Sho Miyamoto†, Takeshi Arashiro†, Yu Adachi†, Saya Moriyama†, Hitomi Kinoshita†, Takayuki Kanno, Shinji Saito, Harutaka Katano, Shun Iida, Akira Ainai, Ryutaro Kotaki, Souichi Yamada, Yudai Kuroda, Tsukasa Yamamoto, Keita Ishijima, Eun-Sil Park, Yusuke Inoue, Yoshihiro Kaku, Minoru Tobiume, Naoko Iwata-Yoshikawa, Nozomi Shiwa-Sudo, Kenzo Tokunaga, Seiya Ozono, Takuya Hemmi, Akira Ueno, Noriko Kishida, Shinji Watanabe, Kiyoko Nojima, Yohei Seki, Takuo Mizukami, Hideki Hasegawa, Hideki Ebihara, Ken Maeda, Shuetsu Fukushi, Yoshimasa Takahashi, Tadaki Suzuki (†These authors contributed equally)
2回mRNAワクチンを接種した後にアルファ系統またはデルタ系統のウイルス感染(ブレークスルー感染)を経験した人は、2回ワクチン接種を受けたが感染しなかった人に比べて、オミクロン系統に対する高い血清中和抗体価を持つことを明らかにしました。ワクチン接種から感染に至るまでの日数が長いほど、オミクロン系統を含む変異ウイルスに対する血清中和抗体価が高く誘導されていました。このような変異ウイルスに対する中和抗体の誘導要因の同定は、各地域のワクチン接種や感染流行の状況を踏まえた集団免疫の評価に寄与するだけでなく、3回目のワクチン接種がオミクロン系統の中和抗体産生を誘導する機構の理解を進めると期待されます。
本研究では、オミクロン系統とは異なる抗原のワクチン接種とウイルス感染によるブレークスルー感染にも関わらず、オミクロン系統に対する高い中和抗体価が誘導されること、ワクチン接種から感染までの日数が回復期の従来株、アルファ系統、ベータ系統、デルタ系統、オミクロン系統(BA.1とBA.1.1)に対する血清中和抗体価と正の相関を示すことを明らかにしました。これはワクチン接種後から感染に至るまでの日数が進むほど抗体を産生する記憶B細胞の成熟が進み(Kotaki et al. Science Immunology. 2022)、感染によって記憶B細胞が反応し、中和抗体産生が誘導されることを支持しています。
※本研究はブレークスルー感染の免疫応答から、集団免疫や免疫誘導の理解のために実施されたものであり、ブレークスルー感染を3回目ワクチン接種の代替とすることを支持するものではありません。ブレークスルー感染にも、ウイルス感染による発症及び重症化、他者への感染のリスクが伴います。
続きを読む: 2回目ワクチン接種から感染までの日数がSARS-CoV-2オミクロン系統に対するブレークスルー感染者血清の交差中和活性を決定する
Ishii H, Terahara K, Nomura T, Okazaki M, Yamamoto H, Shu T, Sakawaki H, Miura T, Watkins DI, Matano T.
Mol. Ther. 30: 2048-2057, 2022
ワクチン抗原至適化はHIVワクチン開発において重要であり、HIVの優先的な感染標的であるHIV特異的CD4陽性T細胞の誘導を抑制することは有望な戦略の一つである。本研究では、SIV Gag・Vifを標的とする特異的CD4陽性T細胞を誘導せずに特異的CD8陽性T細胞を選択的に誘導する新規抗原(TC11)を発現するワクチンについて、動物モデルにおけるSIV経直腸感染防御効果を解析した。低用量SIV経直腸反復チャレンジ実験の結果、ワクチン接種群では12頭中8頭で感染が防御され、ワクチン非接種群と比べて有意な感染防御効果を示した。本研究成果は、多様性の高い表面抗原Envを用いないHIVワクチンで初めて粘膜感染防御効果を示したものであり、本抗原設計を活用したHIVワクチン開発の進展が期待される。
続きを読む: GagVif特異的CD8陽性T細胞反応を選択的に誘導するHIVワクチンの抗Env抗体非依存的な経直腸感染防御効果
Takano T, Morikawa K, Adachi Y, Kabasawa K, Sax N, Moriyama S, Sun L, Isogawa M, Nishiyama A, Onodera T, Terahara K, Tonouchi K, Nishimura M, Tomii K, Yamashita K, Matsumura T, Shinkai M, Takahashi Y
Cell Reports Medicine. 2022 Apr 21. doi: 10.1016/j.xcrm.2022.100631.
https://www.cell.com/cell-reports-medicine/fulltext/S2666-3791(22)00156-2
SARS-CoV-2 mRNAワクチンの2回接種は、強力なSARS-CoV-2中和抗体を誘導する一方で、副反応が比較的高頻度に発生する。
本研究では、92人のワクチン接種者に高次元の免疫プロファイリングを適用し、中和抗体価、副反応の重症度、またはその両方と相関する6つのワクチン誘導性免疫ダイナミクスを特定した。ナチュラルキラー(NK)細胞/単球サブセット(CD16+ NK細胞、CD56high NK細胞、Non-classical monocyte)、樹状細胞(DC)サブセット(DC3、CD11c- AS-DC)、NKT様細胞の初期ダイナミクスは、それぞれ中和抗体価、副反応の重症度、あるいはその両方に対して相関を示した。中和抗体価や副反応と相関した細胞は、共通してIFN-γ誘導性ケモカインの上昇と関連していた。一方で、ケモカイン受容体であるCCR2とCXCR3は、中和抗体価と相関した細胞ではワクチン誘導的に発現増強されたが、副反応と相関した細胞では恒常的に発現していたことから、それぞれ異なる様式で発現調節されていることが示された。本免疫データは、免疫原性を高めつつ副反応を低減させるためのワクチン戦略の構築に寄与することが期待される。
本研究はAMEDの支援を受けて実施されました。
Keigo Yato, Mami Matsuda, Noriyuki Watanabe, Koichi Watashi, Hideki Aizaki, Takanobu Kato, Koji Tamura, Takaji Wakita, Masamichi Muramatsu, and Ryosuke Suzuki
Antiviral Research Vol. 199, 105266. 2022.
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0166354222000341
C型肝炎に有効な治療薬が開発されたが、ウイルス感染を予防するワクチンは未だ開発途上である。我々はこれまでの研究で、日本脳炎ウイルス様粒子上にC型肝炎ウイルス(HCV)の中和エピトープを提示させる事に成功している。本研究では粒子上に提示可能な新たな部位を同定し、提示させるエピトープ数を増やすとともに、この技術を利用したDNA免疫によるHCV中和抗体誘導能をマウスで検証した。粒子上に提示するエピトープ数を増やす事により、DNAを免疫したマウスの血清はHCVに対してより強い中和活性を示した。一方で日本脳炎ウイルスに対する中和活性は減弱した。本研究により、フラビウイルス粒子を利用したエピトープ挿入DNAワクチンの、新たなワクチンモダリティとしての可能性が示された。
本研究は、AMEDの研究支援を受け実施した。
Kitamura K, Fukano K, Que L, Li Y, Wakae K, Muramatsu M.
J Gen Virol. 2022; 103: 001732
https://doi.org/10.1099/jgv.0.001732
抗ウイルス因子APOBEC3タンパク質群は、ウイルスゲノムにC-to-Uの変異を導入することが知られている。DNAウイルスであるB型肝炎ウイルスは、感染した細胞の核内でcccDNAと呼ばれる環状DNAを形成し、これがウイルス複製の基点となっている。本研究では、肝細胞へのインターフェロンγ刺激によってAPOBEC3タンパク質群が発現上昇し、cccDNAのウイルス複製能を低下させるほど高頻度の変異を誘導していること、しかし一方で、細胞の持つDNA修復因子UNGがこの変異を除去していることを、培養細胞を用いた実験系で明らかにした。肝細胞内での両者のバランスが、ウイルスゲノム遺伝情報の破壊あるいは多様性に影響する可能性が示唆された。
本研究はAMED、JSPS及び武田科学振興財団の研究助成を受けて実施された。
Ishii H, Nakamura-Hoshi M, Shu T, Matano T.
ウイルス表面膜蛋白質を標的とした抗体誘導はワクチン開発における重要な戦略であるが、エンベロープウイルスによっては表面膜蛋白抗原構造を維持したワクチン設計が課題となる場合がある。本研究では、HIVおよびヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV)由来の表面膜蛋白質(Env)を用いた新規抗原EnvFを構築し、EnvF抗原を搭載するセンダイウイルス(SeV)粒子ワクチンを開発した。EnvF抗原はSeV粒子に効率的に取り込まれるとともに、Env三量体構造を認識する抗HIV中和抗体により認識され、EnvFが三量体抗原標的を提示しうることを明らかにした。また、動物実験で、EnvF発現SeVおよびEnvF搭載SeV粒子の接種により抗Env抗体が効率的に誘導されることを明らかにし、本プラットフォームがウイルス感染症に対する抗体誘導ワクチン開発において有用であることを示した。