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新型コロナワクチン接種後に新型コロナウイルス感染症と診断された症例に関する積極的疫学調査(第一報)

(速報掲載日 2021/7/21) (IASR Vol. 42 p167-170: 2021年8月号)
 

 国立感染症研究所(感染研)では、感染症法第15条第2項の規定に基づいた積極的疫学調査として、新型コロナワクチン接種後に新型コロナウイルス感染症と検査診断された症例(ワクチン接種後感染症例)に関する調査を行っている。本調査の目的は、主に1)ワクチン接種後感染の実態把握、2)ワクチンにより選択された(可能性のある)変異株の検出、3)ワクチン接種後感染者間でのクラスターの探知、の3点である。本報告は、この調査の2021年6⽉30⽇時点における疫学的・ウイルス学的特徴の暫定的なまとめである。なお、本調査および報告では、ワクチン接種後感染の発生割合やワクチンの有効性については評価していない。

国立感染症研究所
2021年7⽉17⽇ 12:00 時点

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懸念される変異株(VOCs)と注目すべき変異株(VOIs)について

WHOは、2021年7月6日の週報で、変異株の分類を変更した。B.1.427/B.1.429系統の変異株(イプシロン型)、P.2系統の変異株(ゼータ型)、P.3系統の変異株(シータ型)をVOIから“さらなる監視のための警告(Alerts for Further Monitoring※)”に変更した。

※さらなる監視のための警告(Alerts for Further Monitoring):
ウイルスの特性に影響を与えると思われる遺伝子変化を持つSARS-CoV-2変異株(variant)で、将来的にリスクをもたらす可能性が示唆されているが、表現型や疫学的な影響の証拠は現時点では不明であり、監視を強化し、新たな証拠が出るまで評価を繰り返す必要があるもの。

国内でも、B.1.427/B.1.429系統(イプシロン型)の検出は1例にとどまっていることから、VOIからは除外することとした。P.3系統の変異株(シータ型)についても、国内で検出がないことから、同様にVOIからは除外することとした。また、R.1系統の国内発生は著しく減少傾向にあり、公衆衛生的なインパクトは限られていると考えられることから、VOIからは除外することとした。いずれにしても、ゲノムサーベイランス等で引き続き国内外の動向を注視していく。

国内でのVOCs/VOIsの検出状況については、感染症発生動向調査感染週報(IDWR; https://www.niid.go.jp/niid/ja/idwr.html)にて報告しているので参考にされたい。

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新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 2021年5月現在

(IASR Vol. 42 p135-136: 2021年7月号)

 

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の原因ウイルスである重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)は, コロナウイルス科ベータコロナウイルス属に分類され, 約30,000塩基からなる1本鎖・プラス鎖RNAゲノムを持つ。受容体(アンジオテンシン変換酵素Ⅱ:ACE2)を使ってヒトの細胞に吸着・侵入する。エンベロープを持ち, アルコール, 界面活性剤等により不活化される。

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SARS-CoV-2のN501Y変異とE484K変異の同時スクリーニングのための工夫―秋田県

(IASR Vol. 42 p152-153: 2021年7月号)

 

 目下のところ, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のVOC(懸念される変異株)への対応として, 2021年1月22日に国立感染症研究所(感染研)から送付されたTaqMan assayを基本原理とするPCR検査プロトコール*が用いられ, N501Y変異の検出をターゲットとしたスクリーニングが実施されている。N501Y変異は英国型変異株(アルファ株)の特徴であるが, さらにE484K変異を併せ持つ南アフリカ型(ベータ株)とブラジル型変異株(ガンマ株)もスクリーニングで検出される。一方で, 現時点での報告対象とはなっていないが, N501Y変異がなくE484K変異のみを有するウイルス(R.1系統)が関東から東北にかけて広がりつつある。R.1系統は, 現行のスクリーニングでは検出できず, 感染研のゲノム解析で判明することが多い。今回, 我々は現行プロトコールに最小限度の改変を加えることでE484K変異の検出能を付加する工夫(秋田の変法)を行ったので報告する。

IDWRchumoku 注目すべき感染症 ※PDF版よりピックアップして掲載しています。

◆直近の新型コロナウイルス感染症およびRSウイルス感染症の状況(2021年7月2日現在)

 

新型コロナウイルス感染症:

 2019年12月、中華人民共和国湖北省武漢市において確認され、2020年1月30日、世界保健機関(WHO)により「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」を宣言され、3月11日にはパンデミック(世界的な大流行)の状態にあると表明された新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、2021年7月2日15時現在、感染者数(死亡者数)は、世界で182,593,342例(3,954,868例)、196カ国・地域(集計方法変更:海外領土を本国分に計上)に広がった(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_19631.html)。

国立感染症研究所
(掲載日:2021年7月8日)

2021年2月14日にファイザー製の新型コロナワクチン(以下、ワクチン)が製造販売承認され、2月17日から医療従事者等を対象に予防接種法に基づく臨時接種が始まりました。4月12日からは高齢者等への接種が始まり、6月1日からは接種対象が「16歳以上」から「12歳以上」に変更になりました。5月21日には、武田/モデルナ製及びアストラゼネカ製のワクチンが製造販売承認され、武田/モデルナ製のワクチンは5月24日から高齢者等を対象に接種が始まりました。また、6 月 17 日からは 18~64 歳の人も 対象に加えられました。さらに、6月21日からは職域接種も始まっています。

7月1日現在の接種回数は、医療従事者等 12,475,044回、一般接種(高齢者含む)35,366,445回でした(図1)。

今回は、変異株に対するワクチン有効性および海外での感染者数とワクチン接種回数の関係、最近のトピックスについて概要をまとめました。

covid19 vaccine 20210702

図1 回数別・製造販売企業別医療従事者、一般(高齢者含む)の接種状況(首相官邸、厚生労働省ホームページ公表数値より作図)
 
【本項の内容】
  • 海外のワクチン接種の進捗と感染状況の推移・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2
  • 懸念される変異株(VOCs)に対するワクチン有効性について・・・・・・・・ 10
  • 新型コロナワクチンと心筋炎・心膜炎について・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
  • 現在、海外で実施されている新型コロナワクチンの臨床試験について・・・18

新型コロナワクチンについて(2021年7月2日現在)

 

国立感染症研究所
2021年7月6日18:00時点

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要約

  • WHOはC.37系統の変異株(ラムダ株)(以下、C.37系統(ラムダ株)、と記載。他の変異株の表記も同様に略)を注目すべき変異株(VOIs; Variant of Interest)に位置付けた。検疫・国内では報告がないため、現時点ではVOCs/VOIsへの位置付けは行わず、ゲノムサーベイランスで発生動向を注視していく。
  • 国内の新型コロナウイルスは、懸念される変異株(VOCs; Variant of Concern)の一つであるB.1.1.7系統の変異株(アルファ株)にほぼ置き換わったが、B.1.617.2系統の変異株(デルタ株)が国内でも増加しつつある。
  • B.1.617.2系統から派生してAY.1、AY.2、AY.3系統が新たに分類され、国内でもAY.1系統が確認されている。当面はVOCsであるデルタ株の一部として発生動向を注視する。

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SARS-CoV-2検出検査のRT-qPCR法と抗原定量法の比較

(IASR Vol. 42 p126-128: 2021年6月号)

 
はじめに

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の検出について, 神戸市健康科学研究所も含め全国の地方衛生研究所ではRT-qPCR法で行っている。RT-qPCR法は, RNA抽出を伴い, 核酸の扱いなどの技術習得が必要で, 検体搬入から結果判定までに約4~5時間を要する。一方で, 抗原定量検査は化学発光酵素免疫測定法(CLEIA)を用いた検査法で, RT-qPCR法と比較して技術習得が容易であり, 測定時間が35分~1時間程度と短い。また, 抗原定性検査であるイムノクロマト法と比較して, 検体の抗原量を特定できること, および相対的に感度が高いことが利点として挙げられる。しかしながら, 検出感度に関するデータが蓄積されていないため, 低い値が出た際の判定に苦慮することがあった。そこで, 当研究所に搬入された唾液および鼻咽頭ぬぐい液の各検体について, RT-qPCR法と抗原定量法の方法の比較を行った。

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COVID-19感染報告者数に基づく簡易実効再生産数推定方法

(IASR Vol. 42 p128-129: 2021年6月号)

 
はじめに

 実効再生産数(effective reproduction number: Rt)は「(ある時刻tにおける, 一定の対策下での)1人の感染者による二次感染者数」と定義され1), 現在流行が拡大期にあるのか収束に向かっているのかを評価する疫学指標の1つとして重要である。2019年末からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行に際しては, 世界各国・地域で流行状況を評価する指標として活用されている。しかし厳密なRtの計算には数学に関する知識やプログラミングの技術を必要とすることから, 必ずしもそうした技能を有する人材がいるとは限らない現場での活用は進んでいない。本稿では, 高度な専門知識を要さずに日ごとのCOVID-19陽性者数を使って簡便にRtの近似値を算出する方法を紹介し, その精度を検討した。

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積極的疫学調査の情報に基づく新型コロナウイルス感染症の2次感染時期の分布

(IASR Vol. 42 p129-130: 2021年6月号)

 
はじめに

 感染者(一次感染者)の発症日を起点として, 感染者が被感染者(二次感染者)と接触し感染させた時点までの日数の分布から, 感染性を有する期間を推定することができ, 濃厚接触者を定義するうえで有用な情報となる。本稿では, 感染者-被感染者のペアごとに算出した日数の分布を2次感染時期(infectiousness profile)と呼ぶこととする(図1)。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の2次感染時期を数理モデルで推定した海外の報告では, 感染者の潜伏期間中(つまり発症日以前)に接触した場合でも感染しうるとされており, 発症2日前までの接触者を濃厚接触者とすることが多い。しかし, 国内外の実測データを用いた報告はほとんどない。そこで今回, 福岡市で実施された積極的疫学調査の情報を用いて2次感染時期を推定したので報告する。

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