国立感染症研究所

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東京都での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行(2020年1~5月)

(IASR Vol. 41 p146-147: 2020年8月号)

はじめに

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は, 2019年12月初旬に, 中国の武漢市で第1例目の感染者が報告されてから, わずか数カ月ほどの間にパンデミックと言われる世界的な流行となった。わが国においては, 2020年1月15日に最初の感染者が確認された後, 5月12日までに, 46都道府県において合計15,854人の感染者, 668人の死亡者が確認されている1)。東京都内では, 3月下旬以降, COVID-19の感染者数が急増しており, 2020年1月から5月下旬までの感染者の発生動向をまとめたので報告する。

方 法

東京都内の医療機関から報告があり, 2020年1月~5月24日までに遺伝子検査により診断されたCOVID-19の感染者を対象とした。分析には, 性別, 診断時の年齢, 診断日, 推定感染場所, 届出保健所, 感染リンクおよび死亡の情報を用いた。なお, 武漢市からのチャーター便での帰国者およびクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗船者等で感染者として報告された事例は除いている。

結 果

2020年5月25日現在, 対象期間に診断された者は5,156人であった。都内では2020年1月23日に最初の感染者が診断され, 3月22日までは1日当たり0~10人で推移していた。3月23日以降増加がみられ, 4月9日に256人を数えピークとなり, その後減少に転じた(図1)。5月16日には8人となり, その後は5月20日を除き10人を下回って推移した。

1月中は中国人の旅行者等からの報告であったが, 2月以降は海外とのリンクのない日本人がほとんどを占めた。2月には新年会(屋形船)での集団感染が発生し, また最初の病院内での発生も報告された。3月に入ると, ヨーロッパ等の流行地域から帰国した者からの感染がみられ, 大規模な院内感染事例や家族内感染がみられるようになった(図2)。この他, 夜間に酒類を提供する飲食店の利用時, もしくはそこでの従事中に感染したと疑われる事例(夜の街関連事例)もみられた2)。3月下旬以降, 感染リンクが不明な者の割合は増加し, 4月中旬に70%を超える日が続いたが, 4月末からほぼ50%を下回った。3月末から5月においては, 新たに高齢者施設での施設内感染がみられるようになり, 院内感染事例, 家族内感染事例の発生も継続してみられた(図2)。

性別は, 男性2,944人, 女性2,212人, 男女比1.3:1であった。年齢は, 20歳以上が97.1%(n=5,010)を占め, 年齢の中央値は, 男性47歳(四分位範囲:34-62), 女性45歳(同:29-67)であった。年齢群別では男性の30~50代, 女性の20~30代にピークがみられた(図3)。40代でみると男性は女性と比べ2倍の報告があった。都内にある31保健所のうち区の保健所(n=23)から4,643人, 多摩地区の保健所(n=7)から513人が届け出られた。2020年5月25日現在, 死亡者数は総計288人(死亡割合5.6%), 男性179人(同6.1%), 女性109人(同4.9%)で, 年齢群別では男女ともに, 死亡者数では80代が一番多く, 死亡割合は90代が一番高かった(図3)。80代と90代では男性の死亡割合は女性と比べて高い傾向にあった。

考 察

東京都では2020年3月下旬から5月下旬にかけて区部を中心にCOVID-19の大きな流行がみられた。5月25日現在, 4月と比べ感染者の発生は少ない人数で推移している。都民への外出自粛要請および事業者に対する休業要請の結果, 新たな感染が抑えられた可能性がある。感染者の大部分は, 20歳以上であり, 20歳未満の感染者はあまりみられない。性別では比較的男性に多く, 死亡も同様である。これらの年代の差, 性別の差について, どのような因子が関係しているのか現時点では明らかになっておらず, 今後の知見の集積が待たれる。夜の街関連の事例については分析を進め, どのような場面や行為で感染リスクが高まるのか明らかにしていく必要がある。

病院内や高齢者施設は, 感染のリスクが高い場所と考えられた。病院や施設では高齢者や基礎疾患を持つ者が多く, 特に高齢者では死亡のリスクもあることから, 院内および施設内の感染予防対策を徹底していく必要がある。東京都では, 消毒液やマスク, 防護服など医療物資を確保し, ゾーニングや環境整備, 個人防護具の着脱など感染管理にかかわるガイドラインや動画の作成の他, 感染者が発生した場合に隔離・消毒, 検査, 濃厚接触者への対応が適切にできるよう感染症対策の人材育成・確保にも努める予定である。

家庭内が感染の場となっており, 手洗い・咳エチケットなどの感染予防の取り組みを日頃から家庭でも実践していく必要がある。都では新型コロナウイルス感染症に関する専用サイトを立ち上げ, ウイルス感染が判明した方向けに手洗い, マスクの着用など家庭での感染予防法についての情報提供を行っている他, 手洗い方法の動画も提供している3)

国内では, 2020年5月27日現在, COVID-19の感染者16,651人, うち死亡例858人が報告されている4)。東京都からの感染者の報告は, 国内発生の約3割を占め, 死亡例では約3分の1を占める。都内の感染のコントロールが国内の感染動向を左右するものと考えられ, 検査体制の充実, 症状に応じた医療体制の確保, 患者情報の的確な把握など, 今後も必要な公衆衛生上の対応を進めることが重要である。

謝辞:感染者の届出を担う医療従事者の方々, 感染症サーベイランスおよび積極的疫学調査に携わる保健所の職員の方々, 遺伝子検査を担当する民間検査所や病院の職員の方々に深謝する。なお, 一部のデータは厚生労働省対策本部クラスター対策班の支援により作成されたものを用いた。

 

参考文献
  1. 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議, 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言(令和2年5月14日)」
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000630600.pdf
  2. 新型コロナウイルス感染症対策専門家会議, 「新型コロナウイルス感染症対策の状況分析・提言」(2020 年4月1日)
    https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000617992.pdf
  3. 東京都新型コロナウイルス感染症対策サイト https://stopcovid19.metro.tokyo.lg.jp/
  4. 厚生労働省/国立感染症研究所, Infectious Diseases Weekly Report Japan, 感染症発生動向調査感染症週報2020年第21週(5月18日~5月24日):通巻第22巻第21号, 8-11ページ
    https://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/idwr/IDWR2020/idwr2020-21.pdf
 
 
東京都福祉保健局   
 杉下由行 渡邊愛可 関 なおみ 矢沢知子 矢内真理子     
厚生労働省対策本部  
クラスター対策班   
 芹沢悠介 中下愛美 今村剛朗 押谷 仁 松井珠乃

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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