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英国におけるHibの血清抗体分布、2009年

(IASR Vol. 34 p. 209: 2013年7月号)

 

イングランドとウェールズで、Haemophilus influenzae type b(Hib)の発生が最も少なかった2009年にHib の抗体分布状況が調べられた。健康保護庁の血清疫学ユニットにNational Health Serviceの病院から集められた通常検査の残血清 2,693検体(6~11カ月 104、1~4歳 653、5~14歳 990、15~24歳 343、25~44歳 301、45~65歳 121、65歳以上 181)について抗莢膜多糖体(PRP) IgGを調べたところ、小児には十分な免疫があると考えられた。1~4歳は中央値2.65μg/mL、5~9歳は1.95μg/mLと高値で、1993~1994年の調査、1995~2001年の調査よりも有意に高かった(p <0.01)。一方10代は0.54μg/mLと、前回調査に比べ抗体価は下がっていたが、成人の0.16μg/mLに比べ有意に高かった。成人は予防接種を受けていない可能性が高く、51%が短期間の予防を可能にする抗体レベル(0.15μg/mL以上)すら持たなかった。流行が抑えられている第一の理由は、2003年と2007年の就学前ブースター接種を含む多様なワクチンキャンペーンにより10歳までの小児が十分な免疫を得たことによると考えられる。一方、10歳以上の免疫が低いことから学童期頃のブースター接種の必要性が示唆される。

 

(Euro Surveill. 2012;17(46):pii=20313)

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The Topic of This Month Vol.34 No.7(No.401)

侵襲性インフルエンザ菌感染症

(IASR Vol. 34 p. 185-186: 2013年7月号)

 

インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae)は、グラム陰性短桿菌で、乳幼児の多くは本菌を鼻咽頭に保菌する(本号9ページ)。本菌感染症は、菌血症から全身に播種される侵襲性感染症と非侵襲性感染症がある。侵襲性感染症は、血液や髄液等、本来無菌的な部位から細菌が分離された場合を指し、一般的に重症例が多い。本菌は、莢膜株と型別不能株(non-typable H. influenzae ; NTHi)に大別され、小児の侵襲性感染症の原因の主体はb型の莢膜を有するH. influen-zae type b(Hib)である(本号3ページ)。一方、NTHiは小児および成人の非侵襲性感染症(中耳炎、慢性閉塞性肺疾患の増悪など)の主要な原因菌である。

莢膜型とHibワクチン:莢膜株は多糖体の糖鎖構造の違いによりa~fの6つの莢膜型に分かれる。莢膜型の決定は、a~fの各莢膜型に特異的な抗血清を用いた菌凝集法により実施する。各莢膜型に特異的な配列をpolymerase chain reaction (PCR)で検出することにより、莢膜型を決定することもできる(本号8ページ)(詳細は、病原体検出マニュアル「細菌性髄膜炎検査マニュアル」を参照、http://www.niid.go.jp/niid/images/lab-manual/hib-meningitis.pdf)。

わが国では、2008年12月には、乾燥ヘモフィルスb型(Hib)ワクチン(破傷風トキソイド結合体)による任意接種が開始され、2010年11月には「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業」の開始とともに、5歳未満の小児に対するHibワクチン接種は全国的に公費助成対象となった。さらに、2013年4月の予防接種法の改正に伴いHibワクチンは定期接種に組み込まれた。通常のHibワクチン接種スケジュールにおいては、生後2~7カ月未満の乳児に対して接種を開始し、3回の初回免疫後おおむね1年後に追加免疫が推奨されている(本号15ページ)。

Hibワクチンの抗原はHib菌体表層の莢膜多糖体であるpolyribosylribitol phosphate (PRP)と呼ばれる多糖体である。Hib感染症においては血清型特異的抗体がその感染防御に不可欠とされている。Hibワクチンで誘導される特異抗体の評価にはELISA法による血清中抗PRP IgG測定およびHib を用いた血清殺菌活性(serum bactericidal assay: SBA)がある(本号6ページ)。

疫学的状況:感染症法に基づく感染症発生動向調査ではH. influenzae による髄膜炎は、2013年3月までは、全国約 500カ所の基幹病院定点から報告される細菌性髄膜炎に含まれていた(4月以降は、髄膜炎菌、肺炎球菌、インフルエンザ菌を原因として同定された場合を除く細菌性髄膜炎の報告に変更された)。2006~2010年には、年間 347~477例の細菌性髄膜炎の報告のうち、56~83例がH. influenzaeに起因していた(表1)。2006~2012年のH. influenzae による髄膜炎患者の93%(400例中 372例)は、5歳未満の小児であった。また、Hibワクチン公費助成開始後の2011年には49例と減少傾向を示し、2012年には14例まで減少した。この2011~2012年のH. influenzaeによる髄膜炎患者の減少は、2歳未満の小児で顕著であった(図1)。

2013年4月の予防接種法改正によりHibワクチンが定期接種化され、これに伴いHibによる細菌性髄膜炎を含む「侵襲性インフルエンザ菌感染症」が全数把握対象疾患(5類感染症)に追加された(IASR 34: 111, 2013)。届出基準は、「Haemophilus influenzaeによる侵襲性感染症のうち、本菌が髄液又は血液から検出された感染症とする」と定義され、検査診断は菌分離あるいは遺伝子検出のいずれかによる(http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-44.html)。表2には2013年第14週~23週までに届出のあった侵襲性インフルエンザ菌感染症の31症例を示す。症例の年齢分布は小児と高齢者の二相性のピークを示した(図2)。成人例の大半は高齢者の菌血症を伴う肺炎例であり、うち3例が死亡例であった。1症例のみb型と報告されたが、他の症例では分離株の莢膜型は報告されていない。2013年4月以降に開始された発生動向調査から、成人とりわけ高齢者における侵襲性インフルエンザ菌感染症の発生状況が明らかになっている。

一方、厚生労働省研究班事業として2007年から始まった「ワクチンの有用性向上のためのエビデンスおよび方策に関する研究」(庵原・神谷班)によって10道県における5歳未満人口10万人当たりのHibによる侵襲性感染症の平均罹患率が調査されている。Hibワクチン公費助成前の2008~2010年には髄膜炎 7.7、菌血症を伴う非髄膜炎 5.1であったが、2012年には髄膜炎 0.6(減少率92%)、菌血症を伴う非髄膜炎 0.9(減少率82%)にまで減少したことが明らかになっている(本号1011ページ)。同様の傾向は、全国の厚生労働省院内感染対策サーベイランス(JANIS)の検査結果の集計からも示唆された(本号13ページ)。

薬剤耐性株の出現Haemophilus influenzaeの耐性機序には、β-lactamase産生によるものとβ-lactamase産生によらないものとがある。とくに、β-lactamase非産生アンピシリン耐性(β-lactamase-non-producing ampicillin-resistance: BLNAR)の増加傾向が示唆されており、注意を要する(本号11ページ、IASR 31: 92-93, 2010およびIASR 23: 31-32, 2002)。 

今後の対策と課題:海外ではHib ワクチン導入後に非b型(NTHiを含む)による侵襲性感染症の増加が報告されている。国内においては、最近になって、Hibワクチン3回接種後のf型による髄膜炎例が確認されており(本号11ページ)、またNTHiによる小児や成人の侵襲性感染症が報告されている(本号5ページ)。このような背景から、小児に対するHibワクチンの定期接種後の小児および成人におけるHibのみならず、b型以外の莢膜株およびNTHiによる侵襲性感染症の動向の監視が必要である。2013年度から、感染症流行予測調査事業の感染源調査として、本菌の莢膜型解析を含めた病原体サーベイランスの実施が予定されている。

 

特集関連情報

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<通知>感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令の施行等について(施行通知)

(IASR Vol. 34 p. 111: 2013年4月号)

 

               健発第0307第1号
               平成25年3月7日
   都道府県知事
各 政令市市長  殿
   特別区区長
              厚生労働省健康局長
 

 感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律施行規則の一部を改正する省令(平成25年厚生労働省令第23号。以下「改正省令」という。)が本日公布され、平成25年4月1日から施行されるところであるが、その改正の概要等は下記のとおりであり、貴職におかれては、内容を御了知の上、関係機関等へ周知を図るとともに、その実施に遺漏なきを期されたい。 

1 改正省令の概要
  (1)五類感染症の対象疾病
     ・  五類感染症の対象疾病について、以下の疾病を追加する。
          (1)侵襲性インフルエンザ菌感染症
          (2)侵襲性髄膜炎菌感染症
          (3)侵襲性肺炎球菌感染症
     ・ (1)、(2)及び(3)の疾病の追加に伴い、これらの疾病との重複を避けるため、細菌性髄膜炎からこれらの疾病を除くとともに、髄膜炎菌性髄膜炎を削除する。

  (2)全数把握対象疾患及び定点把握対象疾患
   侵襲性インフルエンザ菌感染症、侵襲性髄膜炎菌感染症及び侵襲性肺炎球菌感染症については全数把握対象疾患とする。(細菌性髄膜炎については引き続き定点把握対象疾患とする。)

