新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連情報

公開講座

令和6年度 国立感染症研究所研究発表会(学生・若手研究者対象 研究部紹介)

国立感染症研究所では、ウイルス・細菌・真菌・寄生虫等による各種感染症の克服に向け、数々の基礎・臨床研究に取り組んでいます。 感染症研究を志す若手研究者・医療関係者・学生の皆様のご参加を歓迎します。  2024年5月25日(土)13:00〜18:00 Zoom Webinarで開催いたします。参加を希望...

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令和6年度 感染研市民公開講座 知らなかった、感染症の「へぇー、そうだったんだ!」 (全6回)

掲載日:2024年5月8日 オンライン企画(世界中どこからでも視聴可能!) 令和6年度 国立感染症研究所 感染研市民公開講座知らなかった、感染症の「へぇー、そうだったんだ!」 ポスターPDF 感染症にまつわる、普段なかなか聞くことができないさまざまな「へぇー、そうだったん...

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IASR最新号 特集記事

IASR 45(4), 風疹・先天性風疹症候群 2024年2月現在

  風疹・先天性風疹症候群 2024年2月現在 (IASR Vol. 45 p51-52: 2024年4月号)   風疹は風疹ウイルスによる急性感染症であり, 発熱, 発疹, リンパ節腫脹を主徴とする。風疹に対する免疫が不十分な妊婦が風疹ウイル...

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Fast-Track Cities Initiativeと世界AIDS戦略2021-2026

(IASR Vol. 42 p224-225: 2021年10月号)

 
はじめに

 2020年は, 国連合同エイズ計画(UNAIDS)が2014年に提唱した, Fast-Track Targetsの評価の年であった。Fast-Track Targetsには, HIVケアカスケード数値目標「90-90-90 by 2020」が含まれ, 現在までの7年間にわたり世界共通スローガンに掲げられてきた。本稿では, そのFast-Track Targets達成に向けた政策推進を牽引してきたFast-Track Cities Initiativeの取り組みについて概説する。

Fast-Track Cities Initiativeとは

 Fast-Track Cities Initiativeは, 2014年の世界エイズデーに, 27都市の市長(首長)が署名し提唱された「パリ宣言」1)を基に, パリ市, 国際AIDSケア提供者協会(IAPAC), UNAIDS, 国連人間居住計画の4つの団体を中心に, 都市レベルでのAIDS対策を推進する国際的パートナーシップである。持続的な開発目標(Sustainable Development Goals:SDGs)3.3:2030年までのHIV感染症, 結核, HBV・HCVの流行終結2)と, それら感染者への差別偏見撤廃に向けて取り組むことを共通の目標として掲げ, 2021年6月末までに300以上の都市が加盟している。

 その名の由来である“Fast-Track”という言葉は, 2014年に発表した2030年までのAIDS流行終結のためのUNAIDS Fast-Track strategy3)に端を発し, UNAIDS世界エイズ戦略2016-2021 のサブタイトル“On the Fast-Track to end AIDS”4)に引き継がれ, 今日に至るまで世界中のAIDS対策に使用されてきた。HIVケアカスケードや曝露前予防内服(PrEP)の推進など, AIDS流行終結に導くための科学的知見は, その土台が確立されて久しく, 次はそれらの施策をいかに推進できるかが鍵となっている。地域保健政策について責任を負う都市の首長らに“Fast-Track”=“迅速な対応”を促し, 地域の特性に応じた実効性と実行性のあるプログラムを立案・実行させるのが, Fast-Track Cities Initiativeのねらいである。

 Fast-Track Cities Initiativeの理念を示した「パリ宣言」は, 以下の7つの約束(commitment)から構成される。

 1. 90-90-90含むFast-Track Targets3)を達成し, 2030年までに都市および自治体におけるHIV流行を終結させる

 2. 人権を尊重し, 当事者中心の取り組みを行い, 社会の結束力と持続可能な開発への世界的な支援を喚起する

 3. それぞれの感染症に対するリスク・脆弱性・伝播要因に対処する

 4. HIV対策の取り組みを社会変革に活かす

 5. 地域のニーズを反映した適切な取り組みを行う

 6. 公衆衛生と持続可能な開発の取り組みを両立・統合させ, そこに資源を動員する

 7. リーダーとして, 行動計画の作成や透明性のあるデータに基づく説明責任を果たし, 他の都市と団結する

 残念ながら, 2021年9月現在, Fast-Track Cities Initiativeに加盟している日本の都市はない。Fast-Track Cities Initiativeに加盟することで得られる行政側の最大のメリットは, ベストプラクティスを共有できることである。AIDS対策は日進月歩であるが, それを政策に反映させるまでには時間を要する。一方, 日本の行政従事者は長くても数年ごとに異動があるため, 新しい政策を導入するまでにたどり着かないことが多いと考えられる。Fast-Track Cities Initiativeに加盟すれば, 他都市の成功事業モデルを共有することで, 最新の科学に基づく政策をより効率的に検討・導入することが可能となる。

UNAIDS世界エイズ戦略2021-2026 -“Fast-Track”から“End Inequalities”へ

 5年に1度のAIDSに関する国連総会ハイレベル会合は, HIV対策の世界的な方向性を決める節目と位置づけられ, 毎回それに先立ちUNAIDSプログラム調整委員会が5カ年計画を採択する。2021年はその国連総会ハイレベル会合が6月に開催され, 「世界エイズ戦略2021-2026」が3月に発表された。

 「世界エイズ戦略2021-2026」5)では, “Fast-Track”の言葉が消え, “End Inequalities, End AIDS”というサブタイトルが掲げられ, その言葉が示す通り不平等の解消に焦点があてられた。その背景には, 2020年いわゆる90-90-90目標の達成度に地域や感染者の背景による格差があり, それには予防や医療へのアクセスに不平等が起因していること, またその不平等が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行でより鮮明になったことが起因しているという。“Fast-Track”の言葉は消えたものの, 2025年までのHIVケアカスケード95-95-95達成に触れた記載があるなど, むしろより速い達成が求められている。不平等の解消を喫緊の課題と位置づけ, 各方面のリーダーシップによる迅速な行動が, より一層促されているといえよう。

最後に

 2014年から始まったFast-Track Targets推進を通じて得られた知見・課題をふまえつつ, 今後もFast-Track Cities Initiativeのネットワークは拡大を続けていくものと思われる。日本にも, 国内のHIV政策におけるあらゆる不平等について厳しく評価し, その結果を真摯に受け止めて迅速な行動ができる政治的リーダーシップが必要である。

 日本エイズ学会とIAPACは, 2021年からの3年間, 年1回7月にFast-Track Cities Workshop Japanを共催する。本稿で触れた世界共通目標の共有のため, 多くの関係者の出席を期待したい。

 

参考文献
  1. Fast-Track Cities Initiatives, Paris Declaration 3.0, 2014
    https://www.iapac.org/files/2020/09/Paris-Declaration-3.0-December-2019-1.pdf
  2. United Nations, Sustainable Development Goals, 2015
    https://www.un.org/sustainabledevelopment/sustainable-development-goals/
  3. Joint United Nations Programme on HIV/AIDS, Fast-Track - Ending the AIDS epidemic by 2030, 2014
    https://www.unaids.org/en/resources/documents/2014/JC2686_WAD2014report
  4. Joint United Nations Programme on HIV/AIDS, The UNAIDS Strategy 2016-2021
    https://www.unaids.org/sites/default/files/media_asset/20151027_UNAIDS_PCB37_15_18_EN_rev1.pdf
  5. Joint United Nations Programme on HIV/AIDS, Global AIDS Strategy 2021-2026
    https://www.unaids.org/en/Global-AIDS-Strategy-2021-2026

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