国立感染症研究所

新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 関連情報ページ

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掲載日:2022年1月11日

第66回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年1月6日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第66回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。

英語版

感染状況について

新規感染者は急速に増加している。全国の新規感染者数(報告日別)は、直近の1週間では10万人あたり約5であるが、直近の今週先週比は3.26となっている。特に感染者が急増している地域として、沖縄県では10万人あたり約80で今週先週比は6.95、山口県では10万人あたり約22で今週先週比が11.11、広島県では10万人あたり約14で今週先週比が24.69となっている。また、関東や関西地方などの都市部を中心に新規感染者数の増加が見られる。全国で新規感染者数が急速に増加していることに伴い、療養者数と重症者数は増加傾向にある。

海外におけるオミクロン株による感染例は、継続的に増加している。国内においても、約8割の都道府県でオミクロン株の感染が確認されており、海外渡航歴がなく、感染経路が不明の事案が継続して発生している地域もある。またデルタ株からの置き換わりも進んでいる地域もあることを踏まえると、今後、感染拡大が急速に進み、医療提供体制等がひっ迫する可能性に留意する必要がある。

実効再生産数:
全国的には、直近(12/21時点)で1.31と1を上回る水準が継続しており、首都圏では1.26、関西圏では1.35となっている。

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札幌市立小中学校における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行状況とその拡大因子の解析

(速報掲載日 2022/1/7)(IASR Vol. 43 p35-37: 2022年2月号)
 

 国内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者数は、新型コロナワクチン接種率の向上等により低下し、高齢者施設等でのクラスター発生数も減少してきている。一方で新型コロナワクチン接種ができない、または進んでいない20代以下では感染者数が増加し、それに伴い学校では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者発生に対する適切な対策が求められている。そこで、2020年2月1日〜2021年9月15日の期間に発生した、札幌市立小中学校に通う児童・生徒、教職員等のCOVID-19事例を解析し、小中学校におけるSARS-CoV-2感染拡大要因について検討した。なお、札幌市では2021年7月より市立小中学校教職員を新型コロナワクチンの優先接種の対象にした。また、8月20日からは12~15歳の市民に新型コロナワクチン接種券を送付して同年齢層の市民にも新型コロナワクチン接種を開始したが、9月15日までに2回目接種を完了した同年齢市民の割合は約0.4%であった。COVID-19の流行以降、市立小中学校の児童・生徒、教職員等にSARS-CoV-2感染者が発生した場合、原則、感染者が発生した学級を学級閉鎖とし、同時に学級全員・接触のあった教員に発症の有無を問わずPCR検査を行ってきた。また、2021年3~6月までは、市衛生研究所や民間検査機関で検出されたSARS-CoV-2はB.1.1.7系統(アルファ株)が主流であり、B.1.617.2系統(デルタ株)の2021年6~ 9月までの月別検出割合は各0.2%、44%、74%、86%と増加していた。

令和4年1月5日
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター

英語版

【背景・目的】

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている。国内においては、新型コロナウイルス感染症患者は感染症法または検疫法に基づいて入院措置等が行われる。オミクロン株についての知見が不十分であるため、令和4年1月4日現在、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症患者(オミクロン株症例)については、オミクロン株以外による新型コロナウイルス感染症患者(非オミクロン株症例)と異なる退院基準が設定されており、核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認が必要とされている。しかし、現在の退院基準では入院期間が長期化し、患者及び医療機関等の負担となる可能性があることから、オミクロン株症例のウイルス排出期間等について明らかにする必要がある。

国立感染症研究所(感染研)では、関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条の規定に基づき、オミクロン株症例の積極的疫学調査を行っており、本調査の一環として、感染性持続期間を検討している。本稿では、この暫定報告として、国内のオミクロン株症例の呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の推移と感染性ウイルスの検出期間を示す。

【方法】

対象症例および検体採取

対象は検疫および国内で検出されたオミクロン株感染確定症例で、経過中に臨床目的もしくは研究目的で採取された(陰性を含む)すべての呼吸器検体(唾液および鼻咽頭スワブ)の残余検体について、感染研にてリアルタイムRT-PCRおよびウイルス分離試験を実施した。採取の目安としては、SARS-CoV-2感染の初回陽性検体の検体採取日(本稿では便宜的に「診断日」と定義する)を0日目としてそこから、(1)0-1日目、(2)3-5日目、(3)6-8日目、(4)9日目以降、(5)退院時陰性検体(2回分)とした。

核酸抽出およびリアルタイムRT-PCR

RNAは唾液および鼻咽頭拭い液検体200 µLからMaxwell RSC miRNA Plasma and Serum kitもしくはMagMAX Viral/Pathogen Nucleic Acid Isolation Kitを用いて抽出した。新型コロナウイルスN2領域をターゲットとしてOne Step PrimeScript™ III RT-qPCR Mixを用いてリアルタイムRT-PCRによりCq値を測定した。陰性と判定された検体のCq値は45を代入して解析した。

分離試験

検体と分離用培地を混和し、VeroE6/TMPRSS2細胞に接種/培養を行い、接種後3日、5日に細胞変性効果の有無について評価した。また、細胞変性効果が見られた時点もしくは5日目に培養上清を回収し、リアルタイムRT-PCRにてSARS-CoV-2の確認試験を実施し、ウイルス分離の判定を行った。

【結果】

対象症例の属性

2021年12月22日までに登録された対象症例は、21例のべ83検体であった。年齢中央値33歳(四分位範囲 29-47歳)、男性19例(90%)、女性2例(10%)であった。ワクチン3回接種は2例(10%)で、その内訳はファイザー社製のワクチン3回の1例とジョンソンエンドジョンソン社製のワクチンの後にファイザー社製のワクチン2回接種した1例であった。そのほかはファイザー社製のワクチン2回が8例(38%)、武田/モデルナ社製のワクチン2回が9例(43%)、未接種者はいずれも未成年で2例(10%)であった。ワクチン2回接種から2週間以内の経過の者はいなかった。 退院までの全経過における重症度は、無症状が4例(19%)、軽症が17例(81%)であった。中等症以上・ICU入室・人工呼吸器管理・死亡例はいなかった。

リアルタイムRT-PCR

診断日および(有症状者に限定して)発症日からの期間を以下に分けてCq値を図A, Bに示す。Cq値は診断日および発症日から3~6日の群で最低値となり、その後日数が経過するにつれて、上昇傾向であった。診断または発症10日目以降でもRNAが検出される検体は認められ、Cq値20台の検体を2例認めたが、いずれも症状消失後2日以内の検体であった。

66 fig1 図. オミクロン株症例におけるCq値の日数別推移

(A) オミクロン株症例におけるCq値の診断からの日数別推移
(1)0-2日目、(2)3-6日目、(3)7-9日目、(4)10-13日目、(5)14日目以降
(B) オミクロン株症例におけるCq値の発症からの日数別推移(有症状者に限定した発症からの日数別)
(1)-1-2日目、(2)3-6日目、(3)7-9日目、(4)10-13日目、(5)14日目以降

分離試験

診断日および(有症状者に限定して)発症日からの期間を以下に分けて分離の可否をに示す。診断日および発症日からの日数が3~6日目の群でウイルス分離可能な割合は最も高く、その後は減少傾向であった。特に、診断および発症10日目以降、ウイルス分離可能な症例は認めなかった。また未成年患者検体からもウイルス分離は可能であった。PCR陰性でウイルス分離された検体は認めなかった。

表.オミクロン株症例におけるRNA検出および分離の可否

(A)ウイルスRNA検出検体数および割合と分離可能検体数および割合(診断からの日数別)

診断からの日数 RNA検出検体数   および割合n (%) 分離可能検体数    および割合n (%) PCR陽性検体のうち分離可能検体数および割合n (%)
0-2日目 20/21 (95.2) 2/21 (9.5) 2/20 (10.0)
3-6日目 14/17 (82.4) 7/17 (41.2) 7/14 (50.0)
7-9日目 17/18 (94.4) 2/18 (11.1) 2/17 (11.8)
10-13日目 4/15 (26.7) 0/15 (0) 0/4 (0)
14日目以降 5/12 (41.7) 0/12 (0) 0/5 (0)

(B)ウイルスRNA検出検体数および割合と分離可能検体数および割合(有症状者に限定した発症からの日数別)

発症からの日数 RNA検出検体数   および割合n (%) 分離可能検体数    および割合n (%) PCR陽性検体のうち分離可能検体数および割合n (%)
-1-2日目 15/16 (93.8) 2/16 (12.5) 2/15 (13.3)
3-6日目 8/8  (100) 4/8 (50.0) 4/8 (50.0)
7-9日目 16/16 (100) 3/16 (18.8) 3/16 (18.8)
10-13日目 7/12 (58.3) 0/12 (0) 0/7 (0)
14日目以降 4/10 (40.0) 0/10 (0) 0/4 (0)

(C)無症状者のウイルスRNA検出検体数および割合と分離可能検体数および割合

陽性からの日数 RNA検出検体数   および割合n (%) 分離可能検体数    および割合n (%) PCR陽性検体のうち分離可能検体数および割合n (%)
0-5日目 6/6 (100) 3/6 (50.0) 3/6 (50.0)
6-9日目 3/4 (75.0) 0/4 (0) 0/3 (0)
10日目以降 1/10 (10) 0/10 (0) 0/1 (0)

【考察】

本報告では、国内のオミクロン株症例における感染性持続期間を検討した。

オミクロン株症例において、Cq値は診断日および発症日から3~6日の群で最低値となり、その後日数が経過するにつれて、上昇傾向であった。診断または発症10日目以降でもRNAが検出される検体は認められたが、ウイルス分離可能な検体は認めなかった。これらの知見から、2回のワクチン接種から14日以上経過している者で無症状者および軽症者においては、発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆された。

本調査の制限として、ワクチン接種歴のある者が大多数であったこと、無症状者及び軽症者が調査対象であったことなどが挙げられる。また、ウイルス分離試験の結果は検体の採取方法・保管期間・保管状態等に大きく依存することから、陰性の結果が検体採取時の感染者体内に感染性ウイルスが存在しないことを必ずしも保証するものではないことに注意が必要である。

注意事項

迅速な情報共有を⽬的とした資料であり、内容や⾒解は知見の更新によって変わる可能性がある。

謝辞

本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は, 次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。

国立国際医療研究センター、りんくう総合医療センター(五十音順)

発出元

国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター

掲載日:2021年12月28日

第65回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年12月28日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第65回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。

英語版

感染状況について

全国の新規感染者数(報告日別)は、直近の1週間では10万人あたり約1.3と、依然として非常に低い水準であり、新規感染者が確認されない日が継続している地域もある。一方、都市部を中心に新規感染者数の増加が見られることに加え、一部の地域では、社会福祉施設、医療機関でのクラスターや感染経路不明事案の発生による一時的な増加もあり、直近の今週先週比は1.51となっており、増加が3週間以上継続している。

複数の地域でオミクロン株の感染が確認されており、海外渡航歴がなく、現時点で感染経路が不明である事案も確認されている。

実効再生産数:
全国的には、直近(12/12時点)で1.21と1を上回る水準が継続しており、首都圏では1.22、関西圏では1.06となっている。

2021年12月28日9:30時点

12月31日 一部修正

国立感染症研究所

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概要

WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化の可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。

2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。

* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.ⅹ系統等が含まれる。

表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要

PANGO

系統名

日本

感染研

WHO

EU

ECDC

UK

HSA

US CDC

スパイクタンパク質の主な変異(全てのオミクロン株で認めるわけではない)

検出報告国・地域数

B.1.1.529

BA.x

VOC

VOC

VOC

VOC

VOC

G142D, G339D, S371L, S373P, S375F, S477N, T478K, E484A, Q493K, G496S, Q498R, N501Y, Y505H, P681H

106か国

 

オミクロン株について

  •   オミクロン株は基準株と比較し、スパイクタンパク質に30か所程度のアミノ酸置換(以下、便宜的に「変異」と呼ぶ。)を有し、3か所の小欠損と1か所の挿入部位を持つ特徴がある。このうち15か所程度の変異は受容体結合部位(Receptor binding protein (RBD); residues 319-541)に存在する(ECDC. Threat Assessment Brief)。各変異等の詳細については第3報を参照されたい。

海外での発生状況

全世界でオミクロン株による感染例(以下オミクロン株感染例)の報告数ならびに報告国数が継続的に増加し、南アフリカ、イングランドやアメリカ合衆国では、デルタ株からオミクロン株への急速な置き換わりの進行が報告された。また、複数の国・地域で市中感染や集団内の多くの者が感染したクラスター事例も報告されており、さらなる感染の拡大が懸念される。ゲノムサーベイランスの質が十分でない国・地域においては探知されていない感染例が発生している可能性もあるため、現在感染例が探知されている国・地域よりもさらに広い範囲に感染が拡大している可能性がある。

  •   2021年11月24日に南アフリカからWHOへ最初のオミクロン株感染例が報告されて以降、12月21日までに日本を含め全世界106か国から感染例が報告された(WHO. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 21 December 2021)。
  •   2021年12月20日時点でアフリカでは、22か国からオミクロン株感染例が報告された(Outbreak Brief #101: Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Pandemic Date of Issue: 21 December 2021)。南アフリカでは、ゲノム解析された検体のうち、10月はデルタ株が85%(646/764)、オミクロン株0.2%(2/764)であったが、11月はオミクロン株82%(987/1,210)、12月はオミクロン株98%(629/639)であった (NICD. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE (24 DEC 2021))。
  •   2021年12月19日時点でEU/EEA域内では、28か国から合計4,691例のオミクロン株感染例が報告された。情報を取得できた範囲では、オミクロン株感染例のEU/EEA域内での死亡は報告されていない。オミクロン株の市中感染例が増加し、クラスター事例も発生している(ECDC. Epidemiological update: Omicron variant of concern (VOC) – week 50 data as of 19 December 2021.)。オミクロン株感染例4,766例とS遺伝子が検出されない(S gene target failure(SGTF)と呼ばれる)SARS-CoV-2感染例(以下SGTF感染例)の計4,786例の解析では、年齢中央値31歳(範囲0-112歳)で男性が51%であった。そのうち情報を取得できた2,550例において、94%(2,388/2,550)が有症状であった。情報が得られた感染例の中で、1%(15/2,717)が入院し、ICU入室/人工呼吸器管理を要したものはいなかった(0/2,707)(ECDC. Country Overview Report: Week 50, 2021, produced on 23 December 2021.)。
  •   2021年12月23日時点でイングランドでは、102,729例のオミクロン株感染例と192,965例のSGTF感染例が報告された。また12月19日時点で、29例の死亡例と366例の入院例(オミクロン株感染例ないしSGTF感染例)を認めた。イングランドでは11月末以降SGTF感染例の増加を認め、12月21日ないし22日に採取されS遺伝子の結果が判明した34,270検体のうち、86.2%(29,524検体)でSGTFを認めた(UKHSA. Omicron daily overview. 24 December 2021.)。12月18日時点での53,842例(男性25,577例、女性28,265例)のオミクロン株感染例の解析では、20歳代が33%と最も多く、次いで30歳代が23%、40歳代が15%、10歳代が12%であった。(UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 3)。
  •   2021年12月8日時点でアメリカ合衆国では、22の州でオミクロン株感染例が報告されており、このうち複数の州で市中感染が示唆される事例が報告された。情報を取得できた43例において、入院例が1例報告され、死亡例は報告されなかった (CDC. SARS-CoV-2 B.1.1.529 (Omicron) Variant — United States, December 1–8, 2021.)。CDCの12月20日時点の推計では、同国での週別のオミクロン株検出割合の推定値が12.6%(12月5日~11日)から73.2%(12月12日~18日)に増加した。(CDC. COVID Data Tracker Variant Proportions)。
  •   2021年12月17日時点で西太平洋地域では、11ヵ国からオミクロン株感染例が報告された(WHO. Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) External Situation Report #83 15 December 2021)。2021年12月20日時点で韓国では、合計188例(確定例178例、確定例と疫学的関連のある10例)が報告された。確定例の年齢分布は、20歳未満が26.7%、20代~50代が66.3%で、推定感染地は海外が28.9%、国内が71.1%であった。診断時には19.8%が無症状で、有症状の場合は発熱、咽頭痛、咳が主な初期症状であり、いずれの感染例も軽症であった (3차접종 적극 참여, 누적 1,100 넘어(12.20., 정례브리핑))。
  •   2021年12月19日時点で東南アジア地域では、7か国からオミクロン株感染例が報告された(WHO. COVID-19 Weekly Situation Report Week #50 (13 December – 19 December 2021) 24 )。
  •   2021年12月4日時点で東地中海地域では、3か国からオミクロン株感染例が報告された(WHO EMRO. COVID-19: WHO EMRO Biweekly Situation Report #24 Epi Weeks 47 – 48 (21 November – 4 December 2021.)。

 

日本での発生状況

海外からの入国者のSARS-CoV-2陽性者の中でオミクロン株感染例の割合が高まり、オミクロン株感染例が継続して報告されており、オミクロン株の国内への輸入リスクは高まっている。また、14日以内に海外渡航歴のある者との関連が認められないオミクロン株の感染例が複数の都道府県から報告されている。感染源が確認できていない事例が継続して発生している地域もあり、そのような地域では感染拡大に留意する必要がある。海外での報告で示唆されているオミクロン株の感染・伝播性の高さ等を考慮すると、国内においても大規模クラスターの発生や、広範囲での市中感染が継続することで、感染例の急増につながることが懸念される。

 

  •   2021年12月27日までに日本において、計316例のオミクロン株感染例が報告された(2021年12月27日21時時点)。内訳*は水際関連空港検疫事例が247例(以下検疫例)、水際関連都道府県発表事例が33例、それ以外の事例が36例(大阪府14例、京都府12例、愛知県、山口県より各2例、東京都、富山県、静岡県、滋賀県、広島県、福岡県より各1例より報告があった)であった。検疫でSARS-CoV-2陽性が判明する者の中でオミクロン株感染例の割合は経時的に高くなっている。検疫例について、入国前14日以内に滞在した国の数は計41か国であった。(厚生労働省報道発表資料:https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/index.html)。

*厚生労働省報道発表資料に基づく

(注1)「空港検疫」には、検疫検査時に陽性だった方に加えて、宿泊施設での待機が必要な国・地域から入国後、待機中に陽性が判明し、オミクロン株と確定した場合も含む。

(注2)「都道府県発表」には、検疫所関係者でオミクロン株と確定した場合を含む。

(注3)「左記以外」は、オミクロン株と確定した者のうち、直近の海外渡航歴がなく、現時点で感染経路が明らかになっていない者等。

  •   国内のCOVID-19発生動向については、新型コロナウイルス感染症サーベイランス週報:発生動向の状況把握を参照されたい。
  •   オミクロン株感染例と同じ便に搭乗していた乗客は濃厚接触者として健康観察および定期的な検査が実施されていた。また、各自治体においては、感染源・感染経路の特定及び感染拡大防止のため、幅広なリスク集団を対象に検査・調査が行われている。調査で特定された(濃厚)接触者については健康観察と定期的な検査が実施されている。

 

ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見

  •   感染・伝播性

オミクロン株の流行が先んじて報告された南アフリカでは、高い実効再生産数が報告され、イングランドからも倍加時間の短縮や感染者数の高い増加率が報告された。海外から報告された集団発生事例での高い発病率や、デルタ株よりも多くの家庭内二次感染例が報告されたことも伝播性の増加を示唆する所見である。ただし、観察集団の免疫状況や感染予防行動等の違い、オミクロン株同定のための検査戦略などの影響等も含めて、解釈には依然として慎重を要する。また、世代時間や潜伏期間がデルタ株に比較して短縮している可能性を示す所見があることにも留意する必要がある。倍加時間の短縮は、感染性の増大と世代時間の短縮の両方の影響を加味する必要がある。さらに、国内の積極的疫学調査から得られた暫定的な結果からは、これまでの事例(従来株やデルタ株による)と比較し、感染・伝播性はやや高い可能性はあるが、感染様式の変化や著しい感染・伝播性の増加の根拠は得られていない。また、基本的で適切な感染対策(マスク着用、手指衛生、換気の徹底等)は引き続いて有効であることが観察されており、感染対策が比較的守られている状況下では爆発的な感染拡大には至っていない。引き続き日本におけるオミクロン株の感染・伝播性に関する知見の蓄積が必要である。

  •   国内の積極的疫学調査による結果に基づくと、同居の濃厚接触者において観察期間を7日とし、その期間を経過した者を対象とした場合、二次感染率は中央値22%(四分位範囲:0-100%)であった(11事例(対象者:計37名))。また、推定曝露日が得られた感染例(n=11)における潜伏期間の中央値は3日(四分位範囲:2.5-4日)、であった。ただし、各事例におけるワクチン接種率、感染対策状況を含む曝露状況について情報が十分得られていないことから、あくまでも暫定的な数字であり、解釈には注意が必要である。
  •   屋外の競技場や職場において、マスクの着用や同一空間の滞在時間に関係なく幅広検査の対象となった者のうち、現在のところ、感染例は検出されていない。
  •   オミクロン株の感染例が搭乗していた航空機について、乗客全員を濃厚接触者として14日間の健康観察が行われていた。12月25日までに健康観察を終了したオミクロン株感染例と同じ機内の乗客2,097人のうち、入国後にオミクロン株による感染が明らかとなったのは計4便の5人 (0.24%, 95%信頼区間(CI):0.07-0.56)のみで、うち2名は家族だった。また、1名は同乗の感染例とウイルスゲノム配列が異なっていた。一方、2021年12月3日から19日までの間に、到着時オミクロン株陽性者のいない便の乗客62,257名の中で、検疫での検査結果が陰性になってから14日以内にオミクロン株陽性となった者(またはL452R変異株PCR陰性者)は65名検出され(0.10%、95% CI 0.08-0.13)、これらの割合に有意な差はなかった。
    •   南アフリカにおいてオミクロン株の流行が始まった11月から12月4日までの報告例を基に算出された実効再生産数は2.55 (95%CI 2.26, 2.86)であった(NICD. The Daily Effective Reproduction Number in South Africa.)。
    •   英国においてはSGTFを認める検体(オミクロン株であることが疑われる検体)をモニタリングするサーベイランスが稼働しており、11月4週から12月3週のデータを用いて増加率(growth rate)が0.41/日と算出された(UKHSA. Technical Briefing 32)。またオミクロン株確定例に対する増加率が検討されており、0.45/日 (95%CI 0.44-0.46)と算出された(Imperial College London. Report 49)。
    •   またデルタ株と比較した相対的な免疫逃避の程度を考慮したモデルでは同時期の増加率は0.29/日と算出された(LSHTM. Modelling report)。
    •   上に伴い、英国では倍加時間(doubling time)も算出されており、SGTFデータおよびオミクロン確定例のデータから倍加時間はそれぞれ1.6日と1.5日と算出された(Imperial College London. Report 49)。またデルタ株に対する相対免疫逃避を考慮したモデルでは倍加時間は2.4日と算出された(LSHTM. Modelling report)。
    •   英国において2021年11月15日から12月6日の間に検体を採取されたオミクロン株感染例777例とデルタ株感染例115,407例を対象としたコホート研究では、オミクロン株感染例からの家庭内二次感染率(Household secondary attack rate)はデルタ株感染例と比較して、調整なしオッズ比で2.0倍(95%CI 1.7–2.4)、年代、性別、ワクチン接種歴等で調整したオッズ比で2.9倍(95%CI 2.4–3.5)であった。また家庭外の二次感染も含んだ二次感染率は1.96倍(95%CI 1.77–2.16)と推定された(UKHSA Technical Briefing 32)。
    •   韓国から報告された湖南保育施設関連のオミクロン株感染例25例の解析では、平均潜伏期間は3.6日(範囲2~8日)、平均発症間隔は3.1日(範囲1~7日)であり、デルタ株の平均潜伏期間3~5日、平均発症間隔2.9~6.3日より短かった。オミクロン株感染例での家族内二次感染率は44.7%で、デルタ株の約20%と比較して高かった。(3차접종 적극 참여, 누적 1,100 넘어(12.20., 정례브리핑))
    •   デンマークでは、150人の参加者が集まるイベントで、71人(47%)がオミクロン株に感染した事例が報告された。同国では2021年12月9日時点で、合計785例のオミクロン株感染例が確認されており、年齢は2~95歳(中央値:32歳)で、55%(433例)が男性であった。76%(599例)がワクチン接種を完了しており、7%(56例)は追加接種を受けていた。1%(9例)が入院治療(うち1例は集中治療)を要し、死亡例は報告されなかった (Espenhain L., et al.)。
    •   ノルウェーでは、オスロー市内のレストランで開催されたクリスマスパーティーに参加した111人中80人(73%)でSARS-CoV-2感染が確認され、ほとんどがオミクロン株による感染と推定されている。参加者の大多数は30-50代で、2回のワクチン接種歴を有していた。80人中79人が何らかの症状を呈し、多くの者はパーティーの3日後の発症であった。感染例の70%以上で咳、頭痛、咽頭痛、倦怠感を、半数以上で発熱を認めたが、入院例や死亡例は報告されていない。なお、この集団での潜伏期間は中央値3日だった (Brandal, RC., et al.)。

  •   ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や自然感染による免疫からの逃避

オミクロン株は、ワクチン接種や自然感染による免疫を逃避する性質が、遺伝子配列やラボでの実験、疫学データから示唆されている。ワクチンで誘導される抗体の in vitro(試験管内)での評価や疫学的評価から、ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株と比較してオミクロン株への感染では低い可能性が示されている。3回目接種(ブースター接種)により、オミクロン株感染による発症予防効果が高まる可能性が示唆されているが、3回目接種からの日数が数週間程度と非常に短い者におけるデータであるため、中長期的にこの効果が持続するかは不明である。また、モノクローナル抗体を用いた抗体医薬品についても、in vitroでの評価で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して中和活性が著しく低下している可能性があり、その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。さらに、非オミクロン株に感染歴のある者の再感染は、非オミクロン株と比較してオミクロン株への感染がより起こりやすい(再感染しやすい)との報告がある。重症化予防に関する効果は十分な評価が得られていないが、ワクチン接種や過去の感染により、オミクロン株感染では重症化リスクが低下している可能性が示唆されている(詳細は次項参照)。

  •   英国健康安全保障庁(UKHSA)は症例対照デザイン(test-negative design)を用いて、オミクロン株およびデルタ株感染による発症に対する、新型コロナワクチン2回接種および3回(ブースター)接種及び未接種と比較した有効性の暫定的な評価を行った(UKHSA. Technical Briefing 31, Andrews et al.. UKHSA. Technical Briefing 33)。2021年11月27日から12月6日に実施された検査において、主にSGTFを用いて、デルタ株感染例56,439例、オミクロン株感染例581例に分類し、検査陰性者130,867人と比較して、それぞれのワクチンの有効率を算出した。その結果、ファイザー社製のワクチンを2回接種後2-9週間ではオミクロン株に対する有効率は88%(95%CI 65.9-95.8)とデルタ株(88.2 (95%CI 86.7-89.5))と同等であった。しかし、2回接種後10週以降では、デルタ株よりもオミクロン株に対する有効率が低かった。さらに、2回接種後20週以降においては、デルタ株に対する有効率が60%強であるのに対し、オミクロン株に対する有効率は35%程度であった。ブースターの発症予防効果については、12月17日までの検査を含め、デルタ147,597症例、オミクロン68,489症例を組み入れた更なる解析結果が報告されている。ファイザー社製ワクチンを2回接種後に、3回目(ブースター)接種としてファイザー社製ワクチンを用いた場合には、接種直後に発症予防効果が70%に上昇するものの、10週以降で45%に低下していた。3回目(ブースター)接種としてモデルナ社製ワクチンを用いた場合には、3回目接種5〜9週間後には約70~75%の有効性が認められた(10週以降のデータなし)。一方で、アストラゼネカ社製ワクチンを2回接種後に、3回目接種としてファイザーもしくはモデルナ社製ワクチンを用いた場合には接種2~4週間後に約60%に上昇した。しかし3回目接種10週間後にはファイザー社製ワクチンをブースター接種した場合で35%、モデルナ社製ワクチンをブースター接種した場合に45%にまで低下した。いずれの結果についても、観察研究であるため、バイアスや交絡の可能性があり、また、オミクロン株感染例は少ないため、信頼区間が広く、点推定値の評価には注意が必要である。また、本報告は発症予防効果についての評価であり、オミクロン株感染による重症例に対するワクチン有効性については、今後の更なる検討が必要である。
  •   オミクロン株においては、複数の国の研究機関等からの報告において、抗原性の変化による感染回復者やワクチン接種者の血清による中和能の低下が示されている(Lu et al., Dejnirattisai et al., Cele et al., Carreno et al.その他報告多数)。これらの結果は実験系の違いや使用された血清の採取時期(感染やワクチン接種から採血までの期間)の違い等により数値にはばらつきがあるものの、アルファ株以前に主流であったD614G変異を持つ株やデルタ株、オミクロン株以前の分離株でワクチン株から最も抗原性が離れていると考えられるベータ株と比較して、オミクロン株に対するファイザー社製のワクチン2回接種で誘導される中和抗体価は一貫して低い。また、3回(ブースター)接種後においての報告もあり、2回接種と比較するとオミクロン株に対する中和抗体価が高いことが報告されているが、従来株に対する中和抗体価と比較すると低い。ただし、これらの結果は中和抗体のin vitro(試験管内)での評価であり、解釈に注意が必要である。
  •   オミクロン株においては、抗原性の変化により、SARS-CoV-2に対するモノクローナル抗体を用いた抗体医薬品の効果への影響も懸念されており、オミクロン株の分離ウイルスやシュードタイプウイルスを用いたモノクローナル抗体による中和試験の暫定結果が報告されている(Cameroni et al, Cathcart et al., Cao et al. その他報告複数)。ソトロビマブ(ゼビュディ)やDXP-604(BeiGene・Singlomicsが開発)は、オミクロン株で認めるスパイクタンパク質の変異を持つシュードタイプウイルスに対して中和活性を維持しているという報告がある。一方で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。これらの結果はin vitro(試験管内)での評価であり、解釈に注意が必要である。
  •   一方で、現時点で明らかな細胞性免疫からの逃避についての情報はない(Redd, et al.)。
  •   英国健康安全保障庁(UKHSA)は非オミクロン株と比較したオミクロン株における再感染のリスク比についての暫定的な報告を行った(UKHSA Technical Briefing 31)。2021年11月20日から12月5日にウイルスゲノム解析がなされ、オミクロン株感染とされた361例と非オミクロン株感染とされた85,460例のうち、年齢群・地域・(症状の有無、スクリーニング等の)検査区分で調整した再感染のリスク比は5.2(95%CI 3.4-7.6)であった。ただし、この報告は暫定的であり、SGTFを認める症例が優先的にウイルスゲノム解析をなされていることなどから解釈に注意が必要である。
  •   オミクロン株確定例における再感染率はデルタ株感染例と比較して高く、調整された再感染のリスク比が 5.41(95%CI 4.87-6.00)であった。ワクチン接種なしでは 6.36 (95%CI5.23-7.74)となった(Imperial College London. Report 49)。
  •   南アフリカにおいてSARS-CoV-2陽性例および検査のサーベイランスデータを用いた研究では、2種類の手法を用いて、非オミクロン株とオミクロン株への再感染のしやすさについて検討された(Pulliam, et al.まず、初回感染の発生率に対する再感染の発生率の比が第1波と同じであると仮定して、その後の再感染者数を予測したところ、第2波(ベータ株主流)、第3波(デルタ波主流)で観察された再感染者数は予測範囲内であったが、11月に観察された再感染者数は予測範囲を上回っていた。次に、全期間について初回感染の発生率に対する再感染の発第3波(デルタ株主流)は0.09であったが、11月以降は0.25と上昇していた。比は一貫して1を下回っており、初回感染よりも再感染の発生率は低いが、ベータ株やデルタ株の流行時に比較して、再感染の発生率は高まっている可能性があった。なお、この検討では、個々のSARS-CoV-2陽性例のワクチン接種歴が得られていないためワクチン接種による感染予防効果は検討されていない。また、SARS-CoV-2陽性例のウイルスゲノム解析結果は不明であり、検査対象は時系列的に変化し、受療行動が変化している可能性があることにも留意する必要がある。

  •   重症度

国内で経過観察されているオミクロン株感染例の初期の事例109例については、94%(103/109)が無症状ないし軽症で経過していた。海外の報告では、英国や南アフリカ等からデルタ株と比較した入院や重症化のしやすさの違いについての暫定データが報告されている。デルタ株と比較してオミクロン株では重症化しにくい可能性が示唆される。ただし、これらの報告では、オミクロン株感染例が若年層で多い、自然感染やワクチン接種による免疫の影響が考慮されていない等の様々な制限があること、重症化や死亡の転帰を確認するには時間がかかることを踏まえると更なる知見の集積が必要である。また、重症化リスクがある程度低下していたとしても、感染例が大幅に増加することで重症化リスクの低下分が相殺される可能性も考慮する必要がある。

  •   厚生労働省は、日本で確認されたオミクロン株感染例について、初期の事例については、感染症法第15条第2項に基づく積極的疫学調査を行っている。12月27日時点で情報が得られた109例のオミクロン株感染例の解析では、男性が63%(69/109)、入院からの観察期間中央値は 8日(最小値 1日、最大値19日)で、観察期間中に継続して無症状が29例、軽症が74例、中等症Ⅰが6例であった。ワクチン接種歴に関しては、未接種者が22例、接種者*(追加接種ありを含む)が86例、ワクチン接種日不明が1例であった。*規定の接種回数(ジョンソン・エンド・ジョンソン社製のワクチンの場合1回、その他のワクチンは2回)のワクチン接種を完了後、14日以上経過したもの
  •   UKHSAは 救急外来および入院データ、SGTFデータ(デルタ株とオミクロン株の分類に使用)、ワクチン接種歴のデータを突合して、デルタ株とオミクロン株の救急外来受診や入院率の違いを検討している(UKHSA Technical Briefing 31)。2021年11月22日から12月19日のまでのデータを用いて解析したところ、救急外来受診・入院率はデルタ株と比較してオミクロン株感染で0.62倍(95%CI 0.55-0.69)であり、入院率のみでは0.38倍(95%CI 0.30-0.50)であった。本解析では検体採取週と居住地で層別化し年齢・検体採取日・性別・人種・剥奪指標(所得や生活水準などの社会的な指標)・海外渡航歴・ワクチン接種歴で調整しているが、過去の感染や基礎疾患については調整していない。
  •   英国インペリアルカレッジは類似のデータセットを用いて、ワクチン接種歴や非オミクロン株への既感染の影響を考慮したより詳細な解析を行って、デルタ株とオミクロン株の入院率の違いを検討した(Imperial College London. Report 50)。 2021年12月1日から14日までの検査データを12月21日に抽出して解析が行われ、ワクチン接種歴・年代・性別・人種・地域・検体採取日で層別化したデータを用いて解析された。結果、デルタ株と比較してオミクロン株の感染例では入院率(救急外来受診も含まれる可能性がある)が15-20%低下しており、1泊以上入院した者に限定すると50-60%の低下であった。ただし、過去の感染例の全員がとらえられていないために、実際には3倍の既感染例がいると仮定すると、この既感染の影響を除いた入院率の低下は0-30%程度と推定された。さらに、ワクチン接種歴で層別化した結果も提示されており、未接種のオミクロン株感染例では、未接種のデルタ株感染例の入院率の0.59倍(95%CI 0.5-0.69)であったが、同様に過去の感染者数が過小評価されている可能性を考慮して既感染の影響を除くと、この値は0.76倍となりデルタ株感染例との差が小さくなった。また、mRNAワクチンを2回以上接種している者だけで評価すると、デルタ株感染例とオミクロン株感染例の入院率は同程度であった。本解析では、基礎疾患については調整しておらず、入院関連のイベントは数が少なく、また、報告遅れがあり得るため、解釈に注意が必要である。
  •   南アフリカのNICDからの報告として、検査データ、COVID-19症例データ、ウイルスゲノム解析データ、入院サーベイランスデータを突合して、デルタ株とオミクロン株の入院オッズの違いを検討した(Wolter, et al.)。2021年10月1日から11月30日の期間で、年齢・性別・基礎疾患の有無・地域・公立または私立医療機関・既感染の有無で調整した入院オッズは、デルタ株感染例と比較してオミクロン株感染例で0.2 (95%CI 0.1-0.3)であった。さらに、2021年10月1日から11月30日の期間に入院した者で、かつ12月21日までに入院後の転帰が判明している者において、年齢・性別・基礎疾患の有無・地域・公立または私立医療機関・既感染の有無・ワクチン接種歴・初回検体陽性〜入院までの期間で調整した重症化(ICU入室・酸素需要あり・人工呼吸器使用・ECMO使用・ARDS・死亡)のオッズは、デルタ株感染例と比較してオミクロン株感染例で0.7 (95%CI 0.3-1.4)であった。さらに、2021年4-11月のデルタ株感染例と10月1日から11月30日のオミクロン株感染と推定される症例でかつ12月21日までに入院後の転帰が判明している者において、入院症例における年齢・性別・基礎疾患の有無・地域・公立または私立医療機関・既感染の有無・ワクチン接種歴・初回検体陽性〜入院までの期間で調整した重症化のオッズを比較したところ、デルタ株感染例と比較してオミクロン株感染例で0.3 (95%CI 0.2-0.5)であった。ただし、最後の解析では、既感染例の増加については検討されておらず、重症化オッズの低下は、既感染例の増加が一定程度寄与している可能性がある。また、既感染の有無やワクチン接種歴については、データが不完全な可能性がある。
  •   スコットランドのエディンバラ大学からの報告として、プライマリケアデータ、ワクチン接種歴データ、検査データ、ウイルスゲノム解析データ、入院データ、死亡データが突合された人口の99%(540万人)をカバーするEarly Pandemic Evaluation and Enhanced Surveillance of COVID-19(EAVE Ⅱ)プラットフォームを用いて、2021年11月1日から12月19日に検査陽性となった者におけるコホート解析が行われた(Sheikh et al.)。SGTFデータを用いてデルタ株とオミクロン株を区別し、年代・性別・剥奪指標(所得や生活水準などの社会的な指標)・既感染・基礎疾患のスコアリング・ワクチン接種歴・カレンダー週をモデルに組み込んで解析したところ、オミクロン株感染例において観察された入院数をデルタ株のデータをもとに期待される入院数で割ったobserved/expected比(O/E比)は0.32(95%CI 0.19-0.52)であった。

  •    検査診断
    •   国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。
    •   オミクロン株は国内で現在使用されているSARS-CoV-2 PCR診断キットでは検出可能と考えられる。
    •   WHOテクニカルブリーフでは、抗原定性検査キットの診断精度については、オミクロン株による影響を受けない可能性が示唆されている。(WHO. Enhancing Readiness for Omicron (B.1.1.529): Technical Brief and Priority Actions for Member States)
    •   国内における変異株PCR検査法に関しては、 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株)について(第3報)を参照されたい。
    •   WHO の指定するオミクロン株(B.1.1.529系統の変異株)と確定するためには全ゲノム情報による塩基変異の全体像を知ることが不可欠である。国立感染症研究所では、全ゲノム解析によりゲノム全長を解読し、得られた配列(contig 配列)を用いて Nextclade および PANGOLIN プログラムにて解析し、クレード(clade)及び PANGO 系統(lineage)の両方が適正に判定された場合に最終判定に資する対象としている。ごく稀に、大きな欠失が生じ、PANGO 系統の結果が得られてもクレードが検出できない場合がある。この場合、解読リード深度 (read depth)が 300 倍以上かつゲノム被覆率(coverage)が 98%以上である、 または、de novo アセンブリにて完全(complete)な contig 配列が得られて いれば、結果が得られた PANGO 系統を確定としている(厚生労働省 2021年2月5日事務連絡 新型コロナウイルス感染症の積極的疫学調査におけるゲノム解析及び変異株 PCR 検査について )。

当面の推奨される対策

  •   オミクロン株については、現時点ではウイルスの性状に関する実験的な評価や疫学的な情報は限られており、高いワクチン接種率を達成している我が国においても感染拡大と患者増加のリスクを想定した対策を講じる必要がある。
  •   カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)のオミクロン株への有効性が低下することが報告されており、オミクロン株感染例であることが明らかな場合や、その蓋然性が高い場合はロナプリーブを投与することは推奨されない。
  •   水際対策と並行して、検疫及び国内での変異株PCR検査及びゲノムサーベイランスによる監視を引き続き行う必要がある。
  •   市中感染が疑われる感染例も報告されており、変異株PCR検査体制の徹底による早期探知、迅速な積極的疫学調査ならびに感染拡大防止策の実施が必要である。
  •   潜伏期間や世代時間の短縮が海外の知見によって示唆されており、また臨床的特徴についてもワクチン接種歴のないものや基礎疾患のあるものにおける評価が十分でないことから、引き続きオミクロン株の疫学的特徴及び重症化リスクについて分析・評価していく必要がある。
  •   オミクロン株感染例と同一空間を共有した者については、マスクの着用の有無や接触時間にかかわらず、幅広な検査の対象としての対応を行うことが望ましい。

 

 基本的な感染対策の推奨

  •         個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、特に会話時のマスクの着用、手洗いなどの徹底が推奨される。

 

参考文献

 

注意事項

  •        迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。

 

更新履歴

 第5報 2021/12/28 9:30時点

 第4報 2021/12/15 19時時点

 第3報 2021/12/8

 第2報 2021/11/28

 第1報 2021/11/26

 

 

 

掲載日:2021年12月28日

【はじめに】

日本国内において行われているCOVID-19患者に対する積極的疫学調査(患者本人の情報、感染源調査、濃厚接触者の特定のための聞き取りなど)は、海外の国々のそれと比較し、詳細な聞き取りが特徴的です。そのため、日本に到着して間もない方や日本語の理解が不十分な方などには、調査の理解が得られず、その結果調査に時間を要する、協力を得られない、となってしまう事例の経験談をこれまで多くの自治体の方から伺いました。そこで、今回日本の積極的疫学調査についての説明を8か国語(英語、ベトナム語、タガログ語、ポルトガル語、フランス語、中国語、ミャンマー語、スペイン語)に翻訳いたしました。実地疫学調査の現場での日本語を話されない方との意思疎通や調査開始の一助になれば幸いです。なお、原文の日本語についても掲載しておりますのでその内容もご確認ください。

2021年12月28日

1.背景と目的

2021年11月22日現在、新型コロナワクチン(Pfizer/BioNTech製、武田/Moderna製、AstraZeneca製)の2回接種率は全年齢の76.2%、高齢者では91.3%を占める(1) 。これらのワクチンの有効性 (vaccine effectiveness) は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染と死亡それぞれに対して報告がなされている。従来株と比較するとデルタ株による感染に対するワクチン有効性の低下が報告されているが、それでも英国からの報告ではPfizer/BioNTech製ワクチンの感染に対する有効性は80%以上とされており(2)、国内においても暫定報告ではあるが、デルタ株流行期の感染に対する有効性が87%と報告されている(3)。感染防御の一方で、現行のmRNAワクチンは細胞性免疫の誘導が期待されるとされ、重症化や死亡から防ぐ効果が十分にあるものと期待される。しかし、ワクチン接種後のCOVID-19死亡症例数が非常に少なく、解析に足る症例数を確保することが少数施設による研究では難しい。死亡に対するワクチン有効性に関する国内での報告は未だなされていない。

さらに症例致命リスク(confirmed Case Fatality Risk、CFR)は、疾患の病原性を示す感染致命リスク (Infection Fatality Risk)の代用として重要な疫学指標であるが、2021年のCOVID-19流行における国内のCFRの報告は未だなされていない。

そこで本稿では、東京都のCOVID-19患者に関する公開情報と新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)という2つのサーベイランスデータを用いて死亡回避のワクチン有効性とCFRを、数理モデルを用いて同時推定した。

2.方法

(1) データ

2020年10月1日から2021年11月15日までに東京都から個票レベルで公表された陽性例の年代、診断日情報、死亡例の年代 (30〜50歳代、60歳代、70歳代、80歳代、90代以上)、診断日、死亡日情報を用いた。報告遅れの影響を受けないために陽性例に関しては診断日が2021年8月31日まで、死亡例に関しては死亡日が2021年8月31日までの症例を解析対象とした。また死亡例に関しては、COVID-19診断から死亡日までの日数が60日以内である症例に限定した。陽性例、死亡例の疫学週ごとのワクチン接種者割合についてはHER-SYSを用いた。ワクチン接種歴の情報は完璧ではなく、中にはその欠損を認めた。そのため、HER-SYSにおける接種歴不明症例に関しては、年代、診断月、症状有無、死亡有無を用いて単一代入法を行うことで接種歴有無を推定した。

(2) 時刻ごとの年代別のCFRと死亡を回避するワクチン有効性の同時推定

年代別CFRと死亡を回避するワクチン有効性を推定するために、以下の二項分布を用いた数理モデルを構築した。

65 fig1

ここで、65 eq0が各年齢群を示すときに65 eq1は仮想死亡日における陽性者数であり、診断日における陽性者件数データを、年代別の診断から死亡までの時間遅れ分布を用いて畳み込みを行うことで得た。65 eq2は死亡日における死亡者数データである。推定パラメータはワクチン未接種群の年齢群別CFR、1回接種、2回接種それぞれにおける感染者の死亡回避のワクチン有効性65 eq3であり、無情報事前分布を置いてベイズ推定を行った。またこのとき得られた感染者における死亡を回避するワクチン有効性の事後分布と、西浦ら(4)により報告された日本におけるCOVID-19の感染に対するワクチン有効性の推定値を用いて、ワクチン接種による感染と死亡の両方に対する有効性(感染あるいは死亡のいずれかを回避する有効性)を推定した。

3.結果

表1に年代別の死亡回避のワクチン有効性を示す。30〜50代では死亡数が少ないために推定値が低く、信用区間も広くなっているが、60〜80代の感染者における死亡を回避するワクチン有効性は60代、70代、80代、90代以上で、それぞれ88.6%(95% 信用区間 64.3%–98.1%)、83.9%(68.8%–92.9%)、83.5(72.5%–91.0%)、77.7%(60.7%–89.4%)と推定された。過去の報告による感染防御のワクチン有効性と合わせると、ワクチンによる感染か死亡のいずれかを回避する有効性は30〜50代で93.8%(90.3%–98.2%)、60代以上では97%以上と推定された。

また死亡回避のワクチン有効性と同時推定された年代別のワクチン未接種者のCFRを図1に示す。70代以上の高齢者において8月にCFRの増加傾向を認めた一方で60代以下では同傾向はみられなかった。年代別の日別CFR中央値の観察期間内における最小値と最大値は、30〜50代、60代、70代、80代、90代以上で、それぞれ最小値0.14%、1.30%、3.12%、6.81%、8.87%、最大値1.02%、5.37%、13.76%、27.08%、41.16%となった。全体として、年代が上がるにつれてCFRが増加する傾向がみられた。

表1. 2021年1月1日から年8月31日までに診断された者の間における年代別の死亡に対するワクチン有効性の推定値
   年代 有効性(%) (95% 信用区間)
*1回接種
(Partially vaccinated)
**2回接種
(Fully vaccinated)
感染者において死亡を回避する有効性 30-50代 34.2 (2.2-71.4) 38.0 (2.6-82.4)
60代 66.1 (33.0-85.4) 88.6 (64.3-98.1)
70代 38.2 (7.3-63.8) 83.9 (68.8-92.9)
80代 46.4 (17.9-68.7) 83.5 (72.5-91.0)
90代以上 52.7 (19.6-76.6) 77.7 (60.7-89.4)
感染あるいは死亡を回避する有効性 30-50代 68.7 (53.5-86.4) 93.8 (90.3-98.2)
60代 83.9 (68.1-93.0) 99.2 (97.4-99.9)
70代 70.6 (55.9-82.8) 99.3 (98.6-99.7)
80代 74.5 (60.9-85.1) 99.4 (98.9-99.6)
90代以上 77.5 (61.8-88.8) 98.4 (97.1-99.2)

*ワクチン1回接種(Partially vaccinated)とは、ワクチン1回目接種から診断日までの日数が14日以上であり、ワクチン2回目未接種または2回目接種から診断日までの日数が14日未満の症例を指す。HER-SYSにおける疫学週毎のワクチン1回接種割合の算出においては、ワクチン接種日不明のワクチン1回接種あり、かつ2回目未接種症例は全てワクチン1回接種とみなした。

**ワクチン2回接種(Fully vaccinated)とは、ワクチン2回目接種から診断日までの日数が14日以上である症例を指す。HER-SYSにおける疫学週毎のワクチン2回接種割合の算出においては、ワクチン接種日不明のワクチン2回接種あり症例は全てワクチン2回接種とみなした。

4.考察

本稿では国内の新型コロナワクチンの死亡を回避する有効性を、サーベイランスデータを用いて初めて推定した。診断された感染者における死亡に対するワクチン有効性は、およそ80%程度の推定値を示した。これらの結果は、ブレイクスルー感染が起きたとしてもワクチン接種により死亡という重大な転帰を防ぐことが出来るということを示唆している。さらに感染と死亡の両方を回避する有効性は特に60代以上では98%以上と推定され、非常に高い有効性であると考えられた。これらの結果は、今後さらに多くの人々へのワクチンを普及する上でワクチン接種のメリットを示す重要な知見であると考えられる。諸外国の報告としては、イスラエルにおけるコホート研究でのPfizer/BioNTech製ワクチンの死亡を回避する有効性が98%(95% 信頼区間 96%-99%)(5)、米国におけるコホート研究でのModerna製ワクチンの病院死亡を回避する有効性が98%(67%-100%)(6)であり同等の結果となっている。また高齢になるにつれて死亡予防効果が低下するという傾向も既報と矛盾しない結果であった(5)。

さらに本稿では年代別のCFRを時刻別に推定した。過去の報告と同様(7)に年代が上がるにつれてCFRが増加するという結果が得られたことに加え、CFRが時期ごとに変動したことも示された。特に高齢者において8月にCFRの増加傾向を認めた。CFRの時期ごとの変動に寄与する因子として診断バイアス (ascertainment bias)、延命措置希望人数の変動、基礎疾患や治療薬、ワクチン接種の有無、変異株の出現、医療逼迫による適切な治療へのアクセスへの低下が考えられる。今後はこれらの因子とCFRの関係について様々なデータソースを用いた多角的な検証が望まれる。

本研究において以下の制限が主に挙げられる。まず、本解析で用いられたワクチン接種歴の情報はHER-SYSデータが用いられているが、解析対象期間におけるHER-SYSのワクチン接種歴情報は、入力者が何も入力しない場合に接種歴「なし」と自動記載される仕様になっていたため、接種歴不明が過小評価されている可能性がある。ただし、陽性者、死亡者に占めるワクチン2回接種あり症例の割合は、一般人口においてワクチン接種が進捗するのと同時に経時的に増えており(参考)、8月の流行が最も厳しく保健所や病院の業務負荷が最も増大していたと考えられた時期においても同様の傾向が見られたことから、ワクチン接種歴ありの入力率はある程度保たれていたと推察された。2つ目の制限として、本解析では解析対象期間中に東京都内において流行した変異株(アルファ株、デルタ株)や新たに使用が開始された治療薬(カシリビマブ及びイムデビマブ)等の影響を考慮出来ていないことが挙げられる。ただし、治療薬に関してはワクチン接種者、未接種者において東京都内といった限定した地域での治療薬の使用の有無の傾向に違いがあるとは考えにくく、死亡に対するワクチン有効性の推定には影響を与えないと考えられる。3つ目の制限として、本解析はサーベイランスデータを用いており、症例ごとの基礎疾患等の重症化リスク因子を考慮出来ていない点が挙げられる。

これらの制限を考慮してもなお本研究は、ブレイクスルー感染後のCOVID-19死亡症例の数が非常に少なくコホート研究や症例対象研究のデータの収集に時間がかかる中で、サーベイランスデータを用いてワクチン接種による死亡回避効果を国内で初めて推定した点で重要であると考えられる。さらに日本における2021年のCOVID-19における年代別のCFRを時刻別に初めて示し、一つの実証的エビデンスを提示することに成功した。今後は死亡に対するワクチン有効性についてより詳細な登録症例を活用した前向き・後ろ向き研究が求められ、またCFRの短期または長期変動に影響する因子の究明に対する多角的な検証が期待される。

5.参考文献

  1. 政府CIOポータル、新型コロナワクチンの接種状況 [Internet]. Available from: https://cio.go.jp/c19vaccine_dashboard
  2. Lopez Bernal J, Andrews N, Gower C, Gallagher E, Simmons R, Thelwall S, et al. Effectiveness of Covid-19 Vaccines against the B.1.617.2 (Delta) Variant. N Engl J Med. 2021;385(7):585–94.
  3. 国立感染症研究所. 新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第二報):デルタ株流行期における有効性. 2021年11月9日. [Internet]. Available from: https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10757-covid19-61.html
  4. サーベイランスデータに数理モデルを適用することによる新型コロナワクチンBNT162b2(Pfizer/BioNTech)の有効性の推定(第1報) [Internet]. Available from: https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10618-covid19-56.html
  5. Glatman-Freedman A, Bromberg M, Dichtiar R, Hershkovitz Y, Keinan-Boker L. The BNT162b2 vaccine effectiveness against new COVID-19 cases and complications of breakthrough cases: A nation-wide retrospective longitudinal multiple cohort analysis using individualised data. EBioMedicine [Internet]. 2021;72:103574. Available from: https://doi.org/10.1016/j.ebiom.2021.103574
  6. Bruxvoort K, Sy LS, Qian L, Ackerson BK, Luo Y, Lee GS, et al. Real-World Effectiveness of the mRNA-1273 Vaccine Against COVID-19: Interim Results from a Prospective Observational Cohort Study. SSRN Electron J [Internet]. 2021;100134. Available from: https://doi.org/10.1016/j.lana.2021.100134
  7. COVID-19レジストリデータを用いた新型コロナウイルス感染症における年齢別症例致命割合について [Internet]. Available from: https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ka/corona-virus/2019-ncov/2488-idsc/iasr-news/10080-491p03.html

謝辞

本報告書の分析に用いたデータの収集にご協⼒いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に感謝申し上げます。本報告書は、東京感染症対策センター(東京iCDC)の協力のもとで作成されました。

報告書作成者

国立感染症研究所感染症疫学センター 髙勇羅、木下諒、鈴木基

国際医療福祉大学医学部 村山泰章

東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学 山崎里紗

京都大学大学院医学研究科社会健康医学専攻 西浦博

  

図1:ワクチンの死亡予防効果と同時推定された年代別の致命リスク (case fatality risk, CFR) 。薄灰色は95% 信用区間を示す。

65 fig2 

参考:東京都における2021年1月1日から8月31日までの間の年代別の陽性者数、死亡者数(棒グラフ)とそれぞれに占めるワクチン2回接種者の割合(線グラフ)

65 fig3

 

 
IASR-logo

八尾市の外国人コミュニティにおける新型コロナウイルス感染症発生時の地域的なコミュニケーション支援等の体制強化(2021年3~4月)

(IASR Vol. 42 p290-291: 2021年12月号)

 
背 景

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は2019年12月に中国湖北省武漢市で発生した新興感染症である。世界保健機関(WHO)は, 3月11日にパンデミック(世界的な大流行)の状態にあることを表明した。2021年8月31日現在, 世界では累積症例数が約1.7億人, 死亡者数が約340万人1), 国内では2021年9月3日現在, 累積症例数が約152.1万人, 死亡者数が約1.6万人と報告されている2)。国内のCOVID-19クラスターにおいては, これまで外国人居住者における事例の発生が散見され, 予防啓発および発生時の対応に関して情報提供等の課題が指摘されてきた3)。本報告は, 大阪府八尾市の外国人を主体としたCOVID-19のクラスター発生下で実施された, 地域における外国人への情報提供や連携体制強化の取り組みから得られた所見に関して報告するものである。

掲載日:2021年12月23日

第64回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年12月22日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第64回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。

英語版

感染状況について

全国の新規感染者数(報告日別)は、直近の1週間では10万人あたり約0.9と、依然として非常に低い水準となっており、新規感染者が確認されない日が継続している地域もある。一方、感染伝播が未だに継続している地域があることに加え、一部の地域では、事業所や社会福祉施設、小学校等でのクラスターや感染経路不明事案の発生による一時的な増加も見られ、直近の今週先週比は1.35と増加傾向となっており、1以上が2週間以上継続している。

実効再生産数:
全国的には、直近(12/5時点)で1.11と1を上回る水準となっており、首都圏では1.23、関西圏では1.02となっている。

掲載日:2021年12月20日

【はじめに】

本教材は、自治体、特に保健所において勤務される方や、COVID-19に限らず地域において感染症が流行した際に支援に入られる方を対象に、短期間で実地疫学調査の概要やポイントなどのエッセンスを学んでいただくために作成されています。本教材は全部で5つのパートに分かれています。感染症の地域における拡大に対応するためには様々な対応をしなくてはいけませんが、保健所が実施している調査(積極的疫学調査)は間違いなく対応の1つの大きな柱となります。総論編では積極的疫学調査の全体像などについて説明しています。各論編①、②では実際に行う業務の内容や意義、疫学調査データマネジメントツールの活用編では業務において利用するエクセルなどのツールの使い方について説明しています。また各論編③では支援業務には直接関係ないかもしれませんが、仮説の検証など、通常行われる実地疫学調査の分析手法などについても触れています。また参考編ではこれまでのFETPが関わった実地疫学調査事例からの学びをご紹介しております。ご興味があればそちらもご覧ください。

緊急かつ迅速な対応が求められる支援を始めるにあたり、本教材がこれから行う業務の理解と実行において少しでもお役に立てれば幸いです。

総論編

各論編① 疫学調査の基本ステップ

各論編② 疫学調査の基本ステップ

各論編③ 疫学調査の基本ステップ

疫学調査データマネジメントツールの活用

視聴前に下記のエクセルファイルをダウンロードしてください。
疫学調査データマネジメントツール・サンプルデータファイル

参考編

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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