2 施行期日
  平成25年4月1日

3 感染症発生動向調査事業実施要綱の一部改正
  感染症発生動向調査事業実施要綱(平成11年3月19日付け健医発第458号)について別添新旧対照表(略)のとおり改める。

  この実施要綱の改正は、平成25年4月1日から施行する。

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血液から分離されたHaemophilus influenzae  e型について―秋田県

(IASR Vol. 33 p. 164-165: 2012年6月号)

 

インフルエンザ菌(Haemophilus influenzae )は、1×0.3μmほどの多形性のグラム陰性桿菌で、気管支炎、肺炎、中耳炎、副鼻腔炎といった市中感染症のほか、小児における細菌性髄膜炎の重要な起因菌として知られている。菌体の表面に莢膜と呼ばれる構造を持つ菌と持たない菌が存在し、莢膜は血清学的にa~fの6型に分けられる。しかしながら、小児の細菌性髄膜炎等の侵襲性感染症から分離される菌型はほとんどがb型(Hib)である。今回、患者の血液培養からH. influenzae  e型を確認したので報告する。

臨床(患者)情報
76歳男性。1995(平成7)年から狭心症として内服治療を受け、2006(平成18)年7月には、症状増悪にて右冠動脈病変に対してCypher stentが留置されていた。

2011(平成23)年1月に胃角部の胃癌のため腹腔鏡下幽門側胃切除術を受ける。手術自体の合併症はなかったが、術後から経口摂取不良による栄養障害が著明となり、一般状態が低下、全身の衰弱も顕著となっていた。

平成23年11月22日、咳嗽が強く、誤嚥性肺炎の診断にて入院となった。入院後ピペラシリン/タゾバクタム(PIPC/TAZ)2.25g、1日2回の点滴などで治療が行われ、肺炎はいったん改善した。入院中に誤嚥性肺炎を再発し、12月7日からセフェピム(CFPM)1g、1日2回で治療が行われた。以後は中心静脈栄養で管理が行われたが、肺炎を反復し、12月26日からはセフメタゾール(CMZ)1g、1日2回で加療されたが高熱が続いた。2012(平成24)年1月6日からはセフォペラゾン/スルバクタム(CPZ/SBT)1g、1日2回で加療されたが、臨床的な改善はなく、1月18日にはCO2ナルコーシスとなり昏睡状態となった。家族の希望で人工呼吸器治療は施行されず、平成24年1月31日に永眠した。

菌分離と血清型別
平成24年1月5日の患者の静脈血培養から、H. influenzae (HI-2544)を分離した。HI-2544について、莢膜の血清型別を市販の抗血清(デンカ生研)を用いた免疫学的手法とPCR法(Falla, et al ., J Clin Microbiol, 32: 2382-2386, 1994)により行ったところ、e型の抗血清に特異的に凝集を示すとともに、PCRにおいてもe型に特異的なバンドが検出された(図1)。これらの結果から、H. influenzae  e型と判定された。

薬剤感受性
PIPC、CPZ/SBT、セファクロル(CCL)、セフタジジム(CAZ)、セフジニル(CFDN)、イミペネム(IPM)、レボフロキサシン(LVFX)についてディスク法により阻止円を計測した。また、アンピシリン(ABPC)、セフォタキシム(CTX)、メロペネム(MEPM)についてはE-testを用いてMICを測定した(表1)。

薬剤耐性遺伝子の検出
HI-2544について、PCR法によりbla TEM(今野ら, IASR 31: 209-210, 2010)およびbla ROB(Tenover, et al ., J Clin Microbiol 32: 2729-2737, 1994)の検出を試みたが、いずれも(-)であった。次に、penicillin binding protein(PBP)の変異を検出するため、β-lactamase-negative ampicillin-resistant H. influenzae (BLNAR)のgroup I、IIおよびIIIに特徴的なアミノ酸変異部分にプライマーを設計し、PCRを行ったところ、BLNAR group IIIに該当する増幅断片が得られた(図2)。

考 察
今回、誤嚥性肺炎から菌血症に至る中で血液培養よりH. influenzae  e型を確認した。

2008年の小児向けHibワクチンの販売に伴い、b型以外の菌型による侵襲性感染症の発生動向が注目されており、b型以外の血清型を確実に把握することは本菌による感染症の動向を把握する上で極めて重要である。特にe型が分離された症例は稀であるが、その臨床的な特徴はHibと同様と考えられている(Cerquetti, et al ., Clin Infect Dis 38: 1041, 2004)。また、BLNARの場合、治療に難渋することが多く、薬剤耐性の状況も併せて注視していくことが必要と思われる。

 

秋田県健康環境センター保健衛生部 今野貴之 八柳 潤 高橋志保 熊谷優子 和田恵理子 千葉真知子 齊藤志保子
大館市立総合病院 臨床検査科 佐藤謙太郎 奈良昇悦 三浦浩子 太田和子
ICD 高橋義博
大館市立扇田病院院長(内科医) 大本直樹

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インフルエンザ菌b型(Hib)ワクチンおよび7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)導入が侵襲性細菌感染症に及ぼす効果について

(IASR Vol. 33 p. 71-72: 2012年3月号)

はじめに
インフルエンザ菌および肺炎球菌は小児期細菌感染症の代表的な起因菌であり、いずれも髄膜炎、菌血症、関節炎、肺炎などの侵襲性感染症と、上気道炎、中耳炎、副鼻腔炎などの局所感染症の原因となっている。インフルエンザ菌において侵襲性感染症を引き起こすのは、細菌膜の外側に莢膜を有する菌(莢膜株)であり、局所感染症を引き起こすインフルエンザ菌の多くは莢膜を持たない菌(無莢膜株)である。莢膜株は莢膜の抗原性の違いからa~fまでの6種類に分類され、侵襲性感染症の95%はb型(インフルエンザ菌b型、Hib)によるものである。一方、肺炎球菌は90種類以上の血清型に分類され、いずれの型も侵襲性感染症をおこすが、年齢によって侵襲性感染症をおこす血清型が異なっている。7価肺炎球菌結合型ワクチン(PCV7)は、本邦小児の侵襲性肺炎球菌感染症(IPD)の約75%をカバーしている1) 。

2008年12月にHibワクチンが販売開始され、2010年2月にPCV7が販売開始されたが、公費助成が行われた一部の市区町村を除き接種率は低率であった。しかし、2010年12月に「子宮頸がん等ワクチン接種緊急促進事業(緊急促進事業)」が開始され、翌年の2月からはほとんどの市区町村でヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンに加え、Hibワクチン、PCV7も公費助成で接種が可能となり、Hibワクチン、PCV7の接種率が上昇した。

2007年度から始まった「ワクチンの有用性向上のためのエビデンス及び方策に関する研究」班(神谷班)では、研究課題の一つとして、HibワクチンおよびPCV7導入に備え、10道県における侵襲性インフルエンザ菌感染症およびIPDの疫学調査を2008年(1~12月)から開始した。2010年度から継続した「新しく開発されたHib、肺炎球菌、ロタウイルス、HPV等の各ワクチンの有効性、安全性ならびにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究」班(2011年2月に神谷班長が逝去したため庵原・神谷班に名称変更)においても疫学調査を継続し、同時に侵襲性インフルエンザ菌感染症およびIPDを発症した患児から分離された起因菌の血清型と薬剤感受性を調査している。2011年の疫学調査で侵襲性Hib感染症罹患率の減少が認められたので報告する。

調査方法
侵襲性インフルエンザ菌感染症およびIPD調査を行っている道県は、北海道(5歳未満人口推計値203,000人、調査協力病院数59)、福島県(84,000人、16病院)、新潟県(91,000人、41病院)、千葉県(260,000人、69病院)、三重県(80,000人、14病院)、岡山県(84,000人、17病院)、高知県(29,000人、11病院)、福岡県(226,000人、34病院)、鹿児島県(74,000人、18病院)、沖縄県(82,000人、16病院)の10道県である。2009(平成21)年10月時点での10道県をあわせた5歳未満人口推計値は1,213,000人であり、全国の5歳未満人口の推計値(5,376,000人)の22.6%を占めている。

各県に一人の研究協力者を依頼し、各研究協力者は、それぞれの県内の小児科入院施設がある医療機関の小児科部長(医長)に侵襲性細菌感染症患者が入院したとき、患者情報を提供するよう依頼した。また、情報の提供漏れがないかを確認するために、定期的に各医療機関に電話またはファックスで入院情報の提供を求めた。患者情報としては、家族構成、集団保育の有無、HibワクチンおよびPCV7のワクチン歴、発症時の年齢(月齢)、臨床経過、予後などである。なお、北海道は髄膜炎のみの調査であり、他の9県は侵襲性感染症すべての調査である。今回は速報として各侵襲性感染症の罹患率を報告する。

結果表1表2
2008~2010年までの3年間の5歳未満人口10万人当たりのHib髄膜炎罹患率は、7.1~ 8.3(平均7.7)であったが、2011年には3.3と、57.1%減少していた。また、髄膜炎以外の侵襲性Hib感染症も3年間の5歳未満人口10万人当たりの罹患率は3.8~ 6.3(平均 5.1)であったが、2011年には2.8と45.1%減少していた。

IPDの調査では、2008~2010年までの3年間の肺炎球菌髄膜炎の罹患率は、2.6~3.1(平均2.8)であったが、2011年には2.1と25%減少し、髄膜炎以外のIPDは、3年間の罹患率21.2~23.5(平均22.0)から2011年には14.9と32.3%減少していた。

考察およびまとめ
Hibワクチンが導入される前のわが国のHib髄膜炎の罹患率は、5歳未満人口10万人当たり6.1~8.6人とされている2) 。今回の調査で示された2008~2010年の5歳未満人口当たりの罹患率7.1~8.3は、以前の調査結果と一致する罹患率であり、各県とも適切な報告がなされていると判断された。また、小児髄膜炎起因菌の調査では、Hib髄膜炎と肺炎球菌髄膜炎の発症比率は約3:1の関係があり3) 、今回の調査でもほぼ同じ比率であった。

HibワクチンおよびPCV7には集団免疫効果がある。Hibワクチンを定期接種している国ではHib髄膜炎が99%、PCV7を定期接種している国ではすべての血清型の肺炎球菌髄膜炎が75%減少している1,2) 。また、PCV7では40%の接種率で乳幼児のIPDが80%低下している4) 。わが国でHibワクチンおよびPCV7の公費助成による接種が、実質的に始まったのは2011年2月からであるが、Hib髄膜炎では57.1%減少し、Hib非髄膜炎では45.1%減少していた。Hibワクチンは2008年12月から市販されていること、緊急促進事業が始まる前から一部の市区町村では公費助成が行われていたこと等から、Hibワクチンの効果が比較的早期に認められるようになったと推察している。今後接種率が高まることで、欧米各国と同様の高い発症抑制効果が期待される。

今回の調査では、肺炎球菌髄膜炎は25.0%減少し、肺炎球菌非髄膜炎は32.3%減少していた。PCV7は2010年2月から市販されたワクチンであること、肺炎球菌髄膜炎の発症頻度はHib髄膜炎と比べて低いこともあり、今回の調査におけるPCV7の効果は評価しがたいと考えている。今後、各道県の接種率を含めたさらなる追跡調査が必要である。

4年間の継続した研究から、Hibワクチンの効果が認められ始め、PCV7の効果も期待されるものがあった。侵襲性インフルエンザ菌感染症およびIPDは比較的頻度が低い感染症であり、人口10万に当たりの罹患率調査が必要である。本研究班で行っている10道県の調査は順調に進んでおり、この調査を継続することでHibワクチンおよびPCV7の効果がさらに明確になることが期待される。

HibワクチンやPCV7が普及した先進国では、Hib以外の莢膜型による侵襲性インフルエンザ菌感染症の増加が話題になっており、肺炎球菌ではPCV7に含まれない血清型の肺炎球菌による侵襲性感染症の増加が報告されている1) 。本研究班では侵襲性インフルエンザ菌感染症およびIPDをおこした起因菌の血清型のサーベイも行っており、今後の対策を図るうえで貴重なデータが提供できると考えている。

PCV7は小児IPD起因菌の血清型の75%しかカバーできていないこと、PCV接種をうけポリサッカライドに対する抗体は上昇したが、機能性抗体であるopsonophagocytic activity(OPA)が十分に誘導されない人がいることなどの理由で、PCV7の接種を受けたがIPDを発症する症例が少なからず存在する。PCV7を受けたがIPDを発症した人からの分離菌検査や血清OPA活性検査は、PCV7の効果を評価するために必要な検査である。本研究班ではこの研究も行っており、ワクチン行政に貢献することに努めている。

 参考文献
1)石和田稔彦, 日本臨床 69: 1584-1588, 2011
2)勝田友博, 齋藤昭彦, 日本臨床 69: 1589-1593, 2011
3)砂川慶介, 他, 感染症誌 84: 33-41, 2010
4) Talbot TR, et al ., Pediatr Infect Dis 23: 726-731, 2004

国立病院機構三重病院小児科 庵原俊昭 菅 秀 浅田和豊
札幌市立病院看護学部 富樫武弘
福島県立医科大学小児科 細矢光晃 陶山和秀
千葉大学小児科 石和田稔彦
新潟大学小児科 齋藤昭彦 大石智洋
岡山大学保健学研究科 小田 慈
高知大学小児科 脇口 宏 佐藤哲也
国立病院機構福岡病院 岡田賢司
鹿児島大学小児科 西 順一郎
沖縄県立南部医療センター・こども医療センター 安慶田英樹

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan