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腸管出血性大腸菌感染症とは

(IDWR 2002年第6号掲載) 腸管出血性大腸菌(Enterohemorrhagic Escherichia coli ; EHEC)感染症の原因菌は、ベロ毒素(Verotoxin=VT, またはShiga toxin =Stx と呼ばれている)を産生する大腸菌である。EHEC感染症においては、無症状から致死的なものまで様々な臨床症状が知られている。特に、腸管出血性大腸菌感染に引き続いて発症することがある溶血性尿毒症症候群(HUS)は、死亡あるいは腎機能や神経学的障害などの後遺症を残す可能性のある重篤な疾患である。HUSの発生予防につなげるためにも、HUSの実態把握と発生の危険因子を特定することが重要である。

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保育所で発生した腸管出血性大腸菌O26:H11による集団感染事例―福岡県

(IASR Vol. 38 p.148-149: 2017年7月号)

2016(平成28)年8月に福岡県内の保育所において腸管出血性大腸菌(EHEC)O26:H11(stx1)を原因とする集団感染事例が発生したのでその概要を報告する。

 1.事件の概要

2016年8月22日に県内の医療機関より2歳男児(初発患者)および5歳女児(無症状病原体保有者)の感染症発生届が管轄保健所へ提出され, 保健所は患者, その家族および患者が通う保育所の聞き取り調査を実施した。初発患者が8月17日に発症後, 同施設内に多数の有症者が認められたことから園児114名および職員26名に対し健康診断を実施した。その結果, 園児40名(有症者10名, 無症状病原体保有者30名), 職員2名(無症状病原体保有者), 合計42名からEHEC O26が検出された。EHEC O26が検出された家族112名について健康診断を実施したところ, 10名(有症者4名, 無症状病原体保有者6名)からEHEC O26が検出された。また, 初発患者においては, 一度EHEC O26陰性が確認されたにもかかわらず再度有症状を呈したため, 検査を行ったところEHEC O26が検出された。さらに最初の健康診断でEHEC O26が検出されなかった園児3名が8月下旬以降に有症状を呈し, 検査を行ったところEHEC O26が検出された。最終的に本事例においてEHEC O26が検出されたのは延べ56名(有症者18名, 無症状病原体保有者38名)であった。9月23日に最後の患者が確認された以降10日間新たな患者が発生しておらず, すべての感染者のEHEC O26陰性が確認されたことから10月3日に本事例は終息とした。

2.分離された菌株について

当所に搬入された55株および同時期に発生した別の事例株2株, 合計57株について制限酵素XbaIを用いたパルスフィールド・ゲル電気泳動(PFGE)による遺伝子解析()を実施したところ, 本事例の関連株55株は, 5つのパターン(A~E)に分類された。A, BおよびCに属する52株はPFGEのバンドの違いは0~3本の間であることから集団感染事例と考えられたが, DおよびEに属する3株は前述の52株とは7本以上のバンドの違いであり, 集団感染事例とは考えられなかった。別の事例株2株と本事例株は7本以上のバンドの違いがあり, 異なるPFGEパターンを示した。さらに本事例の55株について, 薬剤感受性試験を実施したところ, 調べた12薬剤(ABPC, CTX, GM, KM, SM, TC, CPFX, NA, ST, AMPC/CVA, CPおよびFOM)のうちABPCおよびSMに耐性, FOMに対して中間と耐性を示し, 他の薬剤に対しては感性であった。

3.行政対応

保健所は, 当該保育所に対して施設内の消毒の実施, 適切な手洗いの実施, 終息までのビニールプールの使用中止および園児や職員の健康観察等の感染予防対策について指導を行った。家族内の感染拡大防止のため, 全園児の保護者に対して, 家庭内における感染予防対策についての文書を配布した。また, 有症者を早期に発見し治療を行うため, 保健所は初発患者の発生時に医師会小児科医会の協力のもと医療機関に情報提供を行った。さらに保健所は, 当該保育所, 該当保育所を所管する市(保育所主管課と健康課)および医師会と協議会を設置し, 登園基準等の関連情報の共有を行った。

4.考 察

EHECは微量の菌数でも感染が成立するため, 感染が拡大しやすく, 特に保育所等の小児関連施設での集団感染事例が報告されている。また, EHEC O26による集団感染事例は, 無症状病原体保有者が50%程度と多いことが知られており1), 本事例もEHEC O26が検出された56人のうち有症者は18人, 無症状病原体保有者は38名(67.9%)であり, 半数以上が無症状病原体保有者であった。患者の主な症状は下痢や水様便で, 溶血性尿毒症症候群等の重篤な症状を呈する者は認められなかった。本事例の感染拡大の要因の一つは, 無症状病原体保有者が多かったことが考えられる。無症状病原体保有者は, 菌を排出しているにもかかわらず登園しており, 二次感染が発生したと推察される。保育所における感染拡大防止のためには, 日常の健康観察, 排便後や食事前の適切な手洗い, 保育室やトイレ等の環境消毒, ビニールプールやおもちゃ等の衛生管理を厳格に実施することが重要である2)。また, 集団感染事例が発生した際には, 保育所, 該当する市町村および医師会と連携し, 診断, 感染拡大防止策の徹底,登園基準等の情報を共有することが必要と考えられる。

 

参考文献
  1. 坂上和弘ら, IASR 37: 92-93, 2016
  2. 2012年改訂版 保育所における感染症対策ガイドライン, 厚生労働省, 平成24年11月

 

福岡県南筑後保健福祉環境事務所
 上野詩歩子 黒岩祥子 若松倫子 熊本サチ子 永岡貴美子 長岡章次
 寺松孝二 畔野征子 梅崎みどり 吉田まり子 松尾美智代
福岡県保健環境研究所
 濱崎光宏 中山志幸 世良暢之

腸管出血性大腸菌感染症【更新情報】
















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