令和4年1月27日

国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター

【背景・目的】

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている。国内においては、オミクロン株についての知見が不十分であったため、2022年1月4日までは、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症患者(オミクロン株症例)については、隔離解除のため核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認を行ってきた。国立感染症研究所(感染研)と国立国際医療研究センター 国際感染症センターにおいて、関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条の規定に基づきオミクロン株症例の積極的疫学調査を行っている。この調査報告の第1報として、新型コロナワクチン2回接種から14日以上経過している者(以降、「ワクチン接種者」と記載)における感染性ウイルス排出期間を検討し、発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆された。この報告に基づき、2022年1月5日にワクチン接種者においては、退院基準を非オミクロン株症例と同様の取扱いとすることとなった1。また、1月13日に第2報として、新型コロナワクチン未接種者(以降、「ワクチン未接種者」と記載)のオミクロン株症例におけるウイルス排出期間を呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)を用いて比較したところ、ワクチン接種者に比べて長期化する可能性を示唆するデータは得られなかったことを報告し、この報告に基づき、1月14日ワクチン接種の有無に関わらず、退院基準・解除基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取り扱いとしている2。第2報以降に無症状病原体保有者(以降、「無症状者」と記載)の検体が集積されたことから無症状者における呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)とウイルス分離の結果を検討し報告する。

1「B.1.1.529系統(オミクロン株)の感染が確認された患者等に係る入退院及び濃厚接触者並びに公表等の取扱いについて」(令和3年11月30日付け(令和4年1月5日一部改正)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡(https://www.mhlw.go.jp/content/000876461.pdf

2「B.1.1.529系統(オミクロン株)の感染が確認された患者等に係る入退院及び濃厚接触者並びに公表等の取扱いについて」(令和3年11月30日付け(令和4年1月14日一部改正)厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡(https://www.mhlw.go.jp/content/000876461.pdf

【方法】

対象症例および検体採取

対象は検疫および国内で検出されたオミクロン株感染確定症例として、経過中に臨床目的もしくは研究目的で採取された(陰性を含む)すべての呼吸器検体(唾液および鼻咽頭スワブ)の残余検体について、感染研にてリアルタイムRT-PCRを実施した。採取の目安としては、SARS-CoV-2感染の初回陽性検体の検体採取日(本稿では便宜的に「診断日」と定義する)を0日目としてそこから、(1)0-1日目、(2)3-5日目、(3)6-8日目、(4)9日目以降、(5)退院時陰性検体(2回分)とした。

核酸抽出およびリアルタイムRT-PCR

RNAは唾液および鼻咽頭拭い液検体200 µLからMaxwell RSC miRNA Plasma and Serum kitもしくはMagMAX Viral/Pathogen Nucleic Acid Isolation Kitを用いて抽出した。新型コロナウイルスN2領域をターゲットとしたプライマー/プローブセット(N2セット)とOne Step PrimeScript™ III RT-qPCR Mixを用いてリアルタイムRT-PCRによりウイルスRNA量(Cq値)を測定した。陰性と判定された検体についてCq値45を代入して解析した。

分離試験

検体と分離用培地を混和し、VeroE6/TMPRSS2細胞に接種/培養を行い、接種後3日、5日に細胞変性効果の有無を評価した。また、細胞変性効果が見られた時点もしくは5日目に培養上清を回収し、リアルタイムRT-PCRにてSARS-CoV-2の確認試験を実施し、ウイルス分離の判定を行った。

【結果】

対象症例の属性

2022年1月14日までに検体搬入された対象症例は、20例(ワクチン接種者:10例;ワクチン未接種者:10例)であった。年齢中央値28歳(四分位範囲9-45歳)(ワクチン接種者:40歳 (29-49歳);ワクチン未接種者:9歳(9-23歳))、男性12例(60%)、女性8例(40%)(ワクチン接種者:男性7例、女性3例;ワクチン未接種者:男性5例、女性5例)であった。

リアルタイムRT-PCR

診断日からの期間別のウイルスRNA量(Cq値)を図に示す。Cq値は日数が経過するにつれて上昇傾向であった。また、ウイルスRNAの検出症例割合は日数が経過するにつれて減少していたが、8日目以降も検出されていた(表)。

分離試験

診断日からの期間を以下に分けて分離の可否を表に示す。診断0~5日目 までは多くの症例でウイルス分離可能であったが、診断6日目以降はウイルス分離可能な症例は減少していき、診断8日目以降はウイルス分離可能な症例は認めなかった(表)。

covid19 70

図. 無症状者のオミクロン株症例における呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の日数別推移

無症状者のオミクロン株症例におけるウイルスRNA量(Cq値)の診断からの日数別推移。赤線は中央値と四分位範囲を示す。

 

表. 無症状者のオミクロン株症例におけるウイルスRNA検出症例数および割合と分離可能症例数および割合(診断からの日数別)

診断からの日数

RNA検出症例数および割合n (%)

分離可能症例数および割合 n (%)

0-5日目

14/16 (87.5)

9/16 (56.3)

6-7日目

11/13 (84.6)

2/13 (15.4)

8-11日目

15/18 (83.3)

0/18 (0)

12日目以降

5/15 (33.3)

0/15 (0)

【考察】

本報告では、無症状者のウイルス排出期間を検討した。無症状者においても呼吸器検体中のウイルスRNA量は診断後経時的に減少傾向であった。診断8日目以降もRNAは持続的に検出されたが、ウイルス分離可能な症例は診断6日目以降に減少し、診断8日目以降にウイルス分離可能な症例は認めなかった。今回の検討では解析症例数が少ないことや、無症状者においては状況によって診断されるタイミングが大きく異なることから、本結果のみで無症状者のオミクロン株症例におけるウイルス感染動態の全体像を理解することは困難である。ただし、診断6日目以降、ウイルス分離可能な症例が漸減していき、診断8日目以降にウイルス分離可能な症例が検出されなかったことから、無症状者における感染性ウイルス排出の可能性は、診断6日目から8日目にかけて大きく減少していくことが示唆された。

