国立感染症研究所

vir 2021 12
M-Sec induced by HTLV-1 mediates an efficient viral transmission

Masateru Hiyoshi, Naofumi Takahashi, Youssef M. Eltalkhawy, Osamu Noyori, Sameh Lotfi, Jutatip Panaampon, Seiji Okada, Yuetsu Tanaka, Takaharu Ueno, Jun-ichi Fujisawa, Yuko Sato, Tadaki Suzuki, Hideki Hasegawa, Masahito Tokunaga, Yorifumi Satou, Jun-ichirou Yasunaga, Masao Matsuoka, Atae Utsunomiya, Shinya Suzu.

PLOS Pahogens. 2021 Nov 29;17 (11): e1010126. https://doi.org/10.1371/journal.ppat.1010126

ヒトT細胞白血病ウイルスI型(HTLV-1)は、一度感染すると生涯にわたって体内から排除されず、感染者の数%に成人T細胞白血病(ATL)等を発症させます。

私たちは、HTLV-1感染には感染T細胞が発現するM-Secが重要であることを明らかにしました。注目すべきことに、M-Secは正常T細胞では発現せず、HTLV-1によってT細胞で異常に発現されて細胞の性質を変化させます(図中の1〜3)。また、私たちが独自に見いだしているM-Sec機能阻害剤NPD3064はHTLV-1感染を抑制しました。今後、NPD3064のHTLV-1の薬としての可能性を更に検証していきます。

vir 2021 09
A SARS-CoV-2 Antibody Broadly Neutralizes SARS-related Coronaviruses and Variants by Coordinated Recognition of a Virus Vulnerable Site

Taishi Onodera, Shunsuke Kita, Yu Adachi, Saya Moriyama, Akihiko Sato, Takao Nomura, Shuhei Sakakibara, Takeshi Inoue, Takashi Tadokoro, Yuki Anraku, Kohei Yumoto, Cong Tian, Hideo Fukuhara, Michihito Sasaki, Yasuko Orba, Nozomi Shiwa, Naoko Iwata, Noriyo Nagata, Tateki Suzuki, Jiei Sasaki, Tsuyoshi Sekizuka, Keisuke Tonouchi, Lin Sun, Shuetsu Fukushi, Hiroyuki Satofuka, Yasuhiro Kazuki, Mitsuo Oshimura, Tomohiro Kurosaki, Makoto Kuroda, Yoshiharu Matsuura, Tadaki Suzuki, Hirofumi Sawa, Takao Hashiguchi, Katsumi Maenaka, and Yoshimasa Takahashi

Immunity 2021 Oct 12;54(10):2385-2398.e10. doi: 10.1016/j.immuni.2021.08.025.

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株やSARSコロナウイルスなどのコロナウイルスに広く有効な新しいヒト抗体を単離し、構造決定及び病理評価を行うことに成功し、その高い中和活性と交差反応性のメカニズムを解明しました。今回研究グループは、完全型ヒト抗体を作るマウス(TC-mAbマウス)から、SARS-CoV-2に対して強い中和活性を有し、変異株やその他のコロナウイルスも中和できる抗体NT-193を単離しました。このNT-193抗体は、定常領域がIgG3タイプであることにより中和活性を増強するユニークな抗体であるとわかりました。さらに,IgG3タイプのNT-193抗体は他のSARS類縁コロナウイルスに対しても強い中和活性を示したことから、広くSARS類縁ウイルスに対して有効な抗体であると示唆されました。NT-193抗体はスパイクタンパク質の受容体結合部位(RBD)と高い結合活性を示すことから、NT-193とRBDとの複合体の立体構造をX線結晶構造解析により決定することができました。その結果,受容体ACE2結合領域とコロナウイルスの保存性の高い領域の両方のほぼ全てを認識する抗体であることを特定し、それぞれの領域が中和活性とコロナウイルス交差反応性に寄与することが明らかになりました。さらに、ハムスターを用いた感染実験からこれまでに臨床応用されている抗体医薬品と比較して,遜色のない優れた予防・治療効果を示すことがわかりました。

本内容は、北海道大学前仲勝実教授の研究グループとの共同成果であり、AMEDの研究支援を受けて実施しました。

vir 2021 12
Seroprevalence of Flavivirus Neutralizing Antibodies in Thailand by High-Throughput Neutralization Assay: Endemic Circulation of Zika Virus before 2012

Atsushi Yamanaka, Mami Matsuda, Tamaki Okabayashi, Pannamthip Pitaksajjakul, Pongrama Ramasoota, Kyoko Saito, Masayoshi Fukasawa, Kentaro Hanada, Tomokazu Matsuura, Masamichi Muramatsu, Tatsuo Shioda, and Ryosuke Suzuki

mSphere Vol. 6, No. 4, e0033921. 2021 https://journals.asm.org/doi/10.1128/mSphere.00339-21

タイでは古くからデングウイルス(DV)や日本脳炎ウイルスなどのフラビウイルスが蔓延しているが、2015年に南米で流行が拡大したジカウイルス(ZIKV)がいつ頃からタイで流行していたのかは不明であった。本研究では黄熱ウイルス遺伝子を用いた一回感染性ウイルス(SRIP)中和抗体測定系を用い、タイ4都市で2011-2012年に採取された健常人血清のフラビウイルス中和抗体保有率を調査した。その結果、タイでは主に1型および2型 DVが流行しており、さらに17%の人がZIKVに対して最も高い中和抗体価を示した事から、2012年においてZIKVが既に蔓延していたことが強く示唆された。本研究により、SRIPを用いた中和試験はフラビウイルスのサーベイランスに役立つ事が示された。

Impact of the COVID-19 pandemic on the surveillance of antimicrobial resistance

Hirabayashi A, Kajihara T, Yahara K, Shibayama K, and Sugai M

J Hosp Infect. 2021 Sep 22;S0195-6701(21)00335-2.
doi: 10.1016/j.jhin.2021.09.011.

COVID-19のパンデミックは医療現場に様々な変化をもたらしており、薬剤耐性菌への影響は重要な関心事である。本研究では厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)データを利用し、2019年と2020年の黄色ブドウ球菌、肺炎球菌、大腸菌、肺炎桿菌、緑膿菌の分離患者数と分離率を比較した。各菌の分離患者数および分離率は、メチシリン感性、耐性の黄色ブドウ球菌ではわずかに減少し、ペニシリン感性、耐性の肺炎球菌では60%減少し、第3世代セファロスポリン耐性肺炎桿菌では増加した。残りの菌では分離患者数は減少したが分離率は増加した。分離率の見かけ上の上昇は、検体提出患者数(分離率の分母)が患者数(分離率の分子)よりも大幅に減少したためであると考えられた。COVID-19パンデミック時のサーベイランスデータは、分子と分母の検討に基づいて慎重に解釈する必要がある。

vir 2021 12
High-order epistasis and functional coupling of infection steps drive virus evolution toward independence from a host pathway

Minetaro Arita

Microbiology Spectrum, In Press: DOI: https://doi.org/10.1128/Spectrum.00800-21

ウイルスが宿主の細胞に感染するためには、宿主の様々な遺伝子を必要とします。RNAウイルス研究のモデルウイルスであるエンテロウイルスでは、宿主のPI4KB遺伝子およびOSBP遺伝子が複製に必要であることが知られています。また、これらを標的とする抗エンテロウイルス化合物の研究から、これらの遺伝子に依存しないウイルス変異株が4つの変異で生じることが明らかにされています。このうち2つの変異はウイルスRNAの複製に必要ですが、残り2つの変異の役割は不明でした。今回の研究で、役割が不明だった1つの変異がウイルスの細胞間の広がりを促進することを見出しました。この現象には、3つの変異がウイルスゲノムに導入される順番・組み合わせが必須であり(遺伝学用語でエピスタシスと呼ばれます)、これによりウイルス感染過程が促進され、最終的にウイルスの細胞間の広がりが促進されることが明らかにされました。今後さらに研究を進めることにより、ウイルスの進化における宿主因子の役割が解明されることが期待されます。

vir 2021 12
Amino Acid Polymorphism in Hepatitis B Virus Associated with Functional Cure.

Takashi Honda, Norie Yamada, Asako Murayama, Masaaki Shiina, Hussein Hassan Aly, Asuka Kato, Takanori Ito, Yoji Ishizu, Teiji Kuzuya, Masatoshi Ishigami, Yoshiki Murakami, Tomohisa Tanaka, Kohji Moriishi, Hironori Nishitsuji, Kunitada Shimotohno, Tetsuya Ishikawa, Mitsuhiro Fujishiro, Masamichi Muramatsu, Takaji Wakita, Takanobu Kato.

Cell Mol Gastroenterol Hepatol. 2021 Aug 2;S2352-345X(21)00159-4. doi: 10.1016/j.jcmgh.2021.07.013. Online ahead of print.

現行のB型慢性肝炎治療ではHBs抗原の陰性化すなわち機能的治癒が治療目標とされている。そこで機能的治癒との関連が報告されているHBVコア領域I97Lの変異がHBVの感染増殖に与える影響を解析した。

HBV感染系においてI97L変異株は通常のHBV株と比較して低い感染性を示した。さらに超遠心密度勾配法での解析により、I97L変異株では通常のHBVゲノムである不完全二本鎖ではなく、主に一本鎖ゲノムを持つ未熟なウイルスが産生されることが明らかとなった。この未熟なウイルスの感染性を評価したところ、細胞への吸着や侵入効率には差を認めなかったが、感染後のcccDNA生成効率が低下していた。これらの結果から、このI97L変異による未熟なHBV産生が感染細胞におけるcccDNA合成効率を低下させ、患者中のHBV量を減少させることで機能的治癒の成立に関与していると考えられた。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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