注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。
新型コロナウイルス感染症は、2019-nCoV(Novel Coronavirus)と関連がみられる急性の呼吸器感染症である。中華人民共和国(以下、中国)湖北省武漢市保健衛生委員会によると、2019年12月以降、同市では原因不明の肺炎患者が発生しており(http://wjw.wuhan.gov.cn/front/web/showDetail/2020010309017)、2020年1月7日、中国当局が新種のコロナウイルスを検出したと世界保健機関(WHO)が発表した(https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019)。その後、同ウイルスと関連のある呼吸器感染症患者は最も多くの患者を報告している中国国内以外にも複数の国・地域で確認されている〔1月27日現在:確定患者数 合計2,788例、うち中国2,744例、中国国外44例(タイ8例、韓国4例、台湾4例、米国5例、ベトナム2例、シンガポール4例、フランス3例、オーストラリア4例、マレーシア4例、ネパール1例、カナダ1例、日本4例)、死亡者数 中国80例〕。日本国内では、2020年1月27日12時現在で、これまで検査対象となった症例数は計14例であり、うち4例が確定診断されており、すべて中国湖北省武漢市の滞在歴があった。なお、国内外の患者数等に関する情報は刻々と変わっていることに注意されたい*。 * 2020年1月31日午前9時半現在の世界の総確定患者数は8千人を超え、うち死亡者数:171例、国内の総確定患者数:14例(無症状2例を含む)となっている。 |
新型コロナウイルスが報告される以前、人に感染症を引き起こすコロナウイルスはこれまで6種類が知られていたが、深刻な呼吸器疾患を引き起こすことがあるSARS(重症急性呼吸器症候群)-CoVとMERS(中東呼吸器症候群)-CoV以外は、感染しても通常の風邪などの重度でない症状にとどまっていた。これらの6種類のコロナウイルスの主な感染経路は咳、くしゃみ、会話等から発生する飛沫による感染(飛沫感染)であり、他に飛沫の付着物に触れた手指を介した接触感染もある。同様に、新型コロナウイルスも飛沫感染や接触感染を主とする感染経路であると考えられ、2020年1月23日に開催されたWHOの緊急委員会では、中国国内ではヒトからヒトへの感染が認められるものの、感染の広がりやすさの程度、臨床的特徴、重症度については完全にはわかっていないと報告されている。
新型コロナウイルス感染症の臨床的特徴を含む多くの情報は不足しているが、2020年1月2日時点での患者41人(死亡6人)時点の情報(https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S0140-6736%2820%2930183-5)によると、初発症状としては発熱、咳、筋肉痛・倦怠感を多くの患者で認め、痰、頭痛、下痢症状は乏しかったとされた。この報告では基礎疾患を患者の約3割に認めており、また、SARSやMERSの知見からも、基礎疾患等を有する者においては重症化するリスクが一定程度あることがうかがわれる。
WHOの国際保健規則(IHR)緊急委員会は、2020年1月24日未明、中国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎の発生状況が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC** Public Health Emergency of International Concern)」にはその時点で該当しないと発表した※。 ※ 改めて開催された1月31日未明の緊急委員会で、WHOは今事例がPHEICに該当するに至ったとして発表した。
今後の対応としては、重症度や感染性を含めた本感染症のインパクトが不明であること、国内での流行がまだ確認されていないことから、現時点では主に以下のような対応が想定されている。すなわち、空港等における検疫所による水際対策の強化のみならず、国内で発症する患者については、重症患者を対象とした疑似症サーベイランスによる疑い例の探知、急性呼吸器症状を有する者の集団発生の探知、院内感染対策の強化、基本的な感染予防策の周知啓発の強化、などが重要であり、これらにより感染拡大を防止することが可能であると考えられる。
厚生労働省、国立感染症研究所においては、それぞれ、中国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎の発生について新型コロナウイルス(2019-nCoV)関連情報についてのホームページを開設しており参照されたい。
** PHEICとは、疾病の国際的拡大により、他国に公衆の保健上の危険をもたらすと認められ、緊急に国際的対策の調整が必要な事態をいう。過去にPHEICが発出された事例として、2009年新型インフルエンザ、2014年野生型ポリオウイルスの国際的な拡大、2014年エボラ出血熱の西アフリカでの感染拡大、2016年ジカ熱の国際的拡大、2019年コンゴ民主共和国におけるエボラ出血熱の発生がある。
新型コロナウイルスの情報については、以下を参照いただきたい(引用日付2020年1月28日):
●厚生労働省 中華人民共和国湖北省武漢市における新型コロナウイルス関連肺炎の発生について
国立感染症研究所 感染症疫学センター |