新型コロナウイルス感染症患者からのウイルス分離状況―感染性の評価
(IASR Vol. 41 p171-172: 2020年9月号)
広島市では2020年3月に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の1例目の患者が確認され, 以降5月3日までに再陽性1例を含め, 計84例の患者が発生した。
感染症法におけるCOVID-19患者の退院の取り扱いについては, 2月3日に厚生労働省から最初の通知が発出され, 今日に至るまで幾度かの改正が行われている。当初は核酸増幅法による陰性確認を行うことが退院の必須条件となっていたため, 本市で発生した患者について, 当所でも遺伝子検査(リアルタイムPCR法)による確認を実施したが, 2回連続して陰性化するまでには, 個人差はあるものの, 長期間を要した。
現在では, 国が定める退院基準は, 発症日からの所定日数の経過や症状軽快等の条件を満たせば, 必ずしも陰性確認を行うことまでは求められていない。すなわち, 従前の基準では陰性確認時の遺伝子検査で陽性となり, 退院が認められなかった患者でも, 現在では検査による陰性確認を行わなくとも, 条件を満たせば退院が認められる。
遺伝子検査では検出されたウイルスの感染性の有無までは判定できず, 「遺伝子検査で陽性」であることは, 「感染性のあるウイルスが陽性」であることと直結しない。そこで, 当所の遺伝子検査で陽性となった陽性確定時および陰性確認時の検体を用いて, 培養細胞によるウイルス分離検査を行い, 感染性の有無について評価したので報告する。
対 象
広島市で発生したCOVID-19患者83名(有症者:67名, 無症状病原体保有者:15名, 再陽性者:1名)を対象とした。
材 料
遺伝子検査で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)陽性と判定された鼻咽頭ぬぐい液:計230検体を用いた。
方 法
培養細胞(VeroE6)に検体を接種し, 34℃で10~14日間培養した。細胞変性効果(CPE)が確認されなかった場合は, 盲継代を行い, 3代目まで継続した。分離培養の成績と検体採取病日, リアルタイムPCRの結果(N2セットのcycle threshold: Ct値)との相関性を調べた。
結 果
1.患者(有症者)の陽性確定時の検体(図1)
発症日を第0病日とした場合, 発症前日*および第0~2病日に採取された検体の多くからウイルスが分離された。また, 第9病日に採取された検体からも1検体のみ, ウイルスが分離された。
リアルタイムPCRの結果との相関では, Ct値30未満の検体からウイルスが分離されることが多かったが, Ct値35以上の検体でウイルスが分離されたものもあった。全体の分離陽性率は73.1%(49/67)であった。
*濃厚接触者等で検体採取時には発症していなかったが, その後に発症した症例
2.患者(有症者)の陰性確認時の検体(図2)
第9病日以内に採取された検体の一部でウイルスが分離されたが, 第10病日以降の検体ではCt値にかかわらず, すべて分離陰性であった。全体の分離陽性率は2.6%(3/116)であった。
3.無症状病原体保有者の陽性確定時の検体
半数弱の検体でウイルスが分離され, 陽性率は46.7%(7/15)であった。ウイルスが分離された検体のCt値は30未満であり, Ct値30以上の検体では分離陰性であった。
4.無症状病原体保有者の陰性確認時の検体(図3)
陽性確定時の検体採取日を第0病日とした場合, 第9病日以内に採取された検体, 第10病日以降の検体ともに, Ct値にかかわらず, すべて分離陰性であった。
5.再陽性者の検体(Ct値38.2)
検体採取日の病日は, 再発症日を第0病日とした場合は第1病日, 初発症日を第0病日とした場合は第35病日となるが, ウイルスは分離されなかった。
まとめ
患者(有症者)の陽性確定時の検体では約7割からウイルスが分離された。発症前日および発症から数日以内に採取された検体からウイルスが分離されることが多く, 発症初期の感染管理が非常に重要である。一方, 陰性確認時の検体については, 発症から9日以内に採取された検体の一部からウイルスが分離されたが, 10日以降はすべて分離陰性であったことから, 発症から10日を経過すると, 周囲への感染性は極めて低くなるものと考えられた。
無症状病原体保有者については, 陽性確定時の検体の半数弱でウイルスが分離されたことから, 自覚のないまま周囲へ感染を拡げる可能性に十分注意し, 陽性確定時から10日を経過するまでは, 他人との接触を減らす等, 感染拡大防止策を徹底することが求められる。