Env-independent protection of intrarectal SIV challenge by vaccine induction of Gag/Vif-specific CD8+ T cells but not CD4+ T cells

Ishii H, Terahara K, Nomura T, Okazaki M, Yamamoto H, Shu T, Sakawaki H, Miura T, Watkins DI, Matano T.

 Mol. Ther. 30: 2048-2057, 2022

ワクチン抗原至適化はHIVワクチン開発において重要であり、HIVの優先的な感染標的であるHIV特異的CD4陽性T細胞の誘導を抑制することは有望な戦略の一つである。本研究では、SIV Gag・Vifを標的とする特異的CD4陽性T細胞を誘導せずに特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導する新規抗原(TC11)を発現するワクチンについて、動物モデルにおけるSIV経直腸感染防御効果を解析した。低用量SIV経直腸反復チャレンジ実験の結果、ワクチン接種群では12頭中8頭で感染が防御され、ワクチン非接種群と比べて有意な感染防御効果を示した。本研究成果は、多様性の高い表面抗原Envを用いないHIVワクチンで初めて粘膜感染防御効果を示したものであり、本抗原設計を活用したHIVワクチン開発の進展が期待される。

Sendai virus particles carrying target virus glycoproteins for antibody induction

Ishii H, Nakamura-Hoshi M, Shu T, Matano T.

 Vaccine. 40: 2420-2431, 2022

ウイルス表面膜蛋白質を標的とした抗体誘導はワクチン開発における重要な戦略であるが、エンベロープウイルスによっては表面膜蛋白抗原構造を維持したワクチン設計が課題となる場合がある。本研究では、HIVおよびヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)由来の表面膜蛋白質(Env)を用いた新規抗原EnvFを構築し、EnvF抗原を搭載するセンダイウイルス(SeV)粒子ワクチンを開発した。EnvF抗原はSeV粒子に効率的に取り込まれるとともに、Env三量体構造を認識する抗HIV中和抗体により認識され、EnvFが三量体抗原標的を提示しうることを明らかにした。また、動物実験で、EnvF発現SeVおよびEnvF搭載SeV粒子の接種により抗Env抗体が効率的に誘導されることを明らかにし、本プラットフォームがウイルス感染症に対する抗体誘導ワクチン開発において有用であることを示した。

Neutralizing-antibody-independent SARS-CoV-2 control correlated with intranasal-vaccine-induced CD8+ T cell responses

Ishii H, Nomura T, Yamamoto H, Nishizawa M, Hau TTT, Harada S, Seki S, Nakamura-Hoshi M, Okazaki M, Daigen S, Kawana-Tachikawa A, Nagata N, Iwata-Yoshikawa N, Shiwa N, Suzuki T, Park ES, Maeda K, Onodera T, Takahashi Y, Kusano K, Shimazaki R, Suzaki Y, Ami Y, Matano T.

 Cell Rep. Med. 3: 100520, 2022

現行の新型コロナワクチンは、スパイク抗原(S)に対する中和抗体反応誘導を目的とするものであるが、中和抗体抵抗性S変異株の出現によりワクチン有効性が半減することが問題となっている。T細胞誘導効果も期待されているが、その感染制御効果は明らかとなっていなかった。本研究では、動物実験にて、S以外の抗原(N、M、E)を発現する経鼻ワクチンの新型コロナウイルス感染制御効果を解析した。その結果、ワクチン接種群では、経鼻チャレンジ後の鼻咽頭ぬぐい液中ウイルス量が有意に低下し、その感染制御効果はワクチン誘導CD8陽性T細胞反応と相関することが明らかとなった。本研究成果は、ワクチン誘導CD8陽性T細胞の新型コロナウイルス感染制御効果を初めて示すものであり、S変異株に対するワクチン開発に結びつくことが期待される。

A lethal mouse model for evaluating vaccine-associated enhanced respiratory disease during SARS-CoV-2 infection

Iwata-Yoshikawa N, Shiwa N, Sekizuka T, Sano K, Ainai A, Hemmi T, Kataoka M, Kuroda M, Hasegawa H, Suzuki T, Nagata N

 Science Advances Volume 8, Issue 1, January 2022

COVID-19のワクチン開発における安全上の懸念の1つに「ワクチン関連呼吸器疾患増強現象」が挙げられますが、これは感染動物モデルにおいて好酸球性の免疫病理として特徴付けられており、Th2に偏った免疫応答と感染防御に不十分な中和抗体誘導に起因するとされています。今回研究グループは、SARS-CoV-2マウス継代株を用いて、感染動物モデルを確立し、新規ワクチンの有効性とワクチン関連呼吸器疾患増強現象のリスクを検証するための新しい評価系を開発いたしました。近交系マウスを用いるこの評価系の利点としては、免疫から感染に至る一連の宿主応答に関するTh1/Th2バランス等の免疫学的評価、SARS-CoV-2抗原特異的抗体価と中和抗体価等の評価を容易にし、さらに、感染後の疾患増強のリスク評価が可能となったことが挙げられます。よって、この感染動物モデルは現在までに進められてきたCOVID-19ワクチン開発において、その設計思想が正しいことを証明するだけでなく、さらには安全性の高い次世代COVID-19ワクチン開発や新規治療法開発、COVID-19の病態を理解する上で新しい知見をもたらすことが期待されます。

本研究は、AMEDの研究支援を受けて実施いたしました。

Nasal alum-adjuvanted vaccine promotes IL-33 release from alveolar epithelial cells that elicits IgA production via type 2 immune responses

Eita Sasaki, Hideki Asanuma, Haruka Momose, Keiko Furuhata, Takuo Mizukami, Isao Hamaguchi

PLoS Pathog. 2021 Aug 30;17(8):e1009890. doi: 10.1371/journal.ppat.1009890.

アルミニウム塩は、ワクチンの有効性を増強させる”アジュバント”と呼ばれる添加物として、古くから使用されている。しかしながら、粘膜免疫におけるアルミニウム塩による自然免疫活性化機構は十分に明らかにされてこなかった。

本成果では、経鼻接種ワクチンでアルミニウム塩が自然免疫を活性化する新しい分子機構として,肺胞上皮細胞の細胞死によって放出されるインターロイキン (IL)-33を介した免疫制御機構を見い出した。放出されたIL-33は、2型自然リンパ球や抗原提示細胞の活性化などにより、抗原特異的なIgA抗体産生を誘導することが明らかになった。これらの成果は、IL-33が経鼻ワクチンにおけるアジュバント作用に重要であることを示しており、今後のアジュバント設計における重要な知見となりうると考えられる。

A highly attenuated vaccinia virus strain LC16m8-based vaccine for severe fever with thrombocytopenia syndrome.

Tomoki Yoshikawa, Satoshi Taniguchi, Hirofumi Kato, Naoko Iwata-Yoshikawa, Hideki Tani, Takeshi Kurosu, Hikaru Fujii, Natsumi Omura, Miho Shibamura, Shumpei Watanabe, Kazutaka Egawa, Takuya Inagaki, Satoko Sugimoto, Supranee Phanthanawiboon, Shizuko Harada, Souichi Yamada, Shuetsu Fukushi, Shigeru Morikawa, Noriyo Nagata, Masayuki Shimojima, Masayuki Saijo

PLoS Pathog. 2021 Feb 3;17(2):e1008859.

我々は天然痘ワクチンとして承認されているワクシニアウイルス株LC16m8(m8)をベースとした重症熱性血小板減少症候群(SFTS)に対する生ワクチンの開発を試みました。

SFTSウイルスに感受性を示すトランスジェニックマウスにSFTSウイルスの核タンパク質遺伝子、エンベロープ糖蛋白質遺伝子を保持する組換えm8(m8-SFTS)を予め接種すると、その後のSFTSウイルスの致死的感染に対して100%生存しました。また、マウスに野生型のワクシニアウイルスを接種した後にm8-SFTSワクチンを接種しても、その後のSFTSウイルスの致死的感染に対して生存率は減少しますが有効でした。これらの結果より天然痘ワクチン接種経験の有無にかかわらず、m8-SFTSがヒトや伴侶動物などへ有効なSFTSワクチンとなる可能性を示唆する結果となります。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan