WHOによる2013年4月5日現在のインフルエンザA(H7N9)ウイルス人感染の背景と概要 (2013年4月5日更新)
原文:http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/update_20130405/en/index.html
(邦訳:IDSC)
過去数週間、WHOは、中国からインフルエンザA(H7N9)ウイルスの人感染の報告を受けた。インフルエンザA(H7N9)ウイルスは、通常、鳥の間で循環するH7亜型ウイルスの大きなグループのうちの一つのサブグループである。
インフルエンザ H7亜型ウイルスの他のサブグループ(H7N2、H7N3、およびH7N7)による人への感染は、以前、オランダ、イタリア、カナダ、アメリカ合衆国、メキシコ、英国で報告されている。これらの感染症のほとんどは、家禽の発生に関連して発生した。感染は、オランダで発生した1人の死亡を除いて、主に結膜炎や軽度の上気道症状として生じた。
中国からの最近の報告は、インフルエンザA(H7N9)ウイルスの人感染の最初の例である。
疫学
報告された検査確定例は、中国東部のいくつかの異なる地方から来ているが、症例間のリンクは知られていない。これまでのすべての患者は重症であり、何人かは死亡している。症例や転帰の最新情報については、Disease Outbreak Newsを参照のこと。
二つの家族のクラスターが報告されている。これら二つのクラスターを超えて、接触者間、あるいは確定例と接触した医療従事者における患者は報告されていない。
感染源や感染経路は現在不明である。動物や動物への明確な曝露の間で病気の発生との関連は確立されていない。確定例の中には、動物や、動物がいた環境との接触があった者が含まれる。また、上海の市場では、ハトからウイルスが発見された。動物から人、人から人への感染伝播の可能性については調査中である。家族のクラスターは、人-人感染の可能性を提起したが、そのクラスター内の2症例については、検査確定はなされておらず、人々の間での持続的な感染伝播を示す、他の証拠はない。
臨床症状
ほとんどの患者の間における主な臨床像の特徴は、重症肺炎に至る呼吸器疾患である。症状としては、発熱、咳、呼吸困難が含まれる。患者は集中治療と人工呼吸を必要とした。しかし、まだこの感染が引き起こしうる疾患の完全なスペクトラムについての情報は限られている。
ウイルス学
HA遺伝子は、他のH7亜型ウイルスのHA遺伝子とは遺伝的に区別される。6つの内部遺伝子は東アジアの鳥で循環するインフルエンザA(H9N2)ウイルスから由来している。NA遺伝子は、前年に鳥から検出されたインフルエンザA(H11N9)ウイルスのNA遺伝子に類似している。
なぜ、インフルエンザA(H7N9)ウイルス感染による症例が今、検出されているのか、同様に、患者はどのように感染したのかは不明である。遺伝子配列の分析では、中国における最初の人症例からのインフルエンザA(H7N9)ウイルスの遺伝子が、鳥に由来することが示されている。しかし、これらの遺伝子はまた、哺乳類における増殖に適応の兆候を示している。これらの適応により、ウイルスが哺乳動物の細胞レセプターに結合すると、(鳥のそれよりも低い)哺乳動物の正常な体温に近い温度で増殖する能力を有することになる。
治療
中国で行われる臨床検査は、インフルエンザ(H7N9)ウイルスはノイラミニダーゼ阻害剤(オセルタミビルとザナミビル)として知られる抗インフルエンザ薬に感受性があることが示されている。これらの薬物は、疾患の経過の初期に与えられた場合、季節性インフルエンザウイルスおよびインフルエンザA(H5N1)ウイルスの感染に対して有効であることが見出されてきた。H7N9感染症の治療のために、これらの薬剤が用いられた経験はまだない。
予防
ウイルスは既に初期の複数の症例から分離され、性質が特徴付けられているものの、インフルエンザA(H7N9)感染予防のためのワクチンは現在のところない。ワクチン開発の最初のステップは、ワクチンに用いることができる候補となるウイルスの選択である。WHOは、パートナーと協力して、最良の候補ウイルスを識別するために、利用可能なインフルエンザA(H7N9)ウイルスの特徴を調べている。そのようなステップを経て、これらの候補ワクチンウイルスをワクチンの製造に用いることができる。
感染源と感染経路がまだ確定されていないが、感染予防のために良好な衛生習慣に従うことが賢明である。感染予防、動物との接触、食品の調製に関する助言については、以下を参照すること。
http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/faq_H7N9/en/。
医療現場における感染予防と制御のためのガイダンスは以下より利用可能である。
http://www.who.int/csr/resources/publications/swineflu/WHO_CDS_EPR_2007_6/en/index.html 。
現在の活動
WHOは最初の症例検出以降、状況を密接に監視しており、また、新しいウイルスがコミュニティーにおける流行を引き起こすのに十分伝染性であることが判明される状況に備えて、高いレベルの備えを確保するために、パートナーと協力している。WHOはまた、動物において発生しうるウイルスの循環を調査するために、動物の健康部門のパートナーと取り組んできた。一部のウイルスは、家族内で発生のように、濃厚な接触の条件では限定された人-人感染を起こすことができるが、より大きなコミュニティーでの流行を引き起こすのに十分な感染伝播力はない。
国家当局と技術的パートナーとの連携により、WHOが実行する対応には、以下がある。
- 情報は、国際保健規則(IHR)に基づき各国に提供されている。
- 新たな症例の早期発見と、検査確定を確実に行うために、原因不明肺炎症例に対する強化サーベイランスの実施。
- 疑い症例と既知の患者の接触者の評価を含めた疫学調査の実施。
- 動物の健康に関するパートナー、特に国際獣疫事務局(OIE)、国際連合食糧農業機関(FAO)、および動物のインフルエンザに関する専門家のOIE/FAOネットワーク(OFFLU)、との密接な連携を深め、このウイルスの動物における可能性のある循環を調査し、臨床検査用試薬を含む器材や情報が、動物と人の健康に関するそれぞれの研究機関同士で共有されることを確実に進める。
- 状況に関する連続的なリスク評価を実施する。それらはインフルエンザに関するWHOリファレンスおよび研究協力センター群、各国インフルエンザセンター、中央規範研究機関(Essential Regulatory Laboratories)からなるWHOグローバルインフルエンザサーベイランスおよび対応システム(GISRS)と、また、WHO-OFFLUコラボレーションによって調整される動物の健康に関する研究機関と、およびその他の技術パートナーと共に行われる。
WHOの勧告
現状および利用可能な情報に基づいて、WHOは以下を助言する:
- インフルエンザウイルスに対する実験室的検査は、保存されたM遺伝子のためのプライマーを用いたRT-PCRアッセイによりA型インフルエンザウイルスが検出されたにも関わらず、現在利用可能なH1、H3、H5プライマーを用いた結果が陰性であることが判明した場合に、そのようなサブタイプ分類が不能なA型インフルエンザウイルスは、さらなる分析のために、WHO協力センターに緊急に送られるべきである。
- 研究室または加盟国がそのようなサブタイプ分類が不能なA型のインフルエンザウイルスを検出した場合には、その情報は、国際保健規則(IHR)によるNFPを通し、IHRの下で必要とされているように、WHOに報告しなければならない。
- 高病原性鳥インフルエンザ(H5N1)ウイルスによる人感染症と同じサーベイランス戦略が適用される。
- 臨床医と研究機関の専門家は、重症急性呼吸器疾患を呈するすべての人にインフルエンザの人感染の可能性を考慮する必要がある。
- 臨床医は、標準的な感染制御のガイダンスおよび患者周辺の接触者調査について重要性を強調される。
- 標準ガイダンスはまた、重篤な呼吸器感染症のクラスターに対して、および重症急性呼吸器疾患患者の診療にあたる医療従事者におけるそのような感染症のクラスターが発生した場合に、積極的に調査するために適用されるべきである。
- WHOは、このイベントに関しての国境における特別なスクリーニングを助言しない。また、任意の旅行や貿易の制限が適用されることも勧めない。
まとめ
人に感染する能力を持つ、あらゆる動物のインフルエンザウイルスは、理論的にパンデミックを引き起こす可能性がある。しかし、インフルエンザA(H7N9)ウイルスが実際にパンデミックを引き起こすかどうかは不明である。経験的には、複数の動物におけるインフルエンザウイルスが人に感染することが時折あっても、パンデミックを引き起こすところまで行かないもの、行くものの両方があったことは分かっている。サーベイランスや調査が現在進行中であり、この状況が明らかになるために必要な情報の一部を提供するであろう。
WHOは、人におけるこの病気の理解を得るために、国家当局と技術パートナーと密接に協力し続けており、更新された情報を提供していく。 WHOは、状況の進行に伴い、状況を再評価していく。より多くの情報が利用可能になる状況に応じて、WHOは、ガイダンスや対応を改訂する。