国立感染症研究所
2012 年 9 月以降、世界では、中東地域に居住または渡航歴のある者を中心に中東呼吸器症候群(MERS)の患者が報告されている。2019 年 10月 29日現在、日本での報告例はない。ヒトコブラクダが MERS-CoV の主宿主であり、ヒトへの感染源となっているが、限定的なヒト-ヒト感染が、感染対策が不十分な医療施設や家族内を中心に確認されている。2015 年、韓国では中東で感染した 1 人の MERS 患者を発端として、主に医療機関で感染が拡大し、計186 名の確定患者が報告された。サウジアラビアでも院内感染による患者の報告が断続的に報告されている。
わが国では、中東呼吸器症候群(MERS)は 2015 年 1 月 21 日付けで、感染症法上の 2 類感染症に追加された。また、平成 27 年 (2015 年)9 月 18 日健感発 0918 第 6 号により、MERS に罹患した疑いのある患者が発生した場合の情報提供を求めてきた。2015 年 9 月19 日以降これまでに、渡航歴、接触歴、症状などから MERS の検査を実施した事例があった。これら全ての患者に、アラビア半島またはその周辺の国への渡航歴があり、接触歴については、ヒトコブラクダの騎乗や生乳摂取、MERS 患者との接触の疑い等であったが、結果は全て陰性であった。
2019年9月30日現在、WHOへ報告されたMERSの確定患者は計2468例であるが、そのうち84%(2077例)はサウジアラビア王国(以下、サウジアラビア)から報告されている。同国はこれまで観光ビザを発給していなかったが、2019年9月28日から日本を含む49か国へ観光ビザの発給を開始したことから、今後、同国への邦人の渡航者数が増加する可能性がある。また、無症候のMERS-CoV感染に関する知見が蓄積されてきた。これらをうけ、日本におけるMERS発生に関するリスク評価を更新した。
続きはPDF版をご覧ください(黄色が更新部分)。
国立感染症研究所
2012年9月以降、世界では、中東地域に居住または渡航歴のある者を中心に中東呼吸器症候群(MERS)の患者が報告されている。2017年6月16日現在、日本での報告例はない。ヒトコブラクダがMERS-CoVの主宿主であり、ヒトへの感染源となっているが、限定的なヒト-ヒト感染が、感染対策が不十分な医療施設や家族内を中心に確認されている。2015年、韓国では中東で感染した1人のMERS患者を発端として、主に医療機関で感染が拡大し、計186名の確定患者が報告された。サウジアラビアでも院内感染による患者の報告が断続的に報告されている。わが国では、中東呼吸器症候群(MERS)は2015年1月21日付けで、感染症法上の2類感染症に追加された。
また、平成27年9月18日健感発0918第6号(以 下「平成27年9月18日通知」)により、MERSに罹患した疑いのある患者が発生した場合の情報提供を求めてきた。2015年9月19日以降これまでに、渡航歴、接触歴、症状などからMERSの検査を実施した事例があったが、結果は全て陰性であった。全ての患者にアラビア半島またはその周辺の国への渡航歴があった。接触歴については、ラクダの騎乗、ヒトコブラクダの騎乗と生乳摂取、MERS患者との接触の疑い等であった。これらの所見から、これまでのMERS疑似症の定義では、蓋然性が低い患者もMERS疑似症として取り扱われていたことが推察される。
続きはPDF版をご覧ください。
MERSは2012年に中東へ渡航歴のある症例から発見された新種のコロナウイルスによる感染症である。2013年7月23日現在、アラビア半島およびヨーロッパ、チュニジアにおいて合計90人からウイルスが検出され、うち45人が死亡している。ヨーロッパとチュニジアからの報告例は、いずれもアラビア半島へ滞在した者あるいはその接触者であった。感染すると2〜15日の潜伏期を経て、重症の肺炎、下痢、腎障害等を引き起こす。感染者は50歳代前後で多く、60歳以上での致死率は高い。死亡例のほとんどは糖尿病や心肺疾患などの他の慢性疾患を患っていた。このウイルスに対抗するための特別な治療薬やワクチンは無く、集中治療室管理などの対症療法となる。ヒトからヒトへの感染は限定的で、家族や病院での濃厚接触による感染報告はあるものの、市中において肺炎患者から肺炎患者を連続的に生じさせるような「持続的なヒトからヒトへの感染」は起こっていない。今のところ地域流行に留まっていると言えるが、一方でウイルスが検出されたにもかかわらず全く症状を示さない不顕性感染も報告されており、病原体の広がりは定かでない。世界保健機関(WHO)は関係国と情報のやり取りを行い、リスク評価を行なっているが、今のところ国際的な緊急事態には至っていないと判断し、渡航制限などにつながる警戒水準の引き上げはおこなっていない。
2014年6月9日
国立感染症研究所
2012年9月22日に英国よりWHOに対し、中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から後にMiddle East Respiratory Syndrome Coronavirus(MERSコロナウイルス)と命名される新種のコロナウイルス(以下、MERS-CoV)が分離されたとの報告があって以来、中東地域に居住または渡航歴のある者、あるいはMERS患者との接触歴のある者において、このウイルスによる中東呼吸器症候群(MERS)の症例が継続的に報告され、医療施設や家族内等において限定的なヒト-ヒト感染が確認されている。
以上のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいており、症例情報は、基本的に世界保健機関(WHO)からの公式情報(http://www.who.int/csr/disease/coronavirus_infections/MERS_CoV_Update_09_May_2014.pdf)を参照してまとめている。なお、事態の展開にあわせて、リスクアセスメントを更新していく予定である。
(2014年7月25日)
国立感染症研究所感染症疫学センター
国立国際医療研究センター病院国際感染症センター
本稿では、中東呼吸器症候群(MERS)(以下「MERS」という。)・鳥インフルエンザ(H7N9)(以下「H7N9」という。)の疑似症患者と患者(確定例)に対して行う院内感染対策の概要について、これまでに明らかになっている情報に基づいて記載する1)2)3)。これらは現時点での暫定的な推奨であり、今後得られる情報に応じて適宜改訂していくものである。
なお、MERS・H7N9の疑似症患者と患者(確定例)の届出基準は以下のホームページを参照されたい。
厚生労働省「感染症法に基づく医師の届出のお願い」
・中東呼吸器症候群(MERS)
・鳥インフルエンザ(H7N9)
(2014年7月25日)
国立感染症研究所感染症疫学センター
国立国際医療研究センター病院国際感染症センター
中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)患者(疑似症患者を含む)は感染症指定医療機関へ搬送されることが想定される。一般医療機関において、中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)患者が発生した場合、又はそのような医療機関に患者が直接来院した場合等には、車両等による患者搬送が行われる。患者搬送においては、感染源への曝露に関する搬送従事者の安全確保と、搬送患者の人権尊重や不安の解消の両面に立った感染対策を行うことが重要である。
基本的な考え方は、搬送従事者が、標準予防策・ 接触感染予防策・飛沫感染予防策・空気感染予防策を必要に応じて適切に実施し、患者に対して過度な隔離対策をとらないように適切に判断することである。
謝辞)本稿作成にあたっては、東北大学大学院医学系研究科 感染制御・検査診断学分野にご協力をいただいた。
付表1 患者搬送に必要な器材(注1)
サージカルマスク | 適宜(搬送従事者用、搬送患者用) |
N95マスク | 搬送従事者の数 ×2 (注2) |
手袋 | 1箱 |
フェイスシールド(またはゴーグル)、ガウン | 搬送従事者数 ×2 (注2) |
手指消毒用アルコール製剤 | 1個 |
清拭用資材・環境用の消毒剤 | タオル、ガーゼ等で使い捨てできるものを用意 |
感染性廃棄物処理容器 その他、ビニールシート等 |
注1: ただし、本付表は、車両による搬送を想定したものであり、船舶や航空機等を使用する場合は適宜修正して用いる必要がある。
注2:N95マスク、フェイスシールド(またはゴーグル)、ガウンは、予備も含め搬送従事者あたり2つずつ準備する。
2013年11月5日
国立感染症研究所
以下のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいており、新たな情報により内容を更新していかなければならない。事態の展開にあわせてリスクアセスメントを更新していく予定である。なお、症例情報は、基本的には世界保健機関(WHO)からの公式情報を使用してまとめた。
2012年9月22日に英国よりWHOに対し、中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から後にMiddle East Respiratory Syndrome Coronavirus(MERSコロナウイルス)と命名される新種のコロナウイルス(以下、MERS-CoV)が分離されたとの報告があって以来、中東地域に居住ないし渡航歴・接触歴のある者において、このウイルスによる重症呼吸器疾患の症例が継続的に報告され、限定的なヒト-ヒト感染も確認されている。
9月25日までの133例の症例情報によると、感染経路の情報のある129例のうち33例(26%)は院内感染の可能性があり、医療従事者の感染は全体で23例(17%)であった。2013年3~5月と6~9月の期間における致命率はそれぞれ63%(25/40)、33%(25/77)と低下傾向にある。また、18例(14%)の無症候あるいは軽症例が報告されている[6]。
感染源となる可能性がある動物に関する検討
ヒトからの分離ウイルスについての検討
2015年6月4日
国立感染症研究所
2012年9月22日に英国よりWHOに対し、中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から後にMiddle East Respiratory Syndrome Coronavirus(MERSコロナウイルス)と命名される新種のコロナウイルス(以下、MERS-CoV)が分離されたとの報告があって以来、中東地域に居住または渡航歴のある者、あるいはMERS患者との接触歴のある者において、このウイルスによる中東呼吸器症候群(MERS)の症例が継続的に報告され、医療施設や家族内等において限定的なヒト-ヒト感染が確認されている。
2012年9月から2013年10月までにWHOに報告された161例(検査確定例144例と可能性例17例)の臨床像の解析では、軽症例から急性呼吸促迫症候群(ARDS)を来たす重症例まである。典型的病像は、発熱、咳嗽等から始まり、急速に肺炎を発症し、しばしば呼吸管理が必要となる。全症例の63.4%が重症化し、44.1%が肺炎を発症した。また、ARDSの合併は12.4%に認められた。少なくとも3分の1の患者は嘔吐、下痢などの消化器症状を呈した[1]。
WHOは、国際保健規則(IHR)に基づく対応として、これまでにMERSに関する緊急委員会を計8回開催している(第1回2013年7月9日、第2回7月17日、第3回9月25日、第4回12月4日、第5回2014年5月13日、第6回6月17日、第7回10月1日、第8回2015年2月4日)。直近の第8回緊急委員会では、感染経路についてはこれまで同様、持続的なヒト-ヒト感染を示す証拠はなく、現状は「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)」には至っていないが、依然として国際的な拡大が懸念されるとした。確定例が発生している国に対して、MERS-CoVに変異の有無の監視、ヒトと動物におけるサーベイランス、基本的な感染症予防策の実施、医療従事者に対する教育、リスクコミュニケーションによる市民・医療従事者・政策決定者への啓発、ヒトと動物分野の保健当局の協力の強化、IHRに基づく通告の徹底を要請している。 http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2015/8th-mers-emergency-committee/en/
以上のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいており、症例情報は、基本的に世界保健機関(WHO)からの公式情報 DON http://www.who.int/csr/don/en/)および(Weekly Epidemiological Report WER http://www.who.int/wer/2015/wer9020.pdf)、Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) in the Republic of Korea (http://www.who.int/mediacentre/news/situation-assessments/2-june-2015-south-korea/en/ )を参照してまとめている。なお、事態の展開にあわせて、リスクアセスメントを更新していく予定である。
2014年5月26日
国立感染症研究所
2012年9月22日に英国よりWHOに対し、中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から後にMiddle East Respiratory Syndrome Coronavirus(MERSコロナウイルス)と命名される新種のコロナウイルス(以下、MERS-CoV)が分離されたとの報告があって以来、中東地域に居住または渡航歴のある者、あるいはMERS患者との接触歴のある者において、このウイルスによる中東呼吸器症候群(MERS)の症例が継続的に報告され、医療施設や家族内等において限定的なヒト-ヒト感染が確認されている。
2015年7月17日
国立感染症研究所
2012年9月22日に英国よりWHOに対し、後にMiddle East Respiratory Syndrome Coronavirus(MERSコロナウイルス)と命名される新種のコロナウイルス(以下、MERS-CoV)が中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から分離されたと報告された。その後、中東地域に居住または渡航歴のある者、あるいはMERS患者との接触歴のある者において、MERS-CoV感染による中東呼吸器症候群(MERS)の症例が継続的に報告され、医療施設や家族内等において限定的なヒト-ヒト感染が確認されている。
以上のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいており、症例情報は、基本的に世界保健機関(WHO)からの公式情報 (Disease Outbreak News DON http://www.who.int/csr/don/en/ および Weekly Epidemiological Report WER http://www.who.int/wer/2015/wer9020.pdf)を参照してまとめている。なお、事態の展開にあわせて、リスクアセスメントを更新していく予定である。