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国立感染症研究所

2023年9月8日時点
2023年9月12日一部修正

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背景

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2023年8月25日現在、SARS-CoV-2の変異株はXBB.1.9系統、XBB.1.16系統など、BJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統が世界的に主流となっている(WHO, 2023a)

 

検出状況

  •    2022年に主流となっていたBA.2系統の亜系統で、過去に報告されたBA.2系統からスパイクタンパク質に30以上のアミノ酸変異を有するBA.2.86系統が、2023年7月にイスラエルとデンマークから報告され(GitHub, 2023)、その亜系統であるBA.2.86.1系統も報告されている。2023年9月7日までに67件(イスラエル3件、デンマーク12件、米国7件、英国8件、南アフリカ16件、ポルトガル2件、スウェーデン5件、カナダ2件、フランス6件、スペイン3件、オーストラリア1件、韓国1件、日本1件)の患者から分離されたBA.2.86系統(BA.2.86.1系統を含む)のゲノム解析結果がGISAIDに登録された(GISAID, 2023)。また、米国オハイオ州、スイス、タイの下水サーベイランスでBA.2.86系統が検出されたとの報告がある(CDC, 2023、WHO, 2023a)。
    米国からからの登録のうち1件は、米国の主要空港で実施されている入国者に対するゲノムサーベイランスにて、日本からの渡航者からBA.2.86系統が検出されたものである(検体採取日:8月10日)。ただし、このゲノムサーベイランスプログラムは匿名での協力を得るものであり個人情報を取得できないことから、日本国内での行動歴や日本以外への渡航歴は不明である(CDC, 2023)
  •    国内では週に1,000件以上のゲノム解析が実施されており、2023年8月28日時点で、国立感染症研究所ゲノムサーベイランスシステム(COG-jp)に2023年1月1日以降64,654件のゲノム解析結果が登録されているが、BA.2.86系統の登録はなく(国立感染症研究所, 2023)、国内では9月7日に東京都からGISAIDに登録されたBA.2.86.1系統1件のみが確認されている。東京都から報告された1件については、8月24日に都内医療機関で採取された検体であることが公表されている(東京都保健医療局, 2023)。また、検疫における入国時感染症ゲノムサーベイランスにおいても、BA.2.86系統は検出されていない(厚生労働省, 2023)。ただし、検体提出から登録・報告まで時間を要することから、直近数週間の登録情報の解釈には留意が必要である。

 

科学的知見

  •    BA.2.86系統は、スパイクタンパク質にBA.2系統と比較して30以上、XBB.1.5系統と比較して35以上のアミノ酸の違いがあることから、ワクチンや感染による中和抗体による免疫から逃避する可能性が生じている。BA.2.86系統はXBB系統と抗原性が大きく異なることからXBB系統の感染やワクチンによる中和抗体の免疫から逃避する可能性が高い一方で、細胞への感染性はXBB系統より大幅に低い可能性があるとする報告 (Yang S. et al., 2023)や、ワクチンによる中和抗体の免疫から逃避する可能性はBA.2系統より高いものの、現在主流となっているXBB系統の亜系統と同等であるとする報告 (Lasrado N. et al., 2023)、XBB系統流行以前の献血者の血清ではBA.2.86系統に対する中和抗体価が低かった一方で、XBB系統流行下での献血者の血清ではBA.2.86に対する比較的高い中和抗体価が得られたとの報告があり(Sheward D.J. et al., 2023)、一定した知見は得られていない。ただし、いずれも査読を受けていないプレプリント論文であることに注意が必要である。
    現時点で、重症度の変化や感染性に関する疫学的、臨床的知見はない。
  •    検査への影響に関して、国立感染症研究所ではBA.2.86系統のゲノム解析結果から感染研PCR法におけるプライマー、プローブ配列に変異がないことを確認しているほか、米国疾病予防管理センター(CDC)も分子・抗原診断への影響は少ないとしている(CDC, 2023)。また、秋以降に接種が実施されるXBB.1.5系統対応1価ワクチンを生産、販売しているファイザー社、モデルナ社はいずれも現在準備中のワクチンにおいて、BA.2.86系統に対する中和活性を確認したとの報道発表を行った (Reuters, 2023、Moderna. 2023)。
  •    治療薬への影響に関して、CDCは複数の米国政府機関の専門家で構成されるSARS-CoV-2 Interagency Group (SIG)の意見として、 BA.2.86系統の有するアミノ酸変異からは、ニルマトレルビル・リトナビル、レムデシビル、モルヌピラビルなどの現在使用可能なCOVID-19に対する抗ウイルス薬はBA.2.86系統に対しても有効性が示唆されるとしている(CDC, 2023)。。

 

各国、各機関による評価

  •    検出数は少ないものの、既存の変異株と比較したアミノ酸の違いが多いことから、WHOは8月17日に、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月24日にBA.2.86系統を監視下の変異株(VUM:Variants Under Monitoring)に指定した(WHO, 2023b、ECDC, 2023a)。
  •    米国、英国、デンマーク、WHO、ECDCはそれぞれ評価を公表しており、欧米、アフリカ、アジアと世界的にウイルスが検出されていること、ゲノム解析件数が世界的に減少傾向にあることから、水面下で拡大している可能性があるものの、検出数が少なく評価は困難であるとしている(CDC, 2023、UKHSA, 2023、Denmark SSI, 2023、WHO, 2023b、ECDC, 2023b)。BA.2.86系統の評価のために、ウイルス学的、疫学的、臨床的知見、国内外での発生状況の監視を継続する必要がある。 

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

 

国立感染症研究所

2023年9月7日時点
2023年9月12日一部修正

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概要

  •    2020年以降、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の世界的流行は継続しているが、世界保健機関(WHO)は2023年5月4日に国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態(PHEIC)に該当しないことを宣言した。2023年8月25日現在、SARS-CoV-2の変異株はBJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統が世界的に主流となっており、XBB.1.5系統、XBB.1.9系統、XBB.1.16系統など、複数のXBB系統の亜系統が報告されている。
  •    2023年2月に初めて報告されたEG.5系統はXBB.1.9.2系統の亜系統である。EG.5系統及びその亜系統はXBB.1.9系統、XBB.1.16系統などの一部にみられるF456L変異を有しているほか、EG.5.1系統の一部はこれに加えてL455F変異を有しており、XBB.1.5系統と比較して免疫を逃避する可能性が高くなることが示唆されている。
  •    8月22日までにGISAIDに登録されたEG.5系統の90%をEG.5.1系統が占めている。EG.5.1系統はアジアや欧米でこれまで主流となっている系統に対して感染者数増加の優位性を見せているが、重症度や感染性の上昇という知見はなく、世界的に9月以降の接種が計画されているXBB.1.5系統対応新型コロナウイルスワクチンの有効性が低下するという報告もない。
  •    世界的な検出割合の上昇を受け、WHOは8月9日にEG.5系統を注目すべき変異株(VOI: Variant of Interest )に、欧州疾病予防管理センター(ECDC)は8月10日に他の変異株と合わせて“XBB.1.5-like + F456L”の一群をVOIに指定した。

 

発生状況

  •    2023年8月25日現在、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株はBA.2系統の亜系統であるBJ.1系統とBM.1.1.1系統の組換え体であるXBB系統が世界的に主流となっており、XBB.1.5系統、XBB.1.9系統、XBB.1.16系統など、複数のXBB系統の亜系統がみられている(WHO, 2023a)。
  •    XBB.1.9.2系統の亜系統であるEG.5系統は2023年2月に初めて報告され、さらにその中でQ52H変異を有するものとして、2023年3月にEG.5.1系統が初めて報告された(GISAID, 2023)。8月29日までに、59の国と地域からGISAIDにEG.5系統及びその亜系統(以下EG.5系統)が18,274件登録され (covSPECTRUM, 2023)、登録された全検体に占める割合は、第27週(7月3日~9日)に12.8%であったものが、第31週(7月31日~8月6日)には 23.8%に上昇している(WHO, 2023a)。 GISAIDに登録されたEG.5系統のうちEG.5.1系統及びその亜系統(以下EG.5.1系統)が92.8%(16,967件)を占めている。EG.5.1系統は55の国と地域から登録されており、中国、米国、日本、韓国、カナダ等のアジアと北米から多く登録されているほか、欧州でも登録数が増加しており、各国において感染者数増加の優位性がみられている(covSPECTRUM, 2023)。一方で、これらの国におけるSARS-CoV-2感染者数、重症者数、死亡者数の推移は国によって異なり、EG.5.1系統の割合の上昇は感染者数や重症者数の増加には直結していない(UKHSA, 2023b、China CDC, 2023、CDC, 2023、 Government of Canada, 2023、 ECDC, 2023)。ただし、中国は感染者数などの公表が月1回であり、米国は感染者数の報告が終了するなど、各国におけるサーベイランスやその報告状況が異なることに注意が必要である。
  •    日本国内においては、2023年3月に初めてGISAIDに登録されて以降、8月29日までに1,943件のEG.5系統が登録され、うち96.0%(1,865件)がEG.5.1系統であった (covSPECTRUM, 2023)。民間検査会社の検体に基づくゲノムサーベイランスでは、第32週(8月7日~8月13日)に検出された検体のうち29%をEG.5.1系統が占め、今後その割合が上昇すると推定されている(国立感染症研究所, 2023a、国立感染症研究所, 2023b)。
  •    現時点で、EG.5系統の重症度への影響、感染性、治療薬への影響などの臨床的、疫学的な知見は得られていないことから、今後の国内外での検出状況、感染者数、重症者数の推移を注視する必要がある。
  

ウイルス学的知見

  •    EG.5.1系統は、EG.5系統が有しているF456L変異に加えてQ52H変異を有しているXBB.1.9.2系統の亜系統である。
    F456L変異については、F456L変異を有するXBB.1.5系統のシュードウイルスを用いたin vitroの報告で、XBB.1.5系統に対する中和抗体による免疫から逃避する可能性が指摘されている(Yisimayi A. et. al., 2023)。ただし、査読前のプレプリント論文であることに注意が必要である。
    また、EG.5.1系統の一部はF456L変異と隣接したアミノ酸変異であるL455F変異を有しており、XBB.1.5系統にL455F変異やF456L変異が加わることで中和抗体からの免疫を逃避する可能性が高くなるほか、これら2つの変異が併存することでアンギオテンシン変換酵素2(ACE2)への結合能が上昇することを示唆する専門家もいる(Jian F. et al., 2023. 2023)。シュードウイルスを用いたin vitroでの報告では、EG.5.1系統の免疫逃避が起こる可能性はXBB1.5系統やXBB.1.9.2系統、XBB.1.16系統と同等であり、EG.5.1系統の感染者増加の優位性には、ウイルスの性質だけではなく、複数の要因が関与しているとの報告(Kaku Y. et. al., 2023)、XBB系統およびBQ系統の中和抗体による免疫から逃避する可能性がXBB.1.16系統よりわずかに高いとする報告(Wang Q. et al., 2023)や、新型コロナウイルスワクチン接種後のブレイクスルー感染による中和抗体による免疫から逃避する可能性がXBB.1.9.2系統よりわずかに高いとする報告(Uraki R. et al., 2023)があり、一定した見解は得られていない。ただし、いずれも査読前のプレプリント論文であることに注意が必要である。

 

新型コロナウイルスワクチンに関する知見

  •    現在日本や諸外国において、秋以降に接種が実施される新型コロナウイルスに対するワクチンとしてXBB.1.5系統対応1価ワクチンが準備されている(厚生労働省, 2023)。XBB.1.5系統対応1価ワクチンを生産、販売しているファイザー社、モデルナ社はいずれも現在準備中のワクチンにおいて、EG.5系統に対する中和活性を確認したとの報道発表を行った (Reuters, 2023、Moderna. 2023)。XBB.1.5系統対応1価ワクチンによる中和抗体は、EG.5.1に対してもXBB.1.5と同程度に効果があることも確認されている(Chalkias, S. et al., 2023)。EG.5.1系統とXBB.1系統の抗原性の差を調べたこれまでの報告でも、確認できた差は2倍程度とわずかである(Wang Q. et. al., 2023、Jian F. et al., 2023、Kaku Y. et. al., 2023、Uraki R. et al., 2023)。ただし、いずれも査読前のプレプリント論文等であることに注意が必要である。

 

海外の専門機関による評価

  •    WHOは2023年8月9日にEG.5に関するリスク評価を公表するとともに、EG.5系統をVOIに指定した。このリスク評価の中で、感染者数増加の優位性と免疫から逃避する可能性に関するリスクを中程度(Moderate)、重症度と臨床的な懸念に関してのリスクは低(Low)とし、総合的なリスクについて低(Low)とした。ただし、包括的な評価のためには、さらなる知見が必要と述べている(WHO, 2023b)。
  •    ECDCは2023年8月10日にEG.5系統を含む“XBB.1.5-like + F456L”を、EU/EEA圏内で拡大傾向にあること、市中での流行状況、免疫を回避する可能性に関する知見を理由にVOIに指定した。この中にはEG.5系統のほか、FL.1.5.1系統、XBB.1.16.6系統、XBB.1.5.59系統などが含まれており、EG.5系統だけではなくFL.1.5.1系統やXBB.1.16.6系統も一部の地域で感染者増加の優位性があることから、“XBB.1.5-like + F456L”として評価を行っている(ECDC, 2023)。 

参考文献

 

注意事項

迅速な情報共有を目的とした資料であり、内容や見解は情勢の変化によって変わる可能性がある。  

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