Kyoko Saito, Kentaro Shimasaki, Masayoshi Fukasawa, Ryosuke Suzuki, Yuko Okemoto-Nakamura, Kaoru Katoh, Tomohiko Takasaki, Kentaro Hanada
Virus Research Volume 322, December 2022, 198935.
https://doi.org/10.1016/j.virusres.2022.198935
黄熱は、黄熱ウイルス(YFV)が引き起こす蚊媒介性感染症で、有効なワクチンがありますが、特異的な治療薬はありません。私達は、YFV(17D株)のゲノムRNA上の構造遺伝子を蛍光タンパク質の遺伝子に置換したレプリコンを作製してサル腎由来Vero 細胞に導入し、レプリコンが持続的に複製される‘レプリコン細胞’を樹立しました。この細胞では、蛍光強度でレプリコン複製の度合を知ることが可能で、実際に、YFV増殖を阻害する薬剤によって、レプリコン細胞の蛍光が低下することが確認されました。また、レプリコン細胞とYFV感染細胞における複製タンパク質および複製中間体・二本鎖RNAの分布は類似していました。以上の結果は、レプリコン複製が感染細胞のゲノム複製を模倣していることを示しており、レプリコン細胞は抗YFV薬や宿主因子の探索に有用であると考えられました。
本研究はJSPS、AMED等の支援を受け、感染研・産総研・神奈川衛研が行いました。
Shiota T, Matsuda M, Zheng X, Nagata N, Ishii K, Suzuki R, Muramatsu M, Takimoto K, Hanaki K, Lemon SM, McGivern DR, Hirai-Yuki A
J Virol. 2022 Nov 10 https://journals.asm.org/doi/10.1128/jvi.01496-22
A型肝炎は世界で年間140万人の患者が発生し、2016年には7千人が死亡した重大な疾病です。典型的な急性ウイルス性肝炎で、多くは一過性で終りますが、一部の患者で糞便中へのウイルス排出の再開を伴う再燃が報告されています。肝臓からのA型肝炎ウイルス(HAV)排除機構はわかっていません。国立感染症研究所とノースカロライナ大学の共同研究で、HAV感染マウスでは肝炎と糞便中へのウイルス排出の終息後も肝臓ではウイルスRNAが長期間複製し続け、この時期のウイルスの制御にはマクロファージが必須であることが明らかになりました。この新しい知見は肝炎ウイルスが肝臓から最終的に排除される仕組みの解明に貢献するものです。
本研究は、日本医療研究開発機構、米国国立衛生研究所、日米医学協力計画の支援を受けて実施されました。
続きを読む: インターフェロン受容体欠損(Ifnar1-/-)マウスにおいて急性A型肝炎の終息後にマクロファージを欠乏させると、糞便中へのウイルス排出が再開する
Minetaro Arita
Viruses, 2022, 14:2672, https://doi.org/10.3390/v14122672
宿主細胞のタンパク質OSBPは、コレステロールを小胞体からウイルス複製膜に輸送することでウイルスの複製を促進していると考えられています。しかし、その機能には不明な点が多く、必要とされる領域も同定されていません。今回、最近開発された新規OSBP活性解析法(Kobayashi J et al., ACS Infect Dis, 2022)を用いて、ポリオウイルスの複製に必要とされるOSBPの領域を解析しました。結果、リガンド結合領域とリン脂質に結合する領域は予想通りウイルスの複製に必要でしたが、驚いたことに小胞体への結合に必要な領域(FFATモチーフ)は必要ではありませんでした。今回得られた知見は、OSBPのウイルス感染細胞における脂質の輸送方法の解明につながることが期待されます。
Yoshio Mori, Masafumi Sakata, Shota Sakai, Toru Okamoto, Yuichiro Nakatsu, Shuhei Taguwa, Noriyuki Otsuki, Yusuke Maeda, Kentaro Hanada, Yoshiharu Matsuura, Makoto Takeda
mBio, 8 Nov, 2022(URL: https://doi.org/10.1128/mbio.01698-22)
国立感染症研究所(ウイルス第三部、細胞化学部、品質保証・管理部)と大阪大学微生物病研究所の共同研究により、風疹ウイルスの細胞侵入において宿主細胞のスフィンゴミエリン合成酵素(SMS)の酵素活性が決定的な役割を果たすことが明らかになりました。SMSが欠損した細胞では、風疹ウイルスのエンベロープ膜と宿主のエンドソーム膜の融合がヘミフュージョンの段階で停止し、ウイルスゲノムの細胞質への放出が著しく抑制されることが示されました。このことはウイルス感染における宿主膜の脂質構成の役割について新たな知見を与えるものです。
本研究は、日本医療研究開発機構、文部科学省、日本学術振興会、大阪大学微生物病研究所の支援を受けて実施されました。
続きを読む: 風疹ウイルスの侵入過程におけるヘミフュージョン後のヌクレオキャプシドの細胞質への放出に、宿主膜のスフィンゴミエリンが必須である
Kajihara T, Yahara K, Yoshikawa M, Haruta A, Kawada-Matsuo M, Le NT M, Arai C, Takeuchi M, Kitamura N, Sugawara Y, Hisatsune J, Kayama S, Ohta K, Tsuga K, Komatsuzawa H, Ohge H and Sugai M
Gerontology. 2022: Oct 6;1-12.
長期療養施設(介護老人保健施設(保健施設)、特別養護老人ホーム(特養))は、JANIS等のサーベイランスが及んでおらず、薬剤耐性の実態が不明であり、国の薬剤耐性アクションプランにおける動向調査の強化対象となっている。保健施設3施設と特養3施設の入所者計178名の口腔と直腸の耐性菌保菌調査を行った。検出菌の全ゲノム解析を行い、経過の追えた146名の臨床情報・予後との関連を解析した。その結果、入所者の便検体の42.7%(保健施設28.4%, 特養51.4%)からESBL産生菌が分離された。また、ESBL産生菌と緑膿菌の分離頻度は経腸栄養実施者で有意に高かった。さらに、予後との関連解析の結果、ESBL産生菌の保菌は死亡率と関連しない一方、緑膿菌の保菌は有意に死亡率と関連することが明らかになった。
Naoko Iwata-Yoshikawa1, Masatoshi Kakizaki1, Nozomi Shiwa-Sudo, Takashi Okura, Maino Tahara, Shuetsu Fukushi, Ken Maeda, Miyuki Kawase, Hideki Asanuma, Yuriko Tomita, Ikuyo Takayama, Shutoku Matsuyama, Kazuya Shirato, Tadaki Suzuki, Noriyo Nagata*, Makoto Takeda*(1 equal contribution, * corresponding authors)
Nature Communications (Published online 15 October 2022)
https://doi.org/10.1038/s41467-022-33911-8
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、ウイルス粒子表面のスパイク蛋白の働きによって細胞に吸着し、ウイルスの膜と細胞の膜とを融合させることで感染します。ただし、このスパイク蛋白がこのような働きをするためには、感染しようとする細胞がもつ蛋白分解酵素の力が必要です。しかし、蛋白分解酵素には沢山の種類があり、SARS-CoV-2が気道の細胞に感染して、肺炎を起こす時に働いている蛋白分解酵素が何であるのかは、はっきりとはしていませんでした。国立感染症研究所のウイルス第三部(竹田誠部長:現在東京大学医学部微生物学教授)、感染病理部の永田典代室長らを中心とした研究チームでは、気道の上皮に発現しているTMPRSS2と呼ばれる蛋白分解酵素に注目して研究を進めてきました。マウスにおけるTMPRSS2の遺伝子を人為的に欠損させると、SARS-CoV-2は、その個体の鼻腔や肺の中で増殖することができなくなり、肺炎などの病気を起こすことができなくなりました。この成果は、TMPRSS2がSARS-CoV-2による肺炎の発症に非常に重要であることを示しています。そして、この成果は、SARS-CoV-2による肺炎に対する治療法の開発に貢献すると考えられます。
本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)、JSPS科研費、光科学技術研究振興財団、内藤記念科学振興財団、日本呼吸器財団の助成を受けて成されました。