2021年12月15日19:00時点

12月17日 一部修正

国立感染症研究所

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WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )

2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest ; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。

* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.ⅹ系統等が含まれる。

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要

PANGO

系統名

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

UK

HSA

US CDC

スパイクタンパク質の主な変異(全てのオミクロン株で認めるわけではない)

検出報告国・地域数

B.1.1.529

BA.x

VOC

VOC

VOC

VOC

 VOC

G142D, G339D, S371L, S373P, S375F, K417N, N440K, G446S, S477N, T478K, E484A, Q493K, G496S, Q498R, N501Y, Y505H

76か国

 

オミクロン株について

  •   オミクロン株は基準株と比較し、スパイクタンパク質に30か所程度のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ。)を有し、3か所の小欠損と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。このうち15か所程度の変異は受容体結合部位(Receptor binding protein (RBD); residues 319-541)に存在する(ECDC. Threat Assessment Brief)。各変異等の詳細については前稿を参照されたい。

 

海外での発生状況

  •   2021年11月24日に南アフリカからWHOへ最初のオミクロン株による感染例(以下オミクロン株感染例)が報告されて以降、12月14日までに日本を含め全世界76か国から感染例が報告された(WHO: Weekly epidemiological update on COVID-19 - 14 December 2021)。
  •   南アフリカでは2021年11月以降、SARS-CoV-2検査数、陽性例数、陽性率が増加傾向にある(National Institute for Communicable Diseases. COVID-19 TESTING SUMMARY WEEK 48 (2021))。ゲノムサーベイランスでは10月はデルタ株が85%(560/663)を占めていたが、11月は検査されたSARS-CoV-2陽性例のうち70%(250/358)がオミクロン株であった (National Institute for Communicable Diseases. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE (8 DEC 2021))。なお、12月9日までにアフリカでは、10か国からオミクロン株感染例が報告された(WHO. Omicron spreads but severe cases remain low in South Africa 09 December 2021 )。
  •   2021年12月14日時点でEU/EEA域内では、25か国から合計2,127例のオミクロン株感染例が報告された。このうち、複数の国で市中感染が示唆される事例が報告され、その数が増加している。情報を取得できた範囲では、オミクロン株感染例の EU/EEA域内での死亡は報告されていない (ECDC. Epidemiological update: Omicron variant of concern (VOC) – data as of 14 December 2021 (12:00))。
  •   2021年12月12日までにイングランドでは、1例の死亡例、10名の入院例を含む5,006例のオミクロン株感染例が報告された。イングランドでは11月23日の週以降、ウイルスゲノム解析または一部のPCRでオミクロン株においてはS遺伝子が検出されない(S gene target failure(SGTF)と呼ばれる)SARS-CoV-2感染例の報告数とその占める割合が増えている。12月13日までに確認された9,156検体のうち12月11日、12日に採取された2,202検体(24%)でSGTFを認めた。このSGTFを認めるSARS-CoV-2感染例の報告数・割合の増加傾向は概ねイングランド内のすべての地域で認められた(Omicron daily overview. 14 December 2021)。12月6日までに報告された254例(男性130例、女性124例)の解析では、性・年齢群別のオミクロン株感染例数は、男女共に20歳代~50歳代が全体の8割以上を占めた。オミクロン株感染例での渡航者ならびに渡航者との接触者の占める割合は減少し、市中感染が示唆される感染例が増加している。現状の速度で増加すると、オミクロン株感染例数は、12月中旬にはイングランドにおいて、デルタ株感染例数と同等となる見込みである(SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 31, 10 December 2021)。
  •   2021年12月8日時点でアメリカ合衆国では、22の州でオミクロン株感染例が報告されており、このうち複数の州で市中感染が示唆される事例が報告された。情報を取得できた43例の範囲では、1例の入院例が報告されており、死亡例は報告されていない (CDC. SARS-CoV-2 B.1.1.529 (Omicron) Variant — United States, December 1–8, 2021Early Release / December 10, 2021)。
  •   南アフリカ、EU/EEA域内、英国、アメリカ合衆国を含む世界各国からのオミクロン株感染例の報告が増加しており、複数の国・地域から市中感染の可能性が示唆される事例が報告されている。さらに、ゲノムサーベイランスの質が十分でない国・地域においては探知されていない輸入例が発生している可能性もあるため、現在感染例が探知されている国・地域よりもさらに広い範囲での感染拡大の可能性が懸念される。

日本での発生状況

  •   2021年12月15日までに海外からの帰国者または入国者において32例のオミクロン株感染例が報告された(2021年12月15日21時点)。オミクロン株感染例の滞在国は、アメリカ合衆国 9例、アラブ首長国連邦 1例、イギリス 4例、ナミビア 3例、コンゴ民主共和国 4例、ナイジェリア 2例、ペルー1例、イタリア 1例、モザンビーク 1例、スリランカ 1例、ケニア 1例、ジンバブエ 1例、タンザニア 1例、レソト 1例、複数国 1例だった。年齢は10歳未満 1例、20代 6例、30代 8例、40代 8例、50代 6例、60代 2例、70代 1例で、性別は男性 22例、女性 10例だった。(厚生労働省 2021年12月15日付報道発表資料 新型コロナウイルス感染症(変異株)の患者等の発生について(空港検疫))(厚生労働省 2021年12月13日付報道発表資料 新型コロナウイルス感染症(変異株)の患者等の発生について(空港検疫))(厚生労働省 2021年12月10日報道発表資料 新型コロナウイルスの新たな変異株「オミクロン株」の無症状病原体保有者の発生について)(厚生労働省 2021年12月8日報道発表資料 新型コロナウイルス感染症(変異株)の無症状病原体保有者について(空港検疫)厚生労働省 2021年12月6日報道発表資料 新型コロナウイルス感染症(変異株)の無症状病原体保有者について(空港検疫))(厚生労働省 2021年12月1日報道発表資料 新型コロナウイルス感染症(変異株)の無症状病原体保有者について(空港検疫))(厚生労働省 2021年11月30日報道発表資料 新型コロナウイルス感染症(変異株)の無症状病原体保有者について(空港検疫))( 厚生労働省 2021年12月11日報道発表資料 新型コロナウイルス感染症(変異株)の患者の発生について)。
  •   厚生労働省は、日本で確認されたオミクロン株陽性例について、感染症法第15条第2項に基づく積極的疫学調査を行っている。12月15日時点で情報が得られた16例の入院からの観察期間中央値は 4日(最小値 1日、最大値15日)で、観察期間中に継続して無症状が4例、残りの有症状の12例は軽症であった。10歳未満の1例を除く15例全員にワクチン2回接種歴があった。(ただし、現在国内で確認されているオミクロン株確定例は全例海外渡航歴があり、ワクチン接種率が比較的高い集団である可能性に留意する必要がある。)
  •   上記32例と同じ便に搭乗していた乗客について、全員を濃厚接触者として健康観察および定期的な検査を実施中である。
  •   12月15日時点で海外滞在歴のないオミクロン株感染例の報告はなく、過去にゲノムサーベイランスに提出された国内及び検疫検体においてオミクロン株は認めなかった。

 

ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見

 

オミクロン株については、現時点ではウイルスの性状に関する実験的な評価や疫学的な情報は限られている。国内外の発生状況の推移、重症度、年代別の感染性への影響、ワクチンや既存の治療薬の効果についての実社会での影響、既存株感染者の再感染のリスクなどへの注視が必要である。

 

  •    感染・伝播性
    •   南アフリカにおいて流行株がデルタ株からオミクロン株に急速に置換されていることから、オミクロン株の著しい感染・伝播性の高さが懸念される(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) , ECDC. Threat Assessment Brief)。
    •   南アフリカでは10月にウイルスゲノム解析された検体の84%がデルタ株であったが、11月には73%がオミクロン株であった(National Institute for Communicable Diseases. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE (3 DEC 2021))。ただしSGTFを認める検体(オミクロン株であることが疑われる検体)を優先的にウイルスゲノム解析しているのであれば、73%という値は過大評価である可能性がある。また、10月にはデルタ株の流行が減少していた時期でもあるため、解釈に注意が必要である。
    •   南アフリカでの予備的なデータによると、デルタ株に比べてオミクロン株の感染・伝播性はかなり高いと推測されている。モデリングによる予測ではオミクロン株は今後数カ月以内にEU/EEA域内におけるSARS-CoV-2感染の半数以上を占めるようになるとされている(ECDC. Threat Assessment Brief: Implications of the further emergence and spread of the SARS CoV 2 B.1.1.529 variant of concern (Omicron) for the EU/EEA first update 2 December 2021)。
    •   オミクロン株の感染・伝播性の評価に際しては、オミクロン株固有の感染・伝播性だけではなく、観察集団が過去の感染やワクチン接種によって獲得した免疫からの逃避効率を考慮し評価する必要がある。英国ではSGTFが占める割合の増加に基づく評価によりオミクロン株の倍加時間は2.4日と推定している。オミクロン株の免疫逃避効率が高い(デルタ株と比較して中和抗体価が12.8倍の低下)と仮定した場合は、オミクロン株の感染・伝播性はデルタ株と比較して5-10%低下していると推定される。一方、オミクロン株の免疫逃避効率が低い(デルタ株と比較して中和抗体が5.1倍の低下)と仮定した場合は、オミクロン株の感染・伝播性はデルタ株と比較して30-35%上昇していると推定される(Barnard, et al.)。
    •   英国において2021年11月15日から28日の間に検体を採取されたオミクロン株感染例121例とデルタ株感染例72,761例を対象としたコホート研究では、オミクロン株感染例からの家庭内二次感染率(Household secondary attack rate)はデルタ株感染例と比較して、調整なしオッズ比で2.6倍(95%信頼区間(CI)1.6–4.1)、年代、性別、ワクチン接種歴等で調整したオッズ比で3.2倍(95%CI 2.0–5.0)であった。また家庭外の二次感染も含んだ二次感染率は2.1倍(95%CI 1.5–2.8)と推定された(UK Health Security Agency: SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England. Technical briefing 31, 10 December 2021 UKHSA Technical Briefing 31)。

  •   ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や免疫からの逃避
    •   オミクロン株の有する変異は、これまでに検出された株の中で最も多様性があり、感染・伝播性の増加、既存のワクチン効果の著しい低下、及び再感染リスクの増加が強く懸念されるとしている (ECDC. Threat Assessment Brief) 。
    •   英国健康安全保障庁(UKHSA)は症例対照デザイン(test-negative design)を用いて、オミクロン株およびデルタ株感染による発症に対する、新型コロナワクチン2回接種および3回(ブースター)接種の有効性の暫定的な評価を行った(UKHSA Technical Briefing 31, Andrews, et al)。2021年11月27日から12月6日に実施された検査において、SGTFを用いて、デルタ株感染者56,439例、オミクロン株感染者581例に分類し、それぞれのワクチンの有効率を算出した。その結果、ファイザー社製のワクチンを2回接種後2-9週間ではオミクロン株に対する有効率は88%(95%CI 65.9-95.8)とデルタ株(88.2 (95%CI 86.7-89.5))と同等であった。しかし、2回接種後10週以降では、デルタ株よりもオミクロン株に対する有効率が低かった。さらに、2回接種後20週以降においては、デルタ株に対する有効率が60%強であるのに対し、オミクロン株に対する有効率は35%程度であった。一方で、ファイザー社製の3回(ブースター)接種後2週以降においては、オミクロン株に対する発症予防効果は、デルタ株に比べて低いものの、75.5% (95%CI 56.1-86.3)程度であった。アストラゼネカ社製のワクチンを2回接種した者およびアストラゼネカ社製のワクチン2回とファイザー社製のワクチンをブースターとして接種した者においても同様の傾向が見られた。アストラゼネカ社製のワクチン2回接種後にファイザー社製のワクチンをブースター接種した場合、ブースター接種後2週以降の発症予防効果は71.4% (95%CI 41.8-86)であった。観察研究であるため、バイアスや交絡の可能性があり、また、オミクロン株感染者は少ないため、信頼区間が広く、点推定値の評価には注意が必要である。また、本報告は発症予防効果についての評価であり、オミクロン株感染による重症例に対するワクチン有効性については、今後の更なる検討が必要である。
    •   オミクロン株においては、抗原性の変化により、感染回復者やワクチン接種者の血清による中和能の低下が懸念されており、オミクロン株の分離ウイルスを用いたワクチン接種者血清による中和試験の暫定結果が複数の国の研究機関等から報告されている。実験系によって値にはばらつきがあるものの、アルファ株以前に主流であったD614G変異を持つ株やデルタ株と比較して、オミクロン株に対するファイザー社製のワクチン2回接種で誘導される中和抗体価は1/10-1/40程度であり、抗体価が測定感度以下のものも一定程度認められた(Cele, et al., Wilhelm, et al., Roessler, et al., UKHSA Technical Briefing 31)。ファイザー社製のワクチンによる3回(ブースター)接種後においての報告もあり、ブースター接種2週間後では1/37、3ヶ月後では測定感度以下のものが多く、測定可能な検体では1/24.5であった(Wilhelm, et al.)。また、南アフリカからの報告では、横並びではないが(オミクロン株以前の分離株でワクチン株から最も抗原性が離れていると考えられる)ベータ株の中和試験においては中和抗体価が1/3であったのに対して、同じ実験系を用いて行われたオミクロン株の中和抗体価では1/41であった(Cele, et al.)。さらに、オミクロン株で認めるスパイクタンパクの変異を持つシュードタイプウイルスを用いた中和試験でも類似の結果が報告されているが、実験系の違いや使用された血清の採取時期(感染やワクチン接種から採血までの期間)の違い等により結果に大きく幅があり、中和抗体価の低下の程度は回復期血清で1/8.4-1/58(Zhang et al., Schmidt et al.)、2回接種後で武漢株と比較して1/5-1/127(Schmidt et al., BioNTech)、ブースター接種後1ヶ月で1/2.5-1/18(Schmidt et al., BioNTech)であった。これらの結果は中和抗体のin vitro(試験管内)での評価であり、解釈に注意が必要である。
    •   オミクロン株においては、抗原性の変化により、SARS-CoV-2に対するモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品の効果への影響も懸念されており、オミクロン株の分離ウイルスやオミクロン株で認めるスパイクタンパクの変異を持つシュードタイプウイルスを用いたモノクローナル抗体による中和試験の暫定結果が報告されている。ソトロビマブ(ゼビュディ)は、オミクロン株で認めるスパイクタンパクの変異を持つシュードタイプウイルスに対して中和活性を維持しているという報告がある(Cathcart, et al.)。一方で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して中和活性を失っているという報告がある(Wilhelm, et al.)。その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブも、オミクロン株で認めるスパイクタンパクの変異を持つシュードタイプウイルスに対して中和活性を失っているという報告がある(Cao, et al.)。これらの結果も中和抗体のin vitro(試験管内)での評価であり、解釈に注意が必要である。
    •   一方で、現時点で明らかな細胞性免疫からの逃避についての情報はなく(Redd, et al.) 、重症化予防効果への影響は不明である。
    •   英国健康安全保障庁(UKHSA)は非オミクロン株と比較したオミクロン株における再感染のリスク比についての暫定的な報告を行った(UKHSA Technical Briefing 31)。2021年11月20日から12月5日にウイルスゲノム解析がなされ、オミクロン株感染とされた361例と非オミクロン株感染とされた85,460例のうち、年齢群・地域・(有症状、スクリーニング等の)検査区分で調整した再感染のリスク比は5.2(95%信頼区間3.4-7.6)であった。ただし、この報告は暫定的であり、SGTFを認める症例が優先的にウイルスゲノム解析をなされていることなどから解釈に注意が必要である。
    •   南アフリカにおいてSARS-CoV-2陽性例および検査のサーベイランスデータを用いた研究では、2種類の手法を用いて、非オミクロン株とオミクロン株への再感染のしやすさについて検討された(Pulliam, et al.まず、初回感染の発生率に対する再感染の発生率の比が第1波と同じであると仮定して、その後の再感染者数を予測したところ、第2波(ベータ株主流)、第3波(デルタ波主流)で観察された再感染者数は予測範囲内であったが、11月に観察された再感染者数は予測範囲を上回っていた。次に、全期間について初回感染の発生率に対する再感染の発生率の比を算出したところ、第1波(従来株主流)は0.15、第2波(ベータ株主流)は0.12、第3波(デルタ株主流)は0.09であったが、11月以降は0.25と上昇していた。比は一貫して1を下回っており、初回感染よりも再感染の発生率は低いが、ベータ株やデルタ株の流行時に比較して、再感染の発生率は高まっている可能性があった。なお、この検討では、個々のSARS-CoV-2陽性例のワクチン接種歴が得られていないためワクチン接種による感染予防効果は検討されていない。また、SARS-CoV-2陽性例のウイルスゲノム解析結果は不明であり、検査対象は時系列的に変化し、受療行動が変化している可能性があることにも留意する必要がある.

 

  •   重症度
    •   オミクロン株感染例について、現時点では重症度について結論づけるだけの知見がない。十分な観察期間と年齢、SARS-CoV-2の感染歴、ワクチン接種歴などの情報を含めた、さらなる研究が必要である(ECDC. Implications of the further emergence and spread of the SARS-CoV-2 B.1.1.529 variant of concern (Omicron) for the EU/EEA – first update 2 December 2021
    •   南アフリカハウテン州ツワネ市都市圏からの報告では、重症度の上昇を示唆する所見は現段階で見られていないが、オミクロン株の流行の初期段階であることから、引き続き今後の動向について注視する必要がある(South African Medical Research Council. Tshwane District Omicron Variant Patient Profile - Early Features)。
    •   デンマークのStatens Serum Instituteの報告によるとオミクロン株感染例として登録された3437症例のうち、計37例(1.1%)が入院となり、そのうち入院48時間以降に診断された感染例は9例(0.3%)、入院48時間以内に診断された症例は28例(0.8%)であった。一方、オミクロン株以外の株による新型コロナウイルス感染例として登録された88,940例のうちでは計666人(0.7%)が入院となり、そのうち入院48時間以降に診断された感染例は1例(0.0%)、入院48時間以内に診断された感染例は665例(0.7%)であった。ただし、検査のタイミング、年齢や背景疾患等に関する情報はなく、オミクロン株とそれ以外の株の感染による入院の割合を比較することは困難で解釈に注意を要する(Statens Serum Institut. Covid-19 Repport on omikronvarianten.)。
  •   検査診断
    •    国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。
    •         オミクロン株は国内で現在使用されているSARS-CoV-2 PCR診断キットでは検出可能と考えられる。
    •         WHOテクニカルブリーフでは、抗原定性検査キットの診断精度については、オミクロン株による影響を受けない可能性が示唆されている。(WHO; Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and Priority Actions for Member States)
    •   国内におけるスクリーニング検査法に関しては、 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第3報)を参照されたい。
    •   WHO の指定するオミクロン株(B.1.1.529系統の変異株)と確定するためには全ゲノム情報による塩基変異の全体像を知ることが不可欠である。全ゲノム解析によりゲノム全長を解読し、得られた配列(contig 配列)を用いて Nextclade および PANGOLIN プログラムにて解析し、クレード(clade)及び PANGO 系統(lineage)の両方が適正に判定された場合に最終判定に資する対象としている。ごく稀に、大きな欠失が生じ、PANGO 系統の結果が得られてもクレードが検出できない場合がある。この場合、解読リード深度 (read depth)が 300 倍以上かつゲノム被覆率(coverage)が 98%以上である、 または、de novo アセンブリにて完全(complete)な contig 配列が得られて いれば、結果が得られた PANGO 系統を確定としている(厚生労働省 2021年2月5日事務連絡 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査におけるゲノム解析及び変異株 PCR 検査について )。

 

国内におけるリスク評価

国内の発生動向

国内の新規COVID-19報告数は微増傾向ではあるものの、依然いずれの地域・年齢群でも低いレベルで推移している。国内のゲノムサーベイランス検体からオミクロン株は検出されておらず、現時点でオミクロン株による市中での急激な感染拡大を示唆する所見はない。しかし、オミクロン株感染例の探知を報告する国は増加しており、日本においても市中感染が報告されている国以外への渡航後のオミクロン株感染例が増加している。

 

感染・伝播性 

免疫獲得状況や対策の程度が日本の現状とは必ずしも同様でないものの、限られた初期の情報ではあるが海外における疫学的評価から感染・伝播性の増加が示唆されている。

 

重症度

国内で経過観察されているオミクロン株感染例については全員軽症もしくは無症状で経過しているが、症例数が少なく、海外の報告を併せても現時点では重症度の評価は困難である。引き続き国内外の動向を注視する必要がある。

 

ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や免疫からの逃避

査読前論文ではあるが実験室における評価や初期の疫学的評価で、ワクチン2回接種による発病予防効果が低下している可能性が示唆されている。

 

当面の推奨される対策

  • オミクロン株については、現時点ではウイルスの性状に関する実験的な評価や疫学的な情報は限られており、高いワクチン接種率を達成している我が国においても感染拡大と患者増加のリスクを想定した対策を講じる必要がある。
  • 水際対策と並行して、検疫及び国内での変異株PCR検査及びゲノムサーベイランスによる監視を引き続き行う必要がある。
  • オミクロン株感染例と同一空間を共有した者については、マスクの着用の有無や接触時間にかかわらず、幅広な検査の対象としての対応を行うことが望ましい。

 

基本的な感染対策の推奨

  •   個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、特に会話時のマスクの着用、手洗いなどの徹底が推奨される。

 

参考文献

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

更新履歴

 第4報 2021/12/15 19時時点

 第3報 2021/12/8

 第2報 2021/11/28

 第1報 2021/11/26


                                 cepr logo in    

 

 

2022年度

 

 ● 令和4年度感染症危機管理研修会 

 

 ● 臨時セミナー

   ・緊急企画サル痘研修会(2022年7月29日開催)

   ・サル痘対応に関する医療機関向け臨時セミナー(2022年10月21日開催)

   ・国内国際状況のアップデート:ポリオ根絶計画に関する合同セミナー

    (2022年11月10日開催)

   ・ウガンダのエボラ出血熱アウトブレイクに関する臨時セミナー

    (2022年12月13日開催)

 

    ※ この企画は、厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及

      び予防接種政策推進研究事業「新興・再興感染症のリスク評価とバイオ

      テロを含めた危機管理機能の実装のための研究」と共同によるものです。

 

 

 

 

2021年度

 

 ● 国際感染症分野のキャリアアップセミナー(2021年11月12日開催)

 

 ● 令和3年度感染症危機管理研修会(2022年3月14日開催)

 

 

 

 

2020年度以前

 

 ● 感染症危機管理研修会

 

 

   

  ※ 掲載の資料の無断転載・転用はご遠慮ください。

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2021年12月8日

国立感染症研究所

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WHOの変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。同じく、欧州CDC(ECDC)も、11月25日時点では同株を注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)に分類していたが(ECDC. SARS-CoV-2 variants of concern)、11月26日にVOCに変更した(ECDC. Threat Assessment Brief)。

2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。

 

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要

 

PANGO

系統名

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

UK

HSA

US CDC

スパイクタンパク質の主な変異

検出報告国・地域数

B.1.1.529

VOC

VOC

VOC

VOC*

 

VOC†

 

G142D, G339D, S371L, S373P, S375F, K417N, N440K, G446S, S477N, T478K, E484A, Q493K, G496S, Q498R, N501Y, Y505H

57か国

*UK HSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: technical briefing 30.

†CDC. SARS-CoV-2 Variant Classifications and Definitions.

オミクロン株について

  •   オミクロン株は基準株と比較し、スパイクタンパク質に30か所程度のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ。)を有し、3か所の小欠損と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。このうち15か所程度の変異は受容体結合部位(Receptor binding protein (RBD); residues 319-541)に存在する(ECDC. Threat Assessment Brief)。
  •   国内外で検出されているオミクロン株は、これらのそれぞれの変異を認めるものも、認めないものもあるため、オミクロン株を規定する変異(variant defining mutations)は未だ定まっていない。今後どの変異がオミクロン株において主流になるかによって、オミクロン株を規定する一連の変異が定まってくるものと考えられる。
  •   2021年12月6日時点でGISAIDに登録されているオミクロン株525件の50%以上で認める変異や欠損は以下の通りである:A67V、del60/70、T95I、G142D、del143/145、N21I、del212/212、G339D、 S371L、S373P、S375F、S477N、T478K、E484A、Q493R、G496S、Q498R、N501Y、Y505H、T547K、 D614G、H655Y、N679K、P681H、N764K、D796Y、N856K、Q954H、N969K、L981F(Outbreak.info)
  •   このうち、例えば、G339D、S477N、T478K、N501Y変異等はSARS-CoV-2がヒトの細胞に感染する際の受容体であるACE2への親和性が高まっている可能性がある(Deep Mutational Scanning of SARS-CoV-2 Receptor Binding Domain Reveals Constraints on Folding and ACE2 Binding. Cell.)。また、K417N (オミクロン株の50%未満(46.5%)で認めるため上記には含まれない)、N440K、E484A等は抗体医薬として承認されているものを含めたモノクローナル抗体からの逃避が示唆されている(CDC. Science Brief: Omicron (B.1.1.529) Variant)。さらに、H655Y、N679K、P681H変異はS1/S2フリン開裂部位近傍の変異であり、細胞への侵入しやすさに関連する可能性がある(DOH RSA. SARS-CoV-2 Sequencing & New Variant Update 25 November 2021)。非構造タンパク質(nonstructural protein)の一種であるnsp6における105-107欠失は、アルファ株、ベータ株、ガンマ株、ラムダ株にも存在する変異であり、インターフェロンに拮抗的に作用する可能性が示唆されている。インターフェロンは、ウイルスの増殖阻止や免疫系の調整などの働きをするサイトカインの一種であり、主には(ワクチンで得られる免疫のような獲得免疫ではなく)自然免疫に関与する因子であるが、これに拮抗的に作用する結果、免疫逃避に寄与する可能性・伝播性を高める可能性が指摘されている。また、ヌクレオカプシドタンパク質におけるR203K、G204R変異はアルファ株、ガンマ株、ラムダ株にも存在し、感染・伝播性を高める可能性がある。
  •   ただし、ウイルスの特性の変化や、ワクチンや既感染による免疫からの逃避、臨床像等は、各ウイルスが有している変異や欠損等の組み合わせによって決まるため、それぞれの変異や欠損を単独で評価してもそれが必ずしも一連の変異や欠損を持つウイルスの特性等と合致しない可能性があるので、解釈に注意が必要である。

海外での発生状況

世界での発生状況

  •   2021年11月8日に南アフリカで最初のオミクロン株による感染例(以下オミクロン株感染例)が報告されて以降、12月7日までに日本を含め全世界57か国から感染例が報告され(WHO: Weekly epidemiological update on COVID-19 - 7 December 2021)、このうち、複数の国で市中での感染が疑われる事例が報告された。12月7日時点でECDCで把握された情報の範囲では、死亡例は報告されていない(ECDC. Epidemiological update: Omicron variant of concern (VOC) – data as of 6 December 2021 (12.00))

南アフリカでの発生状況

  •   南アフリカでは2021年11月以降、SARS-CoV-2検査数、陽性例数、陽性率が増加傾向にある。陽性率は全ての州で増加しており、第47週時点で地域別ではハウテン(Gauteng)州で最も高かった(約16%)(National Institute for Communicable Diseases. COVID-19 TESTING SUMMARY WEEK 47 (2021))
  •   南アフリカのSARS-CoV-2の実効再生産数(Rt)は2021 年8月中旬から10月下旬までは1を下回っていたが、その後急上昇し、11月中旬には2.2 (95% CI 1.96-2.43)となった(Eidgenössische Technische Hochschule Zürich. COVID-19 Re.)
  •   ゲノムサーベイランスでは10月はデルタ株が84.3%(548/650)を占めていたが、11月は検査されたSARS-CoV-2陽性例のうち73%(228/312)がオミクロン株であった (National Institute for Communicable Diseases: SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE (3 DEC 2021))

重症度とワクチン接種歴に関する情報を含む英国の発生状況

  •   英国健康安全保障庁(HSA)の発表によると、2021年11月30日時点で、イングランドにおけるオミクロン株感染例は22例確認されており、このうち14日以上前に少なくとも2回のワクチン接種を受けた感染例が12例、初回接種から28日以上経過していた感染例が2例、ワクチン未接種の感染例が6例、ワクチン接種に関する情報が得られなかった感染例が2例であった。入院例や死亡例の報告はない(UK HSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 30)。

 

日本での発生状況

  •   2021年12月6日までに海外で感染したと推定される3例のオミクロン株感染例が報告された(2021年12月6日時点)。うち1例は30代男性でナミビア滞在歴があり、到着時無症状であった (厚生労働省 2021年11月30日報道発表資料 新型コロナウイルス感染症(変異株)の無症状病原体保有者について(空港検疫))。1例は20代男性でペルー滞在歴があり、到着時無症状であった(厚生労働省 2021年12月1日報道発表資料新型コロナウイルス感染症(変異株)の無症状病原体保有者について(空港検疫))。1例は30代男性でイタリア滞在歴があり、到着時無症状であった(厚生労働省 2021年12月6日報道発表資料新型コロナウイルス感染症(変異株)の無症状病原体保有者について(空港検疫))。なお、12月6日時点でイタリアからオミクロン株検出の報告があり、ナミビア、ペルー両国からは検出の公式な報告はない。
  •   上記3例と同じ便に搭乗していた乗客について、全員を濃厚接触者として扱い健康観察および定期的に検査を実施中である。

 

ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見

オミクロン株については、現時点ではウイルスの性状に関する実験的な評価や疫学的な情報は限られている。国内外の発生状況の推移、重症度、年代別の感染性への影響、ワクチンや既存の治療薬の効果についての実社会での影響、既存株感染者の再感染のリスクなどへの注視が必要である。

      感染・伝播性

南アフリカにおいて流行株がデルタ株からオミクロン株に急速に置換されていることから、オミクロン株の著しい感染・伝播性の高さが懸念される(WHO: Classification of Omicron (B.1.1.529) , ECDC; Threat Assessment Brief)。

南アフリカでは10月にウイルスゲノム解析された検体の84%がデルタ株であったが、11月には73%がオミクロン株であった(National Institute for Communicable Diseases: SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE (3 DEC 2021))。ただしS gene target failure(詳細は後述)を認める検体(オミクロン株であることが疑われる検体)を優先的にウイルスゲノム解析しているのであれば、73%という値は過大評価である可能性がある。また、10月にはデルタ株の流行が減少していた時期でもあるため、解釈に注意が必要である。

南アフリカでの予備的なデータによると、デルタ株に比べてオミクロン株の感染・伝播性はかなり高いと推測されている。モデリングによる予測ではオミクロン株は今後数カ月以内にEU/EEAにおけるSARS-CoV-2感染の半数以上を占めるようになるとされている(ECDC: Threat Assessment Brief: Implications of the further emergence and spread of the SARS CoV 2 B.1.1.529 variant of concern (Omicron) for the EU/EEA first update 2 December 2021)。

オックスフォード大学が行った立体構造予測では、オミクロン株に存在する変異は、抗体結合に影響を与える可能性が高く、新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染する際の受容体であるACE2との結合がこれまでの変異株よりも高まる可能性があることが示唆された(データの詳細はまだ公開されていない)(UK HSA SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 30)。

香港では、同じホテルに隔離中だった南アフリカから入国した無症状のオミクロン株感染例が、他者へ感染させたことを示唆される事例が認められた。2名とも2回のワクチン接種歴があり廊下を挟んで反対側の部屋に隔離されていた。この2名から検出されたオミクロン株については、全ゲノム解析で1塩基のみの違いであった。疫学調査では、この2名で共有した物品はなく、お互いが部屋に出入りする機会もなかった。それぞれがドアを開ける機会は食事を廊下から回収するときと、定期的なPCR検査を受けるときであった。ただし、2名の帰国日は異なっていたため定期的なPCR検査を受ける日程が同日であった可能性は低い(Probable transmission of SARS-CoV-2 omicron variant in quarantine hotel, Hong Kong, China, November 2021.Emerg Infect Dis.

      ワクチン効果への影響や免疫からの逃避

オミクロン株の有する変異は、これまでに検出された株の中で最も多様性があり、感染・伝播性の増加、既存のワクチン効果の著しい低下、及び再感染リスクの増加が強く懸念されるとしている (ECDC; Threat Assessment Brief) 。

一方で、現時点で明らかな細胞性免疫からの逃避についての情報はなく、重症化予防効果への影響は不明である。

南アフリカにおいてSARS-CoV-2陽性例および検査のサーベイランスデータを用いた研究では、2種類の手法を用いて、非オミクロン株とオミクロン株への再感染のしやすさについて検討された(Increased risk of SARS-CoV-2 reinfection associated with emergence of the Omicron variant in South Africa. MedRxiv)。まず、初回感染の発生率に対する再感染の発生率の比が第1波と同じであると仮定して、その後の再感染者数を予測したところ、第2波(ベータ株主流)、第3波(デルタ波主流)で観察された再感染者数は予測範囲内であったが、11月に観察された再感染者数は予測範囲を上回っていた。次に、全期間について初回感染の発生率に対する再感染の発生率の比を算出したところ、第1波(従来株主流)は0.15、第2波(ベータ株主流)は0.12、第3波(デルタ株主流)は0.09であったが、11月以降は0.25と上昇していた。比は一貫して1を下回っており、初回感染よりも再感染の発生率は低いが、ベータ株やデルタ株の流行時に比較して、再感染の発生率は高まっている可能性があった。なお、この検討では、個々のSARS-CoV-2陽性例のワクチン接種歴が得られていないためワクチン接種による感染予防効果は検討されていない。また、SARS-CoV-2陽性例のウイルスゲノム解析結果は不明であり、検査対象は時系列的に変化し、受療行動が変化している可能性があることにも留意する必要がある。

       重症度

オミクロン株感染例について、現時点では重症度について結論づけるだけの知見がない。十分な観察期間と年齢、SARS-CoV-2の感染歴、ワクチン接種歴などの情報を含めた、さらなる研究が必要である(ECDC. Implications of the further emergence and spread of the SARS-CoV-2 B.1.1.529 variant of concern (Omicron) for the EU/EEA – first update 2 December 2021)。

南アフリカハウテン州ツワネ市都市圏からの報告では、重症度の上昇を示唆する所見は現段階で見られていないが、オミクロン株の流行の初期段階であることから、特に今後二週間の動向について注視する必要がある(South African Medical Research Council. Tshwane District Omicron Variant Patient Profile - Early Features)

 

     検査診断

国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。

オミクロン株は国内で現在使用されるSARS-CoV-2 PCR診断キットでは検出可能と考えられる。

Thermo Fisher社TaqPathにおいて採用されているプライマーにおいて、ORF1, N, S遺伝子のPCRでS遺伝子が検出されない(S gene target failure; SGTFと呼ばれる)特徴をもつ。一方で、これまで多くの国で流行の主体となっているデルタ株ではS遺伝子が検出されることから、この特徴を利用し、デルタ株が主流である国においてはオミクロン株の代理マーカーとして、SGTFが利用できる(WHO: Classification of Omicron (B.1.1.529) )。なお、SGTFはアルファ株でもみられ、代理マーカーとして使用された。

抗原定性検査キットについては、ヌクレオカプシドタンパク質の変異の分析で診断の影響はないとされるが、南アフリカ政府において検証作業が進められている(NCID: Frequently asked questions for the B.1.1.529 mutated SARS-CoV-2 lineage in South Africa)。

     感染拡大状況

アフリカでは、感染例が報告されていない国からの輸出例が確認されていること、またゲノムサーベイランスが十分に実施されていない国もあることを考慮すると、すでに広い範囲でオミクロン株による感染が拡大している可能性がある。

世界各地でオミクロン株感染例の報告が増加しており、アフリカ以外でも複数の国・地域から市中感染の可能性が示唆される事例が報告されている。さらに、ゲノムサーベイランスの質が十分でない国・地域においては探知されていない輸入例が発生している可能性やオミクロン株による感染拡大の程度が過少評価されている可能性がある。

 

国内におけるスクリーニング検査法

感染研では、リアルタイムRT-PCR法によるオミクロン株スクリーニング検査の方法を検討した。比較的早期に導入可能と考えられる、これまで感染研より情報提供してきたN501Y変異検出法とL452R変異検出法について、まず検討を行った。

 

      遺伝子配列による検討

感染研より情報提供したL452R変異検出系で利用されているプライマー/プローブセットは、プライマー配列内にオミクロン株に対して2カ所のミスマッチがあった。そのため、オミクロン株のL452(L452R変異検出系陰性)を検出する感度が落ちる可能性があった。一方、大半を占めるデルタ株452R(L452R変異検出系陽性)として検出し除外できる方法と考えられた。

感染研より情報提供したN501Y変異検出系で利用されていたプライマー/プローブセットは、オミクロン株に対して、プライマー配列内に1カ所のミスマッチに加え、プローブ配列内にも1カ所ミスマッチが認められたため、501Y (N501Y変異検出系陽性)を検出する感度が落ちる可能性が懸念された。

遺伝子配列から得られるこれらの情報から、L452R変異検出リアルタイムRT-PCR法による検出法を暫定的なスクリーニング検査の方法として提案した。

      オミクロン株陽性者検体を用いた検討

2021年11月30日にオミクロン株陽性者の検体RNAが得られたことから、これを用いてN501Y変異検出法とL452R変異検出法について比較検討を行った。

オミクロン株に対してL452R変異検出系は、プライマーのミスマッチによりN2検出系に比べるとL452検出時のCp値は若干大きくなるものの、蛍光増殖曲線はしっかりとしたシグモイドカーブを描くためL452を識別する事は可能であった。ただし、L452を識別する際は、Cp値(Ct値)のみを確認するのではなく、L452の蛍光増殖曲線を目視で確認する必要がある。

オミクロン株に対してN501Y変異検出系は、プライマーおよびプローブのミスマッチによりN2検出系に比べると501Y検出時のCp値は大きくなり、シグモイドカーブの立ち上がりが遅くなるため、機械によっては陰性と判定される可能性が考えられた。そのため、501Yを識別する際は、Cp値(Ct値)のみを確認するのではなく、501Yの蛍光増殖曲線を目視で確認する必要があることに留意する必要がある。

      今後のオミクロン株のスクリーニング検査について

直近までL452R変異検出系によりデルタ株のスクリーニングを行っており、再開が迅速に可能であること、プローブ領域にミスマッチがない事から、オミクロン株のスクリーニング法を迅速に展開する観点において、L452R変異検出系をオミクロン株スクリーニング暫定利用の第一選択とした。

オミクロン株陽性者検体を利用した検討から、N501Y変異検出系での501Y検出時のCp値(Ct値)は大きくなるが、501Yの蛍光増殖曲線を目視で確認することでオミクロン株のスクリーニングに利用する事は可能である。

感染研では、引続きオミクロン株とそれ以外の株を特異的に識別する事が可能な変異検出系の開発に向け検討を行っている。

      留意点

オミクロン株以外にも現在国内での流行は確認されていないが、アルファ株なども501YやL452を有しており、またN501Y変異を有していないオミクロン株やL452R変異を有するオミクロン株もわずかながら報告されているため、オミクロン株と確定するためにはゲノム解析が必須である。

検体中のウイルス核酸濃度が低い場合は、L452R変異検出系でL452および452Rのどちらも識別できずに判定不能となる場合がある。この場合はオミクロン株である可能性を否定する事ができない。

検体中のウイルス核酸濃度が低い場合は、N501Y変異検出系でN501および501Yのどちらも識別できずに判定不能となる場合がある。この場合はオミクロン株である可能性を否定する事ができない。

N501Y変異検出系を用いる場合は、Cp値(Ct値)のみを確認するのではなく、501Yの蛍光増殖曲線を目視で確認する必要があることに留意する必要がある。

国内における感染拡大についてのリスク評価

現時点で国内でのオミクロン株による感染拡大を示唆する所見はない。感染者が報告された国を中心に入国者の健康観察体制の強化が進められているところであるが、海外では、南アフリカなどの市中感染が報告されている国以外への渡航後のオミクロン株感染例や、オミクロン株感染例との接触歴が明らかでない感染例が報告されている。水際対策と並行して、検疫及び国内での変異検出PCR及びゲノムサーベイランスによる監視を引き続き行う必要がある。現時点で、感染・伝播性についてのエビデンスは十分でないため、オミクロン株感染例と同一空間を共有した者については、マスクの着用の有無や接触時間にかかわらず、幅広な検査の対象としての対応を行うことが望ましい。

 

基本的な感染対策の推奨

個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、特に会話時のマスクの着用、手洗いなどの徹底が推奨される。

 

参考文献

Centers for Disease Control and Prevention. SARS-CoV-2 Variant Classifications and Definitions. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/variants/variant-info.html

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Department Health Republic of South Africa. SARS-CoV-2 Sequencing & New Variant Update 25 November2021. https://sacoronavirus.co.za/2021/11/25/sars-cov-2-sequencing-new-variant-update25-november-2021/

Department of Health and Social Care, UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: technical briefing 30. https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1038404/Technical_Briefing_30.pdf

Eidgenössische Technische Hochschule Zürich. COVID-19 Re. https://ibz-shiny.ethz.ch/covid-19-re-international/

 European Centre for Disease Prevention and Control. SARS-CoV-2 variants of concern. https://www.ecdc.europa.eu/en/covid-19/variants-concern

European Centre for Disease Prevention and Control. Threat Assessment Brief: Implications of the emergence and spread of the SARS-CoV-2 B.1.1. 529 variant of concern (Omicron) for the EU/EEA. https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/threat-assessment-brief-emergence-sars-cov-2-variant-b.1.1.529

European Centre for Disease Prevention and Control. Threat Assessment Brief: Implications of the further emergence and spread of the SARS CoV 2 B.1.1.529 variant of concern (Omicron) for the EU/EEA first update 2 Dec 2021. https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/covid-19-threat-assessment-spread-omicron-first-update

European Centre for Disease Prevention and Control. Epidemiological update: Omicron variant of concern (VOC) – data as of 6 December 2021 (12.00). https://www.ecdc.europa.eu/en/news-events/epidemiological-update-omicron-variant-concern-voc-data-6-december-2021

Gu H, Krishnan P, Ng DYM et al. Probable transmission of SARS-CoV-2 omicron variant in quarantine hotel, Hong Kong, China, November 2021. Emerg Infect Dis. 2021 Feb [date cited]. doi: 10.3201/eid2802.212422

Juliet R.C. Pulliam, Cari van Schalkwyk, Nevashan Govender, et al. Increased risk of SARS-CoV-2 reinfection associated with emergence of the Omicron variant in South Africa. medRxiv.2 Dec 2021. doi:10.1101/2021.11.11.21266068

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National Institute for Communicable Diseases, South Africa. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE (3 DEC 2021)). https://www.nicd.ac.za/wp-content/uploads/2021/12/Update-of-SA-sequencing-data-from-GISAID-3-Dec-21-Final.pdf.

Starr, Greaney, Hilton, et al. Deep Mutational Scanning of SARS-CoV-2 Receptor Binding Domain Reveals Constraints on Folding and ACE2 Binding. Cell. doi: 10.1016/j.cell.2020.08.012

South African Medical Research Council. Tshwane District Omicron Variant Patient Profile - Early Features. https://www.samrc.ac.za/news/tshwane-district-omicron-variant-patient-profile-early-features

World Health Organization. Tracking SARS-CoV-2 variants. https://www.who.int/en/activities/tracking-SARS-CoV-2-variants/

World Health Organization. Classification of Omicron (B.1.1.529): SARS-CoV-2 Variant of Concern.https://www.who.int/news/item/26-11-2021-classification-of-omicron-(b.1.1.529)-sars-cov-2-variant-of-concern

World Health Organization. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 7 December 2021. https://www.who.int/publications/m/item/weekly-epidemiological-update-on-covid-19---7-december-2021

厚生労働省2021年11月30日報道発表資料. 新型コロナウイルス感染症(変異株)の無症状病原体保有者について(空港検疫) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22507.html

厚生労働省2021年12月1日報道発表資料. 新型コロナウイルス感染症(変異株)の無症状病原体保有者について(空港検疫)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22520.html

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

更新履歴

 第3報 2021/12/8

 第2報 2021/11/28

 第1報 2021/11/26

2021年11月28日

国立感染症研究所

PDF

WHOは2021年11月24日にB.1.1.529<系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529)。同じく、欧州CDC(ECDC)も、11月25日時点では同株を注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)に分類していたが(ECDC. SARS-CoV-2 variants of concern as of 25 November 2021)、11月26日にVOCに変更した(ECDC. Threat Assessment Brief)。

2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更する。

 

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要

PANGO

系統名

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

UK

HSA

スパイクタンパク質受容体結合ドメインの主な変異

検出報告国・地域数

B.1.1.529

VOC

VOC

VOC

International

VUI

K417N, N440K, G446S, S477N, T478K, E484A, Q493K, G496S, Q498R, N501Y, Y505H

9
(南アフリカ、ボツワナ、香港、イスラエル、ベルギー、イギリス、イタリア、ドイツ*、チェコ *

* *メディア情報より

オミクロン株について

  •   オミクロン株は基準株と比較し、スパイクタンパク質に30か所のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ。)を有し、3か所の小欠損と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。このうち15か所の変異は受容体結合部位(Receptor binding protein; RBD; residues 319-541)に存在する(ECDC. Threat Assessment Brief)。
  •   オミクロン株に共通するスパイクタンパク質の変異のうち、H655Y、N679K、P681HはS1/S2フリン開裂部位近傍の変異であり、細胞への侵入しやすさに関連する可能性がある。nsp6における105-107欠失はアルファ株、ベータ株、ガンマ株、ラムダ株にも存在する変異であり、免疫逃避に寄与する可能性や感染・伝播性を高める可能性がある。ヌクレオカプシドタンパク質におけるR203K、G204R変異はアルファ株、ガンマ株、ラムダ株にも存在し、感染・伝播性を高める可能性がある(Department Health, South Africa. SARS-CoV-2 Sequencing & New Variant Update 25)。

海外での流行状況と評価

  •   2021年11月27日時点で、南アフリカで77例(Department Health, South Africa. SARS-CoV-2 Sequencing & New Variant Update 25)、ボツワナで4例(Department Health, South Africa. SARS-CoV-2 Sequencing & New Variant Update 25)、香港で2例(CHP investigates six additional confirmed cases of COVID-19 and provides update on latest investigations on imported cases 12388 and 12404)、イスラエルで1例(Government of Israel)、ベルギーで1例(Genomic surveillance of SARS-CoV-2 in Belgium Report of the National Reference Laboratory)、英国で2例(First UK cases of Omicron variant identified)、イタリアで1例(GISAID accessed on Nov. 28)、ドイツで2例(Two Omicron coronavirus cases found in Germany)、チェコで1例(Omicron: Hospital confirms first Czech case of new Covid strain)が確認されている。
  •   南アフリカにおいては、ハウテン州のCOVID-19患者数が増加傾向にある(New COVID-19 variant detected in South Africa – NICD, LATEST CONFIRMED CASES OF COVID-19 IN SOUTH AFRICA (25 November 2021) - NICD)。 南アフリカでは、公共の場での常時のマスク着用、夜間の外出禁止、飲食店の時短営業、集会の人数制限、酒類の夜間販売停止等の対策が継続されていた(Disaster management act, 2002: Amendment of regulations issued in terms of section 27 (2))。
  •   南アフリカハウテン州で2021年11月12 日から20日までに採取された77検体すべてがB.1.1.529系統であった(Heavily mutated coronavirus variant puts scientists on Alert. Nature. 25 November 2021.)。他に100例以上の関連症例の存在が示唆されている(Urgent briefing on latest developments around the Covid-19 vaccination programme)。11月以降に遺伝子配列が決定された新型コロナウイルスの検出割合では、B.1.1.529系統が増加傾向で、2021年11月15日時点では75%以上を占めていた(Urgent briefing on latest developments around the Covid-19 vaccination programme)。
  •   南アフリカにおいて、SGTF(後述:評価―「診断への影響」の項を参照)を利用したPCR検査では、11月中旬よりほとんどの地方で(オミクロン株と想定される)SGTFの検出が急増しており、特に、ハウテン州では、直近数日の間に50%以上の株がSGTFとなっている(ECDC; Threat Assessment Brief: ECDC, DOH RSA. SARS-CoV-2 Sequencing & New Variant Update 25)。
  •   香港で報告された2症例のうち1例は2回のワクチン接種歴があり、10月下旬から11月にかけて南アフリカへの渡航歴があり、症状はなかった(CHP investigates six additional confirmed cases of COVID-19 and follows up on compulsory quarantine arrangement concerning three imported cases involving local air crew)。別の1例はカナダからの帰国者で、2回のワクチン接種歴があり、上記の症例と同じ検疫隔離用ホテルの向かいの部屋に滞在しており、発症を契機に検査を受け、陽性が判明した(CHP investigates three additional confirmed cases of COVID-19)。この2症例が滞在した2つの部屋と、同じ階の廊下と共用エリアの環境から検体が採取され、87検体中25検体が陽性であった。これらの陽性検体はいずれも陽性者2例が滞在した部屋から採取されたものであった (CHP provides update on latest investigations on COVID-19 imported cases 12388 and 12404)。
  •   香港衛生署衛生防護中心 (Centre for Health Protection, CHP)の発表によると、南アフリカからの帰国者症例がサージカルマスクを着用せずにホテルの部屋のドアを開けた際に、別の1例が感染した可能性があるとしている(CHP provides update on latest investigations on COVID-19 imported cases 12388 and 12404)。CHPは症例が滞在した居室の左右隣3部屋に滞在していた者を隔離した。現在のところ、さらなる症例は報告されていない(CHP investigates six additional confirmed cases of COVID-19 and provides update on latest investigations on imported cases 12388 and 12404, CHP provides update on latest investigations on COVID-19 imported cases 12388 and 12404)。
  •   ボツワナで報告された4例は渡航者であり、2021年11月11日にボツワナから出国する際の検疫で探知された(Botswana Government)。ボツワナから初期にGISAIDに登録された5検体は、南アフリカからGISAIDに登録された株との関連が示唆される(Genomic surveillance of SARS-CoV-2 in Belgium Report of the National Reference Laboratory *)。ただし、アフリカ地域において、最近30日以内にGISAIDに遺伝子配列を登録している国は、ボツワナと南アフリカのみである(ECDC; Threat Assessment Brief)。
  •   イスラエルで報告された1例は、マラウイから帰国したワクチン接種歴のある症例であった。その他、イスラエル国外からの帰国者2例が疑い例として検査を受けており、現在隔離されている (Government of Israel)。
  •   ベルギーからは、トルコ経由でエジプトから渡航した若年女性1例が報告された。この症例は、ワクチン接種歴がなく、過去の感染歴は確認されていない。この症例で、南アフリカやアフリカ南部地域への渡航歴は確認されていない。現在、この症例は、インフルエンザ様の症状があるが重症ではない(Genomic surveillance of SARS-CoV-2 in Belgium Report of the National Reference Laboratory )。
  •   英国から2021年11月27日に報告された2症例は互いに関連があり、また南アフリカ渡航への関与が確認された。2症例の家族は検査を実施した上で自主隔離が要請されている。現在、この2症例の接触者調査が進行中である(First UK cases of Omicron variant identified)。

国内での検出状況

  •   ゲノムサーベイランスでは、国内及び検疫検体にB.1.1.529系統に相当する変異を示す検体は検出されていない(2021年11月27日時点)。

評価

  •   オミクロン株については、ウイルスの性状に関する実験的な評価はまだなく、また、疫学的な評価を行うに十分な情報が得られていない状況である。年代別の感染性への影響、重篤度、ワクチンや治療薬の効果についての実社会での影響、既存株感染者の再感染のリスクなどへの注視が必要である。
  •   感染・伝播性への影響
    •   南アフリカにおいて流行株がデルタ株からオミクロン株に急速に置換されていることから、オミクロン株の著しい感染・伝播性の高さが懸念される(WHO: Classification of Omicron (B.1.1.529) , ECDC; Threat Assessment Brief)。
  •   免疫への影響
    •   オミクロン株の有する変異は、これまでに検出された株の中で最も多様性があり、感染・伝播性の増加、既存のワクチン効果の著しい低下、及び再感染リスクの増加が強く懸念される (ECDC; Threat Assessment Brief) 。
    •   スパイクタンパク質へ実験的に変異を20ヶ所入れた合成ウイルスを用いた実験で、既感染者及びワクチン接種者の血清で高度な免疫逃避が確認されたとする報告がある。オミクロン株においても、このような多重変異によるワクチン効果の低下及び再感染の可能性が懸念される(High genetic barrier to SARS-CoV-2 polyclonal neutralizing antibody escape. Nature.)。
  •   重篤度への影響
    •   現時点では重篤度の変化については、十分な疫学情報がなく不明である。
  •   診断への影響
    •   国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。
    •   オミクロン株は国内で現在使用されるSARS-CoV-2PCR診断キットでは検出可能と考えられる。
    •   Thermo Fisher社TaqPathにおいて採用されているプライマーにおいて、ORF1, N, S遺伝子のPCRでS遺伝子が検出されない(S gene target failure; SGTFと呼ばれる)特徴をもつ。一方で、これまで多くの国で流行の主体となっているデルタ株ではS遺伝子が検出されることから、この特徴を利用し、オミクロン株の代理マーカーとして、SGTFが利用できる(WHO: Classification of Omicron (B.1.1.529) )。SGTFはアルファ株でもみられ、代理マーカーとして使用された。
    •   抗原定性検査キットについては、ヌクレオカプシドタンパク質の変異の分析で診断の影響はないとされるが、南アフリカ政府において検証作業が進められている。(NCID: Frequently asked questions for the B.1.1.529 mitated SARS-CoV-2 lineage in South Africa)
  •   疫学的拡大状況
    •   南アフリカにおけるハウテン州を含めた多くの地域での急速な感染拡大については、イベント等による人々の社会的接触機会の増大や、他の変異株の影響等の要因も排除できない。南アフリカではウイルスの遺伝子配列決定数は感染者数に対して僅かであり、また地域差もあることを考慮して解釈する必要がある。南アフリカでの感染者数の急増における本変異株の寄与の程度はまだ明らかではないが、ほとんどの地方でSGTF検出が急速に増加していること、ボツワナやマラウイからの渡航者で症例が確認されていることを考慮するとオミクロン株が南部アフリカ地域で増加している可能性が高い。
    •   症例が報告されていないエジプトからの渡航者における輸入例が検出されていること、またアフリカ地域においてゲノムサーベイランスが十分に実施されていない国もあることを考慮すると、他のアフリカ地域でも、すでにオミクロン株による感染が拡大している可能性がある。
    •   南部アフリカ地域との人の往来の多い国においては、探知されていない輸入例が発生している可能性がある。さらに、それらの国でゲノムサーベイランスの質が十分でない場合はオミクロン株による感染拡大の程度が過少評価されている可能性がある。
    •   ゲノムサーベイランス上は、B.1.1.529系統と想定されるウイルスの検疫・国内検出例はまだなく、現時点で国内でのオミクロン株による感染拡大を示唆する所見はない。日本では、オミクロン株による症例の発生が報告されている地域との人の往来は限定的であるものの、今後国内で検知される可能性はありうる。引き続きゲノムサーベイランスで検疫・国内での監視を行う。

基本的な感染対策の推奨

  •   個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、特に会話時のマスクの着用、手洗いなどの徹底が推奨される。

 

参考文献

注意事項

  •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

 第2報 2021/11/28 

 第1報 2021/11/26

 

2021年11月26日

国立感染症研究所

PDF

国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(VOI:Variants of Interest)として位置づけ、監視体制の強化を行う。

 

B.1.1.529系統について

  •      B.1.1.529系統は、スパイクタンパク質に32か所の変異を有している。それらの変異のうち、H655Y、N679K、P681HはS1/S2フリン開裂部位近傍の変異であり、細胞への侵入しやすさに関連する可能性がある。nsp6 における 105-107 欠失はアルファ株、ベータ株、ガンマ株、ラムダ株にも存在する 変異であり、免疫逃避に寄与する可能性や感染・伝播性を高める可能性がある。ヌクレオカプシドタ ンパク質における R203K、G204R 変異はアルファ株、ガンマ株、ラムダ株にも存在し、感染・伝播性 を高める可能性がある(1)。
  •      2021年11月24日、WHOはB.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類した(2)同年11月25日、欧州CDC(ECDC)は同系統を注目すべき変異株(Variant of Interest)に分類した(3)。

 

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統の概要

PANGO

系統名

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

UK

HSA

スパイクタンパク質受容体結合ドメインの主な変異

検出報告国数

B.1.1.529

VOI

VUM

VOI

International VUI

K417N, N440K, G446S, S477N, T478K, E484A, Q493K, G496S, Q498R, N501Y, Y505H

3
(
南アフリカ、ボツワナ、香港)

   

海外での流行状況と評価

  •       2021年11月25日時点で南アフリカで77例(1)、ボツワナで4例(1)、香港で2例(4)が確認されている。
  •      南アフリカにおいてはハウテン州においてCOVID-19患者数が増加傾向にある(5, 6)。 南アフリカでは、公共の場での常時のマスク着用、夜間の外出禁止、飲食店の時短営業、集会の人数制限、酒類の夜間販売停止等の対策が継続されていた(7)。
  •       南アフリカハウテン州で2021年11月12 日から20日までに採取された77検体すべてがB.1.1.529系統であった(8)。他に100例以上の関連症例の存在が示唆されている(9)。11月以降に遺伝子配列が決定された新型コロナウイルスの検出割合では、B.1.1.529系統が増加傾向で、2021年11月15日時点では75%以上を占めていた(9)。
  •       香港で報告された2症例のうち1例は2回のワクチン接種歴があり、10月下旬から11月にかけて南アフリカへの渡航歴があり、症状はなかった(10)。別の1例はカナダからの帰国者で2回のワクチン接種歴があり上記の症例と同じ検疫隔離用ホテルの向かいの部屋に滞在しており、発症を契機に検査を受け、陽性が判明した(11)この2症例が滞在した2つの部屋と、同じ階の廊下と共用エリアの環境から検体が採取され、87検体中25検体が陽性であった(12)。香港衛生署衛生防護中心 (Centre for Health Protection, CHP)の発表によると、南アフリカからの帰国者症例がサージカルマスクを着用せずにホテルの部屋のドアを開けた際に別の1例が感染した可能性があるとしている(12)。CHPは症例が滞在した居室の左右隣3部屋に滞在していた者を隔離した。現在のところさらなる症例は報告されていない(4,12)
  •       英国は、2021年11月25日、B.1.1.529系統への懸念が高まっているとして、アフリカ南部6か国南アフリカ、ナミビア、ジンバブエ、ボツワナ、レソト、エスティワニ)から英国への渡航者に政府指定施設隔離を義務付けると発表した(13)同国では B.1.1.529系統をVUIとしている(13)。

国内での検出状況

  •      ゲノムサーベイランスでは、国内及び検疫検体にB.1.1.529系統に相当する変異を示す検体は検出されていない(2021年11月26日時点)。
  •      国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。

評価

  •      B.1.1.529系統については、遺伝子配列情報から感染・伝播性や抗原性の変化を示唆されるが、ウイルスの性状に関する実験的な評価はまだない。また、疫学的な評価を行うには十分な情報がまだ得られていない。年代別の感染性への影響、重篤度、ワクチンや治療薬の効果へのフィールドでの影響、既存株感染者の再感染のリスクなどへの注視が必要である。
  •       南アフリカのハウテン州を中心とした急速な感染拡大についてはイベント等による人々の社会的接触機会の増大や、他の変異株の影響等の要因も排除できない。南アフリカではウイルスの遺伝子配列決定数は感染者数に対して僅かであり、また地域差もあることを考慮して解釈する必要がある。南アフリカでの感染者数の急増における本変異株の寄与の程度は明らかではないが、B.1.1.529系統が南アフリカ国内で増加している可能性がある
  •       周辺国についても、十分にゲノムサーベイランスが行われていない国もあることから同系統の感染状況が過少評価されている可能性がある
  •       B.1.1.529統と想定されるウイルスの検疫・国内検出例はまだないが、引き続きゲノムサーベイランスで検疫・国内での監視を行う。
  •      個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、特に会話時のマスクの着用、手洗いなどの徹底が推奨される

参考文献

  1. Department Health Republic of South Africa. SARS-CoV-2 Sequencing & New Variant Update 25 November2021. https://sacoronavirus.co.za/2021/11/25/sars-cov-2-sequencing-new-variant-update-25-november-2021/
  2. World Health Organization. Tracking SARS-CoV-2 variants.
    https://www.who.int/en/activities/tracking-SARS-CoV-2-variants/
  3. European Centre for Disease Prevention and Control. SARS-CoV-2 variants of concern as of 25 November 2021. https://www.ecdc.europa.eu/en/covid-19/variants-concern
  4. 香港衛生署衛生防護中心 (Centre for Health Protection, CHP.
    https://www.info.gov.hk/gia/general/202111/25/P2021112500379.htm 
  5. New COVID-19 variant detected in South Africa – NICD
    https://www.nicd.ac.za/new-covid-19-variant-detected-in-south-africa/
  6. LATEST CONFIRMED CASES OF COVID-19 IN SOUTH AFRICA (25 November 2021) - NICD
    https://www.nicd.ac.za/latest-confirmed-cases-of-covid-19-in-south-africa-25-november-2021/
  7. Disaster management act, 2002: Amendment of regulations issued in terms of section 27 (2)
    https://www.gov.za/sites/default/files/gcis_document/202110/45253rg11342gon960.pdf
  8. Heavily mutated coronavirus variant puts scientists on Alert. Nature. 25 November 2021.
    https://www.nature.com/articles/d41586-021-03552-w
  9. Urgent briefing on latest developments around the Covid-19 vaccination programme
    https://www.youtube.com/watch?v=Vh4XMueP1zQ
  10. 香港衛生署衛生防護中心 (Centre for Health Protection, CHP). CHP investigates six additional confirmed cases of COVID-19 and follows up on compulsory quarantine arrangement concerning three imported cases involving local air crew
    https://www.info.gov.hk/gia/general/202111/15/P2021111500581.htm
  11. 香港衛生署衛生防護中心 (Centre for Health Protection, CHP). CHP investigates three additional confirmed cases of COVID-19
    https://www.info.gov.hk/gia/general/202111/20/P2021112000410.htm
  12. 香港衛生署衛生防護中心 (Centre for Health Protection, CHP). CHP provides update on latest investigations on COVID-19 imported cases 12388 and 12404
    https://www.info.gov.hk/gia/general/202111/22/P2021112200897.htm
  13. Department of Health and Social Care, UK Health Security Agency, and Department for Transport. Six African countries added to red list to protect public health as UK designates new Variant under Investigation
    https://www.gov.uk/government/news/six-african-countries-added-to-red-list-to-protect-public-health-as-uk-designates-new-variant-under-investigation

注意事項

  •       迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

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  5. 主催:国立国際医療研究センター グローバルヘルス人材戦略センター
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    開会とグローバルヘルスのランドスケープ
     グローバルヘルス人材戦略センター長/WHO執行理事  中谷 比呂樹
    17:40-18:00
    健康危機管理人材と当面のジョブ・オポチュニティ
     国立感染症研究所感染症危機管理研究センター長  齋藤 智也
    18:00-18:50
    パネルディスカッション
     座長:齋藤 智也
     国立国際医療研究センター国際感染症センター長  大曲 貴夫
     国立感染症研究所感染症疫学センター長  鈴木 基
     国立感染症研究所実地疫学研究センター長  砂川 富正
     厚生労働省健康局結核感染症課 杉原 淳
     厚生労働省東京空港検疫所支所 髙橋 里枝子
  7. 18:50-19:00
    まとめ  中谷 比呂樹

詳細および申込み方法は「リーフレット」をご覧いただきますようお願い申し上げます。

  211112

 

 

 

 

国立感染症研究所
2021年10月28日12:00時点

PDF

変異株に関する新たな分類の導入について

 変異株の分類についてはWHOの暫定定義を準用し、国内の流行状況を加味して「懸念される変異株(VOC)」と「注目すべき変異株(VOI)」に分類してきた。WHOでは9月より新たに、「監視下の変異株(VUM: Variants Under Monitoring)」の分類を設け、ウイルスの特性に影響を与えると思われる遺伝子変異を持つものの、表現型や疫学的な影響の証拠は現時点では不明である変異株を分類している。また、VOC/VOIにかつて分類されていたが、その後検出されなくなった、或いは公衆衛生的意義が薄れた変異株についてVUMとして一定期間監視を行うとしている。今般、国内外の変異株の疫学的状況が変化しつつあり、また、監視体制を強化し、早期の対応につなげる観点から、「監視下の変異株(VUM)」の分類を国立感染症研究所でも設定する(表1、表3)。

表1 国立感染症研究所による国内における変異株の分類(2021年10月28日時点)

分類

定義

主な対応

該当

変異株

懸念される変異株

(VOC; Variants of Concern)

公衆衛生への影響が大きい感染・伝播性、毒力*、及び治療・ワクチン効果の変化が明らかになった変異株

対応

Ÿ 週単位で検出数を公表(IDWR)

Ÿ ゲノムサーベイランス(国内・検疫)

Ÿ 必要に応じて変異株PCR検査で監視

Ÿ 積極的疫学調査

ベータ株

ガンマ株

デルタ株

注目すべき変異株

(VOI; Variants of Interest)

公衆衛生への影響が見込まれる感染・伝播性、毒力、及び治療・ワクチン効果や診断に影響がある可能性がある、又は確実な変異株で、国内侵入・増加の兆候やリスクを認めるもの(以下、例)

・検疫での一定数の検知

・渡航例等と無関係な国内での検出

・国内でのクラスター連鎖

・日本との往来が多い国での急速な増加

警戒

Ÿ週単位で検出数を公表(IDWR)

Ÿゲノムサーベイランス(国内・検疫)で監視

Ÿ積極的疫学調査

Ÿ必要に応じて変異株PCR検査の準備

該当なし

監視下の変異株

(VUM; Variants Under Monitoring)

公衆衛生への影響が見込まれる感染・伝播性、毒力、及び診断・治療・ワクチン効果に影響がある可能性がある変異を有する変異株

また、VOCやVOIに分類された変異株であっても、以下のような状況では、本分類に一定期間位置付ける

・世界的に検出数が著しく減少

・追加的な疫学的な影響なし

・国内・検疫等での検出が継続的に僅か

・特に懸念される形質変化なし

監視

Ÿ発生状況や基本的性状の情報収集

Ÿゲノムサーベイランス(国内・検疫)で監視

Ÿ(VOC/VOIからVUMに移行後国内発生が継続するものは)週単位で検出数を公表 (IDWR)

アルファ株

(旧)カッパ株

ラムダ株

ミュー株

AY.4.2

* 毒力virulence: 病原体が引き起こす感染症の重症度の強さ

IDWR: 感染症発生動向調査週報

変異株の再分類

  • これまでVOCに指定されていた変異株の中では、B.1.1.7系統の変異株(アルファ株)は、検出数が世界的に継続して減少しており、国内でも9月上旬以降、国際ゲノムデータベースであるGISAID(Global Initiative on Sharing All Influenza Data, https://www.gisaid.org)への登録がない。感染・伝播性は現在流行の中心であるデルタ株より低く、抗原性への影響がみられない。WHOと英国健康安全保障庁(HSA)はVOCの分類を維持しているが、欧州CDC、米国CDCは、それぞれ警戒解除した変異株(De-escalated variant)、監視中の変異株(VBM:Variant being monitored)に分類を変更している。以上の状況を鑑みて、我が国における分類をVUMに変更する。
  • B.1.351系統の変異株(ベータ株)、P.1系統の変異株(ガンマ株)については、世界的に検出数は継続して減少しているものの、一部の地域で発生が継続しており、抗原性の変化への影響を考慮して引き続きVOCに分類する。なお、米国CDCは共にVBMに分類している。
  • B.1.617.2系統の変異株(デルタ株)は、世界で検出されるウイルスの99%以上を占めており、国内でもほぼ100%置き換わっている。しかし、ワクチンの一部の効果の減弱が指摘されていること、また追加の変異やその亜型(AY.x系統)の動向が必要とされていることから、引き続きVOCに分類する。
  • VOIに位置付けてきたB.1.617.1系統の変異株(旧カッパ株)は、インドで4月に増加が見られたが、現在は終息している。国内では8例、検疫で19例が検出されているが、最終検出日は国内では2021年5月7日、検疫では 2021年5月1日である。国外からの流入が複数回あったことが確認できるが、国内では終息していると考えられる。WHOはVUMに分類を変更し「カッパ株」の呼称は取りやめ、欧州CDC、英国HSA、米国CDCがそれぞれ警戒解除した変異株(De-escalated variant)、調査中の変異株(VUI:Variant under investigation)、VBMに分類を変更している。世界的にも報告が著しく減少していることから、我が国における分類をVUMに変更する。

E484Qを含むデルタ株の事例について

  • デルタ株の中で、これまでVOC/VOIに見られたスパイクタンパクの特徴的な変異が加わった変異株について注視する動きがある。欧州CDCはデルタ株への追加変異として、スパイクタンパクにK417N、E484Q、Q613Hの各アミノ酸置換(以下便宜的に「変異」という。)が加わったものをVUMとして監視対象としている。
  • これらの追加変異の入ったウイルスの検出事例は検疫・国内で散見しているが、E484Qを含むデルタ株については、10月に入ってからも国内でいくつか検出がある。国内感染が示唆されるが、共に感染源不明の事例であり、国内で複数のE484Qを含むデルタ株が一定数存在する可能性がある。E484Q変異は感染・伝播性の増加や中和抗体の感受性が低下する可能性があるが、現在のところ国内で公衆衛生的に追加的な影響があることを示唆する所見はない。
  • VOCに位置付けるデルタ株の一部として、ゲノムサーベイランスや分子疫学調査で、顕著な疫学的変化(ブレークスルー感染、巨大クラスター化、二次感染率の増加、顕著な検出率の増加等)と関連するか引き続き注意する。

新たにVUMに位置付けられた変異株について

これまでVOCs/VOIsに位置付けていなかった変異株の中では、新たにC.37系統の変異株(ラムダ株)、B.1.621系統 (ミュー株)、AY.4.2系統の各変異株をVUMに分類する。

C.37系統の変異株 (ラムダ株)について

  • ラムダ株は、ペルーで2020年8月に初めて報告された。ラムダ株のスパイクタンパクの特徴的な変異としては、L452Q, F490S, D614G変異があり、感染・伝播性の増加と中和抗体への抵抗性と関連している可能性がある(1,2)。
  • ラムダ株は、第13報でも報告していたが、主に南米地域で比較的多くの割合を占めていたが、いずれの国においても減少傾向にある。
  • 検疫ではこれまで4例認めており、2021年9月6日の例が最後である。国内での検出流はない。
  • WHO、欧州CDCは引き続きVOIに位置付けているが、英国はVUIから“Monitoring(監視対象)”に位置付けを変更している。
  • 国立感染症研究所では、現状、ラムダ株が国内で拡大するリスクは非常に低いと考えるが、流行地域における動向を把握する必要性からVUMとして監視対象に位置付ける。

B.1.621系統の変異株 (ミュー株)について

  • ミュー株は、コロンビアで2021年1月に初めて検出された。WHOのVOCが有するE484K, N501Y, P681H等の変異を有することから、感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念されている。また、既存株の回復期血清やワクチン接種後の血清に対し中和抗体価が低下していることを示す実験的な報告もある(3,4)。
  • 地域的には、コロンビアとチリで検出数が多い。GISAIDの登録情報によれば、世界的には5月から検出割合が増加したが8月から減少傾向にある。
  • 検疫では、2例(最終検出日:2021年7月5日)が検出されているが、国内での検出は無い。
  • ミュー株について、WHO、欧州CDCはVOIに位置付け、英国HSA、米国CDCはそれぞれVUI、VBMに位置付けている。
  • 国立感染症研究所としては、ミュー株が国内で拡大するリスクは現状において低いと考えるが、流行地域における動向を把握する必要性からVUMとして監視対象に位置付ける。

AY.4.2系統の変異株 について

  • デルタ株は、PANGO系統のB.1.617.2系統及びその亜系統にあたるAY系統を含んでいるが、AY系統の中のAY.4.2系統が英国で増加している。
  • AY.4.2系統は、AY.4系統(B.1.617.2.4系統に相当)の亜系統として、PANGO系統分類の系統判別プログラム定義ファイルの更新(2021年10月4日、v.1.2.8)により新たに定義がなされた。
  • AY.4.2系統は、デルタ株やAY.4系統の変異に加え、スパイクタンパクにY145H、A222Vの各変異が入っていることが特徴とされる。これらの変異箇所は、スパイクタンパクのN末端側の変異であり、抗体医薬やワクチンにより誘導される抗体が標的とするエピトープ領域とは異なるため、免疫逃避などの影響は少ないと考えられるが、感染・伝播性や抗原性への影響に関して、疫学的・ウイルス学的な性質の評価に関する情報は現時点では十分に得られていない。
  • GISAID上、AY.4.2系統は25,222件登録されており、その93.8%は英国からの登録であったが、日本の検疫を含む多くの地域からも検出されている。(10月25日時点)
  • 英国は10月15日にAY.4.2系統を"Monitoring(監視対象)"に位置づけ(5)、10月20日にVUI(調査中の変異株)に位置づけた(6)。英国内では、デルタ株が約99.8%を占めており、そのデルタ株の中でもAY.4系統の割合が多かったが、さらにそのサブ系統であるAY.4.2系統の変異株が、当地で流行するその他の変異株に比較して速く増加しており、9月27日の週で英国で解析された検体の6%程度に検出されていることを指摘していた(5)。英国健康安全保障庁は、AY.4.2の増加率は、各地域で流行しているAY.4.2以外と比べて17%高い*と試算している(*この増加率は本系統の生物学的な感染・伝播性の増加の可能性だけでは無く、流行地の疫学的状況等にも左右されるものであり、解釈に注意を要する)。英国では、英国外の多数の国からの旅行者からも本系統が検出されており、その発生時期や起源は不明としている(6)。また、家庭における2次感染率が、AY.4.2系統で12.4% (95%CI: 11.9%-13.0%)とその他のデルタ株(11.1% (95%CI: 11.0%-11.2%))に比べて有意に高かった。家庭以外でもAY.4.2で2次感染率が高かったがその差は有意ではなかった。地域ごとの2次感染率の差異は観察されていない(6)
  • 欧州CDCは10月21日にVUMに位置付けた。なお、欧州CDCは域内での「検出」という位置づけであり、コミュニティでの流行とは判断していない(7)。
  • 我が国では、検疫で2021年8月28日に英国滞在歴のある入国者から検出されたデルタ株の1例について、これまでのPANGO系統判定プログラムではAY.4系統と判定されていたが、AY.4.2系統を含む定義ファイルに更新された系統判定プログラムでは、AY.4.2系統と判定された。なお、ウイルス分離を試みたがウイルスを分離することはできなかった。なお、10月28日時点で、国内ではAY.4.2系統と判定されたウイルスの検出はない。
  • 国立感染症研究所では、本系統は感染性が高まっている可能性を踏まえ、VUMに位置付け、諸外国の情報収集を継続するほか、ゲノムサーベイランスで国内の状況を監視する。

引用文献 (1-4 は査読前のプレプリント論文である)

  1. Acevedo ML, et al. Infectivity and immune escape of the new SARS-CoV-2 variant of interest Lambda. medRxiv. 2021. 
  2. Tada T, et al. SARS-CoV-2 Lambda Variant Remains Susceptible to Neutralization by mRNA Vaccine-elicited Antibodies and Convalescent Serum. bioRxiv. 2021.
  3. Uriu K, et al. Ineffective neutralization of the SARS-CoV-2 Mu variant by convalescent and vaccine sera. bioRxiv 2021.09.06.459005; doi: https://doi.org/10.1101/2021.09.06.459005.
  4. Miyakawa, K., et al. Neutralizing efficacy of vaccines against the SARS-CoV-2 Mu variant. medRxiv 2021.09.23.21264014; doi: https://doi.org/10.1101/2021.09.23.21264014.
  5. UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: Technical briefing 25. 15 October 2021.
  6. UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: Technical briefing 26. 22 October 2021.
  7. European Centre for Disease Prevention and Control. SARS-CoV-2 variants of concern as of 21 October 2021: https://www.ecdc.europa.eu/en/covid-19/variants-concern.

注意事項

 迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

更新履歴

第14報   2021/10/28  12:00時点

13   2021/08/28  12:00 時点

12   2021/07/31  12:00 時点

11   2021/07/17  12:00 時点

10報 2021/07/06  18:00時点

  報 2021/06/11 10:00時点

      2021/04/07 17:00 時点

     2021/03/03 14:00時点 

      2021/02/12 18:00時点

5報 2021/01/25 18:00時点 注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念されるSARS-CoV-2の新規変異株について」

  報 2021/01/02 15:00時点

  報 2020/12/28 14:00時点 

  2報 2020/12/25 20:00時点 注)第1報からタイトル変更

「感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について」

  1報 2020/12/22 16:00時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

  no14 2

no14 3

 

一般的にウイルスは増殖や感染を繰り返す中で徐々に変異をしてくことが知られており、新型コロナウイルスについても少しずつ変異をしています。大半の変異はウイルスの特性にほとんど影響を及ぼしませんが、一部の変異では、感染・伝播性、重症化リスク、ワクチン・治療薬の効果、診断法などに影響を及ぼすことがあります。 国立感染症研究所では新型コロナウイルスの変異株について迅速リスク評価を行い、「懸念される変異株(VOC)」、「注目すべき変異株(VOI)」、「監視下の変異株(VUM)」に分類しています。

 

  国立感染症研究所による国内における変異株の分類(2023年4月21日時点)

分類

定義

主な対応

該当

変異株

懸念される変異株

(VOC; Variants of Concern)

公衆衛生への影響が大きい感染・伝播性、毒力*、及び治療・ワクチン効果の変化が明らかになった変異株

対応

Ÿ 週単位で検出数を公表

Ÿ ゲノムサーベイランス(国内・検疫)

Ÿ 必要に応じて変異株PCR検査で監視

Ÿ 積極的疫学調査

オミクロン

注目すべき変異株

(VOI; Variants of Interest)

公衆衛生への影響が見込まれる感染・伝播性、毒力、及び治療・ワクチン効果や診断に影響がある可能性がある、又は確実な変異株で、国内侵入・増加の兆候やリスクを認めるもの(以下、例)

・検疫での一定数の検知

・渡航例等と無関係な国内での検出

・国内でのクラスター連鎖

・日本との往来が多い国での急速な増加

警戒

Ÿ週単位で検出数を公表

Ÿゲノムサーベイランス(国内・検疫)で監視

Ÿ積極的疫学調査

Ÿ必要に応じて変異株PCR検査の準備

 

 該当なし

監視下の変異株

(VUM; Variants Under Monitoring)

公衆衛生への影響が見込まれる感染・伝播性、毒力、及び診断・治療・ワクチン効果に影響がある可能性がある変異を有する変異株

また、VOCやVOIに分類された変異株であっても、以下のような状況では、本分類に一定期間位置付ける

・世界的に検出数が著しく減少

・追加的な疫学的な影響なし

・国内・検疫等での検出が継続的に僅か

・特に懸念される形質変化なし

監視

Ÿ発生状況や基本的性状の情報収集

Ÿゲノムサーベイランス(国内・検疫)で監視

Ÿ週単位で検出数を公表 

 

該当なし

* 毒力virulence: 病原体が引き起こす感染症の重症度の強さ

※ VariantのPango系統やNextstrainクレードといった分類が複雑で覚えにくく、初めて報告された地名などが呼称として使用されていることが、差別や偏見につながることも懸念して、2021年5月より、WHOは代表的なvariantに対してギリシャ文字の呼称を定めている。これまで”variant”の訳語として「変異株」、WHOが呼称を定めたvariantについてそれを用いて「〇〇株」と称してきた(例:B.1.1.7系統=アルファ株、B.1.1.529系統=オミクロン株)。しかし、B.1.1.529系統が主流となって以降、亜系統が広く分岐し、さらにWHOが用いる呼称で総称される系統・亜系統の抗原性等の性質が多様化しており、遺伝的に同一、又はほぼ均一なウイルスの集合体を示す「株」を、WHOが用いる呼称に対応して用いることが適さなくなってきている。そのため、WHOが呼称を定めた各variantについて「アルファ」「オミクロン」のように表現することとした。

なお、「〇〇株」は一般に広く使用されている用語となっており、通称として引き続き用いることを妨げるものではない。

 

 

 

 ● 国立感染症研究所が公表している新規変異株に関する報告

 

 ● 変異株に関する疫学調査

 

 ● 国立感染症研究所のゲノム解析の実施状況及びPANGO系統別検出状況

 

 

 

 

 

 

 

 

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国立感染症研究所
2021年10月18日

国立感染症研究所は、SARS-CoV-2ウイルスのアルファ株とデルタ株の組換え体とみられるSARS-CoV-2ウイルスを国内で6検体検出した。

  • 当該検体は8月12日から9月1日の間に採取された検体で、Pango系統ではB.1.1に分類されたが、Nextcladeでは21A(デルタ)に分類された。遺伝子配列のアライメント解析を行ったところ、21A(デルタ)系統であるものの、ORF6遺伝子からN遺伝子にかけて、20I(アルファ, V1)系統と同一の変異プロファイルを有する配列が存在した。また、ORF6遺伝子とORF7a遺伝子の間に組換えが起きた箇所と考えられる部位が存在した(図)。
  • 遺伝子解読において、当該検体に2種類のウイルスが混入していた可能性を示す所見はなく、両変異株の同時感染や他検体の混入によるものではないと考えられる。
  • 6検体の遺伝子配列はほぼ同一で、共通起源を有するウイルスと考えられる。
  • デルタ株の部分は国内で流行するデルタ株由来と考えられ、組換えが生じた箇所はORF6遺伝子以降で、感染性・免疫逃避に影響が生じる箇所ではなく、デルタ株と比較して感染・伝播性や免疫等への影響が強くなる可能性はないと考えられる。よって、現時点では、本組換え体による追加的な公衆衛生リスクは無いと考えられるが、今後の動向に注意する。
  • 異なる系統間のSARS-CoV-2ウイルスの組換え事例については、英国から報告があるが(1)、アルファ株とデルタ株の組換え事例はこれまで報告がなかった。
  • これらの遺伝子配列はすべてGISAIDに登録済みである。また、本報告は学術誌に投稿中であり、medRxivに掲載済みである。なお、当該ウイルスの分離に成功しており、現在配列の確認作業を行っている。
  • 引き続きゲノムサーベイランスによる発生動向の監視を行っていく。
    1. Jackson B., et al. Generation and transmission of interlineage recombinants in the SARS-CoV-2 pandemic. Cell. 184(20). 2021. pp. 5179-5188.e8.

図 国内で検出されたアルファ株とデルタ株の組換え体とみられるSARS-CoV-2ウイルスの遺伝子配列アライメント

covid19 61 fig1

上2行(PG-58832:アルファ株、PG-48062:デルタ株)は参照配列。

赤字の6検体はNextcladeで21A(デルタ)と判定されたものの、ORF7a遺伝子配列部分の変異はアルファ株のプロファイルと同一だった。赤字点線部分がアルファ株との組換えが起こったと考えられる箇所である。

国立感染症研究所
2021年5月10日時点
(掲載日:2021/5/13)

要約

国内に導入された新型コロナワクチンBNT162b2(Pfizer/BioNTech)の臨床的効果を迅速に評価することを目的として、サーベイランスデータを用いてワクチンを接種した医療従事者の仮想コホートを構成した。接種者においてCOVID-19報告率は1回目接種日から12日前後を境に低下する傾向がみられた。接種後0-13日の報告率と比較したときの報告率比は、14-20日が0.42(95%CI: 0.30-0.59)、21-27日が0.39(95%CI: 0.27-0.56)、28日以降が0.14(95%CI: 0.09-0.21)であった。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan