国立感染症研究所

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The topic of This Month Vol.36 No.7(No.425)

風疹・先天性風疹症候群 2015年6月現在

(IASR Vol. 36 p. 117-119: 2015年7月号)

風疹と先天性風疹症候群(CRS)は感染症法に基づく5類感染症全数把握疾患である。診断した医師は、診断後7日以内に届け出る義務があるが、より迅速な行政対応のために、可能な限り24時間以内の届出が求められている(「風しんに関する特定感染症予防指針(以下略称:指針)」(2014年3月28日厚生労働省告示第122号)。届出のために必要な要件は、臨床診断例:全身性の小紅斑や紅色丘疹、発熱、リンパ節腫脹の3つすべてを満たすもの、検査診断例:上記3つのうち1つ以上を満たし、かつ、病原体診断されたもの。

風疹の感染症発生動向調査: 風疹患者報告数は2011年には378であったが、2012年2,386、2013年14,344となった。その後報告数は減少し、2014年には320になった(図1上図)。2011~2015年第25週の検査診断例の割合は63~78%であった(図1上図)。病原体診断の方法としてはIgM抗体の検出が最も多かった(検査診断例の80%)。風疹の診断には、臨床症状に加えて、疫学的リンクや周りの流行状況が参考になるが、よく似た疾患が多いため、可能な限り病原体診断を実施することが重要である。風疹との鑑別を要する疾患は、伝染性紅斑、麻疹、伝染性単核症、エンテロウイルス感染症、溶連菌感染症、薬疹等である。

2011年~2015年第25週までの風疹報告数は、男性13,305、女性4,214で、男性が女性の約3倍である。2013年の流行では、男性患者のピークは第19週(664)、女性患者のピークは第21週(241)であった(図1下図)。

2011年は福岡県、神奈川県、大阪府からの報告が多かったが、2012年には石川県、徳島県、宮崎県を除くすべての都道府県から、2013年は47都道府県すべてから患者が報告された(2013年の日本の人口100万当たり報告数は112.7)(図2)。2014年は東京都、神奈川県からの報告が多かった。

2011~2012年は、男性は30代前半、女性は20代前半の患者が多く、流行のピークであった2013年は、男性は30代後半、女性は20代前半の患者が多かった(図3)。20代前半の女性には定期接種の機会が1回であった1990年4月1日以前生まれの女性が含まれる。

CRSの感染症発生動向調査:妊娠20週頃までの妊婦が風疹ウイルスに感染するとCRS児が出生する可能性がある(本号9ページ)。2012年第42週~2014年第40週までのCRSの報告数は45であった(図1下図)。女性の風疹報告数のピークの5~6カ月後にCRSの報告が週当たり3を超えた。CRS児の母親の妊娠中の風疹推定感染地域を図4に示す。2012~2013年の流行で風疹の累積報告数が500以上の6都府県〔埼玉県(704)、千葉県(824)、東京都(4,116)、神奈川県(1,944)、大阪府(3,600)(本号4ページ)、兵庫県(1,455)〕を母親の風疹推定感染地域としたCRS児はそれぞれ、6、3、11、6、7、3であった。

また、CRS児12例の咽頭ぬぐい液から経時的に風疹ウイルス遺伝子の検出を行った結果、生後3か月までの検出が最も多く、最長で13か月であった(本号4ページ)。出生時にはCRSの症状がなくても、その後、難聴(本号7ページ)、白内障が顕性化する場合があることから、風疹に罹患したあるいはその疑いがある母親から生まれた児の注意深い経過観察が必要である。

風疹含有ワクチンの定期接種率:2015年5月現在、1歳児(第1期)と5歳以上7歳未満でかつ小学校入学前1年間の児(第2期)を対象に、原則、麻疹風疹混合ワクチン(以下、MRワクチン)による2回の定期接種が行われている。2011~2013年度の接種率は、第1期は95.3~97.5%、第2期は92.8~93.7%であった(本号16ページ)。

風疹抗体保有率(感染症流行予測調査):2014年、全国17の地方衛生研究所(地衛研)が、 5,743(男性2,882、女性2,861)の健常人につき、風疹の赤血球凝集抑制(HI)抗体価を測定した(図5)。抗体保有率(HI価8以上)は、0歳で25~27%、1歳で63~67%、2歳以上20代までは概ね90%以上(2~29歳では男性93%/女性96%)であった。成人女性はすべての年齢群で90%以上であったが、成人男性では35~39歳で82%、40~44歳79%、45~49歳74%、50~54歳77%であった(本号14ページ)。この男女差は、1962年4月2日~1979年4月1日生まれの者は、女性だけが風疹ワクチンの定期接種対象であったことなどによる。

海外の風疹の状況と風疹ウイルス遺伝子型:海外ではまだ大規模な流行が繰り返されている国が多く、毎年世界で約11万人のCRSが生まれていると世界保健機関(WHO)は推定している(指針)。2012年の世界保健総会では、2020年までに世界6地域中5地域での風疹の排除を目標に掲げ、2015年4月には南北アメリカ大陸がいち早く風疹の排除を達成した。風疹ウイルスには現在13の遺伝子型があり、2011~2015年6月に世界で流行した遺伝子型は1a, 1E, 1G, 1Jおよび2Bの5種類で、特に2Bは2006年以降、全世界に拡がっている。WHO西太平洋地域やWHO南東アジア地域の流行株のほとんどは遺伝子型1Eおよび2Bである。近年、流行している風疹ウイルスの遺伝子型の種類が少なくなってきたことから、ウイルスの追跡には遺伝子型のみならず系統遺伝子解析が必要となる(本号19ページ)。

今後の風疹対策:わが国は指針に基づき、早期にCRSの発生をなくすとともに、2020年度までに風疹の排除を達成することを目標としている(本号17ページ)。しかし、2013年の流行(IASR 34: 348-349, 377-378, 2013 & 35: 17-19, 2014)後も風疹に感受性がある人が成人男性に多く残されており、風疹を排除しCRSの発生をなくすためには男性への対策が重要である。

2013年の流行時には、推定感染場所が明らかになった者の中では、職場での報告が最多であり、企業・産業医の感染症対策上の役割も大きい(本号12ページ)。2015年には、アジアに拠点を持つ企業での風疹集団発生に対して、企業・保健所・産業医・自治体・地衛研・国立感染症研究所(感染研)が対応し、地域への流行を防いだ事例があった(本号10ページ)。

産科医を対象としたカウンセリング相談窓口(2次施設)が全国9地区(16病院)に設けられている(本号6ページ)。妊娠中の風疹HI抗体価が16以下の妊婦に対する出産後の予防接種を推進し、妊娠を希望する女性や妊婦の家族のみならず、妊娠を予定していない女性や未婚の男性に対してもCRSのリスクに関する啓発や事前の予防対策が重要である(本号4613ページ)。

厚生労働省雇児局保育課は、保育士養成施設の保育実習において、予防接種未接種・未罹患者(含接種歴および罹患歴不明者)には抗体検査または予防接種を推奨している(本号18ページ)。

なお、感染研は指針に基づき①職場における風疹対策、②医療機関における風疹対策、③自治体における風疹発生時対応、④都道府県における麻疹風疹対策会議等、⑤医師による風疹・先天性風疹症候群届出の5つのガイドラインを作成した。

指針の目標である2020年度までにわが国からの風疹排除を達成するためには、多くの関係者の協力が必要であり、国民一人ひとりが自分のこととして風疹の予防(MRワクチン接種あるいは風疹抗体検査等)に努めることが重要である。抗体検査を実施せずにMRワクチンを接種しても医学的に問題はない。抗体検査で抗体陰性あるいは低値と判明したまま放置することがないよう注意が必要である。


参考URL

  • 風しんに関する特定感染症予防指針
       http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000041928.pdf
  • 感染症発生動向調査風疹届出基準
      風しん:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14-02.html
      先天性風しん症候群:http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-10.html
  • 風疹対策ガイドライン(感染研)
  • ① 職場における 風しん 対策ガイドライン
        http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/rubella/kannrenn/syokuba-taisaku.pdf
    ② 医療機関における風しん対策ガイドライン
        http://www.niid.go.jp/niid/images/idsc/disease/rubella/kannrenn/iryoukikann-taisaku.pdf
    ③自治体における風しん発生時対応ガイドライン〔第一版〕
        http://www.niid.go.jp/niid/images/epi/rubella/rubella_gl_150310.pdf
    ④都道府県における麻しん風しん対策会議等に関するガイドライン 〔第一版〕 (旧「都道府県における麻しん対策会議等に関するガイドライン」より改訂)
        http://www.niid.go.jp/niid/images/epi/rubella/GLMM_150310.pdf
    ⑤医師による風しん・先天性風しん症候群 届出ガイドライン(第 1 版)
        http://www.niid.go.jp/niid/images/epi/rubella/RubellaCRS_GL_20150327.pdf
     

    Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan

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