国立感染症研究所

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A型肝炎 2015年~2019年3月現在

(IASR Vol. 40 p147-148:2019年9月号)

A型肝炎は, ピコルナウイルス科(Picornaviridae)ヘパトウイルス属(Hepatovirus)のA型肝炎ウイルス(hepatitis A virus: HAV)感染による急性感染症である。HAVの血清型は1種類で, 遺伝子型により6つ(I~VI型)に分類される。ヒトから検出されるのは遺伝子I~III型のウイルスで, それぞれがAとBのサブグループに分けられる。HAVは, 汚染された食物や水の摂取によって, または感染者との直接的な接触によって伝播する。上下水道等, 衛生環境が整備された先進国においては, A型肝炎の大規模な集団発生は稀になったが, 男性間性交渉者(men who have sex with men: MSM)や注射薬物使用者(persons who inject drugs: PWID)の間で発生があることが知られる。

わが国では「A型肝炎」は, 2003年11月の感染症法改正で4類感染症となり, 無症状病原体保有者を含め全症例の届出が義務づけられている(届出基準はhttps://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-04-03.html)。

A型肝炎の潜伏期間は2~6週間(平均4週間)で, 臨床症状は38℃以上の発熱, 全身倦怠感, 食欲不振, 頭痛, 筋肉痛, 腹痛などの症状に続き, 黄疸, 肝腫大などの肝症状が出現する(本号3ページ)。患者は加齢とともに重症化の割合が増える。ウイルス特異的な治療法はないが, 一般に予後良好で(致命率<0.5%), 2~3カ月で自然治癒し, 慢性化することはない。5歳以下の小児では約90%が不顕性感染であり, 成人では90%が顕性感染である。一度感染すると終生免疫が得られる。HAVは発症前約2週間~発症後数カ月まで長期に便中に排出されるため, 感染者は発症前から感染源となり得る。

感染症発生動向調査

わが国では感染症法施行以後で年間を通して情報が得られるようになった2000~2017年までは年平均266例(範囲115~502例)のA型肝炎患者が報告されていたが(https://www.niid.go.jp/niid/ja/survei/2085-idwr/ydata/8116-ydata2017.html)(図1), 2018年は, 届出患者数が926例(暫定値)に達した(本号4ページ)。2019年は3月現在で115例(暫定値)であった(表1)。

推定感染地:2015年~2019年3月に報告された1,839例の感染地域のほとんど(約85%)は国内であった(図2)。国外感染例は年平均60例程度が報告されており(表1), 累積256例のうち, 主な渡航先はフィリピン58, タイ22(複数国訪問1を含む), 台湾20, 韓国15, インドネシア14, カンボジア14, インド13, ベトナム13, パキスタン12などであった。

推定感染経路:2015年~2019年3月に報告され, 2018年報告分を除いた913例のうち660例(72%)の推定感染経路は経口感染とされ, 同性間性的接触による感染とされた例は27例(3%)であった。一方, 2018年(926例)については, 349例(38%)が経口感染とされ, 同性間性的接触による感染とされた例が396例(43%)であり, 経口感染による感染とされた例数を上回った。

性別年齢分布:2015年~2019年3月に報告され, 国内を推定感染地域とされた患者1,556例のうち, 男性は1,196例(77%), 女性は360例(23%)であった(図1)。男性の多さは, 同性間性的接触による感染が増加した2018年全体(男性833例: 90%, 女性93例:10%)の影響を受けた。患者年齢中央値について, 2015年は46歳, 2016年は49歳, 2017年は40歳, 2018年は37歳, 2019年(3月まで)は47歳であった。

遺伝子型を中心とした流行状況のまとめ

厚生労働省は平成22年4月26日付および平成31年2月6日付通知に基づき, 各自治体に分子疫学的解析のための患者糞便検体の確保と積極的疫学調査への協力の周知・徹底を依頼した(本号4ページ)。2018年12月には, A型肝炎ウイルス検出マニュアルが改定され(https://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/HAV181207.pdf), 検査の効率化が図られた。国立感染症研究所と自治体(地方衛生研究所・保健所)が行ったHAVの塩基配列解析結果より(表2), 2017年は東京都, 長野県, 宮崎県を中心に, 輸入冷凍アサリとの関連が疑われた2017年流行株(遺伝子型IA)の発生が認められた(IASR 39: 25-26, 2018)。この株は現在も散発的に報告されている。過去20年間で最も報告数の多い年となった2018年の流行の中心は, 2015年以降, 台湾, ヨーロッパでアウトブレイク(本号5ページ)を引き起こしたRIVM-HAV16-090株(遺伝子型IA)であることが確認された(本号4, 6, 78ページ)。この株の感染者数は2018年後半には減じたものの, 完全な終息には至っていない。2018年12月~2019年2月にかけては, これまでの報告とは異なるクラスターに分類されるJP-HAV19-00758株(遺伝子型IA)が, 東北を中心に一過性に報告された(本号9ページ)。共通の原因食材の究明には至らなかった。

感染対策・予防

HAVは酸や乾燥にも耐性であることから, 患者の排泄物や汚染食品等の適切な処理, 手洗いを始めとする衛生管理の徹底, 十分な加熱調理(85℃, 1分以上), 塩素剤等による消毒などにより, 感染源・感染経路対策を行うことが重要である。

A型肝炎はワクチンにより, 長期間の発症予防が期待できる。国内承認の不活化A型肝炎ワクチンは適用の年齢制限は無く,世界保健機関(WHO)の勧告に従って1歳以上からの接種が薦められている。高侵淫国・地域への旅行者, 医療従事者, 慢性肝疾患患者, MSMやPWID等のA型肝炎の高リスク者にあっては, ワクチン接種を受けることが望ましい(本号11ページ)。

2013~2017年に採血された国内健常人血清を対象に行った疫学調査の結果, 全人口の約80%, 60歳未満の99%がHAV感受性者であると推定された(図3)。2018年のA型肝炎の発生状況は, 感受性集団におけるHAV感染リスクへの対応の必要性を示した。この流行を受け, 厚生労働省から「A型肝炎報告数増加に伴う注意喚起について(協力依頼)」(平成30年7月18日健感発0718第2号)が地方自治体, 医師会, 感染症関連学会等へ発出された。また, 医療機関によるMSMへの積極的なA型肝炎ワクチン接種の推奨や自治体と連携した民間団体等によるA型肝炎に対する学習会等が実施された(本号4ページ)。

A型肝炎は潜伏期間が長く, 感染源や感染経路の特定は困難であるが, 分子疫学的解析によりその推定を補強することが可能である。ウイルス排泄期間も長いため, 感染拡大防止や集団発生に対する迅速な対応には, 患者届出の徹底, 二次感染予防指導, 聞き取り調査や積極的疫学調査によるデータ集積が重要である。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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