Minetaro Arita
Viruses, 2022, 14:2672, https://doi.org/10.3390/v14122672
宿主細胞のタンパク質OSBPは、コレステロールを小胞体からウイルス複製膜に輸送することでウイルスの複製を促進していると考えられています。しかし、その機能には不明な点が多く、必要とされる領域も同定されていません。今回、最近開発された新規OSBP活性解析法(Kobayashi J et al., ACS Infect Dis, 2022)を用いて、ポリオウイルスの複製に必要とされるOSBPの領域を解析しました。結果、リガンド結合領域とリン脂質に結合する領域は予想通りウイルスの複製に必要でしたが、驚いたことに小胞体への結合に必要な領域(FFATモチーフ)は必要ではありませんでした。今回得られた知見は、OSBPのウイルス感染細胞における脂質の輸送方法の解明につながることが期待されます。
Yoshio Mori, Masafumi Sakata, Shota Sakai, Toru Okamoto, Yuichiro Nakatsu, Shuhei Taguwa, Noriyuki Otsuki, Yusuke Maeda, Kentaro Hanada, Yoshiharu Matsuura, Makoto Takeda
mBio, 8 Nov, 2022(URL: https://doi.org/10.1128/mbio.01698-22)
国立感染症研究所(ウイルス第三部、細胞化学部、品質保証・管理部)と大阪大学微生物病研究所の共同研究により、風疹ウイルスの細胞侵入において宿主細胞のスフィンゴミエリン合成酵素(SMS)の酵素活性が決定的な役割を果たすことが明らかになりました。SMSが欠損した細胞では、風疹ウイルスのエンベロープ膜と宿主のエンドソーム膜の融合がヘミフュージョンの段階で停止し、ウイルスゲノムの細胞質への放出が著しく抑制されることが示されました。このことはウイルス感染における宿主膜の脂質構成の役割について新たな知見を与えるものです。
本研究は、日本医療研究開発機構、文部科学省、日本学術振興会、大阪大学微生物病研究所の支援を受けて実施されました。
続きを読む: 風疹ウイルスの侵入過程におけるヘミフュージョン後のヌクレオキャプシドの細胞質への放出に、宿主膜のスフィンゴミエリンが必須である
Kajihara T, Yahara K, Yoshikawa M, Haruta A, Kawada-Matsuo M, Le NT M, Arai C, Takeuchi M, Kitamura N, Sugawara Y, Hisatsune J, Kayama S, Ohta K, Tsuga K, Komatsuzawa H, Ohge H and Sugai M
Gerontology. 2022: Oct 6;1-12.
長期療養施設(介護老人保健施設(保健施設)、特別養護老人ホーム(特養))は、JANIS等のサーベイランスが及んでおらず、薬剤耐性の実態が不明であり、国の薬剤耐性アクションプランにおける動向調査の強化対象となっている。保健施設3施設と特養3施設の入所者計178名の口腔と直腸の耐性菌保菌調査を行った。検出菌の全ゲノム解析を行い、経過の追えた146名の臨床情報・予後との関連を解析した。その結果、入所者の便検体の42.7%(保健施設28.4%, 特養51.4%)からESBL産生菌が分離された。また、ESBL産生菌と緑膿菌の分離頻度は経腸栄養実施者で有意に高かった。さらに、予後との関連解析の結果、ESBL産生菌の保菌は死亡率と関連しない一方、緑膿菌の保菌は有意に死亡率と関連することが明らかになった。
Naoko Iwata-Yoshikawa1, Masatoshi Kakizaki1, Nozomi Shiwa-Sudo, Takashi Okura, Maino Tahara, Shuetsu Fukushi, Ken Maeda, Miyuki Kawase, Hideki Asanuma, Yuriko Tomita, Ikuyo Takayama, Shutoku Matsuyama, Kazuya Shirato, Tadaki Suzuki, Noriyo Nagata*, Makoto Takeda*(1 equal contribution, * corresponding authors)
Nature Communications (Published online 15 October 2022)
https://doi.org/10.1038/s41467-022-33911-8
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、ウイルス粒子表面のスパイク蛋白の働きによって細胞に吸着し、ウイルスの膜と細胞の膜とを融合させることで感染します。ただし、このスパイク蛋白がこのような働きをするためには、感染しようとする細胞がもつ蛋白分解酵素の力が必要です。しかし、蛋白分解酵素には沢山の種類があり、SARS-CoV-2が気道の細胞に感染して、肺炎を起こす時に働いている蛋白分解酵素が何であるのかは、はっきりとはしていませんでした。国立感染症研究所のウイルス第三部(竹田誠部長:現在東京大学医学部微生物学教授)、感染病理部の永田典代室長らを中心とした研究チームでは、気道の上皮に発現しているTMPRSS2と呼ばれる蛋白分解酵素に注目して研究を進めてきました。マウスにおけるTMPRSS2の遺伝子を人為的に欠損させると、SARS-CoV-2は、その個体の鼻腔や肺の中で増殖することができなくなり、肺炎などの病気を起こすことができなくなりました。この成果は、TMPRSS2がSARS-CoV-2による肺炎の発症に非常に重要であることを示しています。そして、この成果は、SARS-CoV-2による肺炎に対する治療法の開発に貢献すると考えられます。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)、JSPS科研費、光科学技術研究振興財団、内藤記念科学振興財団、日本呼吸器財団の助成を受けて成されました。
Minetaro Arita and Masae Iwai-Itamochi
Scientific reports, 12:16074, 2022
https://doi.org/10.1038/s41598-022-20544-6
小児麻痺(ポリオ)流行に対する集団免疫を評価・維持するために、ポリオウイルスに対する中和抗体の保有率調査が行われています。近年ポリオウイルスの管理基準が厳格になり、感染性のウイルスを用いる従来の中和抗体価測定試験が制限されつつあり、新しい方法論が模索されています。 国立感染症研究所では、従来法の代替法として、感染性のウイルスを使わない中和試験法(疑似ウイルス法)を開発しています。疑似ウイルス法では、感染性のウイルスが産生されないため、ウイルスが新たに伝播するリスクがありません。しかし、多くの検体を測定するための条件の確立(ハイスループット化)が課題でした。
今回、国立感染症研究所と富山県衛生研究所との共同研究により、一日当たりおよそ300検体を測定が可能な疑似ウイルス法が確立されました。この成果は、厳格なウイルス管理条件の下で中和抗体保有率調査を継続できる見通しを与えるものと期待されます。
Ayaka Washizaki, Asako Murayama, Megumi Murata, Tomoko Kiyohara, Keigo Yato, Norie Yamada, Hussein Hassan Aly, Tomohisa Tanaka, Kohji Moriishi, Hironori Nishitsuji, Kunitada Shimotohno, Yasumasa Goh, Ken J. Ishii, Hiroshi Yotsuyanagi, Masamichi Muramatsu, Koji Ishii, Yoshimasa Takahashi, Ryosuke Suzuki, Hirofumi Akari, Takanobu Kato.
Nature Communications. (2022) 13:5207.
現在、国内ではS-HBs抗原を用いたHBワクチンが使用されている。このワクチンは感染中和抗体の誘導が可能であり、副反応の少ない優れたワクチンであるが、感染中和エピトープに特定の変異を持つHBV株では、このワクチンでは感染阻止できないものがあることが知られている。そこで、HBVの感染レセプターへの結合領域を持つL-HBs抗原を用いて新規HBワクチンを開発した。霊長類モデルを用いた接種実験により、このワクチンではHBVのレセプターへの結合領域内のエピトープに対する抗体が誘導された。さらに従来のHBワクチンでは感染阻止が難しいワクチンエスケープ変異株についても感染阻止が可能であった。この新規HBワクチンを現行のHBワクチンと併せて使用することにより、従来のHBワクチンのみでは対応できない多くのHBV株に対する感染予防が期待できる。