発現細胞では増殖できるため、それを精製し不活化ワクチンとして利用する。霊長類を用いた動物実験で有効性が確認されており、今後臨床試験等が求められる4)

以上、現在開発が進められている代表的な治療薬およびワクチンについて記載した。他にも書ききれなかった多くの候補薬が世界各国で開発中である。こうした新薬を研究し、いち早く患者に投与できるようにすることは重要であるが、現在行われている対症療法や合併症の治療を充実させることでも、エボラウイルス病患者の致命率を低下させることができる可能性が示唆されている。

西アフリカにおけるエボラウイルス病の流行は終息しつつあり、ワクチンや治療薬のエボラウイルス病に対する効果を十分検証できない可能性があるが、これからもエボラウイルス病の流行は発生することから、特異的な治療・予防法の開発はとても重要なことと考えられる。

 
参考文献
  1. Kupferschmidt and Cohen, Science 347: 701-702, 2015
  2. Stanley, et al., Nat Med 20: 1126-1129, 2014
  3. Mire, et al., Nature 520: 688-691, 2015
  4. Marzi, et al., Science 348: 439-442, 2015

国立感染症研究所
   ウイルス第一部 谷 英樹 西條政幸

 

 

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