(このページでは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19) 関連の記事を、掲載日が新しい順に表示しています)
掲載日:2021年12月17日
第63回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年12月16日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第63回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。
全国の新規感染者数(報告日別)は、直近の1週間では10万人あたり約0.7と、昨年の夏以降で最も低い水準が続いているが、直近の今週先週比は1.17と増加傾向が続いている。また、療養者数、重症者数や死亡者数も低い水準が続いている。
ブレイクスルー感染者を含む医療機関、福祉施設等での
クラスター調査から得られた知見(簡略版)
2021年12月8日時点
国立感染症研究所実地疫学研究センター
2021年2月より、国内では新型コロナウイルスワクチン(以下、ワクチン)接種が進められていますが、2021年8月以降、医療施設や福祉施設などにおいて、ワクチン接種後一定の期間を経過した者のうち、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に罹患する、いわゆるブレイクスルー感染者を多数含むクラスターが報告されるようになりました。本稿においては、管轄自治体のご協力のもと当センターが従事した、ブレイクスルー感染者を多数含む複数の国内各地で発生したクラスターの各調査結果(計11事例)から得られた、共通すると思われる代表的な所見、および共通する対策に関する提案について、迅速性に重きを置いた形で簡略に紹介したいと思います。なお、本調査における陽性者の全検体の遺伝子情報が分析されてはいませんが、分析されたウイルスについてはすべてデルタ株であったことを申し添えます。また、この11事例全体を通して、2回目の接種日から発症までの週数の中央値は、職員については17.1週(範囲5.1-22.6週)、入所者・入院患者については7.3週(範囲0.1-19.6週)でした。
代表的な所見:
共通する対策に関する提案:
以上、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
2021年12月15日19:00時点
12月17日 一部修正
国立感染症研究所
WHOは2021年11月24日にSARS-CoV-2の変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。
2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(Variant of Interest ; VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株*)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。
* B.1.1.529 系統の下位系統であるBA.ⅹ系統等が含まれる。
表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要
PANGO 系統名
|
日本 感染研 |
WHO |
EU ECDC |
UK HSA |
US CDC |
スパイクタンパク質の主な変異(全てのオミクロン株で認めるわけではない) |
検出報告国・地域数 |
B.1.1.529 BA.x |
VOC |
VOC |
VOC |
VOC |
VOC
|
G142D, G339D, S371L, S373P, S375F, K417N, N440K, G446S, S477N, T478K, E484A, Q493K, G496S, Q498R, N501Y, Y505H |
76か国 |
オミクロン株について
海外での発生状況
日本での発生状況
ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見
オミクロン株については、現時点ではウイルスの性状に関する実験的な評価や疫学的な情報は限られている。国内外の発生状況の推移、重症度、年代別の感染性への影響、ワクチンや既存の治療薬の効果についての実社会での影響、既存株感染者の再感染のリスクなどへの注視が必要である。
国内におけるリスク評価
国内の発生動向
国内の新規COVID-19報告数は微増傾向ではあるものの、依然いずれの地域・年齢群でも低いレベルで推移している。国内のゲノムサーベイランス検体からオミクロン株は検出されておらず、現時点でオミクロン株による市中での急激な感染拡大を示唆する所見はない。しかし、オミクロン株感染例の探知を報告する国は増加しており、日本においても市中感染が報告されている国以外への渡航後のオミクロン株感染例が増加している。
感染・伝播性
免疫獲得状況や対策の程度が日本の現状とは必ずしも同様でないものの、限られた初期の情報ではあるが海外における疫学的評価から感染・伝播性の増加が示唆されている。
重症度
国内で経過観察されているオミクロン株感染例については全員軽症もしくは無症状で経過しているが、症例数が少なく、海外の報告を併せても現時点では重症度の評価は困難である。引き続き国内外の動向を注視する必要がある。
ワクチン・抗体医薬品の効果への影響や免疫からの逃避
査読前論文ではあるが実験室における評価や初期の疫学的評価で、ワクチン2回接種による発病予防効果が低下している可能性が示唆されている。
当面の推奨される対策
基本的な感染対策の推奨
参考文献
注意事項
迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。
更新履歴
第4報 2021/12/15 19時時点
第3報 2021/12/8
第2報 2021/11/28
第1報 2021/11/26
2022年度
● 臨時セミナー
・緊急企画サル痘研修会(2022年7月29日開催)
・国内国際状況のアップデート:ポリオ根絶計画に関する合同セミナー
(2022年11月10日開催)
(2022年12月13日開催)
※ この企画は、厚生労働行政推進調査事業費補助金 新興・再興感染症及
び予防接種政策推進研究事業「新興・再興感染症のリスク評価とバイオ
テロを含めた危機管理機能の実装のための研究」と共同によるものです。
2021年度
● 国際感染症分野のキャリアアップセミナー(2021年11月12日開催)
● 令和3年度感染症危機管理研修会(2022年3月14日開催)
2020年度以前
※ 掲載の資料の無断転載・転用はご遠慮ください。
掲載日:2021年12月9日
第62回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年12月8日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第62回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。
全国の新規感染者数(報告日別)は、直近の1週間では10万人あたり約0.6と、昨年の夏以降で最も低い水準が続いているが、直近の今週先週比は1.11と増加傾向となった。また、療養者数、重症者数や死亡者数も低い水準が続いている。
2021年12月8日
国立感染症研究所
WHOの変異株B.1.1.529系統を監視下の変異株(Variant Under Monitoring; VUM)に分類したが(WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants)、同年11月26日にウイルス特性の変化可能性を考慮し、「オミクロン株」と命名し、懸念される変異株(Variant of Concern; VOC)に位置づけを変更した(WHO. Classification of Omicron (B.1.1.529) )。同じく、欧州CDC(ECDC)も、11月25日時点では同株を注目すべき変異株(Variant of Interest; VOI)に分類していたが(ECDC. SARS-CoV-2 variants of concern)、11月26日にVOCに変更した(ECDC. Threat Assessment Brief)。
2021年11月26日、国立感染症研究所は、PANGO系統でB.1.1.529系統に分類される変異株を、感染・伝播性、抗原性の変化等を踏まえた評価に基づき、注目すべき変異株(VOI)として位置づけ、監視体制の強化を開始した。2021年11月28日、国外における情報と国内のリスク評価の更新に基づき、B.1.1.529 系統(オミクロン株)を、懸念される変異株(VOC)に位置付けを変更した。
表 SARS-CoV-2 B.1.1.529系統(オミクロン株)の概要
PANGO 系統名
|
日本 感染研 |
WHO |
EU ECDC |
UK HSA |
US CDC |
スパイクタンパク質の主な変異 |
検出報告国・地域数 |
B.1.1.529 |
VOC |
VOC |
VOC |
VOC* |
VOC†
|
G142D, G339D, S371L, S373P, S375F, K417N, N440K, G446S, S477N, T478K, E484A, Q493K, G496S, Q498R, N501Y, Y505H |
57か国 |
*UK HSA. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: technical briefing 30.
†CDC. SARS-CoV-2 Variant Classifications and Definitions.
オミクロン株について
海外での発生状況
世界での発生状況
南アフリカでの発生状況
重症度とワクチン接種歴に関する情報を含む英国の発生状況
日本での発生状況
ウイルスの性状・臨床像・疫学に関する評価についての知見
オミクロン株については、現時点ではウイルスの性状に関する実験的な評価や疫学的な情報は限られている。国内外の発生状況の推移、重症度、年代別の感染性への影響、ワクチンや既存の治療薬の効果についての実社会での影響、既存株感染者の再感染のリスクなどへの注視が必要である。
感染・伝播性
南アフリカにおいて流行株がデルタ株からオミクロン株に急速に置換されていることから、オミクロン株の著しい感染・伝播性の高さが懸念される(WHO: Classification of Omicron (B.1.1.529) , ECDC; Threat Assessment Brief)。
南アフリカでは10月にウイルスゲノム解析された検体の84%がデルタ株であったが、11月には73%がオミクロン株であった(National Institute for Communicable Diseases: SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE (3 DEC 2021))。ただしS gene target failure(詳細は後述)を認める検体(オミクロン株であることが疑われる検体)を優先的にウイルスゲノム解析しているのであれば、73%という値は過大評価である可能性がある。また、10月にはデルタ株の流行が減少していた時期でもあるため、解釈に注意が必要である。
南アフリカでの予備的なデータによると、デルタ株に比べてオミクロン株の感染・伝播性はかなり高いと推測されている。モデリングによる予測ではオミクロン株は今後数カ月以内にEU/EEAにおけるSARS-CoV-2感染の半数以上を占めるようになるとされている(ECDC: Threat Assessment Brief: Implications of the further emergence and spread of the SARS CoV 2 B.1.1.529 variant of concern (Omicron) for the EU/EEA first update 2 December 2021)。
オックスフォード大学が行った立体構造予測では、オミクロン株に存在する変異は、抗体結合に影響を与える可能性が高く、新型コロナウイルスがヒトの細胞に感染する際の受容体であるACE2との結合がこれまでの変異株よりも高まる可能性があることが示唆された(データの詳細はまだ公開されていない)(UK HSA SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England Technical briefing 30)。
香港では、同じホテルに隔離中だった南アフリカから入国した無症状のオミクロン株感染例が、他者へ感染させたことを示唆される事例が認められた。2名とも2回のワクチン接種歴があり廊下を挟んで反対側の部屋に隔離されていた。この2名から検出されたオミクロン株については、全ゲノム解析で1塩基のみの違いであった。疫学調査では、この2名で共有した物品はなく、お互いが部屋に出入りする機会もなかった。それぞれがドアを開ける機会は食事を廊下から回収するときと、定期的なPCR検査を受けるときであった。ただし、2名の帰国日は異なっていたため定期的なPCR検査を受ける日程が同日であった可能性は低い(Probable transmission of SARS-CoV-2 omicron variant in quarantine hotel, Hong Kong, China, November 2021.Emerg Infect Dis.)。
ワクチン効果への影響や免疫からの逃避
オミクロン株の有する変異は、これまでに検出された株の中で最も多様性があり、感染・伝播性の増加、既存のワクチン効果の著しい低下、及び再感染リスクの増加が強く懸念されるとしている (ECDC; Threat Assessment Brief) 。
一方で、現時点で明らかな細胞性免疫からの逃避についての情報はなく、重症化予防効果への影響は不明である。
南アフリカにおいてSARS-CoV-2陽性例および検査のサーベイランスデータを用いた研究では、2種類の手法を用いて、非オミクロン株とオミクロン株への再感染のしやすさについて検討された(Increased risk of SARS-CoV-2 reinfection associated with emergence of the Omicron variant in South Africa. MedRxiv)。まず、初回感染の発生率に対する再感染の発生率の比が第1波と同じであると仮定して、その後の再感染者数を予測したところ、第2波(ベータ株主流)、第3波(デルタ波主流)で観察された再感染者数は予測範囲内であったが、11月に観察された再感染者数は予測範囲を上回っていた。次に、全期間について初回感染の発生率に対する再感染の発生率の比を算出したところ、第1波(従来株主流)は0.15、第2波(ベータ株主流)は0.12、第3波(デルタ株主流)は0.09であったが、11月以降は0.25と上昇していた。比は一貫して1を下回っており、初回感染よりも再感染の発生率は低いが、ベータ株やデルタ株の流行時に比較して、再感染の発生率は高まっている可能性があった。なお、この検討では、個々のSARS-CoV-2陽性例のワクチン接種歴が得られていないためワクチン接種による感染予防効果は検討されていない。また、SARS-CoV-2陽性例のウイルスゲノム解析結果は不明であり、検査対象は時系列的に変化し、受療行動が変化している可能性があることにも留意する必要がある。
重症度
オミクロン株感染例について、現時点では重症度について結論づけるだけの知見がない。十分な観察期間と年齢、SARS-CoV-2の感染歴、ワクチン接種歴などの情報を含めた、さらなる研究が必要である(ECDC. Implications of the further emergence and spread of the SARS-CoV-2 B.1.1.529 variant of concern (Omicron) for the EU/EEA – first update 2 December 2021)。
南アフリカハウテン州ツワネ市都市圏からの報告では、重症度の上昇を示唆する所見は現段階で見られていないが、オミクロン株の流行の初期段階であることから、特に今後二週間の動向について注視する必要がある(South African Medical Research Council. Tshwane District Omicron Variant Patient Profile - Early Features)。
検査診断
国立感染症研究所の病原体検出マニュアルに記載のPCR検査法のプライマー部分に変異は無く、検出感度の低下はないと想定される。
オミクロン株は国内で現在使用されるSARS-CoV-2 PCR診断キットでは検出可能と考えられる。
Thermo Fisher社TaqPathにおいて採用されているプライマーにおいて、ORF1, N, S遺伝子のPCRでS遺伝子が検出されない(S gene target failure; SGTFと呼ばれる)特徴をもつ。一方で、これまで多くの国で流行の主体となっているデルタ株ではS遺伝子が検出されることから、この特徴を利用し、デルタ株が主流である国においてはオミクロン株の代理マーカーとして、SGTFが利用できる(WHO: Classification of Omicron (B.1.1.529) )。なお、SGTFはアルファ株でもみられ、代理マーカーとして使用された。
抗原定性検査キットについては、ヌクレオカプシドタンパク質の変異の分析で診断の影響はないとされるが、南アフリカ政府において検証作業が進められている(NCID: Frequently asked questions for the B.1.1.529 mutated SARS-CoV-2 lineage in South Africa)。
感染拡大状況
アフリカでは、感染例が報告されていない国からの輸出例が確認されていること、またゲノムサーベイランスが十分に実施されていない国もあることを考慮すると、すでに広い範囲でオミクロン株による感染が拡大している可能性がある。
世界各地でオミクロン株感染例の報告が増加しており、アフリカ以外でも複数の国・地域から市中感染の可能性が示唆される事例が報告されている。さらに、ゲノムサーベイランスの質が十分でない国・地域においては探知されていない輸入例が発生している可能性やオミクロン株による感染拡大の程度が過少評価されている可能性がある。
国内におけるスクリーニング検査法
感染研では、リアルタイムRT-PCR法によるオミクロン株スクリーニング検査の方法を検討した。比較的早期に導入可能と考えられる、これまで感染研より情報提供してきたN501Y変異検出法とL452R変異検出法について、まず検討を行った。
遺伝子配列による検討
感染研より情報提供したL452R変異検出系で利用されているプライマー/プローブセットは、プライマー配列内にオミクロン株に対して2カ所のミスマッチがあった。そのため、オミクロン株のL452(L452R変異検出系陰性)を検出する感度が落ちる可能性があった。一方、大半を占めるデルタ株452R(L452R変異検出系陽性)として検出し除外できる方法と考えられた。
感染研より情報提供したN501Y変異検出系で利用されていたプライマー/プローブセットは、オミクロン株に対して、プライマー配列内に1カ所のミスマッチに加え、プローブ配列内にも1カ所ミスマッチが認められたため、501Y (N501Y変異検出系陽性)を検出する感度が落ちる可能性が懸念された。
遺伝子配列から得られるこれらの情報から、L452R変異検出リアルタイムRT-PCR法による検出法を暫定的なスクリーニング検査の方法として提案した。
オミクロン株陽性者検体を用いた検討
2021年11月30日にオミクロン株陽性者の検体RNAが得られたことから、これを用いてN501Y変異検出法とL452R変異検出法について比較検討を行った。
オミクロン株に対してL452R変異検出系は、プライマーのミスマッチによりN2検出系に比べるとL452検出時のCp値は若干大きくなるものの、蛍光増殖曲線はしっかりとしたシグモイドカーブを描くためL452を識別する事は可能であった。ただし、L452を識別する際は、Cp値(Ct値)のみを確認するのではなく、L452の蛍光増殖曲線を目視で確認する必要がある。
オミクロン株に対してN501Y変異検出系は、プライマーおよびプローブのミスマッチによりN2検出系に比べると501Y検出時のCp値は大きくなり、シグモイドカーブの立ち上がりが遅くなるため、機械によっては陰性と判定される可能性が考えられた。そのため、501Yを識別する際は、Cp値(Ct値)のみを確認するのではなく、501Yの蛍光増殖曲線を目視で確認する必要があることに留意する必要がある。
今後のオミクロン株のスクリーニング検査について
直近までL452R変異検出系によりデルタ株のスクリーニングを行っており、再開が迅速に可能であること、プローブ領域にミスマッチがない事から、オミクロン株のスクリーニング法を迅速に展開する観点において、L452R変異検出系をオミクロン株スクリーニング暫定利用の第一選択とした。
オミクロン株陽性者検体を利用した検討から、N501Y変異検出系での501Y検出時のCp値(Ct値)は大きくなるが、501Yの蛍光増殖曲線を目視で確認することでオミクロン株のスクリーニングに利用する事は可能である。
感染研では、引続きオミクロン株とそれ以外の株を特異的に識別する事が可能な変異検出系の開発に向け検討を行っている。
留意点
オミクロン株以外にも現在国内での流行は確認されていないが、アルファ株なども501YやL452を有しており、またN501Y変異を有していないオミクロン株やL452R変異を有するオミクロン株もわずかながら報告されているため、オミクロン株と確定するためにはゲノム解析が必須である。
検体中のウイルス核酸濃度が低い場合は、L452R変異検出系でL452および452Rのどちらも識別できずに判定不能となる場合がある。この場合はオミクロン株である可能性を否定する事ができない。
検体中のウイルス核酸濃度が低い場合は、N501Y変異検出系でN501および501Yのどちらも識別できずに判定不能となる場合がある。この場合はオミクロン株である可能性を否定する事ができない。
N501Y変異検出系を用いる場合は、Cp値(Ct値)のみを確認するのではなく、501Yの蛍光増殖曲線を目視で確認する必要があることに留意する必要がある。
国内における感染拡大についてのリスク評価
現時点で国内でのオミクロン株による感染拡大を示唆する所見はない。感染者が報告された国を中心に入国者の健康観察体制の強化が進められているところであるが、海外では、南アフリカなどの市中感染が報告されている国以外への渡航後のオミクロン株感染例や、オミクロン株感染例との接触歴が明らかでない感染例が報告されている。水際対策と並行して、検疫及び国内での変異検出PCR及びゲノムサーベイランスによる監視を引き続き行う必要がある。現時点で、感染・伝播性についてのエビデンスは十分でないため、オミクロン株感染例と同一空間を共有した者については、マスクの着用の有無や接触時間にかかわらず、幅広な検査の対象としての対応を行うことが望ましい。
基本的な感染対策の推奨
個人の基本的な感染予防策としては、変異株であっても、従来と同様に、3密の回避、特に会話時のマスクの着用、手洗いなどの徹底が推奨される。
参考文献
Centers for Disease Control and Prevention. SARS-CoV-2 Variant Classifications and Definitions. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/variants/variant-info.html
Centers for Disease Control and Prevention. Science Brief: Omicron (B.1.1.529) Variant. https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/science/science-briefs/scientific-brief-omicron-variant.htm
Department Health Republic of South Africa. SARS-CoV-2 Sequencing & New Variant Update 25 November2021. https://sacoronavirus.co.za/2021/11/25/sars-cov-2-sequencing-new-variant-update25-november-2021/
Department of Health and Social Care, UK Health Security Agency. SARS-CoV-2 variants of concern and variants under investigation in England: technical briefing 30. https://assets.publishing.service.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/file/1038404/Technical_Briefing_30.pdf
Eidgenössische Technische Hochschule Zürich. COVID-19 Re. https://ibz-shiny.ethz.ch/covid-19-re-international/
European Centre for Disease Prevention and Control. SARS-CoV-2 variants of concern. https://www.ecdc.europa.eu/en/covid-19/variants-concern
European Centre for Disease Prevention and Control. Threat Assessment Brief: Implications of the emergence and spread of the SARS-CoV-2 B.1.1. 529 variant of concern (Omicron) for the EU/EEA. https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/threat-assessment-brief-emergence-sars-cov-2-variant-b.1.1.529
European Centre for Disease Prevention and Control. Threat Assessment Brief: Implications of the further emergence and spread of the SARS CoV 2 B.1.1.529 variant of concern (Omicron) for the EU/EEA first update 2 Dec 2021. https://www.ecdc.europa.eu/en/publications-data/covid-19-threat-assessment-spread-omicron-first-update
European Centre for Disease Prevention and Control. Epidemiological update: Omicron variant of concern (VOC) – data as of 6 December 2021 (12.00). https://www.ecdc.europa.eu/en/news-events/epidemiological-update-omicron-variant-concern-voc-data-6-december-2021
Gu H, Krishnan P, Ng DYM et al. Probable transmission of SARS-CoV-2 omicron variant in quarantine hotel, Hong Kong, China, November 2021. Emerg Infect Dis. 2021 Feb [date cited]. doi: 10.3201/eid2802.212422
Juliet R.C. Pulliam, Cari van Schalkwyk, Nevashan Govender, et al. Increased risk of SARS-CoV-2 reinfection associated with emergence of the Omicron variant in South Africa. medRxiv.2 Dec 2021. doi:10.1101/2021.11.11.21266068
National Institute For Communicable Diseases, South Africa. FREQUENTLY ASKED QUESTIONS FOR THE B.1.1.529 MUTATED SARS-COV-2 LINEAGE IN SOUTH AFRICA. https://www.nicd.ac.za/frequently-asked-questions-for-the-b-1-1-529-mutated-sars-cov-2-lineage-in-south-africa/
National Institute For Communicable Diseases, South Africa. COVID-19 TESTING SUMMARY WEEK 47 (2021). https://www.nicd.ac.za/wp-content/uploads/2021/12/COVID-19-Testing-Summary-Week-47-2021.pdf
National Institute for Communicable Diseases, South Africa. SARS-COV-2 GENOMIC SURVEILLANCE UPDATE (3 DEC 2021)). https://www.nicd.ac.za/wp-content/uploads/2021/12/Update-of-SA-sequencing-data-from-GISAID-3-Dec-21-Final.pdf.
Starr, Greaney, Hilton, et al. Deep Mutational Scanning of SARS-CoV-2 Receptor Binding Domain Reveals Constraints on Folding and ACE2 Binding. Cell. doi: 10.1016/j.cell.2020.08.012
South African Medical Research Council. Tshwane District Omicron Variant Patient Profile - Early Features. https://www.samrc.ac.za/news/tshwane-district-omicron-variant-patient-profile-early-features
World Health Organization. Tracking SARS-CoV-2 variants. https://www.who.int/en/activities/tracking-SARS-CoV-2-variants/
World Health Organization. Classification of Omicron (B.1.1.529): SARS-CoV-2 Variant of Concern.https://www.who.int/news/item/26-11-2021-classification-of-omicron-(b.1.1.529)-sars-cov-2-variant-of-concern
World Health Organization. Weekly epidemiological update on COVID-19 - 7 December 2021. https://www.who.int/publications/m/item/weekly-epidemiological-update-on-covid-19---7-december-2021
厚生労働省2021年11月30日報道発表資料. 新型コロナウイルス感染症(変異株)の無症状病原体保有者について(空港検疫) https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22507.html
厚生労働省2021年12月1日報道発表資料. 新型コロナウイルス感染症(変異株)の無症状病原体保有者について(空港検疫)https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_22520.html
注意事項
迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。
更新履歴
第3報 2021/12/8
第2報 2021/11/28
第1報 2021/11/26
掲載日:2021年12月2日
第61回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(令和3年12月1日、厚生労働省)の報告による、我が国における新型コロナウイルス感染症の状況等についてお知らせいたします(第61回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード 資料1)。
全国の新規感染者数(報告日別)は、今週先週比が0.75と減少が継続し、直近の1週間では10万人あたり約0.5と、昨年の夏以降で最も低い水準が続いている。また、新規感染者数の減少に伴い、療養者数、重症者数や死亡者数も減少が続いている。
(IASR Vol. 42 p263-265: 2021年11月号)
変異ウイルスの流行や, 患者の急増など, その原因は多岐にわたると考えられるが, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の積極的疫学調査の現場では, 「新型コロナウイルス感染症患者に対する積極的疫学調査実施要領」(2021年1月8日暫定版)(実施要領)1)に定義された濃厚接触者の範囲外で陽性者を認めることがある。そこで, 現時点での実施要領の濃厚接触者の定義を評価することを目的とし, 実施要領に定義された濃厚接触者の範囲外で探知されたCOVID-19患者に関する情報を記述した。2021年4~5月の期間に発生したN501Y変異を有する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株が検出された保育施設および事務所の集団発生事例2事例を対象とし, 厚木保健福祉事務所(保健所)が収集した5月末日時点の積極的疫学調査のデータを収集した。なお, これら事例に関して, 2021年4月1日以降, COVID-19と検査診断された者を「陽性者」, 陽性者の実施要領に基づく濃厚接触者の条件を満たした者を「濃厚接触者」, 陽性者の感染可能期間に陽性者と接触し濃厚接触者の条件を満たさない者を「接触者」と定義した。
(IASR Vol. 42 p265-267: 2021年11月号)
L452R変異を有する新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)変異株(以下, L452R変異株)は感染性・伝播性の増加や宿主の中和活性の減少に影響を与える可能性があるとされている1-3)。B.1.617.2系統(デルタ株) はスパイクタンパク上にL452R変異を有しており, 世界保健機関や国内では懸念される変異株(variants of concern:VOC)に位置付けられている。デルタ株はインドでは2021年3月以降に急速な拡大を認め, 国内では2021年4月に国内の患者から, 国内例として初めて検出された4)。国内では一部の国から委託された民間検査会社で, 5月下旬からL452R変異株スクリーニング検査を先行的に開始し, その後, 自治体に対してはこれまで実施していたN501Y変異株から変わり, L452R変異株スクリーニング検査の検査数の報告が求められるようになった5)。以前に報告を行ったN501Y変異株の置き換わりに関する分析やその後の解析では, 5月中旬時点において, 国内の大多数の都道府県でN501Y変異株への90%以上の置き換わりがみられた6)。今回は以前の報告と同様の手法を用いて, 国内におけるL452R変異株への置き換わりについての検討を行った。
(IASR Vol. 42 p267-269: 2021年11月号)
2020年にインドで報告された新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規変異株であるB.1.617.2系統の変異株(デルタ株)は, 2021年3月下旬に検疫で初めて検出され1), 4月に日本国内で感染者が確認されて以降, 8月中には大都市圏でゲノムが解読された症例の約9割がデルタ株になるなど, 急速に置き換わりが進んだ。国立感染症研究所(感染研)はデルタ株流行初期に国外からの流入起点が少なくとも7つあることをハプロタイプネットワークから同定し, 7つのうち6つは終息したこと, 残る1つからその後全国に流行が拡大したことを報告した2)。今回, 自治体公表資料, SARS-CoV-2感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS)への登録情報から疫学情報を収集し, 7つの起点における流入および感染拡大の要因について検討を行った。