国立感染症研究所

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札幌市・小樽市における新型コロナウイルス感染症の昼カラオケ関連事例における感染リスク因子

(速報掲載日 2020/10/7) (IASR Vol. 41 p185-187: 2020年10月号)

札幌市では、2020年4月より、日中にカラオケスナックやカラオケ喫茶などでカラオケを楽しむ「昼カラ」に関連した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)クラスターが複数確認され、6月には隣接する小樽市においても確認された。今回、昼カラ関連症例のCOVID-19感染リスク要因を明らかにするため、札幌市・小樽市における昼カラ関連COVID-19症例の昼カラ利用者を対象に症例対照研究を実施した。さらに、店舗営業形態による感染リスクの違いを明らかにするため、昼カラ店舗の営業状況を調べた。

症例を2020年5月16日~7月3日の間に発症前2週間以内に札幌市・小樽市の昼カラを利用した者でRT-PCRでSARS-CoV-2が検出された者、濃厚接触者を症例の感染可能期間に同一店舗を利用した者でRT-PCRでSARS-CoV-2が検出されなかった者と定義した。臨床医により診断された疑い症例に加え、濃厚接触者が健康観察期間中に把握された場合は、鼻咽頭検体によるRT-PCR検査が実施された。症例および濃厚接触者のうち、情報収集が包括的に行われた9店舗(札幌5店舗、小樽4店舗)の利用者とオーナーに、電話で基本情報と昼カラでの行動歴を聴取した。曝露の比較はχ2検定とt検定を実施し、ロジスティック回帰分析で調整した。有意水準は両側p<0.05とした。また、症例が感染可能期間に利用した昼カラ店舗の営業状況について、オーナーと利用者に聞き取りを行い、その店舗で感染した可能性が高い症例が5例以上の店舗(大規模流行)と、5例未満の店舗(小規模流行)で店舗運営状況を比較した。

症例は38例、濃厚接触者(検査陰性)は52例が該当した()。症例は女性23例(61%)が多く、年齢は平均75歳で、7月3日時点の有症状者は29例(76%)であった。30例(79%)が無職であった。情報がとれた人のほぼ全員が飲食しており(97%)、歌唱時はマスク非着用であった(96%)。両群に性差はなく、症例はより高齢(症例、濃厚接触者:平均年齢75歳、68歳)で、長時間滞在(同:平均滞在時間3.1時間、2.1時間)、歌う〔同97%(37/38)、73%(38/52)〕、店内でマスク着用なし〔同79%(30/38)、47%(24/51)〕の割合が高かった。これら4項目を相互調整した結果、滞在時間〔1時間ごとの調整オッズ比aOR1.7、95%信頼区間(95%CI)1.1-2.7〕、歌う(aOR11.2、95%CI 1.2-101.3)、店内でマスク着用なし(aOR3.7、95%CI 1.2-10.9)が有意に症例と関連していた。

店舗営業状況については、10店舗(大規模6、小規模4)で情報が聴取できた。大規模流行店舗では、オーナーの感染(大規模、小規模:6/6、0/4)、利用者の多くがマスク非着用(同3/3、1/3)、利用者制限なし(同4/6、1/4)の店舗が多かった。また、実際にオーナーが発症しているにもかかわらず営業していた店舗があった。

昼カラは、店舗の騒音対策で換気が難しく、密閉、密集、密接の3密が揃いやすく、重症化しやすい高齢者の利用が多いという特徴がある。今回の解析で、昼カラでの歌唱でCOVID-19に罹患しやすくなることが示唆された。大声での歌唱は飛沫を広範囲に拡散させ、会話に比べ多人数に感染させる可能性があると報告されている1)。歌唱する人ではマスクを外す時間が長くなるなどの理由で罹患リスクにも影響している可能性がある。また、長時間滞在が高いオッズを示しており、より安全に昼カラ店を利用するためには、短時間の利用に留めることが重要であると考えられた。マスクに関しては、店内でマスクを着用していない場合、高いオッズを示していた。ただし、歌唱中のマスク着用は症例も濃厚接触者も大多数の人が行っていなかった。そして、感染が広がらなかった小規模店舗では利用者の多くがマスクを着用していた。歌唱者を含む利用者全員のマスク着用が、本人の感染予防と店舗での感染拡大防止に繋がる可能性がある。オーナーが感染した店舗では、感染者が多数確認されたが、オーナーが食事や飲み物を自ら提供する可能性があることや、滞在時間が長いことなどから、この結果は妥当と考えられた。店舗でのパーティションの設置、換気、マイクの清掃、手指消毒薬の設置に関しては、本調査では効果を確認できなかったが、これらにより感染が予防できる可能性があり、さらなる評価が必要である。

本調査の制約として、利用客の情報が乏しく店舗名を公表し広く利用者に名乗り出てもらう方針を取った店舗と、客を追跡できていた非公表店舗があり、症例探索方法に違いがあった。店舗名を公表した店舗の利用者では、有症状者が自己申告しやすく、濃厚接触者に比べ症例がより多く把握されていた可能性がある。さらに、初発例が不明の事例が多く、罹患リスクの評価対象に初発例が含まれていた可能性がある。また、重症者や死亡者からは、行動歴などの情報が得られなかった。最後に、陽性だったが検査時に陰性であった人が誤分類されている可能性がある。

昼カラは高齢者にとって、精神的、身体的な活動性の維持に重要とされている。昼カラでの感染拡大を予防するため、体調不良時には利用しないこと、店内ではマスクを着用し、なるべく短時間の利用に留めること、店舗側は利用者にマスクの着用を勧め、オーナー(従業員)は体調不良時には休むこと、が重要である。

 

参考文献
  1. Hamner L, et al., Morbidity and Mortality Weekly Report (MMWR), 69(19): 606–610, 2020
 
 
札幌市保健所
 山口 亮 高木悠太 東 小太郎 千葉紘子 寺田健作 中西香織 藤川知子 
 斉藤佳代子 三觜 雄 矢野公一
小樽市保健所
 田中宏之 渋間朋子 山谷智美 葛間明美 津田信一郎 貞本晃一
北海道保健福祉部
 石井安彦 大原 宰 人見嘉哲 廣島 孝
国立感染症研究所 実地疫学専門家養成コース(FETP)
 中下愛実 中村晴奈 鵜飼友彦 芹沢悠介
同 感染症疫学センター
 島田智恵 砂川富正 鈴木 基
同 薬剤耐性研究センター
 山岸拓也

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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