更新日:2023年5月16日

 

本週報は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行状況を、時・人・場所の項目を用いて記述し、複数の指標を精査し、全国的な観点からまとめています。 「トレンド(傾向)」と「レベル(水準)」を明記し、疫学的な概念を用いて、状況把握の解釈を週ごとに行っています。 解釈については、注意事項にも記載していますが、特に直近の情報については、過小評価となりうる場合などがあるので十分にご注意下さい。 国や地方自治体のCOVID-19対策に従事する皆様とともに、広く国民の皆様にCOVID-19に関する情報を提供し、還元する事を目的としております。 COVID-19対策・対応の参考資料として活用していただければ幸いです。

 

2022年第43週以降の週報において、1.1全国の新規症例報告数と2.1地域別の新規症例報告数の出典に不備があったこと、2.1地域別の新規症例報告数の図の集計方法が凡例と異なっていたために、再集計のうえ差し替えてあります。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。

 

PDF:2023年第18週(5月1日~5月7日; 5月8日現在)掲載日:2023年5月16日

PDF:2023年第17週(4月24日~4月30日; 5月1日現在)掲載日:2023年5月8日

PDF:2023年第16週(4月17日~4月23日; 4月24日現在)掲載日:2023年5月1日

PDF:2023年第15週(4月10日~4月16日; 4月17日現在)掲載日:2023年4月24日

PDF:2023年第14週(4月3日~4月9日; 4月10日現在)掲載日:2023年4月17日

PDF:2023年第13週(3月27日~4月2日; 4月3日現在)掲載日:2023年4月10日

PDF:2023年第12週(3月20日~3月26日; 3月27日現在)掲載日:2023年4月3日

PDF:2023年第11週(3月13日~3月19日; 3月20日現在)掲載日:2023年3月27日

PDF:2023年第10週(3月6日~3月12日; 3月13日現在)掲載日:2023年3月20日

PDF:2023年第9週(2月27日~3月5日; 3月6日現在)掲載日:2023年3月13日

PDF:2023年第8週(2月20日~2月26日; 2月27日現在)掲載日:2023年3月5日

PDF:2023年第7週(2月13日~2月19日; 2月20日現在)掲載日:2023年2月27日

PDF:2023年第6週(2月6日~2月12日; 2月13日現在)掲載日:2023年2月20日

PDF:2023年第5週(1月30日~2月5日; 2月6日現在)掲載日:2023年2月14日

PDF:2023年第4週(1月23日~1月29日; 1月30日現在)掲載日:2023年2月6日

PDF:2023年第3週(1月16日~1月22日; 1月23日現在)掲載日:2023年1月30日

PDF:2023年第2週(1月9日~1月15日; 1月16日現在)掲載日:2023年1月23日

PDF:2023年第1週(1月2日~1月8日; 1月9日現在)掲載日:2023年1月16日

PDF:2022年第52週(12月26日~1月1日; 1月2日現在)掲載日:2023年1月15日

PDF:2022年第51週(12月19日~12月25日; 12月26日現在)掲載日:2023年1月13日

PDF:2022年第50週(12月12日~12月18日; 12月19日現在)掲載日:2022年12月26日

PDF:2022年第49週(12月5日~12月11日; 12月12日現在)掲載日:2022年12月19日

PDF:2022年第48週(11月28日~12月4日; 12月5日現在)掲載日:2022年12月12日

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PDF:2022年第31週(8月1日~8月7日; 8月9日現在)掲載日:2022年8月15日 

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PDF:2022年第27週(7月4日~7月10日; 7月12日現在)掲載日:2022年7月18日 

PDF:2022年第26週(6月27日~7月3日; 7月5日現在)掲載日:2022年7月11日 

PDF:2022年第25週(6月20日~6月26日; 6月28日現在)掲載日:2022年7月4日 

PDF:2022年第24週(6月13日~6月19日; 6月21日現在)掲載日:2022年6月27日 

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PDF:2022年第22週(5月30日~6月5日; 6月7日現在)掲載日:2022年6月13日

PDF:2022年第21週(5月23日~5月29日; 5月31日現在)掲載日:2022年6月6日

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PDF:2022年第18週(5月2日~5月8日; 5月10日現在)掲載日:2022年5月16日 

PDF:2022年第16週(4月18日~4月24日; 4月26日現在)掲載日:2022年5月2日 

PDF:2022年第15週(4月11日~4月17日; 4月19日現在)掲載日:2022年4月25日 

PDF:2022年第14週(4月4日~4月10日; 4月12日現在)掲載日:2022年4月18日 

PDF:2022年第13週(3月28日~4月3日; 4月5日現在)掲載日:2022年4月11日 

PDF:2022年第12週(3月21日~3月27日; 3月29日現在)掲載日:2022年4月4日 

PDF:2022年第11週(3月14日~3月20日; 3月22日現在)掲載日:2022年3月28日 

PDF:2022年第10週(3月7日~3月13日; 3月15日現在)掲載日:2022年3月22日 

PDF:2022年第9週(2月28日~3月6日; 3月8日現在)掲載日:2022年3月14日 

PDF:2022年第8週(2月21日~2月27日; 3月1日現在)掲載日:2022年3月7日 

PDF:2022年第7週(2月14日~2月20日; 2月22日現在)掲載日:2022年2月28日 

PDF:2022年第6週(2月7日~2月13日; 2月15日現在)掲載日:2022年2月21日 

PDF:2022年第5週(1月31日~2月6日; 2月8日現在)掲載日:2022年2月14日 

PDF:2022年第4週(1月24日~1月30日; 2月1日現在)掲載日:2022年2月7日 

PDF:2022年第3週(1月17日~1月23日; 1月25日現在)掲載日:2022年1月31日 

PDF:2022年第2週(1月10日~1月16日; 1月18日現在)掲載日:2022年1月24日 

PDF:2022年第1週(1月3日~1月9日; 1月11日現在)掲載日:2022年1月18日 

PDF:2021年第52週(12月27日~2022年1月2日; 2022年1月4日現在)掲載日:2022年1月11日 

PDF:2021年第50週(12月13日~12月19日; 12月21日現在)掲載日:2021年12月27日 

PDF:2021年第49週(12月6日~12月12日; 12月14日現在)掲載日:2021年12月20日 

PDF:2021年第48週(11月29日~12月5日; 12月7日現在)掲載日:2021年12月13日 

PDF:2021年第47週(11月22日~11月28日; 11月30日現在)掲載日:2021年12月6日 

PDF:2021年第46週(11月15日~11月21日; 11月23日現在)掲載日:2021年11月29日 

PDF:2021年第45週(11月8日~11月14日; 11月16日現在)掲載日:2021年11月22日 

PDF:2021年第44週(11月1日~11月7日; 11月9日現在)掲載日:2021年11月15日 

PDF:2021年第43週(10月25日~10月31日; 11月2日現在)掲載日:2021年11月8日

PDF:2021年第42週(10月18日~10月24日; 10月26日現在)掲載日:2021年11月8日

PDF:2021年第41週(10月11日~10月17日; 10月19日現在)掲載日:2021年11月8日

 

 

複数国で報告されているエムポックスについて
(第5報)

2023年5月10日時点
2023年5月26日一部改訂

国立感染症研究所

PDF

 

概要

  • 2022年5月以降、欧米を中心に、これまでエムポックスの流行が報告されてきたアフリカ大陸の国々(以下、常在国)への渡航歴のない症例が報告されており、7月23日に世界保健機関(WHO)事務局長は今回のエムポックスの流行が「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)」に該当すると宣言した。2022年1月1日以降、2023年5月2日までに世界で87,300例以上の症例が報告されている。
  • エムポックスは小児、女性の感染例の報告もあり、誰でも感染するリスクのある疾患ではあるが、2022年5月以降常在国外で報告されている症例の多くは男性であり、男性間で性交渉を行う者(MSM; men who have sex with men)が多く含まれていることが各国から報告されている。
  • エムポックスは、感染者の皮膚病変や近接した対面での呼吸器飛沫への一定時間以上の曝露(prolonged face-to-face contact in close proximity)、感染者が使用した寝具等の媒介物(fomite)により伝播することが知られてきた。今回の流行における一連の報告では、感染者に見られた病変の部位などから、性的接触に伴う伝播が中心となっている可能性が指摘されている。
  • エムポックスは多くは自然軽快するが、小児や妊婦、免疫不全者で重症となる場合がある。2022年1月1日以降、2023年5月2日までに、全世界で死亡例が130例報告されている。
  • 2023年5月2日現在、日本国内においては129例が探知されている。 当初は海外渡航歴や海外渡航歴のある者との接触が確認されていたが、2022年38週以降は海外渡航歴がない症例が主体である。
  • WHOは2022年11月28日に、“monkeypox”としていた疾患の名称について、1年間の移行期間を経たうえで“mpox”へ変更することを決定した。2023年2月17日の厚生科学審議会感染症部会において、名称を「エムポックス」とする方針が了承され、政令改正を経て「エムポックス」に変更された(2023年5月26日公布)。これに伴い、本文書においても2023年5月26日に「エムポックス」と表記の変更を行った。
  • エムポックスに類似する発疹等の症状がある場合は速やかに医療機関に相談することが望ましい。特に次のような者は、発疹の出現や体調に注意を払うことが望ましい。
     ➢エムポックスの患者または疑い例の者との接触のあった者
     ➢複数または不特定多数との性的接触があった者
    なお、常在国外で報告されている症例については、皮疹の特徴や症状の経過に、これまでに知られているエムポックスの症状の特徴とは異なる所見があることが報告されており、注意が必要である。
  • エムポックスは誰にでも感染するリスクのある感染症である。特定の集団や感染者、感染の疑いのある者等に対する差別や偏見は、人権の侵害につながる。さらに、受診行動を妨げ、感染拡大の抑制を遅らせる原因となる可能性がある。客観的な情報に基づき、先入観を排した判断と行動がなされるべきである。

 

第4報からの変更点

  • 「サル痘」から「エムポックス」への表記の変更
  • 国内外での発生状況の更新

  • 治療薬、ワクチンに関する知見の更新

 

目次

  • 従来のエムポックスについて
  • 国外の状況
  • 国内の状況
  • 国内における対策
  • ワクチンについて
  • 治療薬について
  • 動物におけるエムポックス

 

2023年4月28日
国立感染症研究所
NPO法人 日本ECMOnet

端 緒

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対するワクチンの開発は未曾有のスピードで進み、ファイザー社製およびモデルナ社製のmRNAワクチンは大規模なランダム化比較試験で高い有効性(vaccine efficacy)が示された1-3。国内においても、国立感染症研究所にて、複数の医療機関や民間検査会社の協力のもとで、発熱外来等で新型コロナウイルスの検査を受ける者を対象として、症例対照研究(test-negative design)を実施し、実社会における有効性(vaccine effectiveness)として、主に軽症の発症予防効果を検討してきた4-11。しかし、新型コロナワクチンの重要な効果の一つとしての重症肺炎の予防効果については国内の知見は非常に乏しかった。今回、国立感染症研究所と日本ECMOnet が共同で、デルタ流行期〜オミクロン流行初期(BA.1/BA.2流行期)における呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎発症(中等症Ⅱ以上相当)および人工呼吸器を要するCOVID-19肺炎発症(重症相当)に対する予防効果を、症例対照研究を実施して検討することとした。

方 法

2021年8月1日から2022年6月30日までに複数の急性期病院に呼吸不全で入院した者(診断が酸素を必要とするCOVID-19肺炎、COVID-19以外の肺炎、心不全、その他呼吸器疾患等)で、16歳以上の者を対象とした。PCR、抗原検査等の検査の種類を問わず、検査陽性者を症例群(ケース)、検査陰性者を対照群(コントロール)と分類した。同一患者は初回の入院のみが組み入れられ、本解析においては、以下の者は除外して解析した:(1)発症日が不明の者、(2)発症15日以降に入院した者、(3)入院中に発症した者、(4)発症8日以上前または発症15日以降に検査された者、(5)入院15日以上前または入院15日以降に検査された者、(6)在宅酸素療法中または在宅人工呼吸器使用中の者、(7)入院15日以上前または15日以降に酸素使用を開始された者、(8)入院15日以上前または20日以降に人工呼吸器を使用開始された者、(9)3ヶ月以上前の新型コロナウイルス感染症診断歴のある者、(10)免疫不全の者または免疫抑制剤を使用している者。補足として、発症7日前以降に検査された者を組み入れ、発症8日以上前に検査された者を除外した理由は、例えば無症状スクリーニングで陽性になり、その後発症して重症化した者も含めるために発症前に検査された者も組み入れることとしたが、発症から8日以上遡ると陽性となる可能性が低くなるためである。また、入院14日前以降に検査された者を組み入れ、入院15日以上前に検査された者を除外した理由は、COVID-19においては発症後数日〜最大2週間後に重症化するため、発症直後に検査陽性となり、その後COVID-19肺炎として入院した者を含めるためである。

期間としては、2021年8月1日から2021年11月31日をデルタ流行期、2022年1月1日から2022年6月30日をオミクロン流行初期(BA.1/BA.2流行期)とした。なお、2021年12月1日から2021年12月31日に入院した症例は非流行期/置き換わり期として予防効果の推定には含めなかった。

ワクチン接種歴については、(1)未接種、(2)1回接種から13日以内、(3)1回接種から14日以降または2回接種から13日以内、(4)2回接種から14日-6ヶ月(14-181日)、(5)2回接種から6ヶ月以降(181日以降)、(6)3回接種から13日以内、(7)3回接種から14日-6ヶ月(14-181日)、(8)3回接種から6ヶ月以降(181日以降)、の8つのカテゴリーに分けた。いずれも1価ワクチン(従来株ワクチン)のみを受けた者であり、デルタ流行期は、国内において3回接種が未実施であったことからカテゴリー1-5のみとした。なお、ワクチンの最終接種日が不明の者は本解析では除外した。この影響をみるために、最終接種日不明症例も含む接種回数別の解析も行った。

ロジスティック回帰モデルを用いて、オッズ比と95%信頼区間(CI)を算出した。多変量解析における調整変数としては、先行研究等を参照し、入院時年齢群、性別、独自の重症化リスクスコア(0, 1, 2, 3, 4, 5, 6+)*、過去1年間の入院有無(自院または他院)、喫煙歴、入院医療機関の所在都府県、入院日のカレンダー週(2週ごと)をモデルに組み込んだ。ワクチン有効率は(1-調整オッズ比)×100%で推定した。

人工呼吸器を要するCOVID-19肺炎(重症相当)に対する予防効果を検討するために、症例群を、人工呼吸器を要するCOVID-19患者に限定した解析も行った(対照群については全ての呼吸不全の患者を含んでいる)。本調査は国立感染症研究所および協力医療機関において、ヒトを対象とする医学研究倫理審査で承認され、実施された(国立感染症研究所における審査の受付番号1454、1527)。

* 先行研究12-13を参照し入院時妊娠の有無、基礎疾患、BMIを元に作成:糖尿病・慢性腎臓病・認知症・ダウン症・肥満に対しては2点、その他の基礎疾患・入院時妊娠・過体重に対しては1点で、各症例における点数の総計で算出

 

結 果

9都府県の21医療機関において、2021年8月1日から2022年6月30日までに複数医療機関に急性呼吸不全で入院した者で解析可能であった2,244名が組み入れられた。発症日が不明の者10名、発症15日以降に入院した者11名、入院中に発症した者20名、発症8日以上前または発症15日以降に検査された者41名、入院15日以上前または入院15日以降に検査された者46名、在宅酸素療法中または在宅人工呼吸器使用中の者60名、入院15日以上前または15日以降に酸素使用を開始された者10名、入院15日以上前または20日以降に人工呼吸器を使用開始された者8名、3ヶ月以上前の新型コロナウイルス感染症診断歴のある者9名、免疫不全または免疫抑制剤を使用している者42名が除外され、1987名が解析に含まれた。期間別では、デルタ流行期1025名、オミクロン流行初期(BA.1/BA.2流行期)909名、2021年12月の非流行期53名であった。解析に含まれた1,987名(うち陽性1,511名(76.0%))においては、年齢中央値(範囲)68(52-82)歳、男性1,329名(66.9%)、女性658名(33.1%)であった(表1)。ワクチンの種類(製造会社)は、全ての回で判明している者において、ファイザー社製が86.8%、モデルナ社製が7.5%、mRNAワクチンの交互接種が5.0%、その他のワクチンが0.7%であった。ワクチンの最終接種日が不明の者は217名(10.9%)であった。

 

covid19 9999 2table1

 

ワクチン接種歴を接種回数および接種後の期間別で8つのカテゴリーに分け、検査陽性者(症例群)と検査陰性者(対照群)とで比較した(表2表3)。

呼吸不全患者において、未接種者を参照項とする調整オッズ比は、デルタ流行期における2回接種後14日-6ヶ月では0.040 (95%CI 0.016-0.099)(表2A)、オミクロン流行初期における2回接種後6ヶ月以降では0.578 (95%CI 0.280-1.193)、ブースター(3回目)接種後14日-6ヶ月では0.144 (95%CI 0.065-0.319)であった(表2B)。

人工呼吸器を要するCOVID-19患者と呼吸不全の対照群において、未接種者を参照項とする調整オッズ比は、デルタ流行期における2回接種後14日-6ヶ月では0.001 (95%CI 0.000-0.015) (表3A)、オミクロン流行初期における2回接種後6ヶ月以降では0.084 (95%CI 0.011-0.627)、3回接種後14日-6ヶ月では0.004 (95%CI 0.000-0.069)であった(表3B)。なお、サンプルサイズの制約から、sparse data bias等モデルによるバイアスの影響もあり得るので解釈に注意が必要である。

最終接種日不明症例も含む接種回数別の解析でも類似の結果であった。

 

covid19 9999 2table2

 

covid19 9999 2table3

 

調整オッズ比を元にワクチン有効率を算出したところ、デルタ流行期において、呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎に対する2回接種後14日-6ヶ月の有効性は96.0% (95%CI 90.1-98.4%)、人工呼吸器を要するCOVID-19肺炎に対する2回接種後14日-6ヶ月の有効性は99.9% (95%CI 98.5-100.0%)であった(表4)。また、オミクロン流行初期においては、呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎に対する2回接種後6ヶ月以降の有効性は42.2% (95%CI -19.3-72.0%)、3回接種後14日-6ヶ月の有効性は85.6% (95%CI 68.1-93.5%)であり、人工呼吸器を要するCOVID-19肺炎に対する2回接種後6ヶ月以降の有効性は91.6% (95%CI 37.3-98.9%)、3回接種後14日-6ヶ月の有効性は99.6% (95%CI 93.1-100.0%)であった(表4)。

 

covid19 9999 2table4

 

考 察

本報告では、デルタ流行期〜オミクロン流行初期(BA.1/BA.2流行期)における呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎および人工呼吸器を要するCOVID-19肺炎に対する予防効果を検討した。デルタ流行期においては、呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎および人工呼吸器を要するCOVID-19肺炎に対して、ともに非常に高い有効性(点推定値:それぞれ96%、>99%)を示した。

オミクロン流行初期においては、2回接種後6ヶ月以降で、呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎に対しては低下したが(点推定値:42%)、人工呼吸器を要するCOVID-19肺炎に対しては高い有効性(点推定値:92%)であった(ともに信頼区間が広く解釈に注意が必要)。また、ブースター(3回目)接種により、呼吸不全を伴うCOVID-19肺炎および人工呼吸器を要するCOVID-19肺炎に対して、ともに有効性が高まった(点推定値:それぞれ86%、>99%)。

諸外国においては、入院予防効果を検討した研究結果が数多く報告されている14-15。国内で承認されているワクチンにおいて、デルタ流行期には、一貫して高い重症化予防効果が示されてきた14。しかし、オミクロン流行期においては、2回接種およびブースター接種において、50-100%と幅のある重症化予防効果が報告されている15。本報告においては、COVID-19重症肺炎により特異的なアウトカム(転帰)である酸素需要を伴う症例や人工呼吸器を要する症例に限定して解析を行うことで、より確度の高い推定を目指した16。オミクロン流行期においては、入院患者で偶発的に新型コロナウイルス感染者が増えており、入院予防効果では有効性を過小評価しうるため、この考慮は特に重要となる。

本報告では、デルタ流行期における2回接種の高い重症化予防効果、オミクロン流行初期における3回接種の高い重症化予防効果が示された。2023年5月からCOVID-19の感染症法上の位置づけは5類感染症へ移行するが、今後も、有効性や安全性等のエビデンスに基づいて新型コロナワクチンの接種戦略を検討することが重要となる。

制 限

本調査および報告においては少なくとも以下の制限がある。まず、1つ目に交絡因子、誤分類等の観察研究の通常のバイアスの影響を否定できない。2つ目の制限として、上述の通り、ワクチンの最終接種日が不明の者(10.9%)は本解析では除外している。ただし、最終接種日不明症例も含む接種回数別の解析を行ったところ、類似の結果であった。3つ目の制限として、今回の調査では、ワクチンの製造会社ごとの有効性は評価していない。4つ目の制限として、本研究では陽性例についてウイルスゲノム解析を実施していない。ただし、デルタ流行期、オミクロン流行初期における解析であり大部分はそれぞれデルタ、BA.1/BA.2への感染であったとの想定のもとで実施している。5つ目の制限として、サンプルサイズの制約から、一部の推定では有効率の信頼区間が広いため、点推定値の解釈には注意が必要である。なお、人工呼吸器を要する症例と呼吸不全の対照群を比較した調整オッズ比は、点推計値が過大評価されている可能性(sparse data bias)があるが、この二群におけるワクチン接種歴の分布は大きく異なっていた。6つ目の制限として、3回接種の中長期的な重症化予防効果、4回接種およびオミクロン対応2価ワクチンの重症化予防効果は検討しておらず、これらは今後の検討課題である。

本調査および報告は以下の研究資金を利用して行われた:

・厚生労働科学研究費補助金「新型コロナワクチン等の有効性及び安全性の評価体制の構築に向けた研究」
・AMED新興・再興感染症に対する革新的医薬品等開発推進研究事業「ワクチンで予防可能な疾病のサーベイランス及びワクチン効果の評価に関する研究」

 

参考文献
  1. Polack FP, Thomas SJ, Kitchin N, et al. Safety and Efficacy of the BNT162b2 mRNA Covid-19 Vaccine. N Engl J Med. 2020;383(27):2603-2615. doi:10.1056/NEJMoa2034577
  2. Baden LR, El Sahly HM, Essink B, et al. Efficacy and Safety of the mRNA-1273 SARS-CoV-2 Vaccine. N Engl J Med. 2021;384(5):403-416. doi:10.1056/NEJMoa2035389
  3. Voysey M, Clemens SAC, Madhi SA, et al. Safety and efficacy of the ChAdOx1 nCoV-19 vaccine (AZD1222) against SARS-CoV-2: an interim analysis of four randomised controlled trials in Brazil, South Africa, and the UK. Lancet. 2021;397(10269):99-111. doi:10.1016/S0140-6736(20)32661-1
  4. 新城ら.新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第一報).国立感染症研究所.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10614-covid19-55.html
  5. 新城ら.新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第二報):デルタ株流行期における有効性.国立感染症研究所.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10757-covid19-61.html
  6. 新城ら.新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第三報):オミクロン株流行期における有効性.国立感染症研究所.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/10966-covid19-71.html
  7. Arashiro T, Arima Y, Muraoka H, et al. COVID-19 vaccine effectiveness against symptomatic SARS-CoV-2 infection during Delta-dominant and Omicron-dominant periods in Japan: a multi-center prospective case-control study (FASCINATE study). Clin Infect Dis. 2022;ciac635. doi:10.1093/cid/ciac635
  8. 新城ら.新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第四報):オミクロン株(BA.1/BA.2およびBA.5)流行期における有効性.国立感染症研究所.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/11405-covid19-999.html
  9. 新城ら.新型コロナワクチンの有効性を検討した症例対照研究の暫定報告(第五報):オミクロン対応2価ワクチンの有効性.国立感染症研究所.https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2484-idsc/11688-covid19-9999.html
  10. Arashiro T, Arima Y, Kuramochi J, et al. Importance of considering high-risk behaviours in COVID-19 vaccine effectiveness estimates with observational studies. Euro Surveill. 2023;28(4):2300034. doi:10.2807/1560-7917.ES.2023.28.4.2300034
  11. Arashiro T, Arima Y, Kuramochi J, et al. Effectiveness of BA.1- and BA.4/BA.5-containing bivalent COVID-19 mRNA vaccines against symptomatic SARS-CoV-2 infection during the BA.5-dominant period in Japan. Open Forum Infect Dis. doi:10.1093/ofid/ofad240 (Editor’s Choice)
  12. Williamson EJ, Walker AJ, Bhaskaran K, et al. Factors associated with COVID-19-related death using OpenSAFELY. Nature. 2020;584(7821):430-436.
  13. Clift AK, Coupland CAC, Keogh RH, et al. Living risk prediction algorithm (QCOVID) for risk of hospital admission and mortality from coronavirus 19 in adults: national derivation and validation cohort study. BMJ. 2020;371:m3731. Published 2020 Oct 20. doi:10.1136/bmj.m3731
  14. International Vaccine Access Center (IVAC), Johns Hopkins Bloomberg School of Public Health. VIEW-hub: COVID-19 data, vaccine effectiveness studies. https://view-hub.org/covid-19/effectiveness-studies.
  15. Feikin DR, Higdon MM, Abu-Raddad LJ, et al. Duration of effectiveness of vaccines against SARS-CoV-2 infection and COVID-19 disease: results of a systematic review and meta-regression. Lancet. 2022;399(10328):924-944.
  16. World Health Organization. Evaluation of COVID-19 vaccine effectiveness in a changing landscape of COVID-19 epidemiology and vaccination: interim guidance, 1 October 2022: second addendum to Evaluation of COVID-19 vaccine effectiveness: interim guidance. https://apps.who.int/iris/handle/10665/363344

 

MOTIVATE study group
国立感染症研究所 感染症疫学センター 新城雄士 有馬雄三 鈴木基
NPO法人 日本ECMOnet/かわぐち心臓呼吸器病院 竹田晋浩
NPO法人 集中治療コラボレーションネットワーク/NPO法人 日本ECMOnet 橋本悟
NPO法人日本ECMOnet/大阪大学医学部附属病院 藤野裕士
東京都立広尾病院 三輪槙 中西明日香
大阪市立総合医療センター 中河秀憲 林下浩士
関西労災病院 髙松純平
公立昭和病院 大場邦弘 谷山大輔
大阪急性期・総合医療センター 藤見聡 山口浅瀬
相模原協同病院 菊地斉
横須賀市立うわまち病院 岩澤孝昌 内倉淑男
上尾中央総合病院 神部芙美子
かわぐち心臓呼吸器病院 大山慶介
東京警察病院 金井尚之 松永麻衣子
八尾徳洲会総合病院 緒方嘉隆 濵口眞成 元田健太郎
北里大学北里研究所病院 朝倉崇徳 中山莊平
佐野厚生総合病院 浅見貴弘
順天堂大学医学部附属練馬病院 杉田学 水野慶子
聖路加国際病院 仁多寅彦
埼玉医科大学総合医療センター 岡秀昭 西田裕介 山本慧
横浜市立大学附属病院 加藤英明 田中克志
奈良県総合医療センター 安宅一晃 日垣太希
紀南病院 中野好夫
東京大学医学部附属病院 堤武也 土井研人 奥川周
日本赤十字社医療センター 上田晃弘
総合病院国保旭中央病院 中村朗 井上武 小林三枝子
聖マリアンナ医科大学病院 藤谷茂樹 吉田徹
東京都立多摩総合医療センター 清水敬樹 三森薫
秋田赤十字病院 藤田康雄
東京山手メディカルセンター 大河内康実
京都市立病院 栃谷健太郎

 

謝辞
本調査にご協⼒いただいた上記医療機関の職員皆様、技術/事務的支援をしていただいた以下の会社の皆様および研究補助員の皆様に⼼より御礼申し上げます:
株式会社アクセライズ・サイト、レバレジーズメディカルケア株式会社、株式会社うるるBPO、瑞穂印刷株式会社、千木良望、淺野瑠々実、塚原万葵、竹田早希

 

注意事項
迅速な情報共有を⽬的とした暫定的な資料であり、内容や⾒解は知見の更新によって変わる可能性がある。

 

新型コロナウイルス感染症の病理解剖業務においては、パンデミック当初より「新型コロナウイルス感染症等に関する日本病理学会の病理解剖指針」 が示されており、各施設では同指針に基づいて病理解剖業務を実施してきました。

令和5年3月31日に厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部が「新型コロナウイルス感染症の感染症法上 の位置付け変更後の基本的な感染対策の考え方について(令和5年5月8日以降の取扱いに関 する 事前の情報提供)」を発表しましたが、その中では、令和5 年5月8日から、新型コロナウイルス感染症の基本的な感染対策については個人や事業者の判断に委ねることを基本とし、政府は個人や事業者の判断に資するような情報の提供を行うこととされています。そこで、国立感染症研究所感染病理部では、今後の新型コロナウイルス感染症の病理解剖業務における感染予防策の考え方について整理しました。詳細は添付のPDFファイルを御覧ください。

新型コロナウイルス感染症の病理解剖業務における感染予防策の考え⽅ (令和5年4⽉21⽇作成)

国⽴感染症研究所 感染病理部

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風疹・先天性風疹症候群 2023年2月現在

(IASR Vol. 44 p45-47: 2023年4月号)
 

風疹は発熱, 発疹, リンパ節腫脹を主徴とする風疹ウイルスによる感染症である。一般的に症状は軽症であるが, 稀に脳炎や血小板減少性紫斑病を併発することがある。また, 風疹に対する免疫が十分でない妊婦が風疹ウイルスに感染した場合, 死産, 流産または児に心疾患, 難聴, 白内障など様々な症状を示す先天性風疹症候群(CRS)をもたらす可能性があり, 特に妊娠20週までに感染するとそのリスクが高い。

風疹に対するワクチンの接種率が世界的に向上したことにより, 全世界の風疹患者数が減少している。2015年には世界保健機関(WHO)アメリカ地域全体からの風疹の排除が宣言され, 2020年までにWHO加盟国のうち48%の国において風疹排除が認定されている(本号3ページ)。日本が所属するWHO西太平洋地域(WPR)の地域委員会においてもWPRからの風疹の排除を目指すことを決議した(本号4ページ)。日本においては, 2014年に厚生労働省(厚労省)が「風しんに関する特定感染症予防指針(指針)」を策定し, 早期にCRSの発生をなくすとともに, 2020年度までに風疹排除を達成することを目標にした施策の方針を示した。これを促進するため, さらに厚労省は2018年に「風しんに関する追加的対策骨子」を策定し, 過去に風疹の定期予防接種を受ける機会がなく, 特に抗体保有率が低い世代(1962年4月2日~1979年4月1日生まれ)の男性を対象として, 2019年から抗体検査を前提とした定期予防接種(第5期)を実施することとした。本定期予防接種の実施は2025年3月末まで延長されている。

感染症発生動向調査: 風疹は感染症法に基づく全数把握対象の5類感染症である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-14-02.html)。近年では2012~2013年ならびに2018~2019年に全国流行が発生した(図1)。2020年以降は患者届出数が少なく, 特に2021年および2022年はそれぞれ12例および15例と, 2008年に全数把握が開始されて以来, 最少の届出数となっている。

2018~2019年の流行時には20歳以上が患者の約95%を占め, 特に40代を中心とする男性の届出が多かった(図2)。女性患者からの届出数は男性患者の約4分の1であったが, 妊娠・出産の多い年代である20~30代での届出数が多かった。

風疹患者の予防接種歴は, 例年「接種歴不明」の割合が最も多いが, 全国流行が発生した2012~2013年ならびに2018~2019年には, 「接種歴なし」の割合が全体の21-30%を占める。一方, 「接種1回あり」が5-8%, 「接種2回あり」が1-2%と少なかったことから, 予防接種の効果が示唆された(図3)。流行のなかった2020~2022年においては, 上記のような患者の性別年齢分布ならびに予防接種歴別割合の傾向は異なるが, 届出数が少ないため解釈には注意が必要である。

CRSも感染症法に基づく全数把握対象の5類感染症である(https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou11/01-05-10.html)。風疹流行にともなってCRS患者届出数は増加し, 2012~2014年には45例, 2019~2021年には6例の届出があった。2021年第3週以降は届出がない。

風疹の検査: 2017年に指針が一部改正され, 2018年以降, 原則として全例に検査の実施が求められるようになった。病型別届出割合をみると, 2018年以降は検査診断例としての届出が90%以上を占めている(図4)。

麻疹は風疹と類似した症状を示す発熱発疹性疾患であり, しばしば検査による鑑別が必要となる。国立感染症研究所(感染研)・病原体検出マニュアル<麻疹>および<風疹>に記載されている各ウイルス遺伝子単独の検出法の統合を目指し, 麻疹ウイルスおよび風疹ウイルスのマルチプレックスリアルタイムRT-PCR法が開発され, 感染研・病原体検出マニュアル<麻疹・風疹同時検査法>として公開された(本号6ページ)。風疹の病原体検査では, 麻疹の病原体検査と同種の臨床検体(咽頭ぬぐい液, 血液, 尿等)が用いられることが多いが, 風疹患者では, 咽頭ぬぐい液が最もウイルスRNA量が多く, ウイルスRNAおよび感染性ウイルスの検出可能期間も長いことが示された(本号7ページ)。

定期予防接種率調査と感染症流行予測調査: 2006年度から1歳児(第1期)ならびに小学校就学前1年間の児(第2期)に対し, 風疹の定期予防接種が実施されており, 2008年度からは毎年, 全国の都道府県・市区町村の協力により, 定期接種率の調査が実施されている(本号9ページ)。2021年度の風疹ワクチンの全国の定期接種率は, 第1期が93.5%, 第2期が93.8%と, 前年度の接種率から低下し, 風疹排除に向けた目標値である95%以上の接種率をいずれも下回った。特に第1期の接種率低下は顕著であり, 調査開始以来最も低い結果となっている。第5期定期接種対象男性のうち, 2022年11月までに抗体検査を受けた人は28.6%, 予防接種を受けた人は6.2%であった。

2021年度の感染症流行予測調査における風疹感受性調査は, 16都道府県で4,114名(男性2,380名, 女性1,733名, 不明1名)を対象にして実施された(図5)。風疹HI抗体価1:8以上の抗体保有率は, 2歳~30代までの年齢群では男女ともにおおむね90%以上であった(本号11ページ)。女性は40~50代においても90%以上の抗体保有率を示したが, 同年代の男性は90%を下回った。しかし, 第5期定期接種の対象である1962~1978年度生まれの男性の抗体保有率は, 前年度の調査より6ポイント増加して88%となった。

今後の課題: 国内の風疹排除を達成し, それを維持するためには, 小児の定期予防接種の接種率を回復させるとともに第5期定期予防接種の利用を促進することが重要である。“風疹ゼロ”プロジェクト実行委員会は, 2017年に「2(ふう)月4(しん)日」を「風疹の日」と定め, 予防啓発活動を進めている(本号14ページ)。現在は, 国内の風疹発生が非常に少ない状況であるが, 今後, 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の対策が緩和されることで, 海外からの風疹の流入が契機となり患者が増加する可能性がある。全国的な流行を繰り返さないための対策強化が急務である。

 

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地域的なバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)感染症集積への対応

(IASR Vol. 44 p59-60: 2023年4月号)
 

腸球菌属は腸管や環境に常在する日和見病原体であり, セフェム系薬やカルバペネム系薬, アミノグリコシド系薬には自然耐性を示すため, 腸球菌感染症の治療においてバンコマイシンは重要な抗菌薬である。それに耐性を示すバンコマイシン耐性腸球菌(vancomycin-resistant enterococci: VRE)感染症は, 難治で重症化のリスクが増す感染症であり, 1999(平成11)年4月から感染症法に基づく全数把握対象疾患となった1)。本稿では, 2018年, Z県Y市保健所管内の複数の医療機関でVRE感染症集積事例が発生した際の対応を報告する。

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan