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(2014年7月25日)

国立感染症研究所感染症疫学センター
国立国際医療研究センター病院国際感染症センター

 

はじめに

本稿では、中東呼吸器症候群(MERS)(以下「MERS」という。)・鳥インフルエンザ(H7N9)(以下「H7N9」という。)の疑似症患者と患者(確定例)に対して行う院内感染対策の概要について、これまでに明らかになっている情報に基づいて記載する1)2)3)。これらは現時点での暫定的な推奨であり、今後得られる情報に応じて適宜改訂していくものである。

なお、MERS・H7N9の疑似症患者と患者(確定例)の届出基準は以下のホームページを参照されたい。

厚生労働省「感染症法に基づく医師の届出のお願い」
   ・中東呼吸器症候群(MERS)
   ・鳥インフルエンザ(H7N9)

 

MERS・H7N9の疑似症患者、患者(確定例)に対して推奨される院内感染対策

  • 外来では呼吸器衛生/咳エチケットを含む標準予防策を徹底し、飛沫感染予防策を行うことが最も重要と考えられる。入院患者については、湿性生体物質への曝露があるため、接触感染予防策を追加し、さらにエアロゾル発生の可能性が考えられる場合(患者の気道吸引、気管内挿管の処置等)には、空気感染予防策を追加する*。
    *具体的には、手指衛生を確実に行うとともに、N95マスク、手袋、眼の防護具(フェイスシールドやゴーグル)、ガウン(適宜エプロン追加)を着用する。
  • 入院に際しては、陰圧管理できる病室もしくは換気の良好な個室を使用する。個室が確保できず複数の患者がいる場合は、同じ病室に集めて管理することを検討する。
  • 患者の移動は医学的に必要な目的に限定し、移動させる場合には可能な限り患者にサージカルマスクを装着させる。
  • 目に見える環境汚染に対して清拭・消毒する。手が頻繁に触れる部位については、目に見える汚染がなくても清拭・消毒を行う。使用する消毒剤は、消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノール、0.05 ~0.5w/v% (500~5,000ppm) 次亜塩素酸ナトリウム等。なお、次亜塩素酸ナトリウムを使用する際は、換気や金属部分の劣化に注意して使用する。
  • 衣類やリネンの洗濯は通常の感染性リネンの取り扱いに準ずる。
  • MERS・H7N9の疑似症患者または患者(確定例)と必要な感染防護策なしで接触した医療従事者は、健康観察の対象となるため、保健所の調査に協力する。MERSの健康観察期間は最終曝露から14日間、H7N9の健康観察期間は最終曝露から10日間である。なお、H7N9に関しては、必要な感染防護策なく接触した医療従事者には抗インフルエンザ薬の予防投与を考慮し、投与期間は最後の接触機会から10日間とする。

<文献>

  1. 中東呼吸器症候群(MERS)のリスクアセスメント (2014年6月9日現在)(国立感染症研究所)
  2. 鳥インフルエンザA(H7N9)ウイルスによる感染事例に関するリスクアセスメントと対応 (2014年3月28日現在)(国立感染症研究所)
  3. WHO Infection prevention and control of epidemic-and pandemic prone acute respiratory infections in health care April 2014

(2014年7月25日)

国立感染症研究所感染症疫学センター
国立国際医療研究センター病院国際感染症センター

 

目的

中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)患者(疑似症患者を含む)は感染症指定医療機関へ搬送されることが想定される。一般医療機関において、中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)患者が発生した場合、又はそのような医療機関に患者が直接来院した場合等には、車両等による患者搬送が行われる。患者搬送においては、感染源への曝露に関する搬送従事者の安全確保と、搬送患者の人権尊重や不安の解消の両面に立った感染対策を行うことが重要である。

基本的な考え方は、搬送従事者が、標準予防策・ 接触感染予防策・飛沫感染予防策・空気感染予防策を必要に応じて適切に実施し、患者に対して過度な隔離対策をとらないように適切に判断することである。

1)中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)患者(疑似症患者を含む)
  • 気管内挿管されていたり酸素マスクを装着している場合を除き、患者にサージカルマスクを着用させる。
  • 呼吸管理を行っている患者に対しては、感染対策に十分な知識と経験のある医師が付き添う。
  • 自力歩行可能な患者に対しては歩行を許可し、そうでない場合は車いす、ストレッチャーを適宜使用して車両等による搬送を行う。
  • 搬送に使用する車両等の内部に触れないよう患者に指示をする。
2)搬送従事者
  • 搬送従事者は、全員サージカルマスクを着用する。
  • 搬送車両等における患者収容部で患者の観察や医療にあたる者は、湿性生体物質への曝露があるため、眼の防御具(フェイスシールドまたはゴーグル)、手袋、ガウン等の防護具を着用する。 気管内挿管や気道吸引の処置などエアロゾル発生の可能性が考えられる場合には、空気感染予防策として N95マスク(もしくは同等以上のレスピレーター)を着用する。
  • 搬送中は適宜換気を行う。
  • 搬送中は周囲の環境を汚染しないように配慮し、特に汚れやすい手袋に関しては、汚染したらすぐに新しいものと交換する。手袋交換の際は、手指消毒を行う。
  • 使用した防護具の処理を適切に行う。 特に脱いだマスク、手袋、ガウン等は、感染性廃棄物として処理する。この際、汚染面を内側にして、他へ触れないよう注意する。
3)搬送に使用する車両等(船舶や航空機も含む)
  • 搬送従事者、患者のそれぞれが、必要とされる感染対策を確実に実施すれば、患者搬送にアイソレーターを用いる必要はない。
  • 患者収容部分と車両等の運転者・乗員の部位は仕切られている必要性はないが、可能な限り、患者収容部分を独立した空間とする。
  • 患者収容部分の構造は、搬送後の清掃・消毒を容易にするため、できるだけ単純で平坦な形状であることが望ましい。ビニール等の非透水性資材を用いて患者収容部分を一時的に囲うことも考慮する。車両内には器材は極力置かず、器材が既に固定してある場合には、それらの汚染を防ぐため防水性の不織布等で覆う。
  • 患者搬送後の車両等については、目に見える汚染に対して清拭・消毒する。手が頻繁に触れる部位については、目に見える汚染がなくても清拭・消毒を行う。使用する消毒剤は、消毒用エタノール、70v/v%イソプロパノール、0.05 ~0.5w/v% (500~5,000ppm) 次亜塩素酸ナトリウム等。なお、次亜塩素酸ナトリウムを使用する際は、換気や金属部分の劣化に注意して使用する。
4)その他
  • 自動車による搬送の場合、原則として、患者家族等は搬送に使用する車両に同乗させない。船舶や航空機等の場合は、ケースに応じて適宜判断する。
  • 搬送する患者が中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)患者であることを搬送先の医療機関にあらかじめ伝え、必要な感染対策を患者到着前に行うことができるようにする。
  • 搬送の距離と時間が最短となるように、あらかじめ手順や搬送ルートを検討しておく。
  • 搬送する段階では中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)罹患を想定せずに搬送を終了し、のちに患者が中東呼吸器症候群(MERS)・鳥インフルエンザ(H7N9)患者であると判明した場合は、感染対策が十分であったか確認をする。搬送における感染対策が不十分であったと考えられた場合は、最寄りの保健所に連絡のうえ、搬送従事者は「積極的疫学調査ガイドライン」等に従った健康管理を受けることとなる。
  • 搬送時に準備する器材の一覧表については、付表1を参照のこと。

謝辞)本稿作成にあたっては、東北大学大学院医学系研究科 感染制御・検査診断学分野にご協力をいただいた。

 

付表1 患者搬送に必要な器材(注1)


サージカルマスク 適宜(搬送従事者用、搬送患者用)
N95マスク 搬送従事者の数 ×2 (注2)
手袋 1箱
フェイスシールド(またはゴーグル)、ガウン 搬送従事者数 ×2 (注2)
手指消毒用アルコール製剤 1個
清拭用資材・環境用の消毒剤 タオル、ガーゼ等で使い捨てできるものを用意
感染性廃棄物処理容器
その他、ビニールシート等

注1: ただし、本付表は、車両による搬送を想定したものであり、船舶や航空機等を使用する場合は適宜修正して用いる必要がある。

注2:N95マスク、フェイスシールド(またはゴーグル)、ガウンは、予備も含め搬送従事者あたり2つずつ準備する。

 

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