検体中のSARS-CoV-2ウイルスコピー数とウイルス力価に係る考察
(IASR Vol.42 p22-24: 2021年1月号)
はじめに
仙台市における最初の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者は2020年2月29日に確認され, それ以降9月30日までに261名の新規患者が確認されている。そこで, 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の遺伝子が検出された検体について, ウイルス分離を試み, ウイルスコピー数との相関性を考察した。
検体からのSARS-CoV-2遺伝子検出およびコピー数の算出は, 病原体検出マニュアル 2019-nCoV(国立感染症研究所)に記載された「TaqManプローブを用いたリアルタイムone-step RT-PCR法による2019-nCoVの検出」に従ってN2セットで行った。ウイルス分離はSARS-CoV-2遺伝子が検出された193検体(鼻腔ぬぐい液189検体, 唾液4検体)を用い, VeroE6細胞をシートさせた24穴プレートに検体100μLを3穴ずつ接種し, 30分以上感作後検体を除去し, 2%FCS加MEMを0.5mL上層し, 1週間細胞変性効果(CPE)を観察して行った。
陽性検体中のウイルスコピー数
COVID-19と診断された人の年齢分布と初回検査時の検体1μL当たりのウイルスコピー数を表1に示した。陽性者は20~30歳が98人と一番多く, 次いで30代で, 20歳未満での陽性者は少なかった。初回検査時のウイルスコピー数は, 60歳以上が平均で70万コピーを超えて最も多く, 次いで20代, 40代, 30代と続き, 10歳未満は平均で18,647コピーと少なかった。なお, 67人は検体採取時は, 無症状であった。
図1に発症日から検査日までの日数とウイルスコピー数の関係を示した。相関性はみられなかった(R2=0.3905)が, ウイルスコピー数は発症後2日目が一番多く, 発症後15日前後で1コピー未満まで減少する傾向がみられた。
検体からのSARS-CoV-2の分離
検体からのSARS-CoV-2の分離にはVeroE6細胞を用い, その結果を表2に示した。10,000コピー以上のウイルスが認められた95検体中89検体(93.7%)でSARS-CoV-2が分離されたのに対し, 1,000コピー未満の49検体では10検体(20.4%)しかウイルス分離はできず, 分離できた検体のウイルスコピー数の下限値は81コピーであった。
検体中のウイルス力価の測定
SARS-CoV-2が分離できた陽性検体46検体(すべて鼻腔ぬぐい液)について, 2%FCS加MEMで10-106まで10倍段階希釈系列を作成し, VeroE6細胞をシートさせた96穴プレートに各希釈液50μLを4穴ずつ接種し, 1週間CPEを観察した。ウイルス力価の計算はKarBerの式によってTCID50/50μLとして算出した。さらに, 各段階希釈液について, リアルタイムPCR法によりウイルスコピー数/検体1μLを測定した。得られたデータをもとに散布図を作成したところ, 累乗近似曲線はY=943.86X0.7711となり, 相関性が認められ(R2=0.7503), 1TCID50は約944コピー/検体1μLであると算出された(図2)。
考 察
陽性検体のウイルスコピー数は20~30歳と60歳以上の高齢者で増加し, また, 発症後2日目の検体が最も多く, 発症日数の経過とともに減少していく傾向がみられた。ウイルス分離は概ね10,000コピー以上の検体では高率であったが, コピー数の減少とともに分離率も低下し, 分離できた検体中のウイルスコピー数の下限値は81コピー/μLであった。また, 検体中のウイルスコピー数とウイルス力価の比較から検体の1TCID50は約944コピー/μLであったことから, 検体中の感染粒子数は1μL当たり100~1,000コピーに1個程度と推定された。しかし, この推定からはみ出す検体もみられたことから, ウイルス力価を検討していく場合は, 検体の採取時期, 採取方法, 検体の保管法, 輸送用培地使用の有無など, 様々な要因を考慮していく必要があると考えられる。
COVID-19の流行は続いており, 仙台市内においても継続してSARS-CoV-2陽性者が見出されている。SARS-CoV-2の検体中の動態や病原体ゲノム解析は, 早期診断, 感染拡大防止, 予防および治療法の確立にとって重要であり, 今後も調査を継続していく予定である。
本調査は, 厚生労働行政推進調査事業費補助金(厚生労働科学特別研究事業)の助成により実施した。