エンテロウイルスD68(EV-D68)感染症とは

(2015年10月22日掲載)  EV-D68はエンテロウイルス属のウイルスの一つである。エンテロウイルス属には、ポリオウイルスや、無菌性髄膜炎の原因となるエコーウイルスや手足口病の原因となりうるエンテロウイルス(EV)71型などが含まれる。エンテロウイルス属はさらに分子系統解析によりEnterovirus A~JおよびRhinovirus A〜C (species)に分類され、EV-D68はEnterovirus Dに属する...

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手足口病症例から検出されたEnterovirus D68―沖縄県

(IASR Vol. 44 p60-61: 2023年4月号)
 

Enterovirus D68(EV-D68)は主に小児で呼吸器疾患を引き起こし, 一部の小児では喘鳴や呼吸窮迫等のより重篤な下気道症状を生じることもある1,2)。2014年に米国で発生したEV-D68の大規模なアウトブレイクでは, 急性弛緩性麻痺(AFP)との関連性も報告されている3)。沖縄県では2022年に手足口病が流行し, 5月には6年ぶりに警報が発令されたことから, 当所では例年と比べ多くの病原体解析を実施した。手足口病はEnterovirus A71(EV-A71), Coxsackievirus A6(CV-A6), Coxsackievirus A10(CV-A10), Coxsackievirus A16(CV-A16)などが原因ウイルスとされているが, 当所において2022年10月に手足口病症例からEV-D68が複数検出されたため, その概要について報告する。

2022年1~12月までに小児科定点医療機関(病原体定点)で手足口病と診断された患者の咽頭ぬぐい液39検体について, 遺伝子解析とウイルス分離を実施した。遺伝子解析は国立感染症研究所・病原体検出マニュアルに基づき, エンテロウイルスVP1領域およびVP4-VP2領域を標的としたRT-PCRとシーケンスを行い, Enterovirus Genotyping Toolを用いて血清型を決定した。遺伝子解析の結果, CV-A6が16例, CV-A10が10例, CV-A16が9例, Rhinovirus(HRV)が8例, そしてEV-D68が4例検出された。EV-D68が検出された4例は沖縄県南部保健所および離島に所在する宮古保健所, 八重山保健所管内から届出があった症例で, うち3例は同時にCV-A6やCV-A10など, 他の病原体も検出された(図1)。EV-D68が検出された4例はすべて2歳以下で, 海外渡航歴は不明, 男性が1例, 女性が3例であった。臨床症状は38℃以上の発熱が3例, 口内炎が1例, 水疱・発疹が3例で, 通常の手足口病との症状の違いは特になかった。ウイルス分離は6種類の細胞(Vero9013, HEP-2, RD18S, A549, VeroE6, LLC-MK2)を用いて実施したが, EV-D68を分離することはできなかった。

手足口病症例からEV-D68が検出されたことから, 沖縄県南部保健所はEV-D68による小児重症呼吸器疾患の発生状況を把握するため, 感染症法に基づき積極的疫学調査を実施した。沖縄県南部医療センター・こども医療センターにおいて, 2022年10~12月にウイルス・細菌核酸多項目同時検出(BioFire® Film Array® 呼吸器パネル2.1)でRhinovirus/Enterovirusが陽性となった小児の重症呼吸器疾患4症例について手足口病と同様の病原体検査を行ったところ, 1例からEV-D68が検出された。

今回検出された5例のEV-D68とNCBI登録株について, 近隣接合法でVP1領域の系統樹解析を実施した結果, 今回検出の5例はすべてClade B3に分類され, 本県の株は東京よりも米国で検出された株に近縁であった(図2)。なお, 2014年に米国で発生したアウトブレイク時のAFPに関連するEV-D68はすべてClade B1であった3)

今回, 手足口病症例からEV-D68が立て続けに4例検出され, 同時期の重症呼吸器疾患症例からも1例検出された。合計5例から検出されたEV-D68は3カ所の異なる保健所管内の症例であったことから, 沖縄県内の広い範囲でEV-D68が流行していた可能性が考えられる。また, EV-D68と同時にCV-A6やCV-A10が検出された手足口病症例が4例中3例あったことから, EV-D68以外の病原体が手足口病の起因ウイルスである可能性も考慮する必要があるが, 前述の通りEV-D68は重症呼吸器疾患やAFPとの関連も指摘されているため, 引き続き動向に注意したい。

 

参考文献
  1. 谷口公啓ら, IASR 43: 290-291, 2022
  2. 是松聖悟ら, IASR 37: 31-33, 2016
  3. Greninger AL, et al., Lancet Infect Dis 15(6): 671-682, 2015
沖縄県衛生環境研究所      
 石津桃子 眞榮城徳之 岡野 祥 柿田徹也 久手堅 剛
 平良遥乃 高良武俊 照屋盛実 喜屋武向子
沖縄県南部医療センター・こども医療センター      
 張 慶哲           
沖縄県南部保健所        
 竹本のぞみ 上原健司

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan