国立感染症研究所

SARS、MERS、COVID-19を含むコロナウイルス感染症に関する記事がWebサイト全体から集められて表示されます。

 

2015年6月4日

国立感染症研究所

 

〇事例の概要

2012年9月22日に英国よりWHOに対し、中東へ渡航歴のある重症肺炎患者から後にMiddle East Respiratory Syndrome Coronavirus(MERSコロナウイルス)と命名される新種のコロナウイルス(以下、MERS-CoV)が分離されたとの報告があって以来、中東地域に居住または渡航歴のある者、あるいはMERS患者との接触歴のある者において、このウイルスによる中東呼吸器症候群(MERS)の症例が継続的に報告され、医療施設や家族内等において限定的なヒト-ヒト感染が確認されている。

 

〇疫学的所見

  • 2015年6月3日までに、ヒト感染の確定症例1,179例(死亡442例:致命率38%)がWHOに報告された(WHO Disease Outbreak News http://www.who.int/csr/don/en/ に適宜更新情報掲載)。66%(1,165例)が男性、年齢中央値は49歳(範囲 9か月-99歳、1,172例にもとづく)。報告地域は中東地域(ヨルダン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、イエメン、イラン、レバノン)、アフリカ(エジプト、チュニジア、アルジェリア)、ヨーロッパ(フランス、ドイツ、ギリシャ、イタリア、英国、オランダ、オーストリア、トルコ)、アジア(マレーシア、フィリピン、韓国、中国)、北アメリカ(米国)の計25か国である。中東地域以外の国からの報告例は、すべて中東地域への渡航歴のあるもの、もしくはその接触者であった。
  • 中東以外の国で、輸入例を発端とした国内感染事例が報告されているのは、イギリス、フランス、チュニジア、韓国の4か国である。
  • 感染経路として、動物からの感染、医療機関や家族内におけるヒト-ヒト感染が報告されているが、曝露歴が不明なものも認められる。
  • 2015年1月1日以降、157例のMERS患者がサウジアラビアから報告され、患者の多くは20の病院におけるアウトブレイク事例と関連があったと報告されている。過去の事例と比較し、病院におけるアウトブレイクの増加を認めるものの、その規模は小さい。家族内での限定的なヒト-ヒト感染も認められている。
  • 韓国での発生状況
    (発生数の最新情報は厚生労働省検疫所HP http://www.forth.go.jp/topics/fragment1.html 参照):中東への渡航歴のある60代男性の確定例と、確定例から感染したと思われる2次感染例が29例、3次感染が疑われる症例が5例、総数35例が報告されている(2015年6月4日現在。2次感染例のうち1例は中国へ渡航した後に中国で確定診断され隔離中)。初発例は、発症から確定診断されるまでの10日間に4つの医療機関で加療を受けており、そのうち3つの医療機関において2次感染が発生し、さらに2次感染例が加療を受けた医療機関において3次感染が発生した。発端となった症例の曝露歴、基礎疾患、また2次・3次感染例の症状の有無、基礎疾患、院内感染がおこった状況などの詳細は現在のところ明らかではない。韓国・中国で確定例の接触者調査が現在進行中である((http://www.cdc.go.kr/CDC/notice/CdcKrIntro0201.jsp?menuIds=HOME001-MNU1154-MNU0005-MNU0011))。

〇臨床所見

2012年9月から2013年10月までにWHOに報告された161例(検査確定例144例と可能性例17例)の臨床像の解析では、軽症例から急性呼吸促迫症候群(ARDS)を来たす重症例まである。典型的病像は、発熱、咳嗽等から始まり、急速に肺炎を発症し、しばしば呼吸管理が必要となる。全症例の63.4%が重症化し、44.1%が肺炎を発症した。また、ARDSの合併は12.4%に認められた。少なくとも3分の1の患者は嘔吐、下痢などの消化器症状を呈した[1]。

 

