国立感染症研究所

国立感染症研究所
2021年3月3日14:00時点

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要約

ウイルスのヒトへの感染性・伝播のしやすさや、すでに感染した者・ワクチン接種者が獲得した免疫の効果に影響を与える可能性のある遺伝子変異を有する複数の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株として、特にVOC-202012/01, 501Y.V2, 501Y.V3の流行が懸念されている。これら3つの変異株を本文書では"VOC"と総称する。いずれも感染性・伝播のしやすさに影響があるとされるN501Y変異を有するが、特にVOC-202012/01については、2次感染率の増加や、死亡リスクの増加の可能性が疫学データから示唆されている。501Y.V2と501Y.V3については、さらに抗原性に影響を与える可能性があるE484K変異も有する。特に501Y.V2については、過去の感染によって得られた免疫や承認されているワクチンによって得られた免疫を回避する可能性が指摘されており、暫定結果ではあるが数社のワクチンでは有効性の低下を認めている。さらには、VOC-202012/01にE484K変異が加わった株も報告されている。これらのVOCの感染者が世界各地から報告され、いくつかの国ではVOCがかなりの割合を占めつつある。

国内においても、VOCの感染者やクラスターの報告が増加しつつあり、VOC感染者の大半は渡航歴が無い。大都市圏を中心に緊急事態宣言が発出され新規感染者が減少傾向の中、VOCの感染者は増加傾向にあり、諸外国と同様に国内でもVOC-202012/01の占める割合が増加していく可能性がある。これらVOCはウイルスの感染・伝播性が増加している可能性があることから、主流株としてまん延した場合には、従来と同様の対策では、これまで以上の患者数や重症者数の増加につながり、医療・公衆衛生体制を急速に圧迫するおそれがある。国内でのまん延拡大防止のためには、入国者数の制限や検疫により、渡航者によるVOCの国内持ち込みを極力抑制する必要がある。加えて、国内対策を強化し、VOC感染者の早期検知と、特にVOCクラスターの迅速な封じ込め及び社会全体でのクラスター発生機会の抑制策を推奨する。ほか、まん延状況によっては外出自粛等のより強力な対策を行うことも選択肢となる。VOCの感染性が高まるメカニズムは明らかでない点が多いが、小児等を含めた感染・伝播性の実態に即して流行制御戦略を適合させていく必要がある。

VOCの分類について

2021年2月25日、WHOは「注目すべき変異株(Variants of Interest; VOI)」「懸念される変異株(Variants of Concern; VOC)」の暫定定義を以下の通り公表した(1)。

注目すべき変異株(Variants of Interest; VOI)

SARS-CoV-2分離株が以下の場合、注目すべき変異株(VOI)と定義

  • 標準株(reference isolate)と比較して表現型が変化しているか、表現型への影響に関連することが明らか又は疑われるアミノ酸の変化につながる突然変異を有するゲノムを有する場合 かつ
  • 市中における散発例/複数のCOVID-19症例/クラスターを引き起こすことが確認されているか、複数の国で検出されている場合 または
  • それ以外にWHO SARS-CoV-2ウイルス進化作業部会(Virus Evolution Working Group)へのコンサルテーションのもと、WHOによりVOIとしてアセスメントされる場合
懸念される変異株(Variants of Concern; VOC)

VOIが比較アセスメントにより以下と関連していることが実証された場合、懸念される変異株(VOC)と定義

以下のうちいずれかがみられる場合

  • 感染・伝播性の増加又はCOVID-19の疫学に有害な変化
  • 毒力(virulence)の増大又は臨床像の変化
  • 公衆衛生・社会的措置又は流通する診断法、ワクチン、治療薬の有効性の低下

又は

  • WHO SARS-CoV-2ウイルス進化作業部会(Virus Evolution Working Group)へのコンサルテーションのもと、WHOによりVOCとしてアセスメントされた場合

今後この定義に基づき、WHOによる変異株の命名が行われるが、本文書では従前の呼称を継続する。本文書では、「VOC」と総称する際には、WHOが現在VOCとして取り扱うVOC-202012/01, 501Y.V2, 501Y.V3を指すものとする。

概況(VOC-202012/01)

(発生の背景)
  • 英国では、12月上旬頃から、ロンドンを含むイングランド南東部で新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例の急速な増加に直面しており、疫学的およびウイルス学的調査を強化してきた(2)。そして、イングランド南東部で増加しているCOVID-19症例の多くが、新しい単一の系統に属していることが確認された(2,3)。
  • Nextstrain clade 20I/501Y.V1、GISAID clade GR、B.1.1.7系統に属するこの新規変異株は、Variant Under Investigation (VUI)-202012/01と命名されていたが、リスクアセスメントの結果、2020年12月18日にVariant of Concern (VOC)- 202012/01に変更となった(2, 4)。
  • VOC-202012/01には、23箇所の変異があり、スパイクタンパクの変異(deletion 69-70、deletion 144、N501Y、A570D、D614G、P681H、T716I、S982A、D1118H)とその他の部位の変異で定義される(2,4)。
  • スパイクタンパクの多くの変異数、英国でのウイルスゲノム解析が行われる割合(5-10%)、その他の新規変異株の特徴からは、この株は免疫抑制者等において一名の患者での長期的な感染で、免疫逃避による変異の蓄積が加速度的に起こった結果である仮説が考えられる(2)。一方で、ヒトから動物、動物からヒトに感染し変異した可能性やウイルスゲノム解析が(あまり)行われていない国において流行する中で、探知されないまま、徐々に変異が蓄積した可能性は否定的である(2)。
(疫学情報、ウイルス学的情報、免疫学的情報)
  • VOC-202012/01が最初に報告されたのは12月上旬であるが、後ろ向き解析では最も早いもので9月20日の症例から同定されたとしている (5,6)。英国内では、2021年3月3日までに、疑い例を含め108,000例以上ののVOC-202012/01を認めている(7) 。
  • VOC-202012/01の変異の一つ、S遺伝子deletion 69-70により、S遺伝子を検出するPCRによっては、結果が偽陰性となるspike gene target failure (SGTF)を認めている(8)。英国において、10月12日の週にはSGTFを認める変異株のうちB.1.1.7に属するものが3%であったが、11月30日にはこの頻度が95%と急増していた。1月25日からの1週間で検査された検体でSGTFを認める変異株の内100%がB.1.1.7に属するものであった。また、SGTFを認める検体自体の割合も、10月までは2%程度であったが、12月中旬から主流となり、2月4日の週では95.9%を占めていた。
  • 英国でのウイルスゲノム解析や疫学データを基にした複数のモデリング解析では、この新規変異株(VOC-202012/01)はいままでの流行株よりも感染・伝播性(transmissibility)を5割から7割程度増加させることが示唆され、PCR法による核酸検査やウイルスゲノム解析から推定されるウイルス量は、増加していることが示唆されている(2,5,9,10,11,12)。
  • 11/30-1/10に曝露されNHSに報告された感染例1,364,301名と接触者2,722,845名をもとにした、イングランド公衆衛生庁による2次感染率についてのデータとして、接触者66,847名で感染源のウイルスゲノム解析がなされており、うち37,585名は感染源のウイルスゲノム解析の結果、新規変異株によるものであった。2次感染率は新規変異株に感染した感染源からの接触者で12.9%、野生株(非新規変異株)に感染した感染源からの接触で9.7%であった。各年齢群(数が少ない群を除く)やウイルスゲノム解析が十分になされている地域別で、2次感染率の上昇の範囲は、10-55%であった(9)。
  • Spike gene target failure(SGTF)のスクリーニングが行われた例(接触者1,266,461名、SGTFのある株に感染した感染源からの接触者866,608名)でも、同様に2次感染率の比較が行われており、2次感染率は、SGTFのある株に感染した感染源からの接触者で12.9%、SGTFのない株に感染した感染源からの接触者で9.9%であった。SGTFにおいては、各年齢群(数が少ない群を除く)やウイルスゲノム解析が十分になされている地域別で、2次感染率の上昇の範囲は、25-40%であった。(注釈:どの段階で新規変異株への感染であることが判明していたかは不明であるが、新規変異株と野生株で接触者追跡の程度や検査施行のタイミングや閾値が異なる可能性があり、解釈に注意が必要である。)(9)
  • 英国政府の新興呼吸器ウイルス感染症に関するアドバイザリーグループ(NERVTAG)は、複数の公的機関や大学などで解析されたVOC-202012/01の重症度に関する暫定結果を適宜アップデートして公開している。代表性、検出力、観察研究における種々のバイアスなどの制限があるものの、これらの結果から、当該変異株への感染が、当該変異株以外の株への感染と比較して、入院リスクと死亡リスクの上昇と関連している可能性が高い(likely)としている(13) 参考:ロンドン大学衛生熱帯医学大学院の解析では、コホート研究で28日以内の死亡ハザード比1.71(95%CI(以下同) 1.48-1.97)、エコロジカル研究で入院数が1.4(1.3-1.5)倍、入院死亡数が1.4(1.2-1.5)倍; インペリアルカレッジの解析では、症例対照研究で致死率平均比1.36(1.18-1.56)、標準化致死率1.29(1.07-1.54);エクスター大の解析では、死亡ハザード比1.7(1.3-2.2)、イングランド公衆衛生庁のマッチドコホート研究では、死亡リスク比1.65(1.21-2.25);スコットランド公衆衛生庁の解析では、症例対照研究で死亡ハザード比1.08(0.78-1.49)、入院または死亡ハザード比1.40(1.28-1.53)、コホート研究で入院リスク比1.63(1.48-1.80)、28日以内の相対リスク1.37(1.02-1.84);COG-UKの解析では、入院中死亡ハザード比1.09(0.86-1.36)(65歳以上の女性では死亡率上昇あり)、集中治療室入室ハザード比1.15(0.86-1.53);集中治療全国監査研究センター(ICNARC)、プライマリケアデータベース(QRESEARCH)の解析では、集中治療室入室ハザード比1.44(1.25-1.67)、ICUでの死亡ハザード比0.94(0.82-1.09);国家統計局(ONS)の解析では、全死亡率の上昇と相関していたが、死亡者数が少なく信頼できる解釈不能;COVID-19臨床情報ネットワーク(CO-CIN)の解析では、入院中死亡オッズ0.67(0.32-1.40)となっている。
  • VOC-202012/01の小児における重篤度については情報は限られている(14)。
  • 回復者やワクチン接種者で誘導される抗体のVOC-202012/01に対するin vitro(試験管内)での評価では、以下のような知見がある。VOC-202012/01はウイルス中和活性を有するモノクローナル抗体の一部で中和されにくくなることが確認されているが、非変異株感染からの回復者の血清はVOC-202012/01に対しても同等の中和能を有しているという報告と中和能が3倍程度低下するという報告がある(15, 16)。一方で、VOC-202012/01感染からの回復者の血清は非変異株に対しても同等の中和能を有していることが報告されている (15, 16)。
  • Moderna社製ワクチンで誘導される中和抗体はVOC-202012/01を非変異株と同等に中和するという報告がある (17)。一方で、Pfizer社製ワクチンやAstraZeneca社製ワクチンで誘導される中和抗体は、非変異株に比べてVOC-202012/01に対する中和能が2-3倍程度低下するという報告がある(16)。ただし、一般的にin vitro(試験管内)での評価結果はin vivo(生体内)で起こる現象を正確に反映しないこともあり、本結果の解釈に注意が必要である。また、感染・発症防御に必要となる中和抗体レベルは不明であり、これらのワクチンで誘導される中和抗体のVOC-202012/01に対する中和能の低下の臨床的意義も明らかでない。
  • VOC-202012/01に対するワクチン有効性の評価では、以下のような知見がある。AstraZenecaが製造するウイルスベクターワクチンは、英国で、実薬群4,236名、コントロール群4,270名で2回目接種後14日後以降の発症を比較する第3相の臨床試験が行われており、変異株による発症を実薬群で7例、プラセボ群で27例認めており、暫定的な有効性は野生株に対して84.1% (95%CI 70.7-91.4)、VOC-202012/01に対して74.6% (95%CI 41.6-88.9)であった(18)。Novavaxが製造する組換えタンパクワクチンは、英国で、実薬群7,016名、プラセボ群7,033名で2回目接種後7日後以降の発症を比較する第3相の臨床試験が行われており、VOC-202012/01による発症を実薬群で4例、プラセボ群で28例認めており、暫定的な有効性は野生株に対して96%、変異株に対して86%であった(19)。ただし、これらの臨床試験結果において、発症患者数は少なく、追跡期間は非常に短いと考えられ、現時点では、VOC-202012/01のワクチンの有効性への影響は不明な点も多い(1-4)。
  • 90日以上前にPCR陽性であった症例で再度陽性となった例の割合で、再感染疑いの割合を比較すると、変異株群で2例(1000例あたり1.13例)、野生株群で3例(1000例あたり1.70例)であり、統計学的有意差は認めなかった (20)。
  • 英国では、後述の免疫逃避との関連が指摘されているE484K変異を認めるVOC-202012/01が2020年12月に初めて報告され、リスクアセスメントの結果、2月5日にVOC-202102/02と命名されている。2/24時点で31例が報告されている(21)。
(各国の発生状況)
  • WHOによると、VOC-202012/01は、3月2日時点で106カ国(うち5ヵ国は検証中)で渡航者等から検出されている(22)。
  • ECDCによると、英国以外にも、デンマーク、フランス(SGTFによる)、ドイツ、アイルランド、イタリア、オランダ、ポーランド、ポルトガル、スペイン、スウェーデンについて、VOC-202012/01の拡大を示唆する報告がある(23)。

概況(501Y.V2)

(発生の背景)
  • 2020年12月18日、南アフリカ保健省はCOVID-19患者の急増と新規変異株(501Y.V2と命名)の割合が80-90%に増加していることを報告した(24,25)。
  • 501Y.V2は、レセプター結合部位として重要な3箇所(K417N, E484K, N501Y)の変異を含む、スパイクタンパクの8箇所の変異で定義される(24,25,26,27)。英国で検出されたVOC-202012/01と同様のN501Y変異を認めるが、系統としては進化的関連を認めない(Nextstrain clade 20H/501Y.V2)、GISAID clade GH、B.1.351系統に属する)(24,25,26,27)。
(疫学情報、ウイルス学的情報、免疫学的情報)
  • 南アフリカでは11月以降にウイルスゲノム解析された検体の90%以上が501Y.V2であった(23)。
  • 501Y.V2は、感染性の変化に最も影響を与えうると考えられるN501Y変異と免疫逃避との関連が指摘されているE484K変異を持ち合わせている。これを評価するのに、英国、南アフリカの研究者によるモデリング解析では、この新規変異株(501Y.V2)は、南アフリカにおけるいままでの流行株よりも感染性が高い(伝播のしやすさ(transmissibility)を5割程度増加させると推定)ことが示唆された(25)。反対に、仮に感染性がいままでの流行株と変わらないと仮定すると、症例数の増加を説明するには、過去の感染で獲得した免疫の21%を逃避していると推定される(28)。実際には、この双方が起こっている可能性がある。
  • もともとE484の変異は、SARS-CoV-2を中和するモノクローナル抗体からの逃避変異として報告されていた(29,30)。さらに、E484K変異が、回復者血漿からの逃避変異株で見られるという実験データ(31)とE484が変異すると回復者血漿でのシュードタイプウイルスの中和抗体価が10倍程度低下する(COVID-19回復者の血清中に誘導された抗SARS-CoV-2抗体の存在下でも、in vitro(試験管内)でウイルスの細胞感染を抑制しにくい)という実験データ(32)が報告されている。すなわち、これまでのウイルスに対する免疫は、E484変異を持つウイルスに対して効果が減弱する可能性が懸念されている。
  • 実際に、感染回復者やワクチン接種者で誘導される抗体の501Y.V2に対するin vitro(試験管内)での評価では、以下のような知見がある。非変異株への感染後の回復者血清の501Y.V2に対する交叉中和能は非変異株に比べて10-15倍低下するとされた(33,34)。また、Pfizer社製ワクチンやAstraZeneca社製ワクチンで誘導される中和抗体は、非変異株に比べて501Y.V2を8-9倍程度中和しにくいことが報告されている (34)。501Y.V2と同じ変異をスパイクタンパクのレセプター結合部位に持つシュードタイプウイルスが、変異をもたないシュードタイプウイルスと比較して、Moderna社製ワクチンで誘導される中和抗体により中和されにくいという報告もある(35, 36)。中和能の大幅な低下は、非変異株から抗原性が変化していることを示唆するが、VOC-202012/01と同様、in vitro(試験管内)での評価はin vivo(生体内)で起こる現象を正確に反映しないこともあり、本結果の解釈に注意が必要である。
  • 501Y.V2に対するワクチン有効性の評価では、以下のような知見がある。AstraZeneca 社製ウイルスベクターワクチンは、南アフリカで、2回目接種後14日後以降の発症を比較する第3相の臨床試験が行われており、実薬群750名、コントロール群717名が暫定的な結果の解析に含まれた。うち、発症者は、実薬群で19名(2.5%)、コントロール群で23名(3.2%)であり、暫定的な有効性は21.9% (95%CI -49.9-59.8)(変異株への感染は42名中39名で認められ、変異株に限定した有効性は10.4% (95%CI -76.8-54.8))と有効性を示せなかった(37)。また、Novavaxが製造する組換えタンパクワクチンは、南アフリカで、実薬群2,206名、プラセボ群2,200名で2回目接種後7日後以降の発症を比較する第2相の臨床試験が行われており、実薬群で15例、プラセボ群で29例が発症した。うち27例でウイルスゲノム解析が行われており、25例(93%)が501Y.V2であり、暫定的な有効性はHIV陰性者で60.1% (95%CI 19.9-80.1)、全体(HIV陽性者含む)で49.4% (95%CI 6.1-72.8)であった(19)。Johnson & Johnson/Janssenが製造するウイルスベクターワクチンは、単回接種のワクチンであり、接種28日後以降の発症をみた有効性が、米国やラテンアメリカでは、それぞれ72%、66%である一方、95%が501Y.V2である南アフリカでは、57%であった(38)。これらの臨床試験結果において、発症患者数は少なく、追跡期間は非常に短いと考えられるが、501Y.V2のワクチンの有効性への影響が懸念される。
  • 各社は501Y.V2のスパイクタンパクをもとにしたブースターワクチンの開発を開始または検討しているとされている(39)。
  • 上述の南アフリカで実施されたNovavax社製ワクチンの第2相の臨床試験において、プラセボ群に割り付けられた2,168名中674名は、ワクチン接種前に抗スパイク抗体が陽性であり非501Y.V2株の感染によって誘導されたと考えられる免疫を保有していたが、発症率は免疫保有者と非保有者で変わらず、非501Y.V2株の感染によって誘導された免疫は501Y.V2感染に対する予防に無効である可能性が示唆されている (19)。
  • 現時点では、より重篤な症状を引き起こす可能性を示唆する根拠はない(6)。
(各国の発生状況)
  • WHOによると、501Y.V2は、3月2日時点で56カ国(うち5ヵ国で検証中)で渡航者等から検出されている(22)。

概況(501Y.V3)

  • 2021年1月6日、国立感染症研究所は、1月2日にブラジルから到着した渡航者4名から新型コロナウイルスの新規変異株を検出した。当該新規変異株は、Nextstrain clade 20J/501Y.V3, P.1系統に属する。なお、本報告では501Y.V3と呼称する。
  • 当該新規変異株は、スパイクタンパクに12箇所の変異を認める。系統としては進化的関連を認めないが、感染性の増加が懸念される変異株のVOC-202012/01や501Y.V2と同様に、スパイクタンパクの受容体結合部位にN501Y変異を認めるほか、501Y.V2と同様にE484K変異を認める。
  • ブラジルでも、12月15日か23日にかけてマナウスで採取されたSARS-CoVs-2 PCR陽性検体31検体のうち42% (13/31)が501Y.V3だった(40)。マナウスでは、10月までに75%の人口が既に感染していたと推定される状況下で、12月中旬に再度患者の増加が見られたため、本変異株の検出は、感染性の増加や再感染を起こさせる可能性が懸念されている(41)。2021年1月18日には、2020年3月に感染歴のある者が1名、501Y.V3に再感染した事例がマナウスで報告された(42)。アマゾナス州では、1月は91% (31/35)で501Y.V3が検出された(42)。2月20日時点の報告では、アマゾナス州(60)、サンパウロ州(28)、ゴイアス州(15)、パライバ州(12)、パラー州(11)、バイーア州(11)、リオグランデ・ド・スル州(9)、ロライマ州(7)、ミナスジェライス州(6)、パラナ州(5)、セルギペ州(5)、リオデジャネイロ州(4)、サンタカタリーナ州(4)、セアラ州(3)、アラゴアス州(2)、ペルナンブーコ州(1)、ピアウイ州(1) (括弧内は報告者数)から計184例の感染者が報告されている(43)。
  • 501Y.V3株感染者では、非501Y.V3株感染者に比べてウイルス量が多いことを示唆する報告がある。(44)
  • 非501Y.V3株に比べて1.4倍から2.2倍伝播しやすく、既感染による免疫を25-61%回避可能であるとの解析結果がある。(45)
  • WHOによると、501Y.V3は、3月2日時点で、29カ国(1ヵ国は検証中)から報告されている (22)。
  • より重篤な症状を引き起こす可能性やワクチンの効果への影響を示唆する証拠はない(6)。

日本の状況

  • ウイルスの遺伝子解析は国内症例全体の約5.8% (註:患者報告から検体輸送やゲノム情報解析まで数週間かかるため、解析割合としては過少評価である。)について行われてきた。 参考)国内のゲノム確定数 26,111検体、空港検疫のゲノム確定数 817検体(共に2021/3/3現在)。
  • 2020年12月25日、英国からの帰国者の空港検疫の検査陽性者からVOC-202012/01が初めて検出された。12月28日には、501Y.V2を南アフリカ共和国からの帰国者から検出した。2021年1月6日には、1月2日にブラジルから到着した渡航者4名から新型コロナウイルスの新規変異株を検出した(46)。
  • 国立感染症研究所はN501Y変異をスクリーニングするPCR法を開発し、2021年1月22日から全国の地方衛生研究所にプロトコールを送付し、その後2月中旬に陽性コントロールを配布している(註:第6報の記載を修正している)。2月25日時点で、42都道府県で1件以上、全体で5,000件以上のスクリーニング検査が行われている(47)。
  • 3月2日時点で、空港検疫により確認された者49名(VOC-202012/01:36名、501Y.V2:8名、501Y.V3:5名)、国内で165名(VOC-202012/01:159名、501Y.V2:4名、501Y.V3:2名)が確認されている(アドバイザリーボード 3/3資料)。これまで当該国内で変異株の報告がなかったアラブ首長国連邦、ナイジェリア、ガーナ、ベトナム、タンザニア、カタール、パキスタン、ブラジル(501Y.V3)、フィリピン(501Y/V2)からの渡航者でも検出された例があった。
  • 神戸市では、神戸市所管の全新規陽性者の検体のうち約60%について変異株の検査をしており、直近の2月12日から18日の週において、陽性者数に占める変異株の割合は15.2%であったことを報告した(48)。
  • 公表データからのまん延状況の解釈については慎重に行う必要があるが、統計学的な推定では、2月12日から18日の週の時点で神戸市内で指数関数的に増加している段階ではないと考えられる。
  • VOCに関するサーベイランスの感度が急激に向上しつつあり、またクラスターの報告の影響や地域差がある状況での報告数からの分析は慎重に解釈する必要があるが、緊急事態宣言下で全国的には実効再生産数が1を下回る中でも、VOC-202012/01感染者が増加傾向にある可能性がある。いずれにしても、国内のVOCの感染状況については、感染者の報告から変異の検出・確認に要する時間遅れも考慮する必要がある。
  • 国立感染症研究所ではVOC-202012/01、501Y.V2、501Y.V3のいずれも分離に成功している。

参考情報(国内で発見されたスパイクタンパクに係る変異を有するその他の変異株)

  • N501Y変異を有さないが、E484K変異を有する変異株が国内で検出されている。海外から移入したとみられるが起源不明のE484K変異を有するR.1系統が、空港検疫で2件、関東を中心に全国で394件検出されている(2021/03/03現在)。なお、本系統については、 VOIとして取り扱い、病原体サーベイランスとゲノム解析を通じて引き続き実態を把握していく。

日本の対策

  • 日本は、アイルランド、イスラエル、英国、ブラジル、南アフリカ共和国、アラブ首長国連邦、イタリア、オーストリア、オランダ、スイス、スウェーデン、スロバキア、デンマーク、ドイツ、ナイジェリア、フランス、ベルギーを「新型コロナウイルス変異株流行国・地域」に指定し、水際対策を強化している(49)。当該国・地域からの全ての入国者及び帰国者は、検疫所長の指定する場所で待機し、入国後3日目に改めて検査を行うとしている(50)。
  • また、当面の間、新型コロナウイルス変異株流行国・地域に滞在歴のある入国者については、無症状の場合も含め新型コロナウイルス感染症患者及び疑似症患者については、感染症法に基づき原則入院措置を行うこととし、退院基準も別に定めている (51,52)。
  • また、2020年12月28日から緊急事態解除宣言が発せられるまで、防疫措置を確約できる受入企業・団体がいることを条件とした新規入国の許可について、全ての国・地域からの新規入国を一時停止等することとしている(53, 54)。
  • 2021年1月8日、緊急事態宣言発出に伴い、全ての入国者・帰国者に対し、72時間以内の検査証明の提出を求めるとともに、入国時の検査を実施することとした(55)。
  • 2021年1月13日、全ての入国者に対し、入国時に14日間の公共交通機関不使用、14日間の自宅または宿泊施設での待機等について誓約を求めるとともに、誓約に違反した場合には氏名公表等の措置が追加された(56)。また、全ての対象国・地域とのビジネストラック及びレジデンストラックの運用を停止し、両トラックによる外国人の新規入国を認めず、ビジネストラックによる日本人及び在留資格保持者について、帰国・再入国時の14日間待機の緩和措置を認めないこととなった(54)
  • 国内では、SARS-CoV-2 陽性と判定された方の情報及び検体の国立感染症研究所への提出の徹底を求めてきた(51)。2021年2月5日、厚生労働省は、全国の自治体に対し、管内の全陽性者数の約5-10%分の検体(週)を目処に、N501Y変異を確認するためのPCR検査の実施を求め、感染症法第15条9項の規定に基づき、変異株疑いの検体の提出を求めている(57)。また、2021年2月19日には自治体に変異株スクリーニングの検査数の報告を要請した(58)

日本における迅速リスク評価

  • VOCの検出国が世界的に増加しており、また各地でその割合の増加が報告されている。また、検疫でも新型コロナウイルス陽性者に占めるVOC陽性者の割合が増加しつつある。世界的な変異株のモニタリング体制は構築途上であり、これまでVOCが報告されていない国からの渡航者でもVOCが検出される場合もある。このような国では一定レベルの流行が起こっている可能性を想定する必要がある。このような状況を鑑みれば、VOC感染者が日本に渡航するリスクは高い。緊急事態宣言の発出に伴い、ビジネストラック及びレジデンストラックの運用の停止等により、2021年1月21日からは、入国は日本人ならびに在留資格保持者の再入国に限られており、入国者数が大幅に抑制されている。また、VOCのまん延が認められる国・地域については、新型コロナウイルス変異株流行国・地域に指定され、水際対策の強化が行われている。当地でのまん延状況がまだ十分に明らかではない国についても、定量的なリスク評価は困難であるが、厚生労働省と外務省の連携の上、VOCが確認された国に対して、随時検疫体制の強化策が追加・実施されている。これらにより、海外からの流入リスクは一定程度抑制されているが、完全に流入を防げるものではない。
  • 一方、国内各地の感染者からVOCが確認され、クラスターも報告されている。VOC感染者の大半は渡航歴がない(59)。地域によっては、国内での感染が持続している。今後は、諸外国と同様に国内でもVOC-202012/01の占める割合が増加していく可能性がある。
  • 従来株と比較して感染性が高い可能性に鑑みて、国内で持続的に感染拡大した場合には、現状より急速に拡大するリスクがある。ウイルスの感染性が高まれば、従来と同様の対策では、これまで以上の患者数や重症者数の増加につながり、医療・公衆衛生体制を急速に圧迫するおそれがある。これまでは、緊急事態宣言下にあり、流行が大幅に抑制されてきたなかでもVOC感染者は増加傾向にあったことを鑑みれば、今後、社会における接触機会の増加や、感染対策の緩みが生まれることで、これまでより顕著にVOCの流行が拡大するリスクがある。
  • VOC-202012/01は、特定の年齢集団に限らず感染・伝播性を上昇させる可能性がある。国内で小児の集団感染もみられたことから、小児での感染性や病原性、小児からの感染性について引き続き注視が必要である。
  • VOC-202012/01については、変異による重篤度への影響も注視する必要がある。さらに、501Y.V2および501Y.V3については、抗原性の変化により、既感染者に再感染のリスクが高まる可能性や、ワクチンの効果に影響を及ぼすリスクを考慮する必要がある。
  • 感染・伝播性や抗原性の変化への関連が懸念されるスパイクタンパクの変異のいくつかは、世界各地で同定された様々なウイルス株(本報告に記載のVOCとの直接的な関係がない)においても発見されている。海外で発生した変異株が国内に持ち込まれることのみならず、国内流行株においても同じような変異が生じる可能性もある。
  • 国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法は、これまでと同様に使用可能である。

日本の対応についての国立感染症研究所からの推奨

  • VOCのまん延は、流行規模の想定や、ワクチンによるコントロール戦略に大きな影響を及ぼしうる。今後の国内流行制御戦略に与える影響を低減するための方策は、VOCの流行状況に応じた水際対策の強化により、引き続き国外からの流入を最大限抑制しつつ、国内での拡大防止を図ると共に、積極的疫学調査等を通じてVOCの性質を明らかにし、流行制御戦略を適合させていくことである。
  • 国内流行の抑制のためには、入国者の監視体制が重要である。
    • 特に、最近2週間の海外渡航歴ありの者に対するPCR検査等の実施、検体提出、ゲノム分析を実施する。
      <監視体制の優先順位の考え方>
      VOCが検出されていないことは、当該地域内にVOCが存在しないことを保証するものではないが、検体提出、ゲノム分析を行う対象となる者の2週間以内の海外渡航先については、下記の優先順位を考慮する。
      1. 感染拡大とVOCの増加に関連性が認められる国・地域
      2. VOCが1の国・地域への渡航歴に関連が明らかではない症例で検出されている国・地域
      3. VOCが1の国・地域への渡航歴に関連が明らかな症例でのみ検出されているまたは報告されていない国・地域
    • 上記1の国・地域について、全ての入国者についてPCR検査等の実施と陽性時にはゲノム分析を行うとともに、入国者の健康観察を実施。指定施設での停留(健康観察)や航空便の運行制限も検討する。
    • 上記1の国・地域からの入国者の陽性例については、症状等の有無に関わらず入院等により他者との接触機会を避ける。
    • 上記2の国・地域については、全ての入国者についてPCR検査等の実施と陽性時にはゲノム分析を行うことともに、発生数の著しい拡大が認められる場合には、上記1と同様の対応を検討する。
    • 上記3の国・地域からの入国者や、渡航歴のない国内例についても、陽性者に上記1の地域に2週間以内の渡航歴がある者との接触歴を認める場合には同様に検体を提出し、ゲノム分析を実施する。
    • 国・地域のVOCの感染状況については、検疫での当該国・地域の訪問歴がある者における陽性者の検出状況も参考になる。
  • 国内での拡大防止を図るためには、クラスター発生機会を抑制しつつ、VOC感染者の早期検知と徹底した積極的疫学調査によるクラスターの封じ込めを行う。
    • 全体的に感染者が減少傾向にあった緊急事態宣言下でも、VOC感染者の増加が見られていることに鑑み、感染リスクの高い場での3密対策を継続し、社会全体でのクラスター発生機会を抑制するほか、まん延状況によっては外出自粛等のより強力な対策を行うことも選択肢として考慮する。
    • 国内については、地域等の偏りなく検体提出とゲノム分析が可能となるよう病原体サーベイランスの実施体制を強化する。2021年2月5日の通知に示されるように、管内の全陽性者数の約5~10%分を目処にスクリーニング検査を行う。リンクの追えないVOCに感染した者が地域において確認された場合には、割合を上げてスクリーニングを行うことが望ましい。
    • VOC感染者が見つかった場合には、国内のまん延を防ぐため、感染者は個室での管理下に置くことが望ましい。また、濃厚接触者の追跡と管理を行う。感染源の調査により、感染の拡大状況を評価するほか、臨床経過等を含めた積極的疫学調査を行う。これらの調査が複数の自治体にまたがる際には、適切に協働して調査を行う。
  • 個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、マスクの着用、手洗いなどが推奨される。

引用文献(17,25,28,31,33,35,37,40,42,44,45は査読前のプレプリント論文である)

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  54. 内閣官房.新型コロナウイルス感染症対策:水際対策強化に係る新たな措置(7).2021年1月13日.https://corona.go.jp/news/pdf/mizugiwataisaku_20210113_02.pdf.
  55. 内閣官房.新型コロナウイルス感染症対策:水際対策強化に係る新たな措置(5).2021年1月8日.https://corona.go.jp/news/pdf/mizugiwataisaku_20210108.pdf.
  56. 内閣官房.新型コロナウイルス感染症対策:水際対策強化に係る新たな措置(6).2021年1月13日.https://corona.go.jp/news/pdf/mizugiwataisaku_20210113_01.pdf.
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「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念されるSARS-CoV-2の新規変異株について」
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第2報 2020/12/25 20:00時点 「感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について」
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感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株

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