本報告の制限として、症例数が少ないこと、無症状者は診断される状況によって感染から診断まで時間が異なる可能性があるということ、ウイルス分離試験の結果は検体の採取方法・保管期間・保管状態等に大きく依存することから、陰性の結果が検体採取時の感染者体内に感染性ウイルスが存在しないことを必ずしも保証するものではないことなどが挙げられる。

注意事項

迅速な情報共有を⽬的とした資料であり、内容や⾒解は知見の更新によって変わる可能性がある。

謝辞

本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は, 次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。

大阪市立総合医療センター、国際医療福祉大学成田病院、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、国立病院機構長良医療センター、国立病院機構福岡東医療センター、市立ひらかた病院、東京都保健医療公社豊島病院、東京都立駒込病院、東京都立墨東病院、成田赤十字病院、りんくう総合医療センター(五十音順)

発出元

国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター

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新型コロナウイルス感染症患者鼻腔・鼻咽頭ぬぐい液および唾液検体における新型コロナウイルス分離培養の比較解析―富山県衛生研究所

(IASR Vol. 43 p20-22: 2022年1月号)

 
はじめに

 富山県では以前, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性検体を培養細胞に添加してウイルス分離を行い, 感染性の有無を評価し, リアルタイムPCRによるCt値との相関について解析した1)。評価する過程で, 鼻腔・鼻咽頭ぬぐい液検体においては効率よくウイルスが分離されたものの, 唾液検体からは分離できないものが多かった。本研究では, SARS-CoV-2のPCR検査のために当所に持ち込まれ, SARS-CoV-2が陽性であることが確認された鼻腔・鼻咽頭ぬぐい液と唾液の臨床検体を用いて, ウイルスの分離率の比較を行った。また, 鼻腔・鼻咽頭ぬぐい液および唾液に既知のウイルスゲノム量のSARS-CoV-2を添加して作製した模擬検体を用い, 培養細胞に接種して検体種ごとのウイルス分離率の比較も行った。鼻腔・鼻咽頭ぬぐい液や唾液中のSARS-CoV-2の感染性について明らかにできれば, 今後の感染予防対策にも繋がることが期待される。

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新型コロナワクチン接種率100%の高齢者施設におけるCOVID-19ブレイクスルー感染集団事例

(IASR Vol. 43 p22-23: 2022年1月号)

 
はじめに

 福井県における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)第5波の期間(2021年7月20日~10月14日)において, 県内の高齢者施設(施設)で計39例のCOVID-19症例の集積が確認された。当該施設の全職員62名, 入所者68名(A階の居室:29名, B階の居室:39名)は2021年4~7月に2回のワクチン接種を終え, ワクチン接種率は100%であったにもかかわらずクラスターが発生し, いわゆるブレイクスルー感染集団発生事例であった。今回, ブレイクスルー感染のクラスターがどのような状況, 環境下において発生したのかを明らかにし, 今後の対策に資するため, 実地疫学調査を行ったので, その結果について報告する。

国立感染症研究所
(掲載日:2022年1月20日)

2022年1月12日現在、国内ではファイザー製、武田/モデルナ製、アストラゼネカ製の新型コロナワクチン(以下、ワクチン)が使用されています。ファイザー製と武田/モデルナ製の接種対象は12歳以上で、アストラゼネカ製の接種対象は原則40歳以上です。

また、2021年12月1日から18歳以上の者を対象として、ファイザー製ワクチンによる追加接種(3回目接種)が始まり、2021年12月17日からは、武田/モデルナ製ワクチンも追加接種(3回目接種)可能となりました。2回目接種と3回目接種の接種間隔は下記に示すとおりです(表1)。

表1  2回目接種と3回目接種の接種間隔
対象 2022年1月 2022年2月 2022年3月以降
医療従事者等や高齢者施設等の入所者等 6か月 6か月 6か月
その他の高齢者 8か月 7か月 6か月
(前月より1か月短縮)
64歳以下 8か月 8か月 7か月

※ なお、自治体によっては上記スケジュールから前倒しになることがあります。

初回接種(1回目・2回目接種)で使用したワクチンとは異なる種類のワクチン(ファイザー製、武田/モデルナ製)で追加接種すること(交互接種)も可能です。なお、武田/モデルナ製ワクチンによる追加接種は、初回接種の半量で実施する必要があるため注意が必要です(初回接種:1回0.5mL、追加接種:1回0.25mL)。

米国では2021年10月29日、5~11歳の小児に対するファイザー製ワクチン(以下、小児用ファイザー製ワクチン)の緊急使用許可( Emergency Use Authorization:EUA )が承認されました。2021年11月2日に開催された予防接種の実施に関する諮問委員会(Advisory Committee on Immunization Practices:ACIP)で5~11歳への接種推奨が決まり、11月3日~12月19日までに約870万回の接種が実施されました(1)。国内では2021年11 月 10 日に小児用ファイザー製ワクチンの薬事申請がなされ、現在審査中ですが、各自治体で接種開始に向けた準備が進められています。なお、小児用ファイザー製ワクチンは12歳以上用とは生理食塩水での希釈量 (小児用:1.3mL、12歳以上用:1.8mL)、1回接種量(小児用0.2mL、12歳以上用0.3mL)、1バイアルの接種可能人数(小児用10人分、12歳以上用6人分)、保存及び移送方法が異なるため、別の種類のワクチンとして区別して扱う必要があります(2)。

2022年1月14日現在の国内での総接種回数は2億178万6,647回で、このうち高齢者( 65歳以上 )は6,601万8,696回、職域接種は1,933万3,787回でした。2022年1月14日時点の1回以上接種率は全人口(1億2,664万5,025人)の79.9%、2回接種完了率は78.6%、3回接種完了率は0.9%で、高齢者の1回以上接種率は、65歳以上人口(3,548万6,339 人)の92.5%、2回接種完了率は92.1%でした。

2022年1月11日公表時点の年代別接種回数別被接種者数と接種率/接種完了率( 図1 )を示します。また、新規感染者数と累積接種割合についてまとめました( 図2 )。

図1 年代別接種回数別被接種者数・接種率/接種完了率(首相官邸ホームページ公表数値より作図):2022年 1月 11日公表時点

注)接種率は、VRSへ報告された、一般接種(高齢者を含む)と先行接種対象者(接種券付き予診票で接種を行った優先接種者)の合計回数が使用されており、使用回数には、首相官邸HPで公表している総接種回数のうち、職域接種及び先行接種対象者のVRS未入力分である約1000万回分程度が含まれておらず、年齢が不明なものは計上されていません。また、年齢階級別人口は、総務省が公表している「令和3年住民基本台帳年齢階級別人口(市区町村別)」のうち、各市区町村の性別及び年代階級の数字を集計したものが利用されており、その際、12歳~14歳人口は10歳~14歳人口を5分の3したものが使用されています。

図2 日本_新規感染者数と累積接種割合の推移 [データ範囲:2020年1月22日~2022年1月10日]
下記データより作図.
Roser M, Ritchie H, Ortiz-Ospina E and Hasell J. (2020) - "Coronavirus Pandemic (COVID-19)". Published online at OurWorldInData.org. Retrieved from: 'https://ourworldindata.org/coronavirus' [Online Resource](閲覧日2022年1月12日)

参考文献

  1. Hause AM, et al. COVID-19 Vaccine Safety in Children Aged 5–11 Years — United States, November 3–December 19, 2021.MMWR Weekly. 70(5152);1755–1760, 2021.
  2. 厚生労働省健康局健康課予防接種室(2021年11月16日事務連絡). 5歳以上11歳以下の者への新型コロナワクチン接種に向けた接種体制の準備について. https://www.mhlw.go.jp/content/000856528.pdf(閲覧日2022年1月12日)

今回は、下記の内容について、最近のトピックスをまとめました。

【本項の内容】

  • 海外のワクチン接種の進捗と感染状況の推移・・・・・・・・・ 4
  • 懸念される変異株(VOCs)に対するワクチン有効性について・・・11
  • 交互接種(初回シリーズで使用したワクチンと異なる種類のワクチンによる追加接種)について・・・・16
  • 小児に対するワクチン接種について(更新情報)・・・・・・・・18

 

新型コロナワクチンについて(2022年1月14日現在)

令和4年1月13日
令和4 年1月20日 誤記訂正
国立国際医療研究センター 国際感染症センター

【背景・目的】

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている。国内においては、新型コロナウイルス感染症患者は感染症法または検疫法に基づいて入院措置等が行われる。オミクロン株についての知見が不十分であったため、2022年1月4日までは、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症患者(オミクロン株症例)については、オミクロン株以外による新型コロナウイルス感染症患者(非オミクロン株症例)と異なる退院基準・解除基準が設定されており、核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認が必要とされていた。しかし、この退院基準では入院期間が長期化し、患者及び医療機関等の負担となっていたことから、オミクロン株症例のウイルス排出期間等について早急に明らかにする必要があった。厚生労働省、国立感染症研究所(感染研)において、国立国際医療研究センター国際感染症センター及び関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条第2項の規定に基づきオミクロン株症例の積極的疫学調査を行っている。本調査において、新型コロナワクチン2回接種から14日以上経過している者(以降、「ワクチン接種者」と記載)における感染性ウイルス排出期間を検討し、発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆され、1月5日に第1報として報告するとともに、同日、厚生労働省より事務連絡(https://www.mhlw.go.jp/content/000876461.pdf)が発出され、ワクチン接種者においては、退院基準・解除基準を非オミクロン株症例と同様の取扱いとすることとなっている。しかし、新型コロナワクチン未接種者(以降、「ワクチン未接種者」と記載)におけるオミクロン株症例においては知見が得られなかった。第1報以降、ワクチン未接種者におけるオミクロン株症例の呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の推移を検討したため、これを示す。

【方法】

対象症例および検体採取

対象は検疫および国内で検出されたオミクロン株感染確定症例として、経過中に臨床目的もしくは研究目的で採取された(陰性を含む)すべての呼吸器検体(唾液および鼻咽頭スワブ)の残余検体について、感染研にてリアルタイムRT-PCRを実施した。採取の目安としては、SARS-CoV-2感染の初回陽性検体の検体採取日(本稿では便宜的に「診断日」と定義する)を0日目としてそこから、(1)0-1日目、(2)3-5日目、(3)6-8日目、(4)9日目以降、(5)退院時陰性検体(2回分)とした。

核酸抽出およびリアルタイムRT-PCR

RNAは唾液および鼻咽頭拭い液検体200 µLからMaxwell RSC miRNA Plasma and Serum kitもしくはMagMAX Viral/Pathogen Nucleic Acid Isolation Kitを用いて抽出した。新型コロナウイルスN2領域をターゲットとしたプライマー/プローブセット(N2セット)とOne Step PrimeScript™ III RT-qPCR Mixを用いてリアルタイムRT-PCRによりウイルスRNA量(Cq値)を測定した。陰性と判定された検体のCq値は45を代入して解析した。

【結果】

対象症例の属性

2022年1月7日までに登録された対象症例は、47例のべ265検体(ワクチン接種者:36例(210検体);ワクチン未接種者:11例(55検体))であった。年齢中央値31歳(四分位範囲24.5-47歳)(ワクチン接種者:38歳 (29-47歳);ワクチン未接種者:9歳(9-26歳))、男性33例(70%)、女性14例(30%)(ワクチン接種者:男性26例、女性10例;ワクチン未接種者:男性7例、女性4例)であった。退院までの全経過における重症度は、無症状が10例(21%)、軽症が36例(77%)、中等症Ⅰが1例(2%)であった(ワクチン接種者:無症状6例、軽症29例、中等症Ⅰ 1例;ワクチン未接種者:無症状4例、軽症7例)。ICU入室・人工呼吸器管理・死亡例はいなかった。

リアルタイムRT-PCR

診断日からの期間別のウイルスRNA量(Cq値)を図Aに示す。Cq値は日数が経過するにつれて上昇傾向であった。また、ウイルスRNA検出検体の割合も日数が経過するにつれて、減少していた()。さらに、有症状者と無症状者において、ワクチン未接種者の検体とワクチン接種者の検体のウイルスRNA量を比較したところ、発症もしくは診断から0〜9日および発症もしくは診断10日以降において、ワクチン未接種者とワクチン接種者の呼吸器検体中のウイルスRNA量に違いは認めなかった(図B)。

67 fig1 図. ワクチン未接種/ワクチン接種者のオミクロン株症例における呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の日数別推移

(A) ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルスRNA量(Cq値)の診断からの日数別推移。赤線は中央値と四分位範囲を示す。
(B) ワクチン未接種者とワクチン接種者のオミクロン株症例におけるウイルスRNA量(Cq値)の比較(有症状者および無症状者)赤線は中央値と四分位範囲を示す。ns: 統計学的有意差なし(一元配置分散分析とHolm-Sidak 検定)

 

表.ワクチン未接種のオミクロン株症例におけるウイルスRNA検出検体数および割合(診断からの日数別)

診断からの日数 RNA検出検体数
および割合n (%)
0-2日目 7/11 (63.6)
3-6日目 11/13 (84.6)
7-9日目 7/13 (53.8)
10-13日目 3 /10 (30.0)
14日目以降 1/8 (12.5)

【考察】

本報告では、ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス排出期間を検討した。ワクチン未接種者においても呼吸器検体中のウイルスRNA量は日数が経過するにつれて減少傾向であった。さらに、有症状者と無症状者において、ワクチン未接種者とワクチン接種者の呼吸器検体中のウイルスRNA量を比較したところ、発症もしくは診断から0〜9日、および発症もしくは診断10日以降において、両者のウイルスRNA量に違いは認めなかった。

現時点で検討した症例数はワクチン未接種者11例と限られているが、ワクチン未接種者でのウイルス排出期間がワクチン接種者に比べて長期化する可能性を示唆するデータは得られなかった。今回の検討では解析症例数が少ないことから、ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス感染動態の全体像を理解することは困難であるが、ワクチン未接種者においてもワクチン接種者と同様に、無症状者および軽症者においては発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いと考えられた。 本報告の制限として、解析した症例数が少ないこと、調査対象者は無症状者及び軽症者が大部分を占め特にワクチン未接種者においては若年者が調査対象であったこと、ウイルス分離の結果が得られておらず感染性ウイルスの有無が不明であることなどが挙げられる。

注意事項

本報は迅速な情報共有を⽬的としており、調査は継続しているため、内容や⾒解は知見の更新によって更新される可能性がある。

謝辞

本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は, 次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。

大阪市立総合医療センター、国際医療福祉大学成田病院、国立国際医療研究センター、東京都立駒込病院、長良医療センター、成田赤十字病院、りんくう総合医療センター(五十音順)

発出元

国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター

 


[訂正]
令和4 年1月20日 誤記(2か所)を訂正しました。
 
【背景・目的】
発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを
 →
発症または診断10日以降に感染性ウイルスを
 
【考察】
発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを
 →
発症または診断10日以降に感染性ウイルスを

 

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沖縄県におけるSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)症例の実地疫学調査報告

(速報掲載日 2022/1/11)(IASR Vol. 43 p37-40: 2022年2月号)
 
はじめに

 2021年11月24日に南アフリカ共和国から世界保健機関(WHO)へ最初の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)新規変異株B.1.1.529 系統(オミクロン)感染例が報告された。12月21日までに日本を含め世界106カ国から感染例が報告され、各地でオミクロン株の感染拡大がみられている1)

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札幌市立小中学校における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行状況とその拡大因子の解析

(速報掲載日 2022/1/7)(IASR Vol. 43 p35-37: 2022年2月号)
 

 国内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者数は、新型コロナワクチン接種率の向上等により低下し、高齢者施設等でのクラスター発生数も減少してきている。一方で新型コロナワクチン接種ができない、または進んでいない20代以下では感染者数が増加し、それに伴い学校では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者発生に対する適切な対策が求められている。そこで、2020年2月1日〜2021年9月15日の期間に発生した、札幌市立小中学校に通う児童・生徒、教職員等のCOVID-19事例を解析し、小中学校におけるSARS-CoV-2感染拡大要因について検討した。なお、札幌市では2021年7月より市立小中学校教職員を新型コロナワクチンの優先接種の対象にした。また、8月20日からは12~15歳の市民に新型コロナワクチン接種券を送付して同年齢層の市民にも新型コロナワクチン接種を開始したが、9月15日までに2回目接種を完了した同年齢市民の割合は約0.4%であった。COVID-19の流行以降、市立小中学校の児童・生徒、教職員等にSARS-CoV-2感染者が発生した場合、原則、感染者が発生した学級を学級閉鎖とし、同時に学級全員・接触のあった教員に発症の有無を問わずPCR検査を行ってきた。また、2021年3~6月までは、市衛生研究所や民間検査機関で検出されたSARS-CoV-2はB.1.1.7系統(アルファ株)が主流であり、B.1.617.2系統(デルタ株)の2021年6~ 9月までの月別検出割合は各0.2%、44%、74%、86%と増加していた。

令和4年1月5日
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター

英語版

【背景・目的】

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている。国内においては、新型コロナウイルス感染症患者は感染症法または検疫法に基づいて入院措置等が行われる。オミクロン株についての知見が不十分であるため、令和4年1月4日現在、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症患者(オミクロン株症例)については、オミクロン株以外による新型コロナウイルス感染症患者(非オミクロン株症例)と異なる退院基準が設定されており、核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認が必要とされている。しかし、現在の退院基準では入院期間が長期化し、患者及び医療機関等の負担となる可能性があることから、オミクロン株症例のウイルス排出期間等について明らかにする必要がある。

国立感染症研究所(感染研)では、関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条の規定に基づき、オミクロン株症例の積極的疫学調査を行っており、本調査の一環として、感染性持続期間を検討している。本稿では、この暫定報告として、国内のオミクロン株症例の呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の推移と感染性ウイルスの検出期間を示す。

【方法】

対象症例および検体採取

対象は検疫および国内で検出されたオミクロン株感染確定症例で、経過中に臨床目的もしくは研究目的で採取された(陰性を含む)すべての呼吸器検体(唾液および鼻咽頭スワブ)の残余検体について、感染研にてリアルタイムRT-PCRおよびウイルス分離試験を実施した。採取の目安としては、SARS-CoV-2感染の初回陽性検体の検体採取日(本稿では便宜的に「診断日」と定義する)を0日目としてそこから、(1)0-1日目、(2)3-5日目、(3)6-8日目、(4)9日目以降、(5)退院時陰性検体(2回分)とした。

核酸抽出およびリアルタイムRT-PCR

RNAは唾液および鼻咽頭拭い液検体200 µLからMaxwell RSC miRNA Plasma and Serum kitもしくはMagMAX Viral/Pathogen Nucleic Acid Isolation Kitを用いて抽出した。新型コロナウイルスN2領域をターゲットとしてOne Step PrimeScript™ III RT-qPCR Mixを用いてリアルタイムRT-PCRによりCq値を測定した。陰性と判定された検体のCq値は45を代入して解析した。

分離試験

検体と分離用培地を混和し、VeroE6/TMPRSS2細胞に接種/培養を行い、接種後3日、5日に細胞変性効果の有無について評価した。また、細胞変性効果が見られた時点もしくは5日目に培養上清を回収し、リアルタイムRT-PCRにてSARS-CoV-2の確認試験を実施し、ウイルス分離の判定を行った。

【結果】

対象症例の属性

2021年12月22日までに登録された対象症例は、21例のべ83検体であった。年齢中央値33歳(四分位範囲 29-47歳)、男性19例(90%)、女性2例(10%)であった。ワクチン3回接種は2例(10%)で、その内訳はファイザー社製のワクチン3回の1例とジョンソンエンドジョンソン社製のワクチンの後にファイザー社製のワクチン2回接種した1例であった。そのほかはファイザー社製のワクチン2回が8例(38%)、武田/モデルナ社製のワクチン2回が9例(43%)、未接種者はいずれも未成年で2例(10%)であった。ワクチン2回接種から2週間以内の経過の者はいなかった。 退院までの全経過における重症度は、無症状が4例(19%)、軽症が17例(81%)であった。中等症以上・ICU入室・人工呼吸器管理・死亡例はいなかった。

リアルタイムRT-PCR

診断日および(有症状者に限定して)発症日からの期間を以下に分けてCq値を図A, Bに示す。Cq値は診断日および発症日から3~6日の群で最低値となり、その後日数が経過するにつれて、上昇傾向であった。診断または発症10日目以降でもRNAが検出される検体は認められ、Cq値20台の検体を2例認めたが、いずれも症状消失後2日以内の検体であった。

66 fig1 図. オミクロン株症例におけるCq値の日数別推移

(A) オミクロン株症例におけるCq値の診断からの日数別推移
(1)0-2日目、(2)3-6日目、(3)7-9日目、(4)10-13日目、(5)14日目以降
(B) オミクロン株症例におけるCq値の発症からの日数別推移(有症状者に限定した発症からの日数別)
(1)-1-2日目、(2)3-6日目、(3)7-9日目、(4)10-13日目、(5)14日目以降

分離試験

診断日および(有症状者に限定して)発症日からの期間を以下に分けて分離の可否をに示す。診断日および発症日からの日数が3~6日目の群でウイルス分離可能な割合は最も高く、その後は減少傾向であった。特に、診断および発症10日目以降、ウイルス分離可能な症例は認めなかった。また未成年患者検体からもウイルス分離は可能であった。PCR陰性でウイルス分離された検体は認めなかった。

表.オミクロン株症例におけるRNA検出および分離の可否

(A)ウイルスRNA検出検体数および割合と分離可能検体数および割合(診断からの日数別)

診断からの日数 RNA検出検体数   および割合n (%) 分離可能検体数    および割合n (%) PCR陽性検体のうち分離可能検体数および割合n (%)
0-2日目 20/21 (95.2) 2/21 (9.5) 2/20 (10.0)
3-6日目 14/17 (82.4) 7/17 (41.2) 7/14 (50.0)
7-9日目 17/18 (94.4) 2/18 (11.1) 2/17 (11.8)
10-13日目 4/15 (26.7) 0/15 (0) 0/4 (0)
14日目以降 5/12 (41.7) 0/12 (0) 0/5 (0)

(B)ウイルスRNA検出検体数および割合と分離可能検体数および割合(有症状者に限定した発症からの日数別)

発症からの日数 RNA検出検体数   および割合n (%) 分離可能検体数    および割合n (%) PCR陽性検体のうち分離可能検体数および割合n (%)
-1-2日目 15/16 (93.8) 2/16 (12.5) 2/15 (13.3)
3-6日目 8/8  (100) 4/8 (50.0) 4/8 (50.0)
7-9日目 16/16 (100) 3/16 (18.8) 3/16 (18.8)
10-13日目 7/12 (58.3) 0/12 (0) 0/7 (0)
14日目以降 4/10 (40.0) 0/10 (0) 0/4 (0)

(C)無症状者のウイルスRNA検出検体数および割合と分離可能検体数および割合

陽性からの日数 RNA検出検体数   および割合n (%) 分離可能検体数    および割合n (%) PCR陽性検体のうち分離可能検体数および割合n (%)
0-5日目 6/6 (100) 3/6 (50.0) 3/6 (50.0)
6-9日目 3/4 (75.0) 0/4 (0) 0/3 (0)
10日目以降 1/10 (10) 0/10 (0) 0/1 (0)

【考察】

本報告では、国内のオミクロン株症例における感染性持続期間を検討した。

オミクロン株症例において、Cq値は診断日および発症日から3~6日の群で最低値となり、その後日数が経過するにつれて、上昇傾向であった。診断または発症10日目以降でもRNAが検出される検体は認められたが、ウイルス分離可能な検体は認めなかった。これらの知見から、2回のワクチン接種から14日以上経過している者で無症状者および軽症者においては、発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆された。

本調査の制限として、ワクチン接種歴のある者が大多数であったこと、無症状者及び軽症者が調査対象であったことなどが挙げられる。また、ウイルス分離試験の結果は検体の採取方法・保管期間・保管状態等に大きく依存することから、陰性の結果が検体採取時の感染者体内に感染性ウイルスが存在しないことを必ずしも保証するものではないことに注意が必要である。

注意事項

迅速な情報共有を⽬的とした資料であり、内容や⾒解は知見の更新によって変わる可能性がある。

謝辞

本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は, 次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。

国立国際医療研究センター、りんくう総合医療センター(五十音順)

発出元

国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター

2021年12月28日

1.背景と目的

2021年11月22日現在、新型コロナワクチン(Pfizer/BioNTech製、武田/Moderna製、AstraZeneca製)の2回接種率は全年齢の76.2%、高齢者では91.3%を占める(1) 。これらのワクチンの有効性 (vaccine effectiveness) は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染と死亡それぞれに対して報告がなされている。従来株と比較するとデルタ株による感染に対するワクチン有効性の低下が報告されているが、それでも英国からの報告ではPfizer/BioNTech製ワクチンの感染に対する有効性は80%以上とされており(2)、国内においても暫定報告ではあるが、デルタ株流行期の感染に対する有効性が87%と報告されている(3)。感染防御の一方で、現行のmRNAワクチンは細胞性免疫の誘導が期待されるとされ、重症化や死亡から防ぐ効果が十分にあるものと期待される。しかし、ワクチン接種後のCOVID-19死亡症例数が非常に少なく、解析に足る症例数を確保することが少数施設による研究では難しい。死亡に対するワクチン有効性に関する国内での報告は未だなされていない。

さらに症例致命リスク(confirmed Case Fatality Risk、CFR)は、疾患の病原性を示す感染致命リスク (Infection Fatality Risk)の代用として重要な疫学指標であるが、2021年のCOVID-19流行における国内のCFRの報告は未だなされていない。

そこで本稿では、東京都のCOVID-19患者に関する公開情報と新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)という2つのサーベイランスデータを用いて死亡回避のワクチン有効性とCFRを、数理モデルを用いて同時推定した。

2.方法

(1) データ

2020年10月1日から2021年11月15日までに東京都から個票レベルで公表された陽性例の年代、診断日情報、死亡例の年代 (30〜50歳代、60歳代、70歳代、80歳代、90代以上)、診断日、死亡日情報を用いた。報告遅れの影響を受けないために陽性例に関しては診断日が2021年8月31日まで、死亡例に関しては死亡日が2021年8月31日までの症例を解析対象とした。また死亡例に関しては、COVID-19診断から死亡日までの日数が60日以内である症例に限定した。陽性例、死亡例の疫学週ごとのワクチン接種者割合についてはHER-SYSを用いた。ワクチン接種歴の情報は完璧ではなく、中にはその欠損を認めた。そのため、HER-SYSにおける接種歴不明症例に関しては、年代、診断月、症状有無、死亡有無を用いて単一代入法を行うことで接種歴有無を推定した。

(2) 時刻ごとの年代別のCFRと死亡を回避するワクチン有効性の同時推定

年代別CFRと死亡を回避するワクチン有効性を推定するために、以下の二項分布を用いた数理モデルを構築した。

65 fig1

ここで、65 eq0が各年齢群を示すときに65 eq1は仮想死亡日における陽性者数であり、診断日における陽性者件数データを、年代別の診断から死亡までの時間遅れ分布を用いて畳み込みを行うことで得た。65 eq2は死亡日における死亡者数データである。推定パラメータはワクチン未接種群の年齢群別CFR、1回接種、2回接種それぞれにおける感染者の死亡回避のワクチン有効性65 eq3であり、無情報事前分布を置いてベイズ推定を行った。またこのとき得られた感染者における死亡を回避するワクチン有効性の事後分布と、西浦ら(4)により報告された日本におけるCOVID-19の感染に対するワクチン有効性の推定値を用いて、ワクチン接種による感染と死亡の両方に対する有効性(感染あるいは死亡のいずれかを回避する有効性)を推定した。

3.結果

表1に年代別の死亡回避のワクチン有効性を示す。30〜50代では死亡数が少ないために推定値が低く、信用区間も広くなっているが、60〜80代の感染者における死亡を回避するワクチン有効性は60代、70代、80代、90代以上で、それぞれ88.6%(95% 信用区間 64.3%–98.1%)、83.9%(68.8%–92.9%)、83.5(72.5%–91.0%)、77.7%(60.7%–89.4%)と推定された。過去の報告による感染防御のワクチン有効性と合わせると、ワクチンによる感染か死亡のいずれかを回避する有効性は30〜50代で93.8%(90.3%–98.2%)、60代以上では97%以上と推定された。

また死亡回避のワクチン有効性と同時推定された年代別のワクチン未接種者のCFRを図1に示す。70代以上の高齢者において8月にCFRの増加傾向を認めた一方で60代以下では同傾向はみられなかった。年代別の日別CFR中央値の観察期間内における最小値と最大値は、30〜50代、60代、70代、80代、90代以上で、それぞれ最小値0.14%、1.30%、3.12%、6.81%、8.87%、最大値1.02%、5.37%、13.76%、27.08%、41.16%となった。全体として、年代が上がるにつれてCFRが増加する傾向がみられた。

表1. 2021年1月1日から年8月31日までに診断された者の間における年代別の死亡に対するワクチン有効性の推定値
   年代 有効性(%) (95% 信用区間)
*1回接種
(Partially vaccinated)
**2回接種
(Fully vaccinated)
感染者において死亡を回避する有効性 30-50代 34.2 (2.2-71.4) 38.0 (2.6-82.4)
60代 66.1 (33.0-85.4) 88.6 (64.3-98.1)
70代 38.2 (7.3-63.8) 83.9 (68.8-92.9)
80代 46.4 (17.9-68.7) 83.5 (72.5-91.0)
90代以上 52.7 (19.6-76.6) 77.7 (60.7-89.4)
感染あるいは死亡を回避する有効性 30-50代 68.7 (53.5-86.4) 93.8 (90.3-98.2)
60代 83.9 (68.1-93.0) 99.2 (97.4-99.9)
70代 70.6 (55.9-82.8) 99.3 (98.6-99.7)
80代 74.5 (60.9-85.1) 99.4 (98.9-99.6)
90代以上 77.5 (61.8-88.8) 98.4 (97.1-99.2)

*ワクチン1回接種(Partially vaccinated)とは、ワクチン1回目接種から診断日までの日数が14日以上であり、ワクチン2回目未接種または2回目接種から診断日までの日数が14日未満の症例を指す。HER-SYSにおける疫学週毎のワクチン1回接種割合の算出においては、ワクチン接種日不明のワクチン1回接種あり、かつ2回目未接種症例は全てワクチン1回接種とみなした。

**ワクチン2回接種(Fully vaccinated)とは、ワクチン2回目接種から診断日までの日数が14日以上である症例を指す。HER-SYSにおける疫学週毎のワクチン2回接種割合の算出においては、ワクチン接種日不明のワクチン2回接種あり症例は全てワクチン2回接種とみなした。

4.考察

本稿では国内の新型コロナワクチンの死亡を回避する有効性を、サーベイランスデータを用いて初めて推定した。診断された感染者における死亡に対するワクチン有効性は、およそ80%程度の推定値を示した。これらの結果は、ブレイクスルー感染が起きたとしてもワクチン接種により死亡という重大な転帰を防ぐことが出来るということを示唆している。さらに感染と死亡の両方を回避する有効性は特に60代以上では98%以上と推定され、非常に高い有効性であると考えられた。これらの結果は、今後さらに多くの人々へのワクチンを普及する上でワクチン接種のメリットを示す重要な知見であると考えられる。諸外国の報告としては、イスラエルにおけるコホート研究でのPfizer/BioNTech製ワクチンの死亡を回避する有効性が98%(95% 信頼区間 96%-99%)(5)、米国におけるコホート研究でのModerna製ワクチンの病院死亡を回避する有効性が98%(67%-100%)(6)であり同等の結果となっている。また高齢になるにつれて死亡予防効果が低下するという傾向も既報と矛盾しない結果であった(5)。

さらに本稿では年代別のCFRを時刻別に推定した。過去の報告と同様(7)に年代が上がるにつれてCFRが増加するという結果が得られたことに加え、CFRが時期ごとに変動したことも示された。特に高齢者において8月にCFRの増加傾向を認めた。CFRの時期ごとの変動に寄与する因子として診断バイアス (ascertainment bias)、延命措置希望人数の変動、基礎疾患や治療薬、ワクチン接種の有無、変異株の出現、医療逼迫による適切な治療へのアクセスへの低下が考えられる。今後はこれらの因子とCFRの関係について様々なデータソースを用いた多角的な検証が望まれる。

本研究において以下の制限が主に挙げられる。まず、本解析で用いられたワクチン接種歴の情報はHER-SYSデータが用いられているが、解析対象期間におけるHER-SYSのワクチン接種歴情報は、入力者が何も入力しない場合に接種歴「なし」と自動記載される仕様になっていたため、接種歴不明が過小評価されている可能性がある。ただし、陽性者、死亡者に占めるワクチン2回接種あり症例の割合は、一般人口においてワクチン接種が進捗するのと同時に経時的に増えており(参考)、8月の流行が最も厳しく保健所や病院の業務負荷が最も増大していたと考えられた時期においても同様の傾向が見られたことから、ワクチン接種歴ありの入力率はある程度保たれていたと推察された。2つ目の制限として、本解析では解析対象期間中に東京都内において流行した変異株(アルファ株、デルタ株)や新たに使用が開始された治療薬(カシリビマブ及びイムデビマブ)等の影響を考慮出来ていないことが挙げられる。ただし、治療薬に関してはワクチン接種者、未接種者において東京都内といった限定した地域での治療薬の使用の有無の傾向に違いがあるとは考えにくく、死亡に対するワクチン有効性の推定には影響を与えないと考えられる。3つ目の制限として、本解析はサーベイランスデータを用いており、症例ごとの基礎疾患等の重症化リスク因子を考慮出来ていない点が挙げられる。

これらの制限を考慮してもなお本研究は、ブレイクスルー感染後のCOVID-19死亡症例の数が非常に少なくコホート研究や症例対象研究のデータの収集に時間がかかる中で、サーベイランスデータを用いてワクチン接種による死亡回避効果を国内で初めて推定した点で重要であると考えられる。さらに日本における2021年のCOVID-19における年代別のCFRを時刻別に初めて示し、一つの実証的エビデンスを提示することに成功した。今後は死亡に対するワクチン有効性についてより詳細な登録症例を活用した前向き・後ろ向き研究が求められ、またCFRの短期または長期変動に影響する因子の究明に対する多角的な検証が期待される。

5.参考文献

  1. 政府CIOポータル、新型コロナワクチンの接種状況 [Internet]. Available from: https://cio.go.jp/c19vaccine_dashboard
  2. Lopez Bernal J, Andrews N, Gower C, Gallagher E, Simmons R, Thelwall S, et al. Effectiveness of Covid-19 Vaccines against the B.1.617.2 (Delta) Variant. N Engl J Med. 2021;385(7):585–94.
  3. 国立感染症研究所. 新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第二報):デルタ株流行期における有効性. 2021年11月9日. [Internet]. Available from: https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10757-covid19-61.html
  4. サーベイランスデータに数理モデルを適用することによる新型コロナワクチンBNT162b2(Pfizer/BioNTech)の有効性の推定(第1報) [Internet]. Available from: https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10618-covid19-56.html
  5. Glatman-Freedman A, Bromberg M, Dichtiar R, Hershkovitz Y, Keinan-Boker L. The BNT162b2 vaccine effectiveness against new COVID-19 cases and complications of breakthrough cases: A nation-wide retrospective longitudinal multiple cohort analysis using individualised data. EBioMedicine [Internet]. 2021;72:103574. Available from: https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2021.103574
  6. Bruxvoort K, Sy LS, Qian L, Ackerson BK, Luo Y, Lee GS, et al. Real-World Effectiveness of the mRNA-1273 Vaccine Against COVID-19: Interim Results from a Prospective Observational Cohort Study. SSRN Electron J [Internet]. 2021;100134. Available from: https://doi.org/10.1016/j.lana.2021.100134
  7. COVID-19レジストリデータを用いた新型コロナウイルス感染症における年齢別症例致命割合について [Internet]. Available from: https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/10080-491p03.html

謝辞

本報告書の分析に用いたデータの収集にご協⼒いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に感謝申し上げます。本報告書は、東京感染症対策センター(東京iCDC)の協力のもとで作成されました。

報告書作成者

国立感染症研究所感染症疫学センター 髙勇羅、木下諒、鈴木基

国際医療福祉大学医学部 村山泰章

東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 山崎里紗

京都大学大学院医学研究科社会健康医学専攻 西浦博

  

図1:ワクチンの死亡予防効果と同時推定された年代別の致命リスク (case fatality risk, CFR) 。薄灰色は95% 信用区間を示す。

65 fig2 

参考:東京都における2021年1月1日から8月31日までの間の年代別の陽性者数、死亡者数(棒グラフ)とそれぞれに占めるワクチン2回接種者の割合(線グラフ)

65 fig3

 

 
IASR-logo

八尾市の外国人コミュニティにおける新型コロナウイルス感染症発生時の地域的なコミュニケーション支援等の体制強化(2021年3~4月)

(IASR Vol. 42 p290-291: 2021年12月号)

 
背 景

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に中国湖北省武漢市で発生した新興感染症である。世界保健機関(WHO)は, 3月11日にパンデミック(世界的な大流行)の状態にあることを表明した。2021年8月31日現在, 世界では累積症例数が約1.7億人, 死亡者数が約340万人1), 国内では2021年9月3日現在, 累積症例数が約152.1万人, 死亡者数が約1.6万人と報告されている2)。国内のCOVID-19クラスターにおいては, これまで外国人居住者における事例の発生が散見され, 予防啓発および発生時の対応に関して情報提供等の課題が指摘されてきた3)。本報告は, 大阪府八尾市の外国人を主体としたCOVID-19のクラスター発生下で実施された, 地域における外国人への情報提供や連携体制強化の取り組みから得られた所見に関して報告するものである。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan