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高齢者の会合等、人が集う場面での新型コロナウイルス感染症に関する
感染事例の所見と公民館や体育館等を利用する際の感染対策についての提案
2021年9月24日時点
国立感染症研究所実地疫学研究センター
<はじめに>
当センターでは、これまで多くの医療機関や高齢者福祉施設における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)クラスター事例の調査に当たる一方で、いわゆる昼カラオケ事例を始めとする、日常生活の娯楽の場で高齢者を中心とする年齢層の集団が新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染した複数の事例について、自治体による疫学調査の支援を行ってまいりました1)。度重なる緊急事態宣言を経て、デルタ株を中心とする第5波がひと段落しつつある2021年9月末の状況の中で、これから地域によっては、公民館等を中心にして、秋祭り等の行事がCOVID-19に警戒しながら行われていくことが予想されます。特に多くの高齢者においては、新型コロナワクチンの接種も進んでおり、ここで今一度、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による高齢者が集った場合に発生したクラスター事例を振り返り、これまでに得られた知見や必要な対策について考えてみたいと思います。なお、これらの情報は、当センターにより自治体の調査支援後の状況として、現時点でまだ最終的な報告や論文に至っていない暫定的な内容であるものが大半であり、あくまで一般的で共通する所見等の早期還元としての位置付けであることにご注意いただければ、と思います。
<これまでに得られた主な所見>
・高齢者が日常生活で集合して楽しむ場での感染としては、昼カラオケ、フィットネスクラブ、サークル・クラブ活動等、が知られていた。
・主に高齢者を対象とした催事場(ショッピングモールでの対面販売等)での数週間程度の比較的長期間のイベントにおいて、アルファ株流行下より、複数のクラスター事例の発生を認めた。
・イベントでは、物品の無料体験会、説明会などの場面で、地域の高齢者が連日、時に繰り返し訪れている様子が観察された。
・上記のようなイベントでは、地域の高齢者が集まり、参加者(利用者)同士での談笑、飲食を通した憩いの場になっていた。そのプラス面を考慮する必要がある一方で、調査により、感染した高齢者が、他の感染機会を認めなかった場合も多く、対策上の重要性が認められた
・利用者のマスクについては、一般に着用が推奨されていたが、特に飲食時やそれ以外のマスク着用の状況は詳細な情報が得られていない。
・説明会等における講師や他の大会関係者のマスク着用に関する情報は乏しかった。
・特に扱う対象が食品の場合、試飲や試食などマスクを外す機会があった。
・一部密な状態(狭い空間に多数の者がいた状態)があったことが観察され、換気についても不十分であった可能性が見受けられた(CO2センサーなどでの測定情報無し)。
・感染者の店舗利用日が共通していない事例があり、利用者間ではなく、感染した従業員が感染伝播に寄与した事例があった可能性が考えられた。
<これまでの所見に基づく主な提案:公民館ガイドラインを踏まえて>
高齢者を含む地域住民が集う場としての公民館における新型コロナウイルスへの対応に関しては、公益社団法人全国公民館連合会により作成された、「公民館における新型コロナウイルス感染拡大予防ガイドライン」(2020年10月2日)が同会ホームページ上で公開されています2)。幅広く客観的な情報を網羅しているガイドラインであり、運営者はこの内容を確認することがまず肝要です。同ガイドラインの構成については、感染防止のための基本的な考え方の中で、いわゆる三つの密(密閉、密集、密接)を徹底して避けることの重要性について触れ、リスク評価の項では、接触感染・飛まつ感染それぞれの対策、集客施設としてのリスク評価、地域における感染状況のリスク評価の重要性について言及しています。具体的に、イベント・講座等の実施に講じるべき具体的策、館における公演等の開催に際して、公演主催者が講じるべき具体的対策(対人距離を最低1メートル(出来れば2メートル)確保する)、入館時に検温すること、直接手で触れることが出来る展示物等は展示しない、トイレの管理等、の注意点が分かりやすく列挙されています2)。
以下、当センターによる高齢者を主な対象とした催事場事例対応からの経験に基づく特記すべき事項です。公民館ガイドラインとの重複する事項が複数含まれますが、利用者自身が注意すべき事項、従業員の感染予防が重要であることに関する注意事項、さらに、施設の換気に関する注意点、の3つに大別して説明します(換気についてはさらに専門家からの助言を得ました)。
・利用者に対して:
・運営者(開催されているイベントがある場合の主催者を含む)・従業員に対して:
・換気を十分に実施する具体的方法(北海道大学工学研究院教授:林基哉先生による補足)
<おわりに>
2021年9月末現在、新型コロナワクチンの接種が進む国内の状況で、医療機関や高齢者施設における、いわゆるブレイクスルー感染事例が散見されています。しかし、死亡等の重症化に対する減少効果は明らかで、ワクチンの高い有効性は明らかと言えます。とは言え、適切なマスクの着用をしない、手指衛生を怠る、換気をきちんと行わない、等の杜撰な感染対策下においては、デルタ株はたやすく人々に感染し、大きな脅威をもたらすことも分かってきました。その点からも、高齢者を中心とする年齢層の方が集う場をどのように安全に運営するか、は運営者のみならず、利用者である市民も一体となって取り組むべき課題と言えます。また、本稿では触れませんでしたが、屋外においても三つのうち一つの密でも発生すると、感染リスクが増大することが観察されています。付設する広場などにおいても、常に警戒を怠らず、十分な間隔をおきながら交流を楽しむことが求められます。屋外のイベントにおいても、密が発生しない(最低限人と人が接触しない)程度の間隔を空けていただきたいと思います。ただし、大声での歓声、声援等が想定される場合等は、十分な人と人との間隔(1メートル)を要することとします。
<参考文献>
(IASR Vol. 42 p197-199: 2021年9月号)
本報告は, 感染症法第15条第1項の規定に基づいた積極的疫学調査1,2)で集約された, 各自治体・医療機関から寄せられた新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の退院患者の情報に関する最終報告3,4)である。ただし, 本情報は統一的に収集されたものではなく, 各医療機関の退院サマリーの様式によるため解釈には注意が必要である。