〇学術論文情報

1. 疫学情報
  • 2012年12月1日から2013年12月1日にサウジアラビアにおいて、15歳以上の生来健康な成人を対象にした横断的な血清疫学調査が行われた。検査法はリコンビナントELISAでスクリーニング、抗体陽性の確認はリコンビナント免疫蛍光法とplaque reduction neutralization test によって行われた。対象となった10,009例中、抗MERS-CoV抗体が陽性だったのは15例(0.15%、95%信頼区間0.09-0.24)で、陽性例は13州のうち6州から検出された。年齢は平均43.5歳〔標準偏差(SD)17.3〕で、これまで確定例として報告されているもの(平均53.8歳、SD17.5)より若年であった。陽性例は、男性に多く(0.25% vs.0.05%、 p=0.028)、海岸地域よりも中央の地域(0.26% vs.0.02%、p=0.003)に多かった。また、一般人口と比較し、羊飼いで15倍(2.3%, p=0.0004)、と畜場での労働者で23倍(3.6%, p<0.0001)抗体陽性率が高かった。これまで報告された確定例のうち、明らかな感染源への曝露歴がない症例については、より軽症の感染例が感染源となっている可能性が考えられる[2]。
  • 2014年1月1日から5月16日の間にサウジアラビア保健省へ報告された確定例255例(real-time RT-PCRで診断。無症状例は、接触者調査や曝露後スクリーニングで実施された同検査で診断された)についての後方視的研究の報告によると、年齢中央値45歳、男性174例(68.2%)、医療従事者78例(31%)であった。死亡は93例(致命率36.5%)だった。255例のうち、有症状191例〔75%、うち医療従事者40例(21%)〕、無症状64例〔25.1%、うち医療従事者41例(64%)〕であった。ただし、無症状と報告された64例に対する追加調査では、インタビューが実施された33例中26例(79%)に、少なくとも一つ以上の呼吸器症状を認めた。255例の大半は医療機関および/または確定例との疫学的関連があり、当該事例における医療機関の果たした役割を浮き彫りにしている[3]。
  • 2013年4月1日から5月23日の間に、サウジアラビアのAl-Hasaにおいて23例の確定例(それ以外に11例の可能性例も存在)の報告があったが、これは4つの医療施設が関与したアウトブレイクであった。確定例23例のうち21例が、透析室、集中治療室、入院病棟においておこり、その中にはヒト—ヒト感染が確認された例もあったが、その感染様式は特定することができなかった。潜伏期間は中央値5.2日(95%信頼区間: 1.9-14.7日)、世代間隔(感染源の発症から二次感染者の発症までの期間)は、中央値7.6日(95%信頼区間:2.5-23.1日)と推定されている。病院スタッフに対する調査から、MERS症例との接点がない看護師補助員がMERSと確定診断されたが、MERS症例との接点がある他のスタッフ(2日間の発熱のみで呼吸器症状なし、特異的検査未実施)との接点以外に疑わしい曝露源がなかった[4]。
  • 2013年9月25日までの133例の症例情報によると、感染経路の情報のある129例のうち33例(26%)は院内感染の可能性があり、医療従事者の感染は全体で23例(17%)であった。2013年3~5月と6~9月の期間における致命率はそれぞれ63%(25/40)、33%(25/77)と低下傾向にある。また、18例(14%)の無症候あるいは軽症例が報告されている[5]。2013年2月、サウジアラビアのリヤドで呼吸器症状を呈した診断未確定の入院患者と接触した2名がMERSと診断された。この2例は、MERSと診断されていない患者からの院内感染が疑われた[6]。
  • サウジアラビアで2012年10-11月に発生した家族内集積事例の報告では、同居家族のうち男性のみに感染伝播が起こり(確定例2名、可能性例1名)、入院前のみに濃厚接触があったこれらの症例の配偶者は感染していないことから、病初期においては感染性が低い可能性が推察されている[7]。英国において2013年2月に発生した二次感染者2名の家族集積例における潜伏期間は19日と推定されている[8]。フランスではドバイから帰国して発症した1例とこの患者から院内感染した1例の計2例が報告された。本事例では、下気道検体のウイルス量は高濃度であったのに対し、上気道検体ではウイルスはほとんど検出できなかったことから、ウイルス検出のためには下気道からの検体が必要であることが指摘され、また潜伏期間は9-12日と推定されている[9]。
  • 2013年8月現在までに報告された症例情報等を用いた推計によると、940例(95%信頼区間:290-2200例)の有症状例が存在している可能性があり、少なくとも62%の症例は探知されていないという結果となった。また、対策がなされていれば、ヒトーヒト感染は持続的とならないといえるが、対策がなされない場合のR0は0.8-1.3と推定された[10]。
  • 2013年6月21日までの64症例から計算された基本再生産数(R0)は、低めの推計値(集団発生内に複数の初感染例を仮定)で0.60 (95%信頼区間: 0.42–0.80)、高めの推計値(集団発生ごとに一つの初感染例を仮定)で0.69 (0.50–0.92)といずれも1.00を下回った。MERSのR0は2003年のプレパンデミック段階としてのSARSコロナウイルスのR0 0.80 (95%信頼区間:0.54–1.13)よりさらに低いことから、現段階でMERSはパンデミックは起こしがたいと推察されている[11]。
2. ウイルス学的情報
【感染源となる可能性がある動物に関する検討】
  • 日本国内に棲息するヒトコブラクダは25頭前後と考えられるが、その内20頭についてMERSコロナウイルスの検査を行った。全ての個体について、糞や鼻腔拭い液中にウイルス遺伝子は検出されなかった。さらに5頭については血清中のウイルス中和抗体の検査をおこなったが、全て陰性であった。つまり日本のヒトコブラクダを調査した限りでは、MERSコロナウイルスを保有している個体は確認されていない[12]。
  • ラクダは、1歳で出荷されて人への接触の機会が多くなるが、この時期のラクダでは35.3%がMERSコロナウイルスの遺伝子陽性である。一方で2歳では2.9%にまで下がるので、出荷時期を遅らせれば、人への感染のリスクを下げることができると提案されている[13]。
  • サウジアラビアのヒトコブラクダの鼻腔からMERS-CoVが分離され、ヒトから分離されたウイルスの配列と同じであった。また、ヒトコブラクダは同時に複数のMERS-CoVに感染するという所見も得られている[14]。
  • サウジアラビアのAl-Hasaにおいて、ヒトコブラクダの群れの出産時期に前向きの調査を行い、MERS-CoVの感染が幼獣と成獣どちらにも認められることを確認した。ここで分離されたウイルスは、ヒトから分離されたもの(Clade B)と99.9%同一であった[15] 。
  • 2013年11月にサウジアラビアにおいて、MERS-CoVに感染したヒトコブラクダとの濃厚な接触(ラクダの世話や未殺菌のラクダ乳の喫食など)後に発症した1症例が報告された。患者とラクダの遺伝子配列解析から、種を超えたウイルス伝播が示唆された[16]。
  • 2014年2月にカタールのヒトコブラクダから分離されたウイルスは、2012年に同国でヒトから分離されたウイルスと99.9%の相同性のある遺伝子を持ち、受容体の結合に重要なほとんどのアミノ酸配列に変異はなかった [17]。
  • アラブ首長国連邦におけるヒトコブラクダの血清調査(2003年の151サンプル、2013年の500サンプル)において、計651サンプルのうち381サンプル(59.8%)がMERS-CoVの中和抗体(>1280倍)を持っていた[18]。オマーンのヒトコブラクダにおいてはMERS-CoVのスパイクに対するタンパク特異的抗体、MERS-CoVに対する中和抗体価はいずれも100%(50/50)陽性であった[19]。この結果から、ラクダにMERS-CoVあるいは類縁のウイルスが感染していると考えられた。
【ヒトからの分離ウイルスについての検討】
  • サウジアラビアで2013年の5-9月に得られた32のウイルス株のゲノム解析を行ったところ、4つのクレードに分類されることがわかった。そのうち3つのクレードに属するウイルスは、すでに患者において見つからなくなっており、この消失は、感度のよいサーベイランスと隔離が疾病のコントロールに有効であること、R0が1未満であることと関連している可能性がある。ただし、一つのクレードは継続して発生しており、診断されていない無症状者が感染を拡大させている可能性がある[20]。
  • 21例のヒトMERS症例についてのフルゲノム解析の結果, リヤドにおいては、1つのクレードの中でそれぞれ3種類の異なるゲノムタイプのウイルスが感染していた。持続的なヒトーヒト感染によって広がっている感染ではなく、それぞれが独立した動物由来の感染であることが考えられる。また、Al-Hasaのクラスターにおける解析の結果、病院におけるアウトブイレクにおいても、2種類以上のウイルスが検出されており、それぞれが独立した動物に由来の感染である可能性が示唆されている[21]。

〇WHOの対応

WHOは、国際保健規則(IHR)に基づく対応として、これまでにMERSに関する緊急委員会を計8回開催している(第1回2013年7月9日、第2回7月17日、第3回9月25日、第4回12月4日、第5回2014年5月13日、第6回6月17日、第7回10月1日、第8回2015年2月4日)。直近の第8回緊急委員会では、感染経路についてはこれまで同様、持続的なヒト-ヒト感染を示す証拠はなく、現状は「国際的に懸念される公衆の保健上の緊急事態(PHEIC)」には至っていないが、依然として国際的な拡大が懸念されるとした。確定例が発生している国に対して、MERS-CoVに変異の有無の監視、ヒトと動物におけるサーベイランス、基本的な感染症予防策の実施、医療従事者に対する教育、リスクコミュニケーションによる市民・医療従事者・政策決定者への啓発、ヒトと動物分野の保健当局の協力の強化、IHRに基づく通告の徹底を要請している。 http://www.who.int/mediacentre/news/statements/2015/8th-mers-emergency-committee/en/ 

 
〇国内対応
〇リスクアセスメント
  • 2015年における中東でのMERS患者発生の疫学的特徴は、以前と同様に動物からヒトへの伝播事例と主に医療現場、および家族内での2次感染事例であるが、感染原因が不明な事例も一定程度報告されている。しかし市中における継続的な感染伝播は確認されていない。
  • 2015年5月の、韓国における中東地域からの帰国者を発端としたMERSの集団発生事例は、医療機関における渡航歴確認の重要性と、医療機関と公衆衛生当局との連携、必要時の迅速な診断、確定例に対する迅速な積極的疫学調査、医療機関での適切な感染予防策の実施が改めて重要と考えられた。
  • 日本においても、今後、現在症例が発生している地域からの輸入例が発生する可能性がある。これら患者は、確定例またはラクダとの接触歴は明確でない場合や軽症である可能性があることに留意し、感染症法に基づく届出基準に従って症例の探知と報告を適切に行うことが重要である(前述http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou19/dl/20150602_01.pdf 参照) 。
  • 高齢者や基礎疾患のある者に感染した場合、重症化する恐れもあることから、症例に対する適切な医療の提供が重要である。
  • 確定患者の接触者においてヒト-ヒト感染があることに留意し、迅速に接触者調査を実施し、感染拡大を防止することが重要である。
  • 医療従事者は、医療機関内での感染伝播を確実に防止するため、患者の診療に当たる際はMERSが疑われる段階から患者への感染拡大防止に関する指導、医療の実施に当たっては標準予防策及び飛沫予防策を徹底する必要がある。
  • 今後も中東地域と韓国、中国における輸入例およびそれに疫学的関連のある症例の発生状況を注意深く監視していくことが重要である。

以上のリスクアセスメントは、現時点で得られている情報に基づいており、症例情報は、基本的に世界保健機関(WHO)からの公式情報 DON http://www.who.int/csr/don/en/)および(Weekly Epidemiological Report WER http://www.who.int/wer/2015/wer9020.pdf)、Middle East respiratory syndrome coronavirus (MERS-CoV) in the Republic of Korea (http://www.who.int/mediacentre/news/situation-assessments/2-june-2015-south-korea/en/ )を参照してまとめている。なお、事態の展開にあわせて、リスクアセスメントを更新していく予定である。

 

参考文献

  1. The WHO MERS-CoV Research Group, State of knowledge and data gaps of Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus (MERS-CoV) in humans. PLoS Curr. 2013 November 12; 5.
  2. Marcel A Müller, Benjamin Meyer, Victor M Corman et al; Presence of Middle East respiratory syndrome coronavirus antibodies in Saudi Arabia: a nationwide, cross-sectional, serological study. Lancet Infect Dis. 2015 May;15(5), p559–564.
  3. Ikwo K. Oboho, Sara M. Tomczyk, Ahmad M. Al-Asmari et al; 2014 MERS-CoV Outbreak in Jeddah — A Link to Health Care Facilities. N Engl J Med. 2015 Feb 26; 372:846-854, DOI: 10.1056/NEJMoa1408636
  4. Assiri A, McGeer A, Perl TM et al; the KSA MERS-CoV Investigation Team. Hospital Outbreak of Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus. N Engl J Med. 2013 Jun 19. [Epub ahead of print]
  5. Penttinen PM, KaasikAaslav K, Friaux A, et al, Taking stock of the first 133 MERS coronavirus cases globally – Is the epidemic changing? . Eurosurveill. 2013;18(39):pii=20596.
  6. Omrani AS, Matin MA, Haddad Q et al; A family cluster of Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus infections related to a likely unrecognized asymptomatic or mild case. Int J Infect Dis. 2013 Sep;17(9):e668672.
  7. Memish ZA, Zumla AI, AlHakeem RF et al; Family cluster of Middle East respiratory syndrome coronavirus infections. N Engl J Med. 2013 Jun 27;368 (26):248794.
  8. Health Protection Agency (HPA) UK Novel Coronavirus Investigation team, Evidence of persontoperson transmission within a family cluster of novel coronavirus infections, United Kingdom, February 2013. Eurosurveill. 2013 Mar 14;18(11):20427.
  9. Guery B, Poissy J, El Mansouf L et al; the MERS-CoV study group. Clinical features and viral diagnosis of two cases of infection with Middle East Respiratory Syndrome coronavirus: a report of nosocomial transmission. Lancet. 2013 Jun 29;381 (9885):226572
  10. Cauchemez S, Fraser C, Van Kerkhove MD et al, Middle East respiratory syndrome coronavirus: quantification of the extent of the epidemic, surveillance biases, and transmissibility. Lancet Infect Dis. 2014 Jan;14(1):5056.
  11. Breban R, Riou J, Fontanet A; Interhuman transmissibility of Middle East respiratory syndrome coronavirus: estimation of pandemic risk. Lancet 2013 Aug 24; 382 (9893): 694 – 9
  12. Shirato K, Azumano A, Hagihara D et al. Middle East respiratory syndrome coronavirus infection not found in camels in Japan. Jpn J Infect Dis. 2015;68(3):256-8
  13. Wernery U, Corman VM, Wong EYM, et al. Acute Middle East respiratory syndrome coronavirus infection in livestock dromedaries, Dubai, 2014. Emerg Infect Dis. 2015 Jun [date cited 2015/06/03]. http://dx.doi.org/10.3201/eid2106.150038 DOI: 10.3201/eid2106.150038
  14. Briese T, Mishra N, Jain K, et al, Middle East Respiratory Syndrome Coronavirus Quasispecies That Include Homologues of Human Isolates Revealed through WholeGenome Analysis and Virus Cultured from Dromedary Camels in Saudi Arabia. mBio 2014 5: e011146  http://mbio.asm.org/content/5/3/e0114614.full
  15. Hemida MG, Chu DKW, Poon LLM, et al, MERS Coronavirus in dromedary camel head Saudi Arabia. Emerg Infect Dis 2014 20(7)  http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/20/7/140571_article.htm
  16. Memish ZA, Cotton M, Meyer B, et al, Human infection with MERS coronavirus after exposure to infected camels, Saudi Arabia,2013. Emerg Infect Dis 2014 20: 10125.
  17. Raj VS, Farag EABA, Reusken CBEM et al, Isolation of MERS coronavirus from a dromedary camel, atar, 2014. Emerg Infect Dis 2014 Aug;20(8). http://wwwnc.cdc.gov/eid/article/20/8/140663_article.htm
  18. Meyer B, Müller MA, Corman VM et al; Antibodies against MERS Coronavirus in Dromedary Camels, United Arab Emirates, 2003 and 2013. Emerg Infect Dis 2014 Apr;20(4):5529.
  19. Reusken CBEM, Haagmans BL, Muller MA et al; Middle East respiratory syndrome coronavirus neutralizing serum antibodies in dromedary camels: a comparative serological study. Lancet 2013 Oct;13(10):85966.
  20. Cotten M, Watson SJ, Zumla AI et al; Spread, circulation, and evolution of the Middle East respiratory syndrome coronavirus. MBio. 2014 Feb 18;5(1). pii: e0106213.
  21. Cotten M, Watson SJ, Kellam P et al; Transmission and evolution of the Middle East respiratory syndrome coronavirus in Saudi Arabia: a descriptive genomic study. Lancet 2013 Sep 19. doi:pii: 01406736 (13)618875.

 

WHOの対応

【ハイライト】
【検査】
【感染管理】
【症例定義】
【サーベイランス】
【臨床】
【研究・調査】

(2014年7月25日)

国立感染症研究所感染症疫学センター
国立国際医療研究センター病院国際感染症センター

 

目的

中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)患者(疑似症患者を含む)は感染症指定医療機関へ搬送されることが想定される。一般医療機関において、中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)患者が発生した場合、又はそのような医療機関に患者が直接来院した場合等には、車両等による患者搬送が行われる。患者搬送においては、感染源への曝露に関する搬送従事者の安全確保と、搬送患者の人権尊重や不安の解消の両面に立った感染対策を行うことが重要である。

基本的な考え方は、搬送従事者が、標準予防策・ 接触感染予防策・飛沫感染予防策・空気感染予防策を必要に応じて適切に実施し、患者に対して過度な隔離対策をとらないように適切に判断することである。

1)中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)患者(疑似症患者を含む)
  • 気管内挿管されていたり酸素マスクを装着している場合を除き、患者にサージカルマスクを着用させる。
  • 呼吸管理を行っている患者に対しては、感染対策に十分な知識と経験のある医師が付き添う。
  • 自力歩行可能な患者に対しては歩行を許可し、そうでない場合は車いす、ストレッチャーを適宜使用して車両等による搬送を行う。
  • 搬送に使用する車両等の内部に触れないよう患者に指示をする。
2)搬送従事者
  • 搬送従事者は、全員サージカルマスクを着用する。
  • 搬送車両等における患者収容部で患者の観察や医療にあたる者は、湿性生体物質への曝露があるため、眼の防御具(フェイスシールドまたはゴーグル)、手袋、ガウン等の防護具を着用する。 気管内挿管や気道吸引の処置などエアロゾル発生の可能性が考えられる場合には、空気感染予防策として N95マスク(もしくは同等以上のレスピレーター)を着用する。
  • 搬送中は適宜換気を行う。
  • 搬送中は周囲の環境を汚染しないように配慮し、特に汚れやすい手袋に関しては、汚染したらすぐに新しいものと交換する。手袋交換の際は、手指消毒を行う。
  • 使用した防護具の処理を適切に行う。 特に脱いだマスク、手袋、ガウン等は、感染性廃棄物として処理する。この際、汚染面を内側にして、他へ触れないよう注意する。
3)搬送に使用する車両等(船舶や航空機も含む)
  • 搬送従事者、患者のそれぞれが、必要とされる感染対策を確実に実施すれば、患者搬送にアイソレーターを用いる必要はない。
  • 患者収容部分と車両等の運転者・乗員の部位は仕切られている必要性はないが、可能な限り、患者収容部分を独立した空間とする。
  • 患者収容部分の構造は、搬送後の清掃・消毒を容易にするため、できるだけ単純で平坦な形状であることが望ましい。ビニール等の非透水性資材を用いて患者収容部分を一時的に囲うことも考慮する。車両内には器材は極力置かず、器材が既に固定してある場合には、それらの汚染を防ぐため防水性の不織布等で覆う。
  • 患者搬送後の車両等については、目に見える汚染に対して清拭・消毒する。手が頻繁に触れる部位については、目に見える汚染がなくても清拭・消毒を行う。使用する消毒剤は、消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノール、0.05 ~0.5w/v% (500~5,000ppm) 次亜塩素酸ナトリウム等。なお、次亜塩素酸ナトリウムを使用する際は、換気や金属部分の劣化に注意して使用する。
4)その他
  • 自動車による搬送の場合、原則として、患者家族等は搬送に使用する車両に同乗させない。船舶や航空機等の場合は、ケースに応じて適宜判断する。
  • 搬送する患者が中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)患者であることを搬送先の医療機関にあらかじめ伝え、必要な感染対策を患者到着前に行うことができるようにする。
  • 搬送の距離と時間が最短となるように、あらかじめ手順や搬送ルートを検討しておく。
  • 搬送する段階では中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)罹患を想定せずに搬送を終了し、のちに患者が中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)患者であると判明した場合は、感染対策が十分であったか確認をする。搬送における感染対策が不十分であったと考えられた場合は、最寄りの保健所に連絡のうえ、搬送従事者は「積極的疫学調査ガイドライン」等に従った健康管理を受けることとなる。
  • 搬送時に準備する器材の一覧表については、付表1を参照のこと。

謝辞)本稿作成にあたっては、東北大学大学院医学系研究科 感染制御・検査診断学分野にご協力をいただいた。

 

付表1 患者搬送に必要な器材(注1)


サージカルマスク 適宜(搬送従事者用、搬送患者用)
N95マスク 搬送従事者の数 ×2 (注2)
手袋 1箱
フェイスシールド(またはゴーグル)、ガウン 搬送従事者数 ×2 (注2)
手指消毒用アルコール製剤 1個
清拭用資材・環境用の消毒剤 タオル、ガーゼ等で使い捨てできるものを用意
感染性廃棄物処理容器
その他、ビニールシート等

注1: ただし、本付表は、車両による搬送を想定したものであり、船舶や航空機等を使用する場合は適宜修正して用いる必要がある。

注2:N95マスク、フェイスシールド(またはゴーグル)、ガウンは、予備も含め搬送従事者あたり2つずつ準備する。

 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

Top Desktop version