国立感染症研究所

 

世界保健機関(WHO)による鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの人への感染に関するリスクアセスメント

 

2013 年5 10

 

邦訳担当 感染症疫学センター

 

 

 

要約

 

中国の国家衛生・計画生育委員会は世界保健機関(WHO)に対し、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの人感染事例を計131人報告し、台北CDCは1人を報告している。患者は男女の広範囲の年齢層で報告されているが、多くは中高年の男性である。32人が死亡し、その他の患者の大部分は重症者と考えられている。台北CDCから報告された患者1人(最近江蘇省への渡航歴あり)に加え、安徽省、福建省、河南省、湖南省、江蘇省、江西省、山東省、浙江省、北京市、上海市から患者が報告されている。

 

 

このウイルスについては、ウイルス循環に関わる保有宿主となる動物や、主な曝露や感染経路、人や動物でのウイルス伝播の範囲を含め不明な点が多い。調査は継続されており、これまでの証拠は決定的ではない。とはいえ、人への感染は生きた家禽または汚染した環境への曝露に関係しているとみられる。その理由は以下のとおりである:

  • 人から分離されたウイルスの遺伝子は動物や環境(生鳥の市場)で見つかったウイルスの遺伝子と相同性が高い。
  • 多くの症例(約4人に3人の割合)では、動物、大部分は鶏への曝露歴が報告されている。
  • ウイルスは生鳥の市場の家禽で検出されている。
  • 症例数は生きた動物の市場を閉鎖した後に減少してきたとみられる。
  • このウイルスの保有宿主が鶏以外の家禽類、野鳥類、哺乳類などにおいても存在する可能性については、結論に達していない。家族内クラスターの2事例が報告されているが、持続的な人-人感染の証拠はない。
  • 確定症例の接触者(2千人以上)の監視と検査を行ったが、感染者はほとんど見つからなかった。
  • 3月と4月にインフルエンザ様疾患(ILI)症例2万人以上を検査したところ、H7N9確定症例は6人のみであった。この事実は、H7N9の感染で軽症者は大規模には発生していないことを示唆している。

 

今回、鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスのサブタイプの人への感染が初めて検出された。これまでは、他のインフルエンザA(H7)亜型ウイルスの人での散発例が、家禽でのアウトブレイクに関連して報告されていた。(H7)亜型ウイルスに感染した僅かな患者は、死亡例1人を除いては概して軽症で、結膜炎を示す程度であった。人から分離された鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの遺伝子や検査の特徴は以下の通りである:

  •  このウイルスは、複数の起源からのインフルエンザウイルス遺伝子を含んでいる。
  • アミノ酸の置換によりα2-6レセプターへの親和性を増すような遺伝子変異がいくつかみられることから、H7N9はほかの鳥インフルエンザウイルスよりも人を含む哺乳類への感染力を増強させているかもしれないことが示唆されている。
  • 分離ウイルスの遺伝子配列の多様性から、動物から人へのこのウイルスの侵入は一度ではなく複数回あったことが示唆される。
  • 遺伝子解析によれば、これらのウイルスは、一般的にノイラミニダーゼ阻害剤のオセルタミビルやザナミビルに対して感受性で、アマンタジンやリマンタジンに対して耐性であると予想される。
  • 分離ウイルスのヘマグルチニンは、鳥に対する低病原性と関連した構造を有している。

 このウイルスが家禽に重症を引き起こすとの報告はない。この危険信号の欠損のため、鳥インフルエンザA(H5N1)とは対照的に、このウイルスを鳥から容易に検出するには限界がある。

 

リスクアセスメント

 このリスクアセスメントは2013年4月13日付の評価文書に替わるものである。これは、WHOの発表した急性期の公衆衛生上の事象に対する迅速なリスクアセスメントへの提言を踏まえて行われたものであり、追加情報が入手され次第更新される。今回のリスクは、前回の評価と変わっていない。

 

感染流行地域で症例がさらに発生するリスクは?

 このウイルスの主な保有宿主や動物間での地理的な広がりを含め、このアウトブレイクの疫学とウイルスに関する理解は限られている。しかし、多くの人のH7N9感染は動物との接触や生鳥の市場と関連している。さらに症例が発生すると予想される。H5N1のような他の鳥インフルエンザウイルスは、人の症例の発生頻度は夏季に低く冬季に高いといった季節性パターンを示している。H7N9感染が同様の季節性パターンに従うかは注目すべきである。多くの症例の臨床像は重症である。

 

人―人感染のリスクは?

 持続的な人―人感染の証拠はない。しかし、家族内クラスターの2事例が報告されており、患者とその他の人との間で濃厚接触のあった場合には、家族内、場合によっては医療機関内で、限定的な人―人感染が発生しうることが示唆される。さらに、今回のウイルスでみつかった、哺乳類への適応を示唆する遺伝子変異は懸念されるところであり、さらなる適応が起こるかもしれない。もし持続的な人―人感染が発生し重症者が増加すれば、医療システムに大きな負担がかかるであろう。

 

旅行者によるH7N9の国際的伝播のリスクは?

 国際的伝播が発生したという兆候はない。症状の有無に関わらず、感染者が海外を旅行すれば、感染が拡大する可能性がある。しかし、このウイルスは持続的な人―人感染を起こさないとみられるため、広範な流行地域の可能性は低い。もし、ウイルスの伝播力が増せば、拡大の可能性も同様に増すであろう。

 

WHOはH7N9に関連した渡航の予防措置を推奨するか?

WHOは、本事例に関する入国の特別なスクリーニングの勧告、渡航または貿易の制限を推奨するものではない。

参考文献

Liu D, S. W. (2013). Origin and diversity of novel avian influenza A H7N9 viruses causing human infection: phylogenetic, structural, and coalescent analyses. Lancet: http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(13)60938-1/fulltext

Li Q, Z. L. (2013). Preliminary Report: Epidemiology of the Avian Influenza A (H7N9) Outbreak in China. New England Journal of Medicine: http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1304617#t=article

Chen Y, L. W. (2013). Human infections with the emerging avian influenza A H7N9 virus from wet market poultry: clinical analysis and characterisation of viral genome. Lancet: http://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(13)60903-4/fulltext

Cuiling Xu, Fiona Havers, Lijie Wang, Tao Chen, Jinghong Shi, Dayan Wang, Jing Yang, Lei Yang, Marc-Alain Widdowson, and Yuelong Shu. (2013). Monitoring Avian Influenza A(H7N9) Virus through National Influenza-like Illness Surveillance, China. Emerging Infectious Diseases: http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/19/8/13-0662_article.htm

Liu Q, L. L. (2013). Genomic signature and protein sequence analysis of a novel influenza A (H7N9) virus that causes an outbreak in humans in China. Microbes and Infection: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/23628410
WHO. (2012). Rapid Risk Assessment of Acute Public Health Events: http://www.who.int/csr/resources/publications/HSE_GAR_ARO_2012_1/en/

追加情報

直近のアウトブレイクニュースの多くは次のサイトで確認できる:

http://www.who.int/csr/don/en/index.html


鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスの人への感染についてのFAQやその他の情報は次のサイトで入手できる:
http://www.who.int/influenza/human_animal_interface/influenza_h7n9/en/index.html


中国で人への感染を起こしたインフルエンザA(H7N9)の公衆衛生上重要なウイルス学的特徴について:
http://www.euro.who.int/en/what-we-do/health-topics/communicable-diseases/influenza/publications/2013/public-health-relevant-virological-features-of-influenza-ah7n9-causing-human-infection-in-china

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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