Takeshi Arashiro, Yuzo Arima, Hirokazu Muraoka, Akihiro Sato, Kunihiro Oba, Yuki Uehara, Hiroko Arioka, Hideki Yanai, Jin Kuramochi, Genei Ihara, Kumi Chubachi, Naoki Yanagisawa, Yoshito Nagura, Yasuyuki Kato, Akihiro Ueda, Akira Numata, Hideaki Kato, Koji Ishii, Takao Ooki, Hideaki Oka, Yusuke Nishida, Ashley Stucky, Chris Smith, Martin Hibberd, Koya Ariyoshi, Motoi Suzuki
Clinical Infectious Diseases doi: 10.1093/cid/ciac635
新型コロナワクチンの有効性においては、免疫の減衰や免疫逃避能をもつ変異株の出現が懸念されている。そこで、国内16医療機関の協力のもと、症例対照研究を実施し、有効性(発症予防効果)を検討した。推定された有効率は、デルタ株流行期においては、2回接種後14日-3ヶ月では88%(95%信頼区間(CI)82-93)、2回接種後3-6ヶ月では87%(95%CI 38-97)であった。オミクロン株(BA.1/BA.2)流行期においては、2回接種後14日-3ヶ月では56%(95%CI 37-70)、2回接種後3-6ヶ月では52%(95%CI 40-62)、2回接種後6ヶ月以降では49%(95%CI 34-61)であった。3回(ブースター)接種後14日以降では74%(95%CI 62-83)まで回復した。重症化リスクの高い者(65歳以上または基礎疾患あり)に限定した解析およびマスク着用状況とリスク行動の有無でさらに調整した解析においても、結果は同様であった。
Takeshi Arashiro, Yuzo Arima, Ashley Stucky, Chris Smith, Martin Hibberd, Koya Ariyoshi, and Motoi Suzuki
Emerg Infect Dis. 2022 Sep doi: 10.3201/eid2809.220300
新型コロナワクチンの接種意向と相関する社会・行動因子を検討する目的で、マーケティングリサーチ会社のアンケート調査結果を後ろ向きに解析した。ワクチン接種済みの者・接種意向のある者と比較して、接種意向のない者は、自分・家族が感染する不安や他人を感染させる不安、病床逼迫への不安が全くないと答えるオッズおよび、マスクの着用・手指衛生等の感染対策を実施していないオッズが高かった。一方で、直近1週間に友人・知人・家族に会いに行った、外食に行った、遊びに行ったと答えるオッズに違いはなかった。よって、ワクチン接種済みの者・接種意向のある者と比較して、接種意向のない者は、感染の不安が少なく感染対策をしていない傾向があり、直近の行動歴からも、新型コロナウイルスに曝露するリスクは同等〜より高い可能性が示唆された。
Saso W, Yamasaki M, Nakakita S, Fukushi S, Tsuchimoto K, Watanabe N, Nongluk S, Kanie O, Muramatsu M, Takahashi Y, Matano T, Takeda M, Suzuki Y, Watashi K
PLoS Pathog 18(6): e1010590 (2022)
doi: 10.1371/journal.ppat.1010590
約20年前に流行したSARSコロナウイルス(SARS-CoV)と比較して、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の世界での感染者は桁違いに多く、その強い伝播力のメカニズム解明が求められる。本研究では、SARS-CoV-2は宿主細胞のシアロ糖鎖を利用して効率的な感染と伝播を可能とすることを示した。SARS-CoV-2スパイクS1サブユニットはα2-6結合型シアロ糖鎖に直接結合し、これによって宿主受容体ACE2と効率よく相互作用した。一方でシアル酸のSARS-CoV感染への影響はほとんど見られなかった。α2-6結合型シアル酸含有化合物はSARS-CoV-2感染を特異的に強く阻害することが明らかとなった。本研究成果は、SARS-CoV-2の効率良い伝播を説明する新たな分子機構を提唱するものである。
Park H, Iwamoto M, Yun JH, Uchikubo-Kamo T, Son D, Jin Z, Yoshida H, Ohki M, Ishimoto N, Mizutani K, Oshima M, Muramatsu M, Wakita T, Shirouzu M, Liu K, Uemura T, Nomura N, Iwata S, Watashi K, Jeremy R. H. Tame, Nishizawa T, Lee W, Sam-Yong Park
Nature
doi:https://doi.org/10.1038/s41586-022-04857-0
B型およびD型肝炎ウイルス(HBV、HDV)は肝細胞表面の、胆汁酸輸送体NTCP/SLC10A1に吸着することで感染を開始するが、その立体構造については長らく不明であった。本研究ではクライオ電子顕微鏡単粒子解析によりNTCPの立体構造を解明し、そのウイルス感染における各アミノ酸の役割を明らかにした。NTCPは、これまでに知られる近縁の胆汁酸輸送体とは異なり、9本の膜貫通αヘリックスからなり、各領域の位置や向きが変化することで胆汁酸とナトリウムを輸送することが示唆された。またウイルスとの結合には、第一膜貫通ヘリックスに存在する、27, 31, 35番のロイシンが重要であることが明らかになった。これらの結果は今後、HBV/HDVの感染機構の理解だけでなく、構造情報を基にした合理的薬剤設計を可能とする革新的な情報である。
Kobayashi C, Watanabe Y, Oshima M, Hirose T, Yamasaki M, Iwamoto M, Iwatsuki M, Asami Y, Kuramochi K, Wakae K, Aizaki H, Muramatsu M, Sureau C, Sunazuka T, Watashi K
Viruses 14(4): 764 (2022)
doi:https://doi.org/10.3390/v14040764
B型およびD型肝炎ウイルス(HBV/HDV)は世界にそれぞれ2億9000万人、1500万人に慢性感染する公衆衛生上重大な病原体であるが、完治可能な治療薬は存在しない。本研究では北里大学との共同研究で、真菌由来天然化合物をスクリーニングし、Exophillic acidが抗HBV/HDV活性を持つことを見出した。この化合物はHBVおよびHDVが細胞に吸着する際に用いる侵入受容体ナトリウムタウロコール酸共輸送体(NTCP/SLC10A1)と直接結合して、ウイルスとNTCPの吸着を阻害することが明らかとなった。またExophillic acidは既存薬ラミブジンおよびエンテカビルに耐性のHBVにも感染阻害効果を持つことが分かった。以上より、この化合物は新しいHBVおよびHDVの治療薬開発に有用であると期待される。