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SARS、MERS、COVID-19を含むコロナウイルス感染症に関する記事がWebサイト全体から集められて表示されます。

 

 

国立感染症研究所

2024年9月13日時点
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概要

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言し、以降は長期的な世界的共同監視体制の一環として、ゲノムサーベイランスによる従来及び新規の変異株の監視と追跡が重要としている。
  •    2022年9月以降、BJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統とその亜系統が世界的に主流となっていたが、2023年7月に、BA.2系統の亜系統であるBA.2.86系統が初めて報告された。当初はXBB系統からの置き換わりは緩やかであったが、2023年10月以降、BA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統が日本を含めた全世界で置き換わりを見せ、2024年1月頃に主流となった。以降世界的にJN.1系統とその亜系統が主流となっている状況が続いており、4月頃からはKP.3系統の割合が世界的に増加している(WHO, 2024a、covSPECTRUM, 2024)。日本国内でも5月以降、KP.3系統とその亜系統が主流となっている。
  •    現時点で得られている疫学的・臨床的な知見が限られているため、KP.3系統とその亜系統の評価のため、引き続きウイルス学的・疫学的・臨床的知見の収集と、国内外での発生状況の監視を継続する必要がある。

 

検出状況について

  •    2023年7月にBA.2系統からスパイクタンパク質に30以上のアミノ酸変異を有するBA.2.86系統がイスラエルとデンマークから報告され、さらにスパイクタンパク質にL455S変異を獲得したBA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統が10月に欧州から報告されると、2023年10月以降全世界的に主流となった(GISAID, 2024)。
    その後、JN.1系統から派生した亜系統が占める割合が上昇した。JN.1系統の亜系統の中で、スパイクタンパク質にS:R346T変異とS:F456L変異を有するKP.2系統、LB.1系統や、S:F456L変異とS:Q493E変異を有するKP.3系統等の多様な亜系統が複数の国で感染者増加の優位性を示した。 2024年4月以降はその中でも、JN.1系統にS:F456L、S:Q493E、S:V1104Lの変異が加わったKP.3系統とその亜系統の占める割合が世界的に上昇しており、直近の1ヶ月間で全世界からGISAIDに登録されたウイルスゲノムの半数以上を占めている。さらに、KP.3系統の中でもS:31delを獲得したKP.3.1.1系統などの優位性が認められている (covSPECTRUM, 2024)。
  •    2024年8月8日までに59ヵ国から39,734件のKP.3系統(亜系統を含む)のゲノム解析結果がGISAIDに登録されている。カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、英国等の欧米諸国では、2024年5月以降徐々にKP.3系統の占める割合が上昇し7月にかけて主流となっているが、日本では4月末頃から上昇し、6月には8割以上を占め主流となっている。西太平洋地域では主流となっている国は少ないものの、韓国では6月以降徐々に割合が上昇し、7月上旬には6割を占めるようになっている(covSPECTRUM, 2024)。また、米国でも2024年5月以降、KP.2系統やLB.1系統などの他のJN.1亜系統と並んで、KP.3系統とその亜系統の占める割合が上昇している。特にKP.3系統とその亜系統の感染者増加の優位性が大きく、8月4日から8月17日にゲノム解析が実施されたウイルスの53.6%を占めると推定されている(CDC, 2024)。ただし、GISAIDへの登録数は各国のゲノムサーベイランス体制に依存しており、2023年以降ゲノム解析結果のGISAIDへの登録件数が世界的に減少していることから、地域によるばらつきが大きく正確な状況は明らかではない。
  •    日本国内のゲノムサーベイランスでは、各都道府県は、週100件程度を目安に各自治体において臨床検体からのウイルスゲノム解析を実施し、その結果を国立感染症研究所(以下、感染研)に登録するよう要請されてきた。また、感染研では民間検査機関と契約し、全国をブロックに分けそれぞれの地域の人口に比例した数の臨床検体をランダム抽出し、週200件を目安にウイルスゲノム解析を実施してきた。2024年4月からは昨今のCOVID-19の流行状況を鑑みて規模を縮小し、都道府県ごと、また感染研としてそれぞれ月140件を目安にウイルスゲノム解析を実施している。
    2024年3月頃にBA.2.86.1系統とFL.15.1.1系統の組換え体であるXDQ系統の占める割合が一時的に上昇したものの、5月以降はKP.3系統およびその亜系統の占める割合が上昇し、民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、2024年第26-29週(6/24-7/21)の検出割合は、KP.3.3系統が60.71%、KP.3.3.3系統が16.43%、KP.3.1系統が5.00%(全て合わせると82.14%)と主流となっている。また第28-29週(7/8-7/21)の系統別検出状況ではXDQ.1系統の占める割合が低下し、KP.3系統の割合がさらに上昇している (国立感染症研究所, 2024)。ただし、検体提出から登録・報告まで時間を要することから、直近数週間の登録情報の解釈には注意が必要である。

 

科学的知見について

  •    KP.3系統は、BA.2.86系統の亜系統であるJN.1系統の亜系統のうち、スパイクタンパク質にS:F456L、S:Q493E、S:V1104Lの各変異を獲得した変異株である。シュードウイルスを用いてLB.1系統、KP.2.3系統、KP.3系統のウイルス学的特徴を調査した研究では、これらの亜系統はこれまでのオミクロンの流行株(XBB.1.5系統、EG.5系統、HK.3系統、及びJN.1系統)の既感染、およびXBB.1.5系統対応1価ワクチンにより誘導される中和抗体に対して、JN.1系統よりも免疫を逃避する可能性が高いことが指摘されている(Kaku Y. et al., 2024a)。
    また、KP.3系統の亜系統であるKP.3.3.1系統についても、シュードウイルスを用いたin vitroの実験で中和抗体からの免疫を逃避する可能性が高く、標的細胞への感染性が高いことが指摘されている(Kaku Y. et al., 2024b)。
  •    日本を含む複数の国では、2023年9月以降(2023-2024シーズン)にXBB.1.5系統対応1価ワクチンの接種が行われてきた。JN.1系統に対するXBB1.5系統対応1価ワクチンの有効性に関しては、 KP.2系統やKP.3系統による置き換わりが進んでいるためデータは流動的かつ限られているものの、感染・発症に対するワクチン有効率(Vaccine Effectiveness:VE)が約49%と推定する米国の報告(Link-Gelles R. et al., 2024)や、感染・発症に対するVEが18-59歳で約41%、60-85歳で約50%と推定するオランダの報告(Huiberts A et al., 2024)などに基づき、これまで主流であった亜系統と同程度の有効性が期待できるとする報告もある。一方、米国の他の研究では、JN.1系統が主流となる以前の感染・発症に対するVEは約42%であったのに対し、JN.1系統が主流となった後のVEは約19%であった(Shrestha NK et al., 2024)といった報告もある。
  •    KP.3系統に対するワクチン効果を推定するための疫学的な報告はないものの、前述のとおりin vitroの実験結果からは、KP.3系統およびその亜系統が従来のワクチンによる獲得免疫を逃避する可能性は高いと考えられ、従来のワクチンではJN.1系統に対する効果よりも劣ると推測されている(Li P et al., 2024)。一方、モデルナ社やファイザー社が公表しているJN.1系統対応ワクチンの非臨床データでは、XBB.1.5 対応ワクチンと比較して、JN.1ワクチン の接種により、JN.1系統やKP.3系統に対してより強く中和抗体が誘導されることが示されている。また、JN.1ワクチンの、KP.3に対して誘導される中和抗体価は、JN.1系統と比較して同程度であることが示されている。これらのことから、JN.1ワクチンは、XBB.1.5ワクチンと比較して、JN.1系統と同様KP.3系統に対しても、より強く免疫を誘導し、効果の向上が期待できると考えられる(モデルナ、2024、ファイザー/BioNTech、2024)。なお、これらの知見については査読を受ける前のプレプリント論文が含まれることに注意が必要である。

 

各国、各機関による評価

  •    WHOは2023年12月18日にJN.1系統を「注目すべき変異株」(VOI: Variants of Interest)に指定しているが、2024年5月3日にその中からKP.3系統、JN.1.7系統、JN.1.18系統、KP.2系統を「監視下の変異株」(VUM: Variants Under Monitoring)に指定している。また、2024年6月28日にはLB.1系統も同様にVUMに指定している(WHO, 2024b)。
  •    欧州疾病予防管理センター(ECDC)は2023年8月24日にBA.2.86系統をVOIに指定しているが、伝播力拡大の可能性や免疫逃避能の増加、さらなる抗原変異追加の可能性を鑑み、BA.2.86系統から独立させる形で2024年7月26日にKP.3系統をVOIに指定している。また、KP.3系統の持つ変異の中でも特にQ493E変異が、他の変異株に対する感染者数増加の優位性に寄与しているとしたうえで、KP.3系統の流行が2024年夏のCOVID-19感染者数の増加に影響した可能性があると述べている(ECDC, 2024a、ECDC, 2024b)。
  •    英国健康安全保障庁(UKHSA)は、KP.3系統のデータは限られているものの、他の流行している亜系統と比べて重症度が高いという知見はなく、公衆衛生的なリスクは他の亜系統と同等としている(UKHSA, 2024)。

 

関連項目

参考文献

    •        CDC. COVID Data Tracker. Summary of Variant Surveillance. Updated 22 August 2024. https://covid.cdc.gov/covid-data-tracker/#variant-proportions.
    •        covSPECTRUM. As of 22 August 2024. https://cov-spectrum.org/explore/World/AllSamples/Past6M.
    •        ECDC. SARS-CoV-2 variants of concern as of 30 August 2024. https://www.ecdc.europa.eu/en/covid-19/variants-concern. 2024a.
    •        ECDC. Communicable Disease Threats Report. Week 30, 20-26 July 2024. https://www.ecdc.europa.eu/sites/default/files/documents/2024-WCP-0039%20Final.pdf. 2024b.
    •        GISAID. As of 22 August 2024. https://gisaid.org/.
    •        Huiberts, A. J., Hoeve, C. E., de Gier, B., Cremer, J., van der Veer, B., de Melker, H. E., van de Wijgert, J. H., van den Hof, S., Eggink, D., & Knol, M. J. (2024). Effectiveness of Omicron XBB.1.5 vaccine against infection with SARS-CoV-2 Omicron XBB and JN.1 variants, prospective cohort study, the Netherlands, October 2023 to January 2024. Euro surveillance : bulletin Europeen sur les maladies transmissibles = European communicable disease bulletin, 29(10), 2400109. https://doi.org/10.2807/1560-7917.ES.2024.29.10.2400109
    •        Kaku, Y., Yo, M. S., Tolentino, J. E., Uriu, K., Okumura, K., Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium, Ito, J., & Sato, K. (2024). Virological characteristics of the SARS-CoV-2 KP.3, LB.1, and KP.2.3 variants. The Lancet. Infectious diseases, 24(8), e482–e483. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(24)00415-8. 2024a.
    •        Kaku, Y., Uriu, K., Okumura, K., Genotype to Phenotype Japan (G2P-Japan) Consortium, Ito, J., & Sato, K. (2024). Virological characteristics of the SARS-CoV-2 KP.3.1.1 variant. The Lancet. Infectious diseases, S1473-3099(24)00505-X. Advance online publication. https://doi.org/10.1016/S1473-3099(24)00505-X. 2024b.
    •        Li, P., Faraone, J. N., Hsu, C. C., Chamblee, M., Zheng, Y. M., Carlin, C., Bednash, J. S., Horowitz, J. C., Mallampalli, R. K., Saif, L. J., Oltz, E. M., Jones, D., Li, J., Gumina, R. J., Xu, K., & Liu, S. L. (2024). Characteristics of JN.1-derived SARS-CoV-2 subvariants SLip, FLiRT, and KP.2 in neutralization escape, infectivity and membrane fusion. bioRxiv : the preprint server for biology, 2024.05.20.595020. https://doi.org/10.1101/2024.05.20.595020.
    •        Link-Gelles, R., Ciesla, A. A., Mak, J., Miller, J. D., Silk, B. J., Lambrou, A. S., Paden, C. R., Shirk, P., Britton, A., Smith, Z. R., & Fleming-Dutra, K. E. (2024). Early Estimates of Updated 2023-2024 (Monovalent XBB.1.5) COVID-19 Vaccine Effectiveness Against Symptomatic SARS-CoV-2 Infection Attributable to Co-Circulating Omicron Variants Among Immunocompetent Adults - Increasing Community Access to Testing Program, United States, September 2023-January 2024. MMWR. Morbidity and mortality weekly report, 73(4), 77–83. https://doi.org/10.15585/mmwr.mm7304a2.
    •        Shrestha, N. K., Burke, P. C., Nowacki, A. S., & Gordon, S. M. (2024). Effectiveness of the 2023-2024 Formulation of the COVID-19 Messenger RNA Vaccine. Clinical infectious diseases : an official publication of the Infectious Diseases Society of America, 79(2), 405–411. https://doi.org/10.1093/cid/ciae132.
    •        UKHSA. UK Health Security Agency Blog – Should we be worried about the new COVID-19 variant? Updated 13 May 2024. https://ukhsa.blog.gov.uk/2024/05/13/should-we-be-worried-about-the-new-covid-19-variant-2/.
    •        WHO. COVID-19 Epidemiological Update – 13 August 2024. Edition 170. https://www.who.int/publications/m/item/covid-19-epidemiological-update-edition-170. 2024a.
    •        WHO. Tracking SARS-CoV-2 variants. As of 22 August 2024. https://www.who.int/activities/tracking-SARS-CoV-2-variants. 2024b.
    •        モデルナ社. 第2回厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会(2024年5月29日). https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001266056.pdf. 2024.
    •        ファイザー社およびBioNTech社. 第2回厚生科学審議会 予防接種・ワクチン分科会 研究開発及び生産・流通部会 季節性インフルエンザワクチン及び新型コロナワクチンの製造株について検討する小委員会(2024年5月29日). https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/001266057.pdf. 2024.
    •        国立感染症研究所. SARS-CoV-2変異株について. 新型コロナウイルス ゲノムサーベイランスによる都道府県別検出状況 2024年第29週(2024年8月7日時点), 民間検査機関の検体に基づくゲノムサーベイランスによる系統別検出状況 2024年第29週(2024年8月7日時点). https://www.niid.go.jp/niid/ja/2019-ncov/2551-cepr/10745-cepr-topics.html. 2024.

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

2024年8月21日
厚生労働省
国立感染症研究所

 

 【背景・目的】

 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染による新型コロナウイルス感染症(COVID-19) は、2023年5月8日に感染症法上の位置付けが5類感染症へ変更後も流行が継続しており、その疾病負荷は現在においても決して小さくはない感染症である。疾病の発生動向を正確に把握することは公衆衛生対策立案のため必須であるが、定点報告疾病となったことから、発生動向の全体像を捉えるために、様々な手法を用いた調査が実施されてきている。その1つの手法として感染症法に基づく積極的疫学調査として検査用検体の残余血液を用いた血清疫学調査が実施されてきた。この血清疫学調査は、検査用検体の収集方法が異なる複数の調査を組み合わせて実施されてきたが、令和5年7月以降に実施した「民間検査機関での検査用検体の残余血液を用いた新型コロナウイルスの抗体保有割合実態調査」にて、6ヶ月齢 –11ヶ月齢の小児の抗S抗体保有割合が1–4歳の小児に比べて高い傾向が指摘され、母体からの移行抗体が6ヶ月齢を超えて長期に渡る可能性が示唆されていた。したがって、小児において感染もしくはワクチン接種で誘導された抗体を保有する者の割合を正しく推定するためには、移行抗体の残存期間を詳細に検討する必要性がある。他の病原体に対する血清抗体の研究では、血清抗体の主要アイソタイプであり母体から積極的に移行することが知られているIgG 抗体と母体からの積極的な移行メカニズムを有さないIgA 抗体の2 種類のアイソタイプの抗体を測定し、母体からの移行抗体の影響を推定することが可能であるこ とが報告されている。そこで、本調査では、1歳半未満の小児を対象に、各月齢区分の抗体保有割合を抗体アイソタイプ毎に算出することにより、移行抗体の残存が影響する月齢区分を特定し、小児における感染もしくはワクチン接種で誘導された抗体保有割合を推定することを試みた。

  続きを読む:小児における検査用検体の残余血液を用いた新型コロナウイルスの抗体保有状況実態調査報告
 

Copyright 1998 National Institute of Infectious Diseases, Japan