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国の肝炎対策
 
 肝炎対策については、国または地方公共団体において、従来より検査体制の充実、国民に対する普及啓発、相談指導の充実、治療法の研究開発など様々な対策 に取り組んできました。2002年に発足した「C型肝炎等緊急総合対策」では、保健所、老人保健、政府管掌健康保険等による肝炎ウイルス検査を導入し、ハ イリスクグループ(1992年以前に輸血を受けた者、輸入およびそれと同等のリスクを有する非加熱血液凝固因子製剤を投与された者、1994年以前にフィ ブリノーゲン製剤(フィブリン糊を含む)を投与された者、大きな手術・臓器移植を受けた者、薬物濫用者、入れ墨・ボディピアスをしている者、その他過去に 健康診断等で肝機能異常を指摘されているにも関わらず、その後肝炎検査を実施していない者等)を重点対象としつつ、一定年齢以上の全ての国民を対象にC型 肝炎検査を行う体制が構築されてきました。しかしながら、(1)健診の受診率はそれほど高くなく(老人保健事業のC型肝炎ウイルスの節目検診で 25-30%の受診率でした)、(2)肝炎ウイルス検査で精査を指摘されても医療機関を受診しない者が多いこと(その検診で要精密となった者のうち実際に 二次医療機関を受診したのは8割程度でした)、(3)たとえ医療機関を受診しても必ずしも適切な医療が提供されていない(二次医療機関でも専門の医療機関 を受診された方はその約半分という状況でした)、ことなど不十分な点もありました。

 そこで、厚生労働省では、従来から行ってきた対策に加えて、2008年から新たな肝炎総合対策「肝炎治療7カ年計画」を開始しています。肝炎ウイルス検 査の促進を目指し、(1)保健所における肝炎ウイルス検査の受診勧奨と検査体制の整備、(2)市町村および保険者等における肝炎ウイルス検査等の実施、を 行い、医療機関において受診者を対象に肝炎ウイルス検査の受診の有無の確認や検査受診の呼びかけを日本医師会、都道府県等を通してお願いしています。保健 所および一部の委託医療機関での無料での肝炎検査を実施していることもあり、肝炎ウイルス検査を受けやすい環境も整っています。

 C型肝炎の治療の中心はインターフェロンですが、臨床研究で得られた成果を早期に反映させて、積極的に新しい治療法が取り入れられています。従来のイン ターフェロン単独投与に加え、2001年からリバビリンとの併用療法に医療保険が適用されるようになり、2002年からインターフェロンの保険適用上の投 与期間の制限が撤廃、2003年からペグインターフェロン、2005年からインターフェロン自己注射承認、2006年から代償性肝硬変もインターフェロン の適応、と治療法は年々進歩しています。_一般に、インターフェロンによってHCVが排除されるのは30%程度、リバビリンとの併用療法の場合で約 40%と言われていますが、インターフェロン療法でウイルスを排除できなかった場合でも、肝炎の進行を遅らせ、肝癌の発生を抑制、遅延させる効果が期待で きます。_

 上記のように治療法は進歩しているものの、肝炎ウイルス検査で精査を指摘されても医療機関を受診しない者が多い、という問題が指摘されています。そこ で、厚生労働省では「肝炎治療7カ年計画」の中で、インターフェロン療法の促進のための環境整備を目指し、平成20年度からB・C型肝炎のインターフェロ ン治療に対する医療費助成を開始しました。具体的には、患者世帯の市町村民税課税年額に応じ、その自己負担額を月額1万円から5万円に軽減します。これに より早期治療を推進し、肝硬変、肝癌といった重篤な疾病を予防することを期待しています。

 以上のように治療法は進歩していますが、実際には適切な治療法が選択されない場合や中断してしまうという問題点があります。そこで、肝炎医療が地域に偏 り無く等しく向上させるために、各都道府県に「肝疾患診療連携拠点病院」を選定し、医療の連携を図るほか、患者・キャリア・家族からの相談等に対応する 「肝疾患相談センター」を設置することにしています。また、国においては平成20年11月に「肝炎情報センター」を設置し、拠点病院間の情報共有の支援、 研修、最新情報の提供等を行っています。お住まいの地域の「肝疾患診療連携拠点病院」に関する情報は、肝炎情報センターのホームページを参照してください (http://www.imcj.go.jp/center/index.html)。

 さらに、国は肝疾患の新たな治療方法の研究開発を押し進めており、治療薬の開発状況に合わせて、患者の皆さんに早く安全な治療法をお届けするために速やかな薬事承認、保険適用の推進も行っています。

 また、HCVの感染経路の箇所で説明したように、HCVは日常生活で感染することはほとんどありません。そういった肝炎に対する正確な知識を普及するこ とで、肝炎ウイルスの感染予防に資するとともに、患者やその家族の方がいわれのない差別を受けることのないように、情報の発信に努めていきます。 
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治療法
 
 C型肝炎の治療の中心はインターフェロンです。従来の単独投与に加え、2001年からリバビリンとの併用療法に医療保険が適用されるようになり、 2002年からインターフェロンの保険適用上の投与期間の制限が撤廃、2003年からペグインターフェロン、2005年からインターフェロン自己注射承 認、2006年から代償性肝硬変もインターフェロンの適応、と治療法は年々進歩しています。_一般に、インターフェロンによってHCVが排除されるのは 30%程度、リバビリンとの併用療法の場合で約 40%と言われていますが、インターフェロン療法でウイルスを排除できなかった場合でも、肝炎の進行を遅らせ、肝癌の発生を抑制、遅延させる効果が期待で きます。治療法の詳細については、肝炎情報センターのホームページ(http://www.imcj.go.jp/center/index.html) を参照していただきたいと思います 
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診断
 
 C型肝炎のもうひとつの問題点は、HCVに感染していても肝機能検査では正常を示すことが多いことです。そこで、HCV感染の有無を判定する方法として は、HCV血清抗体の検出と核酸・抗原の検出の2種類が用いられています。一般的には、初めにHCV抗体検査が行われます。この抗体検査で陽性となった場 合、(1)HCVに感染しているキャリア状態、(2)過去に感染し、現在ウイルスは排除された状態、の2つの可能性が考えられます。そこで、このような HCVキャリア と感染既往者とを適切に区別するため、HCV-RNAの検出を行います。また、急性C型肝炎においてもHCV 抗体の陽性化には感染後通常1〜3カ月を要するため、この時期の確定診断には HCV-RNA定性検査が必要となります。 
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臨床症状
 
  急性C型肝炎では全身倦怠感に引き続き、比較的徐々に食欲不振、悪心・嘔吐、右季肋部痛、上腹部膨満感、濃色尿などが見られるようになります。一般的 に、C型肝炎ではA型やB型肝炎とは異なり、劇症化することは少なく、黄疸などの症状も軽い。慢性肝炎ではほとんどが無症状で、倦怠感などの自覚症状を訴 えるのは2〜3割にすぎません。肝硬変で非代償期まで進行すると黄疸、腹水、浮腫、肝性脳症による症状である羽ばたき振戦、 意識障害などが出現するようになります。肝細胞癌を合併しても初期は無症状でありますが、末期になると肝不全に陥り、他の癌と同様に悪液質の状態となりま す。臨床症状の詳細については、肝炎情報センターのホームページ(http://www.imcj.go.jp/center/index.html) を参照していただきたいと思います。

 以上のように、C型肝炎の問題点は症状が全くない潜伏期間が20-30年に及ぶこともあるため、治療の機会がなく悪化させるケースが少なくないことであ ります。したがって、できるだけ多くのヒトにC型肝炎ウイルス検査を受けてもらう必要性があるわけです。また、検診の結果、C型肝炎ウイルスに感染してい る可能性を指摘された場合には、積極的に医療機関を受診して欲しいわけであります。  
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疫学
 
 我が国のC型肝炎感染者は200-240万人と推定されています。全国の日赤血液センターにおける初回献血者のデータに基づく2000年時点のHCV抗体陽性率は、年齢が上がるとともに増え、60〜69歳で3.38%となっています。

 HCVの感染経路としては、感染血液の輸血、経静脈的薬物濫用、入れ墨、針治療、観血的医療行為などが考えられています。母子感染は妊婦がHCVRNA 陽性の場合、出生児が感染する確率は10%程度と言われています。また、血液透析に伴うHCV新規感染の発生は平均年率2%程度の頻度あるといわれ、さら に歯科診療における潜在的な感染の可能性も示唆されています。また、ニュースで取り上げられている血液製剤フィブリノーゲンを投与された約28万人のうち 感染者は約1万人と推計されています。我が国のC型肝炎患者のうち、輸血歴を有するものは3〜5割程度にすぎず、多くの患者で感染経路は不明であり、感染 初期では自覚症状に乏しいこともあり、感染の自覚がないまま病気が進行して初めて発見されるケースが多いのはこのためです。したがって、国はできるだけ多 くのヒトにC型肝炎ウイルス検査を受けてもらいたいと考えております。

 HCV感染に伴って急性肝炎を発症した後、30〜40%ではウイルスが検出されなくなり、肝機能が正常化しますが、残りの60〜70%はHCVキャリア になり、多くの場合、急性肝炎からそのまま慢性肝炎へ移行します。慢性肝炎から自然寛解する確率は0.2%と非常に稀で、10〜16%の症例は初感染から 平均20年の経過で肝硬変に移行すると考えられています。肝硬変の症例は、年率5%以上と高率に肝細胞癌を発症するとされ、肝癌死亡総数は年間3万人を越 え、いまだに増加傾向にありますが、その約8割がC型肝炎を伴っています。以上のようなことから、C型肝炎と診断されたヒトには適切な治療と経過観察が必 要となるわけです。のべ約850万人のヒトがC型肝炎検診を受診し、1.16%が感染の可能性が指摘されていますが、その結果が検診受診者に通知されたに もかかわらず、2次精密検査のために医療機関を受診されたヒトは残念ながら3割程度にとどまっていると推定されています。

 現行のスクリーニングシステム実施下では、輸血その他の血液製剤による新たなC型肝炎の発生は限りなくゼロに近づいています。_現在、米国では薬物濫用 者を中心に年間25000人の新たなHCV感染者が発生していますが、日本ではHCVによる新たな急性肝炎の発症は2001年以降年間40-70人程度と 大変少なく抑えられています(国立感染症研究所情報センターhttps://idsc.niid.go.jp/idwr/ydata/report-Ja.html)。 以上から、国のC型肝炎対策の基本は、多くの国民に対してC型肝炎ウイルス検査を行い、早期に感染の有無を確認し、感染者に対して適切な治療を行うことと 考えられています。さらに、上記のような病気について正しい知識を普及させることは、感染者の就業・入所・入学等に伴う偏見・差別等を防ぐためにも重要で あると考えられます。 
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C型肝炎の最新の話題
 
 2008年1月、薬害C型肝炎集団訴訟の原告団と弁護団は国との和解内容について取り決めた基本合意書に調印しました。これにより、一気に長年の懸案解 決に向けた動きが始まりました。厚生労働省は、従来から行ってきた総合的な対策に、医療費助成を加えて、平成20年度から新たな肝炎総合対策「肝炎治療7 か年計画」を実施しています。

 薬害C型肝炎訴訟は、HCVに汚染された血液製剤を止血剤として投与されたことで、HCVに感染したとして患者が国と製薬会社3社を相手取って総額 100億円を超える損害賠償を求めた訴訟であり、2002年10月に東京・大阪から始まり、全国の5カ所の集団訴訟に広がりました。5つの地裁とも判決は 製薬会社の責任を認め、このうち4つの地裁では国の責任も指摘されました。2007年後半になり、こうした状況下で大阪高裁が患者と国・製薬会社の双方に 和解を勧告したことから、与野党がそれぞれウイルス性肝炎治療の患者支援策を打ち出し、ついに国は患者らに謝罪し、2008年1月の原告団と国の薬害肝炎 和解合意調印に至ったものです。これにより、5地裁・5高裁で国と製薬会社を相手に係争中の訴訟は順次、国との和解手続きに入り、製薬会社も従うことにな りました。

 基本合意書の内容は、まず第一に、国が血液製剤による感染被害者に甚大な被害が生じ、その被害の拡大を防止し得なかったことについての責任を認め、感染 被害者およびその遺族に心から謝罪し、命の尊さを再認識し、薬害ないし医薬品による健康被害の再発防止に最善かつ最大の努力を行うことを誓う、ことを述べ ています。さらに、(1)救済の対象をフィブリノゲン製剤および第九因子製剤を投与されて被害に遭った肝炎患者またはその遺族とすること、(2)被害の認 定は、医療機関の医療記録などの証拠に基づいて行う、(3)症状及び症状進行の立証は、医師の診断書、各種検査結果記録などで行う、(4)当事者双方に争 いがある場合は裁判所が判断する、(5)恒久対策として、製剤投与を受けた者の確認促進、肝炎医療の提供体制の整備、肝炎医療にかかる研究推進、第三者機 関を設置して薬害肝炎事件の検証を行い、薬害ないし医薬品による健康被害の再発防止に最善、最大の努力を行う、(6)継続的な協議の場を持つこと—となっ ています。肝炎対策は上記の基本合意書の精神に従って進められています。  

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