(このページでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 関連の記事を、掲載日が新しい順に表示しています)
(IASR Vol. 43 p45-47: 2022年2月号)
我々はこれまでに, 2020年9月に県内の単科精神科病院において発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の集団感染事例とその対応, および事例発生から約2カ月後の血清疫学調査の結果について報告してきた1,2)。今回, 本事例における調査対象者の抗体測定結果について, 事例発生から1年間の動態と感染歴のある人へのワクチン接種に関する知見が得られたので報告する。
続きを読む: 単科精神科病院の療養病棟で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)集団感染事例の血清疫学調査(第二報)
令和4年2月18日
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている (1)。
国内におけるオミクロン株の疫学的、臨床的特徴の報告は限られている(2) (3)。そのため、国内におけるオミクロン株の疫学的、臨床的特徴を迅速に把握することを目的として、検疫及び国内にて、初期に探知されたオミクロン株症例について積極的疫学調査を行った。第4報の疫学的・臨床的特徴の報告書では、第4報の報告時点で収集できた122例の日本国内のSARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染によるCOVID-19の発症から退院までの疫学的・臨床的特徴を記述的に初めて明らかにした(4)。本報告書では積極的疫学調査で収集した全てのSARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染による報告を行う。本調査実施時期は、国内における新型コロナワクチン接種率が高く、ワクチン接種者(新型コロナワクチン2回接種から14日以上経過している者をワクチン接種者と定義)と未接種者(ワクチン接種者と定義された以外の者)の属性等が異なることから2者を分けてオミクロン株の疫学的・臨床的特徴の記述を行う。なお、本調査はワクチンの有効性等について評価することはできない。
本調査は、厚生労働省、国立感染症研究所において、国立国際医療研究センター国際感染症センター及び関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条第2項の規定に基づいて行われた。
対象症例の退院後に調査票を用いて以下の情報を収集し、疫学的記述を行った。
調査対象の年齢層の中心は比較的若年層で、89例(64.0%)に2回以上のワクチン接種歴があり、基礎疾患を有していないものが多数(109例[78.4%])であった。多くの症例に発症前14日以内に海外への渡航歴があり、55例(39.6%)に発症前14日以内のCOVID-19確定例もしくは疑い例との濃厚接触歴を認めた。入院時に124例が胸部レントゲン検査もしくはCT検査を受けて、7例(5.6%)に肺炎像を認めた。入院時の血液検査所見は、概ね正常範囲内であった。入院期間中に観察された主な症状は、37.5℃以上の発熱、咳嗽、咽頭痛、鼻汁で、これまで特徴的とされていた嗅覚・味覚障害の割合は少なかった。COVID-19への直接的な効果を期待して介入が行われた主な治療の内容は、ソトロビマブ、カシリビマブ/イムデビマブ、レムデシビルであった。基礎疾患(高血圧症と脂質異常症)を有するワクチン未接種の80代男性1例に対して酸素投与(2L/分)が行われた。ワクチン接種者、未接種者ともに、重症例は認めず、死亡例も認めなかった。
本調査には複数の制限がある。本調査の対象は、積極的疫学調査協力医療機関で入院診療を行ったゲノム解析によるオミクロン株確定例の初期の患者であり、ゲノム解析で確定診断できていない疑い例は調査対象にしていない。2つ目に、調査期間中に、オミクロン株確定症例の入退院基準の変更が、知見や状況に合わせて行われている。当初、原則全例入院の上、退院基準として、核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認が必要とされていたが、2022年1月5日、ワクチン接種者においては、退院基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取扱いとすることとなった(5)。また、自宅等の療養体制が整った自治体における感染急拡大時の対応として、医師が入院の必要が無いと判断した無症状病原体保有者や軽症者については、他の新型コロナウイルス感染症患者と同様に、宿泊療養・自宅療養とすることとして差し支えなくなった(6)。さらに、1月14日、ワクチン接種の有無に関わらず、退院基準を従来のB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)等と同様の取り扱いとすることとなった(7)。これらの入退院基準の変遷を本調査では考慮していない。3つ目に、国内で早期に探知された症例は、比較的若年層であり、基礎疾患を有する者が少なかった。このため、本調査結果のみで、COVID-19の重症化リスクが高いとされる高齢者や基礎疾患を有する者における重症化リスクを評価することは困難である。なお、13例(9.3%)の60歳以上では、7例(53.8%)に何らかの基礎疾患があり、11例(84.6%)がワクチン2回以上接種しており、全例有症状であった。11例(84.6%)にCOVID-19への直接的な効果を期待して治療介入が行われ、10例(76.9%)にソトロビマブが投与された。ワクチン未接種の40例においては、80代男性1例に対して酸素投与(2L/分)が行われた患者を認めたが、重症例や死亡例も認めなかった。4つ目に、本調査は初期に探知された症例から収集された情報のため、検疫法による入院が多く含まれており、国内流行の疫学的特徴(年齢、性別、ワクチン接種歴、渡航歴、接触歴等)とは異なる可能性が高い。5つ目に、国内におけるワクチン接種率が高い時期であることと、本調査の医療機関への業務負担を考慮し、接種者は2021年12月24日までの新規入院患者分まで収集した。一方、未接種者は稀で、情報を集めることが困難であったため、2022年1月12日新規入院分まで継続した。6つ目に、日本で初期に確認されたオミクロン株を対象としたため、ワクチン接種者には検疫法での入院例が多く含まれ、ワクチン未接種者には小児例が多く含まれることとなった。なお、本調査は、ワクチン接種歴を考慮した上でのワクチン接種者と未接種者それぞれの疫学的・臨床的特徴の把握を目的としており、これら2者の比較を目的として行われたものではない。
本調査では、積極的疫学調査で収集した139例の日本国内のSARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)感染によるCOVID-19の発症から退院までの疫学的・臨床的特徴を、ワクチン接種者と未接種者に分けて記述的に明らかにした。ワクチン接種者、未接種者ともに、重症化した症例や死亡した症例は認めなかった。
迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は知見の更新によって変わる可能性がある。
本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は、次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。
大阪市立総合医療センター、沖縄県立南部医療センター・こども医療センター、国際医療福祉大学成田病院、国立研究開発法人国立国際医療研究センター病院、国立大学法人千葉大学医学部附属病院、国立病院機構沖縄病院、国立病院機構長良医療センター、国立病院機構福岡東医療センター、市立ひらかた病院、東京都保健医療公社豊島病院、東京都立駒込病院、東京都立墨東病院、常滑市民病院、成田赤十字病院、横浜市立市民病院、りんくう総合医療センター(五十音順)
発出元
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
2022年2月16日9:00時点
国立感染症研究所
WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化の可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。
2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。
* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.1系統, BA.1.1系統, BA.2系統, BA.3系統が含まれる。
表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要
PANGO 系統名 |
日本 感染研 |
WHO |
EU ECDC |
英国 |
スパイクタンパク質の主な変異等(全てのオミクロン株で認めるわけではない) |
|
B.1.1.529 BA.x
|
VOC |
VOC |
VOC |
VOC (BA.2系統はVUI、BA.3系統はSignals currently under monitoring and investigationに分類) |
VOC
|
BA.1/BA.2系統共に主流:G142D, G339D, S373P, S375F, K417N, N440K, S477N, T478K, E484A, Q493R, Q498R, N501Y, Y505H, D614G, H665Y, N679K, P681H, N764K, D796Y, Q954H, N969K
BA.1系統で主流: A67V, del69/70, T95I, del143/145, N211I, del212, S371L, G446S, G496S, T547K, N856K, L981F (BA.1.1ではR346K)
BA.2系統で主流: T19I, L24S, del25/27, V213G, S371F, T376A, D405N, R408S |
オミクロン株について
B.1.1.529系統の下位系統としてBA.1系統、BA.2系統、BA.3系統が位置付けられており、現在の世界的な主流はBA.1系統である。さらにBA.1系統の下位にBA.1.1系統が位置付けられている。国内での検出は、ほとんどがBA.1系統(BA.1.1系統を含む)であるが、検疫ではインド、フィリピン等に渡航歴がある者からBA.2系統が検出され、その割合は増加傾向である。国外では、デンマーク、インド、南アフリカ等でBA.2系統が占める割合が増加している。BA.2系統とBA.1系統では、共通する変異が多いが、それぞれの系統に特異的な変異や欠失が複数ある。国内では、PCR検査によるL452R陰性をオミクロン株のスクリーニング方法として用いているが、BA.2系統もB.1.1.529系統, BA.1系統と同様にL452R陰性となる。 BA.1系統(BA.1.1を含む)はスパイクタンパク質の一部が欠失(S: Δ69-70)しているため、一部の国ではS遺伝子のPCRが陰性となるSGTF(S gene target failure)を一つの指標にしてデルタ株とオミクロン株を判別している。一方、BA.2系統はデルタ株と同様に当該欠失(S:Δ69-70)がないことからS遺伝子のPCR は陽性のSGTP(S gene target positive)となり、デルタ株との判別に用いることはできない。
海外での発生状況
オミクロン株による感染者(以下オミクロン株感染者)の報告数の世界的な増加は継続している。一方で、2021年にオミクロン株感染者が早期に急増した国々の一部では、2022年1月初旬から新規感染者数が減少に転じている。オミクロン株の下位系統(BA.1系統、BA.1.1系統、BA.2系統ならびにBA.3系統)に関し、現状では世界的にBA.1系統(BA.1.1系統を含む)が最も多くを占めていると推定されるが、いくつかの国でBA.2系統の占める割合の増加が報告されている。
日本での発生状況
全国的に依然高い新規感染者数の報告が認められているものの、その増加の加速度は鈍化し、地域によって新規感染者数が減少傾向あるいは上げ止まりとなっているところもある。ただし、療養者数、重症者数及び死亡者数の増加が継続しており、検査陽性率は、依然として増加傾向である。首都圏や関西圏含めオミクロン株に置き換わっているが、引き続き、地域によってはデルタ株も検出されている。
BA.2系統は、2021年第52週に国内で初めて検出された。これまでに71検体が検出されている(厚生労働省. 新型コロナウイルスゲノムサーベイランスによる国内の系統別検出状況(国立感染症研究所データ)2022年2月9日掲載)。2021年第52週から2022年第4週の5週間で検出されたオミクロン株のうち、BA.2系統の割合は0.5%を占めた。なお、ゲノム解析の報告遅れがあるので、この数値は暫定値である。また、地域によって各系統が占める割合は異なる可能性がある。
ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見
国内外でオミクロン株では、これまでの流行株と比べてより短い潜伏期間(中央値2.9日(95%CI:2.6-3.2)(国立感染症研究所. SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)の潜伏期間の推定:暫定報告)とされている。
国内においては、首都圏および関西圏での実効再生産数も緩やかに低下傾向を示しており、流行拡大の鈍化が期待される一方で、急激な感染拡大によって報告の遅れが考えられるために解釈には注意が必要である。
また、置き換えが報告されているデンマーク及び英国からBA.2系統に関して、2次感染率が高く発症間隔がBA.1系統に比べて短縮するという報告があった。これらの要素が、BA.1系統に比してBA.2系統の感染者数増加における優位性に寄与している可能性がある。国内でもBA.2系統の割合が増加する可能性があり、その場合、感染者数の増加(減少)速度に影響を与える可能性がある。
BA.1系統は、ワクチン接種や自然感染による免疫を逃避する性質が、ゲノム配列やラボでの実験、疫学データから示されている。ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株と比較してBA.1系統への感染では著しく低下するが、3回目接種(ブースター接種)によりBA.1系統感染による発症予防効果が一時的に高まることが示されている。国内においても、2回接種後一定期間経過すると発症予防効果が低下すること、短期的には3回接種で発症予防効果が高まることが示されている。海外の報告では、3回接種後の発症予防効果が数ヶ月で低下しているという報告もあり、長期的にどのように推移するかは不明である。
入院予防効果および死亡予防効果もデルタ株と比較してBA.1系統において一定程度の低下を認めるが、発症予防効果と比較すると保たれている。入院予防効果および死亡予防効果においても、3回目接種(ブースター接種)により効果が高まるという報告があるが、長期的にこの効果が持続するかは不明である。また、発症予防効果はBA.2系統においても大きな違いはないとする英国からの報告がありを用いたラボでの実験データもこれを支持している。
一方で、細胞性免疫に関する実験による(in vitro)データが複数の研究機関から報告されており、過去の感染やワクチン接種により誘導された細胞性免疫はBA.1系統に対しても交差反応性を維持している可能性がある。さらに、モノクローナル抗体を用いた抗体医薬品についても、in vitroでの評価で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、BA.1系統の分離ウイルスに対して濃度依存的効果が確認されず中和活性が著しく低下している可能性があり、その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。
BA.2系統に対するモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品の交差反応性については知見の蓄積が待たれる。
重症化予防に関する効果は十分な評価が得られていないが、ワクチン接種や過去の感染により、オミクロン株感染では重症化リスクが低下することが示唆されている(詳細は次項参照)。
第7報までの報告に加えて、以下の知見が新たに報告された。
*実験・抗体検査を目的に人工的に作られる、別のウイルス粒子の表面にSARS-CoV-2のスパイクタンパクを発現させたウイルス。
デルタ株感染者に比べてオミクロン株感染者では入院や死亡リスクの低下が示唆されている。英国およびフランスではデルタ株感染者と比較しオミクロン株感染者では入院や重症ハザードが低かったことが報告された。また、国内ではHER-SYSデータに基づきオミクロン株陽性例は届け出時点での肺炎割合はデルタ株陽性例と比べて低かった。現在までの所見を総合すると、デルタ株と比較してオミクロン株では重症化しにくいと考えられる。
ただし、国内の重症例および死亡例は高齢者が多く、高齢者において感染者が大幅に増加することで相対的な重症化リスクの低下分が相殺される可能性に注意する必要がある。また、重症化や死亡の転機を確認するには時間がかかることを踏まえた知見の集積が必要である。さらに、小児での評価についても知見の集積が必要である。
BA.2系統について、重症化・死亡のリスクが増加するという報告はないが、引き続き知見の集積が必要である。
オミクロン株の病原性についての実験科学的な知見については、BA.1系統ウイルスとマウスおよびハムスターを用いた動物モデルおよびex vivoでの評価に関する論文報告がある。いずれも、オミクロン株のBA.1系統では従来株に比べて肺組織への感染性と病原性が低下していることを示唆している。ただし、これらの報告はあくまで動物モデルや細胞・組織レベルでの評価であり、ヒトに対するオミクロン株病原性とは必ずしも相関しない可能性があることに注意する必要がある。また、BA.2系統ウイルスの病原性に関する実験科学的な知見については報告がなく、今後の解析が待たれる。
当面の推奨される対策
基本的な感染対策の推奨
個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、適切なマスクの着用、手洗い、換気などの徹底が推奨される。
参考文献
注意事項
更新履歴
第8報 2022/2/16 9:00時点(2021/3/18 一部修正)
第7報 2022/1/26 9:00時点
第6報 2022/1/13 9:00時点(2022/1/14, 1/20, 1/25 一部修正)
第5報 2021/12/28 9:30時点(2021/12/31 一部修正)
第4報 2021/12/15 19:00時点
第3報 2021/12/8
第2報 2021/11/28
第1報 2021/11/26
国立感染症研究所
(掲載日:2022年2月18日)
2022年2月12日現在、国内ではファイザー製、武田/モデルナ製、アストラゼネカ製の新型コロナワクチン(以下、ワクチン)が使用されています。ファイザー製と武田/モデルナ製の接種対象は12歳以上で、アストラゼネカ製の接種対象は原則40歳以上です。2021年12月1日から18歳以上の者を対象として、ファイザー製ワクチンによる追加接種(3回目接種)が始まり、2021年12月17日からは、武田/モデルナ製ワクチンも追加接種(3回目接種)可能となりました。初回接種(1回目・2回目接種)で使用したワクチンとは異なる種類のワクチン(ファイザー製、武田/モデルナ製)で追加接種すること(交互接種)も可能です。なお、武田/モデルナ製ワクチンによる追加接種は、初回接種の半量で実施する必要があるため注意が必要です(初回接種:1回0.5mL、追加接種:1回0.25mL)。
米国では2021年10月29日、5~11歳の小児に対するファイザー製ワクチン(以下、小児用ファイザー製ワクチン)の緊急使用許可( Emergency Use Authorization:EUA )が承認され、2021年11月3日から接種が始まっています。国内では2021年11 月 10 日に薬事申請がなされ、2022年1月21日に小児用ワクチン「コミナティ筋注 5-11歳用」(一般名:コロナウイルス修飾ウリジンRNAワクチン(SARS-CoV-2))として特例承認されました(1)。
2022年2月10日に開催された厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会(2)で、5~11歳の小児に対しても予防接種法に基づく特例臨時接種として実施される方針が決まりましたが、現時点では、①小児におけるオミクロン株の感染状況(感染者、重症化の動向)が未だ確定的でないこと(増加傾向の途上にあること)、②オミクロン株については小児における発症予防効果・重症化予防効果に関するエビデンスが必ずしも十分ではないこと(オミクロン株の出現以前の知見であること)から、努力義務の規定は適用されないこととなりました。また、11歳で1回目の小児用ファイザー製ワクチンの接種を受けた小児が2回目接種時点で12歳以上になっていた場合、2回目接種でも小児用ファイザー製ワクチンを使用することとなりました。小児用ファイザー製ワクチンは、12歳以上用のワクチンとは生理食塩水での希釈量 (小児用:1.3mL、12歳以上用:1.8mL)、1回接種量(小児用0.2mL、12歳以上用0.3mL)、1バイアルの接種可能人数(小児用10人分、12歳以上用6人分)、保存及び移送方法が異なるため、別の種類のワクチンとして区別して扱う必要があります。
一方、努力義務の規定が適用されていなかった妊娠中の女性については、最新の科学的知見を踏まえて、努力義務の適用除外が解除されることになりました。
2022年2月10日現在の国内での総接種回数は2億1,140 万1,896回で、このうち高齢者( 65歳以上 )は6,613万8,923回、職域接種は1,939万507回でした。2022年2月10日時点の1回以上接種率は全人口(1億2,664万5,025人)の80.1%、2回接種完了率は78.9%、3回接種完了率は7.9%で、高齢者の1回以上接種率は、65歳以上人口(3,548万6,339 人)の92.6%、2回接種完了率は92.3%でした。
2022年2月7日公表時点の年代別接種回数別被接種者数と接種率/接種完了率( 図1 )を示します。また、新規感染者数と累積接種割合についてまとめました( 図2 )。
図1 年代別接種回数別被接種者数・接種率/接種完了率(首相官邸ホームページ公表数値より作図): 2022年 2月 7日公表時点
注)接種率は、VRSへ報告された、一般接種(高齢者を含む)と先行接種対象者(接種券付き予診票で接種を行った優先接種者)の合計回数が使用されており、使用回数には、首相官邸HPで公表している総接種回数のうち、職域接種及び先行接種対象者のVRS未入力分である約1000万回分程度が含まれておらず、年齢が不明なものは計上されていません。また、年齢階級別人口は、総務省が公表している「令和3年住民基本台帳年齢階級別人口(市区町村別)」のうち、各市区町村の性別及び年代階級の数字を集計したものが利用されており、その際、12歳~14歳人口は10歳~14歳人口を5分の3したものが使用されています。
図2 日本_新規感染者数と累積接種割合の推移 [データ範囲:2020年1月22日~2022年2月7日]下記データより作図.Roser M, Ritchie H, Ortiz-Ospina E and Hasell J. (2020) - "Coronavirus Pandemic (COVID-19)". Published online at OurWorldInData.org. Retrieved from: 'https://ourworldindata.org/coronavirus' [Online Resource](閲覧日2022年2月9日)
参考文献
今回は、下記の内容について、最近のトピックスをまとめました。
2022年2月18日
2020(令和2)年12月9日に予防接種法及び検疫法の一部を改正する法律(令和2年法律第75号)が公布、施行され、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は臨時接種対象疾病に位置付けられた。予防接種法に基づく接種後に副反応を疑う症状が見られた場合、医療機関の開設者又は医師等は、厚生労働大臣(送付先は医薬品医療機器総合機構)に、予防接種後副反応疑い報告(以下、副反応疑い報告)を行うことが義務づけられている[1]。
国立感染症研究所が毎月公表している「新型コロナワクチンについて」で示してきたように、先行して接種が進んだイスラエルや米国、欧州から、ファイザー製あるいはモデルナ製のmRNAワクチン接種後に心筋炎・心膜炎(以下、心筋炎関連事象)を呈した例が報告され[2]、特に若年男性の2回目接種後に頻度が高いと報告されている[3]。
我が国において、予防接種後心筋炎関連事象に係る評価・分析については、厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会及び薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会の合同開催(以下、合同部会)において審議がなされている。予防接種法に基づいて医療機関等から報告された予防接種後副反応疑い報告は製造販売業者に情報提供され、製造販売業者は更に詳細な調査を実施している。その結果、製造販売業者により重篤と判断された場合には、薬機法に基づいて厚生労働大臣(送付先は医薬品医療機器総合機構)に報告される。製造販売業者の調査による詳細な情報が付与された報告をもとに、合同部会において審議が実施されている。
本稿では、わが国において新型コロナワクチン接種が開始された2021年2月17日から同年10月24日(疫学週:第42週)までに、心筋炎関連事象を疑うとして報告された事例の特徴についてまとめた(以下、本稿では、心筋炎関連事象疑い事例の件数及び報告頻度について記述する)。なお、2021年11月12日に開催された合同部会で、この期間にファイザー製ワクチンは155,454,673回、モデルナ製ワクチンは30,632,541回、アストラゼネカ製ワクチンは64,713回の接種が実施されたことが報告された[4]。
続きを読む: 予防接種法に基づき医療機関等から予防接種後副反応疑い報告として届けられた 新型コロナワクチン接種後の心筋炎関連事象の特徴
2021年11月24日に南アフリカ共和国から世界保健機関(WHO)へ最初の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)新規変異株B.1.1.529 系統SARS-CoV-2(オミクロン)感染例が報告された。以降、日本を含め世界各地から感染例が報告され、各地でオミクロン株の感染拡大がみられている1)。
続きを読む: 沖縄県におけるSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)症例の実地疫学調査報告(続報)
掲載日:2022年2月17日
第72回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年2月16日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第72回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。
全国の新規感染者数(報告日別)は、今週先週比が0.90となり、直近の1週間では10万人あたり約464人と減少の動きが見られる。年代別の新規感染者数はほぼ全ての年代で減少傾向となったが、80代以上のみが微増している。
まん延防止等重点措置が適用されている36都道府県のうち、32都道府県で今週先週比が1以下となり、新規感染者数は減少傾向となった。それ以外の県においても今週先週比は低下傾向で、増加速度の鈍化が継続している。新規感染者数の減少が続く広島県では、全ての年代で減少している。しかし、多くの地域では80代以上の増加が続いていることに注意が必要。また、重点措置区域以外の秋田県、山梨県、滋賀県、鳥取県及び愛媛県でも今週先週比が1以下となった。
全国で新規感染者数は減少の動きが見られるが、療養者数、重症者数及び死亡者数の増加が継続している。
2022年2月15日
新型コロナウイルス感染症に対するワクチンの開発は未曾有のスピードで進み、ファイザー社製およびモデルナ社製のmRNAワクチンは大規模なランダム化比較試験で有効性(vaccine efficacy)が90%以上とされ、アストラゼネカ社製のウイルスベクターワクチン1種類も有効性が70%程度とされた1-3。国内においても、国立感染症研究所にて、複数の医療機関の協力のもとで、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける成人(20歳以上)を対象として、症例対照研究(test-negative design)を実施している。これまでの暫定報告においては、我が国における新型コロナワクチン導入初期に流行したB.1.1.7系統(アルファ株)およびB.1.617.2系統(デルタ株)に対して、高い有効性(vaccine effectiveness)を示すことが確認された4-5。しかし、海外の報告によると、2回接種により獲得した免疫が半年程度で減衰することが確認されており6-8、国内でも2021年12月から3回目の接種(ブースター接種)が開始となった。また、2021年11月末以降に出現し、世界各地に急速に流行拡大した感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されるB.1.1.529系統(オミクロン株)については、デルタ株を含む過去の流行株に比してワクチンの有効性が減弱している可能性が指摘されている9-10。そこで、今回は、関東において上旬にはオミクロン株が9割以上を占め、下旬にはほぼ全ての検出株がオミクロン株であったと想定される11-12、2022年1月3日以降の調査における暫定結果を報告する。
2021年12月末に、沖縄県で初めて確認された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)オミクロン株による感染者は米軍基地従業員であった1)。その後、県内の感染は急速に拡大し、2022年1月末現在も、多くの感染者数が県内で報告されている(第6波)。
掲載日:2022年2月10日
第71回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年2月9日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第71回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。
全国の新規感染者数(報告日別)は増加が続き、直近の1週間では10万人あたり約505人となっているが、今週先週比は1.19で増加速度の鈍化傾向が続いている。新規感染者の年代別の割合では20代が減少する一方、10歳未満や60代以上で増加している。
まん延防止等重点措置が適用されている35都道府県のうち、島根県、広島県、山口県、長崎県、熊本県、宮崎県及び沖縄県では今週先週比が1以下となり、新規感染者数は減少傾向あるいは上げ止まりとなった。また、群馬県も今週先週比が0.99と減少の兆しがある。それ以外の都道府県においても今週先週比は低下傾向で、増加速度の鈍化が継続している。新規感染者数の減少が続く沖縄県では、全ての年代で減少している。また、重点措置区域以外の秋田県、山梨県、鳥取県及び愛媛県でも今週先週比が1以下となった。
全国で新規感染者数の増加速度は鈍化しているが、療養者数、重症者数及び死亡者数の増加が継続している。
首都圏や関西圏ではほぼオミクロン株に置き換わっている。