IASR-logo

ヒトスジシマカの分布域拡大について

(IASR Vol. 41 p92-93: 2020年6月号) (2023年9月6日黄色部分修正)

ヒトスジシマカは国内に広く分布し, 都市部や市街地, 住宅密集地などでは高密度に生息している。この蚊は, デング熱やジカ熱などの媒介蚊として知られており, 2014年に都内でデング熱の流行をひき起こし, 約160名もの感染者を出した1)。ヒトスジシマカの幼虫は, 住宅地や公園などでよくみられる人工容器(空き缶, 弁当や麺類などの空容器, 植木鉢の水受け皿, 雨水桝, 墓石の花立, 廃棄された家電製品, 中古タイヤなど)のほか, 自然由来の樹洞や竹の切り株など, 身の回りにある無数の小さな溜まり水から発生する。成虫は発生源周辺の木陰や藪などの薄暗い場所に潜伏し, 吸血源が近づくのを待ち伏せしているが, 吸血源が現れない場合, 別の潜伏場所へと移動を繰り返しながら吸血する機会を狙っている。ヒトスジシマカはこのような生態をもつため人々の身近におり, かつ日本に生息する蚊の中では, ヒトに病原体を媒介するリスクの最も高い種類であると言っても過言ではない。さらに, 成虫の偶発的な移動手段として, トラックや電車, 飛行機などの交通機関を利用することがある。また, 卵は乾燥状態で数カ月間の生存が可能であるため, 中古タイヤや廃棄物などに産み付けられた状態で, 発生地よりはるか遠くへ運ばれる場合がある。このような分散能力に長けたヒトスジシマカが新天地に到着し, そこで定着できるか否かの重要な要因として, 年間平均気温11℃以上という環境条件が報告されている2)

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan