国立感染症研究所

2023年 1月13日 9:00 時点

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English(summary)

変異株の概況

  •   現在、流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第23報時点と同様に、B.1.1.529系統とその亜系統(オミクロン)が支配的な状況が世界的に継続している。2022年12月2日~2023年1月2日に、世界でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルスの98.4%をオミクロンが占め、その他の系統はほとんど検出されていない(WHO, 2023a)。オミクロンの中では多くの亜系統が発生しているが、BA.5系統が63.7%、BA.2系統が15.2%、 BA.4系統が0.7%(いずれも亜系統を含む)と、引き続き世界的にBA.5系統が流行の主流となっている(WHO, 2023a)。日本国内でも2022年7月頃にBA.2系統からBA.5系統に置き換わりが進み、BA.5系統が主流となったのち、10月以降BQ.1系統(BA.5.3系統の亜系統)及びBA.2.75系統の占める割合が上昇傾向にある。また、国内外でオミクロンの亜系統間のさまざまな組換え体も報告されている。世界保健機関(WHO)は、これらのB.1.1.529系統とその亜系統および組換え体を全て含めて「オミクロン」と総称する一方、いくつかの亜系統や組換え体(BA.2.3.20、BA.4.6、BA.2.75、XBBの各系統および、BA.5系統にN450D変異もしくはR346/K444/V445/N460のいずれかの箇所に変異を有するもの)を「監視下のオミクロンの亜系統(Omicron subvariants under monitoring)」としている。

  •   BQ.1系統、XBB系統(BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体)をはじめ、特徴的なスパイクタンパク質の変異がみられ、ワクチン接種や感染免疫による中和抗体からの逃避や、感染者数増加の優位性が示唆される亜系統が複数報告されている。特に北米で増加しているXBB.1.5系統のように、いくつかの地域で既存の流行株に比して感染者数増加の優位性がみられる亜系統も報告されているが、特定の変異株が世界的に優勢となる兆候は見られない。

  •   現時点では、オミクロンと総称される系統の中で、主に免疫逃避に寄与する形質を持つがその他の形質は大きく変化していない変異株が生じていると考えられる。世界の人口の免疫状態や、介入施策も多様になる中で、変異株の性質が流行の動態に直接的に寄与する割合は低下していると考えられる。変異株の発生動向や病原性・毒力(virulence)、感染・伝播性、ワクチン・医薬品への抵抗性、臨床像等の形質の変化を継続して監視し、迅速にリスクと性質を評価し、それらに応じた介入施策が検討される必要がある。 

  •   2022年11月以降、中国で急速な感染拡大が報告されている。感染者数、重症者数、死亡者数などの信頼できるデータは不足しているものの、メディア情報などをもとにした推計では、2023年1月以降も流行は継続していると推測される。中国ではゼロコロナ政策がとられていたが、12月7日以降感染対策を緩和しており、今後、1月下旬の春節に向けて、さらに流行が拡大するリスクがある。中国からGISAIDに登録されたゲノム解析結果では、BA.5.2系統、BF.7系統が主流となっていると考えられ、いずれも日本国内でも検出されている系統であった。日本では2022年12月30日より中国(香港・マカオを除く)に渡航歴(7日以内)のある全ての入国者と、中国(香港・マカオを除く)からの直行便での入国者については全員入国時検査を実施しており、これら入国者からもBA.5.2系統、BF.7系統が主に検出されている。引き続き中国での状況を注視する必要がある。 

 

第23報からの変更点

  •   各変異株の国内外での発生状況の更新
  •   中国における変異株の状況についての追加

 

 

BA.5系統について

  •   BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカ共和国で検出された。以降BA.5系統は世界的に検出数が増加し、2022年50週(12月12日~12月18日)時点で BA.5系統とその亜系統が全世界で登録された株の63.7%を占め、主流となっている (WHO, 2023a)。

  •   国内では2022年6月以降、BA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進行した。BA.5系統は2022年第17週(4月18日~24日)に日本から初めてGISAIDに登録され、第27週(7月4日~10日)に50%を、第28週(7月11日~17日)に75%を、30週(7月25日~31日)に90%を超えた(covSPECTRUM, 2022)。国内民間検査機関2社に集められた週800検体のゲノム解析結果を用いたゲノムサーベイランスでも、2022年22週(5月23日~29日)に初めて検出されたのち、第27週に50%を、第28週に75%を、30週に90%を超えた(国立感染症研究所, 2022a)。

 

BA.2.75系統、BA.4.6系統について

  •   2023年1月2日時点でGISAIDに、BA.2.75系統(亜系統を含む)が99か国から71,970件、BA.4.6系統(亜系統を含む)が97か国から59,785件登録されている(covSPECTRUM, 2023)。日本では、1月8日時点で、BA.2.75系統(亜系統を含む)が検疫で199件、国内で3,089件、BA.4.6系統(亜系統を含む)が検疫で17件、国内で256件登録されており (GISAID, 2023)、BA.2.75系統は国内でも増加傾向にある(国立感染症研究所, 2023)。BA.2.75系統はBA.2系統と比較して中和抗体からの逃避能が上昇しているとの報告もある(Cao Y. et al., 2022a) 。一方で、ワクチン接種による中和抗体からの逃避能は、BA.2系統と比較して同等、BA.4/BA.5系統に比して低いという報告もある (Shen X. et al., 2022)。BA.4.6系統はBA.4系統と比較して、中和抗体からの逃避能が上昇しているとの報告がある(Jian F et al., 2022)。BA.2.75系統はインド、BA.4.6系統は米国での検出状況からBA.2系統、BA.5系統に対する感染者数増加の優位性が示唆されたが、いずれの国においても9月以降、XBB系統やBQ.1系統への置き換わりが進んでいる(covSPECTRUM, 2022)。

 

オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について

  •   世界各地でBA.2系統やBA.5系統を起源とする亜系統が多数発生し、それらの有するスパイクタンパク質の変異から、中和抗体からの逃避能の上昇が懸念されている。米国ではXBB.1.5系統が、欧州ではBQ.1系統や、CH.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)、XBB.1.5系統が、アジアではBQ.1系統やXBB系統、オセアニアではBQ.1.1系統、CH.1.1系統が、これまでに各地で主流となっている系統に比較して、感染者数増加の優位性を見せている(covSPECTRUM, 2022)。一方で、これらの系統の割合の上昇傾向は地域によって異なっており、オミクロンの中で特定の亜系統が世界的に優位となる傾向は現在みられない。

  •   これらの亜系統が有するスパイクタンパク質における変異はR346、K444、V445、G446、N450、L452、N460、F486、F490、R493といった共通の部位に集中する傾向がみられており、ウイルスの収斂進化が起きているとの指摘がある(Cao Y, 2022b)。BA.5系統に比較して、BQ1.1系統、BM.1.1.1系統などは中和抗体からの逃避能が高く、特に比較された中ではXBB系統が最も逃避能が高いことが示唆されている(Cao. Y, 2022b)。ただし、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、これらの亜系統に関して重症度の上昇など、逃避能以外の形質が大きく変化しているという知見はない。

  •   これらの系統について、WHOはBA.2.3.20、BA.4.6、BA.2.75、XBBの各系統および、BA.5系統にN450D変異もしくはR346/K444/V445/N460のいずれかの箇所に変異を有するものを「Omicron subvariants under monitoring」に指定している。欧州疾病予防対策センター(ECDC)は、 BA.2.75系統及びその亜系統(BN.x系統、CH.x系統、その他の亜系統含む)、BQ.1系統、XBB系統を「Variants of interest」、BA.2.3.20系統、BF.7系統、BN.1系統(BA.2.75.5系統の亜系統)、CH.1.1系統を「Variants under monitoring」に指定している。英国健康安全保障庁(UKHSA)は、BA.2.12.1系統、BA.2.75系統、BA.4.6系統、XE系統、BQ.1系統、XBB系統を「Variants」、BA.2.75.2系統、BQ.1.1系統、BA.5.2.35系統、BN.1系統、BA.2.3.20系統を「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2022a、WHO, 2023b、UKHSA, 2022)。

  •   また、オミクロンとデルタの組換え体である、XBC系統についても、ECDCは「Variants under monitoring」、UKHSAは「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2022a、UKHSA, 2022)。

 BQ.1系統について

  •   2022年9月にBA.5.3系統の亜系統であるBQ.1系統がナイジェリアから報告され、またBQ.1系統にR346T変異が追加されたBQ.1.1系統などBQ.1系統の亜系統も報告されている(Cov-lineages.org, 2023)。 BQ.1系統とその亜系統(以下BQ.1系統)は2023年1月2日時点で、GISAIDに欧米を中心に106か国から215,537件が登録されている(covSPECTRUM, 2023)。2022年第50週(12月12日~12月18日)時点で、BQ.1系統は全世界で検出された株の44.9%を占め、割合は上昇傾向が続いている(WHO, 2023a)。米国では8月以降BQ.1系統の占める割合が上昇し2022年48週(11月27日~12月3日)には60%を占めたが、11月以降XBB.1.5系統の占める割合が増加しており、BQ.1系統の占める割合は減少すると予測されている (CDC, 2023a)。欧州では9月末頃から一部の国でBQ.1系統の占める割合が上昇し、スペイン、アイルランド、ポルトガル、フランス、スウェーデン、ベルギーなど複数の国でBQ.1系統が主流となっている(ECDC, 2022b)。日本では、2023年1月8日時点でBQ.1系統が検疫で89件、国内で3,995件検出されている(GISAID, 2023)。民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、2022年第43週(10月24日~30日)には1.4%であったが、第49週(12月5日~12月11日)には9.8%と割合が上昇しており(国立感染症研究所, 2022b、国立感染症研究所, 2022c)、2023年第1週(1月2日~1月8日)においては32%を占めると推定されているが、現在の検出割合は推定値を下回っている(国立感染症研究所, 2023)。

  •   BQ.1系統はBA.5系統から、スパイクタンパク質にK444T、N460K変異を獲得しており、中和抗体からの逃避能が上昇する可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体からの逃避能が高いことが示唆されている(Cao Y. et al., 2022b) 。一方で、ハムスターを用いた動物実験では、BQ.1.1系統の病原性はBA.5系統と同等またはより低かった(Ito J. et al., 2022)が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。感染者数増加の優位性もBA.5系統などと比較して高い可能性があるものの、ヒトにおける重症度の上昇を示唆する疫学的な所見はない (WHO, 2022)。従来株、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている(Kurhade C. et al.,2022)。一方で、オミクロン対応2価ワクチンは従来株ワクチンよりもBQ.1系統に対する免疫原性が高い可能性が示唆されている(Zou J. et al., 2022)。また、ワクチンの重症化予防効果には影響がないと予測されている (WHO, 2022)。ただし、治療薬やワクチンの有効性について、疫学的な評価はされていない。今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 XBB系統について

  •   2022年9月にシンガポールや米国からBJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体であるXBB系統が報告され、その後遡ってインドから8月に検出された検体の登録がされている。2023年1月2日時点で、GISAIDに87か国から30,755件が登録されており(亜系統を含む)、インド、バングラデシュ、シンガポールなどアジア各国のほか、米国、英国、オーストラリアなどから多く登録されている (covSPECTRUM, 2023)。2022年第50週時点で、XBB系統とその亜系統は全世界で検出された株の6.8%を占め、前週から割合が上昇している(WHO, 2023a)。シンガポールにおいては、9月末からXBB系統の占める割合が上昇したが、10月中旬以降下降し、同時期よりBQ.1系統の占める割合が上昇傾向にある(outbreak. info, 2023)。シンガポールの感染者数、入院者数は10月に増加した一方で、重症者数は横ばいであり、10月後半以降、感染者数は減少傾向にある。インドとバングラデシュではXBB系統が主流となっているが、感染者数の増加は見られていない(outbreak. info, 2023、Our World in Data, 2023)。一方で、米国では2022年11月からニューヨーク州など東海岸を中心にF486P変異を有するXBB系統の亜系統であるXBB.1.5系統が検出され始め、12月以降、他の系統に比べて感染者数増加の優位性(growth advantage)が顕著でありその割合が増加している。2023年第1週(1月1日〜7日)には米国で検出された株の27.6%を占めると予測されていることから(CDC, 2023a)、動向を注視していく必要がある。2023年1月10日時点で欧州、アジアなど34か国からGISAIDに5,247件の登録があるが、米国から4,308件のほか、英国430件、デンマーク114件、カナダ106件、ドイツ27件、フランス34件など、米国以外からの登録数は限られている(GISAID, 2023)。
    日本では2023年1月11日時点でXBB系統(亜系統を含む)が検疫で49件、国内で286件検出されており、うちXBB.1.5系統が国内で7件検出されている(GISAID, 2023)。また、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、XBB系統(亜系統を含む)は、2022年第43週(10月24日~30日)は0.25%、第48週(11月28日~12月4日)にも0.25%と横ばいで推移しており (国立感染症研究所, 2022b、国立感染症研究所, 2022c)、第52週(12月26日~2023年1月1日)においては1%を占めると推定されている(国立感染症研究所, 2023)。

  •   XBB系統はスパイクタンパク質の受容体結合部位中のR346T、N460K、F486Sなどのアミノ酸変異を有し、中和抗体からの逃避能が上昇する可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体からの逃避能が高いこと(Cao Y. et al., 2022b)や、従来株、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている(Kurhade C. et al.,2022)。一方で、オミクロン対応2価ワクチンは従来株ワクチンよりも免疫原性が高い可能性が示唆されている(Zou J. et al., 2022)が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、感染者数増加の優位性もBA.2.75系統やBA.4.6系統と比較して高い可能性があるものの、XBB系統が占める割合の上昇と感染者数の増加との明確な関連性はなく、臨床的な所見からは、重症度の上昇は示唆されていない(WHO, 2022)。再感染のリスクが高まる可能性も示唆されているが、オミクロン既感染者の再感染についての証拠はない(WHO, 2022)。また、治療薬やワクチンの有効性について、疫学的な評価はされていない。XBB.1.5系統はXBB系統と同等の免疫逃避能を持ち、かつACE2受容体への結合親和性がXBB系統より高いことから、感染・伝播性がより高くなっている可能性が指摘されている(Yue C. et al., 2023)。ただし、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、XBB.1.5系統の感染性や重症度に関する疫学的、臨床的な知見はない。
    WHOは2023年1月11日にXBB.1.5系統に関するRapid Risk Assessmentを発出した。この中で、今後XBB.1.5系統は世界的な症例数の増加に関与する可能性があるとしているが、他の変異株に対するXBB.1.5系統の感染者数増加の優位性の推定データが米国からのものに限られることから、今後、感染者数増加の優位性、免疫逃避能、重症度を評価するために、加盟国に対して更なる調査を呼びかけている(WHO, 2023c)。XBB.1.5系統は米国で増加しているものの、国内を含め米国以外の国での報告数が少ないことから、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 

中国における感染拡大と変異株の状況について

  •   中国から公式に報告されたCOVID-19の患者数は2022年11月から急激に増加し、12月2日に1日当たり40,790.57人(7日間移動平均)、人口100万人当たり28.61人となり、過去最高を記録した(Our World in Data, 2022) 。
    中国国家衛生健康委員会や中国CDCが報告する患者数は減少傾向だが、12月7日以降に実施されたPCR検査の実施方針の変更、無症状病原体保有者の報告の中止などのサーベイランスに関する方針変更により、これまでと同様の基準による感染者数の比較は困難である。中国政府からの公式情報では確認できないが、メディア情報では、地方都市で1日当たり数十万人の陽性例があるとする報道(Bloomberg, 2022a)や、中国国家衛生健康委員会の内部情報として、1日当たり3,700万人の感染者が出た可能性があるとする報道がある (Bloomberg, 2022b)。また、浙江省は発熱外来に1日当たり最大40万人以上の受診があり、12月25日時点で13,583例が治療中であると発表した(杭州市人民政府, 2022)。浙江省では6,595の発熱外来で1日60万人程度の患者に対応できるとしている。
    中国国家衛生委員会、中国CDCの公式発表では死者数の増加は見られていないが、中国では肺炎及び呼吸不全による死亡の場合のみCOVID-19の死亡者として計上しており(BBC, 2022) 、関連死等を含めた死亡者数は不明である。メディア情報では、火葬場が切迫しているといった報道(CNN, 2022)もみられるが、COVID-19の死亡者数の増加による影響だけかどうかは不明である。

  •   2022年12月1日から2023年1月9日までに、中国本土からGISAIDに622件のゲノム解析結果が登録された。うち、BF.7系統を除くBA.5.2系統が253件、BF.7系統(BA.5.2系統の亜系統)が201件、BQ.1系統が80件、BA.2.75系統が20件、XBB.1系統が17件であった(いずれも亜系統を含む)(GISAID, 2023)。また、XBB.1系統のうち3件がXBB.1.5系統であったが、いずれも輸入例であることがGISAIDの登録情報で判明している(GISAID, 2023)。GISAIDへの登録情報からはBF.7系統、BA.5.2系統が国内で主流となっていることと想定される。また、2022年12月12日付の現地メディアの報道によれば、中国CDCウイルス病研究所の所長のコメントとして、現在中国で主流となっている亜系統はBA.5.2系統とBF.7系統で、BA.5.2系統は31地区、BF.7系統は24地区で見つかっており、北部の北京ではBF.7系統が、南部の広州ではBA.5.2系統が主な変異株であるとしている(中国中央電視台, 2022a) 。
    WHOのウイルス進化技術諮問グループ(TAG-VE)の声明でも、中国とWHOの会議で提示された2000件以上のゲノム解析情報から、BF.7系統、BA.5.2系統が全体の97.5%を占め、また新規の変異株は確認されていないとしている。中国を含む全世界で引き続きゲノムサーベイランスでの監視の継続が重要としている(WHO, 2023d)。
    なお、中国で主流となっていると想定される亜系統に関して、日本では、BA.5.2系統は2022年5月ころから検出が始まり、以降2023年1月2日時点でGISAIDに亜系統を含めて13万件以上が登録されており、日本国内で検出されたBA.5系統のうち大半を占めていたが、BQ.1系統への置き換わりにより日本国内での検出数は減少傾向にある(covSPECTRUM, 2023)。また、BF.7系統は2022年6月に初めて検出され、2023年1月2日時点でGISAIDに2,541件が登録されている(covSPECTRUM, 2023)。民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは検体数全体に占めるBF.7系統の割合は10月以降緩徐に上昇し、第49週(11月28日~12月4日)時点で6.65%を占めているが、上昇の程度はBQ.1系統の方が顕著である(国立感染症研究所, 2022c)。
    BF.7系統は欧州では、ベルギー、デンマーク、ドイツ、米国などで2022年10月頃に一時的に検出割合の上昇がみられたものの、その後BQ.1系統への置き換わりが進み、各国で検出割合は下降している(covSPECTRUM, 2022)。BA.5系統に比較して感染者増加の優位性を見せていたものの、BQ.1系統、XBB系統に比較して感染者数増加の優位性があるとする知見はみられない。ECDCは今回中国で検出された株がすでにEU/EEA圏内で検出されている株であり、圏内で集団免疫が高まっていること、そのほかの変異株に置き換わりが進んでいることから、中国での症例の増加がEU/EEA圏内に影響を与えるとは想定されないとしている(ECDC, 2023)。

  •   今回の中国での感染者増加を受け、日本では2022年12月30日より中国(香港・マカオを除く)に渡航歴(7日以内)のある全ての入国者と、中国(香港・マカオを除く)からの直行便での入国者については全員入国時検査を実施する、との水際措置の見直しが実施された。以降、2023年1月5日までにこの臨時措置に基づいて検疫で実施された検査数は4,895件であった。このうち陽性となったのは408件(陽性率:8%)であった。
    また、12月30日に中国(香港、マカオを除く)滞在歴のある入国者から検出されたウイルスに対して実施されたゲノム解析では、63件のPANGO系統が判明した。内訳はBF.7系統が31件、BA.5.2系統が28件、BA.5.2.27系統が3件、BA.5.2.20系統が1件とすべてBA.5.2系統とその亜系統であった。日本国内においても、2023年1月8日時点でGISAIDへBA.5.2.27系統が428件、BA.5.2.20系統が1,108件登録されている(GISAID, 2023)。また、過去に報告されていない新たなオミクロン亜系統やその他の変異株は検出されなかった。

 

参考 主な変異株の各国における位置付け(2023 年 1月 9日時点)

系統名

感染研

WHO*

ECDC

UKHSA

CDC

B.1.1.529系統

 (オミクロン)

VOC

currently circulating VOC

※BA.5(+R346X or +K444X or +V445X or +N450D or  +N460X)注1), BA.2.75, BA.4.6, XBB, BA.2.3.20: Omicron subvariants under monitoring

VOC

※BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA.2.75, BQ.1, XBB: VOI

BA.2.3.20, BF.7, XBC注2), BN.1, CH.1.1: VUM

BA.1, BA.3, BA.2+L452X, XAK、B.1.1.529+R346X, B.1.1.259+K444X,N460X, B.1.1.529+N460X,F490X: de-escalated variant

VOC

※BA.1, BA.2, BA.4, BA.5:  VOC

BA2.12.1, BA.2.75, BA.4.6, XE, BQ.1, XBB: Variants
BA.2.75.2,  BQ.1.1, BA.5.2.35, BN.1,  XBC注2): signals in monitoring

VOC


VOC: variant of concern(懸念される変異株)、Omicron subvariants under monitoring(監視下のオミクロンの亜系統)、VOI: variant of interest (注目すべき変異株)、VUM: variant under monitoring(監視下の変異株)、de-escalated variants(警戒解除した変異株)、signals in monitoring (監視中のシグナル)

注1)BF.7系統、BQ.1系統などを含む

注2)オミクロンとデルタの組換え体

 

 

 引用文献

 

注意事項

  •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

第 24 報 2023/ 1/13  9:00時点

第 23 報 2022/12/16  9:00時点

第 22 報 2022/11/18  9:00時点

第 21 報 2022/10/21  9:00時点

第 20 報 2022/09/08  9:00時点

第 19 報 2022/07/27  9:00時点

第 18 報 2022/07/01  9:00時点

第 17 報 2022/06/03  9:00時点

第 16 報 2022/04/26  9:00時点

第 15 報 2022/03/28 9:00 時点 注)タイトル変更
「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」

第 14 報 2021/10/28  12:00 時点

第 13 報 2021/08/28  12:00 時点

第 12 報 2021/07/31  12:00 時点

第 11 報 2021/07/17  12:00 時点

第 10 報 2021/07/06  18:00 時点

第  9報 2021/06/11 10:00 時点

第  8報 2021/04/06 17:00 時点

>第  7報 2021/03/03 14:00 時点

第  6報 2021/02/12 18:00 時点

第  5報 2021/01/25 18:00 時点 注)タイトル変更
「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」

第  4報 2021/01/02 15:00 時点

第  3報 2020/12/28 14:00 時点

第  2報 2020/12/25 20:00 時点 注)第1報からタイトル変更
「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」

第 1報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

 

国立感染症研究所

2022年 12月16日 9:00 時点

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変異株の概況

  •   現在、流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第22報時点と同様に、B.1.1.529系統とその亜系統(オミクロン)が支配的な状況が世界的に継続している。2022年11月5日~12月5日、世界でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルスの87.8%をオミクロンが占め、残る12.2%も配列が割り当てられていないもののオミクロンに該当すると推定され、その他の系統はほとんど検出されていない(WHO, 2022a)。オミクロンの中では多くの亜系統が発生しているが、BA.5系統が70.1%、BA.2系統が10.5%、 BA.4系統が2.0%、(いずれも亜系統を含む)と、引き続き世界的にBA.5系統が流行の主流となっており(WHO, 2022a)、日本国内でも2022年7月頃にBA.2系統からBA.5系統に置き換わりが進み、BA.5系統が主流となったのち、10月以降BQ.1系統(BA.5.3系統の亜系統)の占める割合が上昇傾向にある。また、国内外でオミクロンの亜系統間のさまざまな組換え体も報告されている。世界保健機関(WHO)は、これらのB.1.1.529系統とその亜系統および組換え体を全て含めて「オミクロン」と総称する一方、いくつかの亜系統や組換え体(BA.2.3.20、BA.4.6、BA.2.75、XBBの各系統および、BA.5系統にN450D変異もしくはR346/K444/V445/N460のいずれかの箇所に変異を有するもの)を「監視下のオミクロンの亜系統(Omicron subvariants under monitoring)」としている。
  •   BQ.1系統、XBB系統(BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体)をはじめ、特徴的なスパイクタンパク質の変異がみられ、ワクチン接種や感染免疫による中和抗体からの逃避や、感染者数増加の優位性が示唆される亜系統が複数報告されている。局所的に優位な増加をみせる亜系統も報告されているが、特定の変異株が世界的に優勢となる兆候は見られない。
  •   現時点では、オミクロンと総称される系統の中で、主に免疫逃避に寄与するがその他の形質は大きく変化していない変異株が生じていると考えられる。世界の人口の免疫状態や、介入施策も多様になる中で、変異株の性質が流行の動態に直接的に寄与する割合は低下していると考えられる。変異株の発生動向や病原性・毒力(virulence)、感染・伝播性、ワクチン・医薬品への抵抗性、臨床像等の形質の変化を継続して監視し、迅速にリスクと性質を評価し、それらに応じた介入施策が検討される必要がある。 

 

第22報からの変更点

  •   各変異株の国内外での発生状況の更新
  •   BQ.1系統、XBB系統に関する知見の更新

 

 

BA.5系統について

  •   BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカ共和国で検出された。以降BA.5系統は世界的に検出数が増加し、2022年42週(10月17日~23日)時点で BA.5系統とその亜系統が全世界で登録された株の74.5%を占め、主流となっている (WHO, 2022a)。
  •   国内では2022年6月以降、BA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進行した。BA.5系統は2022年第17週(4月18日~24日)に日本から初めてGISAIDに登録され、第27週(7月4日~10日)に50%を、第28週(7月11日~17日)に75%を、30週(7月25日~31日)に90%を超えた(covSPECTRUM, 2022)。国内民間検査機関2社に集められた週800検体のゲノム解析結果を用いたゲノムサーベイランスでも、2022年22週(5月23日~29日)に初めて検出されたのち、第27週に50%を、第28週に75%を、30週に90%を超えた(国立感染症研究所, 2022)。

 

BA.2.75系統、BA.4.6系統について

  •   12月1日時点でGISAIDに、BA.2.75系統が82か国から40,320件(BA.2.75系統の亜系統を含む)、BA.4.6系統が92か国から55,058件(BA.4.6系統の亜系統を含む)登録されている(covSPECTRUM, 2022)。日本では、12月7日時点で、BA.2.75系統が検疫で169件、国内で769件、BA.4.6系統が検疫で16件、国内で198件登録されている (GISAID, 2022)。BA.2.75系統はBA.2系統と比較して中和抗体からの逃避能が上昇しているとの報告もある(Cao Y. et al., 2022a) 。一方で、ワクチン接種による中和抗体からの逃避能は、BA.2系統と比較して同等、BA.4/BA.5系統に比して低いという報告もある (Shen X. et al., 2022)。BA.4.6系統はBA.4系統と比較して、中和抗体からの逃避能が上昇しているとの報告がある(Jian F et al., 2022)。BA.2.75系統はインド、BA.4.6系統は米国での検出状況からBA.2系統、BA.5系統に対する感染者数増加の優位性が示唆されたが、いずれの国においても9月以降、XBB系統やBQ.1系統への置き換わりが進んでいる(covSPECTRUM, 2022)。

 

オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について

  •   世界各地でBA.2系統やBA.5系統を起源とする亜系統が多数発生し、それらの有するスパイクタンパク質の変異から、中和抗体からの逃避能の上昇が懸念されている。米国や欧州ではBQ.1系統や、CH.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)が、アジアではBQ.1系統やXBB系統、オセアニアではBQ.1.1系統、CH.1.1系統が、これまでに各地で主流となっている系統に比較して、感染者数増加の優位性を見せている(covSPECTRUM, 2022)。一方で、これらの系統の割合の上昇傾向は地域によって異なっており、オミクロンの中で特定の亜系統が世界的に優位となる傾向は現在みられない。
  •   これらの亜系統が有するスパイクタンパク質における変異はR346、K444、V445、G446、N450、L452、N460、F486、F490、R493といった共通の部位に集中する傾向がみられており、ウイルスの収斂進化が起きているとの指摘がある(Cao Y, 2022b)。BA.5系統に比較して、BQ1.1系統、BM.1.1.1系統などは中和抗体からの逃避能が高く、特に比較された中ではXBB系統が最も逃避能が高いことが示唆されている(Cao. Y, 2022b)。ただし、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、これらの亜系統に関して重症度の上昇など、逃避能以外の形質が大きく変化しているという知見はない。スパイクタンパク質の主要箇所の変異が多いほど感染者数増加の優位性が高まるとの指摘もあり、BQ.1.1系統とXBB系統は特に感染者数増加の優位性が高い系統と指摘する専門家もいる(Wensleers T, 2022)が、世界の人口の免疫状態や、介入施策も多様になる中で、変異株の性質が流行の動態に直接的に寄与する割合は低下していることが考えられる。
  •   これらの系統について、WHOはBA.2.3.20、BA.4.6、BA.2.75、BJ.1、XBBの各系統および、BA.5系統にN450D変異もしくはR346/K444/V445/N460のいずれかの箇所に変異を有するものを「Omicron subvariants under monitoring」に指定している。欧州疾病予防対策センター(ECDC)は、 BA.2.75系統、BQ.1系統、XBB系統を「Variants of interest」、BA.2.3.20系統、BF.7系統を「Variants under monitoring」に指定している。英国健康安全保障庁(UKHSA)は、BA.2.12.1系統、BA.2.75系統、BA.4.6系統、XE系統、BQ.1系統、XBB系統を「Variants」、BA.2.75.2系統、BQ.1.1系統、BA.5.2.35系統、BN.1系統、BA.2.3.20系統を「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2022a、WHO, 2022b、UKHSA, 2022)。
  •   また、オミクロンとデルタの組換え体である、XBC系統についても、ECDCは「Variants under monitoring」、UKHSAは「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2022a、UKHSA, 2022)。

 BQ.1系統について

  •   2022年9月にBA.5.3系統の亜系統であるBQ.1系統がナイジェリアから報告され、またBQ.1系統にR346T変異が追加されたBQ.1.1系統などBQ.1系統の亜系統も報告されている(Cov-lineages.org, 2022)。 BQ.1系統とその亜系統(以下BQ.1系統)は12月1日時点で、GISAIDに欧米を中心に85か国から74,590件が登録されている(covSPECTRUM, 2022)。2022年第46週時点で、BQ.1系統は全世界で検出された株の36.2%を占め、割合は上昇傾向が続いている(WHO, 2022a)。米国では8月以降BQ.1系統の占める割合が上昇し2022年46週(11月13日~19日)には43%を占め、今後もBQ.1系統が占める割合が上昇することが見込まれている。一方で、感染者数は8月以降減少し、10月以降おおむね横ばいで経過している(CDC, 2022a)。欧州では9月末頃から一部の国でBQ.1系統の占める割合が上昇し、スペイン、アイルランド、ポルトガル、フランス、ルクセンブルク、アイスランド、ベルギーでは2022年45週頃にはBQ.1系統が主流となっている。一方で、いずれの国も感染者数は 9月から10月頃を境に減少に転じており、その後フランスのみ11月中旬以降再度増加傾向にある。また、フランスを含めいずれの国も死亡者数の増加は見られない(ECDC, 2022b、Our World in Data, 2022)。日本では、12月7日時点でBQ.1系統が検疫で37件、国内で680件検出されており(GISAID, 2022)、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでも、第43週(10月24日~30日)には1.4%であったが、第46週(11月14日~20日)には6.3%と割合が上昇しており(国立感染症研究所, 2022b、国立感染症研究所, 2022c)、第50週(12月5日~11日)においては34%を占めると推定されている(国立感染症研究所, 2022d)。
  •   BQ.1系統はBA.5系統から、スパイクタンパク質にK444T、N460K変異を獲得しており、中和抗体からの逃避能が上昇する可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体からの逃避能が高いことが示唆されている(Cao Y. et al., 2022b) 。一方で、ハムスターを用いた動物実験では、BQ.1.1系統の病原性はBA.5系統と同等またはより低かった(Ito J. et al., 2022)。ただし、いずれも査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。感染者数増加の優位性もBA.5系統などと比較して高い可能性があるものの、ヒトにおける重症度の上昇を示唆する疫学的な所見はない (WHO, 2022c)。従来株、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている(Kurhade C. et al.,2022)一方で、オミクロン対応2価ワクチンは従来株ワクチンよりもBQ.1系統に対する免疫原性が高い可能性が示唆されている(Zou J. et al., 2022)。また、ワクチンの重症化予防効果には影響がないと予測されている (WHO, 2022c)。ただし、治療薬やワクチンの有効性について、疫学的な評価はされていない。今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 XBB系統について

  •   2022年9月にシンガポールや米国からBJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体であるXBB系統が報告され、その後遡ってインドから8月に検出された検体の登録がされている。12月1日時点で、GISAIDに66か国から9,875件が登録されており、インド、バングラデシュ、シンガポールなどアジア各国のほか、米国、英国、オーストラリアなどから多く登録されている(covSPECTRUM, 2022)。2022年第46週時点で、XBB系統とその亜系統(以下XBB系統)は全世界で検出された株の5.0%を占め、前週から割合が上昇している(WHO, 2022a)。シンガポールにおいては、9月末からXBB系統の占める割合が上昇したが、10月中旬以降下降し、同時期よりBQ.1系統の占める割合が上昇傾向にある(outbreak. info, 2022)。感染者数、入院者数は10月に増加した一方で、重症者数は横ばいであり、10月後半以降シンガポールの感染者数は減少傾向にある。インドとバングラデシュではXBB系統が主流となっているが、感染者数の増加は見られていない(outbreak. info, 2022、Our World in Data, 2022)。日本では12月7日時点でXBB系統が検疫で27件、国内で94件検出されており(GISAID, 2022)、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、第43週(10月24日~30日)は0.25%、第46週(11月14日~20日)は0.39%とおおむね横ばいで推移しており(国立感染症研究所, 2022b、国立感染症研究所, 2022c)、第50週(12月5日~11日)においては2%を占めると推定されている(国立感染症研究所, 2022d)。検疫での検体陽性者の滞在国は大部分が南アジア、東南アジアであり、世界的な検出状況を反映しているものと考えられる。
  •   XBB系統はスパイクタンパク質の受容体結合部位中のR346T、N460K、F486Sなどのアミノ酸変異を有し、中和抗体からの逃避能が上昇する可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体からの逃避能が高いこと(Cao Y. et al., 2022b)や、従来株、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている(Kurhade C. et al.,2022)一方で、オミクロン対応2価ワクチンは従来株ワクチンよりも免疫原性が高い可能性が示唆されている(Zou J. et al., 2022)。ただし、いずれも査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、感染者数増加の優位性もBA.2.75系統やBA.4.6系統と比較して高い可能性があるものの、XBB系統が占める割合の上昇と感染者数の増加との明確な関連性はなく、臨床的な所見からは、重症度の上昇は示唆されていない(WHO, 2022c)。再感染のリスクが高まる可能性も示唆されているが、オミクロン既感染者の再感染についての証拠はない(WHO, 2022c)。また、治療薬やワクチンの有効性について、疫学的な評価はされていない。国内外での報告数が少ないことから、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 BS.1系統について

  •   検疫において、2022年8月下旬に日本に到着した入国者3名の陽性検体から、BA.2.3.2系統(BA.2系統の亜系統)が起源と考えられるが、これまでに報告のない変異を有するウイルスが検出され、BS.1系統と命名された(GitHub, 2022)。当該3名の陽性者の行動歴にはいずれもベトナムへの渡航があったが到着日および到着空港は異なっており、明らかな疫学リンクは確認できない。また、BS.1系統に変異が加わったBS.1.1系統、BS.1.2系統が報告されている(Cov-lineages.org, 2022)。12月7日時点でBS.1系統(亜系統を含む)は検疫で39件、国内で42件の報告がある(GISAID, 2022)。また、12月1日時点で日本以外にオーストラリア、ベトナム、韓国など計24か国からGISAIDに323件が登録されている(covSPECTRUM, 2022)。
  •   BS.1系統はBA.2.3.2系統の有する変異に加え、スパイクタンパク質に3つのアミノ酸の挿入、Y144欠失、R346T、L452R、N460R、G476S、R493Q (reversion)およびS640Fの特異的変異を有している。これらスパイクタンパク質の変異による抗体結合部位への構造の影響に伴い、中和抗体からの逃避能の上昇が示唆される。また、ORF6に27266〜27300欠失によるフレームシフトが認められることから、自然免疫応答への影響が示唆される。ただし、国内外での報告数が少ないことから、感染者数増加の優位性、重症度、治療薬やワクチンの有効性への影響についての明らかな知見はなく、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 

参考 主な変異株の各国における位置付け(2022 年 12月12日時点)

系統名

感染研

WHO*

ECDC

UKHSA

CDC

B.1.1.529系統

 (オミクロン)

VOC

currently circulating VOC

※BA.5(+R346X or +K444X or +V445X or +N450D or  +N460X), BA.2.75, BA.4.6, XBB, BA.2.3.20: Omicron subvariants under monitoring

VOC

※BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA.2.75, BQ.1, XBB: VOI

BA.2.3.20, BF.7, XBC注1): VUM

BA.1, BA.3, BA.2+L452X, XAK、B.1.1.529+R346X, B.1.1.259+K444X,N460X, B.1.1.529+N460X,F490X: de-escalated variant

VOC

※BA.1, BA.2, BA.4, BA.5:  VOC

BA2.12.1, BA.2.75, BA.4.6, XE, BQ.1, XBB: Variants
BA.2.75.2,  BQ.1.1, BA.5.2.35, BN.1,  XBC注1): signals in monitoring

VOC


VOC: variant of concern(懸念される変異株)、Omicron subvariants under monitoring(監視下のオミクロンの亜系統)、VOI: variant of interest (注目すべき変異株)、VUM: variant under monitoring(監視下の変異株)、de-escalated variants(警戒解除した変異株)、signals in monitoring (監視中のシグナル)


注1)
オミクロンとデルタの組換え体

 

 

 引用文献

 

注意事項

  •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

第 23 報 2022/12/16  9:00時点

第 22 報 2022/11/18  9:00時点

第 21 報 2022/10/21  9:00時点

第 20 報 2022/09/08  9:00時点

第 19 報 2022/07/27  9:00時点

第 18 報 2022/07/01  9:00時点

第 17 報 2022/06/03  9:00時点

第 16 報 2022/04/26  9:00時点

第 15 報 2022/03/28 9:00 時点 注)タイトル変更

          「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」

第 14 報 2021/10/28  12:00 時点

第 13 報 2021/08/28  12:00 時点

第 12 報 2021/07/31  12:00 時点

第 11 報 2021/07/17  12:00 時点

第 10 報 2021/07/06  18:00 時点

第  9報 2021/06/11 10:00 時点

第  8報 2021/04/06 17:00 時点

第  7報 2021/03/03 14:00 時点

第  6報 2021/02/12 18:00 時点

第  5報 2021/01/25 18:00 時点 注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」

第  4報 2021/01/02 15:00 時点

第  3報 2020/12/28 14:00 時点

第  2報 2020/12/25 20:00 時点 注)第1報からタイトル変更

「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」

第 1報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

 

国立感染症研究所

2022年 11月18日 9:00 時点

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変異株の概況

  •   現在、流行している新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第21報時点と同様に、B.1.1.529系統とその亜系統(オミクロン)が支配的な状況が世界的に継続している。2022年10月7日~11月7日、世界でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルスの99.6%をオミクロンが占め、その他の系統はほとんど検出されていない(WHO, 2022a)。オミクロンの中では多くの亜系統が発生しているが、BA.5系統が74.5%、BA.4系統が4.1%、BA.2系統が7.3%(いずれも亜系統を含む)と、引き続き世界的にBA.5系統が流行の主流となっており(WHO, 2022a)、日本国内でも2022年7月頃にBA.2系統からBA.5系統に置き換わりが進み、現在もBA.5系統が主流となっている。また、国内外でオミクロンの亜系統間のさまざまな組換え体も報告されている。世界保健機関(WHO)は、これらのB.1.1.529系統とその亜系統および組換え体を全て含めて「オミクロン」と総称する一方、いくつかの亜系統や組換え体(BA.2.3.20、BA.4.6、BA.2.75、BJ.1、XBBの各系統および、BA.5系統にN450D変異もしくはR346/K444/V445/N460のいずれかの箇所に変異を有するもの)を「監視下のオミクロンの亜系統(Omicron subvariants under monitoring)」としている。
  •   BQ.1系統(BA.5.3系統の亜系統)、XBB系統(BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体)をはじめ、特徴的なスパイクタンパク質の変異がみられ、ワクチン接種や感染免疫による中和抗体からの逃避や、感染者数増加の優位性が示唆される亜系統が複数報告されている。局所的に優位な増加をみせる亜系統も報告されているが、特定の変異株が世界的に優勢となる兆候は見られない。これらの変異株の今後の動向に関する一致した見解は得られておらず、引き続き国内外での動向の注視、知見の収集とともに、国内でのゲノムサーベイランスを継続していく必要がある。

 

 

BA.5系統について

  •   BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカ共和国で検出された。以降BA.5系統は世界的に検出数が増加し、2022年42週(10月17日~23日)時点で BA.5系統とその亜系統が全世界で登録された株の74.5%を占め、主流となっている (WHO, 2022a)。
  •   国内では2022年6月以降、BA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進行した。BA.5系統は2022年第17週(4月18日~24日)に日本から初めてGISAIDに登録され、第27週(7月4日~10日)に50%を、第28週(7月11日~17日)に75%を、30週(7月25日~31日)に90%を超えた(covSPECTRUM, 2022)。国内民間検査機関2社に集められた週800検体のゲノム解析結果を用いたゲノムサーベイランスでも、2022年22週(5月23日~29日)に初めて検出されたのち、第27週に50%を、第28週に75%を、30週に90%を超えた (国立感染症研究所, 2022)。

 

BA.2.75系統、BA.4.6系統について

  •   11月1日時点でGISAIDに、BA.2.75系統が71か国から26,602件(BA.2.75系統の亜系統を含む)、BA.4.6系統が88か国から48,878件(BA.4.6系統の亜系統を含む)登録されている(covSPECTRUM, 2022)。日本では、11月14日時点で、BA.2.75系統が検疫で140件、国内で315件、BA.4.6系統が検疫で16件、国内で171件登録されている (GISAID, 2022)。BA.2.75系統はBA.2系統と比較して中和抗体からの逃避能が上昇しているとの報告もある(Cao Y. et al., 2022a) 一方で、ワクチン接種による中和抗体からの逃避能は、BA.2系統と比較して同等、BA.4/BA.5系統に比して低いという報告もある (Shen X. et al., 2022)。BA.4.6系統はBA.4系統と比較して、中和抗体からの逃避能が上昇しているとの報告がある(Jian F. et al., 2022)。BA.2.75系統はインド、BA.4.6系統は米国での検出状況からBA.2系統、BA.5系統に対する感染者数増加の優位性が示唆されたが、いずれの国においても9月以降、XBB系統やBQ.1系統への置き換わりが進んでいる(covSPECTRUM, 2022)。

 

オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について

  •   世界各地でBA.2系統やBA.5系統を起源とする亜系統が多数発生し、それらの有するスパイクタンパク質の変異から、中和抗体からの逃避能の上昇が懸念されている。米国や欧州ではBQ.1系統やBQ.1.1系統、BA.2.3.20系統が、アジアではBQ.1系統、BQ.1.1系統、XBB系統、BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)、BA.2.3.20系統が、これまでに各地で主流となっている系統に比較して、感染者数増加の優位性を見せている(covSPECTRUM, 2022)。一方で、これらの系統の割合の上昇傾向は地域によって異なっており、オミクロンの中で特定の亜系統が世界的に優位となる傾向は現在見られてない。
  •   これらの亜系統が有するスパイクタンパク質における変異はR346、K444、V445、G446、N450、L452、N460、F486、F490、R493といった共通の部位に集中する傾向がみられており、ウイルスの収斂進化が起きているとの指摘がある(Cao Y, 2022b)。BA.5系統に比較して、BQ1.1系統、BM.1.1.1系統などは中和抗体からの逃避能が高く、特に比較された中ではXBB系統が最も逃避能が高いことが示唆されている(Cao. Y, 2022b)。ただし、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、スパイクタンパク質の主要箇所の変異が多いほど感染者数増加の優位性が高まるとの指摘もあり、BQ.1.1系統とXBB系統は特に感染者数増加の優位性が高い系統と指摘する専門家もいる(Wensleers T, 2022)。
  •   これらの系統について、WHOはBA.2.3.20、BA.4.6、BA.2.75、BJ.1、XBBの各系統および、BA.5系統にN450D変異もしくはR346/K444/V445/N460のいずれかの箇所に変異を有するものを「Omicron subvariants under monitoring」に指定している。欧州疾病予防対策センター(ECDC)は、BA.2.75系統、BQ.1系統を「Variants of interest」、オミクロンのうちR346に変異を有するもの、オミクロンのうちK444、N460の両方に変異を有するもの、オミクロンのうちN460、F490の両方に変異を有するもの(XBB系統とその他の亜系統を含む)を「Variants under monitoring」に指定している。英国健康安全保障庁(UKHSA)は、BA.2.12.1系統、BA.2.75系統、BA.4.6系統、XE系統、BQ.1系統、XBB系統を「Variants」、BA.4.7系統、BA.2.75.2系統、BF.7系統、BS.1系統、BQ.1.1系統、BA.2.3.20系統を「Signals in monitoring」に指定している(ECDC, 2022a、WHO, 2022b、UKHSA, 2022)。
  •   また、UKHSAはオミクロンとデルタの組換え体である、XBC系統についても、「Signals in monitoring」に指定している(UKHSA, 2022)。

 XBB系統について

  •   2022年9月にシンガポールや米国からBJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体であるXBB系統が報告され、その後遡ってインドから8月に検出された検体の登録がされている。11月7日時点で、GISAIDに44国から3,622件が登録されており、インド、バングラデシュ、シンガポールで検出数の増加がみられるほか、米国、英国、デンマークなどの欧米からも登録がされている(covSPECTRUM, 2022)。2022年第42週時点で、XBB系統とその亜系統(以下XBB系統)は全世界で検出された株の2.0%を占め、前週から割合が上昇している(WHO, 2022a)。シンガポールにおいては、9月末からXBB系統の占める割合が上昇するとともに感染者数、入院者数が増加した一方で、重症者数は横ばいであった。10月15日に、シンガポール保健省はXBB系統の感染・伝播性が既存の変異株と同等以上と考えられ、再感染のリスクが高まる可能性があるものの、重症化につながっている証拠はないことを述べている (Ministry of Health Singapore, 2022)。なお、10月後半以降シンガポールの感染者数は減少傾向にあり、インドとバングラデシュでは感染者数の増加は見られていない(Our World in Data, 2022)。日本では11月14日時点でXBB系統が検疫で17件、国内で23件検出されている(GISAID, 2022)。検疫での検体陽性者の滞在国は大部分が南アジア、東南アジアであり、世界的な検出状況を反映しているものと考えられる。
  •   XBB系統はスパイクタンパク質の受容体結合部位中のR346T、N460K、F486Sなどのアミノ酸変異を有し、中和抗体からの逃避能が上昇する可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体からの逃避能が高いこと(Cao Y. et al., 2022b)や、従来型、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されている(Kurhade C. et al.,2022)が、いずれも査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、感染者数増加の優位性もBA.2.75系統やBA.4.6系統と比較して高い可能性があるものの、XBB系統が占める割合の上昇と感染者数の増加との明確な関連性はなく、疫学・臨床的な所見からは、重症度の上昇は示唆されていない(WHO, 2022c)。再感染のリスクが高まる可能性も示唆されているが、オミクロン既感染者の再感染についての証拠はない(WHO, 2022c)。また、治療薬やワクチンの有効性について、疫学的な評価はされていない。国内外での報告数が少ないことから、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 BQ.1系統について

  •   2022年9月にBA.5.3系統の亜系統であるBQ.1系統がナイジェリアから報告され、またBQ.1系統にR346T変異が追加されたBQ.1.1系統などBQ.1系統の亜系統も報告されている(Cov-lineages.org, 2022)。 BQ.1系統とその亜系統(以下BQ.1系統)は11月7日時点で、GISAIDに69か国から27,582件が登録されており、英国、フランス、デンマークなどの欧州および米国から多く登録されている(covSPECTRUM, 2022)。2022年第42週時点で、BQ.1系統は全世界で検出された株の13.4%を占め、前週から割合が上昇している(WHO, 2022a)。米国では8月以降BQ.1系統が上昇し、今後もBQ.1系統が占める割合が上昇することが見込まれている。一方で感染者数は8月以降減少し、10月以降おおむね横ばいで経過している(CDC, 2022a)。欧州では英国、フランス、デンマーク、スペイン、イタリア、ベルギーなどで9月末頃からBQ.1系統の占める割合が上昇しているが、いずれの国も感染者数は 9月に増加を示したのち10月中旬以降減少している(ECDC, 2022b、covSPECTRUM, 2022、Our World in Data, 2022)。日本では、11月14日時点でBQ.1系統が検疫で35件、国内で99件検出されている(GISAID, 2022)。
  •   BQ.1系統はBA.5系統から、スパイクタンパク質にK444T、N460K変異を獲得しており、中和抗体からの逃避能が上昇する可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体からの逃避能が高いことが示唆されている(Cao Y. et al., 2022b) が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。感染者数増加の優位性もBA.5系統などと比較して高い可能性があるものの、疫学・臨床的な所見からは、重症度の上昇は示唆されていない(WHO, 2022c)。従来型、オミクロン対応2価の両ワクチンの感染予防効果が低下する可能性が示唆されているが、重症化予防効果には影響がないと予測されている (WHO, 2022c)。また、治療薬やワクチンの有効性について、疫学的な評価はされていない。今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 BS.1系統について

  •   検疫において、2022年8月下旬に日本に到着した入国者3名の陽性検体から、BA.2.3.2系統(BA.2系統の亜系統)が起源と考えられるが、これまでに報告のない変異を有するウイルスが検出され、BS.1系統と命名された(GitHub, 2022)。当該3名の陽性者の行動歴にはいずれもベトナムへの渡航があったが到着日および到着空港は異なっており、明らかな疫学リンクは確認できない。また、BS.1系統にK356T変異が加わったBS.1.1系統が報告されている(Cov-lineages.org, 2022)。11月14日時点でBS.1系統は検疫で12件、国内で2件、BS.1.1系統は検疫で26件、国内で9件の報告がある(GISAID, 2022)。11月7日時点で、BS.1系統、BS.1.1系統を合わせて、日本以外にオーストラリア、ベトナム、韓国など計19か国からGISAIDに198件が登録されている(covSPECTRUM, 2022)。
  •   BS.1系統はBA.2.3.2系統の有する変異に加え、スパイクタンパク質に3つのアミノ酸の挿入、Y144欠失、R346T、L452R、N460R、G476S、R493Q (reversion)およびS640Fの特異的変異を有している。これらスパイクタンパク質の変異による抗体結合部位への構造の影響に伴い、中和抗体からの逃避能の上昇が示唆される。また、ORF6に27266〜27300欠失によるフレームシフトが認められることから、自然免疫応答への影響が示唆される。ただし、国内外での報告数が少ないことから、感染者数増加の優位性、重症度、治療薬やワクチンの有効性への影響についての明らかな知見はなく、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 

参考 主な変異株の各国における位置付け(2022 年 11月10日時点)

系統名

感染研

WHO*

ECDC

UKHSA

CDC

B.1.1.529 系統

 (オミクロン)

VOC

currently circulating VOC

※BA.5 (+R346X or +K444X or +V445X or +N450D or  +N460X), BA.2.75, BJ.1, BA.4.6, XBB, BA.2.3.20: Omicron subvariants under monitoring

VOC

BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA.2.75, BQ.1: VOI

BA.1.1.529+R346X,  B.1.1.529+K444X+ N460X, B.1.1.529+N460X+F490X注1): VUM

BA.1, BA.3, BA.2+L452X, XAK: de-escalated variant

VOC

BA.1, BA.2, BA.4, BA.5:  VOC

BA2.12.1, BA.2.75, BA.4.6, XE, BQ.1, XBB: Variants
BA.4.7, BA.2.75.2, BF.7, BS.1, BQ.1.1, BA.2.3.20, XBC注2): signals in monitoring

VOC


VOC: variant of concern(懸念される変異株)、Omicron subvariants under monitoring(監視下のオミクロンの亜系統)、VOI: variant of interest (注目すべき変異株)、VUM: variant under monitoring(監視下の変異株)、de-escalated variants(警戒解除した変異株)、signals in monitoring (監視中のシグナル)


注1)BQ.1系統とその他の亜系統を含む

注2)オミクロンとデルタの組換え体

 

 

 引用文献

 

注意事項

  •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

第 22 報 2022/11/18  9:00時点
第 21 報 2022/10/21  9:00時点

第 20 報 2022/09/08  9:00時点

第 19 報 2022/07/27  9:00時点

第 18 報 2022/07/01  9:00時点

第 17 報 2022/06/03  9:00時点

第 16 報 2022/04/26  9:00時点

第 15 報 2022/03/28 9:00 時点 注)タイトル変更

          「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」

第 14 報 2021/10/28  12:00 時点

第 13 報 2021/08/28  12:00 時点

第 12 報 2021/07/31  12:00 時点

第 11 報 2021/07/17  12:00 時点

第 10 報 2021/07/06  18:00 時点

第  9報 2021/06/11 10:00 時点

第  8報 2021/04/06 17:00 時点

第  7報 2021/03/03 14:00 時点

第  6報 2021/02/12 18:00 時点

第  5報 2021/01/25 18:00 時点 注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」

第  4報 2021/01/02 15:00 時点

第  3報 2020/12/28 14:00 時点

第  2報 2020/12/25 20:00 時点 注)第1報からタイトル変更

「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」

第 1報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

 

国立感染症研究所

2022年 10月21日 9:00 時点

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変異株の概況

  •   現在、流行する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第20報時点と同様に、B.1.1.529系統とその亜系統(オミクロン)注)が支配的な状況が世界的に継続している。世界でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルスの99.9%をオミクロンが占め、その他の系統はほとんど検出されていない(WHO, 2022a)。オミクロンの中では多くの亜系統が発生しているが、BA.5系統が76.2%、BA.4系統が7.0%、BA.2系統が3.9%(いずれも亜系統を含む)と、引き続き世界的にBA.5系統が主流となっており(WHO, 2022a)、日本国内でも2022年7月頃にBA.2系統からBA.5系統に置き換わりが進み、BA.5系統が主流がとなっている。また、国内外でオミクロンの亜系統間のさまざまな組換え体も報告されている。世界保健機関(WHO)は、これらのB.1.1.529系統とその亜系統および組換え体を全て含めて「オミクロン」と総称する一方、いくつかの亜系統および組換え体(BA.2.3.20、BA.4.6、BA.2.75、BJ.1、XBBの各系統及び、BA.5系統にN450D変異もしくはR346/K444/V445/N460のいずれかの箇所に変異を有するもの)を「監視下のオミクロンの亜系統(Omicron subvariants under monitoring)」としている。
  •   2022年5月に米国で初めて報告されたBA.4.6系統(BA.4系統の亜系統)、2022年6月にインドで初めて報告されたBA.2.75系統(BA.2系統の亜系統)をはじめ、特徴的なスパイクタンパク質の変異がみられ、ワクチン接種や感染免疫による中和抗体からの逃避や、感染者数増加の優位性が示唆される亜系統が複数報告されている。局所的に優位な増加をみせる亜系統も報告されているが、特定の変異株が世界的に優勢となる兆候は見られない。これらの変異株の今後の動向に関する一致した見解は得られておらず、引き続き国内外での動向の注視、知見の収集とともに、国内でのゲノムサーベイランスを継続していく必要がある。

注) VariantのPango系統やNextstrainクレードといった分類が複雑で覚えにくく、初めて報告された地名などが呼称として使用されていることが、差別や偏見につながることも懸念して、2021年5月より、WHOは代表的なvariantに対してギリシャ文字の呼称を定めている。既報において、”variant”の訳語として「変異株」、WHOが呼称を定めたvariantについてそれを用いて「〇〇株」と称してきた(例:B.1.1.7系統=アルファ株、B.1.1.529系統=オミクロン株)。しかし、B.1.1.529系統が主流となって以降、亜系統が広く分岐し、さらにWHOが用いる呼称で総称される系統・亜系統の抗原性等の性質が多様化しており、遺伝的に同一、又はほぼ均一なウイルスの集合体を示す「株」を、WHOが用いる呼称に対応して用いることが適さなくなってきている。そのため、第21報以降、本文書においてはWHOが呼称を定めた各variantについて「アルファ」「オミクロン」のように表現することとした。
なお、「〇〇株」は一般に広く使用されている用語となっており、通称として引き続き用いることを妨げるものではない。

 

 

BA.5系統について

  •   BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカ共和国で検出された。以降BA.5系統は世界的に検出数が増加し、2022年37週(9月12日~18日)時点で BA.5系統とその亜系統が全世界で検出された株の76.2%を占め、主流となっている (WHO, 2022a)。
  •   国内では2022年6月以降、BA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進行した。BA.5系統は2022年第17週(4月18日~24日)に日本から初めてGISAIDに登録され、第27週(7月4日~10日)に50%を、第28週(7月11日~17日)に75%を、30週(7月25日~31日)に90%を超えた(covSPECTRUM, 2022)。国内民間検査機関2社に集められた週800検体のゲノム解析結果を用いたゲノムサーベイランスでも、2022年22週(5月23日~29日)に初めて検出されたのち、第27週に50%を、第28週に75%を、30週に90%を超えた (国立感染症研究所, 2022)。

 

BA.2.75系統、BA.4.6系統について

  •   2022年6月にインドから報告されたBA.2.75系統は10月10日時点で、GISAIDに59か国から15,817件(BA.2.75系統の亜系統を含む)が登録されており、日本でも10月17日時点で検疫で129件、国内で137件のBA.2.75系統(亜系統含む)の登録がある (GISAID, 2022)。BA.2系統と比較して中和抗体からの逃避能が上昇しているとの報告がある(Cao Y. et al., 2022a)が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。インドでの検出状況からBA.2系統、BA.5系統に対する感染者数増加の優位性が示唆されたが、シンガポールではBA.5系統からBA.2.75系統への置き換わりが進んでいた中、別の変異株への置き換わりが進んでいる(covSPECTRUM, 2022)。
  •   2022年5月に米国から報告されたBA.4.6系統は10月10日時点で、GISAIDに79か国から36,818件が登録されており(covSPECTRUM, 2022)、日本では10月17日時点で検疫で12件、国内で136件のBA.4.6系統(亜系統含む)が登録されている (GISAID, 2022)。BA.4系統と比較して、ワクチン接種による中和抗体からの逃避が示唆され、ヒト血清を用いた抗原性の評価では、BA.4.6系統の中和活性はBA.4/BA.5系統に比べて2.4~2.6倍低下することが示唆されている(Jian F, 2022)。米国では6月以降感染者数の増加とともにBA.4.6系統の割合が上昇したが、8月以降感染者数は減少し、BA.4.6系統の割合はおおむね横ばいとなっている (CDC, 2022a)。そのほか、カナダ、英国でBA.4.6系統の割合が上昇傾向にあり(covSPECTRUM. 2022)、いずれも感染者数は9月以降微増しているが(Our World in Data, 2022)、BA.4.6系統の割合の増加による感染者数や死亡者数への影響は現時点では不明である。
  •   BA.2.75系統、BA.4.6系統ともに、他の系統と比較した感染・伝播性、重症度に関する明らかな知見はなく、疫学的な評価については今後の各国での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 

オミクロンの新規亜系統の世界的な発生状況について

  •   世界各地でBA.2系統やBA.5系統を起源とする亜系統が多数発生し、それらの有するスパイクタンパク質の変異から、中和抗体からの逃避能の上昇が懸念されている。
    米国や欧州ではBA.5.3系統の亜系統であるBQ.1系統とBQ.1.1系統や、BA.2.3.20系統が、アジアではBQ.1系統とBQ.1.1系統や、BJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体であるXBB系統、BJ.1系統、BA.2.3.20系統が、各地で主流となっている系統に比較して、感染者数増加の優位性を見せている(covSPECTRUM, 2022)。一方で、これらの系統の割合の上昇傾向は地域によって異なっており、オミクロンの中で特定の亜系統が世界的に優位となる傾向は見られない。
  •   これらの亜系統が有する変異はR346、K444、V445、G446、N450、L452、N460、F486、F490、R493といった共通の部位に集中する傾向がみられており、ウイルスの収斂進化が起きているとの指摘がある(Cao Y, 2022b)。BA.5系統に比較してBQ1.1系統、BM.1.1.1系統などのワクチン接種や感染免疫による中和抗体からの逃避能が高く、特にXBB系統が最も逃避能が高いことが示唆された(Cao. Y, 2022b)。ただし、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、スパイクタンパク質の主要箇所の変異が多いほど感染者数増加の優位性が高まるとの指摘があり、BQ.1.1系統とXBB系統は特に感染者数増加の優位性が高い系統と指摘する専門家もいる (Wensleers T, 2022)。
  •   これらの系統について、WHOはBA.2.3.20、BA.4.6、BA.2.75、BJ.1、XBBの各系統及び、BA.5系統にN450D変異もしくはR346/K444/V445/N460のいずれかの箇所に変異を有するもの)を「Omicron subvariants under monitoring」、ECDCはBA.4系統、BA.5系統にそれぞれR346に変異を有するもの、オミクロンのうちK444、N460の両方に変異を有するもの( BQ.1系統とその他の亜系統を含む)、オミクロンのうちN460、F490の両方に変異を有するもの(XBB系統とその他の亜系統を含む)を「Variants under monitoring」、UKHSAはBA.2.12.1系統、BA.2.75系統、BA.4.6系統, XE系統をVariants、BA.3系統、BA.4.7系統、BA.2.75.2系統、BF.7系統、BJ.1系統、BQ.1系統、BQ.1.1系統をSignals in monitoringに指定している(ECDC, 2022、WHO, 2022b、UKHSA, 2022)。

 XBB系統について

  •   2022年9月にシンガポールからBJ.1系統(BA.2.10系統の亜系統)とBM.1.1.1系統(BA.2.75.3系統の亜系統)の組換え体であるXBB系統が報告され、10月10日時点で、GISAIDに21か国から562件が登録されており、バングラデシュ、インド、シンガポールで検出数の増加がみられる(covSPECTRUM, 2022)。シンガポールにおいては、9月末より感染者数が増加傾向を示している一方で、重症者数の増加は見られていない 。また、BA.5.2系統からBA2.75系統へと置き換わりが進んでいた中でXBB系統の割合の上昇が見られている。XBB系統の割合の上昇による感染者数の増加への影響については定まった見解はないが、シンガポール保健省は10月15日にXBB系統が国内で優勢となる中で症例数が増加しており、それに比例して入院患者数は増加していること、一方で、重症者数は横ばいでありXBB系統が重症化につながっている証拠はないこと、XBB系統の感染・伝播性が既存の変異株と同等以上と考えられること、XBB系統が再感染の増加に影響を及ぼしている可能性があることを述べている (Ministry of Health Singapore, 2022)。なお、インドでは感染者数の増加は見られない(Our World in Data, 2022)。日本では10月17日時点でXBB系統(亜系統含む)が検疫で7件、国内で0件検出されている(GISAID, 2022)。これらの検体陽性者の滞在国は大部分がインドであり、世界的な検出状況を反映しているものと考えられる。
  •   XBB系統はスパイクタンパク質の受容体結合部位にR346T、N460K、F486Sなどのアミノ酸変異を有し、中和抗体からの逃避の可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体からの逃避能が高いことが示唆されている(Cao Y. et al., 2022b)が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。また、報告数の増加の状況などから、感染者数増加の優位性もBA.2.75系統やBA.4.6系統と比較して高い可能性があるものの、重症度の疫学・臨床的な評価はされていない。国内外での報告数が少ないことから、感染者数増加の優位性、重症度、治療薬の有効性への影響についての明らかな知見はなく、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 BQ.1系統、BQ.1.1系統について

  •   2022年9月にBA.5.3系統の亜系統であるBQ.1系統がナイジェリアから報告され、またBQ.1系統にR346T変異が追加されたBQ.1.1系統も報告されている(Cov-lineages.org, 2022)。BQ.1系統及びその亜系統(BQ.1.1系統を含む)は10月10日時点で、GISAIDに48か国から3,284件が登録されており、英国、フランス、デンマークなど欧州および米国から多く登録されている(covSPECTRUM, 2022)。米国では8月以降BQ.1系統、BQ.1.1系統の割合が上昇し、今後もBQ.1系統、BQ.1.1系統が占める割合が上昇する懸念がされている。一方で感染者数は8月以降減少傾向にある(CDC, 2022a)。英国では米国同様8月以降BQ.1系統、BQ.1.1系統の割合が上昇しており、感染者数は6月から7月にピークを形成したのち、9月以降再度微増している(covSPECTRUM, 2022、Our World in Data, 2022)。その他、欧州ではフランス、ドイツ、イタリアなどで9月以降感染者数の増加がみられるが、各国におけるBQ.1系統及びBQ.1.1系統の占める割合には差がみられる(covSPECTRUM, 2022、Our World in Data, 2022)。BQ.1系統、BQ.1.1系統の割合の増加による感染者数や死亡者数への影響は現時点では不明である。日本では、10月17日時点でBQ.1系統もしくはBQ.1.1系統が検疫で11件、国内で6件検出されている(GISAID, 2022)。
  •   BQ.1系統はBA.5系統から、スパイクタンパク質にK444T、N460K変異を獲得しており、ワクチン接種や感染免疫による中和抗体からの逃避の可能性が示唆されている。また、実験的にも中和抗体からの逃避能が高いことが示唆されている(Cao Y. et al., 2022b) が、査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。国内外での報告数が少ないことから、感染者数増加の優位性、重症度、治療薬の有効性への影響についての明らかな知見はなく、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 BS.1系統について

  •   検疫において、2022年8月下旬に日本に到着した入国者3名の陽性検体からBA.2.3.2系統(BA.2系統の亜系統)が起源と考えられるが、これまでに報告のない変異を有するウイルスが検出され、BS.1系統と命名された(GitHub, 2022)。当該3名の陽性者の行動歴にはいずれもベトナムへの渡航があったが到着日および到着空港は異なっており、明らかな疫学リンクは確認できない。また、BS.1系統にK356T変異が加わったBS.1.1系統が報告されている(Cov-lineages.org, 2022)。10月17日時点でBS.1系統は検疫で11件、国内で1件、BS.1.1系統は検疫で23件、国内で0件の報告がある(GISAID, 2022)。10月10日時点で、日本以外にオーストラリア、ベトナム、シンガポールなど計10か国からGISAIDに100件が登録されている(covSPECTRUM, 2022)。
  •   BS.1系統はBA.2.3.2系統の有する変異に加え、スパイクタンパク質に3つのアミノ酸の挿入、Y144欠失、R346T、L452R、N460R、G476S、R493Q (reversion)およびS640Fの特異的変異を有している。これらスパイクタンパク質の変異による抗体結合部位への構造の影響に伴い、中和抗体からの逃避が示唆される。また、ORF6においては、27266〜27300欠失によるフレームシフトが認められることから、自然免疫応答への影響が示唆される。ただし、国内外での報告数が少ないことから、感染者数増加の優位性、重症度、治療薬の有効性への影響についての明らかな知見はなく、今後の国内外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 

参考 主な変異株の各国における位置付け(2022 年 10月 17日時点)

系統名

感染研

WHO*

ECDC

UKHSA

CDC

B.1.1.529 系統

 (オミクロン)

VOC

currently circulating VOC

※BA.5 (+R346X or +K444X or +V445X or +N450D or  +N460X), BA.2.75, BJ.1, BA.4.6, XBB, BA.2.3.20: Omicron subvariants under monitoring

VOC

BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA.2.75: VOI

BA.4+R346X, BA.5+R346X, B.1.1.529+K444X+ N460X注1), B.1.1.529+N460X+F490X注2): VUM

BA.1, BA.3, BA.2+L452X, XAK: de-escalated variant

VOC

BA.1, BA.2, BA.4, BA.5:  VOC

BA2.12.1, BA.2.75, BA.4.6, XE: Variants
BA.3, BA.4.7, BA.2.75.2, BF.7, BJ.1, BQ.1.1, BQ.1: signals in monitoring

VOC


VOC: variant of concern(懸念される変異株)、Omicron subvariants under monitoring(監視下のオミクロンの亜系統)、VUM: variant under monitoring(監視下の変異株)、VOI: variant of interest (注目すべき変異株)、VBM: variant being monitored(監視中の変異株)、de-escalated variants(警戒解除した変異株)、currently circulating(現在流行中)、previously circulating(かつて流行していた)、signals in monitoring (監視中のシグナル)


注1)BQ.1系統とその他の亜系統を含む

注2)XBB系統とその他の亜系統を含む

 

 

 引用文献

 

注意事項

  •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

第 21 報 2022/10/21  9:00時点

第 20 報 2022/09/08  9:00時点

第 19 報 2022/07/27  9:00時点

第 18 報 2022/07/01  9:00時点

第 17 報 2022/06/03  9:00時点

第 16 報 2022/04/26  9:00時点

第 15 報 2022/03/28 9:00 時点 注)タイトル変更

          「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」

第 14 報 2021/10/28  12:00 時点

第 13 報 2021/08/28  12:00 時点

第 12 報 2021/07/31  12:00 時点

第 11 報 2021/07/17  12:00 時点

第 10 報 2021/07/06  18:00 時点

第  9報 2021/06/11 10:00 時点

第  8報 2021/04/06 17:00 時点

第  7報 2021/03/03 14:00 時点

第  6報 2021/02/12 18:00 時点

第  5報 2021/01/25 18:00 時点 注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」

第  4報 2021/01/02 15:00 時点

第  3報 2020/12/28 14:00 時点

第  2報 2020/12/25 20:00 時点 注)第1報からタイトル変更

「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」

第 1報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

 

国立感染症研究所

2022 年 9月8日 9:00 時点

PDF

変異株の概況

  •   現在、流行する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第19報時点と同様に、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が支配的な状況が世界的に継続している。世界でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルスのほぼ全てをオミクロン株が占め、その他の系統はほとんど検出されていない。オミクロン株の中では多くの亜系統が発生しており、BA.5系統が78.2%(亜系統を含む)、BA.2系統が2.7%(亜系統を含む)と、全世界的にBA.5系統が主流となっている(WHO, 2022a)。国内でも、2022年2月頃に全国的にデルタ株からオミクロン株の亜系統であるBA.1系統、その後BA.2系統へと置き換わりがみられ、現在はBA.5系統とその亜系統へ置き換わった。また、国内外でオミクロン株の亜系統間のさまざまな組換え体が報告されている。世界保健機関(WHO)は、これらのB.1.1.529系統とその亜系統および組換え体を全て含めて「オミクロン株」と総称する一方、いくつかの亜系統(BA.4、BA.5、BA.2.12.1、BA.2.75系統)を「監視下のオミクロン株の亜系統(Omicron subvariants under monitoring)」としている。
  •   BA.5系統はBA.2系統と比較して感染者増加の優位性や免疫逃避が指摘されている。BA.5系統の重症度に関しては、現段階で一致した見解は得られておらず、さらなる知見の収集が必要である。
  •   2022年5月に米国で初めて報告されたBA.4.6系統(BA.4系統の亜系統)、および6月にインドで初めて報告されたBA.2.75系統(BA.2系統の亜系統)にスパイクタンパク質の変異がみられ、ワクチン接種による中和抗体からの逃避への影響が示唆されている。ただし、いずれも一部の国からの検出に限られることに注意が必要である。
  •   一部の国で割合が増加している系統が報告されているが、世界的なBA.5系統からの置き換わりを示す兆候は見られていない。引き続き国内外での動向を注視するとともに、国内でのゲノムサーベイランスを継続していく必要がある。
  •   オミクロン株の組換え体は、BA.5系統への置き換わりとともに世界的に検出数が減少しているが、ほとんどの組換え体の形質は評価されておらず、分類法も含めて今後の国内外の動向を注視する。
  •   B.1.1.7 系統(アルファ株)およびB.1.617.2系統(デルタ株)については、世界的に検出数は継続して減少している。国内外ではわずかに検出が見られるものの、国内ではGISAID データベース上では最終検出日が、それぞれ、2021年10月1日、 2022 年5月13日と3カ月以上にわたって検出が報告されていない。そのため、「監視下の変異株(VUM)」の位置付けから除外する。

 

オミクロン株の亜系統について

 

 BA.4系統、BA.5系統について

  •   BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカ共和国で検出された。BA.4/BA.5系統が有する遺伝子変異はその多くがBA.2系統と共通しており、BA.2系統との違いは、BA.4/BA.5系統はスパイクタンパク質に69/70欠失、L452R、F486V変異を有していることである。また、BA.4系統の亜系統としてBA.4.1~4.8系統があり、BA.5系統の亜系統としてBA.5.1~5.10系統およびBA.5.2.1系統の亜系統であるBF.x系統、BA.5.3.1系統の亜系統であるBE.x系統がある(Cov-lineages.org, 2022)。
  •   BA.5系統は世界的に検出数が増加し、2022年33週(8月14日~20日)時点で BA.5系統とその亜系統が全世界で検出された株の78.2%を占め、BA.2系統から置き換わりが進んでいる(WHO, 2022a)。一方、BA.4系統は2022年28週に12%を占めたのをピークに減少に転じている(covSPECTRUM, 2022)。
  •   米国疾病管理予防センター(CDC)、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は、BA.4/BA.5系統をオミクロン株の他の亜系統と同様にVOCに含めている(CDC. 2022、ECDC, 2022b)。WHOはオミクロン株全体をVOCに分類しつつ、特にBA.4/BA.5系統をOmicron subvariants under monitoringに分類している(WHO, 2022c)。英国健康安全保障庁(UKHSA)は、2022年5月20日にBA.4/BA.5系統をともにvariantsからVOCへ分類を変更している(UKHSA, 2022a)。
  •   BA.5系統流行初期の南アフリカ共和国およびポルトガルにおける、BA.2系統からの置き換わりの状況から、BA.5系統はBA.2系統に比較して12~13%の成長率の上昇が指摘され(ECDC, 2022a)、その後、全世界的にBA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進んだが、感染者数の増加については国によって差が見られる。ただし、各国で検査方針の変更等が行われており、各国の感染者数と死亡者数の変化の解釈には注意を要する。
  •   BA.4系統、BA.5系統はL452R変異をはじめとするスパイクタンパク質の変異を有しており、中和抗体の結合に影響を与える可能性が示唆されている。L452の変異により免疫逃避の可能性が示唆されている(Cao Y. et al., 2022b)ほか、ワクチン接種者およびオミクロン株感染者の血清を用いた抗原性評価では、BA.4/BA.5系統に対する抗体価はBA.1系統と比較して2.9倍から3.3倍、BA.2系統と比較して1.6倍から4.3倍の中和活性の低下が指摘されているが、査読を受けていないプレプリント論文の報告であることに注意が必要である(Hachmann NP. et al., 2022)。また、抗体医薬のうちsotrovimab、bamlanivimab、casirivimab、etesevimab、imdevimab、tixagevimabの中和活性の低下、cilgavimabへの抵抗性の上昇が示唆されている (WHO, 2022b)
  •   国内におけるBA.1/BA.2系統流行時期とBA.5系統流行時期における新型コロナワクチンの有効性を検討した暫定報告では、3回接種により、2回接種後に経時的に低下した発症予防効果が回復することから、当該報告では3回目接種後の有効性の持続期間は明らかでないものの、BA.5系統に対する発症予防効果についての3回目接種の有効性が示唆されている(国立感染症研究所, 2022b)。
  •   BA.2系統ウイルス株にオミクロン株の亜系統のスパイクタンパク質の遺伝子を置換した遺伝子組換えキメラウイルスを用いたハムスター感染実験の結果、BA.4/BA.5系統のスパイクを持つウイルスの病原性がBA.2系統のスパイクを持つウイルスよりも高くなったこと、および培養細胞を用いた実験で、BA.4/BA.5系統のスパイクを持つウイルスがBA.2系統のスパイクだけを持つウイルスよりも効率的にヒト肺胞上皮細胞で複製されることが報告されている(Kimura I et al., 2022)。また、ハムスターの肺組織での炎症反応がBA.1/BA.2系統と比較して強いことを示した報告(Tamura T et al., 2022) 、ハムスターの肺組織におけるBA.4/BA.5系統の病原性はBA.2系統と同等であることを示した報告(Kawaoka Y et al., 2022)がある。ただし、いずれも動物、培養細胞を用いた実験での観察であり、ヒトで臨床的に観察されたものではないこと、査読を受けていないプレプリント論文の報告であることに注意が必要である。
  •   国内では2022年6月以降、BA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進行した。BA.5系統は2022年第17週(4月18日~24日)に日本から初めてGISAIDに登録され、第27週(7月4日~10日)に50%を、第28週(7月11日~17日)に75%を超えた(covSPECTRUM, 2022)。国内民間検査機関2社に集められた週800検体のゲノム解析結果を用いたゲノムサーベイランスでも、2022年22週(5月23日~29日)に初めて検出されたのち、第27週に50%を、第28週に75%を超えた (国立感染症研究所, 2022a)。

 

 BA.2系統の亜系統について

  •   BA.2系統はさらに亜系統のBA.2.1系統からBA.2.82系統まで分類されている(Cov-lineages.org, 2022)が、これらのBA.2系統の亜系統間での形質の差異は、BA.2.12.1系統、BA.2.75系統を除き、明らかではない。なお、2022年8月時点で全世界的にBA.2系統からBA.5系統への置き換わっており、BA.2.75系統では感染者数増加の優位性、免疫逃避が懸念されているが、それ以外のBA.2系統の亜系統の検出数が減少している。
  •   BA.2系統の亜系統であるBA.2.75系統が2022年6月にインドから報告された。 9月1日時点で、28か国からGISAIDに3,321件(BA.2.75系統の亜系統を含む)が登録されており、このうち2,321件はインドからの登録である(Outbreak.info, 2022)。WHOはBA.2.75系統を、VOCの中で伝播性の増加の兆候や他の「懸念される変異株(VOC)」と比較して優位性を疑うアミノ酸変異を有するものとして、「監視下のオミクロン株の亜系統(Omicron subvariants under monitoring)」に分類しており(WHO, 2022c)、ECDCは「注目すべき変異株(VOI)」に分類している(ECDC, 2022b)。なお、GISAIDの登録情報では、日本から9月5日時点で検疫で70件、国内で65検体のBA.2.75系統が登録されている。国内症例において特筆すべき地域特性はなく、ゲノム情報においても感染リンクを示す情報/証拠はない(GISAID, 2022)
  •   BA.2.75系統は、BA.2系統と比較して、スパイクタンパク質にK147E、W152R、F157L、I210V、G257S、G339H、G446S、N460Kの各変異を有しており、BA.1系統、BA.2系統などで見られたQ493R変異は有さない (Outbreak info, 2022)。これらスパイクタンパク質の変異は抗体結合部位の構造に影響している可能性が高く、例えばG446S変異はBA.1系統と共通する変異で、ワクチン接種による中和抗体からの逃避への影響が示唆される。ヒト血清を用いた抗原性の評価では、BA.2.75系統の中和抗体からの逃避は、BA.2.12.1系統より強く、BA.4/BA.5系統に比べて弱いことが示唆されている(Cao Y. et al., 2022a)。また、臨床分離株を用いたハムスター感染実験の結果、BA.2.75系統とBA.5系統の病原性は同等で、BA.2系統よりも高いことを示した報告(Saito A et al., 2022)、BA.2.75系統のハムスターの肺組織での複製能がBA.2系統、BA.5系統より高く、限局性ウイルス性肺炎が観察されたとの報告がある(Uraki R et al., 2022)。ただし、いずれも動物を用いた実験での観察であり、ヒトで臨床的に観察されたものではないこと、査読を受けていないプレプリント論文の報告であることに注意が必要である。
  •   インドではBA.2系統とその亜系統が主流であったが、2022年5月以降BA.5系統の割合が上昇しつつあった。そのような傾向の中で、6月以降BA.2.75系統の割合が上昇し、2022年第34週(8月15日~21日)にはGISAIDに登録された検体の約76%を占めている。インド以外ではシンガポールで報告数の増加が見られているが、BA.5系統が主流となったのちにBA.2.75系統への置き換わりが進んでいる国は見られない(covSPECTRUM, 2022)が、BA.5系統に対するBA.2.75系統の感染者増加の優位性の有無を注視している。インドの感染者数は6月から7月にかけて微増したが、8月以降減少に転じ、死者数も6月以降微増にとどまっている。他の系統と比較した感染伝播性、重症度に関する知見はまだ十分ではないが、インドでの実効再生産数はBA.5系統に比較して1.2倍程度と感染伝播性が高い可能性が示唆されている(Saito A. et al., 2022)。ただし、査読を受けていないプレプリントの論文であることに注意が必要である。疫学的な評価については、引き続き各国での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。
  •   2022年3月に米国で初めて報告されたBA.2.12.1系統は、その後米国内での検出割合が上昇し、6月上旬に米国全体で検出された株の約60%を占める状態となったが、7月にはBA.5系統に置き換わった (CDC, 2022)。また、米国以外での検出割合の増加はみられず、世界的にも報告は減少している。
  •   検疫において、2022年8月下旬に日本に到着した入国者3名の陽性検体からBA.2.3.2系統(BA.2系統の亜系統)が起源と考えられるが、これまでに報告のない変異を有するウイルスが検出された。当該3名の陽性者の行動歴にはいずれもベトナムへの渡航があったが到着日および到着空港は異なっており、明らかな疫学リンクは確認できない。 BA.2.3.2系統は国内では2022年第5週(1月24日~30日)に初めて検出され、9月5日時点で555件が日本からGISAIDに登録されている。国外では、全世界で2,318件の登録があり、ベトナムからが618件と最も多いが、2022年7月以降ベトナムからの登録は減少している。 今回検出されたウイルスは、BA.2.3.2系統の有する変異に加え、スパイクタンパク質に3つのアミノ酸の挿入、Y144欠失、R346T、L452R、N460R、G476S、R493Q (reversion)およびS640Fの特異的変異を有している。これらスパイクタンパク質の変異による抗体結合部位への構造の影響に伴い、中和抗体からの逃避が示唆される。またORF6においては、27266〜27300欠失によるフレームシフトが認められることから、自然免疫応答への影響が示唆される。ただし、この3検体を除き報告がないことから、感染者増加の優位性、重症度についての知見はなく、今後の国内、国外での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 

 BA.4.6系統について

  •   BA.4系統の亜系統であるBA.4.6系統が2022年5月に米国から報告された。 9月1日時点で、60か国からGISAIDに12,298件が登録されており、このうち米国からの登録が7,242件ともっとも多くを占める (Outbreak.info, 2022)。米国ではBA.2.12.1系統からBA.5系統への置き換わりが進行しており、BA.5系統が主流となっているが、その中でBA.4.6系統は微増し、9月3日時点で8.4%を占めると推定されている(CDC, 2022)。 なお、GISAIDの登録情報では、日本からは9月5日時点で、検疫で6件、国内で60件のBA.4.6系統が登録されている。国内症例において特筆すべき地域特性はなく、ゲノム情報においても感染リンクを示す情報/証拠はない(GISAID, 2022)。
  •   BA.4.6系統は、BA.4系統と比較して、スパイクタンパク質にR346T変異を有しており、スパイクタンパク質の変異による抗体結合部位の構造への影響に伴いワクチン接種による中和抗体からの逃避が示唆される。ヒト血清を用いた抗原性の評価では、BA.4.6系統の中和活性はBA.4/BA.5系統に比べて2.4~2.6倍低下することが示唆されている(Jian F. et al., 2022)。ただし、査読を受けていないプレプリントの論文であることに注意が必要である。
  •   米国では2022年5月以降、感染者数、死亡者数ともに横這いとなっており、BA.4.6系統の増加の感染者数や死亡者数への影響は現時点では不明である。その他、他の系統と比較した感染性、伝播性、重症度に関する明らかな知見はなく、疫学的な評価については、今後の各国での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。

 

組換え体について

  •   SARS-CoV-2を含めRNAウイルスにおいて遺伝子組換え( 2種あるいはそれ以上の同種または近縁ウイルス間で、遺伝子の一部が組換わったゲノムを有するウイルスが生成すること)が起こりうることはよく知られている。異なる系統のウイルスが宿主に同時感染することで生じると考えられるが、SARS-CoV-2についても異なる系統間の組換え体と考えられるウイルスが検出される事例がある。
  •   これまで、アルファ株(B.1.1.7系統)とB.1.177系統の組換え体(XA系統)、B.1.634系統とB.1.631系統の組換え体(XB系統)、アルファ株(B.1.1.7系統)とデルタ(AY.29系統)の組換え体(XC系統)、デルタ株とオミクロン株の組換え体(XD系統等)、オミクロン株の亜系統同士の組換え体(XE系統等)にPANGO系統が付与されてきている(Cov-lineages.org, 2022)。ただし、国際的なデータベースではこれまでの変異に基づく分類の在り方が検討されているところであり、PANGO系統がまだ付与されていない、組換え箇所等が異なるオミクロン株の組換え体が、日本を含め世界各地から報告されている。
  •   組換え体のうち、XE系統はBA.2系統と比較して12.6%の成長率の上昇が示唆されており、UKHSAはXE系統をvariantに指定している(UKHSA, 2022b)が、2022年4月以降世界的にBA.5系統への置き換わりが進む中で、XE系統を含む組換え体のGISAIDへの登録数は減少している(Outbreak.info, 2022)。また、これ以外に感染拡大の懸念がある組換え体は報告されていない。世界全体で組換え体の検出数が少ないため、引き続き諸外国の状況や知見等の収集、ゲノムサーベイランスによる監視を継続する。

 

参考 主な変異株の各国における位置付け(2022 年 9月 5日時点)

系統名

感染研

WHO*

ECDC

UKHSA

CDC

B.1.1.529 系統

(オミクロン株)

VOC

currently circulating VOC

※BA.4, BA.5, BA.2.12.1, BA.2.75: Omicron subvariants under monitoring

VOC

※BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA.2+L452X, BA.2.75: VOI

XAK, BA.4+R346X, BA.5+R346X: VUM

BA.1, BA.3: VOM

VOC

※BA.1, BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA2.12.1, BA.2.75: Variants
BA.3: signals in monitoring

VOC


VOC: variant of concern(懸念される変異株)、Omicron subvariants under monitoring(監視下のオミクロン株の亜系統)、VUM: variant under monitoring(監視下の変異株)、VOI: variant of interest (注目すべき変異株)、VBM: variant being monitored(監視中の変異株)、de-escalated variants(警戒解除した変異株)、currently circulating(現在流行中)、previously circulating(かつて流行していた)、signals in monitoring (監視中のシグナル)

 

 

 引用文献

注意事項

  •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

第 20 報 2022/09/08  9:00時点

第 19 報 2022/07/27  9:00時点

第 18 報 2022/07/01  9:00時点

第 17 報 2022/06/03  9:00時点

第 16 報 2022/04/26  9:00時点

第 15 報 2022/03/28 9:00 時点 注)タイトル変更

          「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」

第 14 報 2021/10/28  12:00 時点

第 13 報 2021/08/28  12:00 時点

第 12 報 2021/07/31  12:00 時点

第 11 報 2021/07/17  12:00 時点

第 10 報 2021/07/06  18:00 時点

第  9報 2021/06/11 10:00 時点

第  8報 2021/04/06 17:00 時点

第  7報 2021/03/03 14:00 時点

第  6報 2021/02/12 18:00 時点

第  5報 2021/01/25 18:00 時点 注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」

第  4報 2021/01/02 15:00 時点

第  3報 2020/12/28 14:00 時点

第  2報 2020/12/25 20:00 時点 注)第1報からタイトル変更

「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」

第  1報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

 

国立感染症研究所

2022 年 7月27日 9:00 時点

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変異株の概況

  •   新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第18報時点と同様に、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が支配的な状況が世界的に継続している。世界でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルス株のほぼ全てをオミクロン株が占め、その他の変異株はほとんど検出されていない。オミクロン株の中では、BA.2系統、BA.2.12.1系統、BA.4系統、BA.5系統がそれぞれ2.61%、4.51%、10.57%、53.59%を占め、BA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進んでいる(WHO, 2022a)。国内では、2022年2月頃に全国的にデルタ株からオミクロン株のBA.1系統、その後BA.2系統へと置き換わりがみられ、現在はBA.5系統とその亜系統へ置き換わったと推定される。また、国内外でオミクロン株間のさまざまな組換え体が報告されている。世界保健機関(WHO)はこれらのB.1.1.529系統の亜系統であるBA.x系統および組換え体を全て含めて「オミクロン株」と総称する一方、いくつかの亜系統(BA.4、BA.5、BA.2.12.1、BA.2.9.1、BA.2.11、BA.2.13、BA.2.75)を「懸念される変異株(VOC)における監視下の系統(VOC-LUM; Variants of Concern linages under monitoring)」としている。
  •   BA.4系統、BA.5系統はBA.2系統と比較して感染者増加の優位性や免疫逃避が指摘されており、世界的にBA.2系統からの置き換わりが進んでいる。BA2.12.1系統は米国でBA.2系統からの置き換わりがみられたが、その後さらにBA.5系統への置き換わりが進んでいる。BA.4系統、BA.5系統、BA2.12.1系統いずれも既存のオミクロン株と比較して重症度の上昇につながる証拠はみられない。
  •   BA.2.75系統は2022年6月にインドで初めて報告されたBA.2系統の亜系統である。スパイクタンパク質の変異からワクチン接種による中和抗体からの逃避への影響が示唆されているが、世界的に検出数が少なく、今後の国内外での動向を注視する必要がある。
  •   オミクロン株の組換え体は、ほとんどの形質がまだ明らかでは無く、分類法も含めて今後の国内外の動向を注視する。

 

オミクロン株の亜系統について

 

BA.2系統について

  •   BA.2系統はさらに亜系統のBA.2.1系統からBA.2.81系統まで分類されている(Cov-lineages.org, 2022)が、これらの亜系統間での形質の差異は、BA.2.12.1を除き、明らかではない。なお、2022年6月から7月にかけてBA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進行し、7月4週時点で90%を超えたと推定される。
  •   BA.2系統の亜系統であるBA.2.12.1系統が2022年3月中旬に米国東海岸で検出され、以降米国内での検出割合が上昇し、6月上旬に米国全体で検出された株の約60%を占める状態となったが、BA.5系統の割合の増加とともに、BA.2.12.1系統の占める割合は低下している (CDC, 2022)。BA.2系統に比較して25%程度の感染者増加の優位性が示唆されているが(New York State, 2022)、既存のオミクロン株と比較した重症度の上昇の証拠はみられない(WHO, 2022a)。
  •   BA.2系統の亜系統であるBA.2.75系統が2022年6月にインドから報告され、7月26日時点で、17か国からGISAIDに470件が登録された。このうち337件はインドからの登録である(covSPECTRUM, 2022)。WHOはBA.2.75系統を、VOCの中で伝播性の増加の兆候や他の懸念される変異株(VOC)と比較して優位性を疑うアミノ酸変異を有するものとして、VOC-LUMに分類しており(WHO, 2022b)、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は注目すべき変異株(VOI)に分類している(ECDC, 2022b)。なお、GISAIDの登録情報では、BA.2.75系統は、日本では7月26日時点で検疫で2検体および国内12検体が検出されている。国内検体で採取された日付が最も早いものは7月1日だった。国内症例において特筆すべき地域特性はなく、ゲノム情報においても感染リンクを示す情報/証拠はない。
  •   BA.2.75系統は、BA.2系統と比較して、スパイクタンパク質にK147E、W152R、F157L、I210V、G257S、G339H、G446S、N460Kの各変異を有しており、BA.1系統、BA.2系統などで見られたQ493R変異は有さない (GitHub, 2022)。これらスパイクタンパク質の変異は抗体結合部位の構造に影響している可能性が高く、例えばG446S変異はBA.1系統と共通する変異で、ワクチン接種による中和抗体からの逃避への影響が示唆される。ヒト血清を用いた抗原性の評価では、BA.2.75系統の中和抗体からの逃避は、BA.2.12.1系統より強く、BA.4/BA.5系統に比べて弱いことが示唆されている(Cao Y. et al., 2022a)。
  •   インドではBA.2系統とその亜系統が主流であったが、2022年5月以降BA.5系統の割合が上昇しつつあった。そのような傾向の中で、6月以降BA.2.75系統の割合の上昇が検出されたことから、BA.5系統に対するBA.2.75系統の感染者増加の優位性の有無を注視している。このようなBA.2.75系統の割合の上昇はインドで観察されているのみである。5月には低水準で推移していた感染者数や死亡者数が6月以降増加傾向に転じているが、BA.2.75系統の報告数の多いマハーラーシュトラ州では7月以降感染者数は減少に転じており、BA.2.75系統の増加が感染者数や死亡者数の増加と関係があるかは現時点では不明であり、他の系統と比較した感染伝播性、重症度に関する明らかな知見はない。疫学的な評価については、今後の各国での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。また、BA.2.75系統は既に複数国で検出されていることから、現在の検出状況は過小評価である可能性があることに留意が必要である。

 

BA.4/BA.5系統について

  •   BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカで検出された。BA.4/BA.5系統が有する遺伝子変異はその多くがBA.2系統と共通しており、BA.2系統との違いは、BA.4/BA.5系統はスパイクタンパク質に69/70欠失、L452R、F486V変異を有していることである。また、BA.4系統の亜系統としてBA.4.1~4.7系統があり、BA.5系統の亜系統としてBA.5.1~5.6系統およびBA.5.2系統の亜系統であるBF.x系統、BA.5.3系統の亜系統であるBE.x系統があるが(Cov-lineages.org, 2022)、それぞれBA.4系統、BA.5系統との形質的な差については知見が得られていない。
  •   BA.5系統は世界的に検出数が増加し、2022年27週(7月4日から10日)時点でBA.5系統とその亜系統が全世界で検出された株の53.59%を占め(WHO, 2022a)、BA.2系統からの置き換わりが進んでいる。
  •   米国疾病管理予防センター(CDC)、ECDCはBA.4/BA.5系統を他のオミクロン株と同様にVOCに含めている(CDC. 2022, ECDC. 2022b)。WHOはVOC-LUMに分類している(WHO, 2022b)。英健康安全保障庁(UKHSA)は2022年5月20日にBA.4/BA.5系統をともにvariantsからVOCへ区分変更している(UKHSA, 2022a)。
  •   南アフリカでは2022年4月から5月にかけてBA.4系統、BA.5系統が占める割合がそれぞれ上昇し、BA.2系統からの置き換わりが進むと共に同時期の感染者数の増加が見られ、ポルトガルにおいても5月にBA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進み、感染者数の増加が見られたことから、BA.5系統はBA.2系統に比較して12~13%の成長率の上昇が指摘されている(ECDC, 2022a)。また、英国でも5月以降BA.4/BA.5系統の検出割合が上昇しており7月にはBA.5系統が英国内での主流となった (UKHSA, 2022a)。米国ではBA.2.12.1系統が優位であったが、6月以降BA.5系統の占める割合が上昇し、置き換わりが進んでいる (CDC, 2022)。そのほか欧州各国においてBA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進んでいるが、感染者数の増加については国によって差がみられる。
  •   デンマークにおける分析では、BA.2系統感染に比したBA.5系統感染の入院のオッズ比(調整後)が1.65 (95%CI:1.16-2.34)と、BA.5系統感染による入院リスクの増加を示唆する報告があるが、調査期間中の入院数は少なく、BA.5系統流行以前と比較して大きな変動は見られていない(Hansen CH. Et al., 2022)。一方、南アフリカからの報告では、入院、死亡のいずれもBA.1系統流行時とBA.4/BA.5系統流行時に統計学的な差はなかった(Davis MA. et al., 2022)。ただし、いずれも査読を受けていないプレプリント論文の報告であることに注意が必要である。BA.4/BA.5系統の流行における現時点で既存のオミクロン株と比較した重症度の増大の証拠はみられない(WHO, 2022a、UKHSA, 2022a)
  •   BA.4系統、BA.5系統はL452R変異をはじめとするスパイクタンパク質の変異を有しており、中和抗体の結合に影響を与える可能性が示唆されている。BA.2.12.1系統同様、L452の変異により免疫逃避の可能性が示唆されている(Cao Y. et al., 2022b)ほか、ワクチン接種者およびオミクロン株感染者の血清を用いた抗原性評価では、BA.4/BA.5系統に対する抗体価はBA.1と比較して2.9倍から3.3倍、BA.2と比較して1.6倍から4.3倍の中和活性の低下が指摘されているが、査読を受けていないプレプリント論文の報告であることに注意が必要である(Hachmann NP. et al., 2022)。また、抗体医薬のうちsotrovimab、bamlanivimab、casirivimab、etesevimab、imdevimab、tixagevimabの中和活性の低下、cilgavimabへの抵抗性の上昇が示唆されている (WHO, 2022a)。
  •   BA.2系統ウイルス株にオミクロン亜系統のスパイク遺伝子を置換した遺伝子組換えキメラウイルスを用いたハムスター感染実験の結果、BA.4/BA.5系統のスパイクを持つウイルスの病原性がBA.2系統のスパイクだけを持つウイルスよりも高くなったこと、および培養細胞を用いた実験で、BA.4/BA.5系統のスパイクを持つウイルスがBA.2系統のスパイクだけを持つウイルスよりも効率的にヒト肺胞上皮細胞で示した報告があるが、実験室内での動物、培養細胞を用いた実験であり臨床的に観察されたものではないこと、査読を受けていないプレプリント論文の報告であることに注意が必要である (Kimura I et al., 2022)。ただし、デルタ株等のオミクロン株以外の従来株との比較はなく、BA.4/BA.5系統のスパイクを持つウイルスの病原性がオミクロン株出現前のSARS-CoV-2に比べて高くなっているのかについては不明である。
  •   国内では2022年6月から7月にかけてBA.2系統BA.5系統への置き換わりが進行し、7月4週時点で90%を超えたと推定される。既存のオミクロン株と比較して感染者増加の優位性が指摘されており、各地で感染者数の増加がみられている。重症度の増加は指摘されていないが、感染者数の増加を反映する形での重症者数、死亡者数の増加がみられる可能性があるため、引き続き知見の収集、国内の感染者数、重症者数の推移の注視とともに、ゲノムサーベイランスによる監視を継続する必要がある。

組換え体について

  •   SARS-CoV-2を含めRNAウイルスにおいて遺伝子組換え( 2種あるいはそれ以上の同種または近縁ウイルス間で、遺伝子の一部が組換わったゲノムを有するウイルスが生成すること)が起こりうることはよく知られている。異なる系統のウイルスが宿主に同時感染することで生じると考えられるが、SARS-CoV-2についても異なる系統間の組換え体と考えられるウイルスが検出される事例がある。
  •   これまで、アルファ株(B.1.1.7系統)とB.1.177系統の組換え体(XA系統)、B.1.634系統とB.1.631系統の組換え体(XB系統)、アルファ株(B.1.1.7系統)とデルタ株(AY.29系統)の組換え体(XC系統)、デルタ株とオミクロン株の組換え体(XD、XF、XS系統)、オミクロン株BA.1系統とBA.2系統の組換え体(XE、XG、XH、XJ、XK、XL、XM、XN、XP、XQ、XR、XT、XU、XV、XW、XY、XZ、XAA~XAH系統)、BA2.12.1系統とBA.4系統の組み替え体(XAJ系統)にPANGO系統が付与されてきている(cov-lineages org, 2022)。ただし、国際的なデータベースではこれまでの変異に基づく分類の在り方が検討されているところであり、PANGO系統がまだ付与されていない、組換え箇所等が異なるオミクロン株の組換え体が、日本を含め世界各地から報告されている。
  •   組換え体のうち、XE系統はBA.2系統と比較して12.6%の成長率の上昇が示唆されており、UKHSAはXE系統をvariantsに指定している(UKHSA, 2022b)が、2022年4月以降世界的にXE系統のGISAIDへの登録数は減少している(outbreak. info, 2022)。また、これ以外に感染の広がりを強く示唆するデータや、重症化やワクチンの効果が減衰するなどの懸念すべき影響を示唆するデータは報告されていない。世界全体で組換え体の検出数が少ないため、引き続き諸外国の状況や知見等の収集、ゲノムサーベイランスによる監視を継続する。

参考 主な変異株の各国における位置付け(2022 年 7月 29日時点)

系統名

感染研

WHO*

ECDC

英国 HSA

CDC

B.1.617.2 系統

(デルタ株)

VUM

Previously circulating VOC

De-escalated variant

Variants

VBM

B.1.1.529 系統

(オミクロン株)

VOC

currently circulating VOC

※BA.4, BA.5, BA.2.12.1, BA2.9.1, BA2.11, BA.2.13, BA.2.75:VOC-LUM

VOC

※BA.1, BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA.2+L452X, BA.2.75: VOI

BA.3: VOM

VOC

※BA.1, BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA2.12.1, BA.2.75: Variants
BA.3: signals in monitoring

VOC

B.1.1.7 系統

(アルファ株)

VUM

previously circulating VOC

De-escalated variant

Variants

VBM

VOC: Variant of Concern(懸念される変異株)、VOC-LUM:VOC lineages under monitoring(VOCにおける監視下の系統)、VUM: Variant under Monitoring(監視下の変異株)、VOI: Variant of interest (注目すべき変異株)、VBM: Variant being Monitored(監視中の変異株)、De-escalated variant(警戒解除した変異株)、currently circulating(現在流行中)、previously circulating(かつて流行していた)、Signals in monitoring (監視中のシグナル)


引用文献

注意事項

  •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

更新履歴

第19報 2022/07/27  9:00時点

第18報 2022/07/01  9:00時点

第17報 2022/06/03  9:00時点

第16報 2022/04/26  9:00時点

第 15 報 2022/03/28 9:00 時点 注)タイトル変更

          「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」

第 14 報 2021/10/28  12:00 時点

第 13 報 2021/08/28  12:00 時点

第 12 報 2021/07/31  12:00 時点

第 11 報 2021/07/17  12:00 時点

第 10 報 2021/07/06  18:00 時点

第  9報 2021/06/11 10:00 時点

第  8報 2021/04/06 17:00 時点

第  7報 2021/03/03 14:00 時点

第  6報 2021/02/12 18:00 時点

第  5報 2021/01/25 18:00 時点 注)タイトル変更

「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」

第  4報 2021/01/02 15:00 時点

第  3報 2020/12/28 14:00 時点

第  2報 2020/12/25 20:00 時点 注)第1報からタイトル変更

「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」

第  1報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株BA.2.75系統について

 

国立感染症研究所
2022年7月8日時点

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BA.2系統の亜系統であるBA.2.75系統が定義された(cov-lineages.org, 2022)。該当する最初の検体は、6月2日にインドから報告されたものである(GitHub, 2022)。7月7日時点で、GISAIDに登録された64件が該当すると考えられ注)、うち48件はインドからの登録であり、マハーラーシュトラ州から最も多くの報告がある。そのほか、英国、ドイツ、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドから報告がある(covSPECTRUM, 2022)。日本ではインドに渡航歴がある者から検疫で検出された1件が該当するとみられるが(6月13日検体採取分)、国内では検出されてない。

BA.2.75系統は、BA.2系統と比較して、スパイクタンパク質にK147E、W152R、F157L、I210V、G257S、G339H、G446S、N460Kの各変異を有しており、BA.1系統、BA.2系統などで見られたQ493R変異は有さない (GitHub, 2022)。これらスパイクタンパク質の変異は抗体結合部位の構造に影響している可能性が高く、例えばG446S変異はBA.1系統と共通する変異で、ワクチン接種による中和抗体からの逃避への影響が示唆される。

インドではBA.2系統とその亜系統が主流であったが、BA.5系統の割合が上昇しつつあった。そのような傾向の中で、6月以降BA.2.75系統の割合の上昇が検出されたことから、BA.5系統に対するBA.2.75系統の感染者増加の優位性を注視している。このようなBA.2.75系統の割合の増加はインドで観察されているのみである。インドでは5月には低水準で推移していた感染者数や死亡者数が6月以降増加傾向に転じているが、BA.2.75系統の相対的増加と関係があるかは現時点では不明である。疫学的な評価については、今後の各国での検出状況、感染者数や重症者数の推移を注視する必要がある。また、BA.2.75系統は既に複数国で検出されていることから、現在の検出状況は過小評価である可能性があることに留意が必要である。

 

注)BA.2.75はPangolinの判別データベースに反映されていないため、データベースの検索式の入力方法によって数が異なる場合がある。

 

引用文献

 

 

 

 

感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第18報)

 

国立感染症研究所
2022年7月1日9:00時点

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変異株の概況

  •   新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第17報時点と同様に、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が支配的な状況が世界的に継続している。世界でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルス株のほぼ全てをオミクロン株が占め、その他の変異株はほとんど検出されていない。オミクロン株の中では、BA.2系統、BA.2.12.1系統、それ以外のBA.2系統の亜系統(BA.2.x)、BA.4系統、BA.5系統がそれぞれ36%、17%、12%、9%、25%を占めた(WHO, 2022a)。国内では、令和4年2月頃に全国的にデルタ株からオミクロン株のBA.1系統に置き換わり、その後、さらにオミクロン株のBA.2系統に置き換わり、現在の感染の主流系統となっている。B.1.1.529系統については、各国での流行拡大に伴い変異が進み、亜系統の分類が進められている。また、国内外でオミクロン株間のさまざまな組換え体が報告されている。世界保健機関(WHO)はこれらのB.1.1.529系統の亜系統であるBA.x系統および組換え体を全て含めて「オミクロン株」と総称する一方、いくつかの亜系統(BA.4、BA.5、BA.2.12.1、BA.2.9.1、BA.2.11、BA.2.13)を「懸念される変異株(VOC)における監視下の系統(VOC-LUM; Variants of Concern linages under monitoring)」としている。
  •   BA.4系統、BA.5系統、BA.2.12.1系統は一部の国でBA.2系統から置き換わると共に、BA.2系統と比較して感染者増加の優位性や免疫逃避が指摘されており、今後の国内外の動向を注視する必要がある。一方で、BA.4系統、BA.5系統、BA2.12.1系統いずれも既存のオミクロン株と比較して重症度の上昇につながる証拠はみられない。ヒト血清等を用いた抗原性評価により、BA.2に比べてこれらの系統に対しては軽度の中和活性の低下が指摘されているが、武漢株とオミクロン株との抗原性の乖離に比べると、その差は小さいと考えられ、既存のオミクロン株に比べてヒト免疫逃避能が向上しているかどうかについては、ワクチン効果等の疫学的評価も重要である。 また、現在、ワクチン接種率の向上や感染者の増加により、SARS-CoV-2に対する免疫を持つ人口が飛躍的に増加しており、免疫学的背景が多様化している。このような状況において現在のヒト集団での病原性がこれらの有する変異だけで決定される可能性は低いと考える。しかし、動物実験で従来のオミクロン株と比べて病原性が上昇している可能性を示唆する結果もあることから、特に、免疫不全者や重症者のウイルス系統については注意深く監視を継続する必要がある。
  •   オミクロン株の組換え体は、ほとんどの形質がまだ明らかでは無く、分類法も含めて今後の国内外の動向を注視する。
  •   B.1.617.2系統の変異株(デルタ株)については、2020年12月にインドで初めて検出され、2021年7月頃から世界的に支配的な状況が続いていたが、オミクロン株の流行が起きた2022年1月以降世界での検出数は限りなく少なくなっている。また、国内でも2022年3月14日以降約3ヶ月間検出が途絶えていることから、監視下の変異株(VUM)に位置付けを変更する。

 

オミクロン株の亜系統について

BA.2系統について

  • 国内ではBA.2系統が大半を占めている。BA.2系統はさらに亜系統のBA.2.1系統からBA.2.75系統まで分類されている(Cov-lineages.org, 2022)。国内では、割合が多い順にBA.2、BA.2.3、BA.2.3.1、BA.2.10、BA.2.24、BA.2.29、BA.2.10.1、BA.2.10.2、BA.2.18、BA.2.12.1、BA.2.3.2、BA.2.5、BA.2.9、BA.2.1、BA.2.17、BA.2.7、BA.2.12、BA.2.4、BA.2.6、BA.2.38系統といった亜系統が検出されている。これらの亜系統間での形質の差異は、BA.2.12.1を除き、明らかではない。
  •   BA.2系統の亜系統であるBA.2.12.1系統が3月中旬にニューヨーク州など米国東海岸で検出された。以降米国内での検出割合が上昇し、5月下旬以降は米国全体で検出された株の約60%を占める状態が続いている(CDC, 2022)。また、6月24日時点でGISAIDデータベースに69カ国から139,215件が登録されているが、その約86% が米国からである(Outbreak.info, 2022)。米国でBA.2系統からの置き換わりが進んだことから、BA.2系統に比較して25%程度の感染者増加の優位性が示唆されている(New York State, 2022)。一方で、現時点で既存のオミクロン株と比較した重症度の増大の証拠はみられない(WHO, 2022a)。     
  •   BA.2.12.1系統は、ベータ株やデルタ株が有していたスパイクタンパク質の変異箇所であるL452Qを有している。L452Q変異は中和抗体の結合に影響し、免疫逃避につながる可能性が示唆されている(Cao Y. et al., 2022)。また、いくつかの研究によると、ヒト血清等を用いた抗原性評価により、軽度の中和活性の低下が指摘されている(Hachmann NP. et al., 2022、Wang, Q. at al., 2022)。
  • 6月24日時点で、BA.2.12.1系統は検疫及び国内で検出されているが、国内症例において特筆すべき地域特性はなく、ゲノム情報においても感染リンクを示す情報/証拠はない。
  • 引き続き諸外国の状況や知見等の収集、国内外のゲノムサーベイランスによる監視を継続する必要がある。

 

BA.4/BA.5系統について 

  • BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカで検出された。BA.4系統、BA.5系統が有する遺伝子変異はその多くがBA.2系統と共通しており、BA.2系統との違いは、BA.4/BA.5系統はスパイクタンパク質に69/70欠失、L452R、F486V変異を有していることである。また、BA.4系統の亜系統としてBA.4.1系統、BA.4.1.1~4系統があり、BA.5系統の亜系統としてBA.5.1~5.6系統があるが(Cov-lineages.org, 2022)、それぞれBA.4系統、BA.5系統との形質的な差については知見が得られていない。
  • 2022年6月24日までに、BA.4系統は60カ国から13,827件、BA.5系統は63カ国から17,361件が報告されている。 いずれも当初は南アフリカからの検出が多くを占めたが、検出国は欧州を中心に変化している(Outbreak.info, 2022)。
  • 米国疾病対策センター(CDC)、欧州疾病予防管理センター(ECDC)はBA.4、BA.5系統を他のオミクロン株と同様にVOCに含めている(CDC. 2022, ECDC. 2022b)。WHOはVOCの中で、伝播性の増加の兆候や他のVOCと比較して優位性を疑うアミノ酸変異を有するものとして、VOC-LUMに分類している(WHO, 2022b)。英保健安全保障庁(UKHSA)は5月20日にBA.4、BA.5をともにvariantsからVOCへ区分変更している(UKHSA, 2022a)。
  • 南アフリカ国内では2022年4月から5月にかけてBA.4系統、BA.5系統が占める割合が上昇し、BA.2系統からの置き換わりが進むと共に同時期の感染者数の増加が見られ、ポルトガルにおいても5月にBA.2系統からBA.5系統への置き換わりが進み、感染者数の増加が見られたことから、BA.5系統はBA.2系統に比較して12~13%の成長率の上昇が指摘されている(ECDC, 2022a)。また、英国でも5月以降BA.4系統、BA.5系統の検出割合が上昇しており、BA.4系統、BA2.12.1系統に比較して、BA.5系統が優位となる可能性が示唆されている(UKHSA, 2022a)。米国ではBA.2.12.1系統が優位であったが、6月以降BA.4系統、BA.5系統の占める割合が上昇しており、引き続きゲノムサーベイランスによる監視が行われている(CDC, 2022)。また、BA.4系統、BA.5系統はL452R変異を有しており、BA.2.12.1系統同様、L452の変異により免疫逃避の可能性が示唆されている(Cao Y. et al., 2022)。一方で、現時点で既存のオミクロン株と比較した重症度の増大の証拠はみられない(WHO, 2022a、UKHSA, 2022a)
  • 新型コロナウイルスワクチン接種者及びオミクロン株感染者の血清を用いた抗原性評価では、BA.4系統、BA.5系統に対する抗体価はBA.1と比較して2.9倍から3.3倍、BA.2と比較して1.6倍から4.3倍の中和活性の低下が指摘されている(Hachmann NP. et al.. 2022、Wang, Q. at al.. 2022)。
  • BA.2系統ウイルス株にオミクロン亜系統のスパイク遺伝子を置換した遺伝子組換えキメラウイルスを用いたハムスター感染実験の結果、BA.4系統及びBA.5系統のスパイクを持つウイルスの病原性がBA.2系統のスパイクだけを持つウイルスよりも高くなったことを示した報告がある (Kimura I et al, 2022)。ただし、デルタ株等のオミクロン株以外の従来株との比較はなく、BA.4系統及びBA.5系統のスパイクを持つウイルスの病原性がオミクロン株出現前のSARS-CoV-2に比べて高くなっているのかについては不明である。
  • BA.4系統、BA.5系統の持つF486V変異は中和抗体の結合に影響を与える可能性が示唆されており、スパイクタンパク質の構造上casirivimab/imdevimabのcasirivimab、tixagevimab/cilgavimabのtixagevimabの効果に影響を与える可能性が示唆されている(UKHSA, 2022c)
  • 6月24日時点で、BA.4系統及びBA.5系統は検疫及び国内で検出されており、国内の一部の地域ではBA.5の検出割合が上昇しているとの報告がある。既存のオミクロン株と比較して感染者増加の優位性が指摘されているため、今後国内でBA.5の占める割合が上昇する可能性があり、感染者数、重症者数の推移を注視すると共に、引き続き諸外国の状況や知見等の収集、国内外のゲノムサーベイランスによる監視を継続する必要がある。

 

組換え体について

  • SARS-CoV-2を含めRNAウイルスにおいて遺伝子組換え( 2種あるいはそれ以上の同種または近縁ウイルス間で、遺伝子の一部が組換わったゲノムを有するウイルスが生成すること)が起こりうることはよく知られている。異なる系統のウイルスが宿主に同時感染することで生じると考えられるが、SARS-CoV-2についても異なる系統間の組換え体と考えられるウイルスが検出される事例がある。
  •   これまで、アルファ株(B.1.1.7系統)とB.1.177系統の組換え体(XA系統)、B.1.634系統とB.1.631系統の組換え体(XB系統)、アルファ株(B.1.1.7系統)とデルタ株(AY.29系統)の組換え体(XC系統)、デルタ株とオミクロン株の組換え体(XD、XF、XS系統)にPANGO系統が付与されてきた。
  •   最近では、世界的なオミクロン株感染者の急増、そしてBA.1系統からBA.2系統への置き換わりが進行する中で、世界各地からこれらの組換え体が報告されており、PANGO系統が付与されてきている(XE、XG、XH、XJ、XK、XL、XM、XN、XP、XQ、XR、XT、XU、XV、XW、XY、XZ、XAA~XAH)(cov-lineages org, 2022)。また、PANGO系統がまだ付与されていない組換え箇所等が異なるオミクロン株の組換え体も世界各地から報告されている。
  •   2022年6月24日現在、検疫及び国内で組換え体が検出されているが、現在もなお、国際的なデータベースではこれまでの変異に基づく分類の在り方が検討されているところであり、組換え体の分類の在り方が確立しているとは言い難く、検疫で検出された3例がXE系統である以外はいずれも系統の分類は決定していない。
  •   組換え体については、現在XE系統がBA.2系統と比較して12.6%の成長率の上昇が示唆されており、UKHSAはXE系統をvariantsに指定している(UKHSA, 2022b)。ただし、これ以外に感染の広がりを強く示唆するデータや、重症化やワクチンの効果が減衰するなどの懸念すべき影響を示唆するデータは報告されていない。また、世界的には2022年4月をピークとしてXE系統のGISAIDへの登録数は減少している(outbreak. info, 2022)。
  •   組換え体は、世界全体で検出数が少ないため、引き続き諸外国の状況や知見等の収集、ゲノムサーベイランスによる監視を継続する。

 

参考 主な変異株の各国における位置付け(2022年6月28日時点)

系統名

感染研

WHO*

ECDC

英国 HSA

CDC

B.1.617.2
系統

(デルタ株)

VOC

→VUM

previously circulating VOC

De-escalated variant

variants

VBM

B.1.1.529
系統

(オミクロン株)

VOC

currently circulating VOC

※BA.4, BA.5, BA.2.12.1, BA2.9.1, BA2.11, BA.2.13:VOC-LUM

VOC

※BA.1, BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA.2+L452X: VOI

BA.3: VUM

VOC

※BA.1, BA.2, BA.4, BA.5: VOC

BA.2.12.1, BA.3: signals in monitoring

VOC

B.1.1.7 系統

(アルファ株)

VUM

previously circulating VOC

De-escalated variant

Variants

VBM

VOC: Variant of Concern(懸念される変異株)、VOC-LUM:VOC lineages under monitoring(VOCにおける監視下の系統)、VUM: Variant under Monitoring(監視下の変異株)、VOI: Variant of interest (注目すべき変異株)、VBM: Variant being Monitored(監視中の変異株)、De-escalated variant(警戒解除した変異株)、currently circulating(現在流行中)、previously circulating(かつて流行していた)、Signals in monitoring (監視中のシグナル)

     

 

引用文献

 

注意事項

  • 迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

第 18報 2022/07/01 9:00時点
第 17報 2022/06/03 9:00時点
第 16報 2022/04/26 9:00時点
第 15 報 2022/03/28 9:00 時点 注)タイトル変更
「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」
第 14 報 2021/10/28 12:00 時点
第 13 報 2021/08/28 12:00 時点
第 12 報 2021/07/31 12:00 時点
第 11 報 2021/07/17 12:00 時点
第 10 報 2021/07/06 18:00 時点
第 9報 2021/06/11 10:00 時点
第 8報 2021/04/06 17:00 時点
第 7報 2021/03/03 14:00 時点
第 6報 2021/02/12 18:00 時点
第 5報 2021/01/25 18:00 時点 注)タイトル変更
「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」
第 4報 2021/01/02 15:00 時点
第 3報 2020/12/28 14:00 時点
第 2報 2020/12/25 20:00 時点 注)第1報からタイトル変更
「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」
第 1報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

 

 

感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第17報)

 

国立感染症研究所
2022年6月3日9:00時点

PDF

 

変異株の概況

  •   新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第16報時点と同様に、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が支配的な状況が世界的に継続している。世界でゲノム解析され GISAID データベースに登録されたウイルス株のほぼ全てをオミクロン株が占め、その他の変異株はほとんど検出されていない。オミクロン株の中では、BA.2系統、BA.4系統、BA.5系統がそれぞれ94%、0.8%、1%を占めた(WHO, 2022a)。令和4年2月頃に全国的にデルタ株からオミクロン株のBA.1系統に置き換わり、その後、さらにオミクロン株のBA.2系統に置き換わり、現在の感染の主流系統となっている。B.1.1.529系統については、各国での流行拡大に伴い変異が進み、亜系統の分類が進められている。また、国内外でオミクロン株間のさまざまな組換え体が報告されている。世界保健機関(WHO)はこれらのB.1.1.529系統の亜系統であるBA.x系統および組換え体を全て含めて「オミクロン株」と総称する一方、いくつかの亜系統(BA.4、BA.5、BA.2.12.1、BA.2.9.1、BA.2.11、BA.2.13)を「懸念される変異株(VOC)における監視下の系統(VOC-LUM; Variants of Concern linages under monitoring)」としている。
  •   BA.4系統、BA.5系統、BA.2.12.1系統は一部の国でBA.2系統から置き換わると共に、BA.2系統と比較して感染者増加の優位性や免疫逃避が指摘されており、今後の国内外の動向を注視する必要がある。特に、ヒト血清等を用いた抗原性評価により、BA.2に比べてこれらの系統に対しては軽度の中和活性の低下が指摘されているが、武漢株とオミクロン株との抗原性の乖離に比べると、その差は小さいと考えられ、既存のオミクロン株に比べてヒト免疫逃避能が向上しているかどうかについては、ワクチン効果等の疫学的評価も重要である。 また、現在、ワクチン接種率の向上や感染者の増加により、SARS-CoV-2に対する免疫を持つ人口が飛躍的に増加しており、免疫学的背景が多様化している。このような状況において現在のヒト集団での病原性がこれらの有する変異だけで決定される可能性は低いと考える。しかし、動物実験で従来のオミクロン株と比べて病原性が上昇している可能性を示唆する結果もあることから、特に、免疫不全者や重症者のウイルス系統については注意深く監視を継続する必要がある。
  •   オミクロン株の組換え体は、ほとんどの形質がまだ明らかでは無く、分類法も含めて今後の国内外の動向を注視する。
  •   B.1.351 系統の変異株(ベータ株)及びP.1系統の変異株(ガンマ株)については、世界的に検出数は継続して減少し、GISAID データベース上では最終検出日は、それぞれ、2021 年 3月21 日、 2022 年 1 月 10 日と2カ月以上にわたって検出が途絶えている。そのため、監視下の変異株(VUM)の位置付けから除外する。

 

オミクロン株の亜系統について

BA.2系統について

  • 国内ではBA.2系統が大半を占めている。BA.2系統はさらに亜系統のBA.2.1系統からBA.2.42系統まで分類されている。国内では、割合が多い順にBA.2、BA.2.3、BA.2.3.1、BA.2.10、BA.2.10.1、BA.2.3.2、BA.2.5、BA.2.1、BA.2.9、BA.2.12、BA.2.7、BA.2.12.1、BA.2.4系統といった亜系統が検出されている。これらの亜系統間での形質の差異は、BA.2.12.1を除き、明らかではない。
  •   BA.2系統の亜系統であるBA.2.12.1系統が3月中旬にニューヨーク州など米国東海岸で検出された。以降米国内での検出割合が増加し、5月26日時点で、米国全体で検出された株の57.9%を占めている(CDC, 2022)。また、GISAIDデータベースに44カ国から34,962件が登録されているが、その約90% が米国からである(Outbreak.info. 2022)。米国でBA.2系統からの置き換わりが進んでおり、BA.2系統に比較して25%程度の感染者増加の優位性が示唆されている(New York State, 2022)。一方で、米国内では症例数の増加とそれに伴う入院者数の増加がみられているが、死亡者数は増加がみられず、現時点で既存のオミクロン株と比較した重症度の増大の証拠はみられない(CDC, 2022)。     
  •   BA.2.12.1系統は、ベータ株やデルタ株が有していたスパイクタンパク質の変異箇所であるL452Qを有している。L452Q変異は中和抗体の結合に影響し、免疫逃避につながる可能性が示唆されている(Cao Y. et al., 2022)。また、いくつかの研究によると、ヒト血清等を用いた抗原性評価により、軽度の中和活性の低下が指摘されている(Hachmann NP. et al.. 2022、Wang, Q. at al.. 2022)。
  • 5月26日時点で、BA.2.12.1系統は検疫及び国内で検出されており、検疫での検出の多くは、米国からの入国者である。また、国内症例において特筆すべき地域特性はなく、ゲノム情報においても感染リンクを示す情報/証拠はない。
  • BA.2.12.1系統に関する知見は限られており、引き続き諸外国の状況や知見等の収集、国内外のゲノムサーベイランスによる監視を継続する必要がある。

 

BA.4/BA.5系統について 

  • BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカで検出された。BA.4系統、BA.5系統が有する遺伝子変異はその多くがBA.2系統と共通しており、BA.2系統との違いは、BA.4/BA.5系統は69/70欠失、L452R、F486V変異を有していることである。
  • 2022年5月26日までに、BA.4系統は30カ国から2,081件、BA.5系統は31カ国から1,580件が報告されている。共に欧米での検出報告が増加しているが、いまだ南アフリカからの報告が世界で最も多く、BA.4で約55%、BA.5で約23%を占めている(Outbreak.info, 2022)。
  • 米国疾病対策センター(CDC)、欧州疾病予防管理センター(ECDC)はBA.4、BA.5系統を他のオミクロン株と同様にVOCに含めている(CDC. 2022, ECDC. 2022b)。WHOはVOCの中で、伝播性の増加の兆候や他のVOCと比較して優位性を疑うアミノ酸変異を有するものとして、VOC-LUMに分類している(WHO, 2022b)。英保健安全保障庁(UKHSA)は5月20日にBA.4、BA.5をともにvariantsからVOCへ区分変更している(UKHSA. 2022a)。
  • 南アフリカ国内の検出報告ではBA.4系統、BA.5系統が占める割合が増加し、5月26日時点でBA.4系統、BA.5系統合わせて直近30日における検体の82%を占め(outbreak.info)、BA.2系統からの置き換わりが進むと共に、2022年4月から5月にかけて感染者数の増加が見られたことから、BA.2系統に比べて感染者増加の優位性が指摘されている(ECDC, 2022b)。また、ポルトガルでもBA.5の検出割合が上昇し、国内の感染者は増加している。南アフリカ、ポルトガルのデータからは、BA.5系統はBA.2系統に比較して12~13%の成長率の上昇が報告されている(ECDC, 2022a)。また、BA.4系統、BA.5系統はL452R変異を有しており、BA.2.12.1系統同様、L452の変異により免疫逃避の可能性が示唆されている(Cao Y. et al., 2022)。
  • 新型コロナウイルスワクチン接種者及びオミクロン株感染者の血清を用いた抗原性評価では、BA.4系統、BA.5系統に対する抗体価はBA.1と比較して2.9倍から3.3倍、BA.2と比較して1.6倍から4.3倍の中和活性の低下が指摘されている(Hachmann NP. et al.. 2022、Wang, Q. at al.. 2022)。
  • 重症度についても評価のために必要な情報は十分でない。南アフリカでの入院者数は増加に転じているが、BA.4系統、BA.5系統が増加していることとの関連は不明である。また、死者数も微増傾向が見られるが、症例数の増加に伴うものか、BA.4系統、BA.5系統の形質によるものかは不明である(NICD South Africa 2022)。欧州においても、重症度の上昇につながる徴候は見られない(ECDC, 2022a)。
  • BA.2系統ウイルス株にオミクロン亜系統のスパイク遺伝子を置換した遺伝子組換えキメラウイルスを用いたハムスター感染実験の結果、BA.4系統及びBA.5系統のスパイクを持つウイルスの病原性がBA.2系統のスパイクだけを持つウイルスよりも高くなったことを示した報告がある (Kimura I et al, 2022)。ただし、デルタ株等のオミクロン株以外の従来株との比較はなく、BA.4系統及びBA.5系統のスパイクを持つウイルスの病原性がオミクロン株出現前のSARS-CoV-2に比べて高くなっているのかについては不明である。
  • BA.4系統、BA.5系統の持つF486V変異は中和抗体の結合に影響を与える可能性が示唆されており、スパイクタンパク質の構造上casirivimab/imdevimabのcasirivimab、tixagevimab/cilgavimabのtixagevimabの効果に影響を与える可能性が示唆されている(UKHSA, 2022c)
  • 5月26日時点で、BA.4系統及びBA.5系統は検疫で検出されており、そのうちBA.5系統は、国内でも検出されている。
  • 現時点で、BA.4系統、BA.5系統は共に既存のオミクロン株と比較して感染者増加の優位性がある可能性がある。引き続き諸外国の状況や知見等の収集、国内外のゲノムサーベイランスによる監視を継続する必要がある。重症度に関しても、現時点で明らかな上昇につながる証拠はみられず、監視を継続していく必要がある。

 

組換え体について

  •   SARS-CoV-2を含めRNAウイルスにおいて遺伝子組換え( 2種あるいはそれ以上の同種または近縁ウイルス間で、遺伝子の一部が組換わったゲノムを有するウイルスが生成すること)が起こりうることはよく知られている。異なる系統のウイルスが宿主に同時感染することで生じると考えられるが、SARS-CoV-2についても異なる系統間の組換え体と考えられるウイルスが検出される事例がある。
  •   これまで、アルファ株(B.1.1.7系統)とB.1.177系統の組換え体(XA系統)、B.1.634系統とB.1.631系統の組換え体(XB系統)、アルファ株(B.1.1.7系統)とデルタ株(AY.29系統)の組換え体(XC系統)、デルタ株とオミクロン株の組換え体(XD、XF、XS系統)にPANGO系統が付与されてきた。
  •   最近では、世界的なオミクロン株感染者の急増、そしてBA.1系統からBA.2系統への置き換わりが進行する中で、世界各地からこれらの組換え体が報告されており、PANGO系統が付与されてきている(XE、XG、XH、XJ、XK、XL、XM、XN、XP、XQ、XR、XT、XU、XV、XW)。また、PANGO系統がまだ付与されていない組換え箇所等が異なるオミクロン株の組換え体も世界各地から報告されている。
  •   2022年5月26日現在、検疫及び国内で組換え体が検出されているが、現在もなお、国際的なデータベースではこれまでの変異に基づく分類の在り方が検討されているところであり、組換え体の分類の在り方が確立しているとは言い難く、検疫で検出された3例がXE系統である以外はいずれも系統の分類は決定していない。
  •   組換え体については、現在XE系統がBA.2系統と比較して12.6%の成長率の上昇が示唆されている(UKHSA. 2022b)。ただし、これ以外に感染の広がりを強く示唆するデータや、重症化やワクチンの効果が減衰するなどの懸念すべき影響を示唆するデータは報告されていない。
  •   組換え体は、世界全体で検出数が少ないため、引き続き諸外国の状況や知見等の収集、ゲノムサーベイランスによる監視を継続する。
  •  

    参考 主な変異株の各国における位置付け(2022年5月26日時点)

    系統名

    感染研

    WHO*

    ECDC

    英国 HSA

    CDC

    B.1.617.2
    系統

    (デルタ株)

    VOC

    currently circulating VOC

    VOC

    VOC

    VOC

    →VBM

    B.1.1.529
    系統

    (オミクロン株)

    VOC

    currently circulating VOC

    ※BA.4, BA.5, BA.2.12.1, BA2.9.1, BA2.11, BA.2.13:VOC-LUM

    VOC

    ※BA.1, BA.2, BA.4, BA.5: VOC

    BA.3, BA.2+L452X: VUM

    VOC

    ※BA.1, BA.2, BA.4, BA.5: VOC

    BA.3: signals in monitoring

    VOC

    B.1.1.7 系統

    (アルファ株)

    VUM

    previously circulating VOC

    De-escalated variant

    Variants

    VBM

    VOC: Variant of Concern(懸念される変異株)、VOC-LUM:VOC lineages under monitoring(VOCにおける監視下の系統)、VUM: Variant under Monitoring(監視下の変異株)、VBM: Variant being Monitored(監視中の変異株)、De-escalated variant(警戒解除した変異株)、currently circulating(現在流行中)、previously circulating(かつて流行していた)、Signals in monitoring (監視中のシグナル)

     

 

引用文献

 

注意事項

  • 迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

    第 17報 2022/06/03 9:00時点
    第 16報 2022/04/26 9:00時点
    第 15 報 2022/03/28 9:00 時点 注)タイトル変更
    「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」
    第 14 報 2021/10/28 12:00 時点
    第 13 報 2021/08/28 12:00 時点
    第 12 報 2021/07/31 12:00 時点
    第 11 報 2021/07/17 12:00 時点
    第 10 報 2021/07/06 18:00 時点
    第 9報 2021/06/11 10:00 時点
    第 8報 2021/04/06 17:00 時点
    第 7報 2021/03/03 14:00 時点
    第 6報 2021/02/12 18:00 時点
    第 5報 2021/01/25 18:00 時点 注)タイトル変更
    「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」
    第 4報 2021/01/02 15:00 時点
    第 3報 2020/12/28 14:00 時点
    第 2報 2020/12/25 20:00 時点 注)第1報からタイトル変更
    「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」
    第 1報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

     

 

感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株について (第16報)

国立感染症研究所

2022年4月28日9:00時点

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変異株の概況

  •   新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株は、第15報時点と同様に、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が支配的な状況が継続している。世界でも過去 30 日間にゲノム解析され GISAID 登録されたウイルス株の 99.5%をオミクロン株が占め、B.1.617.2系統の変異株(デルタ株)が 0.1%以下という状況が継続している(WHO 2022)。国内でも全てオミクロン株に置き換わった状況にある。
  •   B.1.1.529系統については、各国での流行拡大に伴い変異が進み、亜系統の分類が進められている。また、2022年4月11日に報告した通り(オミクロン株の組換え体について (niid.go.jp))、オミクロン株間のさまざまな組換え体が報告されている。世界保健機関(WHO)はこれらのB.1.1.529系統の亜系統であるBA.x系統および組換え体を全て含めて「オミクロン株」と総称している。
  •   BA.1系統やBA.2系統を除き、亜系統や組換え体のほとんどは形質がまだ明らかではない。

 

オミクロン株の亜系統について
 
(BA.1系統について)

  •   BA.1系統はさらに亜系統に分類され、BA.1.1系統からBA.1.21.1系統まで分類されている。国内では、割合が多い順にBA.1.1.2、BA.1.1、BA.1.1.1、BA.1.15、BA.1、BA.1.17.2、BA.1.18、BA.1.1.7、BA.1.17、BA.1.1.13、BA.1.1.15、BA.1.16、BA.1.19、BA.1.13.1、BA.1.1.14、BA.1.1.10 系統といった亜系統が検出されている。これらの亜系統間での形質の差異は明らかではない。

 

 (BA.2系統について)

  • BA.2系統はさらに亜系統に分類され、BA.2.1系統からBA.2.16系統まで分類されている。国内では、割合が多い順にBA.2、BA.2.3、BA.2.3.1、BA.2.10、BA.2.10.1、BA.2.3.2、BA.2.5、BA.2.4、BA.2.9系統といった亜系統が検出されている。これらの亜系統間での形質の差異は明らかではない。
  •   国外では、BA.2系統の下位分類の中では、BA.2.12.1系統が3月中旬以降ニューヨーク州など東海岸を中心に米国内での検出割合の増加が報告されており(CDC 2022)、感染者増加の優位性が示唆されている。ニューヨーク州においては、症例数の増加に伴い入院者数の増加がみられているが、既存のオミクロン株と比較した重症度の増大の証拠はみられない(New York State 2022)     
  •   BA.2.12.1系統は、GISAIDに14カ国から3,760件が登録されており(2022年4月25日時点)、その大半が米国からである
  • BA.2.12.1系統はL452Q変異を有している。L452はベータ株やデルタ株が有していたスパイクタンパク質の変異箇所であるが、この点変異による影響は現時点では明らかではない。ECDCは、BA.2系統にL452に変異が入ったもの(L452X)を「監視下の変異株(VUM)」に位置付けている。今後の米国など諸外国の状況、知見の収集、ゲノムサーベイランスでの監視を継続する必要がある。

 

(BA.4/BA.5系統について) 

  • BA.1系統、BA.2系統、BA.3系統に加え、2022年1月にBA.4系統が、2月にBA.5系統がいずれも南アフリカから検出された。BA.4系統、BA.5系統が有する遺伝子変異はその多くがBA.2系統と共通しており、BA.2系統との違いは、BA.4/BA.5系統は69/70欠失、L452R, F486V変異を有していることである。
  • 2022年4月25日までに、BA.4系統は9カ国から204件、BA.5系統は7カ国から79件が報告されている。共に、南アフリカからの報告が最多である。
  • WHOは4月12日にBA.4、BA.5系統を他のオミクロン株と同様に「懸念される変異株(VOC)」に含めている(WHO 2022)。英・健康保護庁(HSA)はオミクロン株を系統ごとに分類しており、BA.4系統、BA.5系統はvariantに分類している(UK HSA 2022)。ECDCも2022年4月7日よりオミクロン株を系統別に監視しており、BA.4系統、BA.5系統は共に「注目すべき変異株(VOI)」としている(ECDC 2022)。
  • 感染性についての評価は十分把握されている状況ではない。しかし南アフリカではBA.4系統は ハウテン州、BA.5系統はクワズール・ナタール州で初検出以降、全体に占める割合が増加している(outbreak.info)。それまで優勢であったBA.2系統からの置き換わりが進んでおり、BA.2系統に比べて感染者増加の優位性が指摘されている。2022年17週には感染者数が増加に転じているが、置き換わりとの関連は不明である(NICD South Africa 2022)。
  • 重症度についても十分な情報は無いが、南アフリカの一部の週では入院者数が前週より増加しているが、BA.4系統、BA.5系統が増加していることとの関連は不明である(NICD South Africa 2022)。
  • 現時点で、BA.4系統、BA.5系統は共に既存のオミクロン株と比較して感染者増加の優位性がある可能性がある。しかし限られた地域での所見であり、世界全体で検出数が少ないため引き続き諸外国の状況や知見等の収集、ゲノムサーベイランスによる監視を継続する必要がある。重症度に関しても、現時点で明らかな上昇に繋がる証拠はみられず、監視を継続していく必要がある。
  • BA.4、BA.5系統共に4月25日時点で日本国内、検疫での検出は確認されていない。

 

BA.2系統に関する分子疫学調査について

ゲノム解析による分子疫学は、十分に流行が抑制され、積極的疫学調査が詳細に行われていた状況にあっては、クラスター調査などの疫学調査の情報と組み合わせることにより、クラスターの追跡を含め感染拡大の背景を推測するのに役立ってきた(オミクロン株の組換え体について (niid.go.jp))。一方、流行が大幅に拡大した状況では、ゲノム解析される検体が全体に占める割合は少数(1%程度)となり、また、積極的疫学調査の実施も限定的となっている。こうした状況下では、クラスターの追跡はもとより、詳細な背景情報を伴う事例も限定的となり、ゲノム解析による情報と疫学調査の情報とを十分に組み合わせることが出来なくなっている。このような状況下では、ゲノムネットワーク図による分析で感染拡大の背景を説明することは一層困難となってきている。よって、分析のもととなるデータが限定的であり解釈には慎重さが必要であるとの前提のうえで、現時点でわかることを以下に記述する。

  •   国立感染症研究所および地方衛生研究所等において、2022年4月11日までに登録されたゲノム情報を分析した。全ゲノム解析により確認されたB.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)のうちBA.2系統は国内2,698例(検疫を含まない)であった。なお、ネットワーク分析に用いるウイルスゲノムは、全配列を完全に解読できたもの(complete事例)に限られるが、全配列を解読できたゲノムの割合は少ない。また、ウイルスの全ゲノム確定数・ゲノム解析の実施割合等が地域によって異なるため、必ずしも地域での真の流行状況を反映していないことに留意が必要である。
  •   国内で流行するオミクロン株(BA.2系統)の系譜について国立感染症研究所で分子疫学調査を行った。2022年2月中旬から国内で顕在化したオミクロン株は複数の系譜の存在が示唆され、海外から流入した系譜から、各地へ波及したことが示唆された(図:2022年4月11日までに登録されたオミクロン株(BA.2系統)2,698件のゲノム情報に基づく分析)。
  •   BA.2系統について、2022年1月上旬から関東・関西地方を中心に検出された系譜(図中の①)から全国へ波及し、それぞれの地域に特徴的な分布に発展している様子が示唆された。主に欧州で検出され大流行となった上流の系譜に近縁であり、BA.2系統が出現した初期のゲノム配列との相同性がある。
  •            BA.2.3系統(図中の②)について、①からさらに2塩基の変異があり、主に関東地方で広く検出され、感染伝播している様子が示唆された。主に欧米で検出された系譜と相同性が高い。
  •            BA.2.3系統(図中の③)について、②の感染伝播から変異が派生し、関西・九州地方で大きく拡大し、当該地域を中心に感染伝播している様子も示唆された。主に欧米で検出された系譜と相同性が高いが、③は②から5塩基変異(およそ2ヶ月半の時間差)を示す離れた系譜であることから、国内で②から③へ発展した以外にも、個別の流入事例から発展した可能性も考えられる。
  •            以上のように、由来がそれぞれ異なる可能性があるBA.2系統の系譜がいくつか存在し、それらは複数の系譜から拡散した可能性がある。海外で発生し流行した複数のBA.2系統の流入が起点となっていたと考えられる。そして、それぞれの系譜ごとに、地域に特徴的な分布に発展し、必ずしも全国均一に拡大していないことが示唆された。
  •     なお、欧州などで検出されているものと相同性が高いものも認められるが、その流入の由来について、相同性が高いことのみを理由に結論付けることはできない。それぞれの起点となる系統が、ある国で多く検出される系統と近縁ということは言えても、それが実際にその国から流入したかどうかは、流行拡大期は疫学調査が十分に実施されておらず、疫学調査の情報との突合が十分に実施できておらず判別できない。その国の渡航者から得られた検体であること、また、その国の渡航者との濃厚接触のあった者の検体であること等がわかっていれば、その系統についてはその国から持ち込まれた蓋然性が高いと言えるが、そうした疫学調査の情報の突合が十分ではない。

 

  no16 f 1

 

組換え体について

  •   新型コロナウイルスBA.1系統・BA.2系統の組換え体について、前回の記事(オミクロン株の組換え体について (niid.go.jp))に記載のとおり検疫でXEを含む3件の組換え体を把握している。
  •         組換え体についてはオミクロン株以外でも2021年10月に検出を報告(アルファ株とデルタ株の組換え体とみられるウイルスの検出について(niid.go.jp))しているが、特に最近オミクロン株を中心に検出され報告されており、国際的なデータベースではこれまでの変異に基づく分類の在り方が検討されているところであり、組換え体の分類の在り方が確立しているとは言い難い。よってこれまで把握されている3件の組換え体についても、XEのほかは、組換え体であることは判断できても系統の分類については決定していない。
  •        これまでの検疫検体から、BA.1系統とBA.2系統の組換え体である可能性のあるものを探索したところ、2022年4月21日現在、上記3件のほか6件が把握されたが、上記のとおり、系統の分類についてはいずれも決定していない。また、国内でも、組換え体を1件把握しているが、系統の分類はできていない。これまでのところ当該者の接触者等、周囲からのさらなる検出はない。
  •            組換え体については現在までのところ、感染の広がりを強く示唆するデータや、重症化やワクチンの効果が減衰するなどの懸念すべき影響を示唆するデータは報告されていない。

 

参考 主な変異株の各国における位置付け(2022年4月25日時点)

no16 t1

  VOC: Variant of Concern(懸念される変異株)、VOI: Variant of Interest(注目すべき変異株)、VUI:Variant under Investigation(調査中の変異株)、VUM: Variant under Monitoring(監視下の変異株)、VBM: Variant being Monitored(監視中の変異株)、De-escalated variant(警戒解除した変異株)、currently circulating(現在流行中)、previously circulating(かつて流行していた)、Signals in monitoring (監視中のシグナル)

 

引用文献

 

注意事項

  •   迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

第 16 報 2022/4/26 9:00時点
第 15 報 2022/03/28 9:00 時点 注)タイトル変更
「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の変異株について」
第 14 報 2021/10/28 12:00 時点
第 13 報 2021/08/28 12:00 時点
第 12 報 2021/07/31 12:00 時点
第 11 報 2021/07/17 12:00 時点
第 10 報 2021/07/06 18:00 時点
第 9報 2021/06/11 10:00 時点
第 8報 2021/04/06 17:00 時点
第 7報 2021/03/03 14:00 時点
第 6報 2021/02/12 18:00 時点
第 5報 2021/01/25 18:00 時点 注)タイトル変更
「感染・伝播性の増加や抗原性の変化が懸念される SARS-CoV-2 の新規変異株について」
第 4報 2021/01/02 15:00 時点
第 3報 2020/12/28 14:00 時点
第 2報 2020/12/25 20:00 時点 注)第1報からタイトル変更
「感染性の増加が懸念される SARS-CoV-2 新規変異株について」
第 1報 2020/12/22 16:00 時点 「英国における新規変異株(VUI-202012/01)の検出について」

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan