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掲載日:2022年1月21日
第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年1月20日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第68回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。
全国の新規感染者数(報告日別)は、今週先週比は3.6と急速な増加が続き、直近の1週間では10万人あたり約147となっている。新規感染者は20代を中心に増加している。まん延防止等重点措置が適用されている沖縄県、山口県及び広島県を始め、東京都や大阪府など関東や関西地方などの都市部のみならず、その他の地域でも新規感染者数の急速な増加が継続している。また、全国で新規感染者数が急速に増加していることに伴い、療養者数が急増し、重症者数も増加している。
オミクロン株のいわゆる市中感染が拡大しており、多くの地域でオミクロン株への急速な置き換わりが進んでいるが、引き続き、デルタ株も検出されている。
2022年1月13日
国立感染症研究所
国立感染症研究所では、新型コロナウイルス感染症対策に資する情報を提供することを目的として、実地疫学調査および新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS) のデータを用いて、 SARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統(オミクロン株) の潜伏期間の推定を行った。その暫定結果について報告する。
方法
本報告では2つのデータを用いて、それぞれ潜伏期間を推定した。
データ1:実地疫学調査
国内でオミクロン株症例に対して実施された実地疫学調査により、リンクおよび曝露日が明らかで、かつ曝露日から14日間が経過した感染ペア(N=35)のデータを用いた。曝露日から発症日までの日数を潜伏期間として検討した。
データ2: HER-SYS データ
2022年1月7日時点に登録されたHER-SYSデータを用いて、ゲノム検査によりオミクロン株が確定されたもののうち、推定感染日及び発症日に記載がある症例を抽出した。潜伏期間は推定感染日と発症日までの日数と定義した。アルファ株症例については、上記のオミクロン株症例を報告していた届出保健所からの症例に限定して、ゲノム検査によりアルファ株が確定された症例を抽出した。推定感染日と発症日の間隔が1日以上の症例を解析の対象とした。
潜伏期間の確率密度関数を計算するために、観察された潜伏期間に対してGamma分布, Lognormal分布, Weibull分布のあてはめを検討し、Akaike Information Criterion(AIC)による比較で最も当てはまりが良かったGamma分布を採用して確率密度分布を算出した。また最尤推定法を用いて推定を行い、信頼区間を計算した。
結果
データ1(実地疫学調査)を用いたオミクロン株症例の潜伏期間の中央値は2.9日(95%信頼区間:2.6-3.2)であった(図1)。99%が曝露から6.7日以内に発症していた。
図1.積極的疫学調査のデータを用いた曝露-発症間隔の分布と累積分布(N=35)
潜伏期間の単位は日。薄茶色は50%、薄水色は99%区間を示す。
データ2では、アルファ株症例1118例、オミクロン株症例113例が解析の対象となった。アルファ株症例の潜伏期間の中央値は3.4日(95%信頼区間:3.3-3.6)、オミクロン株症例は2.9日(95%信頼区間:2.5-3.2)であった。感染曝露から95%、99%が発症するまでの日数は、アルファ株症例ではそれぞれ8.7日、11.9日、オミクロン株症例ではそれぞれ7.1日、9.7日であった。
図2.HER-SYSデータを用いたアルファ株とオミクロン株の曝露-発症間隔の分布
感染曝露からの経過日数ごとの累積発症確率を表1に示す。アルファ株では10日目までに97.35%が発症するのに対して、オミクロン株では99.18%が発症すると推定された。
表1.HER-SYSデータを用いた曝露から経過日数ごとの発症する確率(%)
曝露日からの日数 |
アルファ株症例 |
オミクロン株症例 |
1日 |
6.29 |
8.55 |
2日 |
23.1 |
30.41 |
3日 |
42.42 |
53.05 |
4日 |
59.46 |
70.69 |
5日 |
72.67 |
82.65 |
6日 |
82.16 |
90.12 |
7日 |
88.63 |
94.53 |
8日 |
92.90 |
97.04 |
9日 |
95.63 |
98.43 |
10日 |
97.35 |
99.18 |
11日 |
98.41 |
99.57 |
12日 |
99.05 |
99.78 |
13日 |
99.44 |
99.89 |
14日 |
99.67 |
99.94 |
考察
本報告では、実地疫学調査で収集されたデータを用いた潜伏期間に対する確率密度分布の当てはめにより、中央値は2.9日と推定された。HER-SYSデータにおけるオミクロン株症例の潜伏期間が実地疫学調査と同等であることを踏まえて、アルファ株症例の潜伏期間との比較を行った。一方で感染曝露から99%が発症するまでの期間は、実地的疫学調査で収集されたデータに基づくと6.7日、 HER-SYSデータに基づくと9.7日と推定された。
観察10日目までにアルファ株症例の97.4%が発症するのに対して、オミクロン株症例では99.2%が発症すると推定された。この数値はアルファ株症例の14日における発症ハザードと同等であった。またオミクロン株症例では観察7日目までに94.5%が発症すると推定された。
本分析には制限がある。実地疫学調査においては曝露をうけた可能性のある者すべてが含まれていない可能性があるため、潜伏期間を過小評価している可能性がある。精緻な推定値を得るには上記を加味したモデルと十分なサンプルサイズが必要であるが、今回は検討できていない。HER-SYSデータにおける解析では、感染拡大の状況にあるオミクロン株症例を検討しているために、観察期間を十分にとれた症例が含まれることにより潜伏期間が変わる可能性がある。
注意事項
本報は迅速な情報共有を⽬的としており、内容や⾒解は知見の更新によって更新される可能性がある。
謝辞
本報告書の分析に用いたデータの収集にご協⼒いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に⼼より御礼申し上げます。
掲載日:2022年1月13日
第67回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年1月13日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第67回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。
全国の新規感染者数(報告日別)は、今週先週比は8.5と急速な増加が続き、直近の1週間では10万人あたり約41となっている。新規感染者は20代を中心に増加している。まん延防止等重点措置が適用されている沖縄県、山口県及び広島県を始め、東京都や大阪府など関東や関西地方などの都市部のみならず、その他の地域でもこれまで経験したことのない速さで新規感染者数が急速に増加している。また、全国で新規感染者数が急速に増加していることに伴い、療養者数が急増し、重症者数も増加している。
大部分の都道府県でオミクロン株のいわゆる市中感染が拡大しており、オミクロン株への急速な置き換わりが進んでいる地域もある。オミクロン株の伝播性が高いことを踏まえると、今後感染拡大が急速に進み、自宅・宿泊療養者や入院による治療を必要とする人が急激に増え、軽症・中等症の医療提供体制等がひっ迫する可能性に留意する必要がある。
2022年1月13日9:00時点
1月14日一部修正
1月20日一部修正
1月25日一部修正
国立感染症研究所
主な更新事項
概要
WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化の可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。
2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。
* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.ⅹ系統等が含まれる。
表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要
PANGO 系統名
|
日本 感染研 |
WHO |
EU ECDC |
UK HSA |
US CDC |
スパイクタンパク質の主な変異(全てのオミクロン株で認めるわけではない) |
検出報告国・地域数 |
B.1.1.529 BA.x |
VOC |
VOC |
VOC |
VOC |
VOC
|
G142D, G339D, S371L, S373P, S375F, S477N, T478K, E484A, Q493K, G496S, Q498R, N501Y, Y505H, P681H |
106か国 |
オミクロン株について
海外での発生状況
オミクロン株による感染例(以下オミクロン株感染例)の報告数ならびに報告国数が世界的に増加している。南アフリカ、イングランドやアメリカ合衆国では、デルタ株からオミクロン株への急速な置き換わりを認め、直近の報告ではいずれの国においても新規感染例の95%以上がオミクロン株に由来すると推定される結果であった。また、複数の国・地域で市中感染や集団内の多くの者が感染したクラスター事例も報告されており、さらなる感染の拡大が懸念される。ゲノムサーベイランスの質が十分でない国・地域においては探知されていない感染例が発生している可能性もあるため、現在感染例が探知されている国・地域よりもさらに広い範囲に感染が拡大している可能性がある。
日本での発生状況
海外でも各地域で急激なオミクロン株への置き換わりが進み、直近の海外からの入国者のSARS-CoV-2陽性例の8割以上がオミクロン株感染例であり、オミクロン株の国内への輸入リスクは非常に高い。国内では大部分の都道府県からオミクロン株感染例が報告され、特にオミクロン株の継続的な曝露を受けた地域では、市中感染の拡大による感染者数の急増とオミクロン株への急速な置き換わりを認めた。また、そのような地域からの波及を受けた地域でも急激な市中感染の拡大による感染者数の急増を認めている。
*厚生労働省報道発表資料に基づく
(注1)「空港検疫」には、検疫検査時に陽性だった方に加えて、宿泊施設での待機が必要な国・地域から入国後、待機中に陽性が判明し、オミクロン株と確定した場合も含む。
(注2)「都道府県発表」には、検疫所関係者でオミクロン株と確定した場合を含む。
(注3)「左記以外」は、オミクロン株と確定した者のうち、直近の海外渡航歴がなく、現時点で感染経路が明らかになっていない者等。
ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見
世界各地で、これまでの他の変異株の流行時に比しオミクロン株流行時では、より高い実効再生産数、感染者数の増加率(growth rate)、倍加時間(doubling time)の短縮が報告されてきた。海外では集団発生事例での高い感染の割合(attack rate)や、デルタ株よりも高い家庭内二次感染率(household secondary attack rate)が報告され、伝播性の増加を示唆する所見がある。また、海外の集団発生事例では潜伏期間がデルタ株に比較して短縮している所見も報告されている。高い実効再生産数等は、感染・伝播性の増大と世代時間の短縮の両方の影響が考えられる。ただし、海外でのこれらの所見は、観察集団の免疫状況や感染予防行動等の違い、オミクロン株同定のための検査戦略などの影響等を考慮して慎重に解釈する必要がある。
国内においては、3都県で直近1週間の倍加時間の短縮が観察された。また、潜伏期間の短縮も観察されている。一方、実地疫学調査から得られた暫定的な結果からは、従来株やデルタ株によるこれまでの事例と比較し、感染・伝播性はやや高い可能性はあるが、現段階でエアロゾル感染を疑う事例の頻度の明らかな増加は確認されず、従来通り感染経路は主に飛沫感染と、接触感染と考えられた。また、多くの事例が従来株やデルタ株と同様の機会(例えば、換気が不十分な屋内や飲食の機会等)で起こっていた。基本的な感染対策(マスク着用、手指衛生、換気の徹底等)は有効であることが観察されており、感染対策が守られている場では大規模な感染者発生はみていない。
国内の積極的疫学調査による初期の症例のウイルスの排出期間についての調査では、呼吸器検体中のウイルスRNA量は診断日および発症日から3~6日で最も高くなる傾向があった。診断または発症10日以降でもRNAが検出される検体は認められたが、ウイルス分離可能な検体は認めず、少なくともワクチン接種者においては、従来株と同様に診断または発症10日を超えて感染性ウイルスを排出する可能性は低いと考えられる。また、追加で行ったワクチン未接種者における呼吸器検体中のウイルスRNA量の検討では、ワクチン未接種者でのウイルス排出期間がワクチン接種者に比べて長期化する可能性を示唆するデータは得られなかった。今回の検討では解析症例数が少ないことから、ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス感染動態の全体像を理解することは困難であるが、ワクチン未接種者においてもワクチン接種者と同様に、無症状者および軽症者においては発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いと考えられた。
(国内の知見)
(海外の知見)
オミクロン株は、ワクチン接種や自然感染による免疫を逃避する性質が、遺伝子配列やラボでの実験、疫学データから示唆されている。ワクチンで誘導される抗体の in vitro(試験管内)での評価や疫学的評価から、ワクチン2回接種による発症予防効果がデルタ株と比較してオミクロン株への感染では著しく低下していることが示されている。3回目接種(ブースター接種)によりオミクロン株感染による発症予防効果が一時的に高まるが、この効果は数ヶ月で低下しているという報告もあり、長期的にどのように推移するかは不明である。入院予防効果もデルタ株と比較してオミクロン株において一定程度の低下を認めるが、発症予防効果と比較すると保たれている。入院予防効果においても3回目接種(ブースター接種)により入院予防効果が高まるという報告があるが、中長期的にこの効果が持続するかは不明である。また、モノクローナル抗体を用いた抗体医薬品についても、in vitroでの評価で、カシリビマブ・イムデビマブ(ロナプリーブ)は、オミクロン株の分離ウイルスに対して濃度依存的効果が確認されず中和活性が著しく低下している可能性があり、その他、バムラニビマブ・エテセビマブ、チキサゲビマブ・シルガビマブにおいても中和活性が著しく低下している可能性があるという報告がある。一般的にウイルス感染は、感染回復者は免疫が成立し感染しづらくなると理解されている。しかしながら、非オミクロン株に感染歴のある者の再感染は、非オミクロン株と比較してオミクロン株への免疫が成立せず感染がより起こりやすい(再感染しやすい)との報告がある。
これまでに細胞性免疫に関する評価が複数の国の研究機関等で行われており、少なくとも6報のプレプリントが報告されている。抗体と比較すると、オミクロン株に対する細胞性免疫の減弱は限定的であり、感染回復者やワクチン接種者(mRNAワクチン・アデノウイルスベクターワクチンなど)では、武漢株に対して反応するT細胞のうち、少なくとも70%以上がオミクロン株に対しても応答するとされている(Tarke, et al., Keeton, et al. その他4報)。したがって、過去の感染やワクチン接種により誘導された細胞性免疫はオミクロン株に対しても交差反応性を維持している可能性がある。ただし、細胞性免疫の反応性は個人差が大きいこと、in vitroでの評価法の種類によって交差性に差異が認められる可能性があることから、解釈に注意が必要である。
また、国立感染症研究所から、新型コロナワクチン2回接種からアルファ株またはデルタ株によるブレイクスルー感染までの期間の長さにより血清抗体のオミクロン株に対する交差中和能が変化し、ワクチン接種から感染までの期間の長い方が、交差中和能の高い抗体が誘導されると報告されている(Miyamoto et al., Sidik et al.)。本報告は、ブレイクスルー感染による液性免疫のブーストがオミクロン株に対しても有効であることを明らかにしただけでなく、地域毎に異なる感染流行拡大やワクチン接種導入、ブレイクスルー感染増加のタイミングにより、新型コロナウイルスに対する集団免疫が多様化していく可能性を示唆しており、感染流行予測における地域毎の血清疫学調査の重要性を強調するものである。
重症化予防に関する効果は十分な評価が得られていないが、ワクチン接種や過去の感染により、オミクロン株感染では重症化リスクが低下することが示唆されている(詳細は次項参照)。
(海外のワクチン疫学研究)
(新型コロナワクチン接種後のオミクロン株に対する中和能の検討)
(抗体医薬品の効果への影響)
(再感染リスクについて)
(細胞性免疫について)
国内で経過観察されているオミクロン株感染例(確定例ならびにL452R陰性例を含む)の初期の事例191例については、95%(181/191)が無症状ないし軽症で経過していた。海外の報告では、英国や南アフリカに加えて米国やカナダからデルタ株と比較した入院や重症化のしやすさの違いについての暫定データが報告され、デルタ株に比して入院や重症化リスクの低下が示唆されている。ただし、これらの報告では、オミクロン株感染例が若年層で多い、自然感染やワクチン接種による免疫の影響が考慮されていない等の様々な制限があること、重症化や死亡の転帰を確認するには時間がかかることを踏まえると更なる知見の集積が必要である。
現状の研究や報告の所見を総合すると、デルタ株と比較してオミクロン株では重症化しにくい可能性が示唆される。ただし、重症化リスクがある程度低下していたとしても、感染例が大幅に増加することで重症化リスクの低下分が相殺される可能性を考慮する必要がある。
オミクロン株病原性についての実験科学的な知見については、マウスおよびハムスターを用いた動物モデルでの評価について、いくつかのプレプリント論文が報告されてきた(Diamond, et al., Bentley, et al., Abdelnabi, et al., Sato, et al., McMahan, et al.)。また、in vitroおよびex vivoでの評価に関するプレプリント論文も報告されてきた(Meng, et al., Chi-wai, et al.)。いずれも、オミクロン株では従来株に比べて肺組織への感染性と病原性が低下していることを示唆している。ただし、これらの報告はあくまで動物モデルや細胞・組織レベルでの評価であり、ヒトに対するオミクロン株病原性とは必ずしも相関しない可能性があることに注意する必要がある。
(国内症例について)
(海外からの報告について)
(動物モデルでの評価)
当面の推奨される対策
基本的な感染対策の推奨
参考文献
注意事項
更新履歴
第6報 2022/1/13 9:00時点(20221/14,1/20,1/25 一部修正)
第5報 2021/12/28 9:30時点(2021/12/31 一部修正)
第4報 2021/12/15 19時時点
第3報 2021/12/8
第2報 2021/11/28
第1報 2021/11/26
国立感染症研究所実地疫学研究センター
掲載日:2022年1月13日
国立感染症研究所実地疫学研究センターでは、主に同センター内に設置されている実地疫学専門家養成コース(FETP)を中心に、自治体からの派遣要請あるいは厚生労働省からの依頼に基づき、厚生労働省クラスター対策班として、国内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)事例に対する自治体の実地疫学調査を支援し、現場のクラスター対策の実施及び疫学的知見を深めるための活動に従事してきた。
2021年11月より新たに世界中で拡大している新型コロナウイルスオミクロン株〔SARS-CoV-2変異株 B.1.1.529系統(以下、オミクロン株)〕については、国立感染症研究所はリスク評価を継続的に発出しており、海外における発生状況、ウイルス学的な性状、臨床像、疫学的所見等を詳細に分析し、国内に向けて情報発信を行ってきた。これらは主に各国関係機関からの公式情報や文献的な情報に基づいている。当センターでは、主に国内感染と考えられるオミクロン株事例に対する調査支援に従事しており、本稿発出時点まで約10程度の自治体内で活動を行ってきた。予備的・暫定的な情報であっても、実地疫学調査により得られた所見は公衆衛生対策を構築する上で重要な手がかりとなることから、自治体と共に実地疫学調査を担当する当センターとして、迅速性に重きを置いた情報発信を行うものである。
これらの情報は、現在も進行中の事例から得られていたり(結果が変わっていく可能性がある)、研究としてデザインされた状況下で得られた知見ではない(観察期間等が一定ではない、オミクロン株が確認されていないがオミクロン株感染症例と疫学的につながりがある症例を含む)などの制限が多数あることに注意が必要である。
推定曝露日から14日以上経過した集団における感染例のみを解析対象とした場合の潜伏期間について、3つの自治体(うち情報の得られた単独の事例)からの情報を表1に示す。すなわち、比較可能な事例の情報についてまとめたところ、潜伏期間中央値の範囲は2-3日であった。国内でも海外からの報告と同様に、オミクロン株感染例では、従来株やデルタ株感染例と比較し潜伏期間が短縮している可能性が示唆された1, 2)。
表1.国内3自治体より得られたオミクロン株潜伏期間
自治体 | 対象感染者数 | 中央値(日)[範囲] |
A | 12 | 3[1-4] |
B | 18* | 3[2-5] |
C | 5 | 2[1-2] |
*家族内感染を含む。ただし、家族内感染は二次感染初発例のみ
家庭内SARについては、家族かどうかに関わらず同居者の中での感染例発生割合を算出した。ここでindex case(感染源となったと推定される最初の感染例)は、家庭内症例で最も発症日が早い症例、または当該症例以前に感染性を有する無症状の感染例との疫学的なリンクがあり、家庭にウイルスを持ち込んだことが示唆される症例である。4つの自治体からの結果を表2に示す。オミクロン株の家庭内SARは、従来株、デルタ株と比較して高い可能性が示された3-6)。
表2.国内4事例より得られたオミクロン株家庭内二次感染率(SAR)
自治体 | 検査者数(x) | 感染者数(y) | SAR(y/x)(%) [95%信頼区間] | 観察期間中央値 (日)[範囲] |
A | 17 | 6 | 35[13-58] | 全員14日間経過 |
B | 66 | 21 | 31[20-47] | 全員14日間経過 |
C | 24 | 11 | 45[14-76] | 全員14日間経過 |
D | 18 | 8 | 44[25-66] | 6[3-10] |
主な制限としては、情報収集時点で同居者濃厚接触者の健康観察期間が終了していない症例を含んでいることから、感染例の発生について過小評価している可能性がある。一方で、家庭内での三次感染以上を含んでいる場合には過大評価されうる。また、ワクチン接種状況、感染対策実施状況を含む曝露状況を考慮した結果ではないことに注意する必要がある。
オミクロン株感染で単一曝露など感染経路が確認された事例では、従来株、アルファ株、デルタ株同様、飛沫感染が疑われる感染が多かった。ただし、一部直接的または間接的な接触による感染の可能性や換気の悪い室内でのエアロゾル感染が否定できない感染(感染者用宿泊施設における従業員の感染(表3、事例9)、換気がある程度確保されていた医療機関外来の医療従事者の感染(同、事例10)、屋内作業を密な状況で長時間行った時の感染(同、事例8)、換気が悪い密な飲食店店舗内での感染(同、事例13)、など)が確認された。
感染経路を評価できた事例は少ないものの、エアロゾル感染が疑われた事例の頻度が明らかに増えているわけではなく、従来より認識されていたエアロゾル感染が起こりやすい状況(換気が悪い屋内、密、長時間)以外でのエアロゾル感染疑い事例も確認されていない。引き続き、感染経路を注意深く確認していく必要がある。
注)エアロゾル感染:2m以上離れた長距離間での感染、又は感染者の不織布マスク着用が自己申告と他覚的な確認で確認された状況での感染
表3.感染経路が推定されたオミクロン株新型コロナウイルス感染症の感染事例(13事例)
事例 | 感染 者数 | 感染 場所 | 推定感染経路 | 備考 |
1 | 10 | 会食 | 飛沫 | 自宅での親族との会食 |
2 | 13 | 会食 | 飛沫 | 飲食店での親族との会食 |
3 | 5 | 会食 | 飛沫 | 飲食店での親族との会食 |
4 | 5 | 会食 | 飛沫 | 飲食店での職場同僚との会食 |
5 | 6 | 会食 | 飛沫 | 飲食店での職場同僚との会食 |
6 | 6 | 会食 | 飛沫 | 飲食店での職場同僚との忘年会 |
7 | 7 | 会食 | 飛沫 | 自宅での友人との会食 |
8 | 16 | 職場 | 飛沫、ただし、 接触や一部のエアロゾル感染は否定できず | 職場の密な環境における食事や屋内作業 |
9 | 2 | 職場 | 接触、ただし、 一部のエアロゾル感染は否定できず | 感染者宿泊施設における従業員 |
10 | 1 | 職場 | 接触 | 医療機関外来 |
11 | 2 | 職場 | 飛沫 | 職場の同僚間 |
12 | 15 | 会食 | 飛沫 | 飲食店での友人との会食 |
13 | 16 | 会食 | 飛沫、ただし、 一部のエアロゾル感染は否定できず | 飲食店での友人との会食 |
令和4年1月13日
令和4 年1月20日 誤記訂正
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている。国内においては、新型コロナウイルス感染症患者は感染症法または検疫法に基づいて入院措置等が行われる。オミクロン株についての知見が不十分であったため、2022年1月4日までは、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症患者(オミクロン株症例)については、オミクロン株以外による新型コロナウイルス感染症患者(非オミクロン株症例)と異なる退院基準・解除基準が設定されており、核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認が必要とされていた。しかし、この退院基準では入院期間が長期化し、患者及び医療機関等の負担となっていたことから、オミクロン株症例のウイルス排出期間等について早急に明らかにする必要があった。厚生労働省、国立感染症研究所(感染研)において、国立国際医療研究センター国際感染症センター及び関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条第2項の規定に基づきオミクロン株症例の積極的疫学調査を行っている。本調査において、新型コロナワクチン2回接種から14日以上経過している者(以降、「ワクチン接種者」と記載)における感染性ウイルス排出期間を検討し、発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆され、1月5日に第1報として報告するとともに、同日、厚生労働省より事務連絡(https://www.mhlw.go.jp/content/000876461.pdf)が発出され、ワクチン接種者においては、退院基準・解除基準を非オミクロン株症例と同様の取扱いとすることとなっている。しかし、新型コロナワクチン未接種者(以降、「ワクチン未接種者」と記載)におけるオミクロン株症例においては知見が得られなかった。第1報以降、ワクチン未接種者におけるオミクロン株症例の呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の推移を検討したため、これを示す。
対象は検疫および国内で検出されたオミクロン株感染確定症例として、経過中に臨床目的もしくは研究目的で採取された(陰性を含む)すべての呼吸器検体(唾液および鼻咽頭スワブ)の残余検体について、感染研にてリアルタイムRT-PCRを実施した。採取の目安としては、SARS-CoV-2感染の初回陽性検体の検体採取日(本稿では便宜的に「診断日」と定義する)を0日目としてそこから、(1)0-1日目、(2)3-5日目、(3)6-8日目、(4)9日目以降、(5)退院時陰性検体(2回分)とした。
RNAは唾液および鼻咽頭拭い液検体200 µLからMaxwell RSC miRNA Plasma and Serum kitもしくはMagMAX Viral/Pathogen Nucleic Acid Isolation Kitを用いて抽出した。新型コロナウイルスN2領域をターゲットとしたプライマー/プローブセット(N2セット)とOne Step PrimeScript™ III RT-qPCR Mixを用いてリアルタイムRT-PCRによりウイルスRNA量(Cq値)を測定した。陰性と判定された検体のCq値は45を代入して解析した。
2022年1月7日までに登録された対象症例は、47例のべ265検体(ワクチン接種者:36例(210検体);ワクチン未接種者:11例(55検体))であった。年齢中央値31歳(四分位範囲24.5-47歳)(ワクチン接種者:38歳 (29-47歳);ワクチン未接種者:9歳(9-26歳))、男性33例(70%)、女性14例(30%)(ワクチン接種者:男性26例、女性10例;ワクチン未接種者:男性7例、女性4例)であった。退院までの全経過における重症度は、無症状が10例(21%)、軽症が36例(77%)、中等症Ⅰが1例(2%)であった(ワクチン接種者:無症状6例、軽症29例、中等症Ⅰ 1例;ワクチン未接種者:無症状4例、軽症7例)。ICU入室・人工呼吸器管理・死亡例はいなかった。
診断日からの期間別のウイルスRNA量(Cq値)を図Aに示す。Cq値は日数が経過するにつれて上昇傾向であった。また、ウイルスRNA検出検体の割合も日数が経過するにつれて、減少していた(表)。さらに、有症状者と無症状者において、ワクチン未接種者の検体とワクチン接種者の検体のウイルスRNA量を比較したところ、発症もしくは診断から0〜9日および発症もしくは診断10日以降において、ワクチン未接種者とワクチン接種者の呼吸器検体中のウイルスRNA量に違いは認めなかった(図B)。
図. ワクチン未接種/ワクチン接種者のオミクロン株症例における呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の日数別推移(A) ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルスRNA量(Cq値)の診断からの日数別推移。赤線は中央値と四分位範囲を示す。
(B) ワクチン未接種者とワクチン接種者のオミクロン株症例におけるウイルスRNA量(Cq値)の比較(有症状者および無症状者)赤線は中央値と四分位範囲を示す。ns: 統計学的有意差なし(一元配置分散分析とHolm-Sidak 検定)
表.ワクチン未接種のオミクロン株症例におけるウイルスRNA検出検体数および割合(診断からの日数別)
診断からの日数 | RNA検出検体数 および割合n (%) |
0-2日目 | 7/11 (63.6) |
3-6日目 | 11/13 (84.6) |
7-9日目 | 7/13 (53.8) |
10-13日目 | 3 /10 (30.0) |
14日目以降 | 1/8 (12.5) |
本報告では、ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス排出期間を検討した。ワクチン未接種者においても呼吸器検体中のウイルスRNA量は日数が経過するにつれて減少傾向であった。さらに、有症状者と無症状者において、ワクチン未接種者とワクチン接種者の呼吸器検体中のウイルスRNA量を比較したところ、発症もしくは診断から0〜9日、および発症もしくは診断10日以降において、両者のウイルスRNA量に違いは認めなかった。
現時点で検討した症例数はワクチン未接種者11例と限られているが、ワクチン未接種者でのウイルス排出期間がワクチン接種者に比べて長期化する可能性を示唆するデータは得られなかった。今回の検討では解析症例数が少ないことから、ワクチン未接種者のオミクロン株症例におけるウイルス感染動態の全体像を理解することは困難であるが、ワクチン未接種者においてもワクチン接種者と同様に、無症状者および軽症者においては発症または診断10日以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いと考えられた。 本報告の制限として、解析した症例数が少ないこと、調査対象者は無症状者及び軽症者が大部分を占め特にワクチン未接種者においては若年者が調査対象であったこと、ウイルス分離の結果が得られておらず感染性ウイルスの有無が不明であることなどが挙げられる。
本報は迅速な情報共有を⽬的としており、調査は継続しているため、内容や⾒解は知見の更新によって更新される可能性がある。
本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は, 次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。
大阪市立総合医療センター、国際医療福祉大学成田病院、国立国際医療研究センター、東京都立駒込病院、長良医療センター、成田赤十字病院、りんくう総合医療センター(五十音順)
発出元国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
2021年11月24日に南アフリカ共和国から世界保健機関(WHO)へ最初の新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)新規変異株B.1.1.529 系統(オミクロン)感染例が報告された。12月21日までに日本を含め世界106カ国から感染例が報告され、各地でオミクロン株の感染拡大がみられている1)。
掲載日:2022年1月11日
第66回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和4年1月6日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第66回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。
新規感染者は急速に増加している。全国の新規感染者数(報告日別)は、直近の1週間では10万人あたり約5であるが、直近の今週先週比は3.26となっている。特に感染者が急増している地域として、沖縄県では10万人あたり約80で今週先週比は6.95、山口県では10万人あたり約22で今週先週比が11.11、広島県では10万人あたり約14で今週先週比が24.69となっている。また、関東や関西地方などの都市部を中心に新規感染者数の増加が見られる。全国で新規感染者数が急速に増加していることに伴い、療養者数と重症者数は増加傾向にある。
海外におけるオミクロン株による感染例は、継続的に増加している。国内においても、約8割の都道府県でオミクロン株の感染が確認されており、海外渡航歴がなく、感染経路が不明の事案が継続して発生している地域もある。またデルタ株からの置き換わりも進んでいる地域もあることを踏まえると、今後、感染拡大が急速に進み、医療提供体制等がひっ迫する可能性に留意する必要がある。
国内の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染者数は、新型コロナワクチン接種率の向上等により低下し、高齢者施設等でのクラスター発生数も減少してきている。一方で新型コロナワクチン接種ができない、または進んでいない20代以下では感染者数が増加し、それに伴い学校では新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染者発生に対する適切な対策が求められている。そこで、2020年2月1日〜2021年9月15日の期間に発生した、札幌市立小中学校に通う児童・生徒、教職員等のCOVID-19事例を解析し、小中学校におけるSARS-CoV-2感染拡大要因について検討した。なお、札幌市では2021年7月より市立小中学校教職員を新型コロナワクチンの優先接種の対象にした。また、8月20日からは12~15歳の市民に新型コロナワクチン接種券を送付して同年齢層の市民にも新型コロナワクチン接種を開始したが、9月15日までに2回目接種を完了した同年齢市民の割合は約0.4%であった。COVID-19の流行以降、市立小中学校の児童・生徒、教職員等にSARS-CoV-2感染者が発生した場合、原則、感染者が発生した学級を学級閉鎖とし、同時に学級全員・接触のあった教員に発症の有無を問わずPCR検査を行ってきた。また、2021年3~6月までは、市衛生研究所や民間検査機関で検出されたSARS-CoV-2はB.1.1.7系統(アルファ株)が主流であり、B.1.617.2系統(デルタ株)の2021年6~ 9月までの月別検出割合は各0.2%、44%、74%、86%と増加していた。
令和4年1月5日
国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19)においては、B.1.1.529系統の変異株(オミクロン株)が、2021年11月末以降、我が国を含む世界各地から報告され、感染・伝播性や抗原性の変化が懸念されている。国内においては、新型コロナウイルス感染症患者は感染症法または検疫法に基づいて入院措置等が行われる。オミクロン株についての知見が不十分であるため、令和4年1月4日現在、オミクロン株による新型コロナウイルス感染症患者(オミクロン株症例)については、オミクロン株以外による新型コロナウイルス感染症患者(非オミクロン株症例)と異なる退院基準が設定されており、核酸増幅法または抗原定量検査による2回連続の陰性確認が必要とされている。しかし、現在の退院基準では入院期間が長期化し、患者及び医療機関等の負担となる可能性があることから、オミクロン株症例のウイルス排出期間等について明らかにする必要がある。
国立感染症研究所(感染研)では、関係医療機関・自治体の協力のもと、感染症法第15条の規定に基づき、オミクロン株症例の積極的疫学調査を行っており、本調査の一環として、感染性持続期間を検討している。本稿では、この暫定報告として、国内のオミクロン株症例の呼吸器検体中のウイルスRNA量(Cq値)の推移と感染性ウイルスの検出期間を示す。
対象は検疫および国内で検出されたオミクロン株感染確定症例で、経過中に臨床目的もしくは研究目的で採取された(陰性を含む)すべての呼吸器検体(唾液および鼻咽頭スワブ)の残余検体について、感染研にてリアルタイムRT-PCRおよびウイルス分離試験を実施した。採取の目安としては、SARS-CoV-2感染の初回陽性検体の検体採取日(本稿では便宜的に「診断日」と定義する)を0日目としてそこから、(1)0-1日目、(2)3-5日目、(3)6-8日目、(4)9日目以降、(5)退院時陰性検体(2回分)とした。
RNAは唾液および鼻咽頭拭い液検体200 µLからMaxwell RSC miRNA Plasma and Serum kitもしくはMagMAX Viral/Pathogen Nucleic Acid Isolation Kitを用いて抽出した。新型コロナウイルスN2領域をターゲットとしてOne Step PrimeScript™ III RT-qPCR Mixを用いてリアルタイムRT-PCRによりCq値を測定した。陰性と判定された検体のCq値は45を代入して解析した。
検体と分離用培地を混和し、VeroE6/TMPRSS2細胞に接種/培養を行い、接種後3日、5日に細胞変性効果の有無について評価した。また、細胞変性効果が見られた時点もしくは5日目に培養上清を回収し、リアルタイムRT-PCRにてSARS-CoV-2の確認試験を実施し、ウイルス分離の判定を行った。
2021年12月22日までに登録された対象症例は、21例のべ83検体であった。年齢中央値33歳(四分位範囲 29-47歳)、男性19例(90%)、女性2例(10%)であった。ワクチン3回接種は2例(10%)で、その内訳はファイザー社製のワクチン3回の1例とジョンソンエンドジョンソン社製のワクチンの後にファイザー社製のワクチン2回接種した1例であった。そのほかはファイザー社製のワクチン2回が8例(38%)、武田/モデルナ社製のワクチン2回が9例(43%)、未接種者はいずれも未成年で2例(10%)であった。ワクチン2回接種から2週間以内の経過の者はいなかった。 退院までの全経過における重症度は、無症状が4例(19%)、軽症が17例(81%)であった。中等症以上・ICU入室・人工呼吸器管理・死亡例はいなかった。
診断日および(有症状者に限定して)発症日からの期間を以下に分けてCq値を図A, Bに示す。Cq値は診断日および発症日から3~6日の群で最低値となり、その後日数が経過するにつれて、上昇傾向であった。診断または発症10日目以降でもRNAが検出される検体は認められ、Cq値20台の検体を2例認めたが、いずれも症状消失後2日以内の検体であった。
図. オミクロン株症例におけるCq値の日数別推移(A) オミクロン株症例におけるCq値の診断からの日数別推移
(1)0-2日目、(2)3-6日目、(3)7-9日目、(4)10-13日目、(5)14日目以降
(B) オミクロン株症例におけるCq値の発症からの日数別推移(有症状者に限定した発症からの日数別)
(1)-1-2日目、(2)3-6日目、(3)7-9日目、(4)10-13日目、(5)14日目以降
診断日および(有症状者に限定して)発症日からの期間を以下に分けて分離の可否を表に示す。診断日および発症日からの日数が3~6日目の群でウイルス分離可能な割合は最も高く、その後は減少傾向であった。特に、診断および発症10日目以降、ウイルス分離可能な症例は認めなかった。また未成年患者検体からもウイルス分離は可能であった。PCR陰性でウイルス分離された検体は認めなかった。
表.オミクロン株症例におけるRNA検出および分離の可否
(A)ウイルスRNA検出検体数および割合と分離可能検体数および割合(診断からの日数別)
診断からの日数 | RNA検出検体数 および割合n (%) | 分離可能検体数 および割合n (%) | PCR陽性検体のうち分離可能検体数および割合n (%) |
0-2日目 | 20/21 (95.2) | 2/21 (9.5) | 2/20 (10.0) |
3-6日目 | 14/17 (82.4) | 7/17 (41.2) | 7/14 (50.0) |
7-9日目 | 17/18 (94.4) | 2/18 (11.1) | 2/17 (11.8) |
10-13日目 | 4/15 (26.7) | 0/15 (0) | 0/4 (0) |
14日目以降 | 5/12 (41.7) | 0/12 (0) | 0/5 (0) |
(B)ウイルスRNA検出検体数および割合と分離可能検体数および割合(有症状者に限定した発症からの日数別)
発症からの日数 | RNA検出検体数 および割合n (%) | 分離可能検体数 および割合n (%) | PCR陽性検体のうち分離可能検体数および割合n (%) |
-1-2日目 | 15/16 (93.8) | 2/16 (12.5) | 2/15 (13.3) |
3-6日目 | 8/8 (100) | 4/8 (50.0) | 4/8 (50.0) |
7-9日目 | 16/16 (100) | 3/16 (18.8) | 3/16 (18.8) |
10-13日目 | 7/12 (58.3) | 0/12 (0) | 0/7 (0) |
14日目以降 | 4/10 (40.0) | 0/10 (0) | 0/4 (0) |
(C)無症状者のウイルスRNA検出検体数および割合と分離可能検体数および割合
陽性からの日数 | RNA検出検体数 および割合n (%) | 分離可能検体数 および割合n (%) | PCR陽性検体のうち分離可能検体数および割合n (%) |
0-5日目 | 6/6 (100) | 3/6 (50.0) | 3/6 (50.0) |
6-9日目 | 3/4 (75.0) | 0/4 (0) | 0/3 (0) |
10日目以降 | 1/10 (10) | 0/10 (0) | 0/1 (0) |
本報告では、国内のオミクロン株症例における感染性持続期間を検討した。
オミクロン株症例において、Cq値は診断日および発症日から3~6日の群で最低値となり、その後日数が経過するにつれて、上昇傾向であった。診断または発症10日目以降でもRNAが検出される検体は認められたが、ウイルス分離可能な検体は認めなかった。これらの知見から、2回のワクチン接種から14日以上経過している者で無症状者および軽症者においては、発症または診断10日後以降に感染性ウイルスを排出している可能性は低いことが示唆された。
本調査の制限として、ワクチン接種歴のある者が大多数であったこと、無症状者及び軽症者が調査対象であったことなどが挙げられる。また、ウイルス分離試験の結果は検体の採取方法・保管期間・保管状態等に大きく依存することから、陰性の結果が検体採取時の感染者体内に感染性ウイルスが存在しないことを必ずしも保証するものではないことに注意が必要である。
迅速な情報共有を⽬的とした資料であり、内容や⾒解は知見の更新によって変わる可能性がある。
本調査にご協力いただいております各自治体関係者および各医療関係者の皆様に心より御礼申し上げます。本稿は, 次の医療機関からお送りいただいた情報を基にまとめています。
国立国際医療研究センター、りんくう総合医療センター(五十音順)
発出元国立感染症研究所
国立国際医療研究センター 国際感染症センター