重症熱性血小板減少症候群(SFTS), 2016年2月現在
(IASR Vol. 37 p. 39-40: 2016年3月号)
重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia syndrome : SFTS)はブニヤウイルス科フレボウイルス属に分類されるSFTS ウイルス(SFTSV)によるマダニ媒介性全身性感染症である。2011年に中国の研究者らにより初めて報告され、その後、日本と韓国でも報告されている新興感染症である。潜伏期間は5~14日間で、発症時の主症状は、発熱、消化器症状(食欲不振、嘔気、嘔吐など)、頭痛、筋肉痛であり、病状が進行してくると意識障害等の神経症状,歯肉出血や下血等の出血症状を伴う。身体所見では、表在リンパ節の腫脹や、上腹部の圧痛を認めることがある。末梢血液検査では白血球減少および血小板減少が、生化学検査ではAST、ALT、LDHの上昇が認められる。生存例では、これらの血液検査所見が発症から1週間程で改善し始め、2週間程で正常となることが多い。重篤な症例においては、1週間を経ても改善せず、意識障害や出血傾向を呈し、呼吸循環不全、播種性血管内凝固症候群(DIC)などの病態により、多臓器不全により死亡する場合がある。日本では届出時点における致命率は約30%である。
SFTSVの自然界における存在様式と伝播経路
SFTSVは、自然界では成ダニから幼ダニへSFTSVが受け継がれるマダニの中での経卵性伝播と、マダニが哺乳動物にSFTSVを感染させ、ウイルス血症を伴う哺乳動物を別のマダニが吸血し感染するマダニ-哺乳動物間での伝播経路が存在する。
国内の調査では、複数のマダニ種(タカサゴキララマダニ、フタトゲチマダニ、キチマダニ、オオトゲチマダニ、ヒゲナガチマダニ等)からSFTSV遺伝子が検出され、また、シカ、イノシシ、イヌ、アライグマ、タヌキにおいて抗体が検出されている(本号12&13ページ)。このことは、哺乳動物とマダニの間でSFTSVの生活環が形成されていることを示している。
ヒトへの感染は、主にSFTSV保有マダニの刺咬によるが、中国や韓国では、患者血液・体液との接触による家族内・職業感染事例(いわゆるヒト-ヒト感染)も報告されている(本号10ページ)。
SFTSVの分子疫学
国内と中国、韓国で確認されたSFTSV株は、分子系統的に中国型と日本型に分類され、中国型はさらに5つの遺伝子型(C1~C5型)に,日本型は3つの遺伝子型(J1~J3型)に分けられる。国内で確認された株のほとんどは遺伝子型J1に属するが、まれに日本の患者からもC3~C5型に属するSFTSVが分離され、逆に中国や韓国の患者からもJ3型に属するSFTSVが分離される場合がある(本号6ページ)。
日本におけるSFTS患者の報告状況
日本ではSFTSは2013年3月4日に感染症法で全数把握対象疾患である4類感染症(届出基準:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-43.html)に、SFTSVは三種病原体に指定された。SFTSを診断した医師は直ちに最寄りの保健所に届出なければならない。
2013年3月4日~2016年2月24日までに感染症発生動向調査で届出られた患者報告数は170例で(表)、そのうち、2013年以降に発症した症例は162例(図1)、2012年以前の発症が8例(2005年2例、2010年1例、2012年5例)であった。患者の発生は毎年5~8月に多く(図1)、西日本を中心とした20府県から報告されている(表および図2)。2013年以降の報告では、男性と女性がそれぞれ77例(45%)と93例(55%)(性別不明2例)で(表)、患者年齢は60代以上に多かった(5~95歳、年齢中央値74歳)(図3)。2015年には小児患者が日本で初めて報告された(本号4ページ)。届出時に死亡が確認された例は46例(27%)であった(図3)。発熱が168例(99%)、消化器症状(腹痛、下痢、嘔吐、食欲不振のいずれか)が150例(88%)に認められ、血液検査では、血小板減少が162例(95%)、白血球減少が150例(88%)に認められた(本号3ページ)。
海外(中国、韓国)におけるSFTS患者(本号9ページ)
中国では、SFTSの患者報告数が増加しており、2014年までに約3,500人のSFTS患者が届出られ、致命率は7.8~12.2%と報告されている。韓国では、2012年8月に死亡した患者が2013年にSFTS患者と確認された。2013年には36例(うち死亡17例)が、2014年には55例(うち死亡15例)の患者が報告されており、韓国におけるSFTSの致命率は27~47%と算出された。
日本国内における検査体制
ウイルス学的検査法としては、急性期の血液やその他の体液(咽頭ぬぐい液や尿)からのSFTSV分離、SFTSV遺伝子検出、急性期および回復期のペア血清を用いたSFTSVに対するIgG抗体価の有意な上昇の確認、等の検査法がある。全国の地方衛生研究所(地衛研)では、one-step RT-PCRの従来法が実施され、国立感染症研究所(感染研)では要請に応じて定量的one-step RT-PCR法や抗体検査も実施されている(本号5&7ページ)。ウイルス学的検査の実施については最寄りの保健所に相談するとよい。
今後の課題
2013年に日本でSFTS患者が初めて確認されたが、患者が今後も発生することが予想される。感染研および地衛研の調査や、厚生労働科学研究費補助金研究事業「SFTSの制圧に向けた総合的研究」等のこれまでの調査研究により、SFTSの患者発生状況、臨床的特徴、SFTSVの存在様式・感染伝播経路・感染リスク等が徐々に分かりつつある。
SFTSの感染予防に最も重要なことはダニ刺咬の予防である。特にマダニの活動が盛んな春から秋にかけて、マダニが多く生息する場所に入る際には肌の露出を少なくすることは重要である。DEETを含む忌避剤を用いることは一定の効果が期待される。マダニ対策については以下を参照のこと(http://www.niid.go.jp/niid/ja/sfts/2287-ent/3964-madanitaisaku.html)。
現時点ではSFTSVに対して有効なワクチンはなく、また、抗SFTSV薬の開発も進められているが(本号11ページ)、有効な治療法は確立されていない。SFTSは意識障害等の神経症状が認められる場合は予後は不良であり、今後も調査研究を継続する必要がある。