国立感染症研究所

 ISO/IEC 17025認定とは、ISO/IEC 17025「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項」の国際規格に基づいて認定機関が審査を行い、試験所が当該基準を満たす能力を有することを認定するものです。

 

 当所は、医薬品医療機器法施行規則で生物学的製剤の唯一の国家検定機関として指定されており、我が国の生物学的製剤(ワクチン、血液製剤など)の品質管理を一手に担っています。妥当な試験結果を生み出す能力があることを第三者が認定するISO/IEC17025の取得は、日本の生物学的製剤の品質を保証するために非常に重要と考えられます。国際的にも、生物学的製剤の品質管理を行う機関はISO/IEC17025認定を取得することが強く推奨されています。

 

 今般、公益財団法人日本適合性認定協会(JAB)にISO/IEC17025認定審査を依頼し、2段階の審査を経て2023年9月19日に認定を取得しました。生物学的製剤の国家検定業務を遂行するに当たり、今後も国際基準を満たす信頼性の高い技術力及び品質マネジメントシステムを維持し、国民の皆様に安全で有効なワクチンや血液製剤を供給していく所存です。

 

 認定証(日本語)

 認定証(英語)

 

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Rapid and sensitive on-site detection of SARS-CoV-2 RNA from environmental surfaces using portable laboratory devices

Kouichi Kitamura, Minami Kikuchi Ueno, Hiromu Yoshida

Microbiology Spectrum, e00456-23, 2023

感染者のくしゃみ等で排出されテーブルなど物体表面に付着した新型コロナウイルスは、感染性が失われたあともウイルスRNAとして長期に残ることが報告されています。本研究では、物体表面上のウイルスRNAをポータブル機器のみで検出する手法の検討を行いました。その結果、疑似ウイルス拭き取り検体溶液をモバイル型リアルタイムPCR機でそのまま検査する直接検出法と、ポータブル実験機器によりRNA抽出を行う高感度検出法を開発しました(下図)。これらのオンサイトPCR検査技術は、検査ラボへのアクセスが困難な施設などでのリスク評価および早期感染対策への活用が期待できます。

本研究は、厚労省科研費、AMEDの研究支援を受け実施しました。

epi 2023 02
Protective effect of previous infection and vaccination against reinfection with BA.5 Omicron subvariant: a nationwide population-based study in Japan

Noriko Kitamura, Kanako Otani, Ryo Kinoshita, Fangyu Yan, Yu Takizawa, Kohei Fukushima, Daisuke Yoneoka, Motoi Suzuki, Taro Kamigaki

Lancet Regional Health – Western Pacific
DOI: 10.1016/j.lanwpc.2023.100911

SARS-CoV-2のオミクロン変異株は、免疫逃避能を持つことが知られる。ワクチン及び既感染から得られる免疫の理解は、効果的な感染制御戦略につながる。2022年9月25日までにHER-SYSに登録された全症例を対象にBA.5再感染に対する先行感染の予防効果を症例人口対照研究を用いて推定した。再感染予防効果は、武漢株で46%、アルファ株で35%、デルタ株で41%、BA.1/BA.2亜型で74%であった。さらに、年齢、性別、先行感染の変異株、および最終ワクチン接種からの期間で調整したコックス比例ハザードモデルにより推定されたワクチン接種の再感染予防効果は、1回接種と比較して、2回、3回、4回接種でそれぞれ7%、33%、66%であった。本研究により、過去に感染した集団における将来の再感染予防には、効果が持続する期間内でのワクチン追加接種が推奨されうることが示唆された。

imm 2023 02
Structural basis for cross-group recognition of an influenza virus hemagglutinin antibody that targets postfusion stabilized epitope

Keisuke Tonouchi, Yu Adachi, Tateki Suzuki, Daisuke Kuroda, Ayae Nishiyama, Kohei Yumoto, Haruko Takeyama, Tadaki Suzuki, Takao Hashiguchi, Yoshimasa Takahashi

PLoS Pathogens, 2023 Aug; 19(8): e1011554. | doi; 10.1371/journal.ppat.1011554

インフルエンザウイルスの抗原変異に対応可能な交差防御抗体に注目が集まり、その誘導を目的とした新規ワクチンの開発が世界的に進められています。しかし、A型インフルエンザには遺伝子系統的に大きく異なる2つのグループの株が存在しており、両グループに有効な交差防御抗体を誘導できるワクチンの実現には至っておりません。

当センターでは、先行研究により複数のヒト交差抗体の単離に成功しており、本研究では2つのグループを跨いだ交差防御能を示す優れた抗体が存在することを見出しました。抗体-抗原複合体の結合様式について構造解析を行った結果、ウイルス感染時に生じる特殊なヘマグルチニン抗原部位を標的とした抗体であることを明らかにしました。

本研究で見出した新しい抗体と抗原部位に関する情報は、今後、抗原変異に対応可能な新しいワクチンの開発に活用されます。

HTLV-1 Proliferation after CD8+ Cell Depletion by Monoclonal Anti-CD8 Antibody Administration in Latently HTLV-1-Infected Cynomolgus Macaques

Nakamura-Hoshi M, Nomura T, Nishizawa M, Hau TTT, Yamamoto H, Okazaki M, Ishii H, Yonemitsu K, Suzaki Y, Ami Y, Matano T

Microbiol. Spectr., 11, e0151823, 2023

ヒトT細胞白血病ウイルス1型(HTLV-1)は慢性潜伏感染を引き起こす。潜伏感染者体内でプロウイルスは検出されるが、ウイルス複製・増殖は認められない。本研究ではHTLV-1感染カニクイザルモデルを構築し、慢性感染下でのモノクローナル抗CD8抗体投与によるCD8陽性細胞枯渇実験でプロウイルス量と抗HTLV-1抗体価の上昇が起きることを明らかにした。本結果はCD8陽性細胞非存在下で潜伏感染状態からHTLV-1増殖が可能であることを示しており、HTLV-1複製・増殖抑制にCD8陽性細胞が中心的役割を担っていることを示すevidenceを提供するものである。

Potential Anti-Mpox Virus Activity of Atovaquone, Mefloquine, and Molnupiravir, and Their Potential Use as Treatments

Akazawa Da, Ohashi Ha, Hishiki Tb, Morita Tb, Iwanami Sc, Kim KSc, Jeong YDc, Park ES, Kataoka M, Shionoya K, Mifune J, Tsuchimoto K, Ojima S, Azam AH, Nakajima S, Park H, Yoshikawa T, Shimojima M, Kiga K, Iwami S, Maeda K, Suzuki T, Ebihara H, Takahashi Y, Watashi K (abcequally contributed)

The Journal of Infectious Diseases
Mar 9 (2023) Online ahead of print
doi: 10.1093/infdis/jiad058

2022年5月に国際的アウトブレイクが発生したエムポックスに対しては、国内で承認された治療薬が存在しない。本研究では抗ウイルス・抗真菌・抗寄生虫/原虫薬を含む132種の既承認薬のエムポックスウイルスへの効果を感染細胞系で検証し、経口投与可能な高活性化合物3種を見出した。メフロキンはウイルスの細胞侵入を、アトバコンおよびモルヌピラビルはウイルス複製を阻害すると考えられた。これらの抗ウイルス活性と、既知の臨床薬物動態、感染患者の血中ウイルス量情報を基にした数理モデル解析より、特にアトバコンが最も臨床で抗ウイルス効果が期待できると推定された。アトバコンは核酸生合成酵素であるDHODHの活性を阻害することで抗ウイルス活性を示すと示唆された。本研究成果はエムポックス治療薬創出に有用な知見を提供するものである。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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