2012年第24週(第24号)*5月報含む  

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(6月11日~6月17日)発生動向総覧 /注目すべき感染症麻しん・風しん2012年第1~24週)/病原体情報(ヒトから検出されているVero毒素産生性大腸菌2012年)/速報(大阪府におけるA群ロタウイルスの検出状況、2012年4~6月)/海外感染症情報(インフルエンザ) 〔2012年6月29日発行〕

エンテロウイルス

無菌性髄膜炎由来ウイルス

週別

都道府県別

EV71&CA16

週別EV71&CA16

週別比較EV71&CA16

都道府県別

    EV71
    CA16

週別比較EV71&CA16

都道府県別診断名別

    EV71

アデノウイルス

月別

    2007-2011
    2002-2006
    1997-2001

咽頭結膜熱由来ウイルス

週別

都道府県別

年別

    2007-2011
    2003-2007
    1997-2002

流行性角結膜炎由来ウイルス

週別

年別

    2007-2011
    2003-2007
    1997-2002

 

インフルエンザウイルス

都道府県別

都道府県別・週別

    2010/2011
    AH1pdmAH1
    AH3
    B合計
    Bビクトリア系統B山形系統
    2009/10
      AH1pdmAH1
      AH3
      B合計
      Bビクトリア系統B山形系統
      2008/09
      AH1pdmAH1
      AH3B
      2007/08
      AH1AH3B
      2006/07
      AH1AH3B
      2005/06
      AH1AH3B
      2004/05
      2003/04
      2002/03
      2001/02
      2000/01
      1999/2000

    週別

    SRSV(ノロウイルス、サポウイルス)&ロタウイルス

    都道府県別

    週別

    SRSVの内訳

    ロタの内訳

    食品媒介胃腸炎集団発生事例

    週別

     

     

     

    ※PDF版よりピックアップして掲載しています。

     

    2012年第23週(第23号) 

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    (6月4日~6月10日)発生動向総覧 /注目すべき感染症(腸管出血性大腸菌感染症)/病原体情報(麻疹ウイルス2012年)/速報(A群ロタウイルスによる胃腸炎集団事例発生状況-千葉県) 〔2012年6月22日発行〕

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    生のヒラメを原因としたKudoa septempunctata による食中毒事例-奈良市

    (IASR Vol. 33 p. 152-153: 2012年6月号)

     

    本事例は、奈良県内において生のヒラメを原因とするKudoa septempunctata (以下、クドア)による食中毒として断定した初めての事例であり、疫学調査と検査成績から一定の知見を得たので報告する。

    概 要
    2011(平成23)年10月3日に原因施設から連絡を受け食中毒調査を開始した。その結果、当該施設が10月1日の昼食として調製した弁当等を喫食した2組20名のうち14名が、10月1日14時を初発として嘔気、嘔吐、発熱、下痢等の症状を呈したことがわかった。また、原因施設に保管されていたヒラメの切り身(患者らに造り等として提供したヒラメと同一個体のもの。以下同じ)および喫食残品の生のヒラメからクドア胞子を検出し、患者4名の糞便からクドアの18S rRNA遺伝子を検出した。

    発症状況
    患者14名は嘔気、嘔吐、発熱、下痢を主症状とし、当該食事を起点とした潜伏期間は3~7.5時間(中央値5.5時間)と短いのが特徴であった(表1表2)。主な初期症状は、嘔気、嘔吐、腹痛であり、続いて下痢、発熱の症状を呈した。嘔吐および下痢の症状の平均持続時間は、それぞれ 3.4時間、 6.1時間と短く、比較的軽症であった(表2)。

    検査方法
    クドアの検査については、大阪府立公衆衛生研究所および国立医薬品食品衛生研究所に依頼した。食品検体(ヒラメ、マグロ、カンパチ、サーモン)のうち、ヒラメについては大阪府立公衆衛生研究所により顕微鏡検査と遺伝子検査を実施し、マグロ、カンパチ、サーモンについては国立医薬品食品衛生研究所により顕微鏡検査を実施した。また、患者糞便検体については大阪府立公衆衛生研究所により遺伝子検査を実施した。なお、遺伝子検査は大阪府立公衆衛生研究所により報告された方法1) を用いた。

    検査結果
    原因施設に保管されていたヒラメの切り身および喫食残品の生のヒラメからクドア胞子(1.1×107個/g)およびその18S rRNA遺伝子が検出された。一方、ヒラメ以外の生のマグロ、カンパチおよびサーモンでは、クドア胞子は検出されなかった(表3)。患者9名のうち4名の糞便からクドアの18S rRNA遺伝子が検出され、そのCycle threshold (Ct)値は36.26~40.69であった。また、クドアを検出した患者4名における当該食事の喫食から糞便検体採取までの期間は、2.5~3.9日(中央値3日)であった。

    ヒラメの喫食状況およびクドア胞子の摂取量
    患者1名当たり少なくとも15~16g以上のヒラメの喫食が認められた。この喫食量からクドア胞子の摂取量を概算すると、患者1名当たり摂取胞子数は1.7×108個~5.8×108個(中央値1.7×108個)であった。この結果は、2010(平成22)年10月に発生した特定の養殖ヒラメの喫食を原因とする食中毒事例より推定されたクドア胞子の最少摂取量(7.2×107個)2) を上回るものであった。

    ヒラメの販売系統の調査
    汚染経路の追及としてヒラメの販売系統の調査をした結果、患者らに提供のあったのは輸入された養殖ヒラメであることを確認した。なお、養殖業者および養殖場については特定できなかった。

    考 察
    本事例は、患者の喫食状況と発症状況からクドアによる食中毒が疑われ、生のヒラメと患者糞便からクドア胞子あるいはクドア遺伝子が検出されたこと、また、他の食中毒菌等の検査結果から病因物質を特定できる状況はなかったことから、クドアを病因物質とする食中毒と断定した。生のヒラメによる食中毒は、クドアの関与が強く示唆されているものの、発症機序、症状の発現状況および最小発症量等のデータが十分ではないことから、クドアを病因物質として特定するにあたって他の食中毒菌等の検査結果を考慮する必要がある。このような状況のもと、クドアの糞便の検査を実施したことによって病因物質の早急な特定につながったことは、食品衛生上の危害の拡大を防止するうえで非常に有益であった。また、クドアの予防策として養殖段階における保有稚魚の排除等の対応を検討するにあたって、輸入者等はロットごとにヒラメの養殖場を特定できる生産履歴等の書類を保管し、流通の各段階では、異なる養殖場のヒラメを混同しないよう管理していくことが重要であると考えた。

    謝辞:本事例に関して、クドアの検査にご協力いただいた大阪府立公衆衛生研究所および国立医薬品食品衛生研究所の各位に深謝いたします。

     

    参考文献
    1) Harada T, et al ., Int J Food Microbiol 156: 161-167, 2012
    2)薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食中毒・乳肉水産食品合同部会資料2(平成23年4月25日開催)

    奈良市保健所
    安宅弘充 小泉拓也 中川昌子 田中敬大 藤橋和生 菅 雪恵 山口武彦 河辺隆雄 松本善孝

    Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan