国立感染症研究所

20224月11

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  •        SARS-CoV-2を含めRNAウイルスにおいて遺伝子組換え(2種あるいはそれ以上の同種または近縁ウイルス間で、遺伝子の一部が組換わったゲノムを有するウイルスが生成すること)が起こりうることはよく知られている。異なる系統のウイルスが宿主に同時感染することで生じると考えられるが、SARS-CoV-2についても異なる系統間の組換え体と考えられるウイルスが検出される事例がある。
  •        これまで、アルファ株(B.1.1.7系統)とB.1.177系統の組換え体(XA系統)、B.1.634系統とB.1.631系統の組換え体(XB系統)、アルファ株(B.1.1.7系統)とデルタ株(AY.29系統)の組換え体(XC系統)、デルタ株とオミクロン株の組換え体(XD、XF、XS系統)にPANGO系統が付与されてきた。
  •        最近では、世界的なオミクロン株感染者の急増、そしてBA.1系統からBA.2系統への置き換わりが進行する中で、世界各地からこれらの組換え体が報告されており、PANGO系統が付与されてきている(XE, XG, XH, XJ, XK, XL, XM, XN, XP, XQ, XR)。また、PANGO系統がまだ付与されていない組換え箇所等が異なるオミクロン株の組換え体も世界各地から報告されている。
  •       これらの組換え体の多くは、形質の変化は明らかになっていないが、唯一、XE系統については、イングランドではコミュニティ伝播が認められており、感染者の増加する速度がBA.2より12.6%高いことを報告している。なお、直近3週間に限れば20.9%高いとの解析結果もあるが、検査政策の変更の影響等含めて精査中であり、XE系統の増加優位性を示す数値として解釈すべきではないとしている。イングランドでは4月5日時点で1,125件が報告されているが、全体に占める割合は1%未満である。その他GISAIDには、米国(3件)、デンマーク(1件)、アイルランド(1件)よりGISAIDに登録があり、さらに他の国からも検出されたことを報告する報道がある。重症度等の形質の変化に関する報告はない。英国は、現在流行中の変異株に比べて生物学的に性質が異なると考えられる"Variants"の一つに位置付け、ECDCはVUM(監視下の変異株)に位置付けている。
  •        このXE系統について、国立感染症研究所は、検疫で2022年3月26日に採取された検体から1件を確認した。PANGO系統判定プログラムで判定不能であったため、遺伝子配列の解読データを確認し、遺伝子配列の詳細な解析を行った結果、XE系統と判定した。なお、このXE系統が英国で流行しているものに由来するか、それとは異なる場所で生じた組換え体であるかはゲノム情報だけから判定することはできない。
  •        XE系統は、ウイルスの抗原性を規定し標的細胞への侵入に関与するスパイクタンパク質はBA.2系統と同一であり、ウイルス粒子の基本的な性状はBA.2系統の形質を有すると考えられる。ウイルスのスパイクタンパク質を標的とする中和抗体医薬やワクチンの効果も、BA.2系統に対する効果と同等と考えられるが、組換え箇所にコードされるウイルス遺伝子の機能変化等のゲノム組換え現象がウイルス感染に与える影響については不明であり、感染伝播性や病原性などのウイルスの形質の変化の有無や感染拡大状況を注視していく必要がある。国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと考えられる。
  •       また、遺伝子配列上はオミクロン株間の組換え体と考えられる検体が検疫でほかに2検体検出されているが、これまで分類されている系統には該当せず、PANGO系統は判定できなかった。
  •        国内では、過去にXC系統(AY.29系統とB.1.1.7系統)の組換え体を国内で検知した例がある。XC系統は計24検体を検出したものの、2021年10月16日を最後にその後検出されていない。デルタ株とオミクロン株、オミクロン株間の組換え体は国内では検出されていない。
  •       XE系統に限らず、また、組換え体に限らず、感染拡大状況を注視し、感染・伝播性や免疫回避等の生物学的性質が大幅に変化し社会に大きなインパクトをもたらす変異株の発生を監視していく必要がある。引き続き、諸外国の状況や知見等も収集しつつ、ゲノムサーベイランスによる監視を行っていく。

参考文献

  •       国立感染症研究所. 感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第15報). 2022年3月28日時点.
  •       Sekizuka T, et al. Genome Recombination between Delta and Alpha Variants of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 (SARS-CoV-2). Jpn J Infect Dis. 2022 Feb 28. doi: 10.7883/yoken.JJID.2021.844.
  •       UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: Technical briefing 40. 8 April 2022.

 

 

国立感染症研究所

2022年3月28日9:00時点

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変異株の再分類

  •   2021年11月28日にB.1.1.529系統を懸念される変異株(VOC)と位置付けて以来、オミクロン株は国外でも、国内でも割合が増加しデルタ株からの置き換わりが進行し、世界でも過去30日間にゲノム解析されGISAID登録されたウイルス株の99.8%を占め、デルタ株が0.1%を占めるのみとなった(WHO, 2022)。国内でも全てオミクロン株に置き換わった状況にある。変異株の流行状況が大きく変化したことから、変異株の分類を見直すこととした。
  •   B.1.351系統の変異株(ベータ株)、P.1系統の変異株(ガンマ株)については、世界的に検出数は継続して減少し、GISAIDデータベース上では最終検出日は、それぞれ、2021年12月30日、2022年1月10日と2カ月以上にわたって検出されていない。そのため、監視下の変異株(VUM)に位置付けを変更する。
  •   B.1.617.1系統の変異株(旧カッパ株)、C.37系統の変異株 (ラムダ株)、B.1.621系統の変異株 (ミュー株)についても、世界的に検出数は減少し、GISAIDデータベース上での最終検出日は、それぞれ、2022年2月14日、2022年1月29日、2022年2月11日である。国内では、旧カッパ株は2021年5月7日、ミュー株は2021年8月4日が最後の検出日であり、ラムダ株は国内では検出されていない。そのため、VUMの位置付けから除外する。
  •   AY.4.2系統の変異株については、GISAIDデータベース上での最終検出日は2022年2月17日で、国内では検出されたことがない。デルタ株全体として大幅に検出が減少しており、デルタ株の中でAY.4.2について現状で特段増加の優位性を認めるものではないことから、VUMの位置付けから除外する。
  •   以前よりVUMに位置付けていたB.1.1.7系統の変異株(アルファ株)については、国内では2021年10月1日以降登録がないが、GISAIDデータベース上では現在も散発的に登録がある。そのため、VUMの位置付けを維持する。

デルタ株とオミクロン株の組換え体について

  •   SARS-CoV-2を含めRNAウイルスにおいて遺伝子組換え(2種あるいはそれ以上の同種または近縁ウイルス間で、遺伝子の一部が組換わったゲノムを有するウイルスが生成すること)が起こりうることはよく知られている。異なる系統のウイルスが宿主に同時感染することで生じると考えられるが、SARS-Co-V-2についても異なる系統間の組換え体と考えられるウイルスが検出された事例があり、PANGO系統(XA/XB/XC系統)に分類されているものもある。
  •   デルタ株とオミクロン株の組換え体は、おそらくは、デルタ株からオミクロン株への置き代わりの時期に、ヒトなどでの共感染によって出現し、感染が維持されたものが検出されていると考えられる。いくつかの組換え体については、PANGO系統の付与、あるいはモニタリング対象として指定されているほか、英国は、デルタ株とオミクロン株の組換え体を包括的にVariants in monitoring(監視中の変異株)として扱っている(UK Health Security Agency, 2022a)
  •   そのほかにも、組換えを起こした系統や組換わった部分が異なる複数種類のデルタ株とオミクロン株の組換え体が報告されている。これらの組換え体のウイルス学的な性質や感染者における症状等はまだ明らかではなく、特段これまでの変異株と形質が異なるという所見はない(WHO. COVID-19 Weekly Epidemiological Update, Edition 84, published 22 March 2022)。また、検出数も多くはなく、引き続きゲノムサーベイランスの中で動向を監視していく。

表1 国立感染症研究所による国内における変異株の分類(2022年3月28日時点)

分類

定義

主な対応

該当

変異株

懸念される変異株

(VOC; Variants of Concern)

公衆衛生への影響が大きい感染・伝播性、毒力*、及び治療・ワクチン効果の変化が明らかになった変異株

対応

 ・週単位で検出数を公表(IDWR)

 ・ゲノムサーベイランス(国内・検疫)で監視

 ・必要に応じて変異株PCR検査で監視

 ・積極的疫学調査

デルタ株

オミクロン株

注目すべき変異株

(VOI; Variant of Interest)

公衆衛生への影響が見込まれる感染・伝播性、毒力、及び治療・ワクチン効果や診断に影響がある可能性がある、又は確実な変異株で、国内侵入・増加の兆候やリスクを認めるもの(以下、例)

・検疫での一定数の検知

・渡航例等と無関係な国内での検出

・国内でのクラスター連鎖

・日本との往来が多い国での急速な増加

警戒

 ・週単位で検出数を公表(IDWR)

 ・ゲノムサーベイランス(国内・検疫)で監視

 ・積極的疫学調査

 ・必要に応じて変異株PCR検査の準備

該当なし

監視下の変異株

(VUM; Variants Under Monitoring)

公衆衛生への影響が見込まれる感染・伝播性、毒力、及び診断・治療・ワクチン効果に影響がある可能性がある変異を有する変異株

また、VOCやVOIに分類された変異株であっても、以下のような状況では、本分類に一定期間位置付ける

・世界的に検出数が著しく減少

・追加的な疫学的な影響なし

・国内・検疫等での検出が継続的に僅か

・特に懸念される形質変化なし

監視

 ・発生状況や基本的性状の情  報収集

 ・ゲノムサーベイランス(国内・検疫)で監視

 ・(VOC/VOIからVUMに移行後国内発生が継続するものは)週単位で検出数を公表 (IDWR)

アルファ株

ベータ株

ガンマ株

* 毒力virulence: 病原体が引き起こす感染症の重症度の強さ

IDWR: 感染症発生動向調査週報

 

参考 主な変異株の各国における位置付け(2022年3月28日時点)

系統名

感染研

WHO*

ECDC

英国HSA

CDC

B.1.617.2系統

(デルタ株)

VOC

currently circulating VOC

VOC

VOC

VOC

B.1.1.529系統

(オミクロン株)

VOC

currently circulating VOC

VOC

VOC

VOC

B.1.1.7系統

(アルファ株)

VUM

previously circulating VOC

De-escalated variant

VOC

VBM

B.1.351系統

(ベータ株)

VOC

→VUM

previously circulating VOC

VOC

International VOC

VBM

P.1系統

(ガンマ株)

VOC

→VUM

previously circulating VOC

VOC

VOC

VBM

B.1.617.1系統

(旧カッパ株)

VUM

→なし

previously circulating VOI

De-escalated variant

なし

VBM

C.37系統

(ラムダ株)

VUM

→なし

previously circulating VOI

De-escalated variant

なし

なし

B.1.621系統

(ミュー株)

VUM

→なし

previously circulating VOI

De-escalated variant

International VUI

VBM

AY.4.2系統

(デルタ株の
 一亜系統)

VUM

→なし

なし

De-escalated variant

VUI

なし

VOC: Variant of Concern(懸念される変異株)、VOI: Variant of Interest(注目すべき変異株)、VUI:Variant under Investigation(調査中の変異株)、VUM: Variant under Monitoring(監視下の変異株)、VBM: Variant being Monitored(監視中の変異株)、De-escalated variant(警戒解除した変異株)

* WHOは2022年3月22日よりVOCとVOIについて、previously circulating(かつて流行していた)とcurrently circulating(現在流行中)の2種類に分けている。

 

引用文献

  •   European Centre for Disease Prevention and Control. SARS-CoV-2 variants of concern as of 17 March 2022. https://www.ecdc.europa.eu/en/covid-19/variants-concern.
  •   UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variant data update, England. Version 24. 11 March 2022a. https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1060192/routine-variant-data-update-24-data-england-11-March-2022.pdf.
  •   UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England. Technical briefing 39. 25 March 2022b.
  •   WHO. COVID-19 Weekly Epidemiological Update, Edition 84, published 22 March 2022. https://www.who.int/publications/m/item/weekly-epidemiological-update-on-covid-19---22-march-2022.

 

 

注意事項

  •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

更新履歴

第15報   2022/03/28 9:00 時点       注)タイトル変更

             「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念されるSARS-CoV-2の変異株について」

第14報   2021/10/28  12:00時点

13   2021/08/28  12:00 時点

12   2021/07/31  12:00 時点

11   2021/07/17  12:00 時点

10報 2021/07/06  18:00時点

  報 2021/06/11 10:00時点

      2021/04/06 17:00 時点

     2021/03/03 14:00時点 

      2021/02/12 18:00時点

5報 2021/01/25 18:00時点 注)タイトル変更

  「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念されるSARS-CoV-2の新規変異株について」

  報 2021/01/02 15:00時点

  報 2020/12/28 14:00時点 

  2報 2020/12/25 20:00時点 注)第1報からタイトル変更

         「感染性の増加が懸念されるSARS-CoV-2新規変異株について」

  1報 2020/12/22 16:00時点

     「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

 

  no15_2

no15_3

2022年3月16日9:00時点

国立感染症研究所

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概要

 WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化の可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )

 2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。

* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.1系統 BA.2系統, BA.3系統及び更にその下位の亜系統(BA.1.1を含む)が含まれる。

 

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要 

PANGO

系統名

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

英国

UKHSA

米国

CDC

スパイクタンパク質の主な変異等(全てのオミクロン株で認めるわけではない)

B.1.1.529

BA.x

VOC

VOC

VOC

VOC

(BA.2系統はVUI、BA.3系統はSignals currently under monitoring and investigationに分類)

VOC

BA.1/BA.2系統共に主流:G142D, G339D, S373P, S375F, K417N, N440K, S477N, T478K, E484A, Q493R, Q498R, N501Y, Y505H, D614G, H665Y, N679K, P681H, N764K, D796Y, Q954H, N969K

BA.1系統で主流: A67V, del69/70, T95I, del143/145, N211I, del212, S371L, G446S, G496S, T547K, N856K, L981F (BA.1.1ではR346K)

BA.2系統で主流: T19I, L24S, del25/27, V213G, S371F, T376A, D405N, R408S

 

オミクロン株について

B.1.1.529系統の下位系統としてBA.1系統、BA.2系統、BA.3系統が位置付けられており、現在の世界的な主流はBA.1系統である。さらにこれらの系統の下位に複数の亜系統が分類されている(cov-lineages.org)。BA.1系統とBA.2系統では、共通する変異が多いが、それぞれの系統に特異的な変異や欠失が複数ある。海外では、異なる系統のオミクロン株同士、デルタ株とオミクロン株の組換えウイルスの散発的な発生が報告されており、WHOよりモニタリングの対象として指定されたものもある。感染者の症状等の形質の違いが生じているという報告はまだないが、注視が必要である(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)。

 世界の多くの地域において、オミクロン株による感染者(以下オミクロン株感染者)の新規報告数は減少に転じた。一方で、西太平洋地域では報告数の増加が継続している。オミクロン株の下位系統(BA.1系統、BA.1.1系統、BA.2系統ならびにBA.3系統)に関し、現状では世界的にBA.1系統(BA.1.1系統を含む)が最も多くを占めていると推定される。しかし、多くの地域でBA.2系統の占める割合が増加し、いくつかの国でBA.2系統が優勢となっていることが報告されている。また、少数ではあるが、複数の国でBA.1系統感染後のBA.2系統への再感染例が報告されている。

  •   2021年11月24日に南アフリカからWHOへ最初のオミクロン株感染者が報告されて以降、2022年3月8日までに日本を含め全世界195か国から感染者が報告された(WHO. COVID-19 Weekly Epidemiological Update, Edition 82, published 8 March 2022)。
  •   GISAIDに登録された検体(2022年2月4日-3月5日の採取検体)の解析では、428,417検体中 427,152検体(99.7%)がオミクロン株で580検体(0.1%)がデルタ株であった。同期間中に100検体以上をGISAIDに登録した46か国全てにおいて、。オミクロン株の下位系統別の世界的な動向として、同期間中に採取された検体における各系統の検出割合は、BA.1.1系統が41%、次いでBA.2系統が34%、BA.1系統が25%、BA.3系統は1%未満であった(WHO. COVID-19 Weekly Epidemiological Update, Edition 82, published 8 March 2022)。
  •   BA.2系統の世界的な動向として、GISAIDに登録された検体でのBA.2系統の週別検出割合は経時的に増加した(2022年第4週12%、第5週19%、第6週32%、第7週36%)。BA.2系統の増加は特に南東アジア地域で顕著で、次いで東地中海地域、アフリカ地域、西太平洋地域、ヨーロッパ地域の順で同様の傾向が見られた。一方、アメリカ地域では、BA.2系統の検出割合は低く留まっていた(WHO, COVID-19 Weekly Epidemiological Update, Edition 80, published 22 February 2022)。
  •   BA.2系統に関する主な諸外国の状況として、デンマークでは、ゲノム解析された検体のうちBA.2系統の占める割合が、2%(2021年第50週)から98%(2022年第9週)に増加した(SSI. Genomic overview of SARS-CoV-2 in Denmark. Upldated 7 March 2022. Accessed 12 March 2022)。英国では、2022年1月27日から3月8日にゲノム解析されたのうち95%以上がBA.2系統であり、SGTP検体の占める割合が、52%(2022年2月20日時点)から83%(同年3月6日時点)に増加した(UKHSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 38. 11 March 2022)。米国では、BA.2系統の週別検出割合の推定値が、0.1%(95%PI 0.1-0.2%、2022年1月9日-1月15日)から11.6%(95%PI 9.8-13.6%、2022年2月27日-3月5日)に増加した(CDC. Variant Proportions. Accessed 12 March 2022)。南アフリカでは、ゲノム解析された検体のうちBA.2系統の占める割合が、38%(852/2,259、2022年1月)から79%(215/271、2022年2月)に増加した(NICD. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE. 4 March 2022)。
  •   少数ではあるが、BA.1系統感染後のBA.2系統への再感染を示唆する報告がなされている  (WHO. Statement on Omicron sublineage BA.2. 22 February 2022)。英国では、ゲノム解析された547,911検体(2021年11月1日-2022年2月21日の採取検体)の解析で、BA.1系統が検出された後、25日以上の検体採取間隔をあけBA.2系統が検出された18例が確認された(UKHSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 38. 11 March 2022)。デンマークでは、2021年11月21日から2022年2月11日に1,848,466例のSARS-CoV-2感染例が報告され、1,739例が20-60日の検体採取間隔で複数回陽性であった。そのうち、ペアでゲノム解析結果が得られた263例中47例で、BA.1系統が検出された後にBA.2系統が検出された(Stegger M et al.)

 

日本での発生状況

国内では全てオミクロン株に置き換わっている。当初BA.1系統とBA.1.1系統の海外からの流入がともにあったものの、その後BA.1.1系統が多数を占めるに至り、現在も主流となっている。BA.2系統は、2021年第52週に国内で初めて検出された。国内では2022年第4週から5週間に全国で検出されたオミクロン株のうち、BA.2系統は1%であり、週毎の割合は増加傾向である。また、東京都で実施している変異株PCR検査(後段の検査診断の項を参照のこと)によると、「BA.2系統」疑いの割合は、約12%(2/22-2/28)と報告されている。なお、ゲノム解析の報告遅れがあるので、この数値は暫定値である。また、地域によって各系統が占める割合は異なる可能性がある。

 

ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見

  •   感染・伝播性 

国内外でオミクロン株では、これまでの流行株と比べてより短い潜伏期間(中央値2.9日(95%CI 2.6-3.2)(国立感染症研究所. SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の潜伏期間の推定:暫定報告)と発症間隔(中央値2.6日(95%CI 2.2-3.1)(国立感染症研究所. SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の発症間隔の推定:暫定報告)が報告されている。

海外ではBA.2系統に関して2次感染率がBA.1系統に比べて高いこと、短い倍加時間が報告された。これらの所見は、BA.1系統に比べてBA.2系統の感染者数増加における優位性に寄与している可能性がある。国内でもBA.2系統の割合の増加が観察されており、感染者数の増加(減少)速度に影響を与える可能性がある。

  •   国立感染症研究所の分析では、首都圏および関西圏での実効再生産数は2月20日時点でそれぞれ0.95(95%CI 0.94-0.95)と0.93 (95%CI 0.93-0.94)であり、2月に入ってから1をわずかに下回って横ばいが続いている(第75回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年3月9日)。
  •   世界保健機関(WHO)は3月3日までにGISAIDに登録されたオミクロン株のBA.1系統に対するBA.2系統の増加率優位は世代時間が同じであるという前提では平均56%(95%CI 42-72%)と算出した(WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19, March 08 2022
  •   英国健康安全保障庁(UKHSA)は2022年1月1日から2月14日までにBA.2系統の感染者の濃厚接触者を調査したところ、家庭内での二次感染率は13.6%(95%CI 13.2-14.0%)、家庭外では5.3%(95%CI 4.7-5.8%)であった。これは同時期のBA.1系統の家庭内および家庭外での二次感染率(それぞれ10.7%、4.2%)より高かった。陽性検体のCq中央値を発症日からの日数で比較したところ、とくに早期(0-2日)ではBA.2系統はBA.1系統と同等であった(UKHSA. Technical Briefing 37, 38)。
  •   英国におけるREACT-1研究がアップデートされ、2月8日から21日までの検体のうち系統分類された1,195検体の27.7%(95%CI 25.2-30.4)がBA.2系統であった。BA.1系統およびBA.1.1系統の日ごとの実効再生産数に対してBA.2系統では相対的に0.4倍(95%CI 0.36-0.43)増えて、1.4と算出された。また、陽性検体のCq値を系統ごとに比較したところ、BA.2系統ではBA.1系統およびBA.1.1系統よりも有意に低かった(REACT. The Omicron SARS-CoV-2 epidemic in England during February 2022)。
  •   香港における公営住宅でのBA.2系統のアウトブレイク調査では倍加時間が1.28日(95%CI 0.56-1.94)と算出された。ただし、観察期間が1週間であることに注意が必要である(Cheng et al.)。
  •   カタールでの査読前論文によれば2021年12月23日から2022年2月20日までに報告された156,202例をS遺伝子の検出の可否(後述:検査診断の項を参照)によってBA.1系統(S遺伝子陰性)とBA.2系統(同陽性)に分類して検討したところ、RT-qPCR法における初回の平均Cq値がBA.2系統ではBA.1系統より3.53(95%CI 3.40-3.60)低かった(Qassim et al.)。
  •   GISAIDに2021年11月22日から2022年2月22日までデンマークで集められたSARS-CoV-2ゲノム配列データを用いて数理モデルでの検討に関する査読前論文では、BA.2系統の相対的世代時間はBA.1系統の0.85倍(95%CI 0.84-0.86)であり、有効再生産数は1.26倍(95%CI 1.25-1.26)と算出された(Ito et al.)

 

  •   ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や自然感染による免疫からの逃避 

国内外の報告からは、ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株の感染と比較してBA.1系統への感染では低下するが、3回目接種(ブースター接種)によりBA.1系統感染による発症予防効果が一時的に高まることが示されている。感染予防効果についても、同様のブースター接種による効果が報告されている。ただし、海外の報告では、3回接種後の発症予防効果が数ヶ月で減衰するが、一定程度は保たれることが示唆されている。長期的にどのように推移するかは不明である。

重症化予防効果(入院および死亡予防効果)も、BA.1系統では、2回接種者においてデルタ株と比較して一定程度の低下を認めるものの、発症予防効果の低下の程度と比較すると保たれていることが報告されている。さらに、重症化予防効果も、3回目接種(ブースター接種)により、短中期的には効果が高まることが報告されている。BA.2系統においても、発症予防効果は大きな違いはないとする英国からの報告があり、実験室レベルでのデータもこれを支持している。

オミクロン株においては、SARS-CoV-2に対するモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品の効果への影響も懸念されている。国内外のin vitroの評価で、BA.1系統の分離ウイルスに対して、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は中和活性が著しく低下している一方、(ゼビュディ)に対しては中和活性が一定程度維持されていた。BA.2系統の分離ウイルスに対しては、BA.1系統と比較して、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)の中和活性は若干高い一方、ソトロビマブ(ゼビュディ)に対しては若干の低下を認めた。BA.2系統のハムスターへの感染実験においては、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)、ソトロビマブ(ゼビュディ)により肺におけるウイルス量が低下したという報告がある。ただし、これらの報告はin vitroや動物モデルでの評価であり、解釈に注意が必要であり、臨床的な評価についての知見の蓄積が待たれる。

なお、in vitroの評価では、BA.1系統、BA.2系統いずれに対しても、レムデシビル、モルヌピラビル、ニルマトレビルはいずれも感受性を有していた。

 

第8報までの報告に加えて、以下の知見が新たに報告された。

  •   米国から、検査陰性デザイン(test-negative design; TND)を用いた症例対照研究による、モデルナ社製新型コロナワクチンの感染予防効果および入院予防効果が報告された(Tseng et al.)。SGTFを用いてオミクロン株(BA.1系統と想定される)とデルタ株感染を分類している(本稿では前者のBA.1系統に関する結果のみについて記載)。2回接種から14-90日後の感染予防効果は44.0% (95%CI 35.1-51.6%)、91-180日後は23.5% (95%CI 16.4-30.0%)、181-270日後は13.8% (95%CI 10.2-17.3%)、270日後以降は5.9% (95%CI 0.4-11.0%)であった。3回接種から14-60日後の感染予防効果は71.6% (95%CI 69.7-73.4%)、60日以降の感染予防効果は47.4% (95%CI 40.5-53.5%)であった。ただし、感染予防効果に関して、無症状者における検査受検動機は不明であり、解釈に注意が必要である。入院予防効果については、2回接種後は84.5% (95%CI 23.0-96.9%)、3回接種後は99.2% (95%CI 76.3-100.0%)であった。
  •   国立感染症研究所を含む国内外から、BA.1系統とBA.2系統それぞれにおいて、分離ウイルス等を用いたモノクローナル抗体による中和試験(in vitro評価)の暫定結果が報告されている。BA.1系統においては、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)による中和活性が、従来株やオミクロン株以外の変異株に対するものと比較して、著しく低下している一方、ソトロビマブ(ゼビュディ)では中和活性が若干低下したものの、一定程度維持されていた(Takashita et al.)。BA.1系統と比較すると、BA.2系統では、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)で若干中和活性が高い一方、ソトロビマブ(ゼビュディ)ではBA.1系統よりも若干中和活性が落ちているという報告が査読済みおよび査読前論文として複数報告されている(Iketani et al., Takashita et al., Ohashi et al., Cao et al.)。一方、BA.1系統、BA.2系統いずれに対しても、GS-441524(レムデシビルの内因性代謝物)、EIDD-1931(モルヌピラビルの活性体)、ニルマトレビルはそれぞれ感受性を有していた。また、動物モデルにおける抗体医薬品の作用を検討した査読前論文があり、BA.2系統に感染させたハムスターに対して、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)、ソトロビマブ(ゼビュディ)等をそれぞれ投与したところ、4日後の肺組織中のウイルス量の低下を認めた(Kawaoka et al.)。

 

  •   重症度 

デルタ株と比較してオミクロン株では、総じて重症化リスクの低下が示唆されているが、ワクチン未接種、基礎疾患等の重症化リスク因子を有する場合は、ウイルス性肺炎や基礎疾患の悪化などの要因により、死亡の転帰をとり得る。ただし、国内の重症例および死亡例は高齢者が多く、高齢者において感染者が大幅に増加することで相対的な重症化リスクの低下分が相殺される可能性に注意する必要がある。また、重症化や死亡の転機を確認するには時間がかかることを踏まえた知見の集積が必要である。さらに、小児での評価についても知見の集積が必要である。BA.2系統について、重症化・死亡のリスクが増加するという報告はないが、引き続き知見の集積が必要である。

  •   国立感染症研究所の分析において、2022年3月2日までに重症例(n=308)ないし死亡例(n=682)としてHER-SYSに報告された症例を検討したところ、重症例では中央値73歳、死亡例では中央値85歳であり、年齢中央値は死亡例の方が高かった。症状として最も多く登録されているのは発熱(重症例:70.1%、死亡例:58.1%)であったが、急性呼吸促迫症候群も重症例の6.2%、死亡例の2.2%で報告されていた(第75回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年3月9日)。
  •   広島県で2022年1月1~31日に県が公表したCOVID-19による重症病床入院例(以下、重症登録例という)および死因にかかわらず新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染していた死亡例(以下、死亡登録例という)についての実地疫学調査が行われた。対象期間内の重症登録例は27例、死亡登録例は42例(計69例)であった。これら69例のうち、デルタ株またはL452R変異陽性例3例を除外すると重症登録例25例、死亡登録例41例であった。重症登録例のうち24例について診療録調査が実施でき「新型コロナウイルス感染症診療の手引き 第6.2版」の重症度に基づき分類すると、重症例9例と、中等症例/軽症例15例であった。重症例9例全症例に基礎疾患や既知の重症化リスク因子があった。そのうち3例はCOVID-19による重症肺炎で、全員がワクチン未接種であった。死亡登録例41例のうち、病院以外死亡例は8例、病院死亡例は33例であった。病院死亡例33例のうち診療録調査が実施出来たのは11例であった。11例の推定感染場所は、病院・施設8例(73%)、不明3例(27%)であった。集中治療からの死亡例はおらず、全例の診療録において、本人もしくは家族が侵襲的な治療を希望されなかった旨の記載があった。(国立感染症研究所.広島県における新型コロナウイルス感染症の重症例・死亡例に関する実地疫学調査、2022年1月)。
  •   UKHSAはBA.2系統における入院のが0.91(95%CI 0.85-0.98)とBA.1系統より少なくとも同等以下のハザードであるという初期報告を行った (UKHSA. Technical Briefing 37, 38)
  •   デンマークでの2022年1月2日までに報告された55,273例のうち全ゲノム解析によって分類された18,760例(うちBA.1系統 16,137例)において、入院に対するBA.2系統の相対危険度は1.2(95%CI 0.9-1.5)であり、死亡の頻度もBA.1系統と変わらなかった(p=0.42)(Fonager et al.)。
  •   南アフリカにおける査読前のデータリンケージ研究では、2021年12月1日から2022年1月20日までに報告された95,470例をSGTFの結果によってBA.1系統とBA.2系統に分類し、BA.2系統の入院オッズを年齢、性別、基礎疾患や既感染の有無などで調整して算出した結果、BA.1系統の0.96倍(95%CI 0.85-1.09)であった(Wolter et al.)。

オミクロン株の病原性についての実験科学的な知見については、BA.1系統ウイルスとマウスおよびハムスターを用いた動物モデルおよびex vivoでの評価に関する論文報告がある。いずれも、オミクロン株のBA.1系統では従来株に比べて肺組織への感染性と病原性が低下していることを示唆している。ただし、これらの報告はあくまで動物モデルや細胞・組織レベルでの評価であり、ヒトに対するオミクロン株病原性とは必ずしも相関しない可能性があることに注意する必要がある。また、BA.2系統ウイルスの病原性に関する実験科学的な知見については、臨床検体から分離されたウイルス株を用いた解析 (Kawaoka et al.) と、従来株のウイルスにBA.2系統のスパイクタンパク質のみを組換えたキメラウイルスを用いた解析 (Yamasoba et al.) が報告されている。前者ではBA.2系統の病原性はBA.1系統と同程度であったが、後者ではBA.2系統のスパイクタンパク質を持つキメラウイルスの方がBA.1系統のスパイクタンパク質を持つキメラウイルスよりも高い病原性を示しており、実験系により相反する結果が報告されている。前者の結果については、分離ウイルス1株で得られた結果でありBA.2系統のウイルス全体の性質を反映しているのかについては、慎重な判断が必要である。また、後者の結果についても、スパイクタンパク質の性質のみを評価した実験の結果であり、BA.2系統のウイルスそのものの性質を反映しているのかについては、慎重な判断が必要となる。いずれの実験系についても更なる知見の集積が望まれる。

  •   国立感染症研究所と国立国際医療研究センターが実施した積極的疫学調査において、オミクロン株感染者のウイルス学的特徴と血清学的特徴本調査では、2021年11月29日から2022年1月13日までに調査協力医療機関に入院し診療を行い、ゲノム解析により感染ウイルスがオミクロン株と確定した者を対象症例とした。登録された126症例の呼吸器検体662検体、血液検体190検体を用いてウイルス学的検査および血清学的検査を実施した。その結果、オミクロン株感染者の呼吸器検体における感染性ウイルス検出率はワクチン接種者とワクチン未接種者ともに診断もしくは発症後5日目から10日目にかけて低下していくこと、ワクチン接種者とワクチン未接種者ともに診断もしくは発症10日目以降は感染性ウイルスがほとんど検出されなくなることが示唆された。これらの結果は、積極的疫学調査第1~3報と同様であった。また、オミクロン株感染者の血清学的特徴として、ワクチン未接種者では感染後にオミクロン株に特異的な中和抗体のみが誘導されるのに対して、ワクチン接種者では感染後に従来株とオミクロン株の双方に中和能を有する交差中和抗体が誘導される傾向があることが示唆された。なお、本調査では、ワクチンの有効性やワクチン接種後感染の発生割合については評価していない(国立感染症研究所. SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第6報): ウイルス学的・血清学的特徴)。
  •   従来株のウイルスにBA.1型またはBA.2型のスパイクタンパク質のみを組換えたキメラウイルスについて、ハムスターを用いて病原性を評価した結果、BA.2型では体重減少や呼吸機能の悪化が見られた一方で、BA.1型では臨床症状の変化はわずかであった。また、組織病理学的に評価した肺胞傷害や気管支炎・細気管支炎などの重症度スコアも、BA.1型よりBA.2型の方が高かった。肺におけるウイルスコピー数はBA.2型の方がBA.1型より高く、BA.2型感染後の方がウイルス抗原陽性細胞は広く肺内に分布していた。以上の結果より,BA.2型のスパイクタンパク質は、BA.1型と比較して強い病原性やウイルス複製能の獲得に関与する可能性が示唆された(Yamasoba et al.)

 

  •   検査診断
  •   オミクロン株は国内で現在使用されているSARS-CoV-2 PCR診断キットでは検出可能と考えられる。国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。
  •   WHOテクニカルブリーフでは、抗原定性検査キットの診断精度については、オミクロン株による影響を受けない可能性が示唆されている(WHO. Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and PriorityActions for Member States)
  •   国内では、PCR検査によるL452R陰性をオミクロン株のスクリーニング方法として用いているが、BA.2系統BA.1系統と同様にL452R陰性となる。BA.1系統(BA.1.1を含む)はスパイクタンパク質の一部が欠失(S:Δ69-70)しているため、一部の国ではThermo Fisher社製PCR検査において、S遺伝子のPCRが陰性となるSGTF(S gene target failure)を一つの指標にしてデルタ株とオミクロン株を判別している。一方、BA.2系統はデルタ株と同様に当該欠失(S:Δ69-70)がないことからS遺伝子のPCRは陽性のSGTP(S gene target positive)となり、デルタ株との判別に用いることはできない
  •   WHO の指定するオミクロン株(B.1.1.529系統の変異株)と確定するためには全ゲノム情報による塩基変異の全体像を知ることが不可欠である。国立感染症研究所では、全ゲノム解析によりゲノム全長を解読し、得られた配列(contig 配列)を用いてNextclade およびPANGOLIN プログラムにて解析し、クレード(clade)及びPANGO 系統(lineage)の両方が適正に判定された場合に最終判定に資する対象としている。ごく稀に、大きな欠失が生じ、PANGO 系統の結果が得られてもクレードが検出できない場合がある。この場合、解読リード深度(read depth)が300 倍以上かつゲノム被覆率(coverage)が98%以上である、または、de novo アセンブリにて完全(complete)なcontig 配列が得られていれば、結果が得られたPANGO 系統を確定としている(厚生労働省. 2021年2月5日事務連絡. 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査におけるゲノム解析及び変異株PCR 検査について)。
  •   オミクロン株BA.1系統とBA.2系統で異なるアミノ酸を標的とした変異PCR検出系を利用する事で、これらの系統を識別する事が可能である。国立感染症研究所ではスパイクタンパク質の547番目のアミノ酸変異に伴う塩基配列の違いにより、オミクロン株BA.1系統(T547K変異あり)とBA.2系統(T547、変異なし)を識別するリアルタイムRT-PCR法を利用した変異PCR検出系を構築した。感度、特異度を確認したプライマー、プローブ配列については、Japanese Journal of Infectious Diseases (Takemae N, et al. https://doi.org/10.7883/yoken.JJID.2022.007)を参照。また東京都では、オミクロン株の主な変異であるE484A変異を識別可能なE484A変異PCR検出系とともに、オミクロン株のBA.1系統にはあるがBA.2系統にはないins214EPE (スパイク蛋白の214番目と215番目のアミノ酸の間にある3つのアミノ酸(EPE))の有無を確認する変異PCR検出系を導入し、BA.2系統の発生状況についてモニタリングを行っている。
  • ワクチン2回接種率を高いレベルで達成している地域においてもオミクロン株による急激な市中感染拡大を認めていること、3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株に対する発症ならびに入院予防効果の回復が期待されることから、早期の3回目接種(ブースター接種)を検討することが望ましい。また、重症化予防のためワクチン未接種者については、引き続き接種機会を確保していくことが重要である。
  •   高齢者施設でのクラスターの中から重症・死亡例が発生しており、オミクロン株は、潜伏期間がデルタ株よりも短縮しており、発症間隔が早まっており、倍加時間も短縮している。オミクロン株が流行している地域では、感染者数の急増に伴い、検査、疫学調査、濃厚接触者ならびに特に軽症の感染者への対応と医療提供体制等について地域の流行状況に合わせた柔軟な対応が必要である。感染者数の大幅な増加に伴う重症化リスクの高い集団での感染拡大の可能性を考慮し、中等症・重症者の増加に備えた医療提供体制の構築を引き続き強化していくことが望まれる。重症度等の知見を集積・監視するために、等については、可能な限り全例に対してL452R 変異株 PCR 検査、又はゲノム解析を実施する
  •   ゲノムサーベイランスを通じて、新たな変異株の発生、変異株全体の発生動向についても引き続き監視していく必要がある。全ゲノム解析された検体の中での割合が増加しているゲノムサーベイランスを通じて引き続き発生動向を監視しつつ、ワクチン効果、抗ウイルス薬/抗体医薬の効果への影響も注視する

 

基本的な感染対策の推奨

 個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、適切なマスクの着用、手洗い、換気などの徹底が推奨される。

 

参考文献

https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10969-covid19-72.html

注意事項

  •         迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

第9報 2022/3/16 9:00時点

第8報 2022/2/16 9:00時点(2022/3/18 一部修正)

第7報 2022/1/26 9:00時点

第6報 2022/1/13 9:00時点(2022/1/14, 1/20, 1/25 一部修正)

第5報 2021/12/28 9:30時点(2021/12/31 一部修正)

第4報 2021/12/15 19:00時点

第3報 2021/12/8

第2報 2021/11/28 

第1報 2021/11/26

 

 

 

 

2022年2月16日9:00時点

国立感染症研究所

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 WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化の可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )

  2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。

* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.1系統, BA.1.1系統, BA.2系統, BA.3系統が含まれる。

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要 

PANGO

系統名

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

英国

 

スパイクタンパク質の主な変異等(全てのオミクロン株で認めるわけではない)

B.1.1.529

BA.x

VOC

VOC

VOC

VOC

(BA.2系統はVUI、BA.3系統はSignals currently under monitoring and investigationに分類)

VOC

BA.1/BA.2系統共に主流:G142D, G339D, S373P, S375F, K417N, N440K, S477N, T478K, E484A, Q493R, Q498R, N501Y, Y505H, D614G, H665Y, N679K, P681H, N764K, D796Y, Q954H, N969K

BA.1系統で主流: A67V, del69/70, T95I, del143/145, N211I, del212, S371L, G446S, G496S, T547K, N856K, L981F (BA.1.1ではR346K)

BA.2系統で主流: T19I, L24S, del25/27, V213G, S371F, T376A, D405N, R408S

 

オミクロン株について 

B.1.1.529系統の下位系統としてBA.1系統、BA.2系統、BA.3系統が位置付けられており、現在の世界的な主流はBA.1系統である。さらにBA.1系統の下位にBA.1.1系統が位置付けられている。国内での検出は、ほとんどがBA.1系統(BA.1.1系統を含む)であるが、検疫ではインド、フィリピン等に渡航歴がある者からBA.2系統が検出され、その割合は増加傾向である。国外では、デンマーク、インド、南アフリカ等でBA.2系統が占める割合が増加している。BA.2系統とBA.1系統では、共通する変異が多いが、それぞれの系統に特異的な変異や欠失が複数ある。国内では、PCR検査によるL452R陰性をオミクロン株のスクリーニング方法として用いているが、BA.2系統B.1.1.529系統, BA.1系統と同様にL452R陰性となる。 BA.1系統(BA.1.1を含む)はスパイクタンパク質の一部が欠失(S: Δ69-70)しているため、一部の国ではS遺伝子のPCRが陰性となるSGTF(S gene target failure)を一つの指標にしてデルタ株とオミクロン株を判別している。一方、BA.2系統はデルタ株と同様に当該欠失(S:Δ69-70)がないことからS遺伝子のPCR は陽性のSGTP(S gene target positive)となり、デルタ株との判別に用いることはできない。

 

海外での発生状況

オミクロン株による感染者(以下オミクロン株感染者)の報告数の世界的な増加は継続している。一方で、2021年にオミクロン株感染者が早期に急増した国々の一部では、2022年1月初旬から新規感染者数が減少に転じている。オミクロン株の下位系統(BA.1系統、BA.1.1系統、BA.2系統ならびにBA.3系統)に関し、現状では世界的にBA.1系統(BA.1.1系統を含む)が最も多くを占めていると推定されるが、いくつかの国でBA.2系統の占める割合の増加が報告されている。

 

  •       2021年11月24日に南アフリカからWHOへ最初のオミクロン株感染者が報告されて以降、2022年1月20日までに日本を含め全世界171か国から感染者が報告された(WHO. Enhancing response to Omicron SARS-CoV-2 variant. 21 January 2022)。
  •       直近30日間にGISAIDに登録された検体の解析では、オミクロン株の占める割合は89.1%(332,155/372,680:検体採取日が2021年12月25日-2022年1月23日の検体)、93.3%(403,991/433,223:検体採取日が2021年12月31日-2022年1月29日の検体)、96.7%(412,265/426,363:検体採取日が2022年1月7日-2月5日の検体)と経時的に増加した。
  •    2022年2月8日時点で、世界67か国から48,622検体のBA.2系統株のゲノム情報がGISAIDに登録され、そのうち多くはデンマークからの報告であった(UKHSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 36. 11 February 2022)。
  •       デンマークでは、第4週から第5週にかけて国内の新規感染者数は若干減少したものの、一部地域では新規感染者数が増加している。ゲノム解析結果の得られた検体のうちBA.2系統の占める割合は、2021年第52週(では約であったが、2022年第週には約85%に達した (SSI. Genomic overview of SARS-CoV-2 in Denmark. Accessed 13 February 2022, Ugentlige tendenser: Covid-19 og andre luftvejsinfektioner Uge 6. 10. February 2022
  •       英国においても2022年1月からデンマークと同様にBA.2系統株が増加し、同年2月7日時点でゲノム解析により7,194例からBA.2系統株が確認されている。英国においては、非SGTF例(BA.2系統と想定される)の割合が、2022年1月24日時点では5.1%であったが、2月6日時点では18.7%と増加している(UKHSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 36. 11 February 2022. )。
  •       米国では2022年1月30日から2月5日までに採取された検体の3.6%(95%PI 1.8-6.8%)はBA.2系統で、1月23日から1月29日までの採取検体に占める割合1.2%(95%PI 0.7-1.8%)と比較し、増加傾向と推定されている(CDC. Variant Proportions. Accessed 9 February 2022
  •       南アフリカでは、ゲノム解析された検体のうち、2021年12月はBA.1系統が87%(2,559/2,949件)、BA.2系統が4%(119/2,949件)であり、2022年1月はBA.1系統が60%(660/1,107件)、BA.2系統が30%(337/1,107件)であった(NICD. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE. 11 FEB 2022)。

 

日本での発生状況

全国的に依然高い新規感染者数の報告が認められているものの、その増加の加速度は鈍化し、地域によって新規感染者数が減少傾向あるいは上げ止まりとなっているところもあるただし、療養者数、重症者数及び死亡者数の増加が継続しており、検査陽性率は、依然として増加傾向である。首都圏や関西圏含めオミクロン株に置き換わっているが、引き続き、地域によってはデルタ株も検出されている。

BA.2系統は、2021年第52週に国内で初めて検出された。これまでに71検体が検出されている(厚生労働省. 新型コロナウイルスゲノムサーベイランスによる国内の系統別検出状況(国立感染症研究所データ)2022年2月9日掲載)。2021年第52週から2022年第4週の5週間で検出されたオミクロン株のうち、BA.2系統の割合は0.5%を占めた。なお、ゲノム解析の報告遅れがあるので、この数値は暫定値である。また、地域によって各系統が占める割合は異なる可能性がある。

 

ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見

  •        感染・伝播性 

国内外でオミクロン株では、これまでの流行株と比べてより短い潜伏期間(中央値2.9日(95%CI:2.6-3.2)(国立感染症研究所. SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の潜伏期間の推定:暫定報告)とされている。

国内においては、首都圏および関西圏での実効再生産数も緩やかに低下傾向を示しており、流行拡大の鈍化が期待される一方で、急激な感染拡大によって報告の遅れが考えられるために解釈には注意が必要である。

また、置き換えが報告されているデンマーク及び英国からBA.2系統に関して、2次感染率が高く発症間隔がBA.1系統に比べて短縮するという報告があった。これらの要素が、BA.1系統に比してBA.2系統の感染者数増加における優位性に寄与している可能性がある。国内でもBA.2系統の割合が増加する可能性があり、その場合、感染者数の増加(減少)速度に影響を与える可能性がある。

  •        首都圏および関西圏での実効再生産数は1月24日時点でそれぞれ1.09(95%CI 1.08-1.09)と1.06 (95%CI 1.05-1.06)、1月17日時点ではそれぞれ1.23と1.19であった。また東京都および大阪府での2月7日までの直近1週間の倍加時間はそれぞれ2.15日と2.44日であるが、直近2週間ではそれぞれ3.11日と3.46日であった(第70回、第71回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年2月2日、8日)。
  •       デンマークで登録された症例における世帯内2次感染率はBA.1系統では29%だったのに対しBA.2系統では39%であった。一方でブースター接種を受けた世帯ではいずれの系統においても2次感染の発生オッズは2回接種の世帯に比べて有意に低かった(Lyngse et al.)。
  •   英国健康安全保障庁(UKHSA)では2022年1月10日以降のS遺伝子が検出されない(SGTF)例と検出される(SGTP, S-gene target positive)例での感染例ペアを検討したところ、発症間隔の中央値はBA.2系統で2.68日(95%CI 2.50-2.87)とBA.1系統(中央値3.27日、95%CI 3.17-3.36)よりもさらに短縮した(UKHSA. Technical Briefing 36)
  •   2022年1月5-20日のデータを使った英国のREACT-1研究では、約2,400検体のウイルス遺伝子が解析され、0.8%がBA.2系統であった。BA.1系統およびBA.1.1系統の日ごとの再生産数を1とするとBA.2系統の相対的な再生産数は0.46倍(95%CI 1.10-1.92)増えて、1.46と算出された。(Elliott et al.

 

  •   ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や自然感染による免疫からの逃避 

BA.1系統は、ワクチン接種や自然感染による免疫を逃避する性質が、ゲノム配列やラボでの実験、疫学データから示されている。ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株と比較してBA.1系統への感染では著しく低下するが、3回目接種(ブースター接種)によりBA.1系統感染による発症予防効果が一時的に高まることが示されている。国内においても、2回接種後一定期間経過すると発症予防効果が低下すること、短期的には3回接種で発症予防効果が高まることが示されている。海外の報告では、3回接種後の発症予防効果が数ヶ月で低下しているという報告もあり、長期的にどのように推移するかは不明である。

入院予防効果および死亡予防効果もデルタ株と比較してBA.1系統において一定程度の低下を認めるが、発症予防効果と比較すると保たれている。入院予防効果および死亡予防効果においても、3回目接種(ブースター接種)により効果が高まるという報告があるが、長期的にこの効果が持続するかは不明である。また、発症予防効果はBA.2系統においても大きな違いはないとする英国からの報告がありを用いたラボでの実験データもこれを支持している。

一方で、細胞性免疫に関する実験による(in vitro)データが複数の研究機関から報告されており、過去の感染やワクチン接種により誘導された細胞性免疫はBA.1系統に対しても交差反応性を維持している可能性がある。さらに、モノクローナル抗体を用いた抗体医薬品についても、in vitroでの評価で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、BA.1系統の分離ウイルスに対して濃度依存的効果が確認されず中和活性が著しく低下している可能性があり、その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。

BA.2系統に対するモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品の交差反応性については知見の蓄積が待たれる。

重症化予防に関する効果は十分な評価が得られていないが、ワクチン接種や過去の感染により、オミクロン株感染では重症化リスクが低下することが示唆されている(詳細は次項参照)。

第7報までの報告に加えて、以下の知見が新たに報告された。

  •   国立感染症研究所では、複数の医療機関の協力のもとで、成人(20歳以上)を対象として、検査陰性デザイン(test-negative design; TND)を用いた症例対照研究により新型コロナワクチンの発症予防効果を検討した。オミクロン株流行期における2回接種および3回(ブースター)接種の未接種と比較した有効性の評価が報告された(国立感染症研究所. 新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第3報))。2回接種から0-2ヶ月の有効率は71%(95%CI 36-87%)、2回接種から2-4ヶ月の有効率は54%(95%CI 29-70%)、2回接種から4-6ヶ月の有効率は49%(95%CI 25-65%)、2回接種から6ヶ月以降の有効率は53%(95%CI 16-74%)、ブースター接種後2週間程度(中央値(範囲) 16(3-37)日 )の有効率は81%(95%CI 41-94%)であった。
  •   UKHSAはTNDを用いた症例対照研究により、オミクロン株による死亡に対する、新型コロナワクチン2回接種および3回(ブースター)接種の未接種と比較した予防効果の評価を報告している(UKHSA. COVID-19 Vaccine Surveillance Report Week 6))。2回接種から25週後以降の有効率は59%(95%CI 4-82%)、ブースター接種2週以降の有効率は95%(95%CI 90-98%)であった。
  •   さらに、BA.2系統に対する新型コロナワクチンの有効性についての知見として、UKHSAはTNDを用いた症例対照研究により、オミクロン株およびデルタ株感染による発症に対する、新型コロナワクチン2回接種および3回(ブースター)接種と未接種と比較した予防効果の評価を行った(UKHSA. COVID-19 Vaccine Surveillance Report Week 6 )。2回接種から25週後以降の有効率はBA.12回接種から25週後以降の有効率はBA.1系統に対して10% (95%CI 9-11%)、BA2系統に対して18%(95%CI 5-29%)、ブースター接種2-4週後はBA.1系統に対して69%(95%CI 68-69%)、BA.2系統に対して74%(95%CI 69-77%)、ブースター接種5-9週後はBA.1系統に対して61%(95%CI 61-62%)、BA.2系統に対して67%(95%CI 62-71%)、ブースター接種10週後以降はBA.1系統に対して49%(95%CI 48-50%)、BA.2系統に対して46%(95%CI 37-53%)であった。なお、本解析はワクチンの種類ごとには行われていない。
  •   オックスフォード大学の報告では、モノクローナル抗体を用いた中和試験からは、BA.1系統とBA.2系統ではわずかな抗原性の違いがあることが示唆されている(UKHSA. Technical Briefing 36;データなし)。一方で、直近にブースター接種した者から採取された血清はBA.1系統とBA.2系統に対して同等の中和能があるとしている。このほか、BA.1系統およびBA.2系統それぞれで認めるスパイクタンパク質の変異を持つに対する中和能を評価した報告がある(Yu et al. , Cao et al.)。2回接種2週間後に採取された血清では、BA.1系統およびBA.2系統に対して同等に大幅に(従来株と比較してそれぞれ1/23、1/27)低下していた。ブースター接種直前においてはBA.1系統およびBA.2系統に対して中和能は検出感度未満であった。しかし、ブースター接種後には従来株と比較してBA.1系統とBA.2系統でそれぞれ1/6.1、1/8.4まで中和能が上昇した(つまりBA.1系統と比較してBA.2系統は1/1.4の中和能であった)。BA.1系統に感染した者(mRNAワクチン3回接種4名、ジョンソン・エンド・ジョンソン社製ワクチン1回・mRNAワクチン1回接種1名、mRNAワクチン2回接種2名、未接種1名)で約2週間後に採取された血清では、BA.系統1に対して高い中和能を示し、BA.2系統に対しても中和能は1/1.3と類似していた。

*実験・抗体検査を目的に人工的に作られる、別のウイルス粒子の表面にSARS-CoV-2のスパイクタンパクを発現させたウイルス。

 

  •   重症度 

デルタ株感染者に比べてオミクロン株感染者では入院や死亡リスクの低下が示唆されている。英国およびフランスではデルタ株感染者と比較しオミクロン株感染者では入院や重症ハザードが低かったことが報告された。また、国内ではHER-SYSデータに基づきオミクロン株陽性例は届け出時点での肺炎割合はデルタ株陽性例と比べて低かった。現在までの所見を総合すると、デルタ株と比較してオミクロン株では重症化しにくいと考えられる。

ただし、国内の重症例および死亡例は高齢者が多く、高齢者において感染者が大幅に増加することで相対的な重症化リスクの低下分が相殺される可能性に注意する必要がある。また、重症化や死亡の転機を確認するには時間がかかることを踏まえた知見の集積が必要である。さらに、小児での評価についても知見の集積が必要である。

BA.2系統について、重症化・死亡のリスクが増加するという報告はないが、引き続き知見の集積が必要である。

 

  •   国立感染症研究所の分析では、2022年2月6日までにHER-SYSに報告されたオミクロン株感染者の届け出時点での肺炎割合をデルタ株と比較したところ、ワクチン2回接種ありで65歳以上では0.38倍(95%CI 0.35-0.42)であり、12-64歳では0.24倍(95%CI 0.21-0.27)であった。ただし届出時点であること、検査や医療体制による影響を考慮する必要があり、重症度の直接的な比較ではない点に注意する必要がある(第71回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年2月8日)。
  •   厚生労働省の分析では、2021年7月1日から10月31日の期間における新型コロナウイルス感染者28,446人を対象に、年齢階級別に重症化割合および死亡割合を算出したところ、いずれも依然と比べ低下しており、重症化割合は0.98%(50歳代以下で0.56%、60歳代以上で5.0%)、死亡割合は0.31%(50歳代以下で0.08%、60歳代以上で2.5%)であった(第70回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年2月2日)。
  •   英国での大規模なコホート研究の査読前論文によれば、デルタ株と比較してオミクロン株では入院ハザード比(調整済み)は、0.41(95%CI 0.39-0.43)で、年齢ごとにみると40代から70代の入院ハザード比は全体(0.41)よりも低いが、80代以上は0.47(95%CI 0.40-0.56)と上昇した。また10歳未満ではデルタ株と変わらなかった(ハザード比1.10、95%CI 0.85-1.42)。ただし死亡ハザードに関しては、デルタ株およびオミクロン株ともにサンプル数が少ないために評価できていない(Nyberg et al )。
  •   ノルウェーでの患者レジストリデータを用いた研究によれば、入院期間の中央値はデルタ株感染者と比較しオミクロン株感染者では、6.5日から2.8日に短縮していた(Venti et al)。
  •   フランスでの患者レジストリデータを用いた研究の査読前論文によると、デルタ株(L452R陽性株)感染者と比較してオミクロン株(E484KないしL452R陰性、またはオミクロン特異のスパイク領域変異が陽性)感染者でのICU/CCU入室ないし死亡の重症イベントのハザード比(調整済み)は、18歳から79歳までで0.13(95%CI 0.09-0.18)であるのに対し、80歳以上では0.30(95%CI 0.17-0.54)であった(Auvigne et al
  •   デンマークでは、2021年11月21日から2022年1月22日までに全ゲノム配列(全体の16%)で系統が確定された感染者で比較したところ、BA.2系統とBA.1系統では入院リスクに違いは認められなかった。入院例の年齢(中央値)は、BA.2系統が40歳と、BA.1系統の51歳より若かった(SSI. Risk assessment of Omicron BA.2
  •   2021年12月21日から2022年1月18日まで那覇市立病院に入院したオミクロン株によると想定される患者40例を対象に行われた後ろ向きの臨床的な検討(男性40%、年齢中央値(範囲)62.5歳(22-90歳)、ワクチン2回接種歴あり88%、透析患者4例を含む)では、軽症が29例(73%)、中等症Iが3例(8%)、中等症IIが8例(20%)〔うち高流量鼻カニュラ酸素療法(high flow nasal cannula: HFNC)が2例〕で、人工呼吸管理を要する例はいなかった。転帰は自宅退院が17例(43%)、ホテル療養が6例(2%)、療養型病院へ退院したのが3例(8%)、施設退院が1例(3%)、残る13例(33%)は2022年1月21日時点で入院中であった。デルタ株が流行した第5波(2021年7月1日-9月30日)の際に同院に入院した症例と比較すると、軽症が多く、中等症IIの割合は低かったことが報告された。ただし、軽症が多かった理由については、2021年12月21日から29日まではオミクロン株感染者は重症度にかかわらず全例入院となっていたこと、入院時に重症化リスク因子のある軽症患者にソトロビマブの投与が行われていたこと、などが関与している可能性があげられた。(国立感染症研究所. IASR:那覇市立病院における新型コロナウイルスオミクロン株感染とみなされた初期入院症例40例の臨床的特徴)

オミクロン株の病原性についての実験科学的な知見については、BA.1系統ウイルスとマウスおよびハムスターを用いた動物モデルおよびex vivoでの評価に関する論文報告がある。いずれも、オミクロン株のBA.1系統では従来株に比べて肺組織への感染性と病原性が低下していることを示唆している。ただし、これらの報告はあくまで動物モデルや細胞・組織レベルでの評価であり、ヒトに対するオミクロン株病原性とは必ずしも相関しない可能性があることに注意する必要がある。また、BA.2系統ウイルスの病原性に関する実験科学的な知見については報告がなく、今後の解析が待たれる。

 

    •   検査診断
      •       国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。
      •       オミクロン株は国内で現在使用されているSARS-CoV-2 PCR診断キットでは検出可能と考えられる。
      •       WHOテクニカルブリーフでは、抗原定性検査キットの診断精度については、オミクロン株による影響を受けない可能性が示唆されている。(WHO. Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and Priority Actions for Member States)
      •        国内における変異株PCR検査法に関しては、 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第3報)を参照されたい。
      •        WHO の指定するオミクロン株(B.1.1.529系統の変異株)と確定するためには全ゲノム情報による塩基変異の全体像を知ることが不可欠である。国立感染症研究所では、全ゲノム解析によりゲノム全長を解読し、得られた配列(contig 配列)を用いて Nextclade および PANGOLIN プログラムにて解析し、クレード(clade)及び PANGO 系統(lineage)の両方が適正に判定された場合に最終判定に資する対象としている。ごく稀に、大きな欠失が生じ、PANGO 系統の結果が得られてもクレードが検出できない場合がある。この場合、解読リード深度 (read depth)が 300 倍以上かつゲノム被覆率(coverage)が 98%以上である、 または、de novo アセンブリにて完全(complete)な contig 配列が得られて いれば、結果が得られた PANGO 系統を確定としている(厚生労働省 2021年2月5日事務連絡 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査におけるゲノム解析及び変異株 PCR 検査について )。
      •         2022年1月4日以降、GISAIDに日本から登録されているSARS-CoV-2は9,815検体あり、L452R陽性712検体中708検体はデルタ株、4検体はオミクロン株であった。また、L452R陰性検体9,103検体のうち9,088検体はオミクロン株、3検体はデルタ株、12検体はPango分類不能であった。L452R陰性となる他の変異株の存在割合について継続的にモニタリングが必要であるが、現時点ではL452R陰性と判断された場合はほぼオミクロン株と見做しうる状況にあると考えられる。

 

当面の推奨される対策 

      • ワクチン2回接種率を高いレベルで達成している地域においてもオミクロン株による急激な市中感染拡大を認めていること、3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株に対する発症ならびに入院予防効果の回復が期待されることから、早期の3回目接種(ブースター接種)を検討することが望ましい。また、重症化予防のためワクチン未接種者については、引き続き接種機会を確保していくことが重要である。
      • オミクロン株は、潜伏期間がデルタ株よりも短縮しており、発症間隔が早まっており、倍加時間も短縮している。オミクロン株が流行している地域では、感染者数の急増に伴い、検査、疫学調査、濃厚接触者ならびに特に軽症の感染者への対応と医療提供体制等について地域の流行状況に合わせた柔軟な対応が必要である。感染者数の大幅な増加に伴う重症化リスクの高い集団での感染拡大の可能性を考慮し、感染者数の急激な伸びの抑制策や中等症・重症者の増加に備えた医療提供体制の構築が望まれる。
      • 重症度等の知見を集積・監視するために、重症例及び死亡例については、可能な限り全例に対してL452R 変異株 PCR 検査・ゲノム解析を実施する。
      • 全ゲノム解析された検体の中での割合が増加しているBA.2系統については、ゲノムサーベイランスを通じて引き続き発生動向を監視しつつ、ワクチン効果、抗ウイルス薬/抗体医薬の効果への影響も注視する。

 

基本的な感染対策の推奨

 個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、適切なマスクの着用、手洗い、換気などの徹底が推奨される。

 

参考文献

 

注意事項

      •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

第8報 2022/2/16 9:00時点(2021/3/18 一部修正) 

第7報 2022/1/26 9:00時点

第6報 2022/1/13 9:00時点(2022/1/14, 1/20, 1/25 一部修正)

第5報 2021/12/28 9:30時点(2021/12/31 一部修正)

第4報 2021/12/15 19:00時点

第3報 2021/12/8

第2報 2021/11/28 

第1報 2021/11/26

2022年2月9日

国立感染症研究所

感染症危機管理研究センター

病原体ゲノム研究センター

 

国立感染症研究所および地方衛生研究所等において、2022年1月17日までに登録されたゲノム情報を分析した。全ゲノム解析により確認されたB.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)は国内2,650例(検疫を含まない)であった。

  •    国内で流行するオミクロン株(BA.1)の系譜について国立感染症研究所で分子疫学調査を行った。2021年12月中旬から国内で顕在化したオミクロン株は少なくとも4つの種類の系譜が存在し、それぞれ独立した異なる経緯により海外から流入した可能性が示唆された(図:海外からの流入経緯を推定するため、オミクロン株と確定された国内症例のゲノム配列(complete 配列のみ)を用いて塩基変異の系譜をつなぐハプロタイプ・ネットワーク図を作成し評価)。
  •     4つの種類の系譜のうち、1つは2021年12月下旬から関西地方で広く検出され、さらに数塩基の変異を経て感染伝播している様子が示唆された(図-①)。現在、この関西地方を中心とした市中感染の系譜の拡大は見られず、また、主に関西地方に検出が限局していることから、初動の早期探知とクラスター対策が効果的であり収束しているものと考えられる。本系譜は、欧州で検出される系統に近縁である。
  •      一方、3つの種類の系譜は複数地域から同一ゲノム配列が検出され、既に全国規模で広範に伝播している系統であり、現在の感染者急増の要因であると示唆された(図-②、-③、-④)。
  •      図-②について、複数県で、同一のゲノム配列が検出され、全国への波及が示唆される本系譜が認められた。その後、日本国内ではこのゲノム系譜の陽性数が最も多く、現在の流行の主流となっている 。本系譜は、米国で多数検出される系統に近縁、もしくは同一配列である。
  •      図-③について、九州地方で確認後、当地では顕著な増加に至っていないが、関東地方等の全国への波及が確認された系譜が認められた。本系譜は、米国およびイギリスで検出される系統に近縁、もしくは同一配列である。
  •      図-④について、関東及び東北地方において感染拡大した系譜が認められた。本系譜は、欧州やアジアで検出が多い系統に近縁である。
  •      なお、ウイルスの全ゲノム確定数・ゲノム解析の実施割合等が地域によって異なるため、必ずしも地域での真の流行状況を反映していないことに留意が必要である。

no14 3

謝辞
ゲノム解読に従事いただきました全国の地方衛生研究所に感謝申し上げます。

 

2022年1月31日

国立感染症研究所

背景・目的

国立感染症研究所では、新型コロナウイルス感染症対策に資する情報を提供することを目的として、実地疫学調査のデータを用いてSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株) の発症間隔の推定を行った。その暫定結果について報告する。

発症間隔(serial interval)は、一次感染者の発症時刻から二次感染者の発症時刻の時間間隔を意味する。一次感染者の感染から二次感染者が感染するまでの期間(世代間隔: generation time)は感染症の拡がりを特徴づける重要な指標であるが、感染イベントを実際に観測することが難しいことから、発症間隔により近似されることが多い。

オミクロン株においては、従来株と比較して潜伏期間が短縮しており(1)発症間隔についても短縮されているかについて、国内のデータを用いて検討した。

方法

国内でオミクロン株症例に対して実施された実地疫学調査により、感染源からの曝露から14日間が経過した対象集団の中で、疫学的リンクおよび感染源(一次感染者)および感染者(二次感染者)の発症日が明らかな感染ペア(N=30)について、発症日から発症日までの日数を得た。なお、この中には家族内感染と考えられるペアが9組含まれる。

発症間隔の確率密度関数を計算するために、Gamma分布、Lognormal分布、Weibull分布について検討し、赤池情報量規準(AIC)から一番当てはまりが良いと判断されたWeibull分布を計算に用いた。最尤推定法を用いて推定を行いブートストラップ法により95%信頼区間を計算した。

結果

実地的疫学調査を用いたオミクロン株症例の発症間隔の中央値は2.6日(95%信頼区間(CI):2.2-3.1)であった(図1)。発症間隔の95%は0.7日(95%CI:0.4-1.2)から4.9日(95%CI:4.1-5.8)の間であった。99%が5.4日(95%CI:4.4-6.4)以内であった。

 

表1.発症間隔の観察データ(N=30) 

日数

ペア数(N=30

0

1

1

4

2

9

3

8

4

7

5

1

 

 

no14 2

図1.実地疫学調査のデータを用いたオミクロン株の(A)発症間隔の分布と(B)累積分布(N=30)

発症間隔の単位は日。図Aにおいて実線は中央値、波線は左から2.5%、97.5%点を示す。グラフ内の数字はそれぞれの感染ペア数を示す。図Bにおいて薄茶色は50%、薄水色は97.5%区間を示す。0日は0.5日扱いとした。

 

表2.一次感染者の発症日から二次感染者が発症するまでの日毎の確率(%)

日数

確率(%)

1

6.03

2

30.32

3

63.63

4

87.75

5

97.53

6

99.72

7

99.98

8

100

考察

本報告では、国内の実地疫学調査により発症日―発症日が明らかなオミクロン株症例の感染ペア(N=30)を用いて発症間隔にWeibull分布を当てはめて推定した。発症間隔の中央値は2.6日(95%CI:2.2-3.1)、95%が0.7日から4.9日の間であると推定された。発症間隔が実地疫学調査から推定された潜伏期間(中央値2.9日[95%CI 2.6-3.2])より短いことから(1)、発症前に二次感染者を発生させている可能性が示唆される。

本報告の分析には制約がある。実地疫学調査では、曝露をうけた可能性のある者すべてが含まれていない可能性があるため、発症間隔を過小評価している可能性がある。精緻な推定値を得るには切り捨てを加味したモデルと十分なサンプルサイズが必要であるが、今回は検討できていない。

注意事項

本報は迅速な情報共有を⽬的としており、内容や⾒解は知見の更新によって更新される可能性がある。

謝辞

本報告書の分析に用いたデータの収集にご協⼒いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に⼼より御礼申し上げます。

文献

1)国立感染症研究所. SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の潜伏期間の推定:暫定報告

2022年1月26日9:00時点

国立感染症研究所

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概要

 WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化の可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。

2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。

* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.ⅹ系統等が含まれる。

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要

PANGO

系統名

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

UK

HSA

米国のCDC

スパイクタンパク質の主な変異等(全てのオミクロン株で認めるわけではない)

検出報告国・地域数

(2022年1月20日時点)

B.1.1.529

BA.x

VOC

VOC

VOC

VOC

(BA.2はVUIに指定された)

VOC

BA.1/BA.2共で主流:G142D, G339D, S373P, S375F, S477N, T478K, E484A, Q493R, Q498R, N501Y, Y505H, D614G, H665Y, N679K, P681H, N764K, D796Y, Q954H, N969K

BA.1で主流: A67V, del69/70, T95I, del143/145, N211I, del212, S371L, G496S, T547K, N856K, L981F

BA.2で主流: T19I, L24S, del25/27, V213G, S371F, T376A, D405N, R408S, K417N, N440K

171か国

 

オミクロン株について

  •      オミクロン株は基準株と比較し、スパイクタンパク質に30か所程度のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ。)を有し、3か所の小欠失と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。このうち15か所程度の変異は受容体結合部位(Receptor binding protein (RBD); residues 319-541)に存在する(ECDC. Threat Assessment Brief (2 Dec 2021))。各変異等の詳細については第3報を参照されたい。
  •      下位系統としてBA.1系統、BA.2系統、BA.3系統が位置付けられており、現在の世界的な主流はBA.1系統である。国内での検出もほとんどがBA.1系統であるが、検疫ではインド、フィリピン等に渡航歴がある者からBA.2系統が検出されている。国外では、デンマーク、インド等でBA.2系統が占める割合が増加している。BA.2系統とBA.1系統では、共通する変異が多いが、それぞれの系統に特異的な変異や欠失が複数ある。国内では、PCR検査によるL452R陰性をオミクロン株のスクリーニング方法として用いているが、BA.2もB.1.1.529, BA.1と同様にL452R陰性となる。一方で、スパイクタンパク質の一部が欠失している(Δ69-70)ためにS遺伝子のPCRのみ陰性となる(S gene target failure(SGTF)と呼ばれる)ことを用いて、デルタ株とオミクロン株を区別する一部の国で用いられている方法があるが、BA.2系統ではΔ69-70がないため、デルタ株との区別に用いることはできない。英国においては、2022年1月1日までに非SGTF例の5%がBA.2系統となっており、この割合が増加している(UKHSA. Technical Briefing 34)。 BA.2の割合がBA.1の割合を上回ったデンマークの国立血清研究所(SSI)は、入院の状況に違いは見られないとしている(SSI. Now, an Omicron variant, BA.2, accounts for almost half of all Danish Omicron-cases )。現状では、BA.2の感染者に関する疫学的情報は限定的であり、今後の感染者や重症者の発生動向には注視が必要である。

 

海外での発生状況

オミクロン株による感染者(以下オミクロン株感染者)の報告数ならびに報告国数が世界的に増加し、デルタ株からオミクロン株への世界的な置き換わりの進行を認めている。一方で、2021年末頃にオミクロン株感染者が急激に増加した国々の一部では、新規感染者数が減少に転じている。オミクロン株の下位系統(BA.1、BA.2ならびにBA.3系統)に関し、現状では世界的にBA.1系統が圧倒的多数を占めていると推定されるが、いくつかの国でBA.2系統の占める割合の増加が報告されている。

  •  2021年11月24日に南アフリカからWHOへ最初のオミクロン株感染者が報告されて以降、2022年1月20日までに日本を含め全世界171か国から感染者が報告された(WHO. Enhancing response to Omicron SARS-CoV-2 variant. 21 January 2022)。直近30日間にGISAIDに登録された検体の解析では、オミクロン株の占める割合は58.5%(208,870/357,206:検体採取日が2021年12月12日~2022年1月10日の検体)、71.9%(291,600/405,739:検体採取日が2021年12月16日~2022年1月14日の検体)、89.1%(332,155/372,680:検体採取日が2021年12月25日~2022年1月23日の検体)と経時的に増加した(WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 11 January 2022, Weekly epidemiological update on COVID-19 - 18 January 2022, WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 25 January 2022)。オミクロン株感染者の報告数は世界的に増加しているが、2021年11月から12月にかけてオミクロン株感染者が急激に増加した国々では、新規感染者数が減少し始めた国がある。
  •  オミクロン株の下位系統別の世界的な動向として、2022年1月25日時点でGISAIDに登録された検体のうち99%をBA.1系統が占め、残りがBA.2ないしBA.3系統であった(WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 25 January 2022)。2021年11月17日以降、世界40か国から8,040検体のBA.2系統株のゲノム情報がGISAIDに登録され、そのうちデンマークが80%(6,411/8,040)を占めた(UKHSA. COVID-19 variants identified in the UK. Last updated 21 January 2022)。デンマークでは、新規感染者数が増加している状況下で、ゲノム解析結果の得られた検体のうちBA.2系統の占める割合が2% (167/7,618、2021年50週)、20% (2,166/10,904、2021年52週)、50% (3,603/7,229、2022年2週)と経時的に増加を認めた(Statens Serum Insittut. Genomic overview of SARS-CoV-2 in Denmark. Accessed 25 January 2022.)。英国では、2021年12月6日以降、ゲノム解析によりBA.2系統426例が確認され(UKHSA. COVID-19 variants identified in the UK. Last updated 21 January 2022)、検出数は少数ではあるが、BA.2系統の増加に伴うと考えられるPCR検査でS遺伝子が検出される検体の割合が増加している(UKHSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 34. 14 January 2022)。南アフリカでは、ゲノム解析された検体のうち、2021年12月はBA.1系統が94%(1,759/1,864)、BA.2系統が3%(61/1,864)であり、2022年1月はBA.1系統が78%(141/181)、BA.2系統が19%(35/181)であった(NICD. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE. 21 JAN 2022)。

 

日本での発生状況

国内では全ての都道府県からオミクロン株感染者が報告され、特に関東、関西、中国地方と九州の一部の地域で、市中感染の拡大による感染者数の更なる増加を認めている。多くの地域でオミクロン株への急速な置き換わりが進んでいるが、引き続き、デルタ株も検出されている。比較的感染者数が少ない地域でも流行地域からの感染の波及によるさらなる感染拡大が懸念される。

  •    全国の新型コロナウイルス感染症の新規感染者数(報告日別)は、1月13-19日の週と前週の値の比は3.6と急速な増加が続き、10万人あたり約147人となっており、新規感染者は20代を中心に増加している。また、全国で新規感染者数が急速に増加していることに伴って療養者数が急増し、重症者数も増加傾向にある。
  •    国立感染症研究所の分析では、2022年1月17日までにHER-SYSにL452R検出結果が入力されていた届出患者データを用いて、すべてのSARS-CoV-2がデルタ株からL452R陰性株に置き換わる過程にあるという仮定の下、L452R陰性株の検出率を推定したところ、関東地域(埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県)、関西地域(京都府・大阪府・兵庫県)では届出患者の95%以上がL452R陰性株に置き換わっていると推定された(第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年1月20日)。
  •         HER-SYSにおける国内の18歳以下の年代における感染者数は、流行状況が比較的落ち着いていた2021年後半にかけて11歳以下の占める割合が相対的に高かったが、オミクロン株が増加してきたと考えられる2022年第1〜2週にかけて12〜18歳の占める割合が大きく増加した。
  •         2022年1月24日までに検疫によって探知されたオミクロン株事例が2,159例と報告された。入国前14日以内に滞在した国の数は計91か国・地域であった。(厚生労働省報道発表資料:https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/index.html)。

*厚生労働省報道発表資料に基づく

(注1)「検疫」には、検疫検査時に陽性だった方に加えて、宿泊施設での待機が必要な国・地域から入国後、待機中に陽性が判明し、オミクロン株と確定した場合も含む。

  •         沖縄県では2021年12月17日、キャンプ・ハンセン基地従業員でオミクロン株感染者が初めて確認された。2021年12月1日~2022年1月1日の県内のCOVID-19症例は400例、オミクロン株疑い例(L452R変異陰性)は159例、オミクロン株確定例(ウイルスゲノム解析により確定)は64例であった。オミクロン株確定例のうち詳細な疫学情報が得られた50例の基本属性は、男性24例(48%)、女性26例(52%)、年齢中央値は44歳(四分位範囲27-53歳、範囲6-89歳)であった。新型コロナワクチン接種歴は、2回接種完了者(2回接種後2週間以上経過した者)33例(66%)、部分接種者(1回接種者および 2回接種後2週間を経過していない者)3例(6%)、未接種者14例(28%)であった。発生届出時点での確定例有症状者は、48例(96%)であった。症状の内訳は、37.5℃以上の発熱75%、咳60%、全身倦怠感52%、咽頭痛46%、鼻水・鼻閉38%、頭痛33%、関節痛25%、呼吸困難8%、嗅覚・味覚障害2%であった(重複あり)。当該50例について、その後重症例や死亡例は、1月10日時点では確認されなかった。確定例の推定感染源は、職場内14例(28%)、家族内13例(26%)、家族や親戚、友人等との集まり(会食や法事)9例(18%)、不明・調査中14例(28%)であった(IASR. 沖縄県におけるSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)症例の実地疫学調査報告)。
  •         国内のCOVID-19発生動向については、新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報:発生動向の状況把握(https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10754-2021-41-10-11-10-17-10-19.ht)を参照されたい

 

ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見

  •        感染・伝播性

海外からオミクロン株流行時には、これまでの流行株と比べてより高い実効再生産数、感染者数の増加率(Growth rate)、倍加時間(Doubling time)の短縮が報告されてきたが、新たに英国からデルタ株と比較して短い発症間隔(Serial interval)や世代時間(Generation time)が報告された。

国内においては、3都県で直近2週間と1週間の倍加時間が2日前後であり、短縮した世代時間を考慮してもデルタ株よりも首都圏および関西圏で高い実効再生産数を示していることからもオミクロン株による流行拡大が続いていると考えられる。国内の積極的疫学調査によれば、ワクチン接種者と非接種者ではウイルス排泄期間に大きな差がないこと、ワクチン接種者では発症ないし診断から10日以降のウイルス排泄の可能性が低いこと、無症候病原体保有者では診断から8日以降のウイルス排泄の可能性が低いことが明らかとなった。

国内の流行初期の多くの事例が従来株やデルタ株と同様の機会(例えば、換気が不十分な屋内や飲食の機会等)で起こっていると考えられた。ただし、市中で感染拡大している地域においては、感染の場が児童施設、学校、医療・福祉施設等に広がっている。(第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年1月20日)

  •       国立感染症研究所の分析では、1月3日時点での首都圏のオミクロン株の世代時間(平均2.1日)を用いたRt(実行再生産数)は1.41(95% CI 1.39-1.43)と推定され、デルタ株のRt 1.33(95%CI 1.28-1.33)より大きかった。関西圏でも1.41(95% CI 1.38-1.43)とデルタ株のRt 1.17(95%CI 1.10-1.26)より大きかった。(第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年1月20日
  •       国内で1月19日時点のHER-SYSに登録された情報に基づくと、診断日別の累積症例数の直近2週間と1週間の倍加時間は、東京都でそれぞれ2.5日、2.3日、大阪府で1.9日、1.7日、沖縄県で2.5日、2.3日であり、流行拡大が継続している。
  •    HSAが接触者調査のデータを用いて潜伏期間が2日未満のものを除外し、遺伝子検査でオミクロン株と確定したものの感染者ペアから発症間隔(Serial interval)を算出したところ、平均3.64日(95%CI 3.60-3.68)であり、デルタ株では3.87日(95%CI 3.84-3.90)であった。一方でオミクロン株では、データのばらつきが大きいために95%パーセンタイルが8.3-8.6日とデルタ株の7.9-8.1日より延長した(UKHSA Omicron and Delta serial interval distributions from UK contact tracing data)。
    •       英国においてSGTFを認める検体(オミクロン株であることが疑われる検体)をモニタリングするサーベイランスにおいて2021年11月23日から1ヶ月のデータを利用して、世代時間(Generation time)は平均1.5-3.2日(標準偏差1.3-4.6日)と算出された(Abbott et al.)。
    •       英国でのREACT-1研究において、1月5日から20日までに検体採取されてオミクロン株と確定された例では有症状例に対して採取1ヶ月前から無症状であった症例よりも有意に検体採取時のCq値が低いと報告された(Imperial College London . REACT round 17)。
    •       米国バスケットボール協会の定期スクリーニング検査データ(n=10,324)によれば、オミクロン株陽性例の方がデルタ株陽性例よりもウイルスRNAのピーク値(オミクロン株:Cq値23.3、95%CI 22.4-24.3、デルタ株:Cq値20.5、95%CI 19.2-21.8)が低く、クリアランス期間(オミクロン株:5.35日、95%CI 4.78-6.00、デルタ株:6.23日、95%CI 5.43-7.17)が短いと推定されたが、クリアランス率は同程度であった。
    •        厚生労働省、国立感染症研究所において、国立国際医療研究センター国際感染症センター及び関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条第2項の規定に基づきオミクロン株症例の積極的疫学調査を実施している。本調査の一環として、オミクロン株感染者の感染性ウイルス排出期間を検討しており、これまでに3つの報告を行った。第1報では2回のワクチン接種から14日以上経過しているオミクロン株感染者(無症状者および軽症者)では、発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことを報告した。第2報では、ワクチン接種者とワクチン未接種者においてオミクロン株感染後の上気道検体中のウイルスRNA量を経時的に比較検討し、ワクチン未接種者とワクチン接種者ではウイルス排出期間に大きな差がない可能性が高いことを報告した。第3報では、オミクロン株に感染した無症状病原体保有者における感染性ウイルス排出期間を検討し、無症状病原体保有者では診断6日目以降に感染性ウイルスの排出が減少していき、診断8日目以降には感染性ウイルスを排出している可能性が低いことを報告した。(SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第1-3報)

  •        ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や自然感染による免疫からの逃避

オミクロン株は、ワクチン接種や自然感染による免疫を逃避する性質が、遺伝子配列やラボでの実験、疫学データから示されている。ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株と比較してオミクロン株への感染では著しく低下していることが示されている。3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株感染による発症予防効果が一時的に高まるが、この効果は数ヶ月で低下しているという報告もあり、長期的にどのように推移するかは不明である。入院予防効果もデルタ株と比較してオミクロン株において一定程度の低下を認めるが、発症予防効果と比較すると保たれている。入院予防効果においても3回目接種(ブースター接種)により効果が高まるという報告があるが、長期的にこの効果が持続するかは不明である。一般的にウイルス感染は、感染回復者は免疫が成立し感染しづらくなると理解されている。しかしながら、非オミクロン株に感染歴のある者のオミクロン株による再感染は、非オミクロン株と比較してオミクロン株への免疫が成立せず感染がより起こりやすい(再感染しやすい)との報告がある。一方で、細胞性免疫に関する実験による(in vitro)データが複数の研究機関から報告されており、過去の感染やワクチン接種により誘導された細胞性免疫はオミクロン株に対しても交差反応性を維持している可能性がある。さらに、モノクローナル抗体を用いた抗体医薬品についても、in vitroでの評価で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して濃度依存的効果が確認されず中和活性が著しく低下している可能性があり、その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。

重症化予防に関する効果は十分な評価が得られていないが、ワクチン接種や過去の感染により、オミクロン株感染では重症化リスクが低下することが示唆されている(詳細は次項参照)。

  •        第6報までの報告に加えて、以下の通り、新たに米国から報告および英国からの報告のアップデートがなされているが、傾向としては既報と同様である。
  •        米国のCDCは症例対照研究(test-negative design)を用いて、オミクロン株およびデルタ株感染による発症に対する、新型コロナワクチン3回(ブースター)接種の、未接種および2回接種と比較した有効性の評価を行った(Accorsi et al.)。2021年12月10日から2022年1月1日に実施された検査において、主にSGTFを用いて、デルタ株感染者10,293例、オミクロン株感染者13,098例に分類し、検査陰性者46,764例と比較して、それぞれのワクチンの有効率を算出した。mRNAワクチン(ファイザー社製およびモデルナ社製)3回接種と未接種の比較では、有効率はデルタ株で93.5%(95%信頼区間(95%CI)92.9-94.1%)、オミクロン株で67.3%(95%CI 65.0-69.4%)であった。mRNAワクチン3回接種と2回接種の比較では、有効率はデルタ株で84.5%(95%信頼区間(95%CI)83.1-85.7%)、オミクロン株で66.3%(95%CI 64.3-68.1%)であった。
  •        英国健康安全保障庁(UKHSA)からの、オミクロン株感染による入院に対する、新型コロナワクチン3回(ブースター)接種と未接種を比較した有効性の暫定的な報告がアップデートされている(UKHSA. Technical Briefing 34)。3回目(ブースター)接種2-4週後では有効率が92%(95%CI 89-94%)、5-9週後では88%(95%CI 84-91%)、10週後以降では83%(95%CI 78-87%)であった。なお、本解析はワクチンの種類ごとには行われていない。
  •        新型コロナワクチン接種後や感染回復者のオミクロン株に対する中和能および細胞性免疫の検討、抗体医薬品の効果への影響、再感染リスクについて第6報までの報告に加えて、新規の報告やプレプリントから査読済みとなった報告が複数ある項目もあるが、傾向としては今までの報告と同様である。詳細については第6報までを参照されたい。

 

  •    重症度

米国および南アフリカからデルタ株陽性例に比べて入院や重症化リスクの低下が示唆されるデータが追加された。国内における流行早期の入院例における低い酸素需要、HER-SYSにおいてオミクロン株陽性例は届け出時点でほとんどが軽症であることや肺炎割合の低下が明らかとなった。現在までの所見を総合すると、デルタ株と比較してオミクロン株では重症化しにくいと考えられる。一方で呼吸不全のある症例の73%が70歳以上に集積していること、感染者が大幅に増加することで相対的な重症化リスクの低下分が相殺される可能性には注意する必要がある。流行が急拡大し、知見が限定的な現段階において、国内でのオミクロン株の重症度や重症化リスク因子について定量的に評価することは難しく、また、重症化や死亡の転帰を確認するには時間がかかることを踏まえた知見の集積が必要である。

  •       国立感染症研究所と国立国際医療研究センターは、国内の積極的疫学調査により、検疫及び国内で初期に探知されたオミクロン株症例について、協力医療機関(15病院)に入院し診療を行った122症例の疫学的・臨床的特徴を検討した。検疫法による入院が78例(63.9%)、感染症法による入院が44例(36.1%)であった。男性79例(64.8%)、年齢中央値33歳で、60歳以上は10例(8.2%)であった。80例(65.6%)に2回以上のワクチン接種歴があり、基礎疾患を有していないものが多数(92例[75.4%])であった。入院時の画像検査で肺炎像を認めた症例は少なく、入院時の血液検査所見は、概ね正常範囲内であった。入院期間中に観察された主な症状は、37.5℃以上の発熱、咳嗽、咽頭痛、鼻汁で、これまで特徴的とされていた嗅覚・味覚障害の割合は少なかった。25例(20.5%)が退院まで無症状で経過した。入院期間中に酸素需要を認めた症例はなく、COVID-19への直接的な効果を期待して介入が行われた主な治療の内容は、ソトロビマブ、カシリビマブ/イムデビマブ、レムデシビルであった。重症例は認めず、死亡例も認めなかったが、本調査では、重症化リスクが高いとされる高齢者や基礎疾患を有する者が少なく、重症化リスクを評価することは困難であった。(国立感染症研究所. SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査(第4報): 疫学的・臨床的特徴
  •       国立感染症研究所の分析では、2022年1月19日までに関東地方の1都3県(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)からHER-SYSに報告された症例の届け出時点での肺炎割合を従来株と比較したところ、デルタ株では0.73倍(95%CI 0.7-0.77)であったが、オミクロン株では0.12倍(95%CI 0.11-0.14)とさらに低下していた(第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード資料. 2022年1月20日)。
  •       2022年1月23日までにHER-SYSに登録されたオミクロン株感染者の中で、届け出時点で重症度が登録された2245例のうち98.2%は軽症であり、中等症IIないし重症は11例であった。20歳以下には登録されておらず、30歳代、40歳代、60歳代に各1名、70歳以上に8名であった。70歳以上は報告された症例の5.3%が中等症II以上であった。
  •       米国南カリフォルニアにおける2021年11月から2022年1月にかけて民間医療保険ネットワークに登録されたオミクロン株はデルタ株と比較して入院ハザード(調整済み)0.48(0.36-0.64)、ICU入室(未調整)0.26(0.100.73)と報告された。またパラメトリック生存モデルを用いてオミクロン株の入院期間の中央値は1.5日(95%CI 1.3-1.6)と推定され、90%の患者が3.1日以内(95%CI 2.7-3.6)に入院を完了すると推定された(Lewnard et al)。
  •       南アフリカではSGTF例は非SGTF例に比べて入院のオッズが有意に低かった(調整オッズ比0.2、95%CI 0.1-0.3)。重症度に関しては、SGTF例を非SGTF例と比べた調整オッズ比は0.7であったが95%CIが 0.3-1.4で少ない観察数であったことを著者たちは記載している。しかしオミクロン流行以前のデルタ株入院例を含めて比較するとSGTF例の重症化のオッズは有意に低かった(OR 0.3、95%CI 0.2-0.5)(Wolter et al
  •       米国の医療施設データベースを用いて入院患者全体に占めるCOVID-19患者の割合、入院したCOVID-19患者のうちのICU入室、侵襲的人工呼吸器管理、入院中の死亡の割合、入院期間の平均値と中央値について年齢層別に、オミクロン株流行期、2020-21年冬期およびデルタ株流行期で年齢層別(0–17、18–50、>50)に算出した検討では、2020-21年冬期、デルタ株流行期、オミクロン株流行期の全入院患者のうち、COVID-19入院患者の占める割合はそれぞれ12.0%、9.4%、12.9%であった。オミクロン株流行期のICUに入院したCOVID-19患者の割合(13.0%)は、全体で2020-21年冬期の割合(18.2%)より28.8%低く、デルタ株流行期の割合(17.5%)よりも25.9%低かった。また、全ての年齢層でその割合が低かった(p<0.05)。オミクロン株流行期に侵襲人工呼吸器管理を受けたCOVID-19入院患者の割合(3.5%)及び入院中に死亡した患者の割合(7.1%)は、2020-21年冬期(侵襲性人工呼吸器管理=7.5%; 死亡=12.9%)とデルタ株流行期(侵襲性人工呼吸器管理=6.6%; 死亡=12.3% )に比べ、全体として低く、また両成人年齢層でも低かった(p<0.001)。オミクロン株流行期の平均入院日数(5.5日)は、全体で2020-21年冬期(8.0日)よりも31.0%短く、デルタ株流行期(7.6日)よりも26.8%短く、また、両成人年齢層でも短かった(p<0.001)(CDC. MMWR: Utilization During the Early Omicron Variant Period Compared with Previous SARS-CoV-2 High Transmission Periods — United States, December 2020–January 2022.)。

オミクロン株の病原性についての実験科学的な知見については、マウスおよびハムスターを用いた動物モデルでの評価について、論文報告あるいはプレプリントの更新があった。また、in vitroおよびex vivoでの評価に関するプレプリント論文も更新された。いずれも、オミクロン株では従来株に比べて肺組織への感染性と病原性が低下していることを示唆している。ただし、これらの報告はあくまで動物モデルや細胞・組織レベルでの評価であり、ヒトに対するオミクロン株病原性とは必ずしも相関しない可能性があることに注意する必要がある。

 

(動物モデルでの評価) 

  •        上気道と下気道におけるウイルス増殖について評価したところ、ヒト鼻腔上皮の3次元培養法では、オミクロン株とデルタ株の両者で複製は類似したが、下気道オルガノイド、Calu-3肺細胞と腸管上皮癌細胞株ではオミクロン株で有意に低い増殖性を示した。また、シュードウイルスを用いた侵入アッセイではTMPRSS2(SARS-CoV-2の細胞侵入に関与するとされる酵素)を欠損した細胞ではオミクロン株型と比較してデルタ株型の侵入効率が大きく影響された。また、細胞侵入経路を標的とした薬物阻害実験により、オミクロン型のスパイクタンパク質はエンドサイトーシス経路を介した細胞侵入に依存しスパイクを切断するためにはカテプシン活性が必要であることが示された。これらのことはオミクロン株の細胞指向性に変化をもたらし、結果として病原性の変化をもたらすと考えられた (Meng et al.)。
  •   ヒトの気管支と肺のex vivo培養系を用いて、従来株、D614G、アルファ、ベータ、デルタとオミクロン株の複製能力と細胞向性について比較解析したところ、従来株や他の変異株と比べてオミクロン株は気管支組織での複製が早く、肺実質組織では複製効率が悪いことがわかった。これらの結果から、オミクロンはこれまでの変異株よりも上気道における早い複製能力を有し、このことが高い伝播力に寄与していると考えられた(Chan et al)。
  •          オミクロン株は従来株や他の変異株と比較して、ヒト気道上皮由来Calu3細胞やヒト結腸由来細胞Caco2細胞での複製効率が低いことが示された。また,TMPRSS2の過剰発現や、TMPRSS2阻害薬を用いた解析ではオミクロン株のスパイクはTMPRSS2の利用効率が低く、そのためTMPRSS2を発現しているCalu3やCaco2細胞での複製効率が低下していると考えられた。また、K18-hACE2トランスジェニックマウスを用いたオミクロン株の病原性解析では、上気道および下気道においてオミクロン株の複製効率は低く、肺病理も軽症化した。よってマウスモデルにおいて、従来株、アルファ株、ベータ株、デルタ株と比較してオミクロン株の病原性は低下していると考えられた(Shuai et al.)。
  •          ゴールデンハムスターを用いたオミクロン株とデルタ株の比較解析では、体重減少、症状 (活気の無さや頻呼吸など)、鼻腔・気管・肺のウイルス量、サイトカイン・ケモカイン発現量、組織標本により評価した組織傷害など指標は、いずれもオミクロン株の方がデルタ株よりも低い病原性を示すことが示唆された。また、直接接触の伴わない伝播感染実験において、デルタ株よりもオミクロン株が10-20%ほど高い伝播性を示した。さらに、mRNAワクチン接種による免疫選択圧の存在下では、デルタ株に比べてオミクロン株の感染が優位となった。これらの結果より、オミクロン株はデルタ株より病原性が低い一方で、感染伝播性は高く、特にワクチンによる免疫が存在する状況ではオミクロン株はデルタ株よりも優位であると考えられた(Yuan et al.)。
  •       ヒト初代培養鼻腔上皮細胞を用いた解析では、オミクロン株の複製効率はデルタ株を上回った。また、スパイクタンパク質のACE2に対する結合能は、従来株やアルファ株、デルタ株と比較してオミクロン株で上昇しており,さらに、家禽類、キクガシラコウモリ、マウスなどのACE2を発現する細胞への侵入効率も上昇しており、宿主域の拡大が示唆された。更に,オミクロン株ではスパイク開裂しやすい変異があるにもかかわらず、これまでの変異株のスパイクよりも合胞体形成能が低い。一方、ヒト初代培養鼻腔上皮細胞を用いた解析により、オミクロン株ではエンドソームを介してTMPRSS2非依存的に細胞内へ侵入することが示された。これらの結果より、オミクロン株は従来株や他の変異株と比較して、より多くの上気道上皮に感染し、低い曝露量でも感染が成立するため、結果的に伝播性が高まると考えられた (Peacock et al.)。
  •       従来株の既感染がオミクロン株感染を防御するかハムスターモデルで検討した。従来株の初感染から50日後に同じ用量のオミクロン株を接種したところ、オミクロンを再感染させたシリアンハムスターの咽頭拭い液におけるウイルスRNAの排泄は有意に低く、比較的早期に排除された。よって、ハムスターモデルにおいて、従来株感染によって得られた免疫がオミクロン株に対して防御的に作用することが示された(Ryan et al.)。

 

  •   検査診断
    •       国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。
    •       オミクロン株は国内で現在使用されているSARS-CoV-2 PCR診断キットでは検出可能と考えられる。
    •       WHOテクニカルブリーフでは、抗原定性検査キットの診断精度については、オミクロン株による影響を受けない可能性が示唆されている。(WHO. Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and Priority Actions for Member States)
    •        国内における変異株PCR検査法に関しては、 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第3報)を参照されたい。
    •        WHO の指定するオミクロン株(B.1.1.529系統の変異株)と確定するためには全ゲノム情報による塩基変異の全体像を知ることが不可欠である。国立感染症研究所では、全ゲノム解析によりゲノム全長を解読し、得られた配列(contig 配列)を用いて Nextclade および PANGOLIN プログラムにて解析し、クレード(clade)及び PANGO 系統(lineage)の両方が適正に判定された場合に最終判定に資する対象としている。ごく稀に、大きな欠失が生じ、PANGO 系統の結果が得られてもクレードが検出できない場合がある。この場合、解読リード深度 (read depth)が 300 倍以上かつゲノム被覆率(coverage)が 98%以上である、 または、de novo アセンブリにて完全(complete)な contig 配列が得られて いれば、結果が得られた PANGO 系統を確定としている(厚生労働省 2021年2月5日事務連絡 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査におけるゲノム解析及び変異株 PCR 検査について )。
    •         2021年12月1日以降、GISAIDに日本から登録されているSARS-CoV-2は962検体あり、L452R陽性282検体は全てデルタ株、L452R陰性検体680検体のうち679検体はオミクロン株、1検体はPango分類不能であった。L452R陰性となる他の変異株の存在割合について継続的にモニタリングが必要であるが、現時点ではL452R陰性と判断された場合はほぼオミクロン株と見做しうる状況にあると考えられる。

 

当面の推奨される対策

  •        ワクチン2回接種率を高いレベルで達成している地域においてもオミクロン株による急激な市中感染拡大を認めていること、3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株に対する発症ならびに入院予防効果の回復が期待されることから、地域の状況に応じて早期の3回目接種(ブースター接種)を検討することが望ましい。また、重症化予防のためワクチン未接種者については、引き続き接種機会を確保していくことが重要である。
  •        カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)のオミクロン株への有効性が低下することが報告されており、オミクロン株感染者であることが明らかな場合や、その蓋然性が高い場合はロナプリーブを投与することは推奨されない。
  •    潜伏期間がデルタ株よりも短縮しており、感染のサイクル(世代時間)が早まっている可能性があり、倍加時間も短縮している。オミクロン株が流行している地域では、感染者数の急増に伴い、検査、疫学調査、濃厚接触者ならびに特に軽症の感染者への対応と医療提供体制等について地域の流行状況に合わせた柔軟な対応が必要である。感染者数の大幅な増加に伴う重症化リスクの高い集団での感染拡大の可能性を考慮し、感染者数の急激な伸びの抑制策や中等症・重症者の増加に備えた医療提供体制の構築が望まれる。
    •        オミクロン株へ置き換わった状況では、変異株の発生動向の監視を目的とした対応が望ましい。ゲノム解析や変異株PCR検査については全数実施するのではなく、偏りのないサンプリングによる一定の検体に対する実施や、重症例や潜在的なインパクトが高い事例の基点となるような感染者に対して優先的に行うことを考慮する。
    •        疫学調査については、潜伏期間が短縮していることも考慮し、地域の状況に応じて、感染拡大や重症化リスクの高いクラスター等への重点化を検討する。
    •        自宅療養の感染者に対してはオンライン診療や往診等を活用し地域の実情に合わせた 医療提供体制の構築が望まれる。
  •        医療・福祉・公衆衛生のほか、各種社会的基盤となる事業において、感染拡大に伴う欠勤者の増加も見込んだ事業継続体制を準備する。
  •        ワクチン接種歴のない者や基礎疾患のある者における評価が十分でないことから、引き続きオミクロン株の疫学的特徴及び重症化リスクについて分析・評価していくことが重要である。

 

基本的な感染対策の推奨

  •        個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、適切なマスクの着用、手洗い、換気などの徹底が推奨される。

 

参考文献

 

注意事項

  •       迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

更新履歴

第7報 2022/1/26 9:00時点

第6報 2022/1/13 9:00時点(2022/1/14, 1/20, 1/25 一部修正)

第5報 2021/12/28 9:30時点(2021/12/31 一部修正)

第4報 2021/12/15 19:00時点

第3報 2021/12/8

第2報 2021/11/28 

第1報 2021/11/26

 

 

 

 

2022年1月13日

国立感染症研究所

国立感染症研究所では、新型コロナウイルス感染症対策に資する情報を提供することを目的として、実地疫学調査および新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS) のデータを用いて、 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株) の潜伏期間の推定を行った。その暫定結果について報告する。

 

方法

本報告では2つのデータを用いて、それぞれ潜伏期間を推定した。

 

データ1:実地疫学調査

国内でオミクロン株症例に対して実施された実地疫学調査により、リンクおよび曝露日が明らかで、かつ曝露日から14日間が経過した感染ペア(N=35)のデータを用いた。曝露日から発症日までの日数を潜伏期間として検討した。

 

データ2: HER-SYS データ

2022年1月7日時点に登録されたHER-SYSデータを用いて、ゲノム検査によりオミクロン株が確定されたもののうち、推定感染日及び発症日に記載がある症例を抽出した。潜伏期間は推定感染日と発症日までの日数と定義した。アルファ株症例については、上記のオミクロン株症例を報告していた届出保健所からの症例に限定して、ゲノム検査によりアルファ株が確定された症例を抽出した。推定感染日と発症日の間隔が1日以上の症例を解析の対象とした。

潜伏期間の確率密度関数を計算するために、観察された潜伏期間に対してGamma分布, Lognormal分布, Weibull分布のあてはめを検討し、Akaike Information Criterion(AIC)による比較で最も当てはまりが良かったGamma分布を採用して確率密度分布を算出した。また最尤推定法を用いて推定を行い、信頼区間を計算した。

 

結果

データ1(実地疫学調査)を用いたオミクロン株症例の潜伏期間の中央値は2.9日(95%信頼区間:2.6-3.2)であった(図1)。99%が曝露から6.7日以内に発症していた。

 

図1.積極的疫学調査のデータを用いた曝露-発症間隔の分布と累積分布(N=35)

no14 2

 

潜伏期間の単位は日。薄茶色は50%、薄水色は99%区間を示す。

データ2では、アルファ株症例1118例、オミクロン株症例113例が解析の対象となった。アルファ株症例の潜伏期間の中央値は3.4日(95%信頼区間:3.3-3.6)、オミクロン株症例は2.9日(95%信頼区間:2.5-3.2)であった。感染曝露から95%、99%が発症するまでの日数は、アルファ株症例ではそれぞれ8.7日、11.9日、オミクロン株症例ではそれぞれ7.1日、9.7日であった。

図2.HER-SYSデータを用いたアルファ株とオミクロン株の曝露-発症間隔の分布

no14 2

感染曝露からの経過日数ごとの累積発症確率を表1に示す。アルファ株では10日目までに97.35%が発症するのに対して、オミクロン株では99.18%が発症すると推定された。

 

表1.HER-SYSデータを用いた曝露から経過日数ごとの発症する確率(%)

曝露日からの日数

アルファ株症例

オミクロン株症例

1

6.29

8.55

2

23.1

30.41

3

42.42

53.05

4

59.46

70.69

5

72.67

82.65

6

82.16

90.12

7

88.63

94.53

8

92.90

97.04

9

95.63

98.43

10

97.35

99.18

11

98.41

99.57

12

99.05

99.78

13

99.44

99.89

14

99.67

99.94

 

考察

本報告では、実地疫学調査で収集されたデータを用いた潜伏期間に対する確率密度分布の当てはめにより、中央値は2.9日と推定された。HER-SYSデータにおけるオミクロン株症例の潜伏期間が実地疫学調査と同等であることを踏まえて、アルファ株症例の潜伏期間との比較を行った。一方で感染曝露から99%が発症するまでの期間は、実地的疫学調査で収集されたデータに基づくと6.7日、 HER-SYSデータに基づくと9.7日と推定された。

観察10日目までにアルファ株症例の97.4%が発症するのに対して、オミクロン株症例では99.2%が発症すると推定された。この数値はアルファ株症例の14日における発症ハザードと同等であった。またオミクロン株症例では観察7日目までに94.5%が発症すると推定された。

本分析には制限がある。実地疫学調査においては曝露をうけた可能性のある者すべてが含まれていない可能性があるため、潜伏期間を過小評価している可能性がある。精緻な推定値を得るには上記を加味したモデルと十分なサンプルサイズが必要であるが、今回は検討できていない。HER-SYSデータにおける解析では、感染拡大の状況にあるオミクロン株症例を検討しているために、観察期間を十分にとれた症例が含まれることにより潜伏期間が変わる可能性がある。

 

注意事項

本報は迅速な情報共有を⽬的としており、内容や⾒解は知見の更新によって更新される可能性がある。

 

謝辞

本報告書の分析に用いたデータの収集にご協⼒いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に⼼より御礼申し上げます。

 

2022年1月13日9:00時点

1月14日一部修正

1月20日一部修正

1月25日一部修正

国立感染症研究所

PDF

 

主な更新事項

  •   「ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見」の「感染・伝播性」について、「国内の知見」を更新(5-6ページ)
  •   「ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や自然感染による免疫からの逃避」について、「細胞性免疫について」の項を追加(10-11ページ)
  •   「重症度」について、「動物モデルでの評価」の項を追加(13-14ページ)

概要

WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化の可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。

2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。

* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.ⅹ系統等が含まれる。

 

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要

PANGO

系統名

 

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

UK

HSA

US CDC

スパイクタンパク質の主な変異(全てのオミクロン株で認めるわけではない)

検出報告国・地域数

B.1.1.529

BA.x

VOC

VOC

VOC

VOC

VOC

 

G142D, G339D, S371L, S373P, S375F, S477N, T478K, E484A, Q493K, G496S, Q498R, N501Y, Y505H, P681H

106か国

 

オミクロン株について

  •   オミクロン株は基準株と比較し、スパイクタンパク質に30か所程度のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ。)を有し、3か所の小欠損と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。このうち15か所程度の変異は受容体結合部位(Receptor binding protein (RBD); residues 319-541)に存在する(ECDC. Threat Assessment Brief)。各変異等の詳細については第3報を参照されたい。
  • 下位系統としてBA.1系統、BA.2系統、BA.3系統が位置付けられており、現在の世界的な主流はBA.1系統である。国内での検出もほとんどがBA.1系統であるが、検疫ではインド、フィリピンに渡航歴がある者からBA.2系統が検出されている。国外では、デンマーク、フィリピン、インド等でBA.2系統が占める割合が増加している。BA.2系統は、BA.1系統よりも変異の箇所が少なく、BA.1系統でスパイクタンパク質に見られる欠失箇所(del69/70, del143/145, del212等)がない。一部の国では、これらのスパイクタンパク質の欠失箇所をPCR検査で検出する(S gene target failure (SGTF)と呼ばれる)ことでオミクロン株の代替指標としている場合もある。国内では、PCR検査によるL452R陰性をオミクロン株のスクリーニング方法として用いているが、BA.2もL452R陰性となるため検出可能である。現状では、BA.2の感染例に関する疫学的情報は限定的である。

 

海外での発生状況

オミクロン株による感染例(以下オミクロン株感染例)の報告数ならびに報告国数が世界的に増加している。南アフリカ、イングランドやアメリカ合衆国では、デルタ株からオミクロン株への急速な置き換わりを認め、直近の報告ではいずれの国においても新規感染例の95%以上がオミクロン株に由来すると推定される結果であった。また、複数の国・地域で市中感染や集団内の多くの者が感染したクラスター事例も報告されており、さらなる感染の拡大が懸念される。ゲノムサーベイランスの質が十分でない国・地域においては探知されていない感染例が発生している可能性もあるため、現在感染例が探知されている国・地域よりもさらに広い範囲に感染が拡大している可能性がある。

  •   2021年11月24日に南アフリカからWHOへ最初のオミクロン株による感染例(以下オミクロン株感染例)が報告されて以降、2022年1月6日までに日本を含め全世界149か国から感染例が報告された(WHO. Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and Priority Actions for Member States. 7 January 2022)。
  •   2022年1月3日時点でアフリカでは、29か国からオミクロン株感染例が報告された(Outbreak Brief #103: Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Pandemic Date of Issue: 04 January 2022)。南アフリカでは、ゲノム解析された検体のうち、10月はデルタ株が85%(650/768)、オミクロン株0.3%(2/768)であったが、11月はオミクロン株84%(1,141/1,367)、12月はオミクロン株99%(1,057/1,071)であった (NICD. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE. 7 JAN 2022))。
  •   2022年1月7日時点でEU/EEA域内では、30か国からオミクロン株感染例がEuropean Surveillance Systemに報告された。域内の多くの国々においてオミクロン株感染例の報告が増加し、クラスター事例も発生している(ECDC. Weekly epidemiological update: Omicron variant of concern (VOC) – week 1 (data as of 7 January 2022))。オミクロン株感染例28,522例とS遺伝子が検出されないSARS-CoV-2感染例(以下SGTF感染例)154例の計28,676例の解析では、年齢中央値31歳で男性が50%であった。そのうち情報を取得できた16,341例において、89%(14,508/16,341)が有症状であった。ワクチン接種歴について情報が得られた956例について、79% (759例)が2回接種、9% (89例)が1回接種、7% (67例)が未接種、4% (34例)が3回接種であった。また情報が得られた感染例の中で、1%(94/14,972)が入院し、0.1%(16/14,930)がICU入室/人工呼吸器管理を要し、0.01%(2/20,256)が死亡した。(ECDC. Country Overview Report: Week 52, 2021, produced on 6 January 2022)。
  •   2021年12月30日時点でイングランドでは、212,019例のオミクロン株感染例と492,543例のSGTF感染例が報告された。また12月29日時点で、75例の死亡例と981例の入院例(オミクロン株感染例ないしSGTF感染例)を認めた。イングランドでは11月末以降SGTF感染例の増加を認め、12月28日ないし29日に採取されS遺伝子の結果が判明した46,066検体のうち、96%(44,064検体)でSGTFを認めた(UKHSA. Omicron daily overview. 31 December 2021)。12月18日時点での53,842例(男性25,577例、女性28,265例)のオミクロン株感染例の解析では、20歳代が33%と最も多く、次いで30歳代が23%、40歳代が15%、10歳代が12%であった。(UK HSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 33)。
  •   アメリカ合衆国では、CDCの1月1日時点の推計では、同国での週別のオミクロン株検出割合の推定値が77%(12月19日~25日)から96%(2021年12月26日~2022年1月1日)に増加した。(CDC. COVID Data Tracker Variant Proportions)。
  •   2022年1月5日時点で西太平洋地域では、13ヵ国からオミクロン株感染例が報告された(WHO. Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) External Situation Report #86 5 January 2022)。韓国では、2021年12月20日時点で合計188例(確定例178例、確定例と疫学的関連のある10例)が報告された。確定例の年齢分布は、20歳未満が27%、20代~50代が66%で、推定感染地は海外が29%、国内が71%であった。診断時には20%が無症状で、有症状の場合は発熱、咽頭痛、咳が主な初期症状であり、いずれの感染例も軽症であった (3차접종 적극 참여, 누적 1,100 넘어(12.20., 정례브리핑))。
  •   2022年1月2日時点で東南アジア地域では、8か国からオミクロン株感染例が報告された(WHO. COVID-19 Weekly Situation Report Week #52 (27 December 2021 – 2 January 2022) 7 January 2022)。
  •   2021年12月18日時点で東地中海地域では、13か国からオミクロン株感染例が報告された(WHO EMRO. COVID-19: WHO EMRO Biweekly Situation Report #25 Epi Weeks 49 – 50 (5-18 December 2021))。

 

日本での発生状況

海外でも各地域で急激なオミクロン株への置き換わりが進み、直近の海外からの入国者のSARS-CoV-2陽性例の8割以上がオミクロン株感染例であり、オミクロン株の国内への輸入リスクは非常に高い。国内では大部分の都道府県からオミクロン株感染例が報告され、特にオミクロン株の継続的な曝露を受けた地域では、市中感染の拡大による感染者数の急増とオミクロン株への急速な置き換わりを認めた。また、そのような地域からの波及を受けた地域でも急激な市中感染の拡大による感染者数の急増を認めている。

  •   2022年1月11日までに日本において、計3,041例のオミクロン株感染例が報告された(2022年1月11日21時時点)。内訳*は水際関連検疫事例が1237例(以下検疫例)、水際関連都道府県発表事例が146例、それ以外の事例が1,658例であった。直近に海外渡航歴のないそれ以外の事例の報告数が水際関連空港検疫例を大きく上回った。検疫例について、入国前14日以内に滞在した国の数は計74か国であった。(厚生労働省報道発表資料:https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/index.html)。

*厚生労働省報道発表資料に基づく

(注1)「空港検疫」には、検疫検査時に陽性だった方に加えて、宿泊施設での待機が必要な国・地域から入国後、待機中に陽性が判明し、オミクロン株と確定した場合も含む。

(注2)「都道府県発表」には、検疫所関係者でオミクロン株と確定した場合を含む。

(注3)「左記以外」は、オミクロン株と確定した者のうち、直近の海外渡航歴がなく、現時点で感染経路が明らかになっていない者等。

  •   国内のCOVID-19発生動向については、新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報:発生動向の状況把握を参照されたい。

 

ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見

  •   感染・伝播性

世界各地で、これまでの他の変異株の流行時に比しオミクロン株流行時では、より高い実効再生産数、感染者数の増加率(growth rate)、倍加時間(doubling time)の短縮が報告されてきた。海外では集団発生事例での高い感染の割合(attack rate)や、デルタ株よりも高い家庭内二次感染率(household secondary attack rate)が報告され、伝播性の増加を示唆する所見がある。また、海外の集団発生事例では潜伏期間がデルタ株に比較して短縮している所見も報告されている。高い実効再生産数等は、感染・伝播性の増大と世代時間の短縮の両方の影響が考えられる。ただし、海外でのこれらの所見は、観察集団の免疫状況や感染予防行動等の違い、オミクロン株同定のための検査戦略などの影響等を考慮して慎重に解釈する必要がある。

国内においては、3都県で直近1週間の倍加時間の短縮が観察された。また、潜伏期間の短縮も観察されている。一方、実地疫学調査から得られた暫定的な結果からは、従来株やデルタ株によるこれまでの事例と比較し、感染・伝播性はやや高い可能性はあるが、現段階でエアロゾル感染を疑う事例の頻度の明らかな増加は確認されず、従来通り感染経路は主に飛沫感染と、接触感染と考えられた。また、多くの事例が従来株やデルタ株と同様の機会(例えば、換気が不十分な屋内や飲食の機会等)で起こっていた。基本的な感染対策(マスク着用、手指衛生、換気の徹底等)は有効であることが観察されており、感染対策が守られている場では大規模な感染者発生はみていない。

国内の積極的疫学調査による初期の症例のウイルスの排出期間についての調査では、呼吸器検体中のウイルスRNA量は診断日および発症日から3~6日で最も高くなる傾向があった。診断または発症10日以降でもRNAが検出される検体は認められたが、ウイルス分離可能な検体は認めず、少なくともワクチン接種者においては、従来株と同様に診断または発症10日を超えて感染性ウイルスを排出する可能性は低いと考えられる。また、追加で行ったワクチン未接種者における呼吸器検体中のウイルスRNA量の検討では、ワクチン未接種者でのウイルス排出期間がワクチン接種者に比べて長期化する可能性を示唆するデータは得られなかった。今回の検討では解析症例数が少ないことから、ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス感染動態の全体像を理解することは困難であるが、ワクチン未接種者においてもワクチン接種者と同様に、無症状者および軽症者においては発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いと考えられた。

 

(国内の知見)

  •   HER-SYSに登録されたオミクロン株の感染例をもとに算出した直近2週間と1週間の倍加時間は、東京都で2.7日から1.9日、大阪府で2.6日から1.7日、沖縄県で1.9日から1.3日といずれも短縮していた。
  •   国立感染症研究所と国立国際医療研究センターは、国内の積極的疫学調査により、オミクロン株症例の呼吸器検体中のウイルスRNA量の推移と感染性ウイルスの検出期間を検討した。オミクロン株症例において、ウイルスRNA量は診断日および発症日から3~6日で最も高くなり、その後日数が経過するにつれて、低下傾向であった。診断または発症10日以降でもRNAが検出される検体は認められたが、ウイルス分離可能な検体は認めなかった。これらの知見から、2回のワクチン接種から14日以上経過している者で無症状者および軽症者においては、発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆された国立感染症研究所. SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査:新型コロナワクチン未接種者におけるウイルス排出期間(第2報))。
  •   追加で行ったワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス排出期間の検討では、ワクチン未接種者においても呼吸器検体中のウイルスRNA量は日数が経過するにつれて減少傾向であった。さらに、有症状者と無症状者において、ワクチン未接種者とワクチン接種者の呼吸器検体中のウイルスRNA量を比較したところ、発症もしくは診断から0〜9日、および発症もしくは診断10日以降において、両者のウイルスRNA量に違いは認めなかった。現時点で検討した症例数は限られているがワクチン未接種者でのウイルス排出期間がワクチン接種者に比べて長期化する可能性を示唆するデータは得られなかった。今回の検討では解析症例数が少ないことから、ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス感染動態の全体像を理解することは困難であるが、ワクチン未接種者においてもワクチン接種者と同様に、無症状者および軽症者においては発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いと考えられた。本報告の制限として、調査対象者は、無症状者及び軽症者が大部分を占め、特にワクチン未接種者においては若年者が調査対象であったこと、ウイルス分離は未実施であり感染性ウイルスの有無が不明であることなどが挙げられる(国立感染症研究所. SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査:新型コロナワクチン未接種者におけるウイルス排出期間(第2報))。
  •   国内の実地疫学調査から得られた情報に基づき、オミクロン株感染例(n=35)の潜伏期間について解析を行った結果、潜伏期間中央値の範囲は2-3日であった(国立感染症研究所. 実地疫学調査により得られた情報に基づいた国内のオミクロン株感染症例に関する暫定的な潜伏期間、家庭内二次感染率、感染経路に関する疫学情)。国内でも海外からの報告と同様に、オミクロン株感染例では、従来株やデルタ株感染例と比較し潜伏期間が短縮している可能性が示唆された。オミクロン株の家庭内二次感染率は31%-45%と、従来株、デルタ株と比較して高い可能性が示された。また、感染経路として、現段階でエアロゾル感染が疑われる頻度が明らかに増えているわけではなく、従来より認識されていたエアロゾル感染が起こりやすい状況(換気が悪い屋内で、密集した状態で、感染例と長時間空間を共有した場合など)以外では、エアロゾルによる感染が疑われる事例は確認されていない。ただし、上記の結果は、解析に含まれる事例数が十分でないこと、各事例におけるワクチン接種状況、感染対策状況を含む曝露状況を考慮した結果でないことなど、暫定的な結果であり、解釈には注意が必要である。
  •   国内の実地疫学調査データを用いた解析では、オミクロン株症例の潜伏期間の中央値は2.9日(95%CI 2.6-3.2)であった。99%が曝露から6.7日以内に発症していた。ただし、実地疫学調査においては曝露をうけた可能性のある者すべてが含まれていない可能性があるため、潜伏期間を過小評価している可能性がある。HER-SYSデータを用いた解析では、観察10日目までにアルファ株症例の97.4%が発症するのに対して、オミクロン株症例では99.2%が発症すると推定された。この数値はアルファ株症例の14日における発症ハザードと同等であった。またオミクロン株症例では観察7日目までに94.5%が発症すると推定された。ただし、HER-SYSデータにおける解析では、感染拡大の状況にあるオミクロン株症例を検討しているために、観察期間を十分にとれた症例が含まれることにより潜伏期間が変わる可能性がある(国立感染症研究所. SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の潜伏期間の推定:暫定報告)。

 

(海外の知見)

  •   南アフリカにおいてオミクロン株の流行が始まった2021年11月から12月4日までの報告例を基に算出された実効再生産数は2.55 (95%CI 2.26-2.86)であった(NICD. The Daily Effective Reproduction Number in South Africa.)。
  •   英国においてはSGTFを認める検体(オミクロン株であることが疑われる検体)をモニタリングするサーベイランスが稼働しており、2021年11月20週から12月18日のデータを用いて増加率(growth rate)が0.36/日と算出された(UKHSA. Technical Briefing 33)。またオミクロン株確定例に対する増加率が検討されており、0.45/日 (95%CI 0.44-0.46)と算出された(Imperial College London. Report 49)。
  •   英国において2021年11月15日から12月14日の間に検体を採取されたオミクロン株感染例27,803例とデルタ株感染例256,854例を対象としたコホート研究では、オミクロン株感染例からの家庭内二次感染率はデルタ株感染例と比較して、調整なしオッズ比で1.4倍(95%CI 1.3–1.5)、年代、性別、ワクチン接種歴等で調整したオッズ比で1.4倍(95%CI 1.4-1.5)であった。また家庭外の二次感染をみると調整したオッズ比で2.6倍(95%CI 2.4-2.8)と推定された(UKHSA Technical Briefing 33)。
  •   英国において定期的に検体を採取している横断研究の2021年11月23日から12月14日(12月15-17日採取の検体も一部含む)のアップデートによれば、デルタ株からオミクロン株への置換が10%から90%になるまでの日数は、アルファ株からデルタ株への置換と比較して約3.5倍速いと推定された(REACT-1 Round 16)。
  •   デンマークで2021年12月上旬に登録されたSARS-CoV-2感染例における家庭内での二次感染の発生を追跡したところ、二次感染率がオミクロン株では31%、デルタ株では21%であった。デルタ株感染例のいる世帯に比べてオミクロン株感染例がいる世帯では、2回接種した家族が二次感染するオッズ比(調整後)は2.6倍(95%CI 2.3-2.9)であり、追加接種した家族でのオッズ比(調整後)は3.7倍(95%CI 2.7-5.1)であった(Lyngse, et al.)。
  •   米国でのアフリカからの帰国者の家族におけるオミクロン株の二次感染の観察研究では、5名の家族のうち4名はSARS-CoV-2感染歴 (うち1例はワクチン2回接種) があったが全員が陽性となり、平均潜伏期間は3.0日(範囲 1.4-3.1)であった(CDC. Morbidity and Mortality Weekly Report)。
  •   韓国から報告された湖南保育施設関連のオミクロン株感染例25例の解析では、平均潜伏期間は3.6日(範囲2~8日)、平均発症間隔は3.1日(範囲1~7日)であり、デルタ株の平均潜伏期間3~5日、平均発症間隔2.9~6.3日より短かった。オミクロン株感染例での家族内二次感染率は44.7%で、デルタ株の約20%と比較して高かった。(3차접종 적극 참여, 누적 1,100 넘어(12.20., 정례브리핑))
  •   フェロー諸島での33人が集まったイベントで、21人(63%)がSARS-CoV-2感染が確認され、13例でオミクロン株と確定された。感染例はすべて2回のワクチン接種済みのうえ、過去1ヶ月半に3回目の追加接種をうけていた。イベントを曝露日とした際の潜伏期間は、平均3.2日(95%CI 2.8-3.6)であった(Helmsda,l et al.)。
  •   その他にデンマークで150人の参加者が集まるイベントで、71人(47%)がオミクロン株に感染した事例(Espenhain , et al.)や、ノルウェーでオスロー市内のレストランで開催されたクリスマスパーティーに参加した111人中80人(73%)でSARS-CoV-2感染が確認され、ほとんどがオミクロン株による感染と推定された事例が報告された。参加者の大多数は2回のワクチン接種歴を有しており、この集団での潜伏期間は中央値3日であった(Brandal, et al.)

 

  •   ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や自然感染による免疫からの逃避

オミクロン株は、ワクチン接種や自然感染による免疫を逃避する性質が、遺伝子配列やラボでの実験、疫学データから示唆されている。ワクチンで誘導される抗体の in vitro(試験管内)での評価や疫学的評価から、ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株と比較してオミクロン株への感染では著しく低下していることが示されている。3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株感染による発症予防効果が一時的に高まるが、この効果は数ヶ月で低下しているという報告もあり、長期的にどのように推移するかは不明である。入院予防効果もデルタ株と比較してオミクロン株において一定程度の低下を認めるが、発症予防効果と比較すると保たれている。入院予防効果においても3回目接種(ブースター接種)により入院予防効果が高まるという報告があるが、中長期的にこの効果が持続するかは不明である。また、モノクローナル抗体を用いた抗体医薬品についても、in vitroでの評価で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して濃度依存的効果が確認されず中和活性が著しく低下している可能性があり、その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。一般的にウイルス感染は、感染回復者は免疫が成立し感染しづらくなると理解されている。しかしながら、非オミクロン株に感染歴のある者の再感染は、非オミクロン株と比較してオミクロン株への免疫が成立せず感染がより起こりやすい(再感染しやすい)との報告がある。

これまでに細胞性免疫に関する評価が複数の国の研究機関等で行われており、少なくとも6報のプレプリントが報告されている。抗体と比較すると、オミクロン株に対する細胞性免疫の減弱は限定的であり、感染回復者やワクチン接種者(mRNAワクチン・アデノウイルスベクターワクチンなど)では、武漢株に対して反応するT細胞のうち、少なくとも70%以上がオミクロン株に対しても応答するとされている(Tarke, et al., Keeton, et al. その他4報)。したがって、過去の感染やワクチン接種により誘導された細胞性免疫はオミクロン株に対しても交差反応性を維持している可能性がある。ただし、細胞性免疫の反応性は個人差が大きいこと、in vitroでの評価法の種類によって交差性に差異が認められる可能性があることから、解釈に注意が必要である。

また、国立感染症研究所から、新型コロナワクチン2回接種からアルファ株またはデルタ株によるブレイクスルー感染までの期間の長さにより血清抗体のオミクロン株に対する交差中和能が変化し、ワクチン接種から感染までの期間の長い方が、交差中和能の高い抗体が誘導されると報告されている(Miyamoto et al., Sidik et al.)。本報告は、ブレイクスルー感染による液性免疫のブーストがオミクロン株に対しても有効であることを明らかにしただけでなく、地域毎に異なる感染流行拡大やワクチン接種導入、ブレイクスルー感染増加のタイミングにより、新型コロナウイルスに対する集団免疫が多様化していく可能性を示唆しており、感染流行予測における地域毎の血清疫学調査の重要性を強調するものである。

重症化予防に関する効果は十分な評価が得られていないが、ワクチン接種や過去の感染により、オミクロン株感染では重症化リスクが低下することが示唆されている(詳細は次項参照)。

 

(海外のワクチン疫学研究)

  •   英国健康安全保障庁(UKHSA)は症例対照研究(test-negative design)を用いて、オミクロン株およびデルタ株感染による発症に対する、新型コロナワクチン2回接種および3回(ブースター)接種の未接種と比較した有効性の評価を行った(UKHSA. Update on hospitalisation and vaccine effectiveness for Omicron VOC-21NOV-01 (B.1.1.529). 31 December 2021)。2021年11月27日から12月24日に実施された検査において、主にSGTFを用いて、デルタ株感染例169,888例、オミクロン株感染例204,036例に分類し、検査陰性者と比較して、それぞれのワクチンの有効率を算出した。2回接種からの全ての期間でオミクロン株に対する有効率はデルタ株に対する有効率よりも低かった。アストラゼネカ社製ワクチンを2回接種した者においては2回接種から20週後には効果が消失していた。ファイザー社製またはモデルナ社製のワクチンを接種した者では2回接種2-4週後は有効率が65-70%であったが、20週後には10%程度まで低下していた。ブースター接種2-4週後は有効率が65-75%と高まるものの、ブースター接種5-9週後は55-70%、ブースター接種10週後以降は40-50%まで低下した。
  •   UKHSAからは、上記データと救急外来・入院データを突合して、オミクロン株感染による入院に対する、新型コロナワクチン2回接種および3回(ブースター)接種の未接種と比較した有効性の暫定的な評価も報告されている(UKHSA. Technical Briefing Update on hospitalisation and vaccine effectiveness. 31 December 2021)。2回接種2-24週後は有効率が72%(95%CI 55-83)であったが、25週後以降では52%(95%CI 21-71)であった。3回目(ブースター)接種2週後以降では有効率が88%(95%CI 78-93)であった。本研究では、年齢・性別・過去の感染歴・地域・人種・重症化リスク因子・時期で調整しているが、入院者数が少ないためワクチンの種類ごとには解析していない。
  •   南アフリカの民間保険会社Discovery Healthも類似のデザインを用いて、オミクロン株流行期(2021年11月15日から12月7日)およびデルタ株流行期(2021年9月1日から10月30日)における入院に対する、新型コロナワクチン2回接種の未接種と比較した有効性の暫定的な評価を報告している(Collie, et al.)。オミクロン流行期における2回接種14日後以降の有効率は70%(95%CI 62-76)であり、デルタ株流行期の有効率93%(95%CI 90-94)と比較して低いが一定程度保たれていた。本研究では、年齢・性別・過去の感染歴・カレンダー週・地域・重症化リスク因子で調整しているが、2回接種からの具体的な期間については記載がなかった。

 

(新型コロナワクチン接種後のオミクロン株に対する中和能の検討)

  •   オミクロン株においては、複数の国の研究機関等からの報告において、抗原性の変化による感染回復者やワクチン接種者の血清による中和能の低下が示されている(Lu, et al., Dejnirattisai , et al., Cele, et al., Carreno, et al.その他報告多数)。これらの結果は実験系の違いや使用された血清の採取時期(感染やワクチン接種から採血までの期間)の違い等により数値にはばらつきがあるものの、アルファ株以前に主流であったD614G変異を持つ株やデルタ株、オミクロン株以前の分離株でワクチン株から最も抗原性が離れていると考えられるベータ株と比較して、オミクロン株に対するファイザー社製のワクチン2回接種で誘導される中和抗体価は一貫して低い。また、3回(ブースター)接種後においての報告もあり、2回接種と比較するとオミクロン株に対する中和抗体価が高いことが報告されているが、従来株に対する中和抗体価と比較すると低い。ただし、これらの結果は中和抗体のin vitroでの評価であり、解釈に注意が必要である。

 

(抗体医薬品の効果への影響)

  •   オミクロン株においては、抗原性の変化により、SARS-CoV-2に対するモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品の効果への影響も懸念されており、オミクロン株の分離ウイルスやシュードタイプウイルスを用いたモノクローナル抗体による中和試験の暫定結果が報告されている(Cameroni, et al, Cathcart, et al., Cao, et al. その他報告複数)。ソトロビマブ(ゼビュディ)やDXP-604(BeiGene・Singlomicsが開発)は、オミクロン株で認めるスパイクタンパク質の変異を持つシュードタイプウイルスに対して中和活性を維持しているという報告がある。一方で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して濃度依存的な効果が認められず、中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。これらの結果はin vitroでの評価であり、解釈に注意が必要である。

 

(再感染リスクについて)

  •   英国健康安全保障庁(UKHSA)は非オミクロン株と比較したオミクロン株における再感染のリスク比についての暫定的な報告を行った(UKHSA Technical Briefing 31)。2021年11月20日から12月5日にウイルスゲノム解析がなされ、オミクロン株感染とされた361例と非オミクロン株感染とされた85,460例のうち、年齢群・地域・(症状の有無、スクリーニング等の)検査区分で調整した再感染のリスク比は5.2(95%CI 3.4-7.6)であった。ただし、この報告は暫定的であり、SGTFを認める症例が優先的にウイルスゲノム解析をなされていることなどから解釈に注意が必要である。
  •   オミクロン株確定例における再感染率はデルタ株感染例と比較して高く、調整された再感染のリスク比が5.41(95%CI 4.87-6.00)であった。ワクチン接種なしでは6.36 (95%CI5.23-7.74)となった (Imperial College London. Report 49)。
  •   南アフリカにおいてSARS-CoV-2陽性例および検査のサーベイランスデータを用いた研究では、2種類の手法を用いて、非オミクロン株とオミクロン株への再感染のしやすさについて検討された(Pulliam, et al.まず、初回感染の発生率に対する再感染の発生率の比が第1波と同じであると仮定して、その後の再感染者数を予測したところ、第2波(ベータ株主流)、第3波(デルタ波主流)で観察された再感染者数は予測範囲内であったが、11月に観察された再感染者数は予測範囲を上回っていた。次に、全期間について初回感染の発生率に対する再感染の発第3波(デルタ株主流)は0.09であったが、11月以降は0.25と上昇していた。比は一貫して1を下回っており、初回感染よりも再感染の発生率は低いが、ベータ株やデルタ株の流行時に比較して、再感染の発生率は高まっている可能性があった。なお、この検討では、個々のSARS-CoV-2陽性例のワクチン接種歴が得られていないためワクチン接種による感染予防効果は検討されていない。また、SARS-CoV-2陽性例のウイルスゲノム解析結果は不明であり、検査対象は時系列的に変化し、受療行動が変化している可能性があることにも留意する必要がある。

 

(細胞性免疫について)

  •   ワクチン接種者(Ad26.CoV2.S or BNT162b) もしくはCOVID-19感染例を対象として、ワクチン接種22-32日後、感染後1.3-6ヶ月後にT細胞反応性が解析された。オミクロン株に対して、CD4陽性T細胞は14-30%、CD8陽性T細胞は17-25%の応答性が低下した。また約15%の症例では、CD8陽性T細胞応答が検出限界以下であった。既感染例へのワクチン接種により、T細胞の頻度は高くなる傾向にあるが、オミクロンに対する交差性に大きな影響は認められなかった。(Keeton, et al.
  •   ワクチン接種者 (mRNA-1273, BNT162b2, Ad26.COV2.S, NVX-CoV2373)を対象として、1回接種2週間後、2回接種2週間後、3.5ヶ月後、5-6ヶ月後に解析が行われた。ワクチンの違い(mRNA-1273, BNT162b2, Ad26.COV2.Sのみ検討)により交差性に影響は確認されなかった。オミクロン株へのCD4陽性T細胞応答とCD8陽性T細胞応答は、それぞれ83%と85%が維持されていた。バイオインフォマティクスによるエピトープの解析では、全てのCD4陽性T細胞エピトープの72%、CD8陽性T細胞エピトープの86%がオミクロン株でも保持されていた。ただし、変異の影響には個体差が認められ、2-3.5%の検体ではオミクロン株の変異によりCD4陽性T細胞応答が1/3以下まで低下した。CD8陽性T細胞はさらに変異の影響を受ける場合が多く、約19%の検体で反応が1/3以下に低下した(Tarke, et al.)。
  •   交互接種を含む多様なワクチン接種者(既感染者含む)を対象とした検討では、オミクロン株に対するT細胞応答は全体的に約83%維持されていた(Marco, et al.)。
  •   ワクチン接種者 (BNT162b2, Ad26.COV2.S)を対象として、2回目接種1ヶ月後と8ヶ月後に解析したところ、オミクロン株に対してCD8陽性T細胞応答の82-84%が維持されていた(Liu, et al.)。
  •   ワクチン接種者 (ChAdOx-1 S, Ad26.COV2.S, mRNA-1273, BNT162b2)を対象として、最終接種28日後と6ヶ月後にCD4陽性T細胞の応答が解析された。mRNA-1273が最も強いT細胞応答を誘導し、オミクロン株に対する応答性が維持されていた(Geurtsvan, et al.)。
  •   ワクチン接種者 (BNT162b:半年後)もしくは既感染者(9ヶ月後)を対象としてオミクロン株に対する反応を解析した。ワクチン接種者では、CD4陽性T細胞は中央値で9%減少した。CD8陽性T細胞は中央値で8%減少した。既感染者では、CD4陽性T細胞は中央値で16%減少、CD8陽性T細胞は中央値で30%減少した(Gao, et al.)。

 

  •   重症度

国内で経過観察されているオミクロン株感染例(確定例ならびにL452R陰性例を含む)の初期の事例191例については、95%(181/191)が無症状ないし軽症で経過していた。海外の報告では、英国や南アフリカに加えて米国やカナダからデルタ株と比較した入院や重症化のしやすさの違いについての暫定データが報告され、デルタ株に比して入院や重症化リスクの低下が示唆されている。ただし、これらの報告では、オミクロン株感染例が若年層で多い、自然感染やワクチン接種による免疫の影響が考慮されていない等の様々な制限があること、重症化や死亡の転帰を確認するには時間がかかることを踏まえると更なる知見の集積が必要である。

現状の研究や報告の所見を総合すると、デルタ株と比較してオミクロン株では重症化しにくい可能性が示唆される。ただし、重症化リスクがある程度低下していたとしても、感染例が大幅に増加することで重症化リスクの低下分が相殺される可能性を考慮する必要がある。

オミクロン株病原性についての実験科学的な知見については、マウスおよびハムスターを用いた動物モデルでの評価について、いくつかのプレプリント論文が報告されてきた(Diamond, et al., Bentley, et al., Abdelnabi, et al., Sato, et al., McMahan, et al.)。また、in vitroおよびex vivoでの評価に関するプレプリント論文も報告されてきた(Meng, et al., Chi-wai, et al.)。いずれも、オミクロン株では従来株に比べて肺組織への感染性と病原性が低下していることを示唆している。ただし、これらの報告はあくまで動物モデルや細胞・組織レベルでの評価であり、ヒトに対するオミクロン株病原性とは必ずしも相関しない可能性があることに注意する必要がある。

 

(国内症例について)

  •   厚生労働省は、日本で確認されたオミクロン株感染例(確定例ならびにL452R陰性例を含む)について、初期の事例については、感染症法第15条第2項に基づく積極的疫学調査を行っている。1月12日時点で情報が得られた191例のオミクロン株感染例の解析では、男性が62%(119/191)、入院からの観察期間中央値は 11日(最小値1日、最大値25日)で、観察期間中に継続して無症状が68例、軽症が113例、中等症Ⅰが6例、中等症Ⅱが3例、重症が1例であった。ワクチン接種歴に関しては、接種なしが35例、1回接種が4例、2回接種が145例、3回接種が7例であった。

 

(海外からの報告について)

  •   UKHSAは 救急外来および入院データ、SGTFデータ(デルタ株とオミクロン株の分類に使用)、ワクチン接種歴のデータを突合して、デルタ株とオミクロン株の救急外来受診や入院率の違いを検討している(UKHSA Technical Briefing )。2021年11月22日から12月29日のまでのデータを用いて解析したところ、救急外来受診・入院率はデルタ株と比較してオミクロン株感染で0.53倍(95%CI 0.50-0.57)であり、入院率のみでは0.33倍(95%CI 0.30-0.37)であった。本解析では検体採取週と居住地で層別化し年齢・検体採取日・性別・人種・剥奪指標(所得や生活水準などの社会的な指標)・海外渡航歴・ワクチン接種歴<および過去の感染で調整している。
  •   米国の1つの医療グループが2021年11月27日から12月20日までに受診したSARS-CoV-2感染例の重症化について検討したところ、オミクロン株での入院率はアルファ株と比較して0.14倍(95%CI 0.12-0.17)、デルタ株と比較すると0.23倍(95%CI 0.20-0.27)であった。ただし患者背景の調整はされておらず、オミクロン株の流行初期のデータであることに留意する必要がある(Christensen, et al.)。
  •   南アフリカの私立医療グループを受診したSARS-CoV-2感染例データを変異株が流行していた時期をそれぞれ定義して2021年12月7日までの期間でグループ分けして検討したところ、オミクロン株流行期では41.3%が入院したのに対し、それ以前は67.8‒69.3%と有意に高かった。またICU入室率もオミクロン株流行期では18.5%であるのに対し、それ以前は29.9‒41.0%と有意に高かった。しかし時期で区切られていること、ワクチン接種に関するデータはデルタ株流行期では不明であることに留意する必要がある(Maslo, et al.
  •   カナダのオンタリオ州のSARS-CoV-2感染例データを2021年11月22日から12月25日まで抽出し、全ゲノム解析ないしSGTF(50%を超えた12月13日以降は全例)によって探知されたオミクロン株とデルタ株を性、年齢群、ワクチン接種歴、タイミング、地区と発症日による調整後に比較したところ、入院ないし死亡リスクは65%減少(95%CI 54-74)しており、ICU入室ないし死亡リスクは83%減少(95%CI 63-92)した(Ulloa, et al.)。
  •   英国インペリアルカレッジは類似のデータセットを用いて、ワクチン接種歴や非オミクロン株への既感染の影響を考慮したより詳細な解析を行って、デルタ株とオミクロン株の入院率の違いを検討した(Imperial College London. Report 50)。 2021年12月1日から14日までの検査データを12月21日に抽出して解析が行われ、ワクチン接種歴・年代・性別・人種・地域・検体採取日で層別化したデータを用いて解析された。結果、デルタ株と比較してオミクロン株の感染例では入院率(救急外来受診も含まれる可能性がある)が15-20%低下しており、1泊以上入院した者に限定すると50-60%の低下であった。ただし、過去の感染例の全員がとらえられていないために、実際には3倍の既感染例がいると仮定すると、この既感染の影響を除いた入院率の低下は0-30%程度と推定された。さらに、ワクチン接種歴で層別化した結果も提示されており、未接種のオミクロン株感染例では、未接種のデルタ株感染例の入院率の0.59倍(95%CI 0.5-0.69)であったが、同様に過去の感染者数が過小評価されている可能性を考慮して既感染の影響を除くと、この値は0.76倍となりデルタ株感染例との差が小さくなった。また、mRNAワクチンを2回以上接種している者だけで評価すると、デルタ株感染例とオミクロン株感染例の入院率は同程度であった。本解析では、基礎疾患については調整しておらず、入院関連のイベントは数が少なく、また、報告遅れがあり得るため、解釈に注意が必要である。
  •   南アフリカのNICDからの報告として、検査データ、COVID-19症例データ、ウイルスゲノム解析データ、入院サーベイランスデータを突合して、デルタ株とオミクロン株の入院オッズの違いを検討した(Wolter, et al.)。2021年10月1日から11月30日の期間で、年齢・性別・基礎疾患の有無・地域・公立または私立医療機関・既感染の有無で調整した入院オッズは、デルタ株感染例と比較してオミクロン株感染例で0.2 (95%CI 0.1-0.3)であった。さらに、2021年10月1日から11月30日の期間に入院した者で、かつ12月21日までに入院後の転帰が判明している者において、年齢・性別・基礎疾患の有無・地域・公立または私立医療機関・既感染の有無・ワクチン接種歴・初回検体陽性〜入院までの期間で調整した重症化(ICU入室・酸素需要あり・人工呼吸器使用・ECMO使用・ARDS・死亡)のオッズは、デルタ株感染例と比較してオミクロン株感染例で0.7 (95%CI 0.3-1.4)であった。さらに、2021年4-11月のデルタ株感染例と10月1日から11月30日のオミクロン株感染と推定される症例でかつ12月21日までに入院後の転帰が判明している者において、入院症例における年齢・性別・基礎疾患の有無・地域・公立または私立医療機関・既感染の有無・ワクチン接種歴・初回検体陽性〜入院までの期間で調整した重症化のオッズを比較したところ、デルタ株感染例と比較してオミクロン株感染例で0.3 (95%CI 0.2-0.5)であった。ただし、最後の解析では、既感染例の増加については検討されておらず、重症化オッズの低下は、既感染例の増加が一定程度寄与している可能性がある。また、既感染の有無やワクチン接種歴については、データが不完全な可能性がある。
  •   スコットランドのエディンバラ大学からの報告として、プライマリケアデータ、ワクチン接種歴データ、検査データ、ウイルスゲノム解析データ、入院データ、死亡データが突合された人口の99%(540万人)をカバーするEarly Pandemic Evaluation and Enhanced Surveillance of COVID-19(EAVE Ⅱ)プラットフォームを用いて、2021年11月1日から12月19日に検査陽性となった者におけるコホート解析が行われた(Sheikh, et al.)。SGTFデータを用いてデルタ株とオミクロン株を区別し、年代・性別・剥奪指標(所得や生活水準などの社会的な指標)・既感染・基礎疾患のスコアリング・ワクチン接種歴・カレンダー週をモデルに組み込んで解析したところ、オミクロン株感染例において観察された入院数をデルタ株のデータをもとに期待される入院数で割ったobserved/expected比(O/E比)は0.32(95%CI 0.19-0.52)であった。

 

(動物モデルでの評価)

  •   構造モデルや結合能解析ではオミクロン株のスパイクタンパクとマウスACE2(ウイルスレセプター)のより強い結合能が示唆されていたにもかかわらず、近交系マウスを用いた病原性解析では,以前の変異株と比較してオミクロン株感染後の体重減少は軽微であった。また、上・下気道におけるウイルス感染価もオミクロン株感染個体の方が低値であった。一方でヒトACE発現トランスジェニックマウス(K18-hACE2トランスジェニックマウス)においてもウイルス感染はみとめられるものの体重減少は比較的軽微であった。更に,野生型ゴールデンハムスターとヒトACE2発現ハムスターでの病原性解析においても体重変化や呼吸機能などの臨床症状,肺におけるウイルス感染、マイクロCTや組織標本による肺炎重症度などの評価においていずれもオミクロン株の方がデルタ株などの従来の変異株より軽度であった。いくつかの異なるオミクロン株を用いて複数のラボで病原性評価を行った結果、齧歯類におけるオミクロン株の病原性低下が示された(Diamond, et al.)。
  •   K18-hACE2トランスジェニックマウスを用いた病原性解析の結果によると、オミクロン株ではパンデミック初期にイギリスで分離されたB系統やデルタ株と比較してウイルス感染後の体重減少が軽度であり,上下気道のウイルス力価も低値であった。また,肺組織では限局した肺炎像が観察され,比較的軽微であった(Bentley, et al.)。
  •   ゴールデンハムスターを用いた病原性解析では,オミクロン株感染4日目の肺におけるウイルスRNA量はB.1系統(D614G)と比較して約1/1,000と低値であり、また,オミクロン株感染後の肺からは感染性ウイルスは検出されなかった。組織病理学的に,オミクロン株感染後の肺において、気管支周囲の炎症や気管支肺炎の所見は認められなかった。(Abdelnabi, et al.)
  •   ハムスターモデルでは,オミクロン株感染後の体重減少や呼吸機能の低下は,B.1.1系統やデルタ株と比較して軽度であった。組織病理学的には,B.1.1系統やデルタ株感染後では気管支上皮や肺胞上皮に多数のウイルス抗原陽性細胞が認められた一方で,オミクロン株ではウイルス抗原陽性細胞は少数であった。(Sato, et al.)
  •   ゴールデンハムスターを用いた病原性解析では、パンデミック初期に米国で初めて分離された従来株(WA1/2020株),アルファ株,ベータ株、デルタ株感染後に体重減少が見られた一方で,オミクロン株感染後に有意な体重減少は認められなかった.オミクロン株感染動物において上・下気道でのウイルス複製と肺炎所見は観察されたが、WA1/2020株と比較して鼻甲介でのコピー数が高く,肺でのコピー数が低い傾向を示した。よって,以前のSARS-CoV-2と比較すると上気道感染が優位であり,下気道感染による重症化の可能性は低いと推察された。(McMahan, et al.)
  •   細胞内へのウイルスの侵入効率について、SARS-CoV-2スパイクタンパク質を発現するシュードウイルスを用いてin vitroでの解析を実施した。その結果、オミクロン株型のシュードウイルスはB.1.1系統型やデルタ株型と比較して、初代3次元下気道オルガノイドおよびCalu-3細胞 (肺腺癌細胞株) への侵入効率が低下していることが確認された。このオミクロン株シュードウイルスの細胞侵入効率は、TMPRSS2(SARS-CoV-2の細胞侵入に関与するとされる酵素)発現性と逆相関していた。TMPRSS2を発現している肺細胞では、オミクロン株はデルタ株と比較して明らかに低い複製効率を示した。スパイク糖タンパク質を介した細胞間融合はS1/S2切断が必要であるが,TMPRSS2の存在にも依存する。オミクロンのスパイクの融合性はTMPRSS2発現下でも損なわれ、Deltaスパイクと比較してシンシチウム形成能は顕著に減少している。これらのin vitroデータは、TMPRSS2を発現する下気道での感染性を減少させるが、上気道に存在するTMPRSS2非発現細胞の感染には影響しないことを示唆している(Meng, et al.)。
  •   ヒト肺組織を用いたex vivoでの解析では、オミクロン株のウイルス複製効率は気管支において従来株やデルタ株の約70倍を示した一方で、肺においては従来株の約1/10であった。これらのことはヒトにおける重症度が低いことが示唆している可能性がある (Chi-wai, et al.)。

 

  •    検査診断
    •   国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。
    •   オミクロン株は国内で現在使用されているSARS-CoV-2 PCR診断キットでは検出可能と考えられる。
    •   WHOテクニカルブリーフでは、抗原定性検査キットの診断精度については、オミクロン株による影響を受けない可能性が示唆されている。(WHO. Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and Priority Actions for Member States)
    •   国内における変異株PCR検査法に関しては、 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第3報)を参照されたい。
    •   WHO の指定するオミクロン株(B.1.1.529系統の変異株)と確定するためには全ゲノム情報による塩基変異の全体像を知ることが不可欠である。国立感染症研究所では、全ゲノム解析によりゲノム全長を解読し、得られた配列(contig 配列)を用いて Nextclade および PANGOLIN プログラムにて解析し、クレード(clade)及び PANGO 系統(lineage)の両方が適正に判定された場合に最終判定に資する対象としている。ごく稀に、大きな欠失が生じ、PANGO 系統の結果が得られてもクレードが検出できない場合がある。この場合、解読リード深度 (read depth)が 300 倍以上かつゲノム被覆率(coverage)が 98%以上である、 または、de novo アセンブリにて完全(complete)な contig 配列が得られて いれば、結果が得られた PANGO 系統を確定としている(厚生労働省 2021年2月5日事務連絡 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査におけるゲノム解析及び変異株 PCR 検査について )。
    •   2021年12月1日以降、GISAIDに日本から登録されているSARS-CoV-2は962検体あり、L452R陽性282検体は全てデルタ株、L452R陰性検体680検体のうち679検体はオミクロン株、1検体はPango分類不能であった。L452R陰性となる他の変異株の存在割合について継続的にモニタリングが必要であるが、現時点ではL452R陰性と判断された場合はほぼオミクロン株と見做しうる状況にあると考えられる。

 

当面の推奨される対策

  •   デルタ株に比べて重症化リスクが低下していることを考慮しつつ、感染者数の大幅な増加に伴う重症化リスクの高い集団での感染拡大の可能性を考慮し、感染者数の抑制策や中等症・重症者の増加に備えた医療提供体制の構築が望まれる。
  •   ワクチン2回接種率を高いレベルで達成している地域においてもオミクロン株による急激な市中感染拡大を認めていること、3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株に対する発症ならびに入院予防効果の回復が期待されることから、地域の状況に応じて早期の3回目接種(ブースター接種)を検討することが望ましい。また、重症化予防のためワクチン未接種者については、引き続き接種機会を確保していくことが重要である。
  •   カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)のオミクロン株への有効性が低下することが報告されており、オミクロン株感染例であることが明らかな場合や、その蓋然性が高い場合はロナプリーブを投与することは推奨されない。
  •   潜伏期間がデルタ株よりも短縮しており、感染のサイクル(世代時間)が早まっている可能性があり、倍加時間も短縮している。オミクロン株が流行している地域では、感染者数の急増が懸念される。オミクロン株への急速な置き換わりの進行や感染例の急増に伴い、検査、疫学調査、濃厚接触者ならびに感染例への対応、医療提供体制等については地域の流行状況に合わせた柔軟な対応が必要である。
    •   オミクロン株へ置き換わった状況では、変異株の発生動向の監視を目的とした対応が望ましい。ゲノム解析や変異株PCR検査については全数実施するのではなく、偏りのないサンプリングによる一定割合の検体に対する実施や、重症例や潜在的なインパクトが高い事例の基点となるような感染例に対して優先的に行うことを考慮する。
    •   疫学調査については、潜伏期間が短縮していることも考慮し、地域の状況に応じて、感染拡大や重症化リスクの高いクラスター等への重点化を検討する。
    •   地域の流行状況に応じて、濃厚接触者の自宅待機への切り替えや待機期間の短縮を検討する。
  •   医療・福祉・公衆衛生のほか、各種社会的基盤となる事業において、感染拡大に伴う欠勤者の増加も見込んだ事業継続体制を準備する。
  •   ワクチン接種歴のない者や基礎疾患のある者における評価が十分でないことから、引き続きオミクロン株の疫学的特徴及び重症化リスクについて分析・評価していく必要がある。

 

基本的な感染対策の推奨

  •   個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、特に会話時のマスクの着用、手洗いなどの徹底が推奨される。

 

参考文献

 

注意事項

  •        迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

 

更新履歴 

 第6報 2022/1/13 9:00時点(20221/14,1/20,1/25 一部修正)

 第5報 2021/12/28 9:30時点(2021/12/31 一部修正)

 第4報 2021/12/15 19時時点

 第3報 2021/12/8

 第2報 2021/11/28

 第1報 2021/11/26

 

 

 

 

2021年12月28日9:30時点

12月31日 一部修正

国立感染症研究所

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概要

WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化の可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。

2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。

* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.ⅹ系統等が含まれる。

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要

PANGO

系統名

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

UK

HSA

US CDC

スパイクタンパク質の主な変異(全てのオミクロン株で認めるわけではない)

検出報告国・地域数

B.1.1.529

BA.x

VOC

VOC

VOC

VOC

VOC

G142D, G339D, S371L, S373P, S375F, S477N, T478K, E484A, Q493K, G496S, Q498R, N501Y, Y505H, P681H

106か国

 

オミクロン株について

  •   オミクロン株は基準株と比較し、スパイクタンパク質に30か所程度のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ。)を有し、3か所の小欠損と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。このうち15か所程度の変異は受容体結合部位(Receptor binding protein (RBD); residues 319-541)に存在する(ECDC. Threat Assessment Brief)。各変異等の詳細については第3報を参照されたい。

海外での発生状況

全世界でオミクロン株による感染例(以下オミクロン株感染例)の報告数ならびに報告国数が継続的に増加し、南アフリカ、イングランドやアメリカ合衆国では、デルタ株からオミクロン株への急速な置き換わりの進行が報告された。また、複数の国・地域で市中感染や集団内の多くの者が感染したクラスター事例も報告されており、さらなる感染の拡大が懸念される。ゲノムサーベイランスの質が十分でない国・地域においては探知されていない感染例が発生している可能性もあるため、現在感染例が探知されている国・地域よりもさらに広い範囲に感染が拡大している可能性がある。

  •   2021年11月24日に南アフリカからWHOへ最初のオミクロン株感染例が報告されて以降、12月21日までに日本を含め全世界106か国から感染例が報告された(WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 21 December 2021)。
  •   2021年12月20日時点でアフリカでは、22か国からオミクロン株感染例が報告された(Outbreak Brief #101: Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Pandemic Date of Issue: 21 December 2021)。南アフリカでは、ゲノム解析された検体のうち、10月はデルタ株が85%(646/764)、オミクロン株0.2%(2/764)であったが、11月はオミクロン株82%(987/1,210)、12月はオミクロン株98%(629/639)であった (NICD. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE (24 DEC 2021))。
  •   2021年12月19日時点でEU/EEA域内では、28か国から合計4,691例のオミクロン株感染例が報告された。情報を取得できた範囲では、オミクロン株感染例のEU/EEA域内での死亡は報告されていない。オミクロン株の市中感染例が増加し、クラスター事例も発生している(ECDC. Epidemiological update: Omicron variant of concern (VOC) – week 50 data as of 19 December 2021.)。オミクロン株感染例4,766例とS遺伝子が検出されない(S gene target failure(SGTF)と呼ばれる)SARS-CoV-2感染例(以下SGTF感染例)の計4,786例の解析では、年齢中央値31歳(範囲0-112歳)で男性が51%であった。そのうち情報を取得できた2,550例において、94%(2,388/2,550)が有症状であった。情報が得られた感染例の中で、1%(15/2,717)が入院し、ICU入室/人工呼吸器管理を要したものはいなかった(0/2,707)(ECDC. Country Overview Report: Week 50, 2021, produced on 23 December 2021.)。
  •   2021年12月23日時点でイングランドでは、102,729例のオミクロン株感染例と192,965例のSGTF感染例が報告された。また12月19日時点で、29例の死亡例と366例の入院例(オミクロン株感染例ないしSGTF感染例)を認めた。イングランドでは11月末以降SGTF感染例の増加を認め、12月21日ないし22日に採取されS遺伝子の結果が判明した34,270検体のうち、86.2%(29,524検体)でSGTFを認めた(UKHSA. Omicron daily overview. 24 December 2021.)。12月18日時点での53,842例(男性25,577例、女性28,265例)のオミクロン株感染例の解析では、20歳代が33%と最も多く、次いで30歳代が23%、40歳代が15%、10歳代が12%であった。(UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 3)。
  •   2021年12月8日時点でアメリカ合衆国では、22の州でオミクロン株感染例が報告されており、このうち複数の州で市中感染が示唆される事例が報告された。情報を取得できた43例において、入院例が1例報告され、死亡例は報告されなかった (CDC. SARS-CoV-2 B.1.1.529 (Omicron) Variant — United States, December 1–8, 2021.)。CDCの12月20日時点の推計では、同国での週別のオミクロン株検出割合の推定値が12.6%(12月5日~11日)から73.2%(12月12日~18日)に増加した。(CDC. COVID Data Tracker Variant Proportions)。
  •   2021年12月17日時点で西太平洋地域では、11ヵ国からオミクロン株感染例が報告された(WHO. Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) External Situation Report #83 15 December 2021)。2021年12月20日時点で韓国では、合計188例(確定例178例、確定例と疫学的関連のある10例)が報告された。確定例の年齢分布は、20歳未満が26.7%、20代~50代が66.3%で、推定感染地は海外が28.9%、国内が71.1%であった。診断時には19.8%が無症状で、有症状の場合は発熱、咽頭痛、咳が主な初期症状であり、いずれの感染例も軽症であった (3차접종 적극 참여, 누적 1,100 넘어(12.20., 정례브리핑))。
  •   2021年12月19日時点で東南アジア地域では、7か国からオミクロン株感染例が報告された(WHO. COVID-19 Weekly Situation Report Week #50 (13 December – 19 December 2021) 24 )。
  •   2021年12月4日時点で東地中海地域では、3か国からオミクロン株感染例が報告された(WHO EMRO. COVID-19: WHO EMRO Biweekly Situation Report #24 Epi Weeks 47 – 48 (21 November – 4 December 2021.)。

 

日本での発生状況

海外からの入国者のSARS-CoV-2陽性者の中でオミクロン株感染例の割合が高まり、オミクロン株感染例が継続して報告されており、オミクロン株の国内への輸入リスクは高まっている。また、14日以内に海外渡航歴のある者との関連が認められないオミクロン株の感染例が複数の都道府県から報告されている。感染源が確認できていない事例が継続して発生している地域もあり、そのような地域では感染拡大に留意する必要がある。海外での報告で示唆されているオミクロン株の感染・伝播性の高さ等を考慮すると、国内においても大規模クラスターの発生や、広範囲での市中感染が継続することで、感染例の急増につながることが懸念される。

 

  •   2021年12月27日までに日本において、計316例のオミクロン株感染例が報告された(2021年12月27日21時時点)。内訳*は水際関連空港検疫事例が247例(以下検疫例)、水際関連都道府県発表事例が33例、それ以外の事例が36例(大阪府14例、京都府12例、愛知県、山口県より各2例、東京都、富山県、静岡県、滋賀県、広島県、福岡県より各1例より報告があった)であった。検疫でSARS-CoV-2陽性が判明する者の中でオミクロン株感染例の割合は経時的に高くなっている。検疫例について、入国前14日以内に滞在した国の数は計41か国であった。(厚生労働省報道発表資料:https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/index.html)。

*厚生労働省報道発表資料に基づく

(注1)「空港検疫」には、検疫検査時に陽性だった方に加えて、宿泊施設での待機が必要な国・地域から入国後、待機中に陽性が判明し、オミクロン株と確定した場合も含む。

(注2)「都道府県発表」には、検疫所関係者でオミクロン株と確定した場合を含む。

(注3)「左記以外」は、オミクロン株と確定した者のうち、直近の海外渡航歴がなく、現時点で感染経路が明らかになっていない者等。

  •   国内のCOVID-19発生動向については、新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報:発生動向の状況把握を参照されたい。
  •   オミクロン株感染例と同じ便に搭乗していた乗客は濃厚接触者として健康観察および定期的な検査が実施されていた。また、各自治体においては、感染源・感染経路の特定及び感染拡大防止のため、幅広なリスク集団を対象に検査・調査が行われている。調査で特定された(濃厚)接触者については健康観察と定期的な検査が実施されている。

 

ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見

  •   感染・伝播性

オミクロン株の流行が先んじて報告された南アフリカでは、高い実効再生産数が報告され、イングランドからも倍加時間の短縮や感染者数の高い増加率が報告された。海外から報告された集団発生事例での高い発病率や、デルタ株よりも多くの家庭内二次感染例が報告されたことも伝播性の増加を示唆する所見である。ただし、観察集団の免疫状況や感染予防行動等の違い、オミクロン株同定のための検査戦略などの影響等も含めて、解釈には依然として慎重を要する。また、世代時間や潜伏期間がデルタ株に比較して短縮している可能性を示す所見があることにも留意する必要がある。倍加時間の短縮は、感染性の増大と世代時間の短縮の両方の影響を加味する必要がある。さらに、国内の積極的疫学調査から得られた暫定的な結果からは、これまでの事例(従来株やデルタ株による)と比較し、感染・伝播性はやや高い可能性はあるが、感染様式の変化や著しい感染・伝播性の増加の根拠は得られていない。また、基本的で適切な感染対策(マスク着用、手指衛生、換気の徹底等)は引き続いて有効であることが観察されており、感染対策が比較的守られている状況下では爆発的な感染拡大には至っていない。引き続き日本におけるオミクロン株の感染・伝播性に関する知見の蓄積が必要である。

  •   国内の積極的疫学調査による結果に基づくと、同居の濃厚接触者において観察期間を7日とし、その期間を経過した者を対象とした場合、二次感染率は中央値22%(四分位範囲:0-100%)であった(11事例(対象者:計37名))。また、推定曝露日が得られた感染例(n=11)における潜伏期間の中央値は3日(四分位範囲:2.5-4日)、であった。ただし、各事例におけるワクチン接種率、感染対策状況を含む曝露状況について情報が十分得られていないことから、あくまでも暫定的な数字であり、解釈には注意が必要である。
  •   屋外の競技場や職場において、マスクの着用や同一空間の滞在時間に関係なく幅広検査の対象となった者のうち、現在のところ、感染例は検出されていない。
  •   オミクロン株の感染例が搭乗していた航空機について、乗客全員を濃厚接触者として14日間の健康観察が行われていた。12月25日までに健康観察を終了したオミクロン株感染例と同じ機内の乗客2,097人のうち、入国後にオミクロン株による感染が明らかとなったのは計4便の5人 (0.24%, 95%信頼区間(CI):0.07-0.56)のみで、うち2名は家族だった。また、1名は同乗の感染例とウイルスゲノム配列が異なっていた。一方、2021年12月3日から19日までの間に、到着時オミクロン株陽性者のいない便の乗客62,257名の中で、検疫での検査結果が陰性になってから14日以内にオミクロン株陽性となった者(またはL452R変異株PCR陰性者)は65名検出され(0.10%、95% CI 0.08-0.13)、これらの割合に有意な差はなかった。
    •   南アフリカにおいてオミクロン株の流行が始まった11月から12月4日までの報告例を基に算出された実効再生産数は2.55 (95%CI 2.26, 2.86)であった(NICD. The Daily Effective Reproduction Number in South Africa.)。
    •   英国においてはSGTFを認める検体(オミクロン株であることが疑われる検体)をモニタリングするサーベイランスが稼働しており、11月4週から12月3週のデータを用いて増加率(growth rate)が0.41/日と算出された(UKHSA. Technical Briefing 32)。またオミクロン株確定例に対する増加率が検討されており、0.45/日 (95%CI 0.44-0.46)と算出された(Imperial College London. Report 49)。
    •   またデルタ株と比較した相対的な免疫逃避の程度を考慮したモデルでは同時期の増加率は0.29/日と算出された(LSHTM. Modelling report)。
    •   上に伴い、英国では倍加時間(doubling time)も算出されており、SGTFデータおよびオミクロン確定例のデータから倍加時間はそれぞれ1.6日と1.5日と算出された(Imperial College London. Report 49)。またデルタ株に対する相対免疫逃避を考慮したモデルでは倍加時間は2.4日と算出された(LSHTM. Modelling report)。
    •   英国において2021年11月15日から12月6日の間に検体を採取されたオミクロン株感染例777例とデルタ株感染例115,407例を対象としたコホート研究では、オミクロン株感染例からの家庭内二次感染率(Household secondary attack rate)はデルタ株感染例と比較して、調整なしオッズ比で2.0倍(95%CI 1.7–2.4)、年代、性別、ワクチン接種歴等で調整したオッズ比で2.9倍(95%CI 2.4–3.5)であった。また家庭外の二次感染も含んだ二次感染率は1.96倍(95%CI 1.77–2.16)と推定された(UKHSA Technical Briefing 32)。
    •   韓国から報告された湖南保育施設関連のオミクロン株感染例25例の解析では、平均潜伏期間は3.6日(範囲2~8日)、平均発症間隔は3.1日(範囲1~7日)であり、デルタ株の平均潜伏期間3~5日、平均発症間隔2.9~6.3日より短かった。オミクロン株感染例での家族内二次感染率は44.7%で、デルタ株の約20%と比較して高かった。(3차접종 적극 참여, 누적 1,100 넘어(12.20., 정례브리핑))
    •   デンマークでは、150人の参加者が集まるイベントで、71人(47%)がオミクロン株に感染した事例が報告された。同国では2021年12月9日時点で、合計785例のオミクロン株感染例が確認されており、年齢は2~95歳(中央値:32歳)で、55%(433例)が男性であった。76%(599例)がワクチン接種を完了しており、7%(56例)は追加接種を受けていた。1%(9例)が入院治療(うち1例は集中治療)を要し、死亡例は報告されなかった (Espenhain L., et al.)。
    •   ノルウェーでは、オスロー市内のレストランで開催されたクリスマスパーティーに参加した111人中80人(73%)でSARS-CoV-2感染が確認され、ほとんどがオミクロン株による感染と推定されている。参加者の大多数は30-50代で、2回のワクチン接種歴を有していた。80人中79人が何らかの症状を呈し、多くの者はパーティーの3日後の発症であった。感染例の70%以上で咳、頭痛、咽頭痛、倦怠感を、半数以上で発熱を認めたが、入院例や死亡例は報告されていない。なお、この集団での潜伏期間は中央値3日だった (Brandal, RC., et al.)。

  •   ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や自然感染による免疫からの逃避

オミクロン株は、ワクチン接種や自然感染による免疫を逃避する性質が、遺伝子配列やラボでの実験、疫学データから示唆されている。ワクチンで誘導される抗体の in vitro(試験管内)での評価や疫学的評価から、ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株と比較してオミクロン株への感染では低い可能性が示されている。3回目接種(ブースター接種)により、オミクロン株感染による発症予防効果が高まる可能性が示唆されているが、3回目接種からの日数が数週間程度と非常に短い者におけるデータであるため、中長期的にこの効果が持続するかは不明である。また、モノクローナル抗体を用いた抗体医薬品についても、in vitroでの評価で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して中和活性が著しく低下している可能性があり、その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。さらに、非オミクロン株に感染歴のある者の再感染は、非オミクロン株と比較してオミクロン株への感染がより起こりやすい(再感染しやすい)との報告がある。重症化予防に関する効果は十分な評価が得られていないが、ワクチン接種や過去の感染により、オミクロン株感染では重症化リスクが低下している可能性が示唆されている(詳細は次項参照)。

  •   英国健康安全保障庁(UKHSA)は症例対照デザイン(test-negative design)を用いて、オミクロン株およびデルタ株感染による発症に対する、新型コロナワクチン2回接種および3回(ブースター)接種及び未接種と比較した有効性の暫定的な評価を行った(UKHSA. Technical Briefing 31, Andrews et al.. UKHSA. Technical Briefing 33)。2021年11月27日から12月6日に実施された検査において、主にSGTFを用いて、デルタ株感染例56,439例、オミクロン株感染例581例に分類し、検査陰性者130,867人と比較して、それぞれのワクチンの有効率を算出した。その結果、ファイザー社製のワクチンを2回接種後2-9週間ではオミクロン株に対する有効率は88%(95%CI 65.9-95.8)とデルタ株(88.2 (95%CI 86.7-89.5))と同等であった。しかし、2回接種後10週以降では、デルタ株よりもオミクロン株に対する有効率が低かった。さらに、2回接種後20週以降においては、デルタ株に対する有効率が60%強であるのに対し、オミクロン株に対する有効率は35%程度であった。ブースターの発症予防効果については、12月17日までの検査を含め、デルタ147,597症例、オミクロン68,489症例を組み入れた更なる解析結果が報告されている。ファイザー社製ワクチンを2回接種後に、3回目(ブースター)接種としてファイザー社製ワクチンを用いた場合には、接種直後に発症予防効果が70%に上昇するものの、10週以降で45%に低下していた。3回目(ブースター)接種としてモデルナ社製ワクチンを用いた場合には、3回目接種5〜9週間後には約70~75%の有効性が認められた(10週以降のデータなし)。一方で、アストラゼネカ社製ワクチンを2回接種後に、3回目接種としてファイザーもしくはモデルナ社製ワクチンを用いた場合には接種2~4週間後に約60%に上昇した。しかし3回目接種10週間後にはファイザー社製ワクチンをブースター接種した場合で35%、モデルナ社製ワクチンをブースター接種した場合に45%にまで低下した。いずれの結果についても、観察研究であるため、バイアスや交絡の可能性があり、また、オミクロン株感染例は少ないため、信頼区間が広く、点推定値の評価には注意が必要である。また、本報告は発症予防効果についての評価であり、オミクロン株感染による重症例に対するワクチン有効性については、今後の更なる検討が必要である。
  •   オミクロン株においては、複数の国の研究機関等からの報告において、抗原性の変化による感染回復者やワクチン接種者の血清による中和能の低下が示されている(Lu et al., Dejnirattisai et al., Cele et al., Carreno et al.その他報告多数)。これらの結果は実験系の違いや使用された血清の採取時期(感染やワクチン接種から採血までの期間)の違い等により数値にはばらつきがあるものの、アルファ株以前に主流であったD614G変異を持つ株やデルタ株、オミクロン株以前の分離株でワクチン株から最も抗原性が離れていると考えられるベータ株と比較して、オミクロン株に対するファイザー社製のワクチン2回接種で誘導される中和抗体価は一貫して低い。また、3回(ブースター)接種後においての報告もあり、2回接種と比較するとオミクロン株に対する中和抗体価が高いことが報告されているが、従来株に対する中和抗体価と比較すると低い。ただし、これらの結果は中和抗体のin vitro(試験管内)での評価であり、解釈に注意が必要である。
  •   オミクロン株においては、抗原性の変化により、SARS-CoV-2に対するモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品の効果への影響も懸念されており、オミクロン株の分離ウイルスやシュードタイプウイルスを用いたモノクローナル抗体による中和試験の暫定結果が報告されている(Cameroni et al, Cathcart et al., Cao et al. その他報告複数)。ソトロビマブ(ゼビュディ)やDXP-604(BeiGene・Singlomicsが開発)は、オミクロン株で認めるスパイクタンパク質の変異を持つシュードタイプウイルスに対して中和活性を維持しているという報告がある。一方で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。これらの結果はin vitro(試験管内)での評価であり、解釈に注意が必要である。
  •   一方で、現時点で明らかな細胞性免疫からの逃避についての情報はない(Redd, et al.)。
  •   英国健康安全保障庁(UKHSA)は非オミクロン株と比較したオミクロン株における再感染のリスク比についての暫定的な報告を行った(UKHSA Technical Briefing 31)。2021年11月20日から12月5日にウイルスゲノム解析がなされ、オミクロン株感染とされた361例と非オミクロン株感染とされた85,460例のうち、年齢群・地域・(症状の有無、スクリーニング等の)検査区分で調整した再感染のリスク比は5.2(95%CI 3.4-7.6)であった。ただし、この報告は暫定的であり、SGTFを認める症例が優先的にウイルスゲノム解析をなされていることなどから解釈に注意が必要である。
  •   オミクロン株確定例における再感染率はデルタ株感染例と比較して高く、調整された再感染のリスク比が 5.41(95%CI 4.87-6.00)であった。ワクチン接種なしでは 6.36 (95%CI5.23-7.74)となった(Imperial College London. Report 49)。
  •   南アフリカにおいてSARS-CoV-2陽性例および検査のサーベイランスデータを用いた研究では、2種類の手法を用いて、非オミクロン株とオミクロン株への再感染のしやすさについて検討された(Pulliam, et al.まず、初回感染の発生率に対する再感染の発生率の比が第1波と同じであると仮定して、その後の再感染者数を予測したところ、第2波(ベータ株主流)、第3波(デルタ波主流)で観察された再感染者数は予測範囲内であったが、11月に観察された再感染者数は予測範囲を上回っていた。次に、全期間について初回感染の発生率に対する再感染の発第3波(デルタ株主流)は0.09であったが、11月以降は0.25と上昇していた。比は一貫して1を下回っており、初回感染よりも再感染の発生率は低いが、ベータ株やデルタ株の流行時に比較して、再感染の発生率は高まっている可能性があった。なお、この検討では、個々のSARS-CoV-2陽性例のワクチン接種歴が得られていないためワクチン接種による感染予防効果は検討されていない。また、SARS-CoV-2陽性例のウイルスゲノム解析結果は不明であり、検査対象は時系列的に変化し、受療行動が変化している可能性があることにも留意する必要がある。

  •   重症度

国内で経過観察されているオミクロン株感染例の初期の事例109例については、94%(103/109)が無症状ないし軽症で経過していた。海外の報告では、英国や南アフリカ等からデルタ株と比較した入院や重症化のしやすさの違いについての暫定データが報告されている。デルタ株と比較してオミクロン株では重症化しにくい可能性が示唆される。ただし、これらの報告では、オミクロン株感染例が若年層で多い、自然感染やワクチン接種による免疫の影響が考慮されていない等の様々な制限があること、重症化や死亡の転帰を確認するには時間がかかることを踏まえると更なる知見の集積が必要である。また、重症化リスクがある程度低下していたとしても、感染例が大幅に増加することで重症化リスクの低下分が相殺される可能性も考慮する必要がある。

  •   厚生労働省は、日本で確認されたオミクロン株感染例について、初期の事例については、感染症法第15条第2項に基づく積極的疫学調査を行っている。12月27日時点で情報が得られた109例のオミクロン株感染例の解析では、男性が63%(69/109)、入院からの観察期間中央値は 8日(最小値 1日、最大値19日)で、観察期間中に継続して無症状が29例、軽症が74例、中等症Ⅰが6例であった。ワクチン接種歴に関しては、未接種者が22例、接種者*(追加接種ありを含む)が86例、ワクチン接種日不明が1例であった。*規定の接種回数(ジョンソン・エンド・ジョンソン社製のワクチンの場合1回、その他のワクチンは2回)のワクチン接種を完了後、14日以上経過したもの
  •   UKHSAは 救急外来および入院データ、SGTFデータ(デルタ株とオミクロン株の分類に使用)、ワクチン接種歴のデータを突合して、デルタ株とオミクロン株の救急外来受診や入院率の違いを検討している(UKHSA Technical Briefing 31)。2021年11月22日から12月19日のまでのデータを用いて解析したところ、救急外来受診・入院率はデルタ株と比較してオミクロン株感染で0.62倍(95%CI 0.55-0.69)であり、入院率のみでは0.38倍(95%CI 0.30-0.50)であった。本解析では検体採取週と居住地で層別化し年齢・検体採取日・性別・人種・剥奪指標(所得や生活水準などの社会的な指標)・海外渡航歴・ワクチン接種歴で調整しているが、過去の感染や基礎疾患については調整していない。
  •   英国インペリアルカレッジは類似のデータセットを用いて、ワクチン接種歴や非オミクロン株への既感染の影響を考慮したより詳細な解析を行って、デルタ株とオミクロン株の入院率の違いを検討した(Imperial College London. Report 50)。 2021年12月1日から14日までの検査データを12月21日に抽出して解析が行われ、ワクチン接種歴・年代・性別・人種・地域・検体採取日で層別化したデータを用いて解析された。結果、デルタ株と比較してオミクロン株の感染例では入院率(救急外来受診も含まれる可能性がある)が15-20%低下しており、1泊以上入院した者に限定すると50-60%の低下であった。ただし、過去の感染例の全員がとらえられていないために、実際には3倍の既感染例がいると仮定すると、この既感染の影響を除いた入院率の低下は0-30%程度と推定された。さらに、ワクチン接種歴で層別化した結果も提示されており、未接種のオミクロン株感染例では、未接種のデルタ株感染例の入院率の0.59倍(95%CI 0.5-0.69)であったが、同様に過去の感染者数が過小評価されている可能性を考慮して既感染の影響を除くと、この値は0.76倍となりデルタ株感染例との差が小さくなった。また、mRNAワクチンを2回以上接種している者だけで評価すると、デルタ株感染例とオミクロン株感染例の入院率は同程度であった。本解析では、基礎疾患については調整しておらず、入院関連のイベントは数が少なく、また、報告遅れがあり得るため、解釈に注意が必要である。
  •   南アフリカのNICDからの報告として、検査データ、COVID-19症例データ、ウイルスゲノム解析データ、入院サーベイランスデータを突合して、デルタ株とオミクロン株の入院オッズの違いを検討した(Wolter, et al.)。2021年10月1日から11月30日の期間で、年齢・性別・基礎疾患の有無・地域・公立または私立医療機関・既感染の有無で調整した入院オッズは、デルタ株感染例と比較してオミクロン株感染例で0.2 (95%CI 0.1-0.3)であった。さらに、2021年10月1日から11月30日の期間に入院した者で、かつ12月21日までに入院後の転帰が判明している者において、年齢・性別・基礎疾患の有無・地域・公立または私立医療機関・既感染の有無・ワクチン接種歴・初回検体陽性〜入院までの期間で調整した重症化(ICU入室・酸素需要あり・人工呼吸器使用・ECMO使用・ARDS・死亡)のオッズは、デルタ株感染例と比較してオミクロン株感染例で0.7 (95%CI 0.3-1.4)であった。さらに、2021年4-11月のデルタ株感染例と10月1日から11月30日のオミクロン株感染と推定される症例でかつ12月21日までに入院後の転帰が判明している者において、入院症例における年齢・性別・基礎疾患の有無・地域・公立または私立医療機関・既感染の有無・ワクチン接種歴・初回検体陽性〜入院までの期間で調整した重症化のオッズを比較したところ、デルタ株感染例と比較してオミクロン株感染例で0.3 (95%CI 0.2-0.5)であった。ただし、最後の解析では、既感染例の増加については検討されておらず、重症化オッズの低下は、既感染例の増加が一定程度寄与している可能性がある。また、既感染の有無やワクチン接種歴については、データが不完全な可能性がある。
  •   スコットランドのエディンバラ大学からの報告として、プライマリケアデータ、ワクチン接種歴データ、検査データ、ウイルスゲノム解析データ、入院データ、死亡データが突合された人口の99%(540万人)をカバーするEarly Pandemic Evaluation and Enhanced Surveillance of COVID-19(EAVE Ⅱ)プラットフォームを用いて、2021年11月1日から12月19日に検査陽性となった者におけるコホート解析が行われた(Sheikh et al.)。SGTFデータを用いてデルタ株とオミクロン株を区別し、年代・性別・剥奪指標(所得や生活水準などの社会的な指標)・既感染・基礎疾患のスコアリング・ワクチン接種歴・カレンダー週をモデルに組み込んで解析したところ、オミクロン株感染例において観察された入院数をデルタ株のデータをもとに期待される入院数で割ったobserved/expected比(O/E比)は0.32(95%CI 0.19-0.52)であった。

  •    検査診断
    •   国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。
    •   オミクロン株は国内で現在使用されているSARS-CoV-2 PCR診断キットでは検出可能と考えられる。
    •   WHOテクニカルブリーフでは、抗原定性検査キットの診断精度については、オミクロン株による影響を受けない可能性が示唆されている。(WHO. Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and Priority Actions for Member States)
    •   国内における変異株PCR検査法に関しては、 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第3報)を参照されたい。
    •   WHO の指定するオミクロン株(B.1.1.529系統の変異株)と確定するためには全ゲノム情報による塩基変異の全体像を知ることが不可欠である。国立感染症研究所では、全ゲノム解析によりゲノム全長を解読し、得られた配列(contig 配列)を用いて Nextclade および PANGOLIN プログラムにて解析し、クレード(clade)及び PANGO 系統(lineage)の両方が適正に判定された場合に最終判定に資する対象としている。ごく稀に、大きな欠失が生じ、PANGO 系統の結果が得られてもクレードが検出できない場合がある。この場合、解読リード深度 (read depth)が 300 倍以上かつゲノム被覆率(coverage)が 98%以上である、 または、de novo アセンブリにて完全(complete)な contig 配列が得られて いれば、結果が得られた PANGO 系統を確定としている(厚生労働省 2021年2月5日事務連絡 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査におけるゲノム解析及び変異株 PCR 検査について )。

当面の推奨される対策

  •   オミクロン株については、現時点ではウイルスの性状に関する実験的な評価や疫学的な情報は限られており、高いワクチン接種率を達成している我が国においても感染拡大と患者増加のリスクを想定した対策を講じる必要がある。
  •   カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)のオミクロン株への有効性が低下することが報告されており、オミクロン株感染例であることが明らかな場合や、その蓋然性が高い場合はロナプリーブを投与することは推奨されない。
  •   水際対策と並行して、検疫及び国内での変異株PCR検査及びゲノムサーベイランスによる監視を引き続き行う必要がある。
  •   市中感染が疑われる感染例も報告されており、変異株PCR検査体制の徹底による早期探知、迅速な積極的疫学調査ならびに感染拡大防止策の実施が必要である。
  •   潜伏期間や世代時間の短縮が海外の知見によって示唆されており、また臨床的特徴についてもワクチン接種歴のないものや基礎疾患のあるものにおける評価が十分でないことから、引き続きオミクロン株の疫学的特徴及び重症化リスクについて分析・評価していく必要がある。
  •   オミクロン株感染例と同一空間を共有した者については、マスクの着用の有無や接触時間にかかわらず、幅広な検査の対象としての対応を行うことが望ましい。

 

 基本的な感染対策の推奨

  •         個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、特に会話時のマスクの着用、手洗いなどの徹底が推奨される。

 

参考文献

 

注意事項

  •        迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

 第5報 2021/12/28 9:30時点

 第4報 2021/12/15 19時時点

 第3報 2021/12/8

 第2報 2021/11/28

 第1報 2021/11/26

 

 

